「早くっ!付いてくれ!まだ死にたくねぇっ」
アルフレッドが焦りながらガラクタのエンジンをかけそう叫ぶ。
彼は茶髪の七三分けで目は青く、茶色の防弾チョッキを着用し、レザーガントレットを付けている22歳の青年だ。
黙って身を隠していればよかったものを命知らずの騎士団メンバーが壁の外に出たからモノポールの連中に命を狙われている。第一、夜なのだから静かに寝ていれば危険に晒されなくてよかったのだ。
「くそっ!暗くて見えない…あぁ、助けて、オビ=ワン・ケノービ…あなただけが頼りですぅ…」
瞬間、ガチっという音と共にエンジンがかかった。
「やったぁ!かかったぞ!お前ら早く乗れ!あんな連中2度とごめんだねっ!」
だが、目の前に浮かんであるデザート・フローターはこの世界の車といえどオンボロのガラクタだ。いつ壊れるかわからない。
「こんなのに命を預けるってのか!?俺はごめんだね」と50代前半の腰に酒瓶をぶら下げた白髪の痩せ細った男がそう一言。名はベルトホルト・アイヒマン
「ああ。そうか。お前とは仲良くなれそうだと思ったが無理っぽいな。おい、ギルはどうする?乗るだろ?」
ギル、と呼ばれた青年はボサボサの茶髪に茶色い瞳、左足のつま先まで長い布、ボロボロのTシャツを着、木刀のような容姿をした《インパクト・ケイン》を白杖の代わりに持つ。木製のビーズアクセサリーの先についた十字架を髪にぶら下げている19歳の青年が返事をした。
「アルフレッド、お前、運転はできるのか?」とギル。
「運転なんてしたことねぇよ!だけどこんな非常時だぞっ!?そんな時に目の見えないお前やまだ幼いディアナやエドガーに運転を任せるのか!?なら最年長の俺がやるしかないだろう!?」
ディアナと、エドガーも白明騎士団のメンバーであり、ディアナは酸素ボンベのような物を背負い、エドガーは首に牙のネックレスを下げた6歳の子供である。
ギル・クラウディアは白明騎士団のリーダーであるが、過去に参加した紛争で視力を失ってしまった。しかし、彼はその分、聴覚が優れていて、力も強い。敵のロボット兵を一夜で狩り尽くしたという伝説も残っているのである。
「こんなやつに命を預けるくらいならここで死んだほうがマシかもしれないな。」
「んなことねぇってこの先、俺らは自由を手に入れるんだ。そのための逃亡だと思って。俺を信じてくれよ。」
「アル、道を間違えると地獄行きだぞ。それを理解して慎重に道を選べ。我々は今、ドライバーのお前に全てを託してるからな。」
途端、赤色の光線と音と共に乾いた土に焦げ跡が残った。
「お前らシートベルトしろよ…」
「そんなものない!」
「いいから!」
ブォンという音と共にAL-38デザート・フローターと名前をつけられたガラクタが火を吹き、猛スピードで走り出した。
「アル!AL-38のALってまさか!?」とギル
「そうだよ!アルフレッド様のアルからとった!かっこいいだろ!」
「こんな言葉口に出したくはないがださい!」スピードが早すぎてうまく喋る事も出来ない。おそらく、アルには伝わってないだろう。
「口閉じてな!土が口ん中入るぜ」
後方からジープのようなフローターがライトを光らせながら追ってきた。
モノポールの連中が窓から身を投げ出し、レイガンをこちらに向けてくる。
「お友達が来たぞ!ディアナ、エドガー相手してやれ!」
さっきまで散々ガキに運転が無茶だと言い張っていた男がその子供に銃器を持たせようとしている。無茶である。だが、白明騎士団は囲われている壁を抜け出し、多くの戦いに参加してきた。子供もだ。
「任せてよ!」エドガーが固定された機銃に手をかけながら叫ぶ。
「振り落とされんなよ!」
量産ロボットのようなマスクをつけたモノポールの連中はMGピストル・レイを所持している。機銃とピストルではどちらが勝つかなど目に見えている。
「舐めてもらっちゃあ困るなぁ」と言いながらアルがレバーを押し倒した。
「うぉぉぉぉぉ!!!」とエドガーが叫びながら機銃を乱射し、敵のフローターを攻撃する。
やがて、敵のジープ・フローターは煙を上げ、スピンしながら広い砂漠の真ん中で動きを止めた。
モノポールのマスク連中たちはよくわからない宇宙語で叫んでいる。
「どうよ!」エドガーがドヤ顔でギル達の方を向いた。
「盛り上がってるとこ、悪いけどもう一機来た。」ディアナが落ち着いた声でそう一言。
「アル、スピードを上げろ。奴らウガウガ言いながら発砲してるぞ」
「もうこれ以上スピード上がらない!あぁ、まずい…一機だけだと思って飛ばしちまったからそろそろ燃料が切れそうだ…」
所詮、ゴミ捨て場に捨ててあったゴミから作ったガラクタだ。浮いただけでも奇跡なのにこんな長距離を移動できるなんて…
どんどんスピードが落ちていく。
「諦めよう。我々に勝ち目はない」ギルが一言。
「ねぇみんなあれ見て。」ディアナが何かに気づいた。
双眼鏡のような形のスコープで皆がその姿を確認した。
ジープの上に痩せ細った人間が1人立っている。それもランチャーを持って。
「まっずい…」アルがレバーを倒すも、燃料切れで遅くなっていく一方だ。
「しかも乗ってんの…あれ、ベルトホルトだよ…」ギルは、目のいい子供は羨ましいと呟いた。
双眼鏡型の暗視スコープであるも確認する。確かにベルトホルトが屋根に乗り、こちらにランチャーを向けている。
「あいつ、寝返ったか…」アルが残念そうな顔をする。
「白明騎士団の未来ある若者たちよ…恨むなら俺じゃなくてこいつらを恨め…」
ベルトホルトがジープの上でボソッとそう呟き、モノポールの合図でランチャーを発射した。
ものすごい勢いでミサイルが飛んでくる。
「もうダメか…」と呟きながらアルがレイガンを構え、デザート・フローターのエンジン部分に狙いを定める。
「何をしている?バカなのか?音でわかるぞ」
「ギル、これが最後の足掻きだ。」と一言吐き、エンジンをレイガンで破壊する。
エンジンが赤く燃え上がり、そこにミサイルが落ちてきた。
デザート・フローターの後方で爆発が起こり、前転をするように回転し、少し遠くの砂漠の砂に刺さった。
「奴らを殺した。約束通り俺を解放してくれ。このまま一生酒を飲んで暮らしたい。」
モノポールの連中はそれを許さず、ベルトホルトの頭に布の袋をかぶせた。
「おい、は、話が違うじゃないか!ど、どういうことだ!?なにをする!離してくれぇ!」
モノポールはベルトホルトを誘拐し、どこかへ去って行った。
「ああ…ギル…生きてるか…?」アルが辺りを見回すが、人の姿が見つからない。
「私はここにいる。ディアナとエドガーと一緒にな。」フローターの後方からギルの声がした。
「よかった。全員無事なんだな。ベルトホルトは…」アルは変わりきったエドガーとディアナの姿を見て、その先の言葉が出てこなくなった。
砲手の二人は焼死していた。
「また、死者が増えたな。」ギルがそう述べた。
「………そうか。帰ろう…」
「またあの廃墟と化した街に戻るのか?そもそも私たちは爆発でどこかわからないところに飛ばされた。夜が明けるまでこの辺にテントを張って休もう。」
「ああ。そうだな。先寝てろ。俺はAL-38の修理をするから」
「わかった。死ぬなよ。」
後に、この白明騎士団と過激派犯罪組織モノポールの争いはディザリン・チェイス、そしてベルトホルト拉致事件として歴史に刻まれた。