「お前たち糞馬鹿どもは気安く必要以上のことを人に要求しやがるが脳味噌の変わりにポン菓子でも詰めてんのか?
いいだろう、俺は今日求められた仕事をして、それが終わって、ようやく帰路にありつけるって時に貴様らは!! 俺は一秒でも早くお前らの顔を見たくないってのにお前らときたら俺をくだらねぇ飲みの席に縛り付けやがる。お前らと顔を合わせて駄弁ってるくらいなら鼻くそでもほじっていた方が2兆倍有意義なんだよ」
「いきなりどうしたんだ?」
「先輩、早く帰らせて下さいよ」
「まぁまぁ、そう言うな。ほら、飲め飲め」
「また「飲め」とか‥‥‥芸も品もないね。もう少し人としての底の浅さを包み隠す努力をしたらどうなの? それってさ、廻り廻って今後の君への人生にただいま悪影響に変わるんだよ? もう少しなんというか手心というか優しさというか‥‥‥そういうのって考えられないかな?」
「どうしたんですか? 部長」
「君、早く私に酒をつぎたまえ」
「はい、ただいま」
「はぁー、先輩! いつになったら帰れるのかなー、俺」
「ほら、君、早く私の酒をつぎたまえ」
「はい、ただいま」
「‥‥‥なにー、あのうるさい客。会社の集まりか何だか知らないけどこの糞狭い居酒屋で馬鹿みたいにはしゃいでんじゃねぇですよお客様。お前らみたいなスーツ着て集まってるから周りの世界に悪影響を及ぼしてもいいだろう全ては社会の利益のためになんてことを無意識レベルで思ってる存在は早く店から出ていってくんないかな? ご注文は?」
「生で」
「生で」
「レモンサワー」
「は? 空気読めよ下っ端のタンカスが。レモンサワーでいいのかい?」
「は? それが年長者が新入社員に物申す態度なの? 死を待つだけのアホロートルの分際でよ。やっぱ俺も生で」
「‥‥‥」
「はーい、生3丁」
「‥‥‥でさー、係長、君んとこの新入社員君、いったいどうなっとるんだよ。仕事はまともにできないわ、先方に迷惑はかけるわ、私はケツを拭かなきゃいけないわでもー、肝臓が痛い。あー、肝臓いたいわー。わかる?肝臓の位置。ここ」
部長は、自分の肝臓の位置を指差した。
「部長、ここの肝刺しうめーですね」
「貴様は言葉づかいがなっとらんッッッ」
「まぁまぁ部長落ち着いて‥‥‥新入社員も落ち着いて」
「てゆーかさ、部長、この会社まじやばくねーですか?あまりにもブラックすぎやしませんか?なんで俺の貴重な余暇まで搾取されないけんですか? あーくそつまんねえ。説教されて聞きたくもねぇ話を聞かされるだけの生産性のねぇ空間なんて一秒でも早く早退したいね。あれ?「早退」? うちの会社って「早退」なんてできたっけ? いやー、ブラックですね」
「口の減らないガキだなぁ。そんなに嫌ならやめてもいいんだよ?」
「あ?」
「まぁ、君のような奴が他の会社に採ってもらえるかは甚だ疑問ではあるがな‥‥‥なにせ、君にあるのはうちの会長のコネくらいなものだしね。うちでブラックなんて言ってたら、どこでもやっていけないよ」
「‥‥‥い、いやだ‥‥‥就職活動なんてしたくねぇ!!」
「そうだろう、そうだろう。もうあんな場所には戻りたくないだろう?」
「はい‥‥‥この会社に一生捧げます‥‥‥」
「ふふ、よきかな」
「‥‥‥」
「‥‥‥ま、やめる気なんてサラサラないけどねー! 」
「‥‥‥もー!! 新入社員君ったら、なかなか気骨のある若者ー!!」
「部長、お酒入れましょうか?」
「お、ありがとうね係長」
「‥‥‥先輩! 俺のにも入れてくださいよ」
「‥‥‥」
「こら、調子に乗るんじゃない。まだお前の話は終わってないぞ」
「へへーんだ! どうせ俺をやめさせる気なんてないっしょ。」
「‥‥‥」
「君、自分が何を言っているのかわかっているのか?」
「つわものぶったって無駄だぜ!? この会社、貿易方面が振るわなくなってからどんどん首が回らなくなってきてるって話じゃないか。今後の経済の状況も鑑みて、早くは2年後には潰れるってのが俺の見立てだね。そんな会社が新卒の俺を易々と捨てるなんて思えねーがな!!」
「んだとゴラァ!!」
「へへ、怖くもなんともねーぜ!! 部長クラスの分際でよ!!」
「‥‥‥」
「へへー!! おしりペンペン!!」
「やぁ、楽しそうだね」
「‥‥‥え‥‥‥誰」
「‥‥‥会長!?」
「そう、私が会長の後藤だ」
「あなたが‥‥‥あの、後藤会長ですって!?」
「‥‥‥知らなかったろ、どうせ」
「‥‥‥君、わが社の経営状態がヤバい、と言っていたね」
「‥‥‥はい」
「‥‥‥それは間違いだ。わが社は、来年にでも海外と手を組む算段だ」
「‥‥‥なんですって!?」
「‥‥‥会長、聞いてないですよ!?」
「そう、わが社は‥‥新規事業を立ち上げるのだ!!」
「‥‥‥すげぇ!! 会長!!」
「一生ついて行きます!!」
「はっはっは!! すごいだろう!! まぁ実質的にはわが社は買収される感じになるわけで、来年の君らの首は保証できないんだけどねー! わが社の未来は明るい!!」
「‥‥‥」
「会長、飲みましょう!!」
「お、いいねぇ。この会社の化身と言っても過言でもない会長の私にも物怖じしないその態度、良い子ばかりのわが社に足りなかった存在だよ。これからは従順な犬より君のような狼が必要とされる時代だよ! グローバルグローバル!!」
「さすが会長、お目が高い!! 首切られる前に定年で逃げ切ってやるぜ!!」
「‥‥‥」
ダンッッ!!
「‥‥‥どうした、係長」
「‥‥‥すいません」
「‥‥‥係長、暴力に訴えるのはよしてくださいよ。そういうのやめるために、なんでも本音で話そうってのがうちの社訓じゃないっすか」
「‥‥‥」
「ほら、言いたいことがあるなら、いってごらん?」
「ほら、係長」
「ほら」
「ほら」
「ほら」
ほら
「あつまれ! さかもり」完