ひらり、ひらりと桜の花びらが風に揺られ舞い落ちる、その光景を横目に桜色の髪をした一人の少女が風情ある建物の縁側でお茶を啜る、彼女の視界には桜は無く、二本の刀を携え木の棒で素振りをする白髪に黒のカチューシャを付けた少女が居た。
「幽々子、調子はどう?」
鍛錬をする少女を眺めのんびりして居ると幽々子、そう呼ぶ少女の声が聞こえる、ふと視線を向けると其処には大きなリンボが付いた帽子を被った金髪の少女が日傘を差し、音も無く幽々子の隣に座って居た。
「相変わらず紫は進出鬼没ね、まぁ調子は微妙ねー」
そう言いお腹をさする幽々子、その行為に紫は大半の事を察した。
「相変わらずの食欲ね、それより妖夢はいつから?」
「2時間くらいかしらねー、正直お腹ぺこぺこで死にそう」
そう言い空腹を紛らわす為に茶菓子を口に運びお茶を啜る、紫はその様子は面白そうに見ていた。
チラチラと視界に入ってくる二人の姿、鍛錬の気が散って仕方がなかった。
何を話して居るのかはよく分からないが二人は長い付き合い……二人にしか分からない話もあるのだろう。
だが幽々子様の従者としては少し悔しかった。
力であの人を守る事など到底出来る訳もない、やれる事は炊事や洗濯程度……だがそんなのは幽霊達がやってくれる……自分の存在意義が分からなかった。
せめて足手まといにならないようにと強く、更に強くと素振りを続ける、その時人の気配がした。
「幽々子様」
「なーに妖夢?」
茶菓子をひたすら口に運ぶ幽々子、人の気配に気づいていない筈は無いのだがこの反応という事は自分に任せた……そう言う事なのだろう。
「いえ、何もありません」
木の棒を縁側へ置くと刀の位置を調節し正門へと向かう、美しい庭園を抜け木門へ着くと其処には二人の人間が立っていた。
「此処は冥界、貴女方人間が訪れる場所ではありません」
紅白の巫女服を着た少女と魔道書を片手に少し息を切らして居る金髪の少女、冥界に居ると言う事はただの人間では無い筈だった。
「どうでも良いけど紫居ない?」
その言葉に少し反応するが何も言わず刀を二本抜き構える、あの方とどう言う関係性かは分からないが銀の剣を持っている辺り危険人物である事は確かだった。
それに幽々子様との談笑を遮る訳にも行かない……白玉楼の庭師として白玉楼に入れる訳には行かなかった。
「なーんか話し通じなさそうね」
「どう……でも、良いけど……少し、休ませて……」
呆れて剣を持つ霊夢に対しアリスは普段の生活の影響か運動不足で今にも死にそうだった。
「私に斬れぬ物などあまり無い!!」
「多少あるんじゃない」
問答無用で斬りかかる妖夢の斬撃を剣で受け止める、剣術経験など全く無い霊夢の剣などいとも簡単に妖夢は吹き飛ばした。
武器を失えば無力化出来る……そう思い込んでいた妖夢は追撃を入れず刀をしまおうとする、だが次の瞬間眼前に拳が迫っていた。
頭の中に浮かぶ疑問符、剣を弾き体勢をある程度崩した筈……だが2秒と経たずに反撃して来た、完全に彼女を甘く見ていた。
やられる……そう思った次の瞬間、拳は不思議なスキマに吸い込まれ妖夢の前から消えると霊夢の頭に当たった。
「痛った!?このスキマ……紫居るじゃないのよ!!」
自分自身の拳で殴られた事に怒りを露わにする霊夢、助けられた妖夢は放心状態だった。
鍛錬を怠った事はない、勿論自分が強いと思った事はない……だがこうも実力の差があるものなのか、剣術に置いては自分の方が数段上なのは一目瞭然、だが彼女にとってはハンデの様なもの、剣が無くなった途端強くなった……彼女が何者なのか興味が湧いていた。
「貴女は……何者なのですか?」
吹き飛ばされ壁に突き刺さった剣を回収する霊夢に尋ねる、彼女は辺りを見回し自分に問いかけられている事に気が付いた。
「何者って博麗霊夢、ただの巫女よ」
「博麗……霊夢」
幽々子様の口から聞いた事があった、傍若無人の身勝手な、だが妖怪人間問わず愛される巫女が居ると、まさか彼女の事とは思っても居なかった。
「ただのって言ってるけど信じちゃダメよ、霊夢は異常みたいだから」
呆気にとられている妖夢にやっと回復したアリスが話し掛ける、無限に続く居ているのかとも思えた石段を息一つ切らさず登り切る彼女の体力はただの巫女ではあり得なかった。
「霊夢が私を探すなんて珍しいわね」
何処からとも無く声が聞こえる、辺りを見回すと頭上に上半身だけをスキマから出した紫が其処に居た。
「まぁ異変絡みよ、魔理沙の帽子が見つかったの」
そう言いアリスに預けて居た帽子を受け取り紫へと手渡す、驚いた表情をする辺りこの事は知らなかった様子だった。
「これは何処で?」
「灯篭よ、アンタのスキマから時々流れ着くでしょ?」
「やっぱりあの子外界に……けど結界を破った形跡も無いしどうやって?」
紫の質問に霊夢はアリスを指差す、申し訳無さそうな表情をするアリスは粗方の事情を話した。
「魔法陣……成る程ねー、何処に転送されたか大体の位置分かるの?」
首を横に振るアリス、すると紫は苦笑いをした。
「外界はかなり広いわよ、幻想郷の数千倍くらいね……」
「数千倍!?そんな所からどうやって魔理沙を探せって言うのよ!」
少し半ギレの霊夢を宥める紫、浮かない表情だったアリスが突然何かを思い付いたかの様に声を上げた。
「一つ、方法があるかもしれない」
「聞かせてくれる?」
「魔理沙の魔力を辿るの、あの子結構自己主張激しい魔力してるから」
「まぁ、魔理沙らしいわね」
アリスの言葉に呆れて言う霊夢、だが紫の表情はまだ渋いままだった。
「私は魔法使いじゃ無いから分からないけどそんなに広範囲を探せるものなの?」
「幻想郷内なら隅から隅まで余裕よ」
「さっきも行ったけど外界は数千……まぁ良いわ、それじゃあ外界とのスキマを繋いで上げるから準備は良い?」
紫の言葉に頷く二人、そしてスキマを生成したその時、妖夢はゆっくりと立ち上がった。
「私も連れて行って下さい」
「いや、誰よアンタ」
「幽々子様、宜しいですか?」
埃を払い縁側に居る幽々子に尋ねる、少し間が空くものの幽々子は快く快諾した。
「もっと強くなって帰って来てねー」
そう言い手を振る幽々子、楽観的な人だがこう言う時は助かるものだった。
「と言うわけで宜しくお願いしますアリスさん、霊夢さん」
「えぇ、宜しくね」
そう言いアリスは微笑む、そして不気味な瞳が無数に散りばめられたスキマの中へと入って行った。
「いや、だから誰よアンタ!!」