シンエバンゲリオン見てきました。頑張れサクラちゃん。
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ミサトとリツコが松代で爆発に巻き込まれ消息不明のため、発令所のオペレーターの後ろで冬月が指令を出していた。使徒やEVAがらみだと電波障害が起こることが多いが、今回も例外では無く松代周辺からは全く情報が入ってこない。有線や光学観測は問題が無い事が多いが、辺りのメタルケーブルはEMPで吹っ飛んだため使えないし、光ファイバーも熱により分断している。航空機は気象状態が悪く近寄れない。頼みの綱は地上部隊からの目視と衛星軌道上からの観測だ。協定を結んでいるWWRのTB5も観測に参加しているが上手くいかない。使徒やEVAはロジックを超えたところにいるからだ。
EVAザクラ 新劇場版
破 第十四話
犠牲
「被害状況は」
「不明です。仮設ケージが爆心地の模様。地上管理施設の倒壊を確認」
シゲルの後ろに陣取った冬月はディスプレイをのぞき込みつつ確認をする。
「救助および第三部隊を直ちに派遣。戦自が介入する前に全て処理しろ」
「了解」
冬月の指令にシゲルがすぐさま対応する。シゲルの手が霞むようにキーボードを叩いている。
「事故現場南西に未確認移動物体を発見。パターンオレンジ。使徒とは確認できません」
マコトの声にもいつもと違う緊張がある。現場指揮官と技術担当のトップがいないのだ。緊張もする。丁度その時ゲンドウの席が床下からせり上がってきて、発令所の司令席に収まった。
「第一種戦闘配置」
ゲンドウの声に緊張はない。
「碇」
ゲンドウの声にやっと気がついたのか冬月が後ろをちらっと見た。
「総員、第一種戦闘配置だ。修復中の零号機は待機。初号機はダミープラグに換装後、直ちに出撃させろ」
冬月には目をくれずモニターの状況を見つめ続けながらゲンドウが言った。
初号機は第三新東京市を少し外れた位置に待機していた。松代の方を向いている。地上は退避が済んだのか意外と静かだ。虫の音も聞こえる。ただ支援部隊の移動のためのエンジン音が聞こえてくる。初号機の周りはネルフの地上部隊、航空部隊が待機している。ただ一機だけWWRの機体が混じっていた。TBNが初号機の後方五百メートル、高さは初号機の頭の辺りでホバリングしている。パイロットはアオイ、後部座席にサクラが乗っている。ヒカリやホノカやナギサは他のTBメカで住民の退避などを手伝っている。
シンジは初号機のエントリープラグの中でずっとモニターを睨んでいた。モニターには初号機の周辺と前方を拡大した映像が映っている。
「あの、ミサトさんやアスカ達は」
初号機は山を遮蔽物にするようにしてうずくまっていた。
「現在全力を挙げて救出作業中だ、心配ない」
シゲルの声がエントリープラグに響いた。
「でも他のEVAもミサトさんもいなくて、僕一人じゃどうしようもないですよ」
「作戦系統に問題は無い。今は碇司令が直接指揮を取ってるよ」
「父さんが」
一方WWRのTB1は長野県上空へ直接観測に来ていた。使徒やEVAがらみの事故はある意味大規模自然災害とも言える。TB1は協定に基づき偵察任務を引き受けている。世界最速最高出力のVTOLで、元々WWRの偵察用の機体でもあるため適任だ。ネルフとの技術協力によりATFの検出機器なども搭載している。
「これは」
細面のパイロット、マリエルはTB1の観察用の窓から下をみた。使徒やEVAだと可視光や赤外線以外の波長の電磁波は乱れる事が多く、目視が頼りになる。
「黒いEVA」
TB1からの画像はレーザー通信で上空のTB5に送られそこから電波でネルフのMAGIに送られた。
「東御付近の映像TB1から届きました。主モニターに回します」
シゲルが主モニターに転送されてきた映像を映した。発令所で一瞬声が上がった。
「やはりこれか」
「活動停止信号を発信。エントリープラグを強制射出」
冬月のつぶやきに続いて、ゲンドウの指示が出された。だがマコトが実行した射出命令は無効になった。EVA三号機のエントリープラグは絡みついた粘液状の物に遮られて射出されなかった。
「ダメです。停止信号およびプラグ排出コード、認識しません」。
「エントリープラグ周辺にコアらしき侵食部位を確認」
オペレーター達の報告が上がるが全てネガティブなものばかりだ。
「分析パターン出ました。青です」
マコトの叫びはとどめと言える物だった。
「EVA三号機は、現時刻を持って破棄。監視対象物を第九使徒と識別する」
オペレータ達の声と違い、ゲンドウの声は落ち着いた低い物だった。
「目標、接近」
初号機のエントリープラグ内は静かだ。発令所のざわめきなどはキャンセリングされて伝わってこない。また、シンジを動揺させないためか、余分な映像もモニターに映らない。シンジはモニター内の光学望遠の映像を見る。何か異動する物体が映っているが詳細がわからない。その異動物体に地上部隊から砲撃、航空部隊からミサイルなどが集中するが特に歩みは変わらない。
「映像出します」
そこにTB1からの映像が、エントリープラグのモニターに映し出された。
「まさか、使徒、これが使徒ですか」
ATFのせいか少し揺らいだ映像だが、そこには黒いEVAが映っていた。
「そうだ。目標だ」
うわずったシンジの声と違いゲンドウの声は静かだった。
「目標って、これは、EVAじゃないか、そんな」
地上部隊や航空部隊の激しい攻撃も意に介さず、三号機が初号機に真っ正面から近づいてくる。
「目標は接近中だ。おまえが倒せ」
ゲンドウの声にシンジは初号機を思わす立ち上がらせた。とは言ってもそれ以上は動かず立ちすくんでいる。
「でも、目標って言ったって、アスカが乗ってるんじゃ」
手が震えているが動かない。初号機同様シンジは動かない。動けない。
「アスカが」
動かない初号機と対照的に三号機は少しずつ距離を詰めてくる。うなり声を上げながらだ。夕陽を背にした三号機はその黒さがよけい目立った。二百メートルほどまで来るとそこで止まった。シンジはその様子をみて一瞬手の震えが止まった。次の瞬間三号機は雄叫びをあげた。同時に重力を無視したように高く飛び上った。空中で慣性をまたもや無視して体をひねると、そのまま初号機に跳び蹴りをはなつ。胴体部分に蹴りを食らって初号機は吹っ飛ぶ。三号機は反動で後ろに宙返りをすると四つ足で着地する。
その時初号機のエントリープラグ内のモニターに三号機のエントリープラグの射出口が映し出された。エントリープラグは粘液状の物に遮られて、射出できないままだ。
「エントリープラグ、やっぱり乗ってるんだ」
反射的に初号機を立ち上がらせたシンジだが、棒立ちになってしまう。三号機は咆哮を上げながら初号機の首につかみかかった。そのまま持ち上げる。その手はいきなり伸びて初号機を山の中腹にたたきつけた。初号機は首に掛かった手を掴みなんとかもぎ離した。だが今度は三号機の背中から人の手のような物が二本生え初号機の首を絞め始めた。
「装甲部頚椎付近に侵食部位発生」
「第六千二百層までの汚染を確認」
マヤの報告はどんどん深刻な物に成っていく。
「やはり侵食タイプか、厄介だな」
モニターを見て冬月は呟いた。
そのころTB1とTBNは千メートル程離れた場所でホバリングをして待機していた。WWRとネルフの協定でも戦闘中のデーターはよこさない事になっている。ただ、純粋な観測能力という点ではWWRの方が上だ。おかげで初号機と三号機の状態もほとんど判っていた。
「なんでやっつけないのよ、シンジ君は」
「きっとアスカが乗っているから」
TBNのパイロットのアオイはWWR一の武闘派で喧嘩っ早い。WWRで土門を除けば素手の喧嘩では三番目に強いと言われている。一番はセリカで二番はアヤカだ。そんな訳でやられる一方のシンジがじれったいようだ。
「じゃアスカちゃんの乗っているエントリープラグ引っこ抜けばいいじゃない。そのぐらい出来るでしょ」
「それならきっと出来る。イオス、初号機の通信に割り込める」
「出来ます」
ほんの一秒またされた。
「どうぞ」
次の瞬間、TBNの操縦席と後部座席のモニターに苦痛の表情を浮かべたシンジの顔が写った。初号機とシンクロしているため、初号機が絞められている首の辺りが指の跡があり凹んでいる。いきなり割り込んだTBNの通信に協定違反だと叫ぶマコトの声がモニター越しに微かに聞こえる。
「シンジ君、アスカの乗っているエントリープラグを引き抜いて投げて。そうしたら絶対安全な所に運ぶから。救助は本職よ」
サクラの叫び声に目が霞みかかっていたシンジの表情が変わった。
「たすけられる」
希望が力となった。意思の力がそのまま初号機の力になる。初号機は掴んでいた三号機の両腕を握りつぶした。三号機も痛覚はあるのか一瞬首に掛かった手の力が緩む。初号機はその瞬間首に掛かった手を払いのけた。素早く立ち上がると三号機に組み付いた。正確には三号機の肩に噛みついた。左手を首に絡めて、右手を三号機のエントリープラグに伸ばす。一瞬三号機のATFの抵抗があったが中和してエントリープラグを掴んだ。ATFが中和されているせいか簡単に引き抜けた。初号機は思い切り高くエントリープラグを放り上げた。エントリープラグの確保だけを考えていたシンジは他は見ていなかった。次の瞬間初号機の側頭部を三号機の手が叩き、シンクロしていたシンジは気絶した。
一方TB1とTBNはアスカの救助の準備をしていた。エントリープラグは軽量化と剛性を上げるため非鉄金属を使っている。そのせいでマグネットキャッチャーは使えない。その為TB1のマニピュレーターで直接掴むしかない。本当は小回りのきくTBNの脚部が使えればいいが、エントリープラグを掴むほど大きくないからだ。
「サクラがフロートの魔法で浮かせるからマリエルさん捕まえて」
「了解」
二機は一気に初号機と三号機に近づいた。大気圏内の加速では世界で一番と二番の機体のため瞬時だ。次の瞬間エントリープラグがほぼ真上に放り上げられた。凄い勢いで上昇していく。十秒ほど上昇をつづけた。TBNとTB1はほぼその真横を同じ速度で上昇をしていた。
「フロート!!」
最大高度に達したあとは本来は落下するはずのエントリープラグだが、サクラの魔法でほんの五秒ほどその場に浮遊した。それだけ時間があればTB1のマニピュレーターで捕獲できる。TB1のマリエルはエントリープラグを捕獲するとネルフの発令所との回線を開いた。
「こちらWWRのTB1、EVA三号機のエントリープラグを確保。どこに運べばいいか指示をお願い」
そしてダミープラグの力が解放されて、初号機は紫の獣となり三号機を蹂躙、破壊した。
ミサトが目を覚ましたのはその三時間後だった。目を覚ますと目の前にいつもの無精ひげがいた。辺りを見回す。どうやら医療用車両の中らしい。確かチルドレンや要人用にそんな車両があったはずとミサトはぼんやりと考えた。ひげ面の後ろには看護師らしい女性が控えていた。
「生きてる」
不思議そうにミサトは呟いた。左手に違和感がある。動かしてみる。何か変だ。左手を目の前に持ってきた。二の腕から先が無かった。
「加持」
「残念ながら、建物の下敷きになって潰れたよ」
「そう。リツコは?」
「心配ない。君より軽傷だ。腕はテルルの手を直ぐに付けてくれるそうだ」
「それはいいわ、どうでも。アスカは?」
「EVA三号機は使徒として処理された。初号機にね。アスカはWWRが協力してくれたおかげでなんとか取り戻せた。ただ使徒の浸蝕、汚染の可能性があるので低温冬眠状態で隔離処置になっている」
「そう。とりあえず生きてはいるのね」
「ああ。ただ元のアスカかどうかは判らないってりっちゃんが言ってた」
「そう。ありがとう、来てくれて」
「この前のお礼さ」
三日後ミサトは病院のベッドにいた。あの後看護師に鎮静剤を与えられて眠り込んだ。何度か目を覚ましたが、その度鎮静剤で眠らされた。ベットで気がつくと、横でシンジが椅子に座って眠り込んでいた。シンジの横には猫の姿のアンズが床で寝ている。ミサトがシンジを見つめると視線を感じたのか、シンジが目を覚ました。シンジの後ろに看護師が控えているが、何も言わず二人を見ている。
「シンジ君」
「お別れを言おうと思って」
「お別れ?」
「そう。何もかも嫌になったから」
「何もかも」
「父さんは、アスカを助けようともせず、殺せって言ったんだ」
シンジの声は静かだった。
「昨日、気がついたんだ。ここは嫌な世界だって。使徒やEVAがいて人が死ぬ世界。人が人を殺す世界。嫌なんだ」
「シンジ君、それが全てでは無いわ」
「どうでもいいです。全部じゃ無くても。もう人が嫌いなんです。僕が人が嫌いになったせいかな。姉さん猫の姿のままなんです。姉さんが支えだったのに」
シンジは立ち上がるとアンズを抱き上げた。アンズは眠り続けていた。
「もう父さんにも別れを告げたから。初号機には乗らないって。引き留めもされなかった。初号機に乗らない僕は意味が無いようだから」
「そんな事は無いわ」
ミサトの声も全く気にせず、病室の出口にシンジは向かう。
「ミサトさんにはお世話になりました。もう、会わないと思います。みんなに挨拶もしないしするつもりも無いから、ミサトさんからみんなに伝えてください。ではさようなら」
「シンジ君」
ミサトの声を遮るように、ドアを開けたシンジは病室を出て行った。ミサトは思わず身を起こしたが手と腹部の痛みでまたベッドに倒れ込んだ。
「アスカの細胞組織の侵食跡は消えたものの、使徒による精神汚染の可能性も否定できない。このまま隔離するしかないわね」
ミサトは控えていた看護師に鎮静剤を与えられてまた眠り込んでしまった。何かの気配で目を覚ました。リツコが来ていた。とりあえず現状の説明を受けていた。
「そう。処置はしないか。貴重なサンプルを無駄にするリツコじゃ無いわね」
「そういうこと。判ってるじゃない」
「付き合い長いから」
リツコはベッドの横の椅子にすわっていた。足を組む。
「で、シンジ君はどうするつもり?貴方の担当よ」
「どうって言われてもね。私はシンジ君の自由意志を尊重するわ」
「無責任ね。初号機の運用、ダミープラグになるわよ。貴方の嫌いな」
「そうね。でもシンジ君、アンズちゃんのことぐらいしか興味が無い様子だった。多分説得しても無駄」
「貴方こそ無駄に決断力があるわね。少しは引き留めてみたら」
「元々向いていないのを無理にやらせていたわ。もう限界ね」
「そう。まあそうね」
リツコは椅子から立ち上がった。
「シンジ君は誰にも言わずに街を出て行くつもりよ。引き留める人もいないしね」
「そう言えばレイはどうだった?引き留めたのかしら」
「いいえ。気にしているのかいないのか。もしかしたらシンジ君が街を去れば安全になるぐらいは考えているかもね」
「そう、かもね」
「まあ、ともかくミサトは体を休めなさい。シンジ君の事は加持君に伝えておいたから」
リツコは言いたい事を言い終わると病室の出口に向かった。
「分かってると思うが、ネルフの登録を抹消されても監視は続くし、行動にはかなりの制限がつくよ」
「そうですか、もうどうでもいいです。姉さんさえいれば」
シンジは小さなリュックを背負い、手にアンズを抱いていた。白い毛並みは変わらないアンズだが、覇気が無い。一気に歳をとったように見える。アンズは猫としてなら十八歳ともう老猫だ。本来の姿に戻っただけかもしれない。シンジはアンズを優しく抱いて撫でている。それを見る加持の表情は何時もと変わらない。
「俺は奇麗事は言わない。葛城と違って似合わないからな。アンズちゃん、寿命が近いんだろ。ネルフに任せてくれれば寿命は延ばせる。少なくとも楽に過ごせる。どうだい?」
「いいです。それは姉さんが望まないから。姉さんも僕も一緒にいたいだけだから。静かな所で」
「そうかい。じゃ引き留めないよ」
ミサトのマンションの玄関での立ち話も終わりに近い。シンジは出て行こうとした。
「これだけ渡しとく」
加持はポケットから少し厚めの腕時計を取り出しシンジのズボンのポケットに捻じ込んだ。
「WWRのソノミさんからのプレゼントだ。腕時計としても使えるが通信機にもなるそうだ。あの人は子供たち全員のお母さんを自認しているからな。まあ腕時計として餞別代わりに貰っておけよ」
「そう」
特に嵩張る物でも無し、シンジはポケットに入れておくことにした。
「ま、達者でな。アンズちゃんも」
加持はアンズの喉の下を軽く撫でる。アンズは少し目を開いたが直ぐにまた眠った。
「さようなら」
シンジはキチンと挨拶をすると玄関を出て行った。
一人と一匹はモノレールに乗り込んだ。他には誰もいない。おかげでアンズを撫でていられる。一応ペットキャリアーはリュックに入れて持ってきているが、アンズをそんな物に入れたくない。アンズは静かにシンジに撫でられている。ほとんど身動きしない。時々息をしているのかと確認をしてしまう。一晩ですっかり老描に成ってしまった。
「次は上強羅、上強羅です。お出口は、左側です」
乗降の案内が流れた瞬間だった。辺りが赤く染まり緊急のアナウンスが流れた。
「ただいま日本政府より非常事態宣言が発令されました。緊急条例に基づき、当列車は最寄の退避ステーションに停車いたします。降車後はすみやかに指定ホールの退避用ラインにご乗車ください」
「使徒だ」
シンジはアンズを撫でる手を止め呟いた。
「へっくしょんっ。あーさむ」
親父くさいくしゃみをしたのは、一応美少女と言えるめがねの少女だった。すらりとした長身に長い金髪が栄えている。ただその金髪は染めた物かもしれない。髪の根本が黒くなっている。以前シンジが屋上にいたとき空から降ってきた少女だ。少女はEVAに乗るためゴンドラで移動中だ。吹きさらしでピンクのプラグスーツに着替えている。くしゃみも出るはずだ。少女がプラグスーツの腕のトリガーを押すと、余分な空気が抜け体に密着した。
「さすが新型、胸もぴったりで、気持ちいい、マユミ感激。ってマユミって誰?私はマリよ」
マリは目を寄せて頭を捻る。腕を組んで考える。
「わかんない。ま、細かい事は気にしないで、行ってみよう」
地上では、ネルフの部隊による使徒への攻撃が始まっていた。使徒はダルマのような胴体から微かに両足の出っ張りがふくれて、両手の位置には何か折り畳まれているような物体が付き、骸骨を縦に引き延ばした様な顔らしき物が付いている。時々目から荷電粒子砲のような光が飛び出てネルフの部隊を蒸発させていた。
「目標は」
冬月の声がシゲルにとぶ。発令所は地上部隊からの報告で怒声が飛び回っている。
「現在も進行中です。旧小田原防衛線を突破されました」
使徒の目がひときわ明るくきらめいた。使徒の前方にあった兵装ビル、地上部隊は一気に蒸発した。その爆風に辺りが激しく揺れた。
「ここまで衝撃波が届くなんてただ事じゃないわ」
ミサトはゴンドラの中でその揺れに襲われ、ゴンドラの壁に倒れ込む。思わず左手で体を押さえようとして、バランスを崩した。ゴンドラのベンチに座り込む。
「ちくしょう」
切断された左腕の先端を忌々しげにみつめた。司令所まではまだ少しかかるここで焦ってもしょうがない。ベンチでヘッドギアのスピーカーから流れてくる報告に耳を傾けた。
「第四地区に直撃。損害不明」
「地表全装甲システム融解」
「二十四層すべての特殊装甲が、一撃で」
いつも驚いているマコトではあるが、被害状況を確認すると声が引きつった。
「総力戦よ。要塞都市すべての迎撃設備を特化運用。わずかでもいい、食い止めて」
ミサトが指示を出したちょうどその時、ミサトの乗ったゴンドラの反対側の車線をEVA二号機を載せたキャリアーが上がっていくのが見えた。
「EVA二号機。誰が乗っているの」
「不明です。こちらからの出撃命令は出ていません」
「パイロットは、シンジ君の言っていたあの子かしら」
シンジが以前空から落ちてきた少女の事を言っていたのを思い出す。LCLの臭いが判るシンジと同じ年頃の少女というだけで怪しい。だがアスカがいない今ではありがたい。
「まあ、いいわ」
「NN誘導弾の使用を許可する」
マコトが地上部隊に指示を出したところでミサトが発令所に駆け込んできた。オペレーターたちに怒鳴りつける。
「EVAによる地上迎撃では間に合わないわ。ユーロに協力を要請。二号機をジオフロントに配備して。零号機は」
「左腕を応急処置中。かろうじて出せます」
マヤが怒鳴り返す。
「完了次第、二号機の援護に回して。単独専行は危険だわ」
ミサトはマコトの後ろに陣取った。
「了解」
「初号機は」
「現在、ダミーシステムで起動準備中」
マヤの後ろにいたリツコが静かな通る声で答えた。
「作業、急いで」
「姉さん、狭いけどごめんね」
シンジはリュックを腹の前にまわしている。アンズはリュックの中のペットキャリアーに入れている。避難の際に怪我をさせないようにだ。アンズは時々微かに鳴き声を上げている。シンジに生きているのを伝えているのかもしれない。地下シェルターに退避するための専用のモノレールは今市民でいっぱいだ。シンジはモノレールの端の方で座り込んで、アンズに声をかけている。周囲の市民は使徒襲来の恐怖で興奮しているが、シンジはアンズにしか興味が無いのだろう。抱えたリュックをじっと見ているだけだ。
「市街地の方は」
「ここはジオフロントのシェルターだ。この世で一番安全だよ」
安全と言う言葉に反応したのか、シンジは少し上を向いた。だが直ぐ視線を降ろした。
「安全なんて」
「にゃ」
シンジの声を聞いたせいかアンズが鳴いた。シンジはリュックを強く抱きしめてまた下を向いた。
その頃、発令所は混乱の極地となっていた。あらゆる警報が鳴り響いている。
「目標、ジオフロント内に進入」
「EVA二号機、会敵します」
ミサトはマコトとシゲルの報告に顔色一つ変えない。マコトの操作パネルのデーターをじっと見ている。
「二号機との通信は」
「相互リンクがカットされています。こちらからは」
「そう、一人でやりたいわけね」
二号機がジオフロントへ飛び出た。マリは二号機の操縦系を確かめる。問題ない様だ。落ち着くためか深呼吸をする。
「いい匂い。他人の匂いのするEVAも悪くない。第五次防衛線を早くも突破。速攻で片づけないと本部がぱーじゃん」
二号機は両手で持った二丁パレットガンを上から舞い降りてくる使徒に向かって連射する。だがATFに遮られて、全く効果を上げていない。二号機のATFでは中和しきれないようで、ATFの衝撃波面は二号機の近くにある。
「ATFが強すぎる。こっからじゃ埒があかないじゃん」
二号機はパレットガンを後ろに捨てた。付近の武装コンテナのペダルスイッチを足で踏みつけると別の武器が飛び出てきた。それはレシプロソーに似ている。持ち手の先に細い鋭い歯が付いている。武器は二号機の手に収まった。
「これで行くか」
丁度その頃使徒はジオフロントの地表面に舞い降りた。二号機はダッシュして高く舞い上がる。ATFの反動も使い急速に落下し使徒の頭に武器の刃先を突き立てた。だが使徒のATFに遮られる。
「ゼロ距離ならば」
手の武器は囮らしい。二号機は肩に内蔵したニードルガンを連射した。だがその攻撃も鉄壁の使徒のATFに防がれ、おまけに急拡大したATFの反動で二号機も吹き飛ばされてしまった。
「いて~」
つい頭を押さえてしまったマリだがそれもしょうがない。二号機は地上設備の残骸に頭からたたきつけられたからだ。だがそうもしていられない。使徒は二号機の方を向いた。
「やばっ」
二号機がバク転で退避すると、そこに使徒の荷電粒子砲の一撃が来た。なんとか攻撃を回避できた。
シン・エバンゲリオンを見てきたが、内容を完全に理解できた人はいるのだろうか?サクラと名が付く少女は切れると怖いのはどこでも同じなのか?
次回「EVAザクラ新劇場版 破 第十五話」
さぁて、この次もサービス、サービス!
つづく