これは大召喚が起きてから20年ほど経った時代。
秀真国にある地方都市・冬木市に住まう人々の物語。
【始まりましたぁ。「ベヘモット・G」の賞金一億円を賭けた超・人・大・武闘会】
【有名どころの鎮伏屋はだいたい揃ってるぞ!】
【初っ端わぁ――】
【『H・N「変身」』、通称、浪速天使! 上池田・美奈歩ぉぉぉぉぉ】
【対戦相手はぁ】
【『H・N「鋼鉄の麗人」』バゼット・フラガ・マクレミッツぅぅぅぅ】
バゼットは初戦か……。
対戦相手は俺でも知ってる超有名人。
大召喚以降、関西復興の力となった少女。
26の必殺技や真必殺技・音声変換拳の使い手で、人間最強とも言われる。
鎮伏屋の雑誌で「正義の味方」を目指していると書いていたので、妙に共感をしたのを覚えている。
今から20年ほど昔。
とある魔術師と十人の超能力者が起こした「大召喚」。
その所為で、至る所に魔界や異界、更に妖怪や悪魔、幻想種が出現し、人類り1/3は死滅した。
秘匿されていた魔術は今や一般的となり、魔術協会などは「中央」の圧力もあり、本来あるべきギルドとしての形に戻ったとか。
流石に魔術師達も、伝説の魔神・魔王級の悪魔が雁首揃えて来られたらどうしようもない。
封印指定されていた魔術師も一部は野に放たれているらしい。
魔術使いの俺は元々あまり興味は無く、この話も遠坂からの最近聞いた話である。
因みに遠坂は、アーチャーと共に怪異討伐のため出かけている。
遠坂の魔術は金がかかる。
この混沌世界では、常に一定の武装をしておかないと、何が起こるか分からない為、鎮伏屋家業で稼ぐしかないのが現状だ。
ただ賞金金額が高い怪異ほど当然強い。当然、酷使した分、宝石は減っていくわけで……。
たまに赤字だと愚痴る事が多い。
「シロウぉぉぉぉぉぉ」
珍しく大声で叫ぶ声がすると、いつもでは考えられない格好をしたイリヤがいた。
「イリヤ? ど、どうしたんだ。その格好は?」
「……リンの所為よ」
「遠坂の?」
イリヤはテレビに出てくる魔法少女の格好をしていた。
「ええ。お金が貸すに当たって魔術礼装を担保に取ってたのを思い出して、どんな物かと思って起動させたら、この様よ」
『えー、この様とは酷いですよイリヤさん。平行世界のイリヤさんは、とても気に入ってくれて、嬉し涙がでるほどだったのに』
それは本当に嬉し涙か?
「とにかく戻しなさい。今すぐに!」
『えー、勿体ないですよ。元マスターの凛さんは魔法少女適正年齢ギリギリですし、それにやはり魔法少女は汚れない処女でないと。ネ、シロウさん?』
「シロウ……」
「なんのことだかわかりません」
おかしい。暖房が効いているはずなのに、極寒の寒さに襲われる。
とりあえず魔術礼装は、碌でもない物だという確信は持てた。
直感だがブレーキー役の片割れがいない気がする。ナゼか。
さっさと契約を解除するとしよう
『む。それは裏切りの魔女ことメディアさんの宝具【破戒すべき全ての符】……』
「これの事を知ってるのか」
『平行世界でカルデアと言う所で顔見知り程度には?』
なぜ疑問符が。
それに顔見知り程度でなぜ宝具まで知ってるんだ。
後に聞いた話だが、この魔術礼装は宝石翁が作った物らしく限定的に第二魔法が使え、平行世界の自分のデータを共有できるとか。
知識が増えるだけで、技が増えたり、魔力供給とか、意識を移動させるとかは無理らしい。
『せっかく手に入れたマスター(おもちゃ)を、簡単には手放せません!!』
「ルビ。凄く気になるルビがあった!」
「待ってろイリヤ。今、助けるっ」
『まるで私が悪役みたいじゃないですか!』
「どこから見ても悪役よ!」
『よよよ。でも、簡単には私との契約解除はできませんよー』
イリヤの周りに光弾が現れ、こっちに向かって来た。
遠坂のガンドほど早くないので躱せるっ。
光弾を躱しながら、イリヤの元まで近づくと、足に痛みが奔りバランスを崩す。
今までの攻撃は意識を上に集中させるためのデコイ……っ
「士郎、ごはんー…………………………………………………………。なに、してる」
気がつくとイリヤを押し倒している絵面になっていた。
しかもイリヤの服装は、魔法少女衣装から、いつもの服へと変わっていた。
「ふ、藤ねえ、おちつけ。これは事故なんだ」
「事故? なら、その手は何かな~」
「手?」
左手は畳、右手はイリヤの胸。
……・。
「うがぁぁぁぁぁああ。士郎がロリ道に堕ちたぁ。こうなったら意思でも連れ戻すんだからっ」
藤ねえから魔力の高まりを感じる。
やばい。ジャガーマンが起きたか。
藤ねえは大召喚の際に地球上に生み出された新人類「二重人間(ダブルマン)」だ。
「二重人間(ダブルマン)」は、別名「二重螺旋に住む者(ア・バオ・ア・クー)」とも呼ばれている。
召喚された際に生物同士が融合した存在。
大抵の場合は、否定し合い自壊するが、稀に互いに存在を認めて生き残る者たちがいた。
藤ねえもその中の1人だ。
確か藤ねえと融合したのは、中南米にいる神霊だとか。
神霊クラスの存在と融合した「二重人間(ダブルマン)」は本当にごく僅かで、知っているのは俺を含めてほんの一握り。
下手すれば「中央」に連行されてモルモット扱いされる可能性も否定できない。
そうなれば、たぶん俺は中央に殴り込みをかける。喩えそれが無謀な行為だとしても。
「うがぁぁぁぁあああ」
手に持っている肉球の槍(?)を振り回す。
イリヤはいつのまにか居なくなっていた。
つまり誤解を解く事は難しくなった。
「ふ、藤村先生。どうしたんですか!?」
「桜。藤ねえをなんとか止めてくれ」
「桜ちゃん。私じゃなくて士郎を捕まえて。イリヤちゃんを押し倒して胸を揉みまくるロリ道に堕ちたんだから。連れ戻さないと!」
「分かりました。先輩、覚悟して下さい」
あ、桜から黒いオーラが見える。
目ノ錯覚カナ?
2人相手に抵抗するなんて無意味。
俺は直ぐに捕まり、正座をさせられ、2人の強烈なプレッシャーの前で説教を受ける羽目になった。
なんでさ。俺は、悪くない、はず……。
続く