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No.43444の一覧
[0] MONSTER × HUNTER × HUNTER〈オリ主〉[融電社](2020/01/17 16:55)
[1] 1.バウンサー[融電社](2020/01/16 16:27)
[2] 2.ドラック・ウォー[融電社](2020/01/16 16:27)
[3] 3.ジャーナリスト・ハンティング[融電社](2020/04/27 18:44)
[4] 4.ファイティング・ナウ[融電社](2020/05/28 22:47)
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[43444] 4.ファイティング・ナウ
Name: 融電社◆f1c5a480 ID:dddad5af 前を表示する
Date: 2020/05/28 22:47

 
 4.ファイティング・ナウ
 
 
 ハロルド・コールドは、寡黙なハンターである。元々は民間軍事会社に勤めていた経歴を生かし、要人警護の職に就いた。
 性に合っていたと言えばそうなる、何かを守る仕事。価値のある仕事。そうだと信じてきた。
 
 彼の中には空洞があった。何をしても満たされる事のない、孔が。絶望的になにかが足りていなかった、それが何なのかは今に至ってもなお知る由もない。
 今もそうだ。冷え切っている。心身共に、だ。ついでに言えば頭もまた冷えきっていた。それは常に冷静でるという証明だった。
 魂のない身体。名の通りの≪冷え切った≫ハロルドだった。
 
 いかような修羅場。激戦区であっても、取り乱すことのない無駄な長所、そのおかげで生き延びてきた。何を成すでもなく、唯々愚鈍なまでに、生きてきたのだ。
 
 自分が何を求めているのか、それを探し出すべく、ハンターの道を選んだ。
 
 17才の時にハンター試験を受験、合格した。それ以来。空洞を満たし続けて生きてきた。
 
 そして今もまた、修羅場の真っ最中だった。
 
 左腕は気絶したジャーナリストと荷物で埋まっており、余分な重荷になっていた。左腕が使えない。戦闘中にそれは負荷であり、致命的な弱点となりうる。不利であることは承知している。だが救助者を見捨てるわけにもいかなかった。
 
 ジャーナリストは気絶しているのが幸いだった、余分な事にエネルギ―を使う必要がないのは楽でいい。
 
 標的=フィンスキー=果敢に拳を繰り出す、左のジャブ×7。すんでの所で回避、後退を重ねる。
 
 これまでの経過から分かったことがある。標的についての情報。
 
 近接戦に自信のある強化系か、変化系能力者と見受けた。今のところ『発』を使うそぶりが見受けられない、何故使わないのか? それは戦闘スタイルから分かる通りの、ボクサースタイル、近距離での戦闘に自信を持っている表れ、かつ。己の能力を解放することに躊躇している、それはつまり、一撃必殺の間合いを計っている証。
 
 それか戦闘用の能力でない可能性――――それは限りなく低い。好戦的な能力者が、好戦的な能力を作らないはずがない。
そんな確信めいた予感。
 
 使えば一撃で己を殺せるのに、使わない理由それは、こいつが戦闘中毒者だからだろう。ぎりぎりの戦いを楽しみたいそんな快楽主義者の嗜好は、こちらにとって付け入る隙になる。
 
 状況は2対1、好都合。この男を無力化すれば、状況は大きく改善する。だが現在保有する戦力では拮抗状態を維持するのが精一杯、とてもじゃないが決定打に欠ける。奥の手が必要だった。一撃で状況を打破できる必殺技が。
 疲労の蓄積が生んだ、僅かな隙。
 
 フィンスキーはその隙を逃さなかった。人間一人という荷物を抱えたままでの立ち回りは鮮やかそのものだったが、どんな戦闘巧者であっても限界は来る。
 
 躍るように、間合いを詰める。拳の間合い、念を込めた右ストレート。一流の武闘家の拳は兵器染みた威力を予感させた、ただ、それが。
 
 当たればの話、だ。会心の一撃が『逸れて』いく。何かに押し出されて行くかのように、逸れた。拳はそのまま降りぬきエネルギーを乗せた拳を回転させ態勢を立て直す。何が起こったのか。
 十中八九、念能力による阻害。その正体が掴めない、視線を僅かに逸らし、男ハンターから、グラマラスな肢体を有した女ハンターへと向ける。
 
 長年の勘が告げている。この女だ。何をしたのかは分からないが、この女の念能力だろう。先刻ビルの壁面を『走った』能力の応用で、俺の拳を逸らさせたのだ。
 
 生半可な攻撃ではフィンスキーは倒せない、非殺傷ではあるものの空気弾をまともに受けて、怯まずになお向かってくる好戦性、獰猛性。非常に厄介な事に、闘争心へ薪をくべたようなものだった
 フィンスキーは本気だった。誠心誠意を込めて、殴り掛かる。当たればどんな相手でもKOできる自信があった。
 
 キティ・アリシントンは驚愕していた。相手への耐久性についてだ。師匠の念能力で作られた空気弾は一発でも当たったならば、通常の人間なら戦闘不能になるほどの威力を持っている。それを何発も体に受けて活動している、これは通常ではありえないが、現実問題として目の前に存在する。
 
 念能力者だという前提としても、異常な事態だ。積極的に近接戦を好むことから。たぶん強化系に近い能力者なのだろうと予測、強化系能力者ならば小細工をしなくても、力押しで勝てるからだ。
 
 私がやるしかない。師匠。私がやります。片手が塞がっている状態では、あの強敵には勝てない。具現化系の師匠よりも、私の変化系の私の方が、接近戦の相性が良い。
 僅かな視線によるアイコンタクトをへて、攻守交替≪スイッチング≫白服の眼前へと躍り出る。ステップを踏みつつ、牽制の回し蹴り。
 
 白服が口笛を吹きつつ、左腕一本でガード。当たった感触はまるで大木を蹴りぬいたよう、鍛え上げられた上腕。あなどれない強敵に冷や汗が出る。
 
 牽制の左ジャブ。そして本命の右ストレート、打撃戦という相手の得意な領分に踏み込んだ。
 それは、私も同じ。近接戦は得意だ。念を覚えて8年という歳月は、確かに心身を鍛えられた、今までの修練の成果、今ここで見せる時!
 
 右手にオーラを集中させ、突き進む豪拳を『逸らす』相手の態勢が崩れた所へ、コンパクトな右膝蹴りを放った、が。相手はそれを見越したように左掌で受けて、ローキック、軸足を狙った、こちらの態勢を崩す狙い。
 
 ゴッ、と強烈な打撃音が響く。
 
オーラを込めての防御、相手のキックは強烈で骨まで響くように、軸足を震わせた。まだ我慢できる程度。能力の併用で防御しているから大丈夫だ。
 
 ワンステップからの後ろ周し蹴り、脇腹へと直撃したが『凝』で防御済み。そのまま彼は左足を抱きかかえると膝を破壊するために拳を振り上げる。
 
 これはチャンス。抱きかかえられた状態を軸に、残った右足で頭部へと蹴りを放った、上手いことに直撃した。硬い手応え。
 もろに当たった衝撃で態勢が崩れ、左足も解放。地面に両手を着き側転。態勢を立て直す。直撃してもなお白服は闘争心に陰りがでていない、たいした耐久性だ。
 
 掌底打を胸に当て、そこから裏拳へと派生、顔面へ打ちこむ。僅かにひるんだ。いける。前蹴りと同時にそこから上段蹴り、下段蹴りへと蹴り込み、鳩尾への中段突き。流れるように。
 技の継ぎ目と継ぎ目が、極わずかな隙しか生まないのは。長年の鍛錬と調練の証。よどみなく『流』を扱えるようになるのに2年の年月が掛かった。
 
 反撃のワン・トゥー、伸びきった右ストレートに関節を極めにかかる。上手くいけば、右手を封じられる。念能力者といっても体の構造は一緒、関節は脆く、人間特有の弱点となる。
 
 成功するかと思いきや、握り拳から、開手。人差し指と中指での目突き。とっさに回避する。掠めた一撃が、頬に朱を刻む。問題無し。
 
 距離を取り、仕切り直す為に後退、そこへステップ・イン、強引に距離を詰められた。拳の間合い。左のアッパーが顎を狙う。だが。僅かに届かない。能力を使った為だ。
 
 さらに後退、背後はビルの外壁だった、後退はもうできない、そこへ右のストレートに纏わせた『硬』四大行を全て駆使した大技。武闘家の拳は直線的だった、洗練された暴力、人間一人を殺すには十分過ぎるほどの力が籠っていた。
 
 選ばなければならない右か、左かへの回避を。出来なければ、あるのは死だ。
 
 右へ、全力で能力込みで回避。当たっていれば正中線を貫通するであろう振りぬかれた拳は、ビルの外壁を微塵に砕いた。外壁におびただしい亀裂が走った、凄まじい、威力。もうもうと立ち込める粉砕された外壁の砂ぼこり、はた迷惑な。
 
 防御しなくて正解だった。していたのならば、防御し切れずに大打撃を受けたであろう事は明白だった。
 
 やはり接近戦では相手が一枚上手、援護が必要だった。
 
 壁から拳を引き抜きつつ、フィンスキーは考えていた、女の能力についてだ。埃を振り払いつつ、拳を構える、重心を後ろへさげたディフェンススタイル。今までのやり取りで分かった事が2つある。
 
 おそらくは俺と同じく戦闘補助の能力と推察される。直接的な攻撃力は0に近く、火力が低い能力だと思われる。
 
 そして変化系、オーラを具現化させるのとでは違い、目に見えにくく判断がしづらい。厄介な事に、この女『流』が上手い、巧みなオーラ操作力と体術も一級品、そこらのザコとはわけが違う。
 
 これがハンター。
 
 心拍が高揚しているのが分かる、久しぶりの獲物に文字通りに胸が躍った。是が非でも倒したい。今すぐに。だがここで一旦、ヒートアップした脳を冷やす事にした。構えを半身に、腰を落とし、両足を開く、左半身を前に、右肩は後ろに下げた闘争におけるクラシックなスタイル。握り拳に力を籠める。硬く。握る。
 
 パワーは俺が上回っているが『流』の技術は女が上手。加えて、援護要員の男ハンターは余力を残している。分が悪い。
 
 冷静にならねばこの二人組は倒せない、長年の戦闘経験から出された冷徹な判断。もう、なりふりかまわず相手を仕留めようという本能がせめぎ合っていた。実に悩ましい。二人組に勝つというよりも、最優先すべきはジャーナリストの身柄。
 
 無駄な戦闘は避けるべきという、理性的な判断を却下した。この状況では交渉なんてレベルを超えて殺し合いだ。
 
 断然、二人を始末して、女の身柄を確保したほうが確実。そうするべきだ。
 
 キティの構えは開手。開かれた手。どんな攻撃だろうと『逸す』という構え。致命傷を受けずに戦う、防御重視の長期戦の構え。
 
 今のところ肉弾での攻防は、フィンスキーが身体性能において有利。
 
 身体能力では私がやや劣っているが『流』の技術では私に分がある。油断はない、アドバンテージは私の能力が見破られていないということ、と、2対1という数の有利性がある。
 
 独特の射撃音と共に、師匠の援護射撃が到達する。2発の空気弾がしたたかにフィンスキーの肉体を打った。しかし完全にガードされていた、致命打になりえなかった。
 
 見えない空気弾の弾速と威力、に適応しつつあった。致命傷になりえないのならば。恐れる必要がない。恐れる必要がなければ余裕が生まれる。それはつまり、攻略できるという筋道。
 
 女の能力が未知数であり、男の謎の攻撃は致命傷にならないのならば、俄然、狙うのは女の方だ。遠距離から狙われるよりも、接近戦の方が噛み合う。戦闘を楽しみたいという、悪癖。それがフィンスキーの数少ない弱点だった。『発』を使わないのもそのためだ、こんな上等の獲物は長く味わいたいという、思惑。簡単には壊したくないという欲。
 
 対する二人組は、この白服の能力者から脱し、救助者を安全地帯まで運ばなければいけなかった。くわえて、残る一人の襲撃者の存在がある、PDWで武装し、今まさに弾倉を交換し終えた所だ。
 狙いは男ハンター。二人の黒服が銃撃を開始する。
 
 防御するべく射線上に躍り出る、私の能力はオーラを『重力』に変える重力的日々グラビティデイズ 
 
 発射された弾丸は人体へは当たらず『逸れて』いく。何処へもたどり着けない弾丸は明後日の方へ向かっていき、地面や外壁へと吸い込まれていった。
 
 360°全周囲に小さな『円』を張り、外部からの打撃、斬撃、銃撃を逸らす、防御態勢。この体勢では攻撃ができないのが弱点だが防御に関しては無類の鉄壁を誇る。
 
 特殊弾だとしても所詮は銃弾、直線的にしか攻撃できない武器だ、エネルギーのベクトルを変えてしまえば簡単に無力化できる。数秒で全弾を打ち切り、弾丸は一発として当たることはなかった。大した防御性能だ。襲撃者はそう思い、この任務が楽ではない事に気付いた。
 ハンターは手強いといまさらながら、思った。戦闘用の能力を保有していないのは不利でしかないが、それは能力を作ったときに覚悟はしていた。それを補う為に銃火器で武装する必要があったのだから。とはいえこの状況では意味があまりなかった。
 残る手段は限られていた、総員6名のうち4名が戦闘不能。切り札の戦闘要員としてミスター・フィンスキーがいるが決め手に欠けていいて、長期戦は避けられない。
 増援を呼ぶ必要性を感じた、戦闘力に劣るのならば別の方法でカバーすれば良いだけのこと。単純な話、重火器を持ち込むことができれば能力者など恐れる必要性はなかったのだ。
 肉体を強化できようが、オーラを何かに変化させようが、所詮は人間一人が生み出すエネルギー、必ず限界は来る。それまで攻撃を続ければ良いだけの話だ。加熱した銃身から煙が立ち上り、急ぎ弾倉を交換する。
 
 「吸気開始≪リロード≫」ハロルドの宣誓。6秒間の僅かな隙。たかが6秒で何ができるのか。
 
 フィンスキーがキティへと殴り掛かる。が、当たる手前で拳が止まる。見えない壁を殴ったかのような手応え。ジャブとストレートを混ぜ合わせた殴り込み、ワン・トゥー・スリー・フォー・ファイブ・シックス・セブン。
 
 当たれば悶絶することは間違いない攻撃は、全て意味がなかった。拳だろうと銃弾だろうとその攻撃は直線的なものだ、外部からのエネルギー操作で、ベクトルを直線から曲線に変えられてしまえば、届く道理はなかった。
 
 全ての攻撃が通らない、感触は真綿が詰まったサンドバックを殴っているような感覚。これが女の念能力。謎めいた力。これだから戦闘は止められない。戦闘は良い、全てを忘れられるから。
 
 軽やかに距離を置く、単純な打撃では突破できないと見るや、見に徹する。完璧な能力なんてものは存在しない、どこかしらの欠点が存在するはずだ、
 高い防御性能を誇る『円』直径は小さいが、銃撃すら逸らす性能を持ったそれは弱点はないかのように見える。が、その分念費が悪い能力だと推察する、『円』は神経を削る能力だ、それに防御力を付加させていれば、それなりの念費がかかるだろうことは想定できた。
 
 2対1でかつ援護射撃のあるなかで、この防御を突破するのは難易度が高いように思えた。どうにかして攻略したものかと思案している最中にそれは来た。
 
 猛スピードで走りくるのは、イエローキャブ、所詮タクシーだった。≪TAXI≫のロゴを刻んだ標識。黄色と黒のツートンカラーを利かせた車体。テカテカと眩き太陽の反射をを映し出し光っていた。
 
 「待たせたな、お二人さん!」
 
 景気の良い声とともに、急停車。スリップ痕が道路に刻まれ、焼けたゴムの匂いが周囲にまき散らされる。自動で開いたドアが客を乗せようと待ち構えていた、いつでも発車できる態勢。ここに来たのは偶然ではない、あらかじめ逃走用に手配した車両だった。
 
 逃げる気かっと、そうはさせねぇ。
 
 ハロルドは車にジャーナリスを押し込み、乗せ。振り向き様にフィンスキーへ向け銃を向け。衝撃に備えるべく対ショック姿勢の構えをとる。
 
 「全弾圧縮、射出」唱え、6発全ての空気弾を打ち出す大技。極大の空気弾が打ち出された。
 
 見えない弾丸は通常弾よりも速く、大きく、視認し辛さはそのままに白服の男に直撃した。通常弾よりも攻撃力が増している。吹き飛ばされたフィンスキーは駐車してあったライトバンへ叩きつけられた「……ぐっ」呻く。今まで受けた中でも最大級の攻撃。衝撃で防弾仕様の車体が大きく凹み、フィンスキーは予め防御態勢をとっていたがその勢いは止まらずライトバンごとビルの外壁に打ち当たった。

 ハロルドの長年の経験からいって、全身を『堅』でガードしていても並みの強化系なら重症に至るレベルの攻撃だ、あの男の異様な耐久性からみるに、追撃してくる可能性は十分にあった。
 
 「師匠今です、逃げましょう!」「ああ、急ごう」
 
 両者ともにタクシーに乗り込むと同時、轟くエンジン音と共に、タクシーは走り出すべくペダルを踏み込む一瞬だけ、止まったように見えたがそれも一瞬後には、爆発手な加速と共に走り去っているだろうことは明白だった
 
 黒服はその隙を見逃さなかった、懐から取り出した回転式の拳銃に1発だけ弾を込めた、狙い、そして撃った。弾丸は素直な軌跡を描きタクシーのナンバープレートに着弾した。
 そんな攻撃にはびくともしない防弾仕様の特別仕立ての改造タクシーは気にもせずに走り去っていた。
 
 後に残るのは、四方八方の壁や地面に、出鱈目に走る弾痕と、破壊されたライトバン。周囲に散乱した空薬莢。人気のないのが幸いだった、事後処理が面倒にならなくて済む。
 
 「くそッ……取り逃がしちまったな」瓦礫となった車体から這い出る。一張羅が埃まみれだ。実にしぶとい男だった。この様子では戦闘を続行しても問題ないと見える。
 
 「無事か? ミスターフィンスキー?」
 
 「ああ、だが逃げられちまったな」
 
 「そちらは問題はない、追跡は可能だ」
 
 「へぇ、どんな手品を使ったんだい?」
 
 懐から取り出されたのは携帯端末に映し出されたのはカーナビゲーションシステムに似たものだった。
 
 「それは?」
 
 「逃げた車両に発信機を打ち込んだ、これである程度追跡できる」
 
 「オーライ、了解した、そいつを貸してもらえるかい?」
 
 携帯を投げて寄越した。
 
 「どうする気だフィンスキー」
 
 「どうするもなにも、追いかけるのさ」
 
 ちょっち、ド頭にキタぜ。このまま逃げられたまんまじゃ、腹に据えかねる。
 
 「新しい車両は手配した、が、そのまま行くのか? 走って? 不合理だな」黒服の合理的な指摘。
 
 「男にゃやらねばならなぬ時があるのさ」怒りに任せた不合理な情動に身を任せたまま。
 
 コキコキと首を鳴らし、手足の力を抜き、リラックスさせる。そして。
 
 クラウチングスタートの構え。
 
 引き絞られ、放たれる直前の弓の様に。狙い、定め。
 
 猟狗は放たれた。
 
 
 ■  ■  ■
 
 
旧市街を下りダウンタウンへと、流れていく。タクシーが一台。

 「すまないな」ハロルドが言う。
 
 「良いってことよ、これも仕事だかんね」かんら、かんらと笑う。一見するとただのタクシー運転手だが実は違う、この道十年の『逃がし屋』だった。
 ヨークシンを中心に活動し、脛に傷を持つ者から、有力者まで様々な人物を『逃がす』技を持った人材。この手の業界では数少ない信頼できる、四十代のふくよかな男だ。
 
 「この『逃し屋』ハスタックにお任せあれだぜ、」
 
 「ふぁ!? 何ここ?」目が覚めたと思ったら車の後部座席の中、少なからずパニックに陥ったジャーナリスト。
 
 「気が付いたか、俺の名はハロルド、ハンターだ」ライセンスカードを示す。
 
 ハンターライセンスカード、一握りの超人にしか発行されないそれは売れば7代遊んで暮らせるほどの価値を有していると共にそれは信頼と実績の証と言っていい代物だった。
 
 「は、ハンター? 私の依頼した護衛があなた達だって言うの?」
 
 「そうだ、緊急時につき身柄を安全な場所へ退避した」
 
 「そう、ならもう安心して良い訳?」
 
 「まだだ、まだ予断を許さない状況だ、これから安全な場所へ移動する」
 
 「おいおい、ありゃ、なんだ?」
 バックミラーに映し出される人影。走っている。時速60kmは出ているのにも関わらず。追走してくる。
 
 「まさか、奴か」銃を具現化する。吸気を開始する。
 
 「嘘みたい……まだ追ってくるなんて、しつこいにも程があるでしょ!」キティが懐から銃を取り出す。弾倉を装填し撃鉄を上げる。9㎜のグロック。
 
 「想定以上の能力者と判断――――迎撃する」充填完了。窓枠から拳銃を差し出し、撃った。
 
 突然の発砲劇にも、心躍らず。冷静沈着に回避をする。跳ねるように。確実に。
 
 能力者と言えど自動車と競争するには分が悪い、おそらく能力を併用して追撃しているのだと予測、やはりオーラを何かに変化させている。それがわかれば、あるいは。だがそんな時間もない、現状の戦力で対処するしかない。
 
 「この『逃がし屋』に挑もうなんざ十年早い、年季の違いを解らせてやりまさぁ」
 
 息まいてペダルを踏み込み、車体を加速させてゆく80、90、100kmを易々と突破した。だがしかし。違法改造されたエンジンの検討もむなしく、追跡者の追走は鳴りやむことはなく、ぐんぐんとその距離を狭めていく。一体どんな能力を使えば時速100㎞に及ぶ改造タクシーに追いつけるのであろうか。
 
 その秘密は尋常ならざる脚力と同時に 両足に纏わせたオーラに隠されていた。
 
 通常、人間の脚力では自動車に追いつけない。強化系ではないフィンスキーにそんな芸当は不可能なハズだった。
 
 不可能を可能にしているのが念能力。それは変化系に属する能力だった。オーラを強力なバネに変化させる能力! スプリンガルドバネ足ジャック
 
 発条状に変化させたオーラを両脚に巻き付け、走る事によりエネルギーを蓄積、その復元力を利用することにより、爆発的な速力を実現している。
 ビルから飛び降りた際にも、この能力が使われ、落下エネルギーを減衰させることができたのだ。この落下エネルギーはオーラに蓄積され、必要に応じて解放することができる。十分なエネルギーを蓄積できれば、後は自動的に開放することにより、全速力の自動車にも追いつけるほどの加速力を得ることができたのだ。
 
 見えない弾丸にも慣れてきた、要は射線に被らなければいいだけの話、所詮は直線的な攻撃だ。避ければいい。
 
 後は遮二無二に追っかけっこの時間。こうなったら地獄の果てまで追跡できる。久しぶりに良いダメージもらっちまった貸しは利子つけて返してやらねば。
 
 
 


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