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No.4285の一覧
[0] 逃亡奮闘記 (戦国ランス)[さくら](2010/02/09 17:04)
[1] 第一話[さくら](2008/10/14 08:51)
[2] 第二話[さくら](2009/12/08 15:47)
[3] 第三話[さくら](2008/10/22 13:09)
[4] 第四話[さくら](2008/10/22 13:12)
[5] 第五話[さくら](2008/10/30 10:08)
[6] 第六話[さくら](2008/11/04 21:19)
[7] 第七話[さくら](2008/11/17 17:09)
[8] 第八話[さくら](2009/03/30 09:35)
[9] 番外編[さくら](2009/04/06 09:11)
[10] 第九話[さくら](2009/09/23 18:11)
[11] 第十話[さくら](2009/09/26 17:07)
[12] 第十一話[さくら](2009/09/26 17:09)
[13] 第十二話[さくら](2009/09/28 17:26)
[14] 第十三話[さくら](2009/10/02 16:43)
[15] 第十四話[さくら](2009/10/05 23:23)
[16] 第十五話[さくら](2009/10/12 16:30)
[17] 第十六話[さくら](2009/10/13 17:55)
[18] 第十七話[さくら](2009/10/18 16:37)
[19] 第十八話[さくら](2009/10/21 21:01)
[20] 第十九話[さくら](2009/10/25 17:12)
[21] 第二十話[さくら](2009/11/01 00:57)
[22] 第二十一話[さくら](2009/11/08 07:52)
[23] 番外編2[さくら](2009/11/08 07:52)
[24] 第二十二話[さくら](2010/12/27 00:37)
[25] 第二十三話[さくら](2009/11/24 18:28)
[26] 第二十四話[さくら](2009/12/05 18:28)
[28] 第二十五話【改訂版】[さくら](2009/12/08 22:42)
[29] 第二十六話[さくら](2009/12/15 16:04)
[30] 第二十七話[さくら](2009/12/23 16:14)
[31] 最終話[さくら](2009/12/29 13:34)
[32] 第二部 プロローグ[さくら](2010/02/03 16:51)
[33] 第一話[さくら](2010/01/31 22:08)
[34] 第二話[さくら](2010/02/09 17:11)
[35] 第三話[さくら](2010/02/09 17:02)
[36] 第四話[さくら](2010/02/19 16:18)
[37] 第五話[さくら](2010/03/09 17:22)
[38] 第六話[さくら](2010/03/14 21:28)
[39] 第七話[さくら](2010/03/15 22:01)
[40] 第八話[さくら](2010/04/20 17:35)
[41] 第九話[さくら](2010/05/02 18:42)
[42] 第十話[さくら](2010/05/02 20:11)
[43] 第十一話【改】[さくら](2010/06/07 17:32)
[44] 第十二話[さくら](2010/06/18 16:08)
[45] 幕間1[さくら](2010/06/20 18:49)
[46] 番外編3[さくら](2010/07/25 15:35)
[47] 第三部 プロローグ[さくら](2010/08/11 16:23)
[49] 第一話【追加補足版】[さくら](2010/08/11 23:13)
[50] 第二話[さくら](2010/08/28 17:45)
[51] 第三話[さくら](2010/08/28 17:44)
[52] 第四話[さくら](2010/10/05 16:56)
[53] 第五話[さくら](2010/11/08 16:03)
[54] 第六話[さくら](2010/11/08 15:53)
[55] 第七話[さくら](2010/11/12 17:16)
[56] 番外編4[さくら](2010/12/04 18:51)
[57] 第八話[さくら](2010/12/18 18:26)
[58] 第九話[さくら](2010/12/27 00:35)
[59] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ[さくら](2010/12/27 00:18)
[60] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ(ふぁいなる)[さくら](2011/01/05 16:39)
[61] 第十話[さくら](2011/01/05 16:35)
[62] 第十一話[さくら](2011/05/12 18:09)
[63] 第十二話[さくら](2011/04/28 17:23)
[64] 第十三話[さくら](2011/04/28 17:24)
[65] 第十四話[さくら](2011/05/13 09:17)
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[4285] 第八話
Name: さくら◆16c0be82 ID:a000fec5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/20 17:35
走る事数分。
短いと思うかもしれないが、祐輔にとって神速の逃げ足でそれだけ逃げればかなりの距離を稼げる。
祐輔は流れゆく外の風景が次第に遅くなっていくのを見て窮地を脱したのを確認した。

神速の逃げ足が解除されたという事は命の危険がなくなったという事。
それすなわちサビエルが祐輔の追跡をせずに見逃したという事にも繋がる。
祐輔は魔人という格上の相手を見事出し抜いたのである。

「―――――……ふぅ」

タン、タンと地面を抉る脚が軽い物に。
祐輔は香を抱えていて少し痺れた右腕に冷や汗をかきつつ、ぐんとスピードを緩めた。
いくら軽いと言っても筋持久力のない祐輔にとって、香を安全域までちゃんと抱っこを維持できるか心配だったのである。

「ここは…どこだかわからないな」

ようやく歩く程度まで速さを落とした祐輔はきょろきょろと近くの風景を流し見る。
無我夢中で走ったので明石側に向かっているのか、織田側に向かっているのかの検討もつかない。
祐輔一人ならともかく、今は胸元にすっぽり収まっているお姫様をなんとかしないといけないので困ったものだ。

「香様、香様…って、やっぱり駄目だこりゃ」

「は、はひ~~~?」

祐輔の胸元に収まっている香はグルグルと目を回して前後不覚になっていた。
香が体験した事は何の準備も覚悟もなくジェットコースターの一番前に乗せられたもの。
祐輔が意図的に走る速度を緩めていなかったら、空気抵抗とかでやばい事になっていたの
かもしれない。

「とりあえず織田に行かないといけないな。
ザビエルの事もだし、香ちゃんも連れて行かないと」

ランスにザビエルの事をどう伝えるか―――――――

「うっ……!」

急に訪れた吐き気に祐輔は香をゆっくりと地面に下ろし、近くの茂みへと跪く。
そして胃に入っていた物を全て吐き出した。
吐瀉物の中には血も混じり、胃の内容物を戻してしまった祐輔を苦しめる。

「っ…! はっ、はぁはぁ………」

祐輔は色々と限界だった。
体力的にも、精神的にも…その全てが追い詰められていた。
魔人という格上の存在と渡り合うためには矮小な人間に多大なダメージを与える。

魔人ザビエル。
祐輔がこの世界に来て以来、様々な人物と死線をかけて対峙してきた。
だがザビエルほどの威圧感、畏怖、恐怖を感じる存在はいなかった。

銃を眉間に突きつけられ、刀を首筋に沿わされたとしてもここまで消耗しまい。
もう吐き出す物はないというのにそれでも祐輔は胃の粘液を吐き出し続ける。
きっとストレスで胃に穴が開くのもあと少しだろう。

「う…ふっ、ははっはははははは! 生きてる! 俺生きてる!」

戻しながらも祐輔は『イキテル! 俺イキテル!』と連呼して祐輔は大きく笑った。
みっともなく吐いても、脚ががくがく震えていようとも、祐輔は生き延びた。
それはどんなに酷い状況でも素晴らしい事。おまけに五体満足だなんて最高ではないか。

ハハハハとひとしきり壊れたように笑っている祐輔。
他に見ている者も誰もいないので(香は目を回している)許してあげて欲しい。
溜まったストレスもこうやって発散しないと、人は簡単に壊れてしまうのだから。

「さて、と」

汚れた口元を袖で拭って祐輔は立ち上がる。
目下の問題である香は現在目を回して気絶している。
まずは香のために身を隠せて夜を過ごす場所を確保しないといけない。

「よっこいしょ、と」

ジジ臭い掛け声と共に香を背負う祐輔。
お姫様抱っこでもいいのでが、腕の筋力的な問題でそれは難しい。
なんという役得と思うかもしれないが、香は着物を何重にも着つけているので感触もへったくれも何もない。

祐輔はお子様に興味はないのでちっとも悔しむ事なく、香を背負って歩き出す。
これからどうっすかなぁと頭を悩ましながら。



〈パチ、パチ…〉

部屋をほのかに灯す小さな炎に照らされる古びた廃寺の一室。
風がふきっさらしの寒い部屋を温める炎の暖かさに香は目を覚ました。
何故か喉が痛い。酷く頭が痛む。気分も最悪だ。ここ近年ないほどの体調の悪さである。

(私、いったい…そう。そう、でした…)

寝ぼけた頭の中に蘇る変わり果てた兄の記憶。
兄の身体を乗っ取ったザビエルという魔人によって、香は完膚無きまで精神的にボコボコにされた。
そして身体を蹂躙されかけたところで……

「あ、目が覚めた?」

「ぁ……」

呼びかけられた声に掠れた声で答える香。
喉が痛い。きっとお腹の中の物を戻してしまったせいだ。
そんな事を無意識ながらも思い出しながら、香は改めてちゃんと呼びかけられた声に答えた。

「はい…森本祐輔殿、ですよね? この度は危ない所を助けて頂き―――」

「待って。お礼は後にしよう」

「え――?」

「どこか身体に痛い所はない? 気分が悪いとか、頭がクラクラするとか。
はい、これお水。ゆっくり飲んでね」

「は、はい。ありがとうございます」

はいと祐輔から香に手渡された水。
祐輔が香の近くにいなかったのは近くの清潔な水を探しに行っていたためである。
香は手渡された水と祐輔の顔を交互に見て、おずおずと水に口を付ける。

「美味、しい……」

「そっか。それはよかった」

香の思わず口を出た言葉に祐輔はにっこりと笑った。
実際その水はその辺の古井戸からくんできた何の変哲もないただの水。
だが身も心も傷つき、摩耗した香にとって身体に染み渡る優しい味に思えた。

人間酷く落ち込んでいる時や精神的に疲れている時、一杯の紅茶やコーヒー、お茶がとても有効である。
それを経験則から知っていた祐輔は何か飲めるものを探しに行っていたのだ。
流石に冷たい水しか手に入らなかったものの、十分効果があったとほっとする祐輔だった。

「落ち着いたか? 出来れば事情を聞きたいのけど…まだ疲れているようだったら、三刻ほど仮眠してからでもいいけど」

頬がやつれ、祐輔の目からしても香は限界近いように思える。
だが祐輔は香がどこまで知り、ザビエルの事についてどう考えているかを確かめなければいけない。
それによって祐輔がこれから取るべき対応が随分と変わってくる。

そのため香から話を聞く必要があるのだが――――祐輔は少し躊躇してしまっていた。
祐輔が香に訊ねている事はザビエルの事、つまり香にとって苦痛でしかない内容に違いない。
それを今の香に訊ねるのは…人としてどうかと思うのだ、祐輔でも。

「いえ、お気遣いありがとうございます。
全部…とまではいきませんが、あの場で起こった事をお話します」

だが香は強かった。
祐輔に助けてもらった以上、事情の説明は最低限しなければいけない義務である。
そして香自身事態の把握をするために声に出した方がいいと判断したのだ。

「ですが…非常に勝手な事を言っているとは思います。
しかしこれから話す事はどうか他言無用でお願いします」

無論これから祐輔に話す事は織田の根幹を揺るがす事実に相違ない。
もし主君である信長がザビエルであると他国に漏れれば…天志教はおろか、魔人征伐の名の下に隣国が一気に攻め入る可能性がある。
上杉、武田、天志教。いずれも一つの勢力のみで織田を滅ぼしうる軍強。香は織田を戦場にしたくなかったのだ。

祐輔に事情を話す危険性は香もしっかり理解している。
だがこのまま何も話さないという選択肢もまたないのだ。
ならばちゃんと事情を説明し、織田は魔人と協力関係を結んでいないという点だけでもわかってもらわないといけない。

「わかった、今から聞く事は全部俺の胸の中だけにしとく」

「ありがとうございます」

祐輔の明快な回答に香は胸を撫で下ろす。
祐輔がどこまで知っているか香は知らないが、少なくとも信長がザビエルであるという事は知っているはず(香視点)。
それを裏に込めて先程祐輔に頼んだのだ。それを理解している色を見せた祐輔に香は感謝した。

「あ! あぁ~…。今頃気づいたけど、敬語じゃなくて普段の言葉遣いで話していたな。
他言無用でいるから、出来れば今までの無礼は許して欲しいんだけど。
それと出来ればこれからもこの口調で話したいんだが…」

「え、あ、はい。そんな事、お気になさらずに。森本殿の話しやすい口調でどうぞ。
それと私の事は香と呼び捨てて頂いても構いません」

「いや、流石にそれはまずいから…香殿でいい? じゃあこの口調で話すよ」

「はい」

実は敬語って使い慣れてないんだよなー。
そういいながらハハハと笑う祐輔は自然体で、直前までにあのような事態に見舞われたとはとても思えない。
今まで体験した事のない非日常に身を置いていた香にとって、祐輔の日常と変りない態度はとても有り難い物だった。

「まずはそうですね。兄う…信長が病に伏せがちという事は知っていますか?」

「ああ、そこは知っている。
ランスが来る前まで領地を拡大しようとしなかったのはそのせいだってね」

信長が病弱であるという事は他国にも有名な話だ。
それでも国として体裁を保っていたのは家臣が有能だったからだが、その話はまた別の話。
今香にとって必要なのは祐輔が一般的な織田の実情の知識を持っていると確認できた事である。

「その病ですが、一ヶ月ほど前から急速に悪く――――――――」

香は祐輔にここに至るまでの経緯を説明する。
廃寺の中に響くのは香の声と薪火がパチパチと弾ける音のみ。
時折香が涙を堪えきれなくなってしまい中断してしまったりするが、こうして夜は更けていった。



「―――――以上が私の知り得る、お話の出来る全てです」

「そっ、か。わかったような口を聞くけど、辛かったね」

「いえ、お気遣いありがとうございます」

全てを香姫から聴き終わった後、俺はなんともいえない感覚に包まれていた。
原作通りに進んでいるな、とか。魔人復活テラヤバスwwとか。そういうのじゃない。
正直厄介な事になったというのが大半を占めているが、それよりも――――

「それで織田はどうするつもりかな?」

目の前のちっさなお姫様が今後どういう行動をとるのか、という興味。
話からいかに信長が好きだったかが伝わってきたし、ぶっちゃけ同情もした。
今この子は大好きだった兄と尾張、ひいてはJAPAN全土を天秤に賭けているのだ。

最も愚かな方法だが、魔人から信長を解放する手段を探すために事実を隠すという選択もある。
だがそれは愚策も愚策。いたずらに魔人に時間をやるだけで、結局は魔人の助けになるだけだ。
だが人間とは情で生きる生き物。敵だからと肉親をすっぱり切り捨てられる奴は狂っているとしかいいようがない。

「無論、ザビエルに身体を支配された兄を討ちます」

だがこの姫様は―――目の前で真っ赤に泣きはらした瞳の少女は、己の兄を殺すと答えた。

「…馬鹿な事だとは思うけど一応確認しとく。
それは織田が全軍をもって、魔人サビエルと敵対するという事でいいんだな?」

「はい。これから私は織田に帰り、家臣と話し合います。
きっと…きっと、皆。納得して、私に賛同してくれると思います」

為政者として。
民のために。
たった一人の肉親を殺すと、少女は俺の問いに答えた。

「…立派だな」

口からすんなり出てきた言葉は本心からの言葉だ。
俺にはそれが合理的だとわかっていても、こうも早く選択できなかっただろう。

「…いえ」

もっともその選択が容易ではないのは見て明らかだ。
今にも泣き出しそうな表情をぐっと堪え、静かに全身を微かに震わせながら目を伏せる香姫。
無理をしている。俺が無理をさせている。だが俺にはこの答えへと誘導する必要性があった。

兄である信長が倒れた以上、織田の直系は香姫のみ。
香姫の願いと命令であれば織田全軍は明日の昼にでも動く。
そして香が頼めばランスさえも簡単に動かせるのだ。

こんな精神的にボロボロになった少女さえ利用し、事態を好転させようとする自分に吐き気がしない事もない。
だがこれが俺であり、俺が成し遂げようとするために必要な事なのだ。
こうやって命懸けで香姫を助けた以上、ザビエル退治に尽力してもらわないと割に合わない。

なにも香を助けたのは俺の利益だけじゃない。
俺の利益を最優先するなら見過ごすのが最もベスト。
だけどこうやって助けた後、なまじ原作知識があるため流れを誘導しようとするのは俺の悪い癖だ。

「あの…」

「ん? 何かな?」

「私からも聞いていいですか?
どうして…どうして、私を助けてくださったのですか?」

俺が複雑な心境でいると、核心をズバリつく質問が香姫から飛んで来た。

「助けて頂いたのは本当に感謝しています。
けれど、わからないんです。どうして私にそこまでよくして頂けるのか…」

「助けた理由、ね」

自分でも少し考えていたけど、やっぱりこれが一番の理由か。
俺は古井戸で軽く洗ってきた、血の染みが取れないソレを香姫の前に出す。

「それは…」

「そう。多分、君を護衛していたんだろう忍者の遺品。
彼女に頼まれたんだよ。どうか君を助けて欲しいってね」

ソレはあのくノ一から拝借した織田忍軍の頭巾。
まだ湿っているソレを食い入るように見つめる香姫に手渡す。
きっとこれは香姫が持っているべき代物だろうし。

「その人は今」

「死んだよ。彼女だけでなく、君の護衛は全部ね」

「そう、ですか」

ぎゅっと血が出る程の唇を噛みしめる香姫。
きっと自分の行動を悔いているのだろう。
後悔先に立たずとはよくいったもの。過ぎ去ってしまった事は今更どうしようもない。

なら死者のために何をするのかが重要になってくる。
その心配は先程香姫の言葉を聞く限りないようだけど。

「彼女に感謝して、出来れば織田で弔ってやってほしい。
できれば彼女だけじゃなくて、他のくノ一達も」

「はい…! はい…!」

ついにポロポロと小粒の涙を流す香姫。
これに関して俺は手出しできない。彼女だけの問題だ。
きっと死んだくノ一もそれを望んでいる事だろう。

「俺も、作ってやらないとな。あいつらの分も」

あの時契約したヤンキー鴉は死んでしまった。
短い付き合いだったとはいえ、結構悲しいものだ。
戦争をしていてその感情が薄れてしまっているのが少し怖いが、これも適応というのだろうか。

あと個人的な理由をいえば、あの欝イベントを見たくなかったってとこだろうか。
避けられる物なら避けたい類の物だし、今回も命の危険さえなければどうやってか回避しようとしただろうし。
俺の妹ぐらいの女の子が陵辱されるなんて胸糞悪い物、実際起こったと聞いただけで罪悪感が凄まじい。

原作知識とは何も利点ばかりじゃない。
知っていて見過ごせば、小物な俺は自分の責任だと思ってしまって夢見が悪くなってしまう。
傲慢なんだろう。まぁ全てを自分の力でなんとかしようとする奴よりはマシだとは思うけど。

ま、こっちのほうの事情は説明できないし、説明するつもりもないしね。
香姫のフラグはいらんですよ。俺ロリコンじゃないし、光源氏計画も否定派だし。
変に執着でも湧かれればまず間違いなくランスに殺される。これ一番ね。

おぱい! おっぱい!
やはりフラグを立てるならこっちがクラっとくるような色気がないといけない。
もっとも自分、今男として終わってますから! そういう事になってもどうにもなりませんから! 残念!  

…欝だ、死のう。
本気で死にたくなってきた。
香姫も精神的にかなりきているみたいだし、俺も結構ヤバイので休息を取ろう。

香姫がザビエルに名前をぽろっと言っちゃうというハプニングがあったものの、多分大丈夫だべ。
顔見してないし、それ以前にこの世界の住人だったら俺みたいなのなんて山ほどいるはずだ。
次会っても『森本? 誰、それwww自意識過剰乙wwww』ぐらいなリアクションだと思う。

「そろそろ夜明け前だけど、少しだけ寝ようか。
自慢じゃないけど、俺の寝付きは凄まじくてね。
そりゃ近く怒鳴りたてようと、どんなに泣き喚こうと起きる事はないんだ」

「え…? あの、一体…」

「じゃー、俺寝るし。香殿も寝ればいいと思うよ? おやすみ」

「お、おやすみなさい…?」

ゴロリと横になる。
身体は死にそうなくらい疲れているが、本当は全然眠くない。
多分魔人と対峙した時のアドレナリンとかが今でもでているじゃないかと思うくらい。

「俺は織田とは無関係な人間だ。
だからここで一人の女の子が何しようが、俺には関係ない」

「あ…」

「これも寝言だからね。俺の寝言マジ凄いからね」

香に背を向けるようにして寝転んでからして少し。
小さくすすり泣く声を耳に入れないようにしながら、俺は明日の事を考える。
とりあえず香を尾張の国境までは送り届けなくてはいけない。手配書も…まぁ、香姫が一緒ならなんとかなるだろう。

「兄上、どうして、兄上……う、ぅぅ、ぅぅぅぅぅぅうぅ…!」〈ぐずっ、スン……〉

この小さなお姫さまは織田に帰り次第、過酷な未来が待っている。
兄である信長を逆賊として、魔人であるとして家臣を纏め上げて討たなければならない。

ならここで少しだけでもガス抜きをさせてあげよう。
これから先ランスと3Gぐらいにしか内心を打ち明け、泣きつく事も許されないのだ。
それがいつやってくるのか、まるでわからないのだから。



翌日、俺は頭を抱えていた。

「どうしてこうなった…」

『おい、現実逃避してる場合じゃねぇぞ! 早く逃げな!!』

玄さんの声が無情に頭に響く。
首筋の疼きは今こうしている間もどんどん強くなっている。
これが今朝の俺の目覚めだった。

「あぁ、なんで首筋が疼くかな、もう! 魔人!? 魔人の配下か!?」 

見逃してくれたかと思っていたが、そうも甘くないらしい。
ともかく俺は状況を把握していると思われる玄さんに矢継ぎ早に訊ねた。
っち! そういや、煉獄とかはもう復活しているはずだ。なら追手がきてもおかしくは――――

『バカヤロウ! そうじゃねぇ! 剣振り回してきてんのはランスだ!!』

「…what?」

――な、い?
え、追っかけてきてるのってランス? 魔人の一派じゃなくて?

「え、どうしてランスが俺を殺す気でくるの?」

『知るか! だが「誘拐犯はころーす!!」とか言ってどんどん近づいてきていやがる!』

誘拐犯…? ここで俺の優秀な頭脳はある方程式を弾き出した。
香姫行方不明→鈴女捜索→廃寺で俺と一緒に発見→壮大な勘違い(!!)→ランスに報告→俺、ピンチ。
な、なんてわかりやすい構図なんだ…! しかも納得できる俺がいる。

「香殿、香どのーーー!! 起きて! マジで起きて! 香ちゃーーーん!!!」

「うぅ……んん、ぅん…」

駄目だ、香姫はお疲れでぐっすり熟睡してらっしゃる! 起きる気配ナッシング!
これはいかん、いかんとですよ! このままじゃ事情を説明する前に俺が死ぬ!
逃げる事はできても、ランスの攻撃をよけ続けるとか出来ると思えん!

ここが決断の時か…!
俺はすぐさま草鞋を履いて、脱出の準備を進める。
香姫の決意は聞いたし、後は俺が触れなくても原作通り話は進むだろ!

「ラーーーンス!!!」

準備を終えた俺はがらっと扉を開きながら叫び声をあげる。
50mぐらい先にはランスが砂埃をあげながらこちらに疾駆していた。
首筋の疼きは如何に俺がピンチかを教えてくれる。

「香姫はここにいる!! 後は任せたぞぉぉぉおおおおおお!!!!」

「あ、こら待て!! 逃げるな、誘拐犯!!」

「事情は香姫から聞いといてくれぇえええ!!!!」

それだけ言い残して俺は神速の逃げ足で逃げ出す。
俺は今、風になる!!!



「ハァハァ…ッち、逃げ足の速い奴だ」

ぜいぜいと息を鳴らしながらランスは祐輔を取り逃がした方向を睨みつける。
ランスの下に香姫行方不明の報せが届いたのは昨晩。
それ以降織田全軍で捜索にあたっていて、香姫と思しき人物の目撃証言を掴んだのが今朝である。

実はこの廃寺、尾張の領地内にあるのである。
それに気付かずここまで走りぬいた祐輔は流石だ。
しかしそれがために情報が集まりやすく、こうまで早期発見となったのだ。

なんでも若い男が気絶している香姫を廃寺に連れ込んだらしい。
将来自分の女になる予定の香姫に何をするつもりだとランスは大激怒。
ランス自らここまで脚を運び、香姫に不届きを働こうとする不埒者を退治しにきたのだ。

本来の作戦では誘拐犯をランスがこてんぱんにやっつけ、香を颯爽と救出。
そこでランスに完全に惚れさせてしまおうという作戦だったのだが、誘拐犯を逃がしてしまったので失敗である。

(それにしてもあの男。見覚えがあったような、なかったような)

一瞬の間だったため、ランスは誘拐犯の男の顔をちゃんと見ていない。
聞いた事があったような声がしないでもないが…後の調査でわかること。
祐輔の顔は覚えて殺したいとまで思っているものの、声までは覚えていないランス。ここらへんに男と女の扱いの差が現れている。
まぁ助け出すだけでもいいかとランスは気を取り直して廃寺に向かった。

「香ちゃんー、無事かー?」

廃寺の中には香姫の他に誰もいない。
肝心の香は質素な毛布を被って、まだ覚醒に至っていなかった。
夢と現のまどろみの中を行き来していたのである。

「香ちゃん、起きろ。俺様が助けにきてやったぞ」

「ぅ、ん……ゆうすけ、どの?」

「…あん?」

ゆっさゆっさと揺らしながら香を起こすランス。
ゆっくりと香の瞼が開き、その薄い唇が就寝前まで傍にいた男の名前を紡ぐ。
なんでここでその男の名前が出てくるとランスの機嫌はまたたく間に悪くなった。

「って、ら、ランスさん!? どど、どうしてここに!?」

「どうしてここに…って。誘拐された香ちゃんを助けにきたのだ」

パッチりと目が覚めた香は目の前に広がるランスの顔に驚きの声をあげる。
それにランスは怖かったなー、もう大丈夫だぞと香に安心するように言う。

「あ、あれ? 祐輔殿、は? 
あの、ランスさん。ここに祐輔殿はいませんでしたか?」

「ああん? 祐輔? シラン。
だが安心しろ。香ちゃんを誘拐した犯人は俺様が追っ払ったからな! がははははは!!」

「誘拐?」

何かがおかしい。話が噛み合っていない。
香姫はまさかと思いながらランスに質問を続ける。

「あの、誘拐とは…? それに追っ払ったって…」

「この寺にいた香ちゃんを誘拐した犯人は俺様に恐れをなして逃げ出したのだ」

香と祐輔以外、この寺に人はいなかったはず。
ランスの話しによれば、その誘拐犯?とやらは寺から逃げ出してきたらしい。
それが意味する事といえば――――

「あ、あああああわわわわわ…なななななななななな、なな、なんという事を…」

香を助けた祐輔を誘拐犯だと勘違いし、ランスが追い払った。
自分と織田に大恩ある人間に切腹物の無礼を働いたという答えに達し、香はorz状態で跪いて衝撃に打ちひしがれていた。
もうこれは駄目だ。取り返しがつかない。どうしようもないレベルの粗相である。

(どどどどどどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!!!??
あわわわわわわわわわ、私! 私は一体どうしたらいいのですか!!? 教えて、助けて3G!!!)

はっきり言おう。これほどまでに香が錯乱した事はあまりない。
頭には全てが終わった後にどうやって謝罪をするかで埋め尽くされる。
一方こうなった原因のランスはどうして香がショックを受けているかまるで理解していなかった。

(ああ、なるほど怖かったのだな)
「もう俺様が来たから安心だぞ! とにかく織田の城に戻るぞ!」

脳天気なランスの顔を少し恨めしく思う香。
この問題に関して、もうどれだけ悩んでいても香には答えは出ない。
全てが終わった後で3Gに相談して、どうするかを決めよう。
香は考えるのをやめた。それも重要だが、それよりも重大な事が迫っている。

「ランスさん、すぐに織田に帰りましょう。
そして全ての部隊の部隊長を集めてください。大事なお話があります」

「お、おう(雰囲気が変わった…?)」

ずーんと落ち込んでいる状態から一転、すくっと立ち上がって香はランスより一足先に寺を出る。
今までとはどこか違う香の様子に戸惑いながらもランスは香の後に続く。
これから香は香にしか出来ない、重大で重要な事をしなければいけないのだから。



香は帰還後、主だった家臣を集めて魔人ザビエル復活を伝えた。
織田の家臣に激震が走り、鈴女はランスの魔剣カオスを本能寺まで連れて行って確認させるも信長をザビエルだと断言。
香と織田家臣、ランス達は苦渋の決断をする。

巫女機関へ戦後制圧に向けていた戦力を尾張に帰還させる。
その間に天志教から織田に使者が来訪。織田は秘密裏に天志教に魔人討伐の申し出をする。
全ての準備が終わった三日後。織田、天志教は同時に本国を出発。決戦の地本能寺で合流する事になった。

「織田…ランス…いいねぇ、きなよ。
今度こそ俺がぶっ殺してやるからよ……」

本能寺の一室にて憎悪を滾らせる使徒が一人。
身体の傷は殆ど癒えたものの、未だ全快にまでは至っていない。
だが使徒・煉獄はもう一人の使徒・式部と共に打って出るつもりである。

だが裏を返せば彼等がでなければいけないほどに魔人側の戦力は少ない。
あくまで三笠衆は諜報の部隊であって、あくまで一部隊に過ぎない。
天志教と織田全軍にぶつかれば、ひと当たりで壊滅してしまうだろう。

本来ならもっと戦力が整っているはずだったのである。
だが香という誤算が全てを狂わし、魔人側に戦力を整えさせなかった。

だが煉獄はそれを微塵も不利だとは思わない。
たかが織田と天志教。変幻した煉獄と式部がいれば十分蹴散らせる。
そう確信していた。

迎えるは魔人。
総大将たる魔人ザビエルは不死身、不死。
配下の使徒も文字通りの一騎当千の化物。

攻め入りたるは織田・天志教連合。
魔人殺しの魔剣・カオスを所持し、英雄の資質を持つ男ランス。
無敵の魔人に対抗する手段として何百年も伝えられた秘術を用いる性眼。

JAPANを揺るがす魔人と人間との長い闘い、第三次魔人大戦。
その始まりの一ページが今、刻まれようとしていた。



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