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No.4285の一覧
[0] 逃亡奮闘記 (戦国ランス)[さくら](2010/02/09 17:04)
[1] 第一話[さくら](2008/10/14 08:51)
[2] 第二話[さくら](2009/12/08 15:47)
[3] 第三話[さくら](2008/10/22 13:09)
[4] 第四話[さくら](2008/10/22 13:12)
[5] 第五話[さくら](2008/10/30 10:08)
[6] 第六話[さくら](2008/11/04 21:19)
[7] 第七話[さくら](2008/11/17 17:09)
[8] 第八話[さくら](2009/03/30 09:35)
[9] 番外編[さくら](2009/04/06 09:11)
[10] 第九話[さくら](2009/09/23 18:11)
[11] 第十話[さくら](2009/09/26 17:07)
[12] 第十一話[さくら](2009/09/26 17:09)
[13] 第十二話[さくら](2009/09/28 17:26)
[14] 第十三話[さくら](2009/10/02 16:43)
[15] 第十四話[さくら](2009/10/05 23:23)
[16] 第十五話[さくら](2009/10/12 16:30)
[17] 第十六話[さくら](2009/10/13 17:55)
[18] 第十七話[さくら](2009/10/18 16:37)
[19] 第十八話[さくら](2009/10/21 21:01)
[20] 第十九話[さくら](2009/10/25 17:12)
[21] 第二十話[さくら](2009/11/01 00:57)
[22] 第二十一話[さくら](2009/11/08 07:52)
[23] 番外編2[さくら](2009/11/08 07:52)
[24] 第二十二話[さくら](2010/12/27 00:37)
[25] 第二十三話[さくら](2009/11/24 18:28)
[26] 第二十四話[さくら](2009/12/05 18:28)
[28] 第二十五話【改訂版】[さくら](2009/12/08 22:42)
[29] 第二十六話[さくら](2009/12/15 16:04)
[30] 第二十七話[さくら](2009/12/23 16:14)
[31] 最終話[さくら](2009/12/29 13:34)
[32] 第二部 プロローグ[さくら](2010/02/03 16:51)
[33] 第一話[さくら](2010/01/31 22:08)
[34] 第二話[さくら](2010/02/09 17:11)
[35] 第三話[さくら](2010/02/09 17:02)
[36] 第四話[さくら](2010/02/19 16:18)
[37] 第五話[さくら](2010/03/09 17:22)
[38] 第六話[さくら](2010/03/14 21:28)
[39] 第七話[さくら](2010/03/15 22:01)
[40] 第八話[さくら](2010/04/20 17:35)
[41] 第九話[さくら](2010/05/02 18:42)
[42] 第十話[さくら](2010/05/02 20:11)
[43] 第十一話【改】[さくら](2010/06/07 17:32)
[44] 第十二話[さくら](2010/06/18 16:08)
[45] 幕間1[さくら](2010/06/20 18:49)
[46] 番外編3[さくら](2010/07/25 15:35)
[47] 第三部 プロローグ[さくら](2010/08/11 16:23)
[49] 第一話【追加補足版】[さくら](2010/08/11 23:13)
[50] 第二話[さくら](2010/08/28 17:45)
[51] 第三話[さくら](2010/08/28 17:44)
[52] 第四話[さくら](2010/10/05 16:56)
[53] 第五話[さくら](2010/11/08 16:03)
[54] 第六話[さくら](2010/11/08 15:53)
[55] 第七話[さくら](2010/11/12 17:16)
[56] 番外編4[さくら](2010/12/04 18:51)
[57] 第八話[さくら](2010/12/18 18:26)
[58] 第九話[さくら](2010/12/27 00:35)
[59] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ[さくら](2010/12/27 00:18)
[60] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ(ふぁいなる)[さくら](2011/01/05 16:39)
[61] 第十話[さくら](2011/01/05 16:35)
[62] 第十一話[さくら](2011/05/12 18:09)
[63] 第十二話[さくら](2011/04/28 17:23)
[64] 第十三話[さくら](2011/04/28 17:24)
[65] 第十四話[さくら](2011/05/13 09:17)
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[4285] 第六話
Name: さくら◆491058f1 ID:d686609c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/08 15:53
整理してみよう。
祐輔の長所とは何か。
他者より秀で、アドバンテージを持っている部分だ。

まずは原作知識。
これはこの世界に祐輔のみが持っており、使い方次第ではどれだけでもチートできる代物。
展開がある程度わかるものの確定ではないという欠点はあるものの、今のところ大きく違う事はない。

次は危機察知能力と付随する脚力。
とある事情により彼は命の危険がある場合に限り、一つの極みとも言える速さで動く事ができる。
また命の危機を察知する能力は敵の真意を探るのに役立つ場合もある。

最後に現代で培った算学知識と高等教育を受けた事による高い知識。
一応大学まで進んでいるので、それなりの学力があるのだ。
祐輔はこの三つの武器をフル活用して戦国時代を生き抜いているのだが―――

「アニキ!! これもお願いしやす!!」
「アニキ!! てるの姐御がこれを昼までに片付けておけって!!」
「「「「アニキ、アニキ、アニキアニキ!!!」」」」

「ああ、うん……そこ置いといて……」

今現在祐輔は最後の強みをフル活用させられていた。

祐輔が死国へ行くさいに毛利の兵を借りたのは覚えているだろうか。
毛利てるは兵士を貸しだした祐輔に報告書を提出するように求めたのである。
それは当然であり、毛利てるはこの時点では特に何も考えずに報告書の提出を命じたにすぎなかった。

だが毛利てるの顔色が変わったのは祐輔の報告書を見た時の事。
その報告書には遠征にかかった費用、事細かに書かれた宿泊地点や村の名前。
またその報告書にプラスして明石からの年貢徴収の見込みやそれを死国へ回す配分に関しても概略だけだが付け加えられていた。

これは現代知識だけでなく、浅井朝倉での経験が実に生きていた。
数ヶ月の間だけとはいえ祐輔は国政に携わる一郎の手助けをしている。
そのためおおまかにだが年貢の見込みや分配なども出来るようになっていた。

【こいつ、使える】

脳筋ばかりの毛利において掘り出し物を見つけた。
その時の てるの笑顔といったらまるで獲物を前に舌なめずりする猛獣のようだったと一般兵は語る。
俗に言う笑顔とは本来獰猛な顔だったというアレだ。

それはともかく。
今祐輔の目の前には書類の山がそびえ立っていた。

(これ、三年前の村の戸籍調査じゃないか…あ、こっちは五年前。
いったいいつからまとめてなかったんだよ。よくこれで国が保っていたなぁ)

今現在祐輔がしているのは毛利の各村戸籍調査を最新の物にまとめ、年貢との齟齬がないか調べている。
はっきり言おう、これは国の根幹をなす重大作業である。国に来て一ヶ月たってない者にやらかす仕事ではない。
しかしそれ以上に祐輔へと投げっぱなしにするほど、適当にそれらがされていた。

たとえば祐輔がこんな事俺に任せていいのかと訊ねた時もこんな感じだった。



【そんなもん一々一年ごとに更新してられっかての。めんどくせー】

【ま、マジで…? じゃ、じゃあ年貢をちょろまかしたり、流れ者が住み着いたりした場合の追加年貢は?】

【あー…どうしてんの、てる姉?】

【む。特に気にした事はないな。年貢は足りるだけあればいい。
もし足りない場合があれば直接追加で取り立てにいけばいいのだからな】

【Oh……】

きっと最初に遭遇した村はそんな感じで年貢を取り立てられて暮らしていけなくなったんだろうなぁ。
祐輔は思わず呻きながら魂を飛ばしかけた。

【じゃ、じゃあ戦の徴兵は? それは各村の統計が出てないと困るでしょう?】

【はっはっは、何言ってんだお前。
戦になったら戦える奴は何言わなくても勝手に城に集まってくるっての】

【うむ。今まで急に減ったりする事はない。むしろ増えている】

【OH……】

ど う し て こ う な っ た 。
祐輔は考える事を放棄して、遠くを見つめた。



「ああ、それとそれ、てる様に持って行って。
とりあえずその区画はまとめたから。あと去年の調査書がないから探してきてくれないかな?」

「了解です! アァァニキィ!!」

「「「ヒャッッフーーーーーー!!」」」

祐輔が手渡した書類をもってモヒカン兵士がばっと走っていく。
その先頭を走るモヒカンに続いてその他モヒカンが楽しそうに叫び声を挙げて続く。
その様子を死んだ魚のような濁った目で見つめながら、祐輔は次の書類へと取り掛かった。

どうにも自分は過大評価されているらしい。
先日の追いかけっこが尾ビレ背ビレついて大きくなってしまい、祐輔はとんでもない人間のように広がっている。
更に今まで毛利にいなかった頭脳派。これはもうアニキと呼ぶしか無い。こういう事らしい。

「ふぅ……」

作業に一段落した祐輔はごろりと横になる。
目に疲労が溜まっているのか軽く指で揉み、こきこきと首を鳴らす。
あばばばばーーとわけのわからない呟きを漏らし、天井を見つめる。

「思えば遠くにきたもんだなー……」

こうしてぼーっと天井を見つめると意味もなく昔を思い出す。
始まりはいつで、終わりはいつだったか。死んだと思っていた自分が思わぬ奇縁でこの世界にいる。
そういえば記憶はないが、自分は川を流れてきたのだったか。

「そんでもって太郎君に拾われて、村が焼かれて」

山本五十六の弟、太郎と出会い、彼の村が足利超神の陰謀によって焼き払われる。
命からがら祐輔と太郎は逃げ出し、無我夢中で逃げ出した先で発禁堕山と出会う。
異能の力に触れ、道に迷いながらも浅井朝倉へと流れつく。

「一郎様も元気にやっているのかな」

祐輔はその優れた算学能力を買われて事務仕事を任される。
そこで祐輔は浅井朝倉の後継とも呼べる朝倉一郎の助手につく事になる。
その一郎の後ろに付いて歩き、種子島への条約締結にまで連れだされた。

「柚美や重彦のおっさんは元気でやってそうだけどな」

その先でぽろっと未来知識を零してしまい、種子島にしばらく逗留させられる事に。
しかしその生活も楽しいもので特に辛いと思う事もなかった。
だがこの辺りで祐輔の人生がおかしな方向に転がり始める。

「そうなんだよな…ランスさえ来なければなぁ…」

大陸からのランス襲来。
瞬く間に織田の実権を握ったランスは他国へと侵略。
JAPAN1の美女と名高い雪姫のいる浅井朝倉にまでその手を伸ばす。

「ゲームやっている分には嫌いじゃないけど、攻められる側になると嫌な奴なんだよな」

大恩ある祐輔は浅井朝倉を救うために種子島を出発。
己の非力を補うためにその躰を呪い憑きにまで変えて新たな力を得る。
織田との激戦をへて、なんとか和平交渉にまで持ってきたのだ。

「…………」

その後は知っての通り。
呪い憑きとなった祐輔は浅井朝倉を出向する。
毛利へと流れ着くも、魔人の野望をくじくために再び織田へ。
香の危機を救うが魔人を倒すまでには至らず、現在に続く。

「あの方は元気にしている、のかな―――」

すっと目を閉じるとすぐに瞼の裏に再生できるその姿。
まるで初雪のように柔らかく、白い肌。腰にまで届き、透き通るような蒼い髪。
薄く微笑んだ笑顔は誰をも魅了する美貌。

「雪姫、さま」

ランスの手出しさえなければ元気に暮らしているはず。
祐輔がこの世界に来て淡い恋心を抱いた、高嶺の花。
彼女の最後の顔に憎悪の感情が灯っているのを心苦しく思う祐輔だった。

「――――キ!! アニキ!!」

「…ん?」

思考に没頭するあまり祐輔は自分を呼ぶ声に気付いていなかった。
ん…っと上半身を起こしてみると、イエローモヒカンが神妙に座って祐輔を呼んでいる。
随分長い間ぼーっとしていたみたいだなと祐輔は眠気を散らす。

「ごめん、ごめん。それで何?」

「てる様がお呼びです。なんでも新しい仕事だとか」

「OH…」

まだ仕事が増えるのか。
このままだったら過労で倒れるぞと祐輔は思いながらも、ヘタレな祐輔は断れない。
すぐに行くと伝えると、移動するために書類を片付けて祐輔も部屋を後にした。

―――この時祐輔は知らなかった。この日がJAPANで一番忘れられない日になるとは。



やれやれ。また厄介な事になったぞ。
さきほど出会った てるに言い渡された新たな任務に頭を悩ませながら祐輔はある部屋へと赴いていた。

【それはというのもだな。お前に他国との使者との橋渡しをしてもらいたい】

要するに使者の対応を任せた、と言われたのだ。会って分かりやすく自分たちに翻訳しろと。
いやいや、それはおかしいだろ。それは国の未来を左右させるくらいの大事なのだから、自分で対応しろよと。
そんな感じの事を歪曲かつ遠まわしに てるへ伝えた祐輔だが。

【そも、以前なら使者など来なかったのだ。
それというのもお前が明石を降伏させたというのが他国に知れ渡ったせいだ。
その責任を取れ、と私は言っているのだよ。なに、お前が対応せぬというのなら以前と同じく、門前払いするのみよ】

そう言われたら祐輔としても引き受けざるをえない。
以前なら門前払いしていたのかよというツッコミを飲み込んで。
使者など立てず、文句があるのなら攻めて来い。いかにも毛利らしい対応だなぁと思いながら。

「っとと、ついたな」

考え事をしながら歩いていたら、あっという間に目的の場に辿りついた祐輔。
まいどお馴染み大広間兼謁見の間である。使者と面会する場合、最も適しているのはこの部屋。
どこの城でもこの部屋の作りは変わらないなと祐輔はちょっとした感想を持った。

「ところでキミ、どこからの使者で名前とかわかる?」

「うえ!? 自分ですかい!? なんか東から来たとかなんとか言っていたような…」

「範囲広すぎワロタ」

それとなく部屋の前で警備していた兵士に訊ねてみたが、帰ってきたのは漠然とし過ぎた答え。
この毛利の西には島津しかない。なんかこんなのばっかりだなと祐輔は笑うしかない。
だが毛利の馬鹿は心地良い馬鹿ばかりなのでそんなに嫌いではないが。

「さて、どこの国の人が来るのかね」

あわよくば原作で出演している人間が来てくれれば助かる。
原作知識のある祐輔にとってはその人物の思惑、性格が初対面でも察知できるのだ。
ちょっとドキドキしながら祐輔は謁見の間の扉を開いた。



「おいババァ!! 水と食料を寄越せ!!」

「はいはい、いつもの団子セットでいいんだね? ちょっくら待っておくれよ」

〈パタパタ…〉←茶屋の老婆が奥に戻る音

「あの……もし…」

「ん? 誰だ、お前? ここら辺じゃみねぇ顔だな」

「あの、毛利の兵士の御方ですか?」

「おうともさ!! 毛利のベストモヒカン候補生とは俺の事よ!」

「良かった…私、―――からの使者を仰せつかった者です。城まで案内して頂けますか?」

「ああん? 使者? 毛利は使者とは会わねぇ――って、そういうやアニキがいたな。
よっしゃ俺に付いて来い!! ババァ、団子セットはナシだ!! 仕事が出来た!!」

「貴方に感謝を。それではよろしくお願い致します」



大広間には既に使者と思しき人が一人、頭を下げて礼を尽くしていた。
東から来たと言っていたけど、はてさて。どこの国から来たのやら。
年齢はおそらく俺よりも年下で、顔立ちもどこか見覚えがある。そうそう、数ヶ月一緒に暮らしていた太郎君によく似て―――って。

「太郎君かよ!!」

「え、祐輔さん!?」

俺は思わずズビシッとツッコミを入れてしまう。
誰だってそうなる。俺だってそうする。それは何故か。
だって使者として毛利に来たのが他ならぬ太郎君だったのだから。

「ああ、なるほど、そういう事ね。織田からの使者って事なのか?」

「ええと、そうなのですけど……まだ何も言っていないのに良くわかりますね」

まだちょっとポカンとしている太郎君に気楽に話しかける。
いやいや、こっちもびっくりはしているんだけどね。驚きましたよ。
けれど想定外とまではいかなかったわけで、そこまで動揺はしていないという事なんデスヨ。

嘘。実は動揺していたりする。

しかしながらある程度予想はできていたり。
明石を降伏させたとなれば、織田が西に侵攻するにあたって一番の障害となるのはこの毛利。
なら何らかのアクションがあるのは必然。それが太郎君だとは思わなかったけど。

「つもる話もあると思うけど、それはとりあえず後にしようか。
織田からって事は何か伝えないといけない事があるんじゃないのかな?」

「え、あ、その、その通りですけど…よく落ち着いていられますね?」

「はははっ、色々と鍛えられたからな」

なにか気に食わない。のび太の癖に生意気だ。
そんな雰囲気を滲ませながら納得のいかない様子の太郎君をいなし、本題へ。
太郎君はともかくランスが持って来させた内容だ。どんな物が来るかわからないし…。

若干身構えつつ、俺は太郎君と会話を交わすのだった。



一体どんな内容が飛び出してくるのかと身構えていた祐輔だったが、それは見事に肩透かしをくらった。
それもそうだろう。祐輔は毛利に持ってきた話だと思っていたのであるが、太郎が持ってきたのは祐輔に関する話。
てっきり三姉妹とヤラせろとかいう話だと祐輔は思っていたわけである。

「俺が織田にねぇ…」

「けっして悪い話ではないと思います。むしろ良い事ずくめだと思いますよ。
武将としてではなく客人扱いでの待遇ですし、文官として仕事をするなら陰口を叩かれる事もないと思います。
祐輔さんの身の保証は香様預かりとなりますから…ランス殿でさえ、手は出せないはずです」

祐輔とランスとの仲は最悪であるのは織田で有名な話。
そこで祐輔が織田に来るのであれば香の客人として扱う。
これならランスでさえ迂闊に手を出せないし、出そうとするかもしれないが周りが止める口実となる。

それらを踏まえて祐輔に熱弁をふるう太郎。
だがその太郎の意気込みと反比例して祐輔の顔は険しい。
かつて矛を交えた間柄。そう簡単に両者の溝は埋まらない。

「それに織田には美人が多いですよ。祐輔さんでも嫁が見つかるもしれませんよ?」

「ハハッワロス。織田の美人さんは全部ランスのお手つきでしょ」

「…それがそうでもないから、僕が悩んでいるわけなんですが」

「? 何か言った?」

「いいえ、何も!!」

ケッ! 僕の姉上が嫁入りも考えているんですよ、このボンクラが。
内心の葛藤を胸に抑えこみ、祐輔を色方面でも釣ろうとする太郎。
祐輔のおっぱい好きは太郎も良く知っていたので、当然といえば当然である。

「いやま、太郎君には悪いけど織田には行くつもりはないから」

「そうですか」

「やけにあっさり納得したな。もうちょっと引き下がったりしないの?」

「だって半分そんな気がしましたしね…」

きっぱりと断った祐輔の言葉にですよねーとあっさり頷く太郎。
そのあまりの太郎の引き際の良さに逆に祐輔がびっくりしたくらいである。

「けれど僕も簡単に帰るわけにはいかないんです。香様の命ですから。
しばらくこの辺に滞在する予定ですので、気が変わったらいつでも言って下さい」

太郎も毛利に来る道中色々考えた。
確かに自分は祐輔と共に暮らしたいと思うが、それは祐輔の意思を無視してではない。
ならば太郎に出来る事は祐輔に選択肢をあげる事。

太郎が許される限り毛利にいれば、それだけ祐輔に織田へ来るという選択肢が生まれる。
ここで断っても祐輔は織田へ来る事は不可能ではないが、香庇護下というランス対策が薄れてしまう。
それに香の前で啖呵を切ってしまった以上、そう簡単に帰れないというのもある。

「では僕はこれで一度失礼します。御目通り感謝します」

「いやご苦労でした、織田の使者殿。ご逗留中は我らの城の一室をお使い下さい」

「それは助かります」

これを潮時と見た祐輔と太郎は形式的な礼をして別れる。
二人共使者という立場を忘れたわけではないので、これは当然。
ではと一礼して部屋を出ようとする太郎に祐輔は一声かける。

「―――あとでゆっくりお茶でも飲もう。太郎君と離れて色々あったからね」

一度目は浅井朝倉、二度目は魔人戦。
いずれも祐輔は二度と太郎と再会する事はないと思い別れた。
それがこんな形で再開するなんて、なんという因果か。

「―――はい! 楽しみにしています!」

元気よく返事をした太郎と祐輔は互いに快活に笑い合った。
この再会に感謝をと。出来るなら争う事がないようにと。



「あー、驚いた。心臓に悪い展開は色々あったけど、想定内だったからな。
想定外でこれだけ驚いたのは本当に久々だわ」

「アアァニキィ!! 次の奴を入れてもいいですかね!!?」

「…え? もう一人いるの?」

「? 言ってなかったっすか?」

「言ってねぇよ!! そういうところをちゃんとしてこようよ!?」

「りょ、了解っす!」



思わずモヒカンをSEKYOUしてしまった祐輔だが、自分は間違っていないと言い聞かす。
この毛利にいると精神年齢が退化してしまっているように思うのは内緒だ。
それはともかくと益体もない考えを棚に置き、次の使者を部屋に招き入れる。

「すみません、使者殿、お待たせしまして。それで今日は如何様な―――」

〈ズドン!!!〉

そう。ズドンである。
祐輔が使者を招き、最初の挨拶をした返答は銃声だった。
祐輔はにこやかな顔のまま凍りつき、そのままそーっと自分の足元を眺めてみる。

(OH…度肝抜かれたZE)

なんてこった。
殺気がなかったので全く反応できなかった祐輔だが、足元の畳には生々しい銃弾跡が。
会談の開始早々に銃弾ぶち込まれると思わない。誰だって思わない。

「ちょ、ちょっと、あんたなぁ―――」

非常識にもほどがあるだろうが!
そう怒声を浴びせようとした祐輔だが、そこではたと動きを止める。
そもそもが銃だ。思考停止せずに少し考えれば、銃の時点で誰かわかるはずだ。

「あわ…………あわ…あわわ…………」

怒鳴ろうとした先には見覚えのあるおかっぱセーラー服の美少女が銃を構えていた。
セーラー服の下にはスクール水着を着た彼女は珍しく目をグルグルさせ、動揺を顕にしている。
よくよく見れば少しだけ頬に赤みがさしている気がしないでもない。

「よ、よう…久しぶり?」

祐輔は久々に会う少女――柚美にぎこちなく笑いかける。
あんまりにも久々過ぎたので何を話していいかわからず、これでいいのかもわからない。
だから取り敢えず笑ってみた祐輔だったが。

「……………」〈チャッ〉

「だから無言で銃を構えるな!!」

対する柚美も何をすべきかわからないので、取り敢えず銃を構えてみた。
それと同じノリで撃たれたら堪らないと祐輔は必死に訴える。

「お前使者だろ!? 使者だよな!? だったらいきなり銃撃つな! それじゃ鉄砲玉になるだろうが!!」

「………はっ!」

「今気づいたの!?」

まるで今気づいたかのように目を丸くする柚美。
こりゃえらいこっちゃと祐輔はキョロキョロ周りを見渡してみる。
使者との会談中に銃声。問答無用で柚美が無礼討で処刑されてもおかしくはない。

「な、なんだなんだ?」
「アニキと使者の死合だぁぁああ!!」
「絶対見逃せねぇええええ!!!」

ワイワイガヤガヤ。
いつの間にかギャラリーが出来上がっていた。

「ああ、そういえば、ここ毛利か……なら何も問題はないな…」

「もんだい……ない…の……?」

「ああ、問題ない。大丈夫だ」

そうなの? うん、マジマジ。
二人の和気あいあいあな雰囲気にギャラリー達はやらないのかと散っていく。
お祭り好きというか野次馬根性丸出しな毛利兵だった。



ようやく二人というか、柚美が落ち着いた頃合いを見て何をしに来たのかを訊ねる祐輔。
あうあう言っている柚美の言葉を拾い上げ、補足し、翻訳して目的を聞き出した。

「つまり毛利に鉄砲を売りに来たというわけでおk?」

「……う…ん………おk……」

以前祐輔が教えた通りにぐっと親指を立ててドヤ顔の柚美。
たったこれだけの事を聞き出すのに約20分の時間を費やした祐輔はがっくりと肩を落とした。
歪みねぇ。こいつは全然変わらないわ。

「鉄砲自体は強力な武器だから、こちらとしてもありがたい。
けど俺の権限でどれくらい購入するかはわからないから、ひとまず上司に聞いてみる。
ああそれとどれくらい訓練指導の技師は寄越してくれるんだ?」

「………?」

「あー…つまり、鉄砲の撃ち方を教えてくれる人はどれくらい来てくれるかって話。
柚美も鉄砲を扱うのに時間がかかっただろう? それを教えてくれたり、整備の仕方を教えてくれたりする人の事。
鉄砲を買っても使い方がわからないと意味がないだろう?」

「………ああ…」

成程とぽんと柚美が手を叩く。
それなら問題はないと祐輔に答えた。

「今なら……もれなく…………私が…ついて……くる……」

「お前はおまけか!? というかお前部隊長だろ!? そんなに気軽に離れていいのか!?」

「いい……今、決めた………」

どうやら柚美は久々に祐輔と会えてテンションが上がっているらしい。
重彦と祐輔は同じくらい好きだが、久々補正が入って秤が祐輔に傾いている模様。
いざとなれば一週間くらいで帰れるしと、気軽に考えている柚美だった。

「いや、ま、確かに柚美が指導してくれるならありがたいけど…重彦のおっさんにちゃんと許可取ってこいよ?
話はそれからだからな? おk?」

「…ん………」

あまり表情は変わらないが、心底面倒くさそうに頷く柚美。
どちらにしろ鉄砲を購入する場合、種子島にまで一度帰らなければならないのだ。
重彦がどんな反応をしようと、説き伏せられる自信はある。無言の圧力という技で。

「よし。じゃあ俺はこれから責任者の人に購入数とか聞いてくるから、少し待っていてくれるか?
城の一室を用意する。そんなに長くはかからないと思うから」

祐輔の言葉にコクリと頷く。
それじゃあ失礼するよと踵を返し、部屋を出ていこうとする祐輔を柚美が呼び止めた。
どうしたのかと困惑の表情を見せる祐輔に柚美は不安げに訊ねる。

「………今度は……何も言わないで……どこにも……行かない…?」

祐輔は又会おうという約束をしたまま、浅井朝倉から姿を消した。
次柚美が種子島へと鉄砲の在庫を取りに戻っている間に行方不明にならないのかと不安なのだ。
不安と寂しさに揺れる瞳に祐輔は射抜かれる。

「行かない行かない。柚美が鉄砲を持ってくる間くらいは毛利にいるから」

「祐輔は………嘘つき…‥だから…信用………できない…」

「いやぁ、ははは。色々理由があるんだよ」

柚美がじとっとした眼差しに一瞬に変わり、祐輔はタハハと笑いながら冷や汗をかく。
その責め立てるような視線に祐輔は謝り倒すしか方法はなかった。



「この部屋で待ってな! アニキを呼んでくるからな!!」

「は、はぁ……この部屋でお待ちすればよろしいのですか?」

「おうよ! じゃあ行って来るかな!」

〈バタバタ…〉←モヒカンが部屋から飛び出していく音

「……なんというか…流石毛利、というべきなのでしょうか。
心なし獣臭い…? 私、ちゃんと仕事を果たせるのでしょうか…」



「あ”―……もう盆と正月が一度に来たくらい疲れたし驚いた。
もう何がきても驚かない自信があるぞ。右から流れてきた物を左に受け流してやる」

無言のプレッシャーをかけてくる柚美を宥めすかし、なんとか部屋を出た祐輔。
しかし柚美が毛利に来てくれるというのなら、これは更なる戦力増強のチャンスだ。
鉄砲隊自体も強力だし、柚美は狙撃ができるほどの腕。これは取らない理由がない。

「購入数か…どこから予算を持ってくるか。
いや、いけるか? ちゃんと戸籍を纏めて規定数の年貢を収めさせれば…過去の見逃し分も追加徴税すれば…」

鉄砲購入の予算をどこから捻り出すか。
ブツブツと呟きながら廊下を歩く祐輔の前に突然現れたモヒカンが立ち塞がる。

「アニキ! アニキ!!! お客さんっす!!」

「……今日は客が多いな。それに全部俺に回さないで下さいよ、てる殿」

しかし今日はもう驚かないと決めた。
ふぅと深淵に堕ちていきそうなほど深い溜息を一つついて、祐輔はモヒカンに大丈夫だと返す。

「わかった。今から会うよ。また大広間に行けばいいんだよな?」

「いえ、アニキの部屋に通してるっす!!」

「大広間に通せよ!!」

ええー? と何故怒られたかわからないモヒカンに激しくツッコミを入れる祐輔。
どこの部屋に通したかといえば、まさかの自分の部屋である。
あんな粗末で男臭い部屋に使者を通したとなれば、真面目な使者なら激怒しかねない。

下手したらモメるぞと祐輔は全速力で自分の部屋へと向かった。



――――――運命とは決められた道筋を辿るという考えを論じた学者がいる
――――――あの時、もしもああしていれば。過去を思うと選択肢があるように思うかもしれない
――――――だがそれは今になって思うだけで、その時点での選択肢は一つ

「すみません、使者殿。このように瑣末な部屋にお通ししていまい。すぐに大広間へとご案内します」

――――――選んでいるようでいて、選択肢は一つしかないのだ
――――――決められた道筋。選ぶべくして選んだ選択。
――――――人によっては呪われていると感じるかもしれない

「い、いえ。お気になさらないで下さい。
こちらも飛び入りで御目通りをお願いし申した身、斯様に早く対応して頂き恐悦至極に存じます」

「そう言って頂けるとこちらも有り難い限りです」

――――――しからばこの出会いも必然
――――――別れなくして再会あらず。偶然ではない。




「「―――――――え…?」」





ここでようやく祐輔と部屋の中で佇んでいた使者が顔を見合わす。
二人の表情にまず浮かんだのは驚愕、そして――――

「雪、姫、様……?」

祐輔の心に浮かぶのは気まずさ。
復興の最中に背を向け、二度と会いたくはないと絶縁を叩きつけられた。
驚愕の後に来たのは申し訳なさと、未練。

「嘘……ゆう、すけ……さ…ま…?」

だが果たして使者――雪の胸中を占める感情とは。
形容し難き負の感情がグルグルと巡り、雪を支配する。
最も近い感情を言うとすれば罪の意識と贖罪、だろうか。

何度夢に祐輔の姿を見ただろう。
自分を罵倒してくれれば。呪ってくれれば。非道をされればどれだけ楽だったろう。
しかし夢の中でさえ祐輔は雪を責める事はなかった。

「あぁ…あぁ、ぁあ…! 申し訳…申し訳ございま……」

ボロボロと涙が溢れて止まらない。
雪の口から漏れるのは嗚咽と謝罪の言葉。
許してもらえるとは思わない。いっそ自分の不義を断罪して欲しい。

今まで張り詰めてきた雪に追い打ちをかけるような精神的ショック。
雪は突然泣き出され戸惑う祐輔の前で、静かに泣き崩れるように意識を失った。

「え、ちょ、え? ちょ、え? え、ちょ、おおおおおおおおおお?
と、取り敢えず誰か!! 誰か来て!! もう俺は今何をすればいいかわからない!!?」

怒涛の展開に脳のキャパシティを超えた祐輔はふっと倒れそうになる雪を支えながら、誰かの助けを求めて叫んだ。
盆と正月どころではない。クリスマスとゴールデンウィークも一緒に来たくらいの一日となった。


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