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No.4285の一覧
[0] 逃亡奮闘記 (戦国ランス)[さくら](2010/02/09 17:04)
[1] 第一話[さくら](2008/10/14 08:51)
[2] 第二話[さくら](2009/12/08 15:47)
[3] 第三話[さくら](2008/10/22 13:09)
[4] 第四話[さくら](2008/10/22 13:12)
[5] 第五話[さくら](2008/10/30 10:08)
[6] 第六話[さくら](2008/11/04 21:19)
[7] 第七話[さくら](2008/11/17 17:09)
[8] 第八話[さくら](2009/03/30 09:35)
[9] 番外編[さくら](2009/04/06 09:11)
[10] 第九話[さくら](2009/09/23 18:11)
[11] 第十話[さくら](2009/09/26 17:07)
[12] 第十一話[さくら](2009/09/26 17:09)
[13] 第十二話[さくら](2009/09/28 17:26)
[14] 第十三話[さくら](2009/10/02 16:43)
[15] 第十四話[さくら](2009/10/05 23:23)
[16] 第十五話[さくら](2009/10/12 16:30)
[17] 第十六話[さくら](2009/10/13 17:55)
[18] 第十七話[さくら](2009/10/18 16:37)
[19] 第十八話[さくら](2009/10/21 21:01)
[20] 第十九話[さくら](2009/10/25 17:12)
[21] 第二十話[さくら](2009/11/01 00:57)
[22] 第二十一話[さくら](2009/11/08 07:52)
[23] 番外編2[さくら](2009/11/08 07:52)
[24] 第二十二話[さくら](2010/12/27 00:37)
[25] 第二十三話[さくら](2009/11/24 18:28)
[26] 第二十四話[さくら](2009/12/05 18:28)
[28] 第二十五話【改訂版】[さくら](2009/12/08 22:42)
[29] 第二十六話[さくら](2009/12/15 16:04)
[30] 第二十七話[さくら](2009/12/23 16:14)
[31] 最終話[さくら](2009/12/29 13:34)
[32] 第二部 プロローグ[さくら](2010/02/03 16:51)
[33] 第一話[さくら](2010/01/31 22:08)
[34] 第二話[さくら](2010/02/09 17:11)
[35] 第三話[さくら](2010/02/09 17:02)
[36] 第四話[さくら](2010/02/19 16:18)
[37] 第五話[さくら](2010/03/09 17:22)
[38] 第六話[さくら](2010/03/14 21:28)
[39] 第七話[さくら](2010/03/15 22:01)
[40] 第八話[さくら](2010/04/20 17:35)
[41] 第九話[さくら](2010/05/02 18:42)
[42] 第十話[さくら](2010/05/02 20:11)
[43] 第十一話【改】[さくら](2010/06/07 17:32)
[44] 第十二話[さくら](2010/06/18 16:08)
[45] 幕間1[さくら](2010/06/20 18:49)
[46] 番外編3[さくら](2010/07/25 15:35)
[47] 第三部 プロローグ[さくら](2010/08/11 16:23)
[49] 第一話【追加補足版】[さくら](2010/08/11 23:13)
[50] 第二話[さくら](2010/08/28 17:45)
[51] 第三話[さくら](2010/08/28 17:44)
[52] 第四話[さくら](2010/10/05 16:56)
[53] 第五話[さくら](2010/11/08 16:03)
[54] 第六話[さくら](2010/11/08 15:53)
[55] 第七話[さくら](2010/11/12 17:16)
[56] 番外編4[さくら](2010/12/04 18:51)
[57] 第八話[さくら](2010/12/18 18:26)
[58] 第九話[さくら](2010/12/27 00:35)
[59] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ[さくら](2010/12/27 00:18)
[60] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ(ふぁいなる)[さくら](2011/01/05 16:39)
[61] 第十話[さくら](2011/01/05 16:35)
[62] 第十一話[さくら](2011/05/12 18:09)
[63] 第十二話[さくら](2011/04/28 17:23)
[64] 第十三話[さくら](2011/04/28 17:24)
[65] 第十四話[さくら](2011/05/13 09:17)
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[4285] 第十二話
Name: さくら◆206c40be ID:70f93ce2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/28 17:23
「なんかね、最近さ、モテてるような気がするんだよね。人生に三回しかないっていうモテ期? それが来てるっていうか、確定だと思うんだよね。ビッグウェーブが来ているとしか思えない。ならこのビッグウェーブに乗るしかないだろ。最近雪姫様、俺のご飯毎日よそってくれるし。昨日なんか、肩まで揉んでもらったし。けど、ここまでいい事ばっかりだと、そろそろ落とされる気がするんだよ。ここの神様的な意味で。あのクソクジラがいるし。モテ慣れてないから、的な? 感じだったらいいんだが。そこんとこ、どう思う、太郎君?」

「……えーと」

取り敢えず、太郎の出した言葉はそれだけだった。

兄貴分である祐輔が自分の部屋に来たかと思うと、悩みがあるという。
太郎はメンドクサイ事この上ないので、すぐさま追い返そうとした。追い返そうとしたのだ。
しかしながら祐輔が勝手に悩みを打ち明けだしたので、冒頭のようになったというわけなのである。

「ひとまず、落ち着きましょう」

それは自分に言い聞かせた言葉なのかもしれない。
ツッコミ役が板についてきた太郎だが、こんなには一度に処理できない。
だから太郎はまず、箇条書きにツッコミ所を纏めてみる事にした。

・モテ期が来てる? ないない。
・ビッグウェーブてなんぞ?
・どんだけ疑り深いんだよ!
・お前がモテ慣れてない(笑)とか、知らないよ

集約すると、いきなりモテ出して困惑しているらしい。
――――なんだ、簡単じゃないか。

「死ねばいいのに」

「なぜっ!?」

弟分から浴びせられた冷ややかな罵声に、祐輔はショックを受けた。
にやけてテンションが上がりすぎて、気持ち悪いんだよ。と、太郎は率直に思った。
実際、中途半端にモテ出しているので、完全に否定して祐輔の人格を破壊できないのが辛い所だ。

「ほらっ、もうそういうのはいいですから。
今日は北条から妖怪退治を希望する使者が訪れていると、何故か僕に通達が来ましたから。
…というか、何故僕のところに来るんです?」

「最近一緒に行動しているからじゃないかな? 二人一セットの扱いなんだろ、多分」

「この国って、一体…」

他国の使者に、こんな重要情報流してもいいのだろうか。
いいのだろう。普通なら、他国からの使者なんていう情報、重臣しか知らない。
北条が妖怪退治の機関であるという事情を鑑みても、これはおかしい。

日々自分の中にある、常識が破壊されつつある太郎だった。



関東に位置する、北条家。
一戦国大名としての立場もありながら、同時にJAPANにおいて重要な役割を持っている。
妖怪による被害が起こった国が北条家に要請し、超法規的に他国へ入る事を許されているのだ。

「あれ? 今日も、俺だけ?」

「アニキだけみたいっすね。
というか、アニキが来る前だったら、城にも通さないっす。
勝手に国に入って、勝手に退治していきやがりますし」

「……? 勝手に、やってたんだ?」

「そうっすよ。でもアニキ、外務担当て きくの姉御が言ってましたし。
これから来客があればアニキに通すように言ってたんで、これでどやされずにすむっす」

「今まで勝手に他国の人間入れてたのかよ!?
それに挨拶もなしに、妖怪退治頼んでたのか!? てか、頼んですらいなかったのか!?
どんだけ北条家優秀なんだよ!? 申し訳なさすぎるわ!」

太郎と違い、即座に全てのツッコミ要素にツッコミを入れる祐輔。
年季が違うのだ、年季が。何の年季かと問われれば、困ってしまうが。
しかし今までの対応を聞き、あまりのずさんさに頭が痛くなる祐輔だった。

「ああ、しかし、毛利だと納得してしまう自分がいる。
基本的に世紀末な人間しかいないからな…」

もういいや、使者連れてきてよ。
了解でさぁ! アニキ!

しっしっと力なく手でモヒカンを追い払う祐輔に、快活な返事をするモヒカン。
モヒカンは「ヒャッハー!」と叫びながら、慌ただしく階段を駆け下りて行った。

「北条か」

モヒカンが使者を連れてくる間、北条家について情報をまとめる祐輔。
北条家という存在事態には特に興味はないし、特筆すべき問題があるわけでない。
だが北条家にいる二人の人物が、物語の根幹を成す人間なのだ。

「北条早雲は来ないだろうな。国主だし。よっぽどじゃないと」

二人の人間の内、一人の名前は「北条早雲」。
北条家は世襲制であり、今代の北条早雲に選ばれた男である。
その実力は歴代の北条早雲よりもずば抜けて高く、最も初代に近い男と呼ばれていた。

実際にゲーム内においても、厨キャラと呼ばれる程だ。
高い行動力と速さ、攻撃・防御の多様性、そして特筆すべきは理不尽な攻撃力。
陰陽師ユニットにおいて、妖怪である九尾の狐を除けば一番強いのだ。

しかし祐輔の言うように、北条早雲は国主。
日々尋常ではない量の仕事があるし、武田との戦が終わったわけでない。
こんな西国の国にまで遠征する事はできないだろう。

それなので、今日訪れる可能性があるのは、もう一人のキーパーソン。
運良く当たってくれればいいが…祐輔は内心で少し期待しつつ、左腕の包帯をキツク締め直す。
毛利元就もいるので問題はないと思うが、下手に相手の猜疑心を煽る必要ない。

「はぁ…化物、か」

シュルシュルと締め直す包帯。
そこから現れた獣の腕は、今では肩口にまで侵食している。
つい数ヶ月前までは肘までしか無かったというのに、驚くべき侵食速度だ。

(…………)

きっかけは自覚している。
以前は雀しか操れなかったというのに、今ではカラスまで操る事ができる。
鳥類の中でもカラスの賢さは群を抜いている。それを問題なく操れるのだ。

「行く、か」

だが振り返ることはできない。
確かにあの時、力がなければ救えなかった命もあった。
その命を救うという事は、同時に失う物もある。

だがこの時祐輔は気付いていなかった。

――――――等価交換―――――――

何かを得るためには、何かを失わなければいけない。
何もそれが、自分から失われていくとは、限らないのだから。

【………ヒヒッ】

限りなく遠く、限りなく近い場所で。
何かの不気味な笑い声が響いた。



祐輔が部屋に入り、まず目に入ったのは紫陽花のように鮮やかな紫の髪。
陰陽師と思しき装束に身を包んだ紫の髪の女性は、佇まいをただして祐輔の入室を見守った。
彼女の後ろには複数名の陰陽師がいるが、彼女がこの一団のリーダーである事は明白だ。

「おいおい」

凛とした意思の強そうな瞳。
それらの特徴から、祐輔は一人の人間しか頭に思い浮かばなかった。

「南條蘭…? あんた、ひょっとして、南條蘭か?」

「ええ、そうですが。どこかで面識が?」

ぱちくりと目をまばたかせ、祐輔を見返す蘭。
また思わぬ好機か、厄介事が迷いこんできた物である。
とんでもない不発弾が飛び込んできたのだった。

不発弾。
この表現は何よりも正しい。
祐輔を胡散くさいといった眼差しで見る蘭こそ、ザビエルの最後の使徒「朱雀」を体内に封印されているのである。

ザビエルには五体の使徒がいる。

猿―――藤吉郎
白虎――煉獄
青龍――式部
玄武――魔導

そして最後の一体、朱雀――戯骸。
四神の一、炎の鳥朱雀の名前を冠する戯骸の強さは、使徒の中で群を抜いている。
魔人化した健太郎(そういう可能性もある)と闘い、引き分ける強さなのだ。

「あれですよ、蘭様」

「?」

祐輔が手を組み、うーむと唸っているのをよそに、蘭と配下の者たちはゴソゴソと小声で会話を交わす。

(今どの段階だ? 戯骸を呼び出して、調子に乗っている段階じゃなければいいんだが)

「蘭様の式神の話が、ここまで伝わってるに違いありません」

「あー、なるほどー。私も有名になったものね」

「――――って、マジかよ!? もう手遅れじゃねぇか!!」

「!? な、なによ、いきなり!」

うんうんと唸っていた祐輔だが、目の前で交わされた見逃せない言葉に過剰反応する。
祐輔に急にどなられた蘭は身体をビクっとさせ、警戒色を強く滲ませた。

「大体、貴方は何なのよ?
珍しく毛利が会談の場を設けるっていうから、こうしてわざわざやってきたのに。
こんな事なら、最初から、今までみたいに勝手に退治しに行けば良かったわ」

「蘭様。口調、口調」

「いいわよ、もう。他ならともかく、ここ、毛利だし」

先ほどまでとは打って変わり、ぞんざいな口調で話す蘭。
彼女の部下が言葉遣いを指摘するも、必要ないと切って捨てた。
だがそんな失礼な対応をされている祐輔だが、彼はそれどころではなかった。

(やべぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!
もう使徒化が殆ど進んでるじゃないか! いつ腹喰い破られてもおかしくないんじゃ…!
手遅れの前に、何とかしないといけないんだが)

脂汗をじっとりとかき、現状の不味さに恐れ慄く。
使徒は過去の大戦により、人間の魂に封印され、普通であれば目覚める事はない。
だが魔人ザビエルが復活する事により、その封印は徐々に解けていく。

そして、その封印が解ける速度を早める方法がある。
それは簡単。体内に眠る使徒の力を、封印されている人間が使う事。
祐輔の呪い憑きと同じように、能力を使えば使うほど、その封印の力は弱まっていく。

例えるなら、ちぬの中に眠る魔導の力。
ちぬは魔導の力の一部を特殊な「毒」を生成する、という形で使用する事ができる。
その毒は強力無比な物だが、使えば使うほど、魔導の封印は弱まっていく。

それと同じような事が蘭にも言える。
蘭は戯骸の力を式符を用い、式神として召喚する事ができる。
使徒の力の一片とは言え、その力は規格外。強さに飢えている蘭は気兼ねなく使ってしまうだろう。

祐輔の目の前の蘭が、現在、どの段階まで封印が弱まっているかはわからない。
だがこのまま放置を続ければ、遠くない内に戯骸の封印は解ける。
そうなってしまえば、ザビエル側に最強の使徒が復活してしまう事になる。

「式神駄目、絶対」

「…この馬鹿は、焼き殺してもいいのかしら?」

薬物駄目、絶対。
そんな感じで脳内がてんぱった祐輔は要点のみを伝えるが、蘭からすれば何が何やらだ。
我に帰り、ようやく自分が痛い人間にしか見えないと自覚した祐輔は、ゴホンと咳をした。

「えーと、ですね」

さて、どうして伝えた物か。
完全に痛い子を見る目をしている蘭に、どうやって問題を伝えればいいか。
祐輔の優秀かどうかわからない頭をフル回転させるも――――

(駄目だ…全く思いつかん)

他国の人間が、いきなり真実を突きつければどう思うだろうか。
答えは簡単。信じる筈がない。

いきなり今日会った人間に、貴方の中に化物が住んでいますよ、と言われた場合を想像して欲しい。
よほど親しい間柄でも、最初は冗談だと思い、最後には胡散臭いという印象を受けるに違いない。
ましてや初対面の人間から言われた暁には、言葉の裏を勘ぐってしまう。

祐輔の持っている知識は、何一つ確証のない原作知識。
人を信じさせる根拠が全くないのだ。

ではどうすればいいか。
考えに考えぬいた祐輔が出した答えとは。

「あの…自分も、妖怪退治の現場に行ってもいいですかね?」

「…はぁ?」

自分も同行を願い出る、という。
ちょっと予想斜め上の物だった。



「妖怪退治に、ですか?」

「いや、はは…そうなんです」

手に持ったお盆から湯のみを ことりと机に置き、小首を傾げる雪。
目下全力で一日分の事務仕事を終わらそうとしている裕輔は、苦笑で返すのであった。

新たに予定を作るというという事は、時間を捻出しなければいけないという事。
今まで計画的に立てている予定から時間を捻出するためには、相当無理をしなければいけない。
文官が圧倒的に少ない毛利家にとって、裕輔の仕事量は膨大。その苦労、推して知るべし。

「その…裕輔様は陰陽術にまで、お詳しいのですか?」

「そういうわけではないのですけどね。
ただ、少し気になる事があって。それを確かめに行くのです」

驚きと羨望の眼差しを向ける雪に、違う違うと恥ずかしげに手を振る裕輔。
なんだか最近、妙に持ち上げられている気がする。
片思いとはいえ、愛している女性から褒められて悪い気はしない半面、どこかおもばゆい裕輔だった。

「ふぅ。やっと終わった」

トントンと書類を綺麗にまとめる裕輔。
手に持っていた筆の墨を綺麗にふき取り、仕事道具を片づける。
時間をちらりと見て(JAPANは大陸から時計が導入されている)、約束の時間に間に合ったと知り、ほっとする。

「それでは雪姫様。行って参ります」

「はい。行ってらっしゃいませ。
いつものように夕餉を用意して、お待ちしていますね」

そうそう、その事だ。
まるで当然の事のように言う雪。
裕輔は申し訳なさそうに目を逸らす。

「あの…いつも、本当にありがたいと思っています。
ですが、どうしてそこまでして頂けるのですか? 以前言った通り、雪姫様が背負う必要ないのです」

真面目な話である。
雪がこのように尽くしてくれて、嬉しくないはずがない。
だが以前した裕輔の行為に対する贖罪であるなら、それを認めるわけにはいかないのだ。

それは裕輔にとっての「意地」であり、「プライド」だった。
相手の弱みに付け込む事を今までやってきたが、こと、恋愛に関しては許せない。
なんとも複雑な男心なのである。

そんな裕輔を見透かしてか、雪も佇まいを正し、真剣に答えた。

「はい。それは十分に存じあげています。
ですが、これは私がしたくてしているのです。決して、罪の償いなどではありません。
もし裕輔様がご迷惑でしたら、今すぐ国に帰ります。私の気が済むまで、どうかお傍に置いて下さりませんか?」

雪にとって、これは贖罪ではない。
受けた恩義を返す、恩返しのようなものだ。
そこに投げっぱちな自棄などなく、純粋に裕輔に対する感謝の気持ちが大半をしめる。

雪はそう告げ、じっと裕輔の返答を待つ。
雪から目線を逸らしていた裕輔だが、そういうわけにもいかない。
改めて雪を真正面に捉えると、そこにはまっすぐで確固たる意志を持った雪がいた。

もはや ぐぅの音も出ないとはこの事だろう。
雪の呪縛を解き放った言葉さえ流用した、是と返すしかない問い。
未だ内心に複雑な思いがありつつ、裕輔はそれが単純に嬉しかった。

「ありがとうございます、雪姫様。
ですが、雪姫様は浅井朝倉の姫。体調が戻り次第、国にお帰り下さい。
それまででよろしければ、どうぞよろしくお願い致します」

「はい!」

凛とした、澄んだ清流のような透明な笑顔。
そんな雪の笑顔を直視した裕輔は顔を真っ赤にし、いそいそと出かける準備をするのだった。

「あ、そうだ。
今日は妖怪退治に行くので、何時に帰ってくるかわかりません。
ですので、きくに夕餉を取っておいてもらうように言って下さいませんか?」

「わかりました。では、私と裕輔様の分の食事は取っておきますね」

「え”? いえ、雪姫様は先にお食べになられてくだ」

「お待ちしていますね?」

「………」

「………」

「わかりました。よろしくお願いします。なるべく早く戻りますので」

「はい」

ニコニコ。
先程と同じように、花も恥じらう笑顔を浮かべる雪。
だがその笑顔に潜む妙な威圧感に、わかりましたと返すしかない裕輔だった。



今回の妖怪退治は、結界の不調によるものらしい。
毛利の土地には最大規模のダンジョン、黄泉平坂発がある。
ダンジョンから魔物が溢れ出さないよう結界がはられているのだ。

しかし結界がはられているにも関わらず、ダンジョンからモンスターが漏れでているらしい。
おそらくザビエル復活により、モンスターが活発化しているのだろう。
この報告を受け、北条家はモンスターを退治し、尚且つ結界を補強できる人物の派遣を決定。

モンスター退治ならいざしれず、結界を補強できる人物となると数が限られる。
そのため、今回南條蘭が毛利の国に派遣されたのだ。

蘭を筆頭に、陰陽師達は慣れた様子で結界までの道のりを歩く。
そんな陰陽師達の最後尾を祐輔はてくてくと呑気に付いていくのであった。

結界までの道中、何度かモンスターに襲われる事があった。
しかし相手はイカマンなどの小物ばかり。蘭が手を下すまでもなく、問題なく目的地に到着。
モンスターが溢れ出しているという事から、結界がどうなっているかも予想は付いていた。

「まずいわね…」

目的地について、蘭は開口一番にそう呟いた。

素人の祐輔にはわからないが、結界は限界まで疲弊しているらしい。
今は結界の僅かなひび割れからモンスターが漏れている状態だが、このままでは砕け散る。
そうなればモンスターは自由にダンジョンから出入りできるようになる。

現在ダンジョンの入り口には、肉眼でわかりやすいほどにモンスターが押し寄せている。
我先にと結界の割れ目から抜けだそうとしているのだ。
いくら階層が上の低級のモンスターとはいえ、その数は脅威である。

しかも結界を補強するのではなく、貼り直さなければいけないらしい。
補強するレベルの修復ができない程に損傷し、今にも結界が崩壊しそうな状態。
一度結界を解除し、そこに新しい結界を構築するしか方法はないと結論を出した。

「けど結界を一度解除するって…あいつら、全部逃げだすのでは?」

単純に思った事を蘭にぶつける祐輔。
そんな不安を解消するため、蘭は自信げにニヤリと口元を歪めた。

「ええ、普通わね。
結界を解除するわけだから、こちらに向かわず逃げだす奴もいるかもしれない。
だったら問題は簡単よ。あそこにいるモンスターを全て、焼き尽くしてしまえばいい」

祐輔の言葉を肯定し、それでも問題ないという。
その言葉、表情、雰囲気から滲み出した自信は隠しきれていない。
それならそれで好都合だと、祐輔は蘭の言葉に素直に頷いておいた。

蘭は部下に一応備えておくよう指示を出し、一人ダンジョンの入り口へと歩いて行く。
そしてモンスターでひしめいている入り口の前にたどり着くと、一枚の符を取り出した。

「来なさい! 朱雀!!!」

蘭の力強い言霊に、符が燃え上がる。
符が燃え上がった瞬間、祐輔は蘭の背後の空間が螺子曲がったかのような錯覚を覚えた。

蘭の背後に現れたのは、小さな黒い火種だった。
だがその火種は周囲の空気を吸込み、徐々にその身体を巨大な物にしていく。
轟!と唸るような空気の悲鳴を聞いたかと思うと、その黒い炎は爆発した。

凄まじい熱量に祐輔は思わず目を瞑ってしまう。
祐輔が目をこすり、目を開いた瞬間。そこには一羽の巨大な火の鳥がいた。

(やっぱりそうか…形状も、一致する)

絵画や物語で伝えられる四神とは違う、禍々しい姿。
鳥とは異なる輪郭を持ち、巨大な鉤爪の一本脚。
火の鳥と呼ぶのはおこがましい。炎の怪鳥がそこにはいた。

「焼き尽くせ!」

【ハハッ!】

蘭の命令を受け、若い男の声が怪鳥から周囲へと響く。
怪鳥が大きく羽を広げたと思うと、羽に真っ黒な黒炎が集まる。
怪鳥はその羽を羽ばたかせると、黒炎はダンジョンの入り口へと飛散した。

「………」

その威力に、祐輔は絶句した。
黒炎はダンジョンの入り口とモンスターを跡形もなく溶かし、更地にしたのだ。
モンスターは断末魔の悲鳴をあげる暇もなく、焼き尽くされたのである。

祐輔はその炎に見覚えがあった――――魔人ザビエルの黒炎と、全く同種である。

「……!」

我に帰った祐輔はすぐさま、蘭へと駆け寄る。
蘭が朱雀を戻す前に、確かめなければいけない事があるからだ。
今まさに式神を戻そうとしていた蘭を止めるため、大声を張り上げた。

「よぉ、【戯骸】!! 数百年ぶりの現世はどうだ!?」

自分に声をかけられたと思っている蘭は怪訝な表情で振り返るが、目の前の祐輔は自分を見ていない。
その目は自分の使い魔である【朱雀】へ向けられている。

「はぁ? 戯骸って、何――」

【てめぇ、何だ?】

蘭の言葉を遮って、朱雀は祐輔にその鉤爪を向ける。
いつもはすぐに戻るのに、今日は一体どうしたというのだろうか。
不審に思った蘭が朱雀の目を覗くと―――指示していないのに、強烈な攻撃色に彩られていた。



何者か? ではなく、何か? か。
なるほど、こいつは頭も良く回るみたいだな。

「お前に教えてやる必要はないよ、ホモ鳥。
おおかたザビエルが復活したから、封印が弱体化したんだろうけど。
そこのお嬢さんの式神やってるなんて、随分丸くなったじゃないか。その方が封印早く解けるのか?」

【魔導や煉獄の入れ物ってわけでもないみてぇだな…。
かといって、カラーや人外でもない、ただの人間か。お前、本当に何もんだ?
何で俺の性癖まで知ってやがる?】

「質問に質問で返すなよ、ホモ鳥。ザビエルから、そう教わらなかったか?」

【……ハハッ! いいねぇ! 気の強い男は好みだぜ!】

確認ついでに、情報を得られないかと試してみるが、無駄か。
ちぬのために、何かしら対処法とかを聞きたかったんだけどな。
それにしても、さっきから異様に首筋がチリチリとする。殺す気満々か。

「ちょっと朱雀! いい加減にして! 攻撃の命令とか、出してないわよ!」

【へーへー、わかったよ】

蘭に怒鳴られて、戯骸から感じていた威圧感が薄くなる。
首筋の警鐘もなくなったし、ひとまず命の危険はなくなったというわけだ。
それなら多少踏み込んでも問題はないだろう。

「俺からの質問は一つだ。お前はあと、どれくらいで封印を突き破る?」

【ハハハハハッハ! 答えると思ってんのか?】

「そうだな…なら、お前好みのいい男を紹介してやろう。
気が強く、顔も濃く、腕も立つ。英雄の資質を持つ男だ。その男の場所を教えてやる」

ぶっちゃけランスの事ね。
別に何の問題もない。ええ、ないんです。
ただ気になる男の情報をやれば、こいつも口割るかもしれないし。

【……どんな男だ? 絵に書いてみろ】

少し悩んでいたのだろう。
僅かな間を空けて、戯骸はふわふわと浮かんでこちらに寄ってきた。
飼い主(宿主)である南條蘭がギャーギャー言っているが、敢えて無視する。

しかし絵か…絵には少し自信がある。
生前はpixivにイラストを上げていた事もあるし。
しかもあれだけ特徴的な顔だ。結構自信ある。

樹の枝で、地面にランスの顔を書いていく。
少々の時間の後、それなりにランスっぽい顔が完成した。

【お……お、おおおおおおぉぉぉおおおおおおおお!!!】

表情はわからないが、歓喜している事が一瞬でわかる戯骸。
嬉しいのはわかるけど、バッサバッサと羽を羽ばたかせるんじゃない。
余熱がこっちにまで来て、さっきから熱くて汗が止まらないだろうが。

【イイイイイ! めちゃくちゃ良いぃぃいいいい!!
俺の一番星になるかもしれん!! こいつ、今、どこにいるんだ!?】

「俺の質問に答えたら教えてやる。さっさと答えろ」

尋常でない食いつきっぷりに引きながらも、質問を重ねる。

【そーだなぁ。このまま使われれば、あと7回ってとこか。
俺を呼び出さなければ、二ヶ月はもつ】

「嘘じゃないだろうな?」

【俺の一番星に誓って】

本当にこんな事で答えていいのかと思うくらい、具体的に答える戯骸。
というか、もう一番星決定かよ。流石ランス、モテる。
男にもモテモテとか、ある意味凄い。俺は死んでもゴメンだが。

【ただ――――――】

「ただ?」

【ザビエル様が直接来た場合は、話は別だ。
俺の力はザビエル様から分けられた物だしな。力が共鳴して、すぐに解ける】

魔人が配下の使徒を作る場合、自分の力を分け与えて創りだす。
そのため、使徒の力と魔人の力は同種なのだ。
つまり魔人が直接蘭に触れ、封印を解こうとすれば、すぐさま封印が解けるわけか。

これはある意味、非常に有力な情報だ。
すぐさま ちぬに伝えて、対策を取らないといけない。

「聞きたい事は以上だ。
お前の一番星は織田で殿様をやっている。織田にいけば、会えるさ」

【ヒャッッホーーーーーーーーー!!!
いいねいいね、すぐに会いたい!!! 今から待ち遠しいぜぇえええ!!】

情報を聞けて気が済んだのか、戯骸の姿が薄れていく。
きっと蘭の中へともどって行くのだろう。

【お前も結構良い線いってるぜ! 復活したら、一緒に睦もうな!!】

「俺はノンケだ!!」

消える瞬間、なんとも気持ち悪い事を言い残して消える戯骸。
あいつはガチホモなので、本当に恐ろしい。しかも、ヤッた後、相手は灰になる。
色んな意味で本当に厄介な相手なのだ。

「ちょっと! どういう事なのよ! 説明しなさい!!」

今まで意図して無視していた蘭に詰め寄られ、胸ぐらを掴まれる。
もうなんか疲れた。今は勘弁して欲しい。

「あ、あ、あ、後で、話しますから。
ひとまず封印のほうを先に、ね? 毛利の城でゆっくり話しましょう?」

「む…」

確かにその通りと思ったのか、蘭は更地となったダンジョンの入り口に向き直る。
自分がすべき仕事というのを思い出したのだろう。
やれやれ、どうやって説明したものか……

時折こちらを睨んでくる南條蘭に辟易し、早く城に帰りたいと思った。



城に戻り、祐輔から説明を受けた蘭は、顔面を蒼白にした。

無理もないだろう。
才能の発露だと思っていた式神が、実は魔人の使徒だったのだ。
しかも自分を糧に、いつか躰を突き破るという。

自分の内に眠る朱雀だと信じていた存在に問いかけるも、祐輔の言葉を肯定する返事ばかり帰ってくる。
騙されたという怒りよりも、明確に形を成す死の恐怖が強かった。

「とにかく、これから戯骸の使用は控えて下さい。
できれば戦場にも出ないように。感情の高まりは、封印の解除を早めます」

「…えぇ」

部屋の一室を借り、そこで祐輔と蘭は話し合っていた。
蘭の部下はいない。とても部下に話せる内容ではないからだ。

「今判明している対処法は、これだけしかありません。
上司である北条早雲殿にも伝え、対処法を探してください。
そしてもし、何か対処法が見つかったら。どうか、こちらにもお教え下さい」

「…えぇ」

駄目だこれは、と祐輔は思った。
蘭は畳に目を伏せ、顔面を蒼白にし、上の空で返事を返しているだけ。
十中八九話の半分も伝わっていないだろう。

祐輔は北条早雲宛てに書状を作る事にした。
魔人ザビエルの事、使徒の事、使徒の一人である戯骸が蘭の中に巣食っている事。
そして最後に使徒の封印が解けるのを遅延する方法があれば、毛利にも伝えて欲しい事。

以上の旨を手紙にしたため、蘭に手渡す。
祐輔にできる事は、これくらいしかない。
蘭にこれ以上戯骸を使わないように、と伝える事しか。

その書状を持って、蘭を含む陰陽師達はその日の内に北条家へと戻った。
蘭の尋常でない、衰弱しきった様子から、すぐに専門の者に見せたほうが良いと考えたのだろう。
蘭の部下達も蘭を気遣いながらも、その日の内に出立する事を受け入れた。

静かに物語は終盤へと移ろいで行く。
首魁となる、ザビエルは不気味な沈黙を保ったまま。
ザビエルは果たして今、どこで何をしているのだろうか。







あとがき

復☆活!
定 期 更 新 復 活 !


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