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No.43444の一覧
[0] MONSTER × HUNTER × HUNTER〈オリ主〉[融電社](2020/01/17 16:55)
[1] 1.バウンサー[融電社](2020/01/16 16:27)
[2] 2.ドラック・ウォー[融電社](2020/01/16 16:27)
[3] 3.ジャーナリスト・ハンティング[融電社](2020/04/27 18:44)
[4] 4.ファイティング・ナウ[融電社](2020/05/28 22:47)
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[43444] 3.ジャーナリスト・ハンティング
Name: 融電社◆f1c5a480 ID:dddad5af 前を表示する / 次を表示する
Date: 2020/04/27 18:44
 
 ジャーナリスト・ハンティング
 
 
 真実こそが人を救う、それこそが、私の気概である。
 
 ブラインドの下ろされた薄暗い部屋、散らばった書類。散乱する書籍、業務机に載ったノートパソコンにはメモ用紙がびっしりと張られている。
 灰皿には吸い殻が山となり、一部が零れ落ちている。飲み終わったビール缶は散らかし放題。雑多な荷物は段ボール箱に詰められているが、行く先には持っていけない。捨てていくほかない。
 一件の電子メールが私の人生設計を狂わせた。仲間のひとりが決死の思いで託したのは、とある企業から盗みだした極秘資料。
 今頃は、仲間は捕まっていて、洗い浚いの情報を引き出されているだろう。
 世間一般に流せるような代物じゃないのは一目で判った。
 ただの木っ端ジャーナリス風情がもっていても価値はない、それなりの権力者がもっていてこそ役立つ情報だ。
 旅行カバン一個が、私の財産全てである。当座の資金。旅行許可証。海外渡航用ビザ。身分証明書。銃器携帯許可証。護身用の拳銃。なにも無いよりはマシだ、いざとなったら自決用にも使える。
 ここが私の仕事場だった、過去系である。いまは――――説明してる間も惜しい。
 生き延びるのが先決だ。
 私はジャーナリスト。それ相応の覚悟もあってこの仕事を選んだが、こんな事態は想像の埒外だった。
 企業から盗みだした極秘資料。これのおかげでマフィアの殺し屋に狙われるはめになった。
 携帯端末を見入る。そこには自分の顔があった。
 短髪のブロンドと碧眼。白色人種。性別、女。年齢26。家族構成、独身。私の簡易な歴史が綴られている。
 これは懸賞金サイト。人間に懸賞金をつける人間狩り専門の闇サイト。
 大概は犯罪者が載せられるはずだが、私も企業にとっての犯罪者に当てはめられたのだろう。
 私の首に賞金がかかっている。大金が。なんと7000万ジェニー。生きた心地がしない。
 
 そして、追手は、私と同じく賞金首の犯罪者。とびっきりのが来る。悪魔みたいなやつが。私を追ってくる。
 私独自の情報網で手に入れた情報によれば、マフィアに雇われた腕利き、しかも殺人鬼ときてる。私を生かして捕まえる気がないのは一目瞭然だった。
 同じ懸賞金サイトで確認した限りじゃ、殺人974件、暴行1254件しかも全件が無罪放免となっている、完全にアウトロー。私は生きた心地がしなかった。完全に警察司法とタッグを組んでる。極悪人だ。

 携帯電話を片手に私は、腹をくくって、ハンターサイトの緊急呼び出しダイアルをかけた。
 
 もはや頼れる者はハンターだけだ。
 
 
 
 ■  ■  ■
 
 
 
 ――――ここかな?
 
 標的のいるビルディングには30分ほどで着き、手間賃をタクシーの運転手に支払い、車を降りた。
 ビルを見上げる。古びて萎びたなテナントビルディング。15階建て。
 調子は良好。気分は満点。精孔にも異常なし。コキコキと首を鳴らし、体をほぐした。暖機運転は完了。いつでもスクランブル発進できる。
 
 端末を開き、懸賞金サイトで標的を確認する、若い女。ジャーナリスト。名前はエミリア・キッドマン。博識そうな風貌の白色人種。碧眼。独身。強気な目線がチャームポイント。結構かわいい。殺すにゃ惜しい。
 
 いつもだったら、凸撃して、捕まえる処だが、今日の仕事にゃ変わったオマケが付いてきた。とある会社からのご指名だそうだが、『使える』連中なのかね?
 
 ビルディング前に停まったのはライトバン、スライドドアを開き、降りてきたのは、黒スーツにサングラスの男女6人。男4人、女2人。全員が小洒落たトランクケースをひっさげている
 
 最近やり手の新興ビック・ブラザー探偵社より出向してきた6人組。全員が能力者。綺麗な纏。今回の俺の仕事の補佐要員、だが正直、女一人をとっ捕まえるのにこんな人数いるかね?
 
 耳に通信用のインカム。軍隊用の高価な代物。資金力豊富な証明書。
 
 「――――1030状況開始、捕獲行動に移る」全員が全員、同じ服装だからか、きびきびとした口調。軍隊式。
 
 こいつら昆虫みたいだなと、思った。一切の感情が無くなったかのような表情。行動。無機質さ。軍事訓練かなんかを受けているものだと予想。訓練の成果なのかもしれない。
 
 「あんたらが今回の助っ人かい?」
 
 「そうだ、ミスター・フィンスキー」女が答える。硬い口調。
 
 「OK、単刀直入に聞こう、仕事についてだ、あんた等の役割は?」
 
 「我々が後方につく、本人捕獲後の尋問、情報収集、隠蔽工作、死体処理については我々の担当となる、貴方の役割は障害の排除になる」
 
 「なるほど、好き勝手やっていいと?」
 
 「いや、今回はなるべく迅速に方をつける。隠密行動を心がけてくれ」
 
 「オーライ、早く、ね。それが雇い主のご注文か?」
 
 「そうだ、可能な限り速く、雇用主は迅速な解決をお望みだ」
 
 「んで、女は殺しても構わないんだな?」
 
 「いや、生かして捕獲が望ましい、捕獲後の処遇については我らの預かりとなる」
 
 要点を掻い摘めば、こういう事だ。
 
 なるべく静かに、迅速に、女を生かして捕らえろってな、ご注文だ。
 
 まぁ、今日の仕事の〆として軽い仕事だ、隠密行動? たまにはこういう仕事も回ってくるかと、心静まる。
 
 ではでは、仕事の開始だ。
 
 選択肢は3つ。
 
 ① 正面切って、ビルに突っ込む。
 
 ② 裏手から周り、こっそりと。
 
 ③ ド派手に能力を使い、強制確保。
 
 今回は②を選ぶ。天下の往来で能力をさらけ出すのは馬鹿のやることだ。小細工の類は好きじゃないが、必要とあらばなんとかするさ。隠密性ならば自信はある、それ向きの能力は持ってる。使い易いヤツが。
 
 念能力は大ざっぱに言って、二つの系統に分かれる。大小あれど大方はこの方式で分類できる。
 
 軽度な制約で扱いやすい、汎用的、万能性を求めた能力か、複雑な制約と重いリスクで、強力なパワーを発揮するタイプか。俺の場合は前者、ローリスク・ローリターンを追求したシンプル・イズ・ベストな能力。極めて使い易い力。
 
 能力を作り出す醍醐味は、念能力者特有のモノだ。天性の力を自分好みにカスタマイズする、一生に一度限りの贅沢。使い方次第で無能にも、無敵にもなりうるフレシキブルな力。
 
 だが弱点もある、念は肉体から出る精神エネルギー。当然、精孔から噴き出るそれは有限な資源だ。燃費=念費の悪い能力を作った日には、一時間とたたずにガス欠になり、脆い肉体をさらけ出すはめになる。それはすなわち死に繋がる。
 
 よぉく考えて能力を作らにゃ、やり直しは程度にもよるが、難易度は高い。
 
 そして、いかに念費効率の良い能力を作るかがカギとなる。だが事はそう単純じゃない、百人いれば百通りの能力があり、思いがあり、信念がある。生き様も違えば、立場も違う、人生も違う。
 
 カードゲームで言えばスリーペアでハッタリかますか、奇跡のの一手ロイヤルストレートフラッシュを決めるか、持ち札でどんな役を作るかは己の才覚次第。
 
 念は奥が深い、単純かと思えば、極めるには至難の道だ。
 
 さいわい俺には、閃きがあった。自由にして自在な汎用性と実用性を兼ね備えた、力。自分にマッチしたオーダーメイドの力。
 
 念能力の根幹は、総量でもなく、強力な念能力でもなく、想像力だと俺は考える。
 想像力に最強の能力というものは存在しないし、最弱の能力というものもまた存在しえない。要は相性の問題だ、グーはパーに勝てず、パーはチョキに勝てず、チョキはグーに勝てない。シンプルなルールに真理が隠れている。最良なのは勝負毎に最適な、戦法、戦術を繰り出すこと。
 
 そして実戦と実践が勝率を高める、相手の呼吸、経験、練度、総合力。多人数か単独か。武器は使用するか否か。リスクは取るか、安全第一でいくか。経験と勘の良さが試される。
 
 勝負にゃ多少のリスクは付き物。俺の場合は腕っぷしとタフなハートが武器、左ジャブと黄金の右ストレートでKO狙い。
 
 近接戦ならば負ける余地はなし、これが俺の得意分野ってやつ。リングの上では無敵を誇る。
 
 仕事にケリがついたなら、野蛮人の聖地、天空闘技場に足を運ぶのも悪くはない。
 
 そうやって思索のうちに裏口の非常階段を登る、錆びて崩れそうだが意外と丈夫だ。標的は最上階にいるはずだ。
 
 黒スーツ共から渡された通信用インカムを耳に当て、歯切れのいい音声が耳を突く。
 
 『標的は静止中だ、ミスター』
 
 「ビルの外にいるのによく分かるな」
 
 『監視カメラをハッキングした』
 
 なるほど、後方支援ってのは便利なもんだ。現代文明の恩恵はこんな所にも波及している。と思いつつ最上階の扉まで来た。鍵が掛かってやがる、だがしかし、備えあれば憂いなし。とはよく言ったもの。
 
 ドアノブの中心に掌を合わせ『念』を込める。1~2秒立つと、ばずんっと金属と合金がねじ飛ぶ。中心には空洞が出来ている。これは俺特有の技。何をしたかは企業秘密ってやつだ。
 
 ひらけゴマと呟くのと同時にドアが開く、埃っぽい空気が流れ込んでくる。長らく使われていないようだ、長い通路にゃ誰もいない、そうするとお嬢ちゃんは室内にいるって事だ。
 
 「どの部屋にいるかわかるか?」
 
 『207号オフィスだ』
 
 さすが仕事が早い、207号ね。淀んだ空気を切り裂きながら通路を進みつつ、部屋番号が掛かれたプレートに目を移す。
 
 205。
 
 206。
 
 207。ここだ。この部屋だ。当然鍵が掛かったドアの前で行儀よく、ノックを三回した。コン、コン、コンっと。
 
「お迎えに上がりましたよ――――お嬢ちゃん」

 返答はない。当然か。
 しゃあないなと、肩を竦めながら、ドアノブを握った。ばずんっと軽快な音を立ててノブの中心が貫通した。閂を失ったドアを開く、煙草の匂いが充満する室内にそおっと入っていった。
 暗い室内。
 ぱちりと、室内の電灯を付けた。蛍光灯が点滅しつつ付いていくと、中の様子がはっきり分かった。
 
 さほど広くはない、だが狭くもないそんな場所。
 
 書類で散らかし放題の部屋、段ボール箱は山ずみ、引っ越しでもしていたかのような惨状。そんな部屋の角。そこに彼女がいた。旅行鞄を足元に傾けさせて、旅行用のコートに身を包ませていた
 
 此方を見ている。両手で拳銃を構えて。覚悟を決めて。
 
 「――――両手を挙げなさい」俺は両の手を掲げた、なにももっていないというポージング。無手の証。距離は10メートルほど、十分射程内だ。一歩踏み入る。
 
 「……ッ、動かないで、動いたら撃つわ」
 
 虚勢を張る、銃を人に向けたのは初めてだ。だが、目の前の男を人間として扱ってよいか、悩んだ。明らかに堅気の人間ではないのは一目で判った。尋常でない気配を纏っていることも。こいつが私を追ってきた殺人鬼。
 
 ハンターが来るまでの絶望的な時間稼ぎをしなければならなくなった。9mm拳銃だけでどこまで稼げるか。
 
 視線を外さず、白服の男を見入る。武器は持っていないようだ。野獣と向き合うような気分。
 
 「あんたがエミリア・キッドマン?」まずは言葉で一手を指す。動揺を誘う。
 
 「だったら何?」警戒を怠らない。
 
 「なに、簡単な自己紹介さ、俺はフィンスキー、しがない用心棒さ」
 
 「私を殺しにきておいて、今更何を言うの?」
 
 「正確にゃ、生け捕りさ、捕まえるまでは命の保証はするさ」
 
 「その後の保証はないと?」
 
 「1分1秒でも長生きしたいだろう? 大人しくしてりゃ長生きできるさ、何しろ7000万の賞金首だからな」
 
 両手を掲げたまま。また一歩踏み込んだ。と、同時に足元へ銃弾が撃ち込まれる。硝煙の匂いが立ち込める。9㎜口径は能力者といえど当たり所が悪ければ致命傷に成りえる、サヘルタでは18歳で銃の使用・携帯許可が下りるが、女性に限れば15歳から所有できる。現代火器の面目躍如。女子供でも、人が殺せる時代だ。
 
 「私は本気よ」
 
 ヒュウと口ずさむ。剥き出しの生存本能、追い込まれた子猫ちゃんだ、だがしかし猫の扱いなら心得ている。
 
 ゆーっくり近づく、逃げ出さないように。ゆっくり、気付かれないほど遅く。スローペースに。
 
 「残りは14発だな」近づきながら、牽制する。
 
 「何ですって?」
 
 「ベレッタ92、良いチョイスだ。使い易くて装弾数は15発。一発使って、残り14発」
 
 「それが?」
 
 「残り14発で――――俺を殺せるかい?」脅迫めいた脅し、プレッシャーを与える。
 
 「試してみてもいいわ」
 
 見栄を張ったハッタリで返す、汗で手元が滑る。軽く握り直す。銃の最大射程は50m 素人が拳銃で狙い撃てる距離は10mと言われている。十分すぎるほど近いが。素人が狙えば大きく外す事もありうる。ましてや相手は殺人鬼なのだから。油断はしない。
 だが、なんだろう。この感覚は。燃え盛る焚火に近づくような気分、男の周囲だけが、他の世界と隔絶しているような、そんな不可思議な感覚。背筋が凍るような相反する嫌な気分。
 
 「どうした? 気分でも悪そうだな」さらに挑発。さらに一歩。
 
 「一体なんなの……」吐き気と、眩暈がし始める。寒気も。体が男に近づく事を拒否している、銃口がブレる。
 
 トリックにネタは単純明快、念の有無だ。一般人が念能力者と対峙すれば、『纏』で防御されていない生身の肉体は拒絶反応を引き起こす。個人差はあれと、悪意を持った念を差し向ければ、自然とこうなる。
 無力化させるのは簡単な仕事だ。
 
 がくがくと膝が笑いはじめる。体に力が入らない。
 
 俺はさらに近づく、隠しもせずに。堂々と。いつのまにか手で触れ合えるほど近くへと。顔面蒼白な顔は、やはり美人だ。そっと拳銃の銃身を握り込み、手からやさしく外してやる。抵抗らしい抵抗もなく武装解除させた。
 
 蛇のように右手が蠢き、喉元を締め上げる。頸動脈が狭まる。抵抗する間もなく、あっという間に彼女は持ち上げられていた。それも片腕で。反射的に振りほどこうとするが、すさまじい力で握られているのか全く動かすことができなかった。
 
 「…あッ、かッ」僅かな呻き声。無駄な抵抗。血流の低下した脳の酸素不足による気絶。
 
 「これで、一丁上がりだ」
 
 素人の相手は楽でいいが。少々物足りない、これも仕事だ。
 
 ん? こりゃ何だ?
 
 嬢ちゃんの懐の携帯端末からの着信音。興味がわいたので見ることにした。
 
 携帯メールにはこう書かれている。『すぐに行く、時間を稼げ』と。
 
 間に合ってないじゃないか、せせら笑った。お姫様がピンチの時に間に合わないとは、笑わせる。どこのどいつかは知らないが。
 
 そして携帯を懐を戻すと、通信機インカムに出る「終わったぜこっちは、ちゃんと生かして捕まえたぜ」
 
 『ミスター問題が発生した』
 
 「問題? どこに問題があるって?」
 
 『ビルの外――――』
 
 最後まで通信を聞くことはなかった。
 
 人間が窓ガラスをブチ破って、入って来やがったからだ。黒い古びたコートの男が。散乱する硝子。ひん曲がるブラインド・シャッター。舞い飛ぶ書類。新鮮な空気と古びた空気が攪拌される。
 
 ここは15階だぞ? どうやって――――窓の外から? 念能力か?
 
 一瞬の油断。判断の錯綜。不意を突かれた。獲物に夢中になっている隙を突かれた。右手が獲物で塞がっていて、しかも背後を取られた。俺にとって最悪のタイミング。襲撃者にとっては絶好の機会。
 
 ハンターだ、直感した。考える間もないほどに、第六感が叫んだ。
 
 乱入者は、硝子の破片をふりほどきつつ一回転し降り立つ。
 短く刈り上げた頭髪、修行僧めいた皺のよった眉間。暗い眼。身の丈高く、2m近くありそうだった、その身に合うだけの頑健な体を有していた。
 男は、何も言わず。躊躇せず。油断なく。型式不明の黒い拳銃を慣れた所作で標的に向け、引き金を絞りこんだ。玄人の所作だった。
 
 ヴンッ 
 
 瞬間。
 脇腹に見えない鉄球のようなものが着弾、いや、ほんと見えないなんてものじゃない、何もないのだ。銃ならば弾丸が当たっているはずなのに、だ。見えない衝撃が全身を震撼させていく。
 
 嬢ちゃんを取り落とし、後方へと吹き飛ばされるゆらぐ体幹、ゆさぶられる内臓。吹っ飛ばされる肉体。誰も使っていない段ボール箱に吹き飛ばされ埃が舞い上がる。
 「っか……げハッ…」
 むせぶ、着弾の寸前、『凝』が間に合ったのが幸いだが、拳銃弾を想定していたよりも、食らったダメージは大きい。ただの念弾ではないようだが、どんなカラクリだ? 
 
 放出、いや具現化系か? 特殊能力に特化した能力は具現化系の十八番≪オハコ≫ 予想外の攻撃をしてくる事で、対処を困難なものにしている。
 
 段ボールの山がクッションになって助かった。っが。そうも言ってられない。次弾がくる。態勢を立て直せねば。深く深く息を整える、内臓へ酸素を送り込み負傷から立ち直そうと必死だった。後手に回るより他になかった。
 
 次弾がくる。
 
 侵入者は再度、灯の燈っていない瞳で標的を再確認し、三度、引き金を絞り込む。独特の発射音と同時、見えない弾丸が射出される。躊躇は微塵もなかった。
 
 音もなく着弾。
 
 一発目はかろうじて交差した両腕でガードに成功。2発は腹に着弾、が、凝で防御済みだが、態勢が不十分だった所為か、さらに体が吹き飛ぶ。奥へ奥へと押し込まれるコーナーリングに押し込まれる感覚。久しくない感覚だった。
 精度の高い右ストレートを思い浮かべる打撃力。
 
 硝煙の匂いもなく、音もない。見えない弾丸、は非常に厄介だ。弾道が無く。防御しにくい攻撃手段を持っていやがる。しかも広範囲と来てる。
 
 これは相性の問題だ、噛み合っていない、ペースを主導権を握られた戦闘。この攻撃への防御手段はないと見切りを付ける。角へ、角へと押し込まれ。距離を離される、さらに遠くへと。
 
 嵐のような連打が、攻撃が止む。防御の合間から男をのぞき込む。
 
 立ったまま、片手で冷えた拳銃を構えたままの侵入者。標的=フィンスキーはまだ戦闘続行可能な状態。賞金首指定の危険な能力者。簡潔な計算の後、さらなる追撃を加える事が決定した。
 
 「セイフティ及び 非殺傷設定解除」と、呟き。両手で銃を構え直す。強い衝撃を想定した対ショック姿勢。
 
 石と石を擦ればこのような、声が作られるのか、まるで鋼のように堅固な声だった、命令と同時に拳銃が変形する、より大きな破壊を求めるかのように。肥大化し、余分な熱量を放出するべく放熱板を解放。
 
 爆発的なオーラの発露。当たればただでは済まない、一撃。
 
 この時、俺は防御するのをやめ、回避に専念した。強化系でもないかぎりあの一撃は防げそうにない。弾丸は見えないが弾道は直線的なハズだ、つまり銃口から大きく離れることができれば、あの一撃を回避できるということだ、理屈の上では、そうなる。仮に、誘導性能があったとして、その能力は多少減退するはずだ、可能性としては。だから俺は全力で。
 
 回避。
 
 引き金が落ちる。
 空気を震撼させる、爆発的な暴威。見えない弾丸は俺が想定したよりも、大きく、速かった。烈風の如く射出された、それは背後にあったモルタルの壁を貫通した。
 外壁が倒壊。粉塵が舞い飛び、アスベストがまき散らされる。その余波で俺も吹き飛ばされる。
 
 かろうじて回避に成功。ダメージは最小限に抑え込んだが、なんだあの能力、見えない弾に、さらに強力な技。未知数の能力は確実に傷を刻んだ、これぞスリルだ。待ち望んでた鉄火場。血沸き踊る、心高鳴るアドレナリンが傷の痛みをなくし、完全に火が入った状態、すなわち戦闘モードへ入った。時間間隔が短縮される。
 
 態勢を立て直す合間を、男は見逃さなかった。
 
 男は嬢ちゃんと旅行鞄を抱え上げると、今しがた自分が割った窓枠に身を躍らせた、すなわち――――空中へ。空でも飛べるっていうのかい? 
 
 砕けた硝子をさらに踏み砕きつつ、歩み、窓際から下をのぞき込む。
 
 正確には空中じゃなくビルの中ほどの横を『走って』いた。男が。その脇にには同じく黒いコートに身を包んだ、グラマラスな女。らしき人物がいた。
 女が叫ぶ。
 
 「師匠!」「要警護者を確保、撤退する」
 
 ビルの壁面を駆け下りつつ、応答。奴の追撃がないことを確認しつつ。さらに駆ける。コートがビル風でたなびく。
 
  どうやらこの15階まであの男を引き上げた、能力はあの女のおかげらしい。飛行能力? 吸着能力か何かか? こうなっては、手も足も出ない――――所がぎっちょん大間違いだ。
 
 俺も同じくをして、空中に身を投げた。
 
 
 
 ■  ■  ■
 
 
 
 地上へ着くと、女が能力を解除し。そしてジャーナリスの状態を確認した、呼吸、脈拍、正常、気絶状態ではあるが生命への影響なし。首筋に絞められたであろう赤い痣がある程度。問題無し。
 
 そこへ立ちふさがったのが六人組の黒スーツ達。誰もが同じ姿勢、誰もが同じトランクケースを携行している。機械じみた雰囲気。
 
 「ボディガード・ハンターだ、貴君らの行動は業務執行妨害にあたる」と、男がハンターライセンスを掲示。牽制する。
 
 「我々はビッグブラザー探偵社に所属している、ハンター、彼女の身柄は我々が引き受ける、渡せ」
 
 「――――断ると、言ったら?」
 
 「――――その選択肢は、存在しない」
 
 言うのと同時。六人が同じ動作を行った。
 
 トランクケースから取り出したのは軍用のサブマシンガン、P90、5.7㎜×28、特殊弾を使用する、装弾数50発 高価なのがネックで一般には普及していない代物。
 その弾丸は貫通力が高くレベルⅢ級防弾チョッキすら貫通するという。念能力者にも効果は十分に発揮される、一部の強化系能力者を除けばその威力は、平均レベルの能力者を1弾倉で完封できるほどだ。
 
 空になったトランクケースを放り出しながら、合計6丁の銃口が向けられ、即座に発砲した。即断である。周囲に空薬莢がまき散らされる。乾いた銃声が響く。安物でない高価な弾丸は油断も、驕りも、躊躇もなく発射され、火薬エネルギーの恩恵を存分に受け、それを推進力に変え、突き進み、標的に到達しようとしていた。
 現代兵器は誰が撃っても、打撃力を効率よく射出する。素人が使っても、それなりの働きをするし、玄人が使えば抜群の働きをする。
 要は、使い手の問題で、強くもなり、弱くもなりうる。安定した成果を出すにはそれなりの訓練が必要だが、この六人組はその訓練を受けている部類に入っていた。反動で身を崩すこともなければ、弾道がブレて外す事もなかったからだ。さらに言えば標的は5メートルも離れていなかった。結果を言えば、的を外す理由は何ひとつなかった
 なのにだ。
 不思議なことに二人には一発も当たらなかった、弾丸が逸れているかのように、彼女が廻らした4メートル程の『円』の外周で弾丸が逸れていく。
 
 「なんて連中!、いきなり撃つだなんて!」
 
 理屈は単純、彼女は念能力者だからだ。矛と盾。攻撃役と防御役の分担を担う、盾の役割。
 
 防御態勢を維持しながら、女ハンター=キティ・アリシントンは叫ぶ。念能力の発露はそれ相応のエネルギーを使う。このまま連射が続けばジリ貧なのは明白だった。
 
 「承知した」銃に残った最後の一発を放った。
 
 男=ハンターは瞬時に適応した。間断のない銃撃の雨の中、攻撃役の自分が行動しなくてはならない、長年の訓練の成果として条件付けされた思考がはじき出した、結果。
 右手に具現化された拳銃を六人組の中央へと向ける、非殺傷に設定された見えない弾丸は1名に直撃し。他2名を巻き込んで 吹き飛ばした。
 
 「吸気開始≪リロード≫」
 
 拳銃後部の吸入口から大量の空気を吸収、拳銃内部で圧縮し、弾丸を形成する。具現化された拳銃の能力は、空気を吸入し圧縮そして、放出するという、単純な能力だった。弾丸は無尽蔵に存在する、空気。水中では使用不可能な欠点が存在した。
 
 BLAME≪エア・ガン≫具現化系、殺傷用と非殺傷用とを切り替えることのできる能力だった。装弾数6発 射撃後にはチャージが必要、そのリスクの分、高い打撃力を実現している。
 
 吸気には6秒掛かる、戦闘中には気が遠くなるほど長く感じられる秒数だった。しかもセイフティの解除や設定を口に出して、宣言しなければならないという制約があった。能力としては使いづらくなったが、その分、出力は上昇した。
 
 その吸気の合間にも銃撃は雨のように降り注いでいた。防御役の相方がいなければ。ハチの巣にされているはずだったが、難なくやり過ごした。
 
 6秒後。
 
 「セイフティ解除、非殺傷設定」
 
 弾幕の合間を潜り抜けるように、見えない弾丸が黒スーツ達に直撃した。一人が吹き飛ばさせれビルの外壁に叩きつけられる。
 
 銃器を扱うハンターは少ない、携行弾数が限られ、何よりも銃声がするのが何よりの欠点だからだ。隠密活動には全く向いていない。
 だがその短所に目をつぶれば、自身の非力さを補うのに銃器が一番火力が高く、手っ取り早い方法のひとつだからだ。非力であっても数と物量さえあれば、非念能力者であっても能力者とでも戦う事も可能だ。だが、彼らは能力者であるにも関わらず銃器を使用している、これが何を表すのか?
 
 「我々に歯向かうのか、ハンター風情が」男の黒服が、呟く。連射の手は止めずに。雨を降らせる、弾丸の雨を。
 
 「俺はハンター、任務を全うするのみだ」胴体に狙いを付け、撃つ。一発あれば事足りた。
 
 残り一人というところで、雨が止む。弾倉が空になった煙立つ銃を向けて、女の黒服が、言った。
 
 「我々の役割は、時間稼ぎ」
 
 「後はフィンスキー、彼の役割」
 
 上空から、誰かが降ってきた。白服の男。駐車していたライトバンの上部にぶつかり、激しく損傷――――はしなかった。その手前で減速、15階から飛び降りたとは思えないほど軽やかに降り立った。
 
 服についた埃を払いつつ、襟を正し。構えをとる闘争の構え、ファイティングポーズ。
 
 「第二ラウンドだぜ、ハンターさんよ?」
 
 「なるほど、ブシドラ=アンビシャスを殺せたのはただの偶然ではないようだな」それなりの実力があり、強い。実感した。近接戦では、向こうが上手。接近を許さなければ勝機はある。
 
 
 
 


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