「えっ!? 同じ素材で軍艦巻きを!?」
ここは東南アジアに存在するとある島。
トカゲの惑星の異名を持つトカゲだらけの僻地だ。
世界料理人選手権の会場である(まともな料理人が参加しているとは言ってない)。
そこで日本人料理人であるスグルは苦境に立たされていた。
審査員から言い渡された料理は軍艦巻き。
しかも素材はライバル選手と同じものである。出来るわけがない。しかし、
「できらぁ!」
スグルは叫んだ。
挑戦を受けて立ったのだ。
彼の目の前にいるアジア料理人・ラムーは高笑いを浮かべていた。
「本当にできるというのか!? スグル!」
彼が作った料理はトカゲ料理。
すなわちスグルが同じ素材を使うとなると、必然的にトカゲを使うことになる。
トカゲを使った軍艦巻きなど前代未聞だった。
スグルは苦渋の表情を浮かべながら思った。
(クソッ、こいつら……!)
ぐぐぐ、と拳を握り締め、キッ! と視線を強めた。
(どうして軍艦巻きなんてもんを知ってやがるんだ!!)
鉄火巻きでもない、カリフォルニア巻きでもない。
そもそもメジャーなのは巻きじゃなくて握り寿司だろコンニャロォ! という所である。
日本人であっても日本料理全てに精通しているわけではない。
スグルは軍艦巻きの作り方を知らなかった。
目の前にあるのは色とりどりのトカゲである。
これが軍艦巻きの素材でないことは分かる。
だが正解はなんだ?
スグルは眉間にシワを寄せて苦悶の表情を浮かべた。その時である。
「逆に考えるのよ! スグル!」
覆面を被った女が突如として現れた。
「あ、あんたは……!」
スグルの視線の先にはチャイナ服を着て覆面を被った女がいる。
彼女は自称・フランスの星。銀髪の謎の少女だった。
「この会場の誰も! あなた自身も! 本物の軍艦巻きなんてロクに知らないわ!
だったら作るのよ! あなた自身の手で! 全く新しい軍艦巻きを!」
おいこの女とんでも無いこと言い出してるぞ、という審査員の声をスグルは無視した。
そんなことより大事なことがあったからだ。
(いつも思うけどおかしいぜ……なんでフランスの星を名乗ってチャイナ服なんだ……?)
もちろんフランス人が金髪タテロールというのは時代錯誤な思い込みだろう。
だけどわざと別の国のノリを出す必要もないと思うのだ。
「どうしたスグル! 諦めるのか!」
ライバルのラムーがスグルを攻め立てる。
チクショウやってやるよ、スグルは足の爪先に力を込めた。
「できらぁ!」
その後彼らの勝負がどうなったか知るものはいない。