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No.43431の一覧
[0] 小旅行[ドネル=ケバブ提督](2019/12/27 23:45)
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[43431] 小旅行
Name: ドネル=ケバブ提督◆e9bd7a34 ID:84954ba9
Date: 2019/12/27 23:45
小旅行



プルルル。

傍らの受話器が鳴った。

「チェックアウトの時間ですが‥‥‥」



逃げるように、ホテルを飛び出した。

辺りを見渡す。

高層の冷たい建物たちが、僕を見下ろしていた。

とにかく、落ち着くまで歩くことにした。




昨日まで一緒にいた仲間たちは、すでに出掛けているようだった。

僕は一人、人ごみの中をさまよっていた。

時間は既に、昼過ぎだった。

そのうち、右も左もわからなくなった僕は、ちょうどいいへりにへたりこんだ。




「ねぇ、君はどこから来たの?」

異郷の子が話しかけてきた。

ぐぅ。

僕が返事をするよりも先に、お腹が鳴った。

「‥‥‥お腹がすいているの?」

僕は頷いた。

「なら、付いてきなよ」

その子は僕の手を引いた。



僕はその子に手を引かれるがまま、とある喫茶店にたどり着いた。

「美味しいよね、ここのパンケーキ」

僕は、うん、と答えた。

「顔が赤くなってるよ。初めてかな? こういうの」

目を逸らすと、道行く人たちが大勢いた。

「大丈夫、誰も見てないよ」

その子は、パンケーキを切り分けた。

「‥‥‥ここには、旅行か何かで来たの?」

僕は、この都会にゼミの旅行で来た事、寝坊して、みんなとはぐれた事をその子に伝えた。

「へぇ、ドジだね」

その子は、切り分けたパンケーキを頬張った。

「君は、どっか行きたいところとかあるの?」

僕は首を傾げて、考えるフリをした。

「‥‥‥じゃあさ、一緒に見て回らない? せっかく来たんだし」

僕はまた、首を傾げて、考えるフリをした。




僕たちは二人、地下を歩いた。

人通りの激しさは、地上も地下も関係なかった。

気を抜けば、はぐれる気がした。

「手、繋いでてね」

なんだか、子供扱いされた気がした。

僕は、その子の手を握った。

「どこか、行きたいところはある?」

遠くを見ていると、行列ができていた。

僕はその行列を指差して、あそこへ行きたい、と答えた。

「あー、あそこのラーメンは美味しいらしいよ」

僕は、さっきパンケーキを食べたことを思い出し、指を下げた。

その子は笑った。




僕たちは、観光地に行くことにした。

他の子たちとも合流できないかどうか、考えたのだ。

地下鉄を3つ跨いで、僕らはその都市のうち最も高い鉄塔にたどり着いた。

「大きいね、タワー」

その子は塔を見上げた。

何度も見ているんじゃないの、と聞いてみた。

「一人で行っても、楽しくないよ」、と返ってきた。

今は楽しいの、と聞いてみた。

彼女は、うん、と頷いた。



塔を登る頃には、僕はその子の顔をまともに見れなくなってきていた。

「どうしたの?」、とその子は聞いてくる。

しかし、胸の内を明かすには、何かが足りなかった。

その何かとは、勇気だったのかもしれないし、単純に、自信なのかもしれない。

「行こうよ」

その子は、申し訳なさそうにしている僕の手を、展望台へ導いた。



「すごいね」

その子は言った。

展望台は、360度、都市の風景を網羅していた。

けれど、僕の気持ちは風景には向いていなかった。

「どうしたの、見ようよ」

僕は、とっさに、高所恐怖症なんだ、と言った。

「そうだったの?」

その子は、申し訳なさそうに言った。

その後は、その子は楽しそうに、風景を眺めていた。

僕はただ、その子の横顔を見ていた。



日が、落ちてきた。

時間になれば、集合場所に戻らなければならない。

僕たちは、人通りのない路地裏を歩いていた。

「楽しかったね」

後ろから、その子の声が聞こえた。

僕は、頷いた。

「‥‥‥そう、よかった」

それきり、僕らは黙って集合場所へ向かうことにした。



駅を跨ぐ度、窓の外は暗くなっていく。

電車に揺られながら、僕たちは何も話さなかった。

夜になる頃、電車は最後の駅にたどり着いた。

「‥‥‥じゃあ、またね」

僕はその子の顔も見ず、立ち上がり、電車を降りた。

駅を出れば、集合場所は目と鼻の先だ。

ホームを歩く僕のそばで、電車が動き出す音がした。

電車は、次の駅へ行ってしまっていた。

その瞬間、僕はあの子の名前を聞いていなかった事を思い出した。

僕は、名残惜しそうに、遠ざかっていく電車を見ていた。

諦めた僕は、ようやく改札へ向かう決心がついたのか、また歩き始めた。




集合場所には、もう人が集まっていた。

「おう、待ってたよ」

先生が、僕を見てそう言った。

周りの学生は、自分たちの行った場所の話で盛り上がっていた。

「では、行こう」

先生は旗を上げ、学生たちを引き連れた。

「お前、一人でどこ行ってたんだ?」

知り合いの一人が、僕に聞いてきた。

観光だよ、と答えた。

「へぇ、楽しかったか?」

知り合いは、にやにやしながら、もう一度聞いてきた。

「ああ、とても‥‥‥」

僕は、鉄塔で見た、あの子の横顔を思い出していた。



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