2019/06/15
02:15
投稿

冷泉麻子さん。
私が戦車に魅せられた時に操縦手としてⅣ号戦車で戦っていた人だ。

現在は祖母と二人で大洗町に住んでいて、時々戦車道の指導に呼ばれるそうだ。

「教えるというよりも、見て覚えさせる感じだな」
そう言ってレバーを流れるように操作する。

今日は戦車道の練習が無く、麻子さん自身も暇になったため来た。
操縦席に座っていて?、気付いたら私が戦車の前に立っていたで声をかけたというわけだ。

散々引っ張った扉を開けてⅣ号戦車に乗せてもらうと、倉庫から出る。

「なんかお尻がブルブルします」

「慣れる」

「空気が薄いです」

「……慣れる」

「撃ってもいいですか?」

「駄目だ、というか練習後は装填していないかチェックしているはずだ」

あ、本当だ。
言われて確認してみると、砲弾はどこにもない。
弾薬の保管庫が倉庫のどこかにあるのだろう。

「約束通り演習場を一周する。
入学後の履修まではこれで我慢してくれ」

一方的に乗せてくれと頼みこんだ結果、渋々ながらも了解した麻子さんに運転をしてもらいⅣ号戦車に乗ることができた。
車に乗ることさえ嫌だったのに戦車には乗りたいという熱意を言った。

親しい人にしか言っていないことを。

「……前世で何かあったんじゃないのか?」
そう言われて眉をひそめられても気にしない。

修学旅行や遠足でさえ寝たふりで最前列で目を瞑って過ごしてきたのに。
なのに……。
何故だろうか、戦車に乗る時には一切の恐怖を感じなかった。
胸がときめいて嬉しくて仕方がない。


「ありがとうございます。
あの日、二十年ぶりに復活したという戦車を見てからずっとずっと乗りたかったんです。
聖グロリアーナ女学園の隊長車にフェイントからの一騎打ちはもう最高でした」

「そ、そうか。
あの最初の練習試合は散々な結果ではあったがな……。
そうだ、外を見た方がいいんじゃないか?」

耳を赤らめた麻子さんの露骨な話題変更を受けて、私はキューポラを押し上げた。
車長が見る世界がそこにはあり、ずっと見たかった景色は興奮に満ち溢れている。
乗り物に乗って外を見るということを私は嫌で嫌で仕方がなかったはずなのに。

戦車が射撃練習の的の後ろ側を通り過ぎて倉庫へと向かい始める頃になっても、その興奮は収まることが無い。

「どうやら気に入ったようだな」

「はい……とっても」

バックで倉庫へと真っ直ぐに正確に止めた後に私の顔を見た麻子さん言った。
一見すると無表情だけれども、少しだけ表情を読み取れた気がした。
微笑んでいる。
そう思えた。

「このⅣ号戦車の車長は特に人気でやりたがる生徒が多い。
中には車外に出て立ち上がる真似までする者までいる」

「それ、プラウダのーー」

「そうだ。
いくら砲弾が感知して逸れると言っても褒められたものではないがな」

「やっぱり、やりたがる人って多いんですね」

車長も、立つことも。

「最初はクジ引きで決めることになっている。
だから運次第、その後は実力だ」

真っ直ぐに射抜かんとする視線を向けられた。
大洗戦車道の人気が一段落したといっても、やりたがる人は一定数必ずいる。
私もその中の一人として、つかみ取りたいと思っている。
だからここまで踏み出して来た。

「私、前世とか魂って信じていないんです。
運めい……」

私の言葉を遮るように、麻子さんに電話がかかってきた。

「沙織何か用か?
忙しいわけではないが……良く寝られたし、運転ですっきりしたからな。
……わかった」

どうやら帰港にともなって友人と会おうという連絡がきたらしい。

「すまないが、これから幼馴染達と会うことになった」

乗せてもらったことを私は感謝の言葉で伝えて帰路につくことにした。
こうして私の初めて搭乗した気分は深夜になっても冷めることは無かった。



・・・


入学後の新生活の日々が過ぎ、遂に最初の戦車道授業の日がくる。
先輩やコーチの人達の中には麻子さんがいて、目が合うと微笑んでくれた気がした。

一通りの説明後、搭乗する戦車をクジ引きで決め、さらに担当を決めるために今回各戦車に一人ずつ付くそれぞれのコーチがクジを先輩達から受け取って握りしめると私達の前に差し出した。

色分けされていて、どの色がどの担当かは先輩のみぞ知る。
一斉に発表されるので皆が固唾をのんでクジを引いていく。

そして私の番になった。

「運命の時だな」

麻子さんが斜め上から呟いてきた。
一見すると不愛想な表情だが、目元が優しい。

「私、運命は信じていません」

そう言ってくじを引くために手を伸ばす。
自然と指が曲がりそれを掴み取る。
一拍おいて視線を手元に向ける。

全員が引き終わると、先輩が移動式黒板に紙を張り出した。

黄色い悲鳴、悲喜こもごもといった声が倉庫内でこだまする。

私は運命を信じていない。
それでも、何故か信じずにはいられないーー。



だから彼女は受け入れた。






/////////////////////////////////////



設定変更前没タイトル
「前世の記憶を失ったのにトラウマだけ引き継いで転生したら、転生前の自分の娘に戦車の操縦方法を教わった結果、どうにかしちゃって成り上がって全国大会で大洗女子学園を優勝に導いてしまった件」

更新時のPV数は4606でした。
毎回読んでくださった方々、頻繁に読んでくださった方々、時々読んでくださった方々、たまたま読んでくださった方々等々ありがとうございました。

修正以外の更新は現在のところ考えていません。

次回更新日
出来れば今月中にイラスト投稿予定。


オリジナルを少しずつ制作していきます。
タイトル：姦せ!ドロン女!(姦し娘達のドローン×部活モノ)
6月中に更新予定。