けいおん！〜例えば、俺が全てを忘れても〜、前回起こった三つの出来事！
一つ！ ついに始まった最後のライブ！ 自分達の全てを出しきるように、放課後ティータイムは歌い続ける！
二つ！ なんかバレていた藤馬！ 唯達に改めて告白され、決心する！
三つ！ 突如現れたバンド、TETRA-FANG！ 今、藤馬の想いが届く！
Count・The・Medals&Flags！！ 現在、藤馬が持っているメダル&立てたフラグは……？
タカ×1
クジャク×1
コンドル×1
クワガタ×1
カマキリ×1
バッタ×1
ライオン×1
トラ×1
チーター×1
サイ×1
ゴリラ×1
ゾウ×1
シャチ×1
ウナギ×1
タコ×1
プテラ×3
トリケラ×2
ティラノ×2
平沢 唯
秋山 澪
田井中 律
琴吹 紬
中野 梓
平沢 憂
須藤 美紗
ーー三人称side
『これから俺達、TETRA-FANGのスペシャルライブを行いたいと思います！！！』
「「「「「ええーっ！？」」」」」
藤馬の宣言に、驚く軽音部メンバー。 観客は沸いているものの、何が何やらサッパリである。
ちなみに配列を確認しておこう。
ギターはラモン。 次狼がベース。 リキがドラム。 そして藤馬がヴァイオリンとアコースティックギターの四人。 全員が唯達の楽器を勝手に使っているが、良いのか？
……突然の事態に驚いたが、唯達はやっと落ち着いてきた。 まぁライブをするのは良い。 だが時間はあるのか？ 見れば和がこちらを見て、ピースしている。 時間はどうやらたっぷりあるらしい。
『それじゃ一曲目……の前に、吹奏楽部カモン！』
藤馬が言うと、サックス等の木管楽器を持った吹奏楽部が出てくる。 藤馬はそれを見届けるとアコギを持ち、曲紹介に入る。
『つーわけで、改めて一曲目！……Anything Goes！』
『1・2・1・2・3・4！！！』
ーー演奏♪ Anything Goes！ TETRA-FANG with桜高吹奏楽部ver
リキの力強いドラムからラモンのギターが走り、サックス等の木管楽器が吹き出す。それに続く形で、藤馬と次狼がマイクを握る。
要らない持たない夢を見ない
フリーな状態……それも良いけど
（こっから始まる The show we,re waiting for
Count the medals 1.2and3）
放課後ティータイムとは違う、ロックな曲。なんかオーズの主題歌らしいが、藤馬としては関係ない。 ただこの曲が気に入った。それだけである。 藤馬はそのまま最後のサビまで一気に歌い上げる。
Anything Goes！ その心が熱くなるモノ
満たされるものを探して
Life goes on！ 本気出して
戦うのなら 負ける気はない
Anything Goes！ 加速ついて
止められなくて 負ける気しないハズ
……藤馬は息を整え、アコギを置く。 そしてマイクを握り、また喋り出す。
『つーわけで、Anything Goes！でした！ 協力してくれた桜高吹奏楽部のみんなに、大きな拍手を！！』
観客から惜しみ無い拍手をされながら、吹奏楽部はステージから退場していく。 退場したのを確認し、藤馬は前を向く。
『じゃあここら辺で、メンバー紹介と洒落こみましょう……まずはベースの次狼！』
『どうも。 ベースの次狼だ……よろしく頼む』
「渋くてかっこいいーっ！」
「こっちむいてーっ！」
『ふ、ふふふ……そんなにカッコいいか、藤馬？』
『黙ってろエロ狼め』
現役女子高生にかっこいいと言われ、だらしなく鼻を伸ばす次狼。 本当に残念な奴である。 まぁすぐに、遠くからさわ子が自分を睨んでいることに気づいた為、戻ったが。
『次はギターのラモン！』
『えーと……今日は僕達のライブ、楽しんでください！』
「可愛いーっ！」
「ラモンくーん！」
『ありがとーっ！』
次はラモン。 ラモンは日頃から唯やら憂とかに可愛いと言われている為、こういうのに免疫はある。 むしろ無い次狼が可笑しいのだ。 すると、
「あーっ！ ギー太が寝取られたーっ！」
「こんなところで言わないでくださいよ……恥ずかしいじゃないですか」
自分のギターが使われていることに気づき、今更ながら騒ぐ唯。 いつもの部室なら良いが、ここは講堂だ。 はっきり言って恥ずかしい。 梓は周りに謝りながら、ため息を漏らす。
『それじゃあ最後に、ドラムのリキー！』
『……』
『ってあれ？ リキどうした？』
というわけで最後にリキ。 だがリキは仏頂面のままで、何も言わない。 すると、
『澪……藤馬、好き……俺……うぅ』
『………げ！？』
藤馬はやっと思い出した。 リキは澪のファン、俗に言う澪ファンだということに。 さっき澪が自分に言った『大好き』は、リキにとって核爆発より衝撃的なものだっただろう。
『あー……そのー……リキ？』
『藤馬……良い奴……でも……お前のせいで……澪……泣いたら…………潰す』
『は、はいっ！！』
リキのマジな目に、思わず敬礼する藤馬。 アレは前に、澪のグッズを壊した時にマジギレしたリキの目だ。 下手すればこの講堂がぶっ壊れる。 そんな事態は起こしたくない藤馬は、曲紹介に入る。
『そ、それでは次の曲、行きましょう！ Super nova！』
ーー演奏♪ Super nova
今回は何も持たない藤馬。 どうやらボーカルに専念するようだ。 そして、歌い出す。
いつも足りなくて 言い訳的な諦め
ずっと積み上げていた 隠すように
どこか自分のことを言っているような、そんな錯覚をしてしまう。 それぐらい自分の過ごしてきた日々とこのSuper novaは、シンクロしている。
制御不能 熱い炎 戸惑いを焼き払い
昨日までの感覚 忘れさせる
No one ever knows 僕の音
どこまでも 進化する
藤馬はマイクを力強く握り、観客を見る。 その中でも目の前にいる唯達。 とても楽しげに手を上げていて、笑顔だ。 藤馬はそれを確認すると、更にヒートアップさせる。
まだ知らない自分が 目覚めてく……Super nova
見えない暗闇の中……
微かな光 創り出すように
……歌いきった。 藤馬は汗を吹き、マイクをくるんと回し喋り出す。
『……というわけで二曲目、Super novaでしたーっ！ そろそろ時間もないので、次で最後になります！！』
「えーっ！？」
「もっと聞きたーい！！」
『あはは……ありがとうございます！』
観客からの言葉に、藤馬は嬉しくなる。 放課後ティータイムのライブが全て終わったとはいえ、いきなり飛び入りで入った自分達。 そんな自分達を応援してくれたのだ。 嬉しくないわけない。
『ここで……少しだけ、俺の話を聞いてください』
藤馬はそう言って、深呼吸をする。 一回、二回、三回……息が整ってきた。 今からすることは馬鹿らしくて仕方ない。 だけど今この時にしなければ、絶対に後悔する。
『俺には、彼女が居ます。 つっても一人じゃなくて七人も居るし、他の人からしたら本当に好きなのかって、言われると思います。 事実彼女の一人から、そう言われましたし？』
そう言って藤馬は梓にウインクする。 梓はむすっとしているものの、他の四人から押さえられた。藤馬は苦笑しながらも、晴れ晴れとした顔で続きを話す。
『だけど俺は、今この場所で……はっきり言えます。 俺は世界中の誰よりも、みんなのことが大好きです。
みんなが言うなら、この場で死んでやります。 みんなが言うなら、いつまでも歌い続けます。 みんなが言うなら、違う世界でも駆け付けます……。
例えば、俺が全てを忘れても。 この気持ちはいつまでも変わりません』
馬鹿だと思う。 一回全部忘れた時だって、みんなに酷いことを言った。 忘れるというのは、前の自分から変わるということだ。 自分のことさえ分からなかったぐらい、自分は変わってしまった。
けれど。
そんな中でも、変わらなかった想いがあった。 記憶が無くても、刻み込まれた景色があった。
そう。 みんなへの気持ちだけは、例え全てを忘れても変わらなかったのだ。
『さっきも言ったように、俺は仮面ライダーです。 なので今まで死にかけたことも、沢山ありました。 だからみんなとずっと居ることなんて……きっと出来ない』
今回のことで、それが身に染みて分かった。 あのアークとは、これから本格的に戦うになる。 前はキバの鎧からでも、自分の身体を叩き潰されたぐらいだ……多分勝つのは、難しい。
でも二百年という時は、同時に自分を強くしてくれた。 前とは違う。 仲間も力も愛する人も、自分には全部ある……だから、今だけは。
『永遠に一緒、なんて無理です。
だけど、今この時だけは……。
俺といつまでも、一緒に居てくれますか？』
全員の視線が、唯達へと注ぐ。 観客はこの疑似プロポーズに『キャー！』という感じで叫び、数少ない男子である弦太朗とオトヤも、カチコチに固まる。 すると、
『え、えっと……』
ステージから退場する前に持っていたマイクを握り、顔を真っ赤にする唯達。 さっき自分達が言ったのはあくまで告白であり、まだ良かった。 だがプロポーズとなると、話は別次元だ。 例えるならそう、カローラとリムジン的な感じ。
唯は視線をキョロキョロ動かしながら、ゆっくりと喋り出す。
『こんな……こんなわたしで、いいの？』
『そう思うなら、もうちょい天然を直してくれ』
『む……そんなの今言わなくても良いじゃん。 ばか……』
『お前だけじゃねぇぞ？ 唯以外のお前らもだ』
藤馬に言われ、びくっとする六人。 藤馬はそのまま、順番に直してほしい所を言っていく。
『梓は毒舌だろ？』
『……私、そんな言ってないです』
『澪は恥ずかしがり屋』
『それは無理』
『律は左フック』
『お前が変なこと言うからだろ！？』
『ムギはもうちょい、一般常識を学んでほしいし』
『そ、そうなんだ……』
『憂ちゃんは小悪魔キャラ』
『わ、私そんなのやってませんよっ！？』
『美紗は〜……まぁヤンデレ化しなけりゃ、良いや』
『もうしないよ！？』
こんな場所で好き勝手言われ、恥ずかしさもMEGA MAXな面々。 しかしそれと同時に、顔を見合わせて微笑む。
『なっちゃん』
『ん？』
『……ずっと、一緒だよ』
『ああ……ずっと一緒だ』
藤馬が親指を立てる。 唯が頷いたのを皮切りに、TETRA-FANGは楽器を構え、曲紹介に入る。
『この曲は、俺が作詞させてもらいました。 テーマは愛！ 恋する全ての人達に贈る、そんな唄です！！！ それでは最後の曲、聞いてください……。
涙のち笑顔！！！！』
ーー演奏♪ 涙のち笑顔
藤馬のブラッディ・ローズのメロディーが響く。 それは何処か悲しそうだが、徐々に楽しそうな音へと変わっていく。 そこから他の三人も弾き出し、藤馬は歌い始めた。
ゆっくりと過ぎる この世界で
人は悩む 人は悲しむ
この気持ちを いっそ無くせたら
あの太陽みたいに 輝けるかな？
千の涙と 一つの笑顔
きっと世界は そうやって出来てる
でも僕は そんな世界を変えたい
叶わない夢なら 見ない方が良い？
なら一緒に笑顔に変えようよ！
キミの涙は いつだって
誰かを悲しむ涙
キミの笑顔は いつだって
誰かと楽しむ笑顔
まるで太陽みたいに キミの笑顔は輝く
涙のち笑顔
夢みたいに過ごす この世界で
キミは嘆く キミと争う
この気持ちを キミに伝えれば
キミの涙は 笑顔に変わるかな？
千の命と 愛する人達
ヒーローでも 片方しか救えない
なら僕は どちらも助けてみたい
叶わない夢なら 見ない方が良い？
それならキミは見てみぬフリをする？
僕がしたいのは いつだって
キミが笑顔になること
僕がしたいのは いつだって
キミの涙を拭くこと
まるで嵐みたいに キミはどこかへ去っていく
二人のち一人
込み上げる涙が止まらなくても
きっといつかは笑える
この手でキミの涙が 笑顔に変わるなら
僕はキミだけの僕になろう
さぁ唄おう 一緒に……
キミが好きだから いつだって
一緒に歩いていたい
キミが好きだから いつだって
全てから君を護るよ
僕が走った道は みんなには見えないけど
（Even If l forget all この愛だけは 永遠に……）
僕が唄うなら いつだって
この想いを届けたい
キミが紡ぐのは いつだって
とびっきりの愛の唄
世界に響いたなら きっと明日は幸せ
みんなに届いたなら 愛は世界に溢れる
涙のち笑顔……
ーー藤馬side
「……終わったなぁ」
そんな気の抜けた声を出しながら、俺達は壁に身を委ねた。 夕日が差し込んだ部室を見て、俺はため息をつく。
ライブが終わり、約一時間。 片付けやらなんやらかんやらで時間はあっという間に過ぎ、気づけば部室に居た。 それぞれの楽器を持って、ぼーっとする俺達。 そのまま十分ぐらい経った時だった。
「……大成功、だよね？」
「多分。 そうだと思うけど……」
「ていうか、最初のTシャツでふっ飛んだ……」
「私もです……」
「ちゃんと演奏出来てたか、わかんないわ……」
「そうだなぁ……」
「……でもっ！」
隣に居た唯がキラキラとした表情で、俺達に言ってくる。
「すっごく楽しかったよねっ！？」
「うんうん♪」
「ああ……そうだな」
「そうですね！」
「おう。 最高に楽しかった！ だよな？」
「もちろん！」
「じゃあ、次は何しよっか？」
みんなで笑い合い、言葉は紡ぐ。 誰も黙ったりしない……黙ってればどうなるかなんて、自分達が一番分かっているから。
「やっぱりお菓子食べようよ！」
「おーっ♪ 部費なら一杯あるぞ！」
「ダメよ？ 私、今日も持ってきてるもん！」
「流石ムギさん！ じゃあ食べてから、次のこと考えっか？」
「うん！」
「次は、クリスマスパーティーだな！」
「それが終われば、お正月ね！」
「初詣に行きましょう！」
「そしたら、次の新歓ライブかぁ……っ…」
「またみんなで…泊まりこんじゃおっか？」
「楽しみだね！ 次はぁ……ぅっ………」
一つ、一つ。 ありもしない未来を想像しては、胸が張り裂けそうになる。
今回で最後。 そうみんなで言って、望んだライブ。 最後を最高に楽しみまくれば、そんな気持ちも割りきれると思っていた。
だけどそんな簡単に、割り切れるハズがない。
みんなの目には涙が溜まり、その涙も拭かずに喋り続ける。
「……ってぇ、次はないないっ」
「来年の学園祭は…もっともっと、上手くなってるよ……？」
「お前留年する気か？ もう次はないの！…っ…」
「そっかぁ……それは、残念だねぇ……っ…」
「やだやだぁっ！！！」
ムギが突然そう言って、だだをこねる。 ここにいる全員が、恐らくそんな気持ちだと思う……かくいう俺も、そんな気持ちだから。 だけど、
「ムギ先輩、わがまま言わないで！ 唯先輩も、子供みたいに泣かないでください！」
そんな後輩の声が、俺の耳に届く。 見ると、梓がいかにも無理したような感じで、笑顔を作っていた……多分、俺達を送り出しているのだろう。 自分の道を進めと。 それが分かった俺は涙を拭き、みんなに声をかける。
「おいおい唯、そんな泣くなって。 ほらムギも！」
「これは……汗だよぉ…ひぐっ…」
「と、とうま…くん……っ」
「みーお……でこぴーん……っ…」
「……律だって泣いてるくせに」
「あたしのも汗だ！」
それぞれが前を向けるように。 みんなが精一杯涙をこらえ、笑顔になる。
「良かったよな！？」
澪が言う。 ただ、最後に確認したくて。
「……ホントに！ 良かったよな！？」
「うん！ うん！」
「私もみなさんとバンド出来て、幸せです！」
「ううっ……みんなぁ！」
唯が我慢出来なくなったか、抱きついてくる。 それを皮切りに、みんなが俺に次々と抱きついてきた。 俺は優しくみんなを包み込む。
「……っておい！？ 鼻水付いてるぅ！」
「あ、ごめん……でも止まんなくてぇ……っ……」
「ごめんなさい……私も……全然……」
「ちょっと唯！ 鼻水鼻水！」
「先輩！ 少しぐらい我慢してくださいよ！？」
「……ぐすっ……ひぐっ……」
「あーもう！ 泣けやお前ら！ とりあえず泣けば治まんだろ！？ 今だけはずっと一緒に居てやるから！！」
「「「「「………………………うわああああああああああああああああああああんっ！！！」」」」」
俺はぐちゃぐちゃに泣くみんなを受け止めながら、自分の涙を拭く。
そう。
永遠なんて、無理だけど。
ーーーー今だけは、ずっと一緒だから。
ーー三人称side
「みんな、喜んでましたね〜」
「Tシャツ作戦、大成功！」
「先生達って、ある意味プロですよね……」
軽音部へと続く階段を登る、三人。 美紗、さわ子、和。 この三人が協力しなければ、ここまで感動しなかっただろう。 そろそろ終わった頃だろうし、打ち上げでもしようと思ったようだ。 そしてさわ子が思いっきり、部室の扉を開けた。
「みんな……」
部室の中を見て、三人は一瞬あっけに取られたが、すぐにそれは笑顔に変わる。
全員が、手を繋ぎながら眠っていたからだ。 さっきまで泣いていたのか、その目は少し腫れていた。 けれどその手を絶対に離さないように、固く優しく繋いでいる。
「……行きましょうか？」
「はい。 行こ、和？」
「良いの？ まざらなくて？」
「今回は特別ってね♪ 今度何かおごってもらうよ」
「ほんと、抜け目ないわね」
そんな会話をしながら、三人は部室から出ていった。
藤馬は少し気持ち良さそうに身をよじらせた後、手を握り直す。
……ずっと、一緒。
ーーto be continued