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No.42992の一覧
[0] フランス不法滞在日記(もしくは潜伏)[NEKO](2018/02/18 01:16)
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[42992] フランス不法滞在日記(もしくは潜伏)
Name: NEKO◆4225f126 ID:1ac6024d
Date: 2018/02/18 01:16

それまで、私は独裁政権を羨ましく思っていた。

ヒ〇ラーの政策も間違っていないと思っていたし、あれだけのカリスマ性があるというのに大虐殺という汚点を残すとは、バカなことをしたものだと思っていたりもした。
でも今は違う。今すぐ民主主義に方針転換して平和な国にして欲しいと強く念じている。
だがそんな思いもその日の夜には叶わぬものとなっていた。

気まぐれで付けていたラジオからこんなニュースが聞こえてきたからだ。

「―――政府は、隣国フランスとの全面戦争に備え、全国民の内健康な体を持つもの全員を対象に徴兵を行う事を発表しました。これに対し―――――」

健康な体を持つもの、つまり男女関係なく、体が動くものならば例え老人であろうと出兵させるという旨のものだった。
これには当然全国から非難が殺到したようだし(これは私の友達の情勢に詳しい子から聞いた。)、もちろん私も反対した。
窓から下を覗けば必ず大規模なデモ隊が歩いているし、私自身も2,3回程参加した。

デモに参加したといっても周りの大きな流れに沿って歩き回っただけだけれど、三回目に参加した時、全国でこれほどのデモを行っているのに
政府が何の反応も示さない事に気づいた私は、ついに三回目にその大規模な散歩から脱退した。

家に帰る時母に見つかったらたいそう怒られるだろうと思っていたが、残念無念、
私の母はどうしようもない飲んだくれで私のことには良くも悪くも干渉してこなかった。

デモの流れから離れる時私は少し罪悪感を感じたけれど、
"だってしょうがないじゃん、意味ないって気づいたんだもの"なんて言い訳で自分を納得させて、そのまま家に帰って寝てしまった気がする。
その次の日は体が羽のように軽かった。無意識にデモに参加することを重荷に感じていたのかもしれない。

私は無意味なデモに参加して、無意味なものに重責を感じていたのだ。

今思えば、この戦争に巻き込まれないようにドイツを離れるチャンスはこの夜が最後だった。――――――― 2062 1/23 (Mon) 

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徴兵は突然だった。早朝、輸送用トラックが何台も何台も私の家の前の狭い通りを通って行き、その内の一台が私の家の前で停まった。
バタン、なんて軍用トラックのドア特有の大きい音がしてしばらく後、チャイムが鳴った。

「ティーメさん!ティーメ・カレンさんはいらっしゃいますか!」

と大きな声で私の名前を呼ぶので、しぶしぶと玄関に向かうと、すでに母が先に来て、その兵隊の対応に当たっていた。
私が来たことに気づいた兵隊は私に気が付くとすぐにポケットから紙を取り出し私の前に差し出した。

みるからに体育会系だとわかるがっちりとした体の軍服を着た男は、

「ティーメ・カレンさんですね?あなたは徴兵の対象となりました。こちらの紙にサインしたら今日中にこの場所に来るように。」

とだけ言って、私が場所の描かれた地図と紙を受け取るとすぐに隣の家に行ってしまった。
あまりの急っぷりに私が呆然としていると、それを見た母は私に

「これは運命さ、どうあったって戦争からは逃れられない。覚悟を決めておくんだね。」とおよそ娘に対しての言葉とは思えない、冷たい言葉を口にした後、
そのままキッチンの方へ消えてしまった。

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その日の朝ごはんは全く喉を通らないし、今思えば私はとても不安を感じていたのかもしれない。
が、その不安には非協力的な母親とすでにこの世にはいない父親も少なからず関係していると思う。

昼頃、出兵の為に荷造りを終えた私は隣の家の友達と一緒に指定された場所に行った。
到着して最初に感じたのは、その大きな建物はとても無機質で、まるで人間が生活していないかのような冷たさだった。
そんな雰囲気を友達も感じ取ったのだろう、先ほどまで漫才師のようにしゃべり続けていたのに今はその口はしっかりと閉じている。
無理もない。出兵、即ちほぼ死にに行くのだ。先ほどまでしゃべり続けていたのも不安を忘れるためだろう。

しばらくその建物の前で立ち尽くし、ようやく私たちは中央にある門から中に入った。
建物の中にはたくさんの人が居て、全員が諦観したような表情をしてとても重苦しい雰囲気に包まれていた。
しばらくして、案内係が適性検査を行うと言い出しその建物の中のひとたちと私たちはぞろぞろと付いていった。

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適性検査を終えて私ははぐれてしまった友達をなんとか見つけ出し、結果を報告し合った。
友達の方は狙撃兵、私はスパイだった。はい。ス パ イ だ っ た 。―――――――――― 

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出来ることならばすぐにでも検査をやり直したいが、その願いは叶えられそうもなかった。私の検査結果を見た係の人はニコニコ顔で、

「良かった!君の能力は素晴らしいよ!パーフェクトだ!まさにスパイになるべくして生まれた娘だ!」

と喚き散らし奥のドアに消えた。どうやら私は選ばれたらしい。光栄なる敵国潜入員として。 2062 1/24(Tue)

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親愛なる丸メガネへ。

やっと日記を書けるぐらいに落ち着けたよ。なにしろフランスとドイツでは全くと言っていいほど慣習が違う。唯一楽できたとすれば、2030年に決まった統一言語法案だ。
このおかげでとりあえず英語が読み書きできれば世界中の人とコミュニケーションを取ることが出来る。ご都合主義なんて言葉はとうに現代には残っていないよ。

そんなことだからまぁ、なんだ。もし何かの間違いで私が祖国に帰国出来た暁には、君ともう一度会って話がしたい。
短いけれど私は忙しいのだ。もう書き終えるとするよ。

P.S. 今も学校に通っていれば君と私はとうに高校生かな?恐らく私の顔なんてもう覚えていないだろうけれど、それは私だって同じだ。
君の顔にはまん丸の大きなメガネ以外に特徴は無かったからね。

カレンより。 2063 11/22 (Lundi)

カタッとペンを置くと、なんだかその上から目線の文章に無性に腹が立った。なんだこいつ。
私はフランスに来てからというもの、なんだか性格が嘲笑的というか、変に賢く振舞おうとする節がある。きっとはじめての海外に慣れていないのだろう。
それかスパイとして十分な訓練を受けず、素質を見初められてそのままフランスに輸送列車で送られた事への不安を隠そうとして、こうなっているのかもしれない。
どちらにせよ私は酷く心が弱っていた。それもそうだ。齢16歳の(自称)麗しきオナゴが完全に敵対した国にほっぽり出されているのだ。
幸い日本とドイツのハーフである私は傍から見ればドイツ人には見えないため、まだフランスの警察には見つかっていない。


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