「吉武(よしたけ)様!、吉武様ーっ!」
「おぉチヨ、どうしたこんな真っ昼間にそんなに慌てて?」
そう言って強く照りつけてくる太陽を見上げると目を細めた後、慌ててやってきたチヨという少女に面を向けて微笑んでみせた。
「喧嘩です! またあの二人が喧嘩してるんですよ!、今月だけで何回目になるんでしょうかね?」
「おーし分かった分かった、行くぞチヨ」
そう言って重そうな腰を上げた吉武、彼は懐に差してある自身の愛刀に目を落とすと一つ欠伸をしてチヨに連れられるように歩いて行った。
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「テメェが俺の酒を飲んだんだよ!、その分の金返せやッ!!」
「ハアッ?、こんな所に置いてんのが悪いんだろうがッ!!」
人目を憚らずお互いに着物の襟首を掴み合っている二人の男、そこへ慌てたチヨとそれに連れられてきた吉武の姿が見えた。
「よーしお前ら、いっぺん地獄にでも放浪旅してこい。こんな昼間っから小さい事で周りの人様に迷惑かけやがって」
「吉武さん!、別に小さなこったねぇ! この酒は俺のちびちびと貯めて集めてきた金で買った大切な酒なんだ!、そこいらの酒と一緒にしねぇでくれくだせぇ!」
「おっ、どれどれ・・・・・・・・・・かーっ! こりゃあ上物の酒だ、よくこんなのが手に入ったな」
「どさくさに紛れて吉武さんまでっ!?、俺は本当にキレてるんですよ!!」
「悪かった悪かった、今度ぐらいに埋め合わせはしてやるさ。しかし、自分の酒を勝手に飲まれるってのは確かに腹は立つよな」
もう片割れの方を向いてそう呟いた吉武は苦笑しつつ相手へと片眉を上げた、後ろへ少し下がってしまった相手だったが納得できない様子でぶつぶつと何かを呟く。
「俺だって自分自身のした事に対しては悪いと思ってますよ。でも一方的にガミガミ言われるのは酌に触るんですよ......。」
「何が酌じゃい!、そんなもん山道にでも捨ててこいっ!」
一歩前へと詰め寄った吉武のあまりの迫力に相手はすくみあがって思わず尻餅をついた。そんな相手の様子を見て改心したと確信しニカッと笑いかけてみせる。
「それじゃあ、面倒事の後と言ったら酒に限るだろ? 今は昼間だがお前らも一杯どうだ?」
「おっ!、良いっすね吉武さん! 俺らもお供させて頂きますっ!」
「お世話になりますっ!、吉武さん!」
「たくっ、調子の良い奴らだな。こりゃあ長くなりそうだ」
「ちょっと吉武様!、あまり飲み過ぎないで下さいね」
「分かってるさチヨ、今日は軽めに飲んでくるだけだよ」
そうチヨに言って踏み出した吉武、だが踏み出した最初の一歩は体から突如として力が抜け落ちるような感覚がし踏み外したと同時に地面へと仰向けに倒れ込んでしまった。
「だ、大丈夫ですか吉武さん?、まさかさっき飲んだ俺の酒で酔っちゃったんですか?」
(ち.....力...が入らねぇ。どういう事だよ、こりゃあ?)
どうなってるんだ、そう内心で思っていたのも束の間に体の下から髪の先まで雷に打たれたかのような衝撃が走った、吉武は意識が揺らぎ段々と視界が暗闇で塞がっていく中で景色の移り変わっていくような奇妙な現象をこの目にした気がした。