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No.42901の一覧
[0] bind :blind[k・radio](2017/11/19 20:10)
[1] プロローグ[k・radio](2017/11/19 21:42)
[2] 一章 無の国からの始まり[k・radio](2017/11/22 00:38)
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[42901] 一章 無の国からの始まり
Name: k・radio◆1906e83a ID:8869c203 前を表示する
Date: 2017/11/22 00:38
白くぼやけた世界から目を覚ます。頭がふらふらする。いつしか熱にうかされた時と似た感情が表れているのだろう………

落ち着いて目を開けると、辺りの暗さも陰をひそめたのかのよう。そしてどこかを移動している?いや、流れているという感覚に近かった。しばらくすると廻りを少しだけ見渡せるようになった。慣れの恐ろしくも素晴らしい能力はかつてなく私をここに適応させてくれた。見る限り漠然とした世界がそこには広がっていた。都市を沈めようとも、なくなりはしないだろう。本当に何もない。
………自分でも分からないことだ、無意識にふと目線が落ちる

「………ぇ!?」

その先には一隻の船?
と捉えたらいいのだろうか?かなり古いように見える…………
散り散りと踊る水草が、閑静を思わせる涼けさを持ち併せ、感覚を惑わせる。何かを久々に考えることになるが、先に体がそれに引き込まれた。

………あれはいつ頃だっただろうか。目を覚ました時、重い霧に包まれたかのように体が動かなかったことがふと頭に浮かぶ。それに誰かが強く押さえつけるような気味の悪さを感じた。しかし、かつての嘲笑の双眼の冷たさはなかった。なんとか動かそうとすると、突然体が軽くなり、身を地面に叩きつけてしまった。

「やっと気付いたか。…………………まあそんな顔はしないでもらいたいな。」

自分の表情は見当も付かなかったが、他人には見せたくない気分だった。

「さっき僕を見ていたじゃないか。」
「話しかけているのはあなたなの?私には分からない。」
「…………見ての通りさ。他に聞きたいことが有るのだろう?」

私はそんなことを言っていたのか?地面の中の人影のようなものに心を見透かされているようで少しためらいを覚えている中、私は浮かぶ言葉を口に出す。

「…………ここは?どうして流れているの?」
「ここは海。万物が宿る海さ。そして流れているから流れているのさ、名前すら分からない海竜に。」

まるで準備していたかのようにさらっと応えた。

「僕は命。かつてここに沈んだ、この船の。ね?」

私が問いかけるのを待たずに、答えてしまった。ただ、よく見るとそうだ。一つ疑問がなくなった。そしてこの船の命はまた、ゆっくりと、辛く、悲しく流れに逆らわず漂っていた。

「君は?」
「………………え?」
「どこから来たんだ?」

まだ頭がおぼつかない私はただ、沈黙を破ることはなかった。言わなくても何故かすべてを悟られるような不気味さも私に錠を強く架けた。その中で、今言える精一杯の情報を探した。

「どうして私は海にいるの?」

その命は、問いばかりする私に文句の一つも言わないで、ただ言えるであろう精一杯の情報を応えとした。

「………君のことを僕がどうして知っているんだい?いや、知らないだろう。…………いや、唯一君は生きているということを今知ったよ。」

期待はしていなかった。予想通りと言ってもいいだろう。だが、その言葉が私の意識を少し取り戻させた。頭に嫌気がさす。私がここにいること、その答えが悪い感情ごと全て流れ込んでくる。

「…………身を投げたからここにいる。ただそれだけ………」

これに対してゆったりとした口調で返事をされたように感じた。

「覚悟は出来ていた?」

私は表情を曇らせた。それを見て少し陰の口元が緩んだように見えた。それを見て私は問いかけた。

「ここにはある?」

その意は聞かずとも分かるだろうと思っていた。それに対して当たり前のように応える。

「……………残念だがないよ。ここには。」

少し期待外れだった。未知を恐れては先がないことの重みは今はいらなかった。

「でも、君はしっかり“捕まっている”だけでいいじゃないか。」

私は顔を歪めた。どこか聞き覚えのあるようで、意味が分からないというもどかしさは、一瞬私の感覚を麻痺させた。そして意識を完全に取り戻させた。哀世を愛せなかった時の二の舞にはなりたくなかった。

「…………それが無理ならここで思いっ切り足掻いて、生きればいい。生きていればいつかは見つかるさ。」
「……………信じたくないよ。信じることは………」
「信じることは?」

私は言葉に詰まった。詰まって当然だった。とても一言で表せるほど軽いものじゃない。…………ただ、表せる言葉があるというなら!

「…………怖い!」

少しの間沈黙が走ったのち、今度は軽いように応えたような気がした。

「この船はね、言わば旅をしているんだよ。行き先はないけどね。もし君が興味を持ってくれて、ほんとに大切なことを見つけたいなら…………」

“行こうよ”

私もまた軽く答えたつもりだ。
「………見つかる保証はあるの?」
「もちろんさ。………この船はね、名前っていうものがないんだ。guarantee(ギャランティー)とでも名付けよう。それが保証ってことでいいかい?」

私はこくりと返した。

「ところで君の名前ってものは?」
「………もう忘れた。」
「ならmina(ミナ)と呼ぶけどいいかい?」

私は返事を返す前に聞いた。

「なら、貴女はこの船の命なんでしょ?mei(メイ)と呼ばせてもらうけど?」
「…………お好きにどうぞ。」

そのとき、海を深く通る流れは、一段と透き通って見えた。落とし物を探す流れる旅の始まりは、いつにもなく飾らなかった。


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