「いくら傷ついても死なない......?」
レオは博士の言葉にピンと来ない様子で首をかしげる。
「そうだ、君は死をもって初めて再生する! まったく異質の構造なのだ。まぁ今はそれだけのことを理解しておれば十分であろう。だがそれだけの事しか分かっていないにしろ、お前さんを枢騎士の連中がどのように利用するつもりだったのか私にもわからんがな。たしかに君は特質的だがその力の性質は殆ど謎。それをあの連中が知っているとも到底思えない、誰かの入れ知恵かもしくは『黒滅の預言書』のいいなりか......」
博士のはたまた聞きなれない言葉の連なりにレオは頭を抱える。
「はぁ、預言書......、まったくついていけねぇ。そろそろ終わりにしてもいいか?さすがに疲れたぜ......」
レオはぐったりした様子で椅子に深くもたれかかる。
「ふむ、まぁよかろう。クライネ、彼を帰してやってくれ」
「分かりましたメルセデス博士、さぁレオさん行きましょうか」
レオはクライネに連れられては博士の研究室を後にした。
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レオはクライネの後を追うように要塞内の廊下を辿っていた、博士の話を思い返しながら怪訝な表情で静かに歩き続ける。
クライネと会話一つせずに、気づけばある扉の前にレオは立っていた。
「さぁレオさん、一応ここがレオさんの部屋です。幸運な事にこの部屋は以前までエクイラ様が利用されていた部屋ですよ。よかったですね」
クライネは冷たい口調と目線でレオに言葉を放つ。
「別にそんな趣味はねぇよ、でもちょっと嬉しいかも」
「キモッ......」
クライネはより冷淡な目つきでレオを見る。
「はぁ、なぁクライネさん。あの博士が言ってた預言書? ってのはなんなんだ?」
「うーん、そうですね。ちょっと散歩でもしながらお話しましょうか」
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クライネとレオは微妙な距離を置きながら要塞内を巡っていた。
「あんまり閉鎖的なとこが多いから実感がわかないけど、この基地って結構広い感じなのか?あとなんか要塞......にしてはなんというか不格好な内装だよな」
「まぁ規模自体はそこそこ、大体2000人くらいは収容できますね。ここ対アンビュランス要塞はその名の通りアンビュランス要塞を陥落させる為だけに設計された攻撃要塞で、ここを構成するパーツは本来前線へ送られるはずだった仮設構造物の流用で構成されています。故に見ての通り内装もいびつで機能性も無視されていますしね、閉鎖的な空間が多いのもそのためです」
レオは廊下内に露出した複雑に絡み合った巨大なケーブルを眺めながら廊下を歩む。しばらく歩くと巨大な窓ガラスが表れ、その向こう側の光景を露わにしていた。
「これは......なんだ?砲台か?」
「あれはAE高射砲です、いまは地下に格納されています」
「すっげぇな......」
レオとクライネは一通り要塞を巡ると、一息つくようにスタッフルームへ向かう。複数の平凡なデザインで座り心地の悪そうなソファが丸い机を囲むように置かれて、二人はそれに向かい合うように腰を掛けた。
「それじゃあ、本題ですね。預言書の事でしたったけ?」
「あぁ、それって何なんだ?」
「正確には『黒滅の預言書』、ですね。まぁまずは簡単に言うとちょっと歴史の話にはなりますけど、はるか昔。黒滅の四騎士と呼ばれた始まりのレイシスが居ました。古代の始祖と呼ばれたそのもの達は三人の男性とリーダーである一人の女性によって構成されていました。災害をもたらすもの『アベル・ウルドゥルガン』、道徳を与えるもの『ヴェイサムル・エラゴ』、闘争を呼び覚ますもの『ガルデネーデ・アメスフィラ』、そしてリーダーである勝敗を支配するもの『アーマネス・ネクロウルカン』。彼らがもたらした大帝国思想であるレイシスオーダー。それが書き記された書物の事がその黒滅の預言書の事です。枢機士団の中では預言書が神聖化され、枢爵達の指針になっています。悪く言えばそれの言いなりと言ったとこですね、彼らはレイシスオーダーに囚われた哀れな老人たちです」
「なるほど、それが俺をつけ狙う理由かもしれないってことか......。今の話を聞いて、なんだかアイザック達の動機も分かるような気がしてきたよ」
数秒の沈黙が続くと、再びレオは口を開く。
「クライネさんは......」
「えっ?」
「クライネさんは何でこの組織に参加したんだ?アイザックの言いなりってわけでもなさそうに見えるから」
「そう、ですね......。私はただ、この国がいつまでも美しくあれば、それでいいと思ったから......ですかね! ちょっとかっこつけちゃいましたけど」
「ふふ、なんだよそれ」
レオとクライネはお互いに静かに笑いながら、その場で二人は別れてレオは部屋へと戻った。
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レオはクライネに教えられていた部屋の前まで戻ってきていた。
「はぁ、やっと落ち着きが得られるなぁ。あのエクイラさんが使ってたってんだから楽しみでしょうがねぇ! 」
レオは昂った様子で勢いよく扉を開け、真っ暗な部屋の中へと入る。
「えーと、灯りは灯りはっと......。どこにあんだ?」
レオが入り切ってからしばらくすると、背後の扉が突然勢いよく閉められた。
「――えっ?なにこれ......」
レオは一人真っ暗な部屋も空間へと取り残された。
「お待ちしておりましたわレオ様」
上品な美声が部屋の中に鳴り響くと、灯りはつけられた。するとそこにはベットの上に座った軽装のドレスのような服に身を包んだエクイラが目の前に現れた。
「エっ......えっ! エクイラさん!? こんなところで一体なにしてるんですか!?」
「レオ様を待っておりましたの、以前私が使わせて頂いた部屋をレオ様がお使いになさるということで軽いご挨拶とお願いをと思いまして」
エクイラはベットから立ち上がると、レオに急接近する。
「でもレオ様ったら全然この部屋に来ないものですから! ちょっとサプライズをと思いまして......うふふ。申し訳ありません戯れが過ぎましたお許しを......」
エクイラはドレスを軽く持ちあがて頭を深く下げる。
「あぁいやそんな、その......むしろあなたのような人にこんなサプライズを頂けるなんてね......あはは。挨拶はともかくとして、そのお願いっていうのは?」
レオは若干照れた様子でエクイラに聞く。
「それは......また機会を改めてお話をしますわ、こう言ってはあれですけれど少々待ちくたびれてしまって......。今はそういう機会では無い気がしますの。またお会いしましょレオ様」
エクイラはそういうと部屋の外へと向かっていく。
「それではレオ様。ご機嫌用」
エクイラは廊下に出ると、いつのまにか外で待っていたボディガードのような人たちと共にこの場を去っていった。
「なんだが不思議な人、だった。ていうかさっき後ろで扉閉めたのあの周りの人達だったのか......」
エクイラの言う願いとは何なのか、レオはそれを脳内に巡らせながら柔らかい生地のベッドにゆっくりと身を預けた。