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No.43568の一覧
[0] 俺ら素人がホロウと戦うのは間違っている(俺ガイル×BLEACH?)[シウス](2020/05/26 21:36)
[1] 1話:意外とホロウにも重い過去がある[シウス](2020/06/01 23:45)
[2] 2話:人が悪霊になる理由[シウス](2020/06/14 16:38)
[3] 3話:初めての惨劇[シウス](2020/06/24 23:29)
[4] 4話:忘れていた過去との対面[シウス](2020/07/11 00:07)
[5] 5話:駅に潜む悪霊[シウス](2020/07/28 22:00)
[6] 6話:夏休みが始まる  [シウス](2020/08/16 11:20)
[7] 7話:肝試しにありがちなこと[シウス](2020/08/19 22:55)
[8] 8話:異常事態発生(前編)[シウス](2020/08/31 22:58)
[9] 9話:異常事態発生(後編)[シウス](2020/09/22 23:19)
[10] 10話:人里離れた地のホロウ[シウス](2020/10/19 22:24)
[11] 11話:幽体離脱させる道具を持つ者[シウス](2020/11/18 23:27)
[12] 11.5話:ろくな番組やってねぇ……[シウス](2021/01/25 21:54)
[13] 12話:夏祭りにありがちな[シウス](2021/01/24 22:55)
[14] 13話:リアル脱出ゲーム 前編[シウス](2021/03/07 23:23)
[15] 14話:リアル脱出ゲーム 中編[シウス](2021/03/28 15:47)
[16] 15話:リアル脱出ゲーム 中編2[シウス](2021/04/21 22:52)
[17] 16話:リアル脱出ゲーム 後編[シウス](2021/05/11 23:21)
[18] 17話:日常に混じる異変[シウス](2021/06/28 22:18)
[19] 18話:音を立てて崩れる『日常』[シウス](2021/07/25 19:47)
[20] 19話:戦争[シウス](2021/09/12 23:06)
[21] 20話:最終決戦[シウス](2021/11/28 21:28)
[22] エピローグ:こんな未来も悪くない (完)[シウス](2021/12/05 15:51)
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[43568] 18話:音を立てて崩れる『日常』
Name: シウス◆60293ed9 ID:ae6c1002 前を表示する / 次を表示する
Date: 2021/07/25 19:47
 
 
 18話:音を立てて崩れる『日常』
 
 
 
 ――川崎沙希サイド――
 
 
 夕方、家路を1人で歩きながら、ふと思う。
 
 ―――あのタンブルウィードが生きてたとはねぇ……。
 
 昨夜のメールで知った時、多少は驚いたけども、青鬼の館や千葉村、それに仲間になったホロウのお陰で『ホロウが生物を作り出す』といった現象を知ってたから、それほど衝撃は無い。それにあのタンブルウィードも、単体では大して強くないし、こっちから手を出さなければ危険も無いだろう。
 強いて言うなら、保有霊力が小型ホロウと同じくらいなのに空気を多く含むような形状をしているので、上背があって、とてつもなく威圧感があるくらいだろうか? けーちゃんが見たら泣くだろうから、もし遭遇するようなら、できれば泳がせずに始末したいんだけど……。
 そんな物騒なことを考えている時だった。
 家に帰るべく住宅街を歩きながら、角を曲がった瞬間、
 
 
 ―――呆然と立ち尽くす、まだ幼稚園児の妹であるけーちゃんが、今しがた考えていたタンブルウィードと向き合ったまま固まっていたのを目にしたのは。
 
 
 その姿は、6月下旬に見た時と一切変わらない姿だった。
「……ッ、タンブルウィードっ!?」
 即座に炎剣を出したい衝動を堪え、あたしはけーちゃんを後ろから抱きかかえた。
「待ってさーちゃん! この子、けーちゃんを助けてくれたの!!」
「―――は?」
 あたしは、今しがた言われたことが理解できず、間の抜けた声を漏らした。
「けーちゃんね、お面を付けた狼に追いかけられてたら、この子が狼を捕まえて……く、首を……」
 何かショッキングなものでも見たのか、途中から涙声になるけーちゃん。
 すると目の前のタンブルウィードは、
 
 
『久しぶりだね、さ…川崎沙希』
 
 
 ―――今日は信じられない現象のバーゲンセールだ。まさか話し掛けてくるとは……。
「なにアンタ、知性種だったの? ってか何であたしの名前知ってんの? ストーカー?」
 冷たく言い放つと、タンブルウィードはシュンとし、どこか物悲しげな雰囲気になった。
『ああ、どうしよう。ちょっと心が折れそうになって、何を言いたかったのか忘れちゃったな。……でもストーカーっていうのは否定できないかも。だったら冷たく言われても仕方が無いよね』
 言われた瞬間、背筋に悪寒を感じた。
 こいつ、マジでストーカーだったのか?
 ……今まで同じ幼稚園から高校生までの間(塾も含む)で、死んだ奴っていたっけ? ―――いや、1人も聞いたことはない。近所に住んでる奴ですら、歳の近い奴で死んだ人間なんていない。
 タンブルウィードは続けた。
『一応、誤解の無いように言っておくけど、マンションの屋上で初めてこの姿の僕と会った時、ゲームのモンスターと同じように襲いかかったけど、あれは君やその仲間達が超能力じみた力を持ってたのと、あの時の様子から「ホロウ狩り」にでも目覚めたような態度だったから、ちょっと試しただけなんだ』
 
 ―――へぇ?
 
 観察眼は鋭いな。あの時点で『ホロウ狩りに目覚めた』ってとこまで見抜かれてたなんてね……。
 けーちゃんの前で超能力って言葉を使われたのには焦ったけど、まぁ小さい子だから理解はできないだろう。
「じゃあそろそろ正体を教えてくれない? お付き合いするならそれからじゃない? ―――いや、むしろ『いつ』あたしをストーキングしたのかを教えてくれない?」
『いつ―――か。大分前だったね。知ってる? 知性の無いホロウは、ホロウ化して最初に自分と縁のある人間ばっかり襲うんだ。家族であれ、友達であれ、恋人であれ―――僕も昔は、知性種じゃなかった。今は膨大な力を―――そして色んな力を手に入れて、禁術まで使ってこの時代にまでやってきたけど、何百年も昔は―――今から20年後の世界では、君はある人と結婚し、幸せな家庭を築いていた。……でも、知性を失ってホロウ化していた僕は、君とその家族を付け回し、ついに喰い散らかしてしまった』
 
 
 ―――え?
 
 ―――こいつは……こいつは一体、何を言ってんの?
 
 ―――未来? 禁術? ううん、それ以上に、未来のあたしと、その『家族を喰い散らかした』だって?
 
 
 SFチックな単語や、それを実現できると想定されるほど『未知の膨大な力』を秘めてるだろう目の前の怪物の存在よりも、家族という単語を重視するあたしとしては、到底許容できる話ではない。
 タンブルウィードは淡々と続けた。
『あの時はまだ知性種じゃなかったとはいえ、謝って済む問題じゃないのは分かってる。でもこうして未来から来ることが出来るなら、過去を変えることもできる。―――僕はね、この「ホロウとしての僕」が存在しない未来を作るために、この時代へとやって来たんだ。SF小説でもありがちでしょ? 「自分が生まれる前の母親を、自分で殺すとどうなるか」って。この時代の僕は、来月の下旬に大勢の人と共に死んじゃってホロウ化してしまうんだ。だから自分が死ぬ原因となった、とあるホロウを殺す事が僕の目的なんだ』
 あたしは、話の重要性を感じ取り、抱えていたけーちゃんを地面に降ろした。
「さーちゃん?」
「ねぇ、けーちゃん。この人、あたしの事が好きだった人みたい。ちょっとお話したいから、先におうちに帰ってて?」
「う、うん……」
 けーちゃんは、時々振り返りつつも、てててーっと走っていった。
 それを見届けてから、あたしは言った。
「自分が生まれる前の母親を殺す―――って表現したけど、それって世界に矛盾が生じたとたんに大爆発でもするんじゃないの?」
 某タイムスリップもののSF映画で言ってた気がする。
『それは大丈夫だよ。量子物理学でいう平行世界って知ってる? 未来が無限に分岐して、いくつもの世界があるって奴』
「知ってるよ。今日、寝坊したあたしと、早起きしたあたし―――これだけで世界は2つに分岐したね。……もしかして、これの関係で矛盾が生じても大爆発は起こらないって言うの?」
『そうさ。それが分かってるから―――あとは実現性が低いからっていうのもあるけど「禁術」って呼ばれてる』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――比企谷八幡サイド――
 
 
 打ち合わせをした翌日のことだった。
 俺と戸塚は紫さんに会うために学校に向かっていると、途中の商店街で偶然にも紫さんに出会った。
「よぉ紫さん、2日ぶりだ」
「こんにちは比企谷。……こっちの子は? 彼女?」
 紫さんは、俺の隣に立つ戸塚を見つめながら、ニヤニヤとした笑みを浮かべる。
「あ、あはは……やっぱり女の子に見えちゃうよね……。僕、戸塚彩加。一応、男の子だよ」
「やだぁ~、そんな冗談!」
 
 
 しかし次の瞬間、戸塚の手が目にも止まらぬ速さで動き、紫さんの手を掴んで自分の胸へと押し当てた。
 
 
「……やだぁ、そんな冗談……」
「さっちゃんはね、バナナが付いてるんだホントにね。―――あ、ちなみにそいつ、彼女いるんで、あまり触ってると後で鬼みたいな女が来るっすよ?」
 と俺。……思えば紫さんが人間らしい外見をしてるのと、平塚先生が高校生の頃から存在していたという理由から、無意識に年上として敬語を使ってるんだよな。
 紫さんが言う。
「あ、でもあたしが見えるって事は、この子もあんたと同じで―――」
「ええ、生き埋めになった際に幽霊が見えるようになりました」
 と、俺より先に戸塚が答える。
 続けて俺から、今日の用件を伝える。
「今日は蔓草の怪物……タンブルウィードをどこで目撃したのかを聞きに来ました。それと他の七不思議のホロウの人に挨拶回りに」
 
 ―――通訳:あんたの仲間について情報を集めに来た。
 
 ちなみに今日は俺とこいつだけだ。能力や特技、思考能力までもが共有化されてはいるが、『性格』までは共有されてはいない。よって人間観察という点で一番に優れている俺と、相手の警戒心を解くのに一番秀でている戸塚(本人は不本意そうだが)だけで対応することになった。
 紫さんは腕を組んで考え込み、
「うーん……町を歩いてたら、何日かに1回はどこでも見かけるんだけどなぁ……。気長に歩いて探すしかないと思うよ。それと挨拶回りだけなら、これから行ってみる? たぶん駅前の本屋さんにいると思うから」
 いきなり連中の居場所が分かったのは良いけど、学校じゃねぇのかよ……。
「……何でまた本屋に? 学校じゃないんすか?」
 すると紫さんはきょとんとした顔になり、
「え? だって学校に居ても暇じゃん? だったら幽体離脱の応用で、本屋の漫画とか雑誌を幽体離脱させて、好きな本を冷暖房のかかった店で好きなだけ読み漁ったりした方が楽しいっしょ? いつもそれで本棚の上とかにゴロゴロと寝そべって漫画読んでるし。ポテチ摘みながら」
 
 
 ―――色んな意味で『悪』霊だなオイ……。
 
 
「そーいえば学校に棲み付いているもう1つのホロウって、どうなったんすか?」
「え? ああ! あれね! 弱っちいホロウだったから片付けたよ!」
 と、目を泳がせながら紫さんは言う。
 ―――その様子からして、間違い無く嘘だ。
 しかしなぜここで嘘を言うのか。先日の彼女は、俺が『学校に7匹のホロウが棲み付いてる』と伝えると、1匹だけ自分の知らない奴が棲み付いてたことに驚きと敵意を感じていた様子だったが、仮にそれを取り逃がしたのであれば―――あるいは自分達が敵わないくらい強大な存在であれば、こうして嘘を言う必要は無いだろう。
 だが嘘をつくからには、余程の想定外な『何か』があったのだろう。そしてそれは、斉藤さんが地図に『小型ホロウの霊圧』として印をするくらいの『何か』が……。
「そっすか。じゃあその仲間の所に挨拶しに行きますか」
 今はその『何か』は分からないが、表向きには『どうでもいいや』と考えてるように装うしかない。
 俺と戸塚は、紫さんに案内されるがままに駅前の本屋に向かおうとした。
 
 
 
 ―――次の瞬間だった。
 
 
 
 ドオオオオオン!!
 
 
 
 轟音と共に、近くの空きビルの正面(全てガラス貼り)が砕け散り、砂埃が舞い上がると同時に、今さっきまで話題に上がっていたタンブルウィードが、後ろ向きに飛び出してきた。
 ―――いや違う。
 『飛び出してきた』のではなく、『何者かに吹っ飛ばされてきた』のだ。
 タンブルウィードはそのまま対面にあったビルの壁に叩き付けられ、数秒して地面へと落ちた。
 一方で空きビルからは、ガッシリとした二足歩行する影が、砂埃の向こうに見えた。
 やがて砂埃が晴れると、そこには3m級の人型をした巨体を持つ、牛の角とイノシシの牙を併せ持った怪物が立っていた。もちろん顔には仮面が付いている。一応は小型ホロウだ。
「なぁ戸塚……」
「うん、分かってるよ。あのホロウ、鎧を着てる……。棍棒程度ならともかく、ああいった身に纏うの持ってるのは知性種だよね」
 さすがは思考能力の共有化だ。
 だがどうする? ここじゃ通行人の目もあるし、戦いにくい。……でも知性種なら言葉で説得すれば戦わずに済むか? 今の様子を見た限りじゃ、あのタンブルウィードと戦ってただけみたいだし。いや、そもそも今なら戸塚や紫さんと共に『見えない振り』で逃げることもできるはずだ。壊された空きビルの持ち主には悪いが、ここは逃げ―――、
 
「え? 太助? なんで?」
 
 と、紫さんがホロウに向かって話し掛けていた。
「ゆ、紫さん!?」
「違うの比企谷!! こいつがあたしの仲間のホロウだよ! ねぇ太助、なんで町中で暴れたりなんか―――」
 
 
「―――比企谷! 彩加! 避けて!!」
 
 
 突如として響いた声に、俺と戸塚は無意識に反応し、後ろへと大きく跳んだ。
 そして声のした方に顔を向けると、そこには炎剣をフォークのように枝分れさせ、その全ての先端を一瞬で槍のように伸ばそうとする川崎沙希の姿があった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――川崎沙希サイド――
 
 
 時間は昨日の夕方にまで遡る。
「ただいま」
「さーちゃんっ!!」
 あたしが家に着くと、けーちゃんが飛びついてきた。
 続けて大志が慌ててやってきた。
「姉ちゃん、無事だったの!? けーちゃんから話は聞いたけど……」
 心配してくれる家族という存在に、胸の中で温かいものを感じ、あたしは微笑んで言った。
「大丈夫。小学校の頃の友達だった奴だよ。あたしに片思いだったんだって」
 大志とけーちゃんだけでなく、今じゃ家族全員がホロウが見える霊能力者だ。これはあたしに限らず、超能力者仲間全員の家族にも共通する。……1人暮らしの雪ノ下は別だけどね。
「片思いのホロウって……大丈夫なの? その……一応は男なんでしょ? もしかしたら『喰う』とは別の意味で襲ってきたりとか。触手だらけの姿で……」
「―――あんた、どこでそんなマニアックなの調べてくるのさ? 心配しなくても、あいつはそーいう奴じゃないよ」
 何とか大志を言いくるめ、大志やもう1人の弟と一緒に家事を片付ける。
 そして風呂を済ませ、髪を乾かしてから自室に入り、
 
 
『……なんかゴメンね? 女の子の部屋にお邪魔して』
 
 
 夕方に会ったタンブルウィードが話し掛けてきた。
「構わないよ、あたしが呼んだんだし。……それよりも教えてよ。あんたが何者で、具体的に何をしようとしているのかを」
 見ず知らずの男―――ではないらしいが、あたしはこいつが『誰』なのかを、まだ知らない。
 そんな奴を自室に上げるのも業腹だけど、あのまま夕方に会った場所で話しつづけていても、大志が大岡に連絡を入れるだろうし、一旦家に帰ってから1人で出かけるのも不自然だし、結果としてはここに呼ぶしかなかった。
 タンブルウィードは言った。
『……まともな神経と、ホロウ絡みの知識を持っていればいるほど、発狂しそうになる話が、複数形で出てくるよ。まずは―――』
 
 
 ―――トントン。
 
 
「姉ちゃん、まだ起きてるー?」
 ドアがノックされ、慌ててタンブルウィードは壁を透過して出ていった。
「ど、どうしたの大志?」
「電卓貸してほしいんだ。姉ちゃん、持ってたでしょ?」
 あたしが電卓を貸してやると、大志は出ていった。
『危なかったね。えっと……この姿は僕の能力で作り出したロボットみたいなものだよ。大本となるホロウの僕は、別に存在する』
 タンブルウィードが、まるで『冷や汗掻いた』といった様子で戻って来て語り始める。……なんかシリアスの空気が叩き潰されたような気分だ。
「ねぇ、無理にここで話さなくても、仲間の前で説明してくれても良いんじゃない? あんたから接触してきたって言えば、みんな食いつくと思うしさ」
『それも有りかもしれないね。僕の正体も、目的も、そして何もしなければこの町に何が起こるかも、断じて1人で抱え込めるレベルの話じゃないし』
「……そんなにヤバいの?」
 背筋が寒くなるような錯覚。
 こいつは一体、どんな情報を語ろうとしているのだろうか。
『具体的には雪ノ下さんや君が、戸部君みたいな語彙力で「べーって! ほんとマジヤベーって!?」しか言えなくなるくらいヤバいね』
「……一気に危機感が下がったようにも聞こえるけど?」
 そしてこいつは戸部や雪ノ下の事も知ってるんだな……。
 するとタンブルウィードは唐突に、
 
 
 
 
『来月、この町で…………………………が起こる。当然ながらご都合展開なんて一切無いから、被害はご想像通りだよ』
 
 
 
 
「―――――――――は?」
 
 
 
 
 思わず漏れた間抜けな声は、しかし自分の耳に届くことはなかった。
 時間が止まったかのような静寂。辛うじて時の流れを自覚できたのは、部屋の安物の時計の秒針が発する音のお陰だった。
 え? 何? 今こいつはサラッと何を言った?
『……やっぱり明日になってから聞く? 今ので眠れそうになかったら、無理矢理に安眠させる能力だって持ってるしさ』
「―――頼む。今すぐに眠らせて……」
 
 
 結局、この日は怖くて聞けなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 翌日、普段通りにベッドの上で起きた。
 とても清々しい目覚めだった。同時に昨夜のことを思い出し、あれは夢だったのかと考えたものの、枕元にあったメモ紙に『午前9時に近所の公園で会えませんか? タンブルウィードより』と書かれていたので、少し鬱になる。
 
 ―――不意に、昨夜言われた事を思い出す。
 
 怖気を感じつつも家事をこなし、指定された時間の公園へと赴いた。
 案の定、タンブルウィードはそこにいた。
『おはよう、川崎沙希』
「……おはよ。あんたの話を聞きに来たよ。仲間には一応話すけど、まだあんたが嘘を言ってる可能性だってあるしね」
 そうだ。
 現実逃避なところもあるけど、現世の人間だって、大層な理屈を掲げて戦争を起こす奴だっている。ならそれがホロウにも存在する可能性だって、充分すぎるほどある。
 タンブルウィードは言った。
『確かにそうだね。ま、信じてもらえなければそれで構わない。やることは何も変わらないからね。僕が未来から来たことによってなのか、すでに歴史は大きく変わってる。君とその仲間が超能力者になったのも、僕が生きてた頃には無かった歴史だよ』
 タンブルウィードは、あたしに背を向けて語りだした。
『まずは僕の正体だね。個人名は―――これだけは内緒にしておこう。ただヴァストローデだとだけ言っておこうかな』
 
 
 ―――ッ!? ヴァストローデだって!?
 
 
 あたし達は今まで、常人としては―――ううん、地球上に存在する一般的な超能力者としても、それなりに大物と呼べるホロウを倒してきた。
 あたし達の戦闘力はそれほど高くなく、中型ホロウが相手なら、たとえ非知性種でもタイマンでは勝率は低い。あたし達の最大の武器は、青い炎剣ではなく『技術や知識の共有化』によって、最大級の連携を生み出せるところにあるからだ。よって中型・大型となるに従って動きが鈍くなるはずのホロウが、千葉村の時みたいに知性種になることで俊敏に動けるようになったというのに、あたし達の手によって討伐する事ができた。
 
 
 何の比喩でも冗談でも中二病でも妄言でもなく、あたし達は現実世界を生きるモンスターハンターだ。
 
 
 しかし、そんなあたし達でも、まだ挑戦したことのない存在がいる。―――何の比喩でも冗談でもなく万単位・・・のホロウが共食いした先に存在するとされる、怪物という言葉すら生ぬるい魔物・・……メノスだ。
 メノス級で一番弱いとされるギリアンは、途方もなく巨大で、鈍重らしい。
 前に山本が東京の空座町で見たらしいけど、下手なビルより巨大で、青鬼の館であたし達の戦闘を間近に見たにも関わらず、あれには勝てそうに無いと太鼓判を押された怪物だ。
 
 
 しかし目の前のタンブルウィードは、『それすらも雑魚呼ばわりできる』ほどの怪物:アジューカス―――すら通り越した先の最上級メノスヴァストローデらしい。
 
 
 タンブルウィードは続けた。
『昨日も言ったけど、僕は未来の君とその家族―――君のご両親は……で亡くなったけど、君の夫や子供達を食い殺してるんだ。……こんな言い訳なんてしたくなかったけど、人間がホロウ化した際に、自我が無いながらも強烈な寂しさを感じるらしくて、自分と繋がりのある人間を襲ってしまうらしいんだ。汚い例えだけど、どれだけトイレを我慢しても、いつかは漏れるのと同じで、大抵のホロウはこの衝動に抗えないし、僕もそうだった。
 自我に目覚めてから、その事を後悔して後悔して後悔して―――気が付けばヴァストローデにまで昇りつめて、更に言えば天然産のアランカルっていう、ホロウの上位種にまでなっていた。その力をもってして、僕が現世で死ぬ原因となった『とあるヴァストローデ』すらも喰らった。………でも、いくら力を手に入れても、心の空しさまでは埋めてくれなかった。
 
 
 ―――そんな時だったよ。小型ホロウながらも、「時間を行き来する能力」なんてものを持ったホロウを見つけたのは。
 
 
 僕はそのホロウを喰い、しかも能力まで自分の物にしてみせた。……まぁ、その能力自体、そのホロウがありったけの霊力を込めて数秒だけ過去に戻れるっていう能力だったけど、そこは自分の天文学的なほどの霊力を使って何十年も過去に戻り、それでもこの時代にまでは簡単に戻れないから、力を蓄えてまた何十年も戻るという作業を繰り返した。
 いま君が見ているこの姿も、僕が霊力を集めるために地球全土やウェコムンド全土に放ったロボットみたいなものさ。……まだ全盛期ほど回復してないけど、少なくともあのヴァストローデを仕留めることならできるはずだ』
 
 
 
 
 …………本当にとんでもない話だった。開いた口が塞がらない、とはこの事だった。
 
 
 
 
『信じるかどうかは、どうでも良い。……でも大好きだった君に伝えられたことだけは嬉しいかな? 目的を果たしたら、たぶん僕は「存在しなかった」ことになって消えてしまうし、そうでなくても敵と相打ちになるくらいの霊力しか残ってないと思う。だから―――最後に君に会えて…君と話せて、本当に良かった』
 ―――落ち着け、あたし。
 今の話が嘘かどうか―――いや、仮に嘘だとしても、あたしらにはデメリットは無いし、そもそも嘘をついてるようには見えない。
 あたしは、こいつが言った全てを信じた上での質問をした。
「ねぇ、教えて……。その『とあるヴァストローデ』って何者なの? なんで『そんな事』をしようとしてるの?」
 
 
 
 
『それはね、そのヴァストローデと、その手下達なりの「復讐」なんだよ。
 かつて戦国時代に、この辺りに城があった。
 ……でも戦乱の世を生き残れずに、城主の娘の姫様と、彼女の幼馴染であった臣下達は命を落とし、姫は幽霊となり、6人の臣下は知性種の小型ホロウとなった。……そこへ現れたのが、姫の先祖であり、国の守り神として祭られていたヴァストローデだった。
 姫と臣下達とヴァストローデは、国を滅ぼしてその上に新たな町を立てた「敵国」に強い怒りを感じ、ヴァストローデの能力でこの地を破滅させようと企んだけど、バラガンという別の超大物ヴァストローデに目を付けられ、戦いの末に千葉の大地の下に封印されてしまった』
 
 
 
 
「じゃ、じゃあそのヴァストローデってのが、封印が風化か何かして、復活しようとしてるの?」
 タンブルウィードは答えた。
『風化じゃないよ。……ちょっと話は変わるけど、知ってる? 結界地がどういったメカニズムで発生するかを』
「え? いや全然」
『大気中にも存在する霊子は、重力に引かれて地面に染み込んでいく。でも稀には地面を透過せずに溜まっていく霊子があるから、霊体の僕もこうして立ってられるけど、大多数の霊子は地球の中心に向かって落ちていくんだ。そして巨大な青い光の柱となって、地球上のどこかでそれらの霊子は噴き出す。……これが「噴出地」。生きてる内に見れるなら、見物すると良いよ。スカイツリーよりも太くて長く、そして綺麗で力強い噴水みたいだからね。―――で、こうして地中から霊子が盛大に出てくるのは良いんだけど、ほんのちょっとずつ昇ってくる霊子もあって、稀に地中で変質して巨大なシャボン玉みたいな形になって昇ってくる場合がある。それが「結界地」。
 
 
 この町はね、何十年か前―――総武高校の七不思議が出来上がる数年前くらいに地下から昇ってきた小量の霊子の塊が、ヴァストローデが封印されてる位置を通過した際に変質して出来上がったんだ。……そのせいで封印が部分的に綻び、ヴァストローデは無理だったけど、手下のホロウは地上へと出てきたらしい』
「……ッ!?」
 
 ちょっと待ってよ。姫様の幽霊と6人のホロウ化した臣下って、もしかしなくても七不思議の連中なのでは?
 
『その手下達は、今では少しずつ霊力を集めては、封印の破壊に当てているみたいだけどね。……僕の仕事は、後はその手下達の居所を探るだけで―――』
「待って! もしかしたら、今日仲間がそいつらの所へ行ってるかもしれない!!」
『―――っ!!』
 あたしはスマホの電源を入れ、彩加と、比企谷に電話をかけた。
「くっ……繋がらない! あいつらマナーモードにしてやがる!!」
 繋がらないなら仕方が無い。
『落ち着きなよ。仮に本当に僕が探してる連中だったとしても、出会ってすぐに殺し合いになる相手じゃないでしょ? 相手は知性種だよ? それとも君の仲間は、知性種かどうか関係無しに、問答無用で斬りかかるような奴なの?』
 言われて落ち着く。
 そうだ。比企谷は、紫とかいう幽霊女の信用を得るといって出かけたんだ。今はまだ大丈夫だ。
 
 
 
 ―――ガサッ。
 
 ―――パキッ。
 
 
 
 ……漫画で、いかにも『隠れて見ていた誰かが、枯れ葉と小枝を踏んでしまった』みたいな音が聞こえ、あたしとタンブルウィードは振り返った。
 そこには3mの人型で、牛の角とイノシシの牙を持つ、日本の甲冑をまとったホロウが立っていた。
 鎧を着ているから知性種か? まさかこのタイミングで、そのヴァストローデの手下という可能性はないよね?
 ―――ん? でも前にネットで七不思議について調べた、怪物の目撃情報と似たような特徴をしているような―――
 タンブルウィードは叫んだ。
 
 
『その顔! そいつ本当にヴァストローデの手下の太助って奴だ! 今の会話を聞いてたんだ!!』
 
 
 するとホロウの方は、頑健そうな巨体を翻し、
『う…うわああああぁぁあぁぁッ!!?』
 と情けない声で叫んで逃げ出した。
 逃がしては駄目だ! あいつを生かして帰したら、敵が総攻撃を仕掛けてくるか、最悪の場合は何らかの手段でヴァストローデの封印破壊が早まる可能性すらある!!
 あたしとタンブルウィードは全力で走り出した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――戸塚彩加サイド――
 
 
「沙希ちゃん、何を―――!?」
 全てを話し終えるより先に、彼女は何本も枝分かれさせた炎剣の先端を小型ホロウに向け、高速で伸ばしては縮ませ、また伸ばした。その様子はマシンガンよりも、キーボードに高速で指を叩きつけているよう見えた。
 ……でも一瞬早く、
「―――させないっ!!」
 紫さんが動き、『太助』と呼んだホロウの前に出て仁王立ちになり、同時に彼女の正面に光の壁が現れた。
 
 
 ―――ズガガガガガンッ!!!
 
 
 銃撃音―――という言葉が生易しく思えるような音が響いた。どうやら紫さんの張ったバリアみたいなのは、沙希ちゃんの攻撃を全て防いだみたいだ。
 ……必殺である『青い炎』を使ってないとはいえ、あの攻撃を防いだなんて……。紫さんはこういった魔法じみた能力を持ってるとみて間違いないだろう。もしかすると今の術しか使えない可能性もあるけど、警戒しておいて損は無い。
 むしろ今がどういう状況かが知りたい。
「ねぇ沙希ちゃん!!」
「彩加! 気持ちは分かるけど今すぐそいつらを殺して!! 町が―――この町が壊滅する前に!!」
「「「……っ!?」」」
 僕、八幡、そして紫さんが驚愕に目を剥く。特に紫さんの場合、『なぜ知ってる!?』って顔になってる。
 もし時間に余裕があるなら、なぜそんな事をするのか、そもそもどうやって実行するのかを問うべきだろうけど、実際にその手段と実行の意思がある相手であれば、事前察知をしてしまった第三者を殺すのだって躊躇わないだろう。
 紫さんと、僕と八幡の視線が交錯し、互いに確信する。
 
 
 ―――ここで殺さなきゃ、後で困った事になる。
 
 
 お互いにそう考えているのだ。そして軽度ながらも言葉と笑顔を交わした相手を殺せるほど、僕らも、そして紫さんも、冷酷にはなりきれなかった。
 でも、それこそ一瞬の逡巡だった。
 僕は炎槍を、八幡は二刀流で炎のダガーを作って構え、紫さんに飛びかかる。
 紫さんの顔が驚愕に染まる。今度はバリアを張られはしなかった。予備動作が必要なのか、それとも僕らが超能力を使った驚きのあまり対処できなかったのか、あるいは単純にMP切れかもしれない。
 でも紫さんの後ろから現れた牛猪ホロウが、大きなガラス片を投げつけてきた。
 とっさに僕も八幡も伏せて回避したけど、今度は回避したタイミングを狙って、鉄骨が横薙ぎに払われた。
「バリアっ!!」
 八幡が叫ぶと、ダガーはドーム型に変形した。しかも透明だから、向こう側が見えるというオマケ付きだ。
 そしてドームは、牛猪ホロウの薙ぎ払いを完全に防ぐ。が、
 
「……硬そうなバリアだけど、姿が見えるって事は光は透過するみたいね」
 
 紫さんの冷たい声で言い放つと同時、彼女の手から直径1cmほどの光線が放たれ、僕と八幡がいる間を下から上へと焼き払った。その通過点を見ると、アスファルトが5~6cmだけ溶けて彫られていた。人体に当たれば、間違い無く致命傷になる。当たらなかったのは奇跡だ。
 慌ててバリアを解いて立ち上がったけど、紫さんと牛猪ホロウは背中を向けて逃げ出していた。
 しばらくして沙希ちゃんが駆けつけてくる。
「……ごめん、沙希ちゃん。仕留められなかったよ……」
「ううん、仕方なかったんだ。それよりも―――」
 タンブルウィードの元まで歩み寄る。こいつはあの牛猪ホロウに吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられてからグッタリとしていたんだ。
「……あんた生きてる?」
『無理っぽいな。でも必ずあいつらは僕が仕留める。今はアフリカと中国、あと北極の特殊な霊地で力を蓄えてる僕の「本体」が来るまで3日くらいかかるけど、それまで手出ししないで待っててくれるかな?』
 よく分からない会話だけど、僕らにとっての援軍が来てくれるって事?
 でも沙希ちゃんは首を横に振った。
「まだあんたの事を信じきれてないね。……悪いけど、こっちから打って出るよ。ヴァストローデが復活する前に、あいつらを駆逐してやる」
 それっきりタンブルウィードは動かなくなり、やがて青い光の粒になって弾けて消えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「嘘……だろ……?」
 八幡の声が、空しく響き渡った。
 場所は昨日、みんなで打ち合わせをした高架下だ。そして昨日と全く同じメンバーが集まってるというのに、この場に漂う雰囲気は、どこまでも重たい。
 沙希ちゃんがタンブルウィードと接触し、しかも言葉が話せるものだから、色々な情報を聞き出していたそうだ。
 
 
 そしてそれらの会話を、あの牛猪ホロウこと、太助という名のホロウに聞かれた。
 
 
 タンブルウィードの言葉が、何らかのハッタリや嘘であってほしいところだけど、どう見てもあの時の紫さんや牛猪ホロウの様子は、タンブルウィードの言葉を肯定するものでしかなかった。
 七不思議を起こしていた集団は、とあるヴァストローデを復活させることを目的としていたんだ。
 またタンブルウィードは、信じられない事に未来から来た別のヴァストローデの操り人形で、そのホロウ集団の行動を阻止・殲滅するつもりらしい。……けど、それらの情報は、沙希ちゃんとタンブルウィードの会話ごとホロウ集団にバレてしまった。
 
 
 駅前で紫さんや牛猪ホロウと戦った時、瀕死だったタンブルウィードは『本体をこちらに向かわせる、3日くらいかかる』と言い残したけど、まだ完全にタンブルウィードを信じられた訳じゃないし、敵だってヴァストローデが復活してないのなら、まだ正面から戦っても勝てる見込みはある。
 そもそもタイムスリップの能力があるなら、数時間前に戻って敵に情報が漏れるのを阻止することだって出来るはずだ。
 そうなると平行世界とか量子物理学的に、あのタンブルウィードは過去に戻ったと仮定すると、もうこの世界には存在しない可能性すらある。
 つまりは未来を変えるために来たと言いながら、この時間軸の千葉の未来は大変なことになるのは変わらないのだ。
 
 
 そしてもし敵側のヴァストローデが復活した暁には、その天文学的とも言えるほどの霊力を使って―――
 
 
 その続きを沙希ちゃんは、もう1度言葉にした。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ヴァストローデは持ち前の特殊能力で――――――この町を強烈な大地震と、同規模の余震を何度も起こし、最後に大津波で壊滅させる気だよ……。そして最初の地震が発生するのは―――来月の体育祭翌日の早朝7時30分ジャストだって……」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――あとがき――
 
 
 ……このシリーズの2つ前に投稿した『大震災(俺ガイル)』―――実は本作はあれのIFの世界でした。







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