突如としてクライネから告げられた二人のレイシスが近づいているという情報。レオ・フレイムスはつかさず状況整理と行動を起こす。
「クライネさん、あとどれくらいで入ってきそうだ?」
そう聞かれたクライネは禁書指定区域の固定監視カメラを瞬時にオーバーライド、何度かカメラを切り替え大門入り口付近のカメラに切り替える。
すると、既にそこには二人の枢騎士が大門寸前にまで迫っている様子が映し出されていた。
「......ごめんなさいレオさん......。もう......来ます......交戦に備えてください」
通信越しに、震え声でクライネはそう伝える。それを聞いたレオはどうにか身を隠してやり過ごせないかと室内を見渡すが、いずれにしても相手が枢騎士であることを考えれば些細な時間の差でしかないであろう事は勘で理解できることだった。
「ちっ......ホントにやるしかないのか!?レイシスあいてに!?くそっ......」
レオ・フレイムスは殆ど効力がないっであろうAEタイプピストルを仕舞い、アイザック大佐から預かっていた銃型のソレイスを再びその手に腰の隠しホルスターから取りだした。
「すみませんレオさん......私が索敵を見誤ったばかりに......」
「しかたねぇよクライネさん、奴らが来るタイミングが良すぎる。恐らくリークでもあったか移動中を補足でもされていたんだろ。どの道こうなっていたさ......これより敵勢力と交戦し、なるべく遅滞する。その間に......えっーと、何かしらの援護要請を......、まっ正直......俺一人じゃ何秒持つかどうかもわからんけど......」
レオ・フレイムスは顔を大きく引きつりながら、そう言った。
「了解です、既に緊急回線で大佐には救援信号を送信しています......どうか、『我らにヨハペロネの加護があらんことを』」
クライネさんとの通信は途切れ、この敵陣の中で孤立した。
「―――ヨハペロネの加護......ねぇ......なんだそりゃ。帰ったらクライネさんに聞かないとな......さて......」
今この瞬間、頼れるのは長年の傭兵経験を培った己自身と幾つかの投擲武器や護身用のピストル、そしてアイザックから預かったこの銃型のソレイスとやらだ。
―――そもそもクライネさんやアイザックは俺を守るためのメンツじゃなかったのか、こんな状況に陥っている時点でアイザック達の目論見は叶わさそうだな。という私見はさておき、レイシスとの戦闘だが......。
正直まったくの未知数だ、レイシスとは先日の戦闘経験がないわけではないが、この場で活用できる程のものではない。
粗方レイシスに対して知っている事といえば、大抵の通常武器では奴らには太刀打ちできない事というくらいか、あとは不思議な能力を操るとかか。現状では情報不足で詳細な戦略も練ることはできないが、やれることをやるしかない。
まずは奇襲することだ。効くかわからないが、まずは前方扇状状で展開する小型クラスター閃光弾で五感を奪い、初動を封じて二人同時に一気に仕留めてしまうか。
少なくとも人の形をしているのなら五感への攻撃には共通の有効性があるはずだ、次に奴らの能力の推測をする、恐らくは防御能力......いわゆる空間障壁は持っていると考えるべきだろう。これはレイシア少佐が保有していたものとほぼ同質であると考える、かの少佐の戦いぶりを見ればわかるが、通常武器に対しては並みの物理装甲等とは比べ物にならない無類の防御性能を誇る。あまつさえその障壁を攻撃方法としても転用できる手段があるとなると、接近戦は不可能......か。
あれを打ち破れるとすれば、手元にあるこのアイザックの銃型ソレイスくらいだろう、多分こいつなら障壁は破壊できるはずだ......。ただ問題はその後のプランか......、どう始末をする?奴ら程の連中がただでコイツを喰らい続けてくれるのか?間違いないなく認知速度を超えた距離で詰められて締められる......。くそっ......絶望的だな......。
2人分の足音がレオ・フレイムスの耳に微かに届きはじめ、禁書庫への大門は開かれ始めた。
開かれた大門からは、黒いローブを羽織りフェイスマスクをつけ武装した大柄のレイシスと、それに比べかなり背の低い小柄で華奢な体系の少女のようなレイシスが姿を現した。その少女は髪が腰まで下ろされ、その金髪が黒地のアーマーと豪華な金色の装飾達を更に引き立たせていた。
明らかにその風貌は、背後の大柄のレイシスよりも格上の存在であることを周囲に示さんとばかりにその黄金の輝きを放っている。
その二人組のレイシスが姿を現した瞬間、レオ・フレイムスは勝機が先制攻撃しかない一手の中で、小型のクラスター閃光弾を大門の方に向けて身を隠しながら放り投げた。すると、極めて強力な閃光の子弾達がいくつも宙を舞い、何度も光源を発光させると、踏み入った2人のレイシスを包み込むように閃光の嵐が襲った。
とっさのことに顔をローブで覆い隠そうとする2人のレイシスだが、その対処動作を取る中で、もっとも隙が出来る瞬間をレオ・フレイムスは見逃さなかった。
方角を確認していたレオは、銃型ソレイスを引き抜き、レイシス達に向けて空間をを大きく振動させるほどの一発の淡き高エネルギーの銃撃を瞬時に放った。
その高エネルギー粒子体の塊を視認したレイシスの少女は、マスクの下の儚げな表情を悲壮な形相へと変貌させた。
「だめっ!!!ファルファ下がって!!!」
少女のレイシスはその高エネルギー粒子体を回避し、決死に相方のレイシスにそう告げたが、その声が隣のレイシスに届こうとする頃には既に鈍い人体の落下音が室内を響き渡らせていた。
やがて光で満ちていた空間が平常を取り戻すと、室内に踏み入れていた大柄のレイシスは出口方向に吹き飛ばされるように上向きに倒れこんでいた。
そのレイシスは銃型ソレイスから放たれた高エネルギー粒子体を眩さに気を取られ、少女のように咄嗟に回避する事ができなかったのだ。
「ファルファ!!私の声が聞こえる!?」
その少女のレイシスは、ファルファと呼ばれるそのレイシスに駆け寄っていった。そのレイシスをそのようにした張本人の方を無視して。
「―――ザラ様......申し訳ありません、一生の不覚......」
「まてっ!下手にうごくなっ!ヘラクロリアム圧縮弾だ、しばらくは治りが遅い!じっとしていろ!」
倒れこんだその大柄のレイシス。血にまみれた五体満足の得体を見るに直撃はしなかったのだろうが、まともに喰らっていれば即死に近かったのであろう。
アイザックの銃型ソレイスは、収束させた一撃でかのレイシスを戦闘不能状態に陥らせる事が可能である事を物語っていた。
「まじ、かよ......。たった一撃であのレイシスを......こりゃすごいぜ......」
あまりの威力に気が抜け、レオ・フレイムスは少し唖然としながら銃型ソレイスを眺めていた。そして、この銃型ソレイスに絶大な信頼を抱いた瞬間でもあった。
「―――ファルファ......少し待っていて......」
ファルファに駆け寄っていた少女はファルファの元から離れると、視線をレオ・フレイムスの方へとゆっくり向けた、敵意を丁寧にお伝えるように。
「その銃型ソレイスは......あなたが何者なのかは知りません。が、あなたは私の部下を傷つけた。あなたをここで葬るには十分すぎる事柄ですが、何か弁明はありますか?」
レオ・フレイムスに目の前に立ちはだかる少女のレイシスはそう問う。
「弁明はない、俺は生き残るために行動を起こした。それだけだよお嬢さん、心苦しいが仕方ないだろ?あんた達がここに来たということは、こうなるということなんだからな」
レオ・フレイムスは少女の問いに答えると、信頼を寄せた銃型ソレイスを、その少女へと向けた。先ほどの光景を観測した今の彼には、今ならレイシスと渡り合えるという大いなる自信をその身に宿していた。
「......左様ですか、ふむ。認めましょう、確かに貴方のそれは並みのソレイスではない、実際レイシスである私の部下を一人戦闘不能にさせました。素晴らしい力です。調子づくのもわかります。ですが......」
少女はそう答えると、腰のベルトに携帯していた二本の刀身のない柄を両手で交互に持ち出した。
「貴方はもう少し、世界の広さを知るべきです。【レイシスロード・ダグネス・ザラ】推して参ります」
彼女はそう言って、二本の柄だけの状態から深紅のエネルギー刀身を展開させた。それは、ソレイスのとはまるで見た目のことなる、二本のエネルギーブレードの様な得物だった。