「警告?!」
──サブモニターにレッドアラートの表示
──リアカメラの映像を別ウィンドウで表示
「上か?!」
気付いた時には遅かった。
白と水色に塗られたガザCが全天周囲モニターの上半分を埋め尽くす。
「こなくそ!」
ケンジはジムⅡに回避機動を取らせようとするが、それよりも早くガザCの足が振り下ろされた。
機体に衝撃がくると思われたが、予想に反してドッキングでもするかのような丁寧さでガザCのクローはジムⅡの肩装甲を掴んだ。
『……ごめんなさい』
「?!」
接触回線から聞こえる少女の声。謝ってはいるが感情がない形式的な謝罪。
次の瞬間、ガザCは力を溜めるように膝を曲げ、
──ジムⅡを踏み台にジャンプするガザC
──反動で後ろの空間に押し戻されるジムⅡ
「お前まで俺を踏み台にするのか!」
抗議の声を上げるが、当のガザCは遥か前方へと逃げている。
ジムⅡは現在スピンの真っ最中、ケンジのコントロールを離れ自動励起による回帰制御中。
一秒──機体各部のスラスターとアポジモーター点火
二秒──スピン停止、AMBACで姿勢制御
三秒──メインスラスター点火、再加速
コントロールがケンジに戻る。
「逃がすか! ……っ?!」
再度レッドアラート。今度も反応が間に合わない。
──後方からマラサイのショルダータックル
またしても弾き飛ばされスピンするジムⅡ。
その脇をネモ、マラサイ、ジムⅢの三機がデッドヒートを繰り広げながら抜いていく。
『ケンジ大丈夫か?!』
「エフラム、今何位だ?!」
『今ので五位に転落だ! 早く復帰してくれ!』
『ケンジ! 後ろからガンダムが来る!』
三度レッドアラート。
「レプリカ風情が出しゃばってんじゃねー!」
接触寸前、怒りに任せてRX-78ガンダムの顔面に回し蹴りを叩き込む。
──蹴りの反動を利用して再加速
歯を食い縛って加速Gに耐える。
が、その数十秒後
『今、一着がゴールイン! UC0118年デブリヒート開幕戦チャレンジクラス優勝はチーム『ハミングバード』の『ガザCオナガ』だ!! 初参戦で開幕戦勝利! これは今期の台風の目となるか?!』
アナウンサーの興奮した実況がコクピットに響き、運営のボールがチェッカーフラッグを振っていた。
「クソッ!」
『二位は『イエローキング』の『マラサイパラダイス』! 今期こそはシルバークラスへの昇格なるか!』
「クソッ!」
あと少しで勝てたレース。
それを一瞬の油断で落としてしまった。
その事実がどうしようもなく悔しく、悲しく、そして腹立たしい。
ケンジの拳がコンソールを叩く。何度も、何度も、何度も。
二回にわたるネオジオンとの戦争を終えた地球連邦軍は大幅な軍縮を迫られ、これにより多数のモビルスーツが廃棄、もしくは払い下げられた。民間に放出された一部の機体は作業用として、また一部はマニアの道楽として余生を過ごすことになる。
そしてマニアたちは自慢のモビルスーツを持ち寄り、趣向を凝らした競技で競い合うようになる。それらは総称として『MS競技』と呼ばれた。
※当作品はハーメルンにも投稿しています