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No.4285の一覧
[0] 逃亡奮闘記 (戦国ランス)[さくら](2010/02/09 17:04)
[1] 第一話[さくら](2008/10/14 08:51)
[2] 第二話[さくら](2009/12/08 15:47)
[3] 第三話[さくら](2008/10/22 13:09)
[4] 第四話[さくら](2008/10/22 13:12)
[5] 第五話[さくら](2008/10/30 10:08)
[6] 第六話[さくら](2008/11/04 21:19)
[7] 第七話[さくら](2008/11/17 17:09)
[8] 第八話[さくら](2009/03/30 09:35)
[9] 番外編[さくら](2009/04/06 09:11)
[10] 第九話[さくら](2009/09/23 18:11)
[11] 第十話[さくら](2009/09/26 17:07)
[12] 第十一話[さくら](2009/09/26 17:09)
[13] 第十二話[さくら](2009/09/28 17:26)
[14] 第十三話[さくら](2009/10/02 16:43)
[15] 第十四話[さくら](2009/10/05 23:23)
[16] 第十五話[さくら](2009/10/12 16:30)
[17] 第十六話[さくら](2009/10/13 17:55)
[18] 第十七話[さくら](2009/10/18 16:37)
[19] 第十八話[さくら](2009/10/21 21:01)
[20] 第十九話[さくら](2009/10/25 17:12)
[21] 第二十話[さくら](2009/11/01 00:57)
[22] 第二十一話[さくら](2009/11/08 07:52)
[23] 番外編2[さくら](2009/11/08 07:52)
[24] 第二十二話[さくら](2010/12/27 00:37)
[25] 第二十三話[さくら](2009/11/24 18:28)
[26] 第二十四話[さくら](2009/12/05 18:28)
[28] 第二十五話【改訂版】[さくら](2009/12/08 22:42)
[29] 第二十六話[さくら](2009/12/15 16:04)
[30] 第二十七話[さくら](2009/12/23 16:14)
[31] 最終話[さくら](2009/12/29 13:34)
[32] 第二部 プロローグ[さくら](2010/02/03 16:51)
[33] 第一話[さくら](2010/01/31 22:08)
[34] 第二話[さくら](2010/02/09 17:11)
[35] 第三話[さくら](2010/02/09 17:02)
[36] 第四話[さくら](2010/02/19 16:18)
[37] 第五話[さくら](2010/03/09 17:22)
[38] 第六話[さくら](2010/03/14 21:28)
[39] 第七話[さくら](2010/03/15 22:01)
[40] 第八話[さくら](2010/04/20 17:35)
[41] 第九話[さくら](2010/05/02 18:42)
[42] 第十話[さくら](2010/05/02 20:11)
[43] 第十一話【改】[さくら](2010/06/07 17:32)
[44] 第十二話[さくら](2010/06/18 16:08)
[45] 幕間1[さくら](2010/06/20 18:49)
[46] 番外編3[さくら](2010/07/25 15:35)
[47] 第三部 プロローグ[さくら](2010/08/11 16:23)
[49] 第一話【追加補足版】[さくら](2010/08/11 23:13)
[50] 第二話[さくら](2010/08/28 17:45)
[51] 第三話[さくら](2010/08/28 17:44)
[52] 第四話[さくら](2010/10/05 16:56)
[53] 第五話[さくら](2010/11/08 16:03)
[54] 第六話[さくら](2010/11/08 15:53)
[55] 第七話[さくら](2010/11/12 17:16)
[56] 番外編4[さくら](2010/12/04 18:51)
[57] 第八話[さくら](2010/12/18 18:26)
[58] 第九話[さくら](2010/12/27 00:35)
[59] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ[さくら](2010/12/27 00:18)
[60] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ(ふぁいなる)[さくら](2011/01/05 16:39)
[61] 第十話[さくら](2011/01/05 16:35)
[62] 第十一話[さくら](2011/05/12 18:09)
[63] 第十二話[さくら](2011/04/28 17:23)
[64] 第十三話[さくら](2011/04/28 17:24)
[65] 第十四話[さくら](2011/05/13 09:17)
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[4285] 第五話
Name: さくら◆16c0be82 ID:a000fec5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/09 17:22
――――尾張

一向に進まない祐輔捜索に対して五十六はどうしたものかと悩んでいた。
織田の領地内はとっくに調べ上げ、同盟国である浅井朝倉にまで捜索の手を伸ばしている。
だというのに一向に情報の一つも手に入らないとなれば、祐輔は既に他国へと出ているのではないだろうかという疑念も湧く。

他国に出てしまえば軍単位での捜索は不可能になる。
織田の軍が捜索のためとはいえ他国に侵入すれば、それは領地侵犯となって国家間の問題だ。
そのため他国を調べる場合には忍者でも雇って隠密に調べ上げるしかない。

そうなればかかってくる費用も莫大だ。
ただでさえ織田は戦続きなのだ。先日も巫女機関を追い詰め、更に領地を増した。
ランスの好意(五十六はそう思っている)で捜索は続けられているものの、更に申し出る事は戸惑われた。

浅井朝倉の一件以来ランスを疑問視する声もあったが、今ではその声も小さくなっている。
所詮今の世の中は戦国乱世。勝ち続けるランスはその実力によって信頼を勝ち得ていたのだ。
おまけに言うならば最近信長の体調が優れなく、織田の舵取りはより一層ランスが握るようになっていた。

「そういえば…」

ふと五十六は信長について祐輔が何か伝えて欲しいと言っていた事を思い出した。

【――――もし、信長殿が彼らしからぬ行動にでた時。
彼が誰とも会おうとせず、部屋に引篭もり、不審な男たちとしか面通りしなくなった時。
ランス殿が持っている魔剣カオスに部屋に出入りしている男、もしくは信長殿のペットを見せて下さい】

何もなければ忘れてくださいと断りを入れての言葉。
だが祐輔の言葉にはこの現状を予期しているかのような部分があった。

まず信長は誰とも会わなくなっていた。
病が重いためと誰も部屋に寄せ付けないようになり、妹である香すら遠ざけている。
五十六は知らないが以前であれば香と会うくらいはしていたのに、と勝家が訝しがっていたのを覚えている。

そして不審な男達との繋がりが出来ていた。
【三笠衆】というそうなのだが、信長が病の治療のために遠方から読んだ医者の集団らしい。
信長の部屋に出入りするのは三笠衆ばかりとなっている。

だがこれも妙だといえば妙なのだ。
城には典医(かかりつけの医者)がいるというのに、何故得体のしれない人間を雇う必要がある?
その典医も三笠衆から何も聞いていないというのだから、おかしな話だ。

「ランス殿に相談してみるか」

祐輔がどうして織田の実情を予期していたかについて疑問は残る。
しかし祐輔という人物に実際会って、太郎からの話を聞いて信用に値する人間だと五十六は評価していた。
何より太郎を救ってくれた恩人だ。何を疑う必要があるというのだ。

五十六がランスにこの事を相談する事によって織田の実情は大きく変わる事になる。
それは一つの別れと対峙。長きに渡る戦端の幕開けとなるとは誰も知らずに。



ザビエルという魔人がいる。
魔人とは全ての生態系の頂点に位置する魔王の部下であり、数は100にも満たない。
しかしその身体的ポテンシャルと特異性は人間と隔絶したものがある。

一つは無敵結界という全ての魔人が持っている無敵の盾。
魔人は通常の武器や魔法では何をしても傷つける事が出きない。
現代で言うならば核爆弾の爆心地にいても傷ひとつつかない。これが人間との力量差を絶対にしているものなのだ。

そしてもう一つは使徒という部下を作り出す事が出来る。
使徒とは魔人の力を削って作り出す【子】であり、作れば作るほど魔人の力は弱くなる。
しかしこの使徒は魔人に絶対の忠誠を誓っているため、魔人が封印されても復活のために命をかける有能な部下だ。

「本能寺の舞台は整ったのか?」

そしてそんな魔人の【欠片】が信長の身体の中に身を潜めていた。

信長の中にいる魔人の名はザビエル。
はるか昔JAPANに未曽有の恐怖をもたらし、天志教の僧によって八つ裂きに瓢箪の中へと封じられた魔人である。
その力は使徒を何人も持つほどに強く、魔人の中でも上位に数えられている。

そんな魔人の4/8が信長の中に在った。
魔人ザビエルの魂が封じられている8つの瓢箪は全国の大名が守っている。
現在信長の中にあるのは織田・足利・上杉・明石の4つ。上杉のものは使徒である藤吉郎が奪ってきたものだ。

「はい。いつでも行けますぜ」

信長に臣下の礼をとって報告をする煉獄もまた使徒の一人である。

「月餅の法を使える者を探さねばならぬ。
そしてよもや我が懐に潜り込んでいるとは、夢にも思うまい」

「ええ。それにしてもこうも簡単に行くとは思いませんでしたよ」

「くくっ、確かに、な。身体の主が大名とは便利なものよ」

ザビエルとその一派【三笠衆】は拠点を天志教のお膝元本能寺へと移そうとしていた。
ザビエルにとってJAPANの中で一番警戒しているのは天志教のみ。
さらに言うなら月餅の法というザビエルを封じる事が出来る呪法を使える者。

それを早々に探し出して殺してしまおうという企みなのだ。

「では俺はこれで。向こうで先に準備を整えておきます」

第一使徒であり信長のペットでもある藤吉郎は瓢箪を探しに出ているためこの場にいない。
煉獄は先に本能寺で待たせている式部の事もあるし、先に本能寺へと向かう事になった。
信長の自室に残ったザビエルは一人、これからの事を考えてニタリと暗く嘲笑う。完全復活の時は近い。



「やれやれ、戯骸や魔導は何をやっているんだろね。
いっつも俺ばっかり仕事が増えていきやがる」

ま、それも慣れっこだからいいがな。
煉獄は一人で廊下をスタスタ歩きながら今後の動き方について思案していた。
ザビエルが信長の意識を掌握したとはいえ、未だに完全復活には遠い。

そして使える手駒も少ない現状。
式部は戦闘能力が卓越したものがあるが、その他の能力の欠損が多すぎるために使えない。
三笠衆は所詮人間だし、有能に動けるのが猿である藤吉郎であるというのが泣けてくる。

「今は瓢箪を集めるとしますか…っとと、織田の殿サンか」

ブツブツと独り言を呟いていた煉獄だが、向かいの廊下からランスが近づいてくるのが見えた。
実質織田の殿=城主は信長である事には変わりはないが、便宜上煉獄を含む三笠衆はランスの事を殿と呼ぶ。
ランスは背後に桃色の髪の少女、青髪の忍者、そして長い黒髪の女を侍らせている。
煉獄はもうすぐすれ違うのですっと道を空けてランスが通り過ぎるのを待つ事にした。

ランスは何やら魔剣カオスを鞘から抜き放っており、プラプラと振り回している。
危ねぇ奴だなと思いながらもランスが煉獄の前を通り過ぎようとした瞬間。

【待て、相棒】

「アン? どうした?」

【う~ん、コレどうかな~? 微妙に匂うぞ】

ピタリと先頭を歩くランスが歩みを止めた。
そうなると当然後ろを歩く女達もたちどまるし、煉獄も道を空けた状態のままで止まらざるをえない。

【そこのデッカイ男から匂うきがする。もっと身体(剣)を近づけてくれ】

「におうって、お前、まさか」

【ああ、魔人のほうじゃないゾ? ただそれに似た匂いがする】

煉獄からすればランスとカオスの会話の要領はえない。
だが剣が言葉を操り、なおかつ自分を怪しいと断じた事は理解できる。
煉獄の心にまずいという焦燥が生まれた。

煉獄の記憶の中に言葉を発する剣といえば一つしかない。
かつて彼の主人ザビエルを倒すまでには及ばないものの、極限まで弱らせて月餅の法で封じられる一因となった男の武器。
【聖剣日光】ただひとつだ。

「お前、見ない顔だな。誰だ?」

「え、えぇ、俺は信長様に個人的にお使えしている三笠衆の者です。
用事があるので、これで失礼します」

「まぁ待て。俺様が待てと言っているのだから、待つのが当たり前だ」

ギョロリとランスの大きな瞳が初めて煉獄を捉える。
それと同時に煉獄へと魔剣カオスの切っ先が向けられた。
どうする? 煉獄は思わぬ形で窮地に陥り、選択を迫られる。

信長の知識を得ているザビエルからランスの話は聞いていた。
異国からきた馬鹿だが、その腕前は凄まじいものがある。しかし馬鹿だから気にしないでいいと。
腕は立つが自分たちの計画の邪魔足り得ないと。

ザビエルが信長から読み取った情報の中にはランスが魔人を倒したという情報もあった。
しかしそれはあくまで本人の自称であり、ザビエルはとんだホラ話だと認識したのである。
まさか魔人を何人も殺し、国を救った事が事実であるとはザビエルでさえ思えなかった。

ザビエルが身体を完全に掌握してからランスと会っていれば、彼の持つ剣の異様さに気づいたかもしれない。

【うん、こいつ黒。匂いは薄いけど、間違いない。こいつ使徒ぢゃ! 殺せーーー!!!】

「ッチ!!!」

「あ、コラ、待たんか!」

煉獄は与えられた僅かな時間の間に選択をする事に失敗。
カオスに自分が使徒であると見破られた上での逃走という結果しか選べなくなった。
煉獄はその大きな身体からは考えられない俊敏さで廊下から庭へと飛び退く

普通の人間ならいざ知れず、煉獄は使徒だ。
人間とは並外れた肉体と身体能力を持つ煉獄であれば一度姿を隠せば充分逃げ切れる。
ここで自分が死んではザビエル復活が遠のく。死ぬわけにはいかない。

「いきなりランスアタック!!!」

だがランスも歴戦の強者。
魔剣カオスの切っ先を向けるまでしたのだ。
そのまま煉獄の逃走を許すほどランスは甘くない。

カオスの刀身に闘気を漲らせ、横薙ぎに振るって闘気を飛ばす。
魔人の使徒ならば殺しても問題ない。自分の命令を問答無用で無視したので殺しても問題ない。
つまりランスに躊躇する必要性は全くない!

〈ザザザザザザ!!!!〉

闘気の塊は横一文字に空間を切り裂いて煉獄へと迫る。
使い手であるランスが何の躊躇もなく、武器であるカオスが殺意を込めて放った一撃。
その一撃は魔人であっても致命傷と成り得る必殺の一撃。

〈ブシュウウウウウウ!!!〉

「ガッ!? ガアアアアあああああアアあああ!!!」

その一撃は狙いたがわず煉獄の腹をゴッソリと抉った。
だが致命傷には至っていない。闘気が身に迫る一瞬、煉獄は神業的な動きで身を捩ったのである。
ランスが歴戦の勇者なら煉獄は古参の戦士。積み重ねてきた戦場と闘いの数は伊達ではない。

「ジンデ、ダマルガァァアアアアア!!!」

ゴボリと血を吐き、ランスアタックによって深手を負った煉獄は大きく跳躍する。
周囲に血を撒き散らしながらも、ガキリボギリと骨が貌を変え、肉が膨張して加速度的に白い体毛が伸びる。
このままでは煉獄は死んでしまう。そのため奥の手ともいえる手段を取った。

―――四神。
東の青龍・南の朱雀・西の白虎に北の玄武。
ザビエルの使徒は第一使徒の藤吉郎を除いて四柱の霊獣の力をシンボルに持っている。
煉獄が持つのは西。木火土金水の内、【金】の力を与えられていた。

「な、なんだアレは!?」

ランスの驚愕を他所に煉獄の変体は終わりを迎える。
空を駆ける四肢は丸太のように太く、その体躯は百獣の王である獅子のゆうに数倍。
体中に生える体毛は太く針金のように尖っており、【金】の力によって鋼の硬度を持っていた。

白虎・煉獄。
全てを蹂躙しうる力はしかし、ただ逃げるのみに使われていた。
そうせねばならないほどにランスから受けた傷は深い。

【コロス…ガナラズ、織田ノ兵ヲ皆殺ス。ランスモ信長モ全テダ!!!】

そう捨て台詞を吐き捨てて白虎は空へと飛ぶ。
空を飛翔するのは朱雀の専売特許だが、白虎がしたのは飛翔ではない。
強靭な四本足の脚力による純粋な跳躍である。

思いにもよらぬ負傷を負った煉獄は呪詛を撒き散らしながら空へと消えて行った。



「大変な事になったな」

【なにやってんのぢゃ相棒! ちゃんと殺害せんと!!】

「うるさい、黙ってろ駄剣。いきなりなのでびっくりしたのだ」

あーびっくりしたとランスは軽口を叩きながら剣を空中で薙ぐ。
遠心力でカオスに塗れていた血をピッと空に飛び散らせてから鞘に収めた。

ランスと彼女たちは五十六に誘われて信長の見舞いに行くところだった。
普段そっけない五十六からのお誘い。ランスの欲求は巫女機関をあと少しで落とすというところまできていて解消されたものの、美人はいくらでも別腹である。
それに信長とも随分会って無いので、たまには顔くらい見てやるかといった次第だった。

「それより早く信長の部屋に行ったほうがいいでござるよ。
あいつ、信長の部屋から出てきたでござる」

「はっ! そ、そうですよランス様! 信長様は大丈夫なんでしょうか?」

この先の部屋は離れになっており、特別な人間しか入れないようになっている。
今現在ここを無許可で通れるのは譜代の将軍とランス、シィル、信長が特別に認めた者のみ。

煉獄はその禁止区域の方角から歩いてきたのだ。
自然に考えて煉獄は信長に対して用事を済ませてきたと考えるのは普通。

「あいつ病気で弱ってるからヤバイぞ!」

信長の病気は自他共に認められているほどに重い。
剣術の腕前はランスに比肩しうるものを持ってはいるが、まともに動けるのなんて数十秒くらいなものである。
最悪、信長があの魔人の手にかかっている可能性も低くはない。

ドタドタドタと廊下を蹴ってランス達は信長の部屋に急ぐ。
信長の部屋はもう目と鼻の先にある。

「信長! 無事か!?」

いの一番にランスが信長の部屋の扉を開く。
その先に信長はいつもと変わらない様子で一人布団に伏せっていた。



今の五十六の心情を述べるとすれば【戸惑】だろう。

「……へぇ。あの煉獄という男が魔人の使徒だったのか。まるで気付かなかったよ」

「まるで、じゃないわ! 本当にお前って奴はいつも通りだな!?」

「ハハっ。そんなに怒るなよ、ランス。こうして無事だったんだから」

こうやって目の前で無事を確認し、ランスと信長との会話に一言も口を挟まずに沈黙する五十六。
信長はいつも通りの温和な微笑を浮かべてニコニコしているし、ランスの剣幕をスルリと受け流している。
織田家の家臣として無事を喜ぶべきなのだろうが、五十六の内心は穏やかではなかった。

(何故祐輔殿は使徒が信長殿の命を狙っていると気づかれたのだろうか……)

五十六の内心をかき乱す原因はその一点。
織田家の家臣が誰も知らなかった事を、どうして祐輔は知っていたのか。
講和の時に五十六に助言をしたのだから、少なくとも一ヶ月以上前から祐輔はこの事を知っていたという事になる。

果たしてそんな事が可能なのだろうか。
忍者を雇って他国の情報を入手しているわけでもなく、他国の人間が誰も気付いていない事実を掠め取る。
本当にそんな嘘のような神業が可能なのだろうか。

【なんかこの部屋まだ臭いなぁ…こう、ちぐはぐな魔人の感じ?】

「あぁ? 何言ってやがる。この場に魔人なんてもう隠れられんだろうが」

【いや、しかし…確信は持てないけど、はっきり匂うんだって】

「それはさっきの男がいたからじゃないでござるか?」

「ああ、そうかもしれないね。
煉獄はこの部屋で俺の身体を診ていたから、小一時間はこの部屋にいたことになる」

あるいは祐輔は魔人の関係者なのか?
情報を入手できる可能性とすれば、妥当な物はもう一つしかない。
考えたくはないが…祐輔は魔人復活を目論む一味に一枚噛んでいるという可能性が高い。

いや、そんなはずはない。
五十六は胸中に湧き上がった疑問を掻き消す。
弟である太郎を救い、戦を止め、両国を和解させた祐輔の行動が疑問を否定してくれる。

それにもう一歩考えれば祐輔が魔人の一派だとして、何故使徒の行動を阻むような行為を取る。
今回の騒動は邪魔にこそなれ、決して魔人復活の助けにはならないはずだ。

「…あぁ、それと聞きたいんだ。
どうしてあの煉獄が使徒だってわかったんだい? 身近にいた俺でさえ気付かなかったのに」

「んなもんコイツを近づければ一発よ」

【ワシ、実は凄い剣なんです】

「へぇ………」

信長は興味があるのか、鞘に納められている魔剣カオスをしげしげと眺める。
本来は抜き身の剣のままの状態なのだが、JAPANでは剣を鞘の中にいれるのが常識。
ランスは別に鞘に入れる事に抵抗がなかったために現在カオスは鞘に入れられているままの状態が長い。

それが今回はカオスを鞘から抜いていたため、微弱な使徒の匂いにも気づけたのだろう。
そのカオスは今もなお魔人の気配のような物を感じ取っていたが、それも確信に至るものではない。
だから鈴女の意見にそれもあるかもと納得してしまった。

「じゃあどうして煉獄が怪しいって思ったんだい?
俺は全く気付かなかった。いやはや、俺の勘も随分鈍ったものだなぁ…」

信長の自身のうかつさを悔やみながら言った言葉に、ランスもそういえばと自身も疑問を口にした。

「そういえばそうだ。五十六、どうしてあの白いデカブツが気になったんだ?
信長の体調が気になるっつーのはわかるが、お前なんだっけ? あー、その…」

「ランス様、三笠衆です」〈ぼそっ〉

「そうそう、ミカサシューとかいうのも気になるって言ってただろ」

「それは」

ランスに合いの手をいれるシィル。
この部屋にいる全員の注目を一身に浴び、五十六は迷った。
言うべきか、言うまいか。だが言わずにこの場が収まるとは思えない。

「――以前、祐輔殿から助言を戴いていたのです。
信長殿が病に伏せ、身元の知れない者が部屋に出這入りするようになれば。
ランス殿の愛剣を部屋に出這入りする者か、ペットの藤吉郎に見せろ、と」

この五十六の言葉にランス達は純粋な驚きを。
五十六は若干の後悔と、自身の疑問を口にした事で形になった疑念を。
そして―――――信長〈ザビエル〉は新たに出てきた危険人物の名をしっかりと脳裏に焼き付ける。

「う~ん、藤吉郎は見当はずれだと思うけどな。
俺とあいつってかなり前から一緒だったし、何もなかったから。
それよりも祐輔って誰?」

「ああ、そういえば信長殿は知らなかったでござるな。
浅井朝倉との和平の時に浅井朝倉から来た使者の名前が森本祐輔。
鳥を操つる鳥使いで、なかなかに底の知れない御仁でござる」

「鳥使い、ね。なんでそんな人が今回の事を知っていたのだろうね」

鳥使い。少なくともザビエルの記憶の中にそんな人種はいなかった。
それを使って情報を収集した? いや、そんな事はありえない。
ザビエルが部屋で煉獄と会う時は細心の注意を払って周囲に生物がいないか確認している。
ネコはおろか鼠一匹ですら部屋の外にはいなかったはずだ。

しかも煉獄の事を知っているだけでも驚きなのに、藤吉郎の事にまで気づいている。
藤吉郎は見た目が普通の猿だというのに使徒であると、祐輔という人物は知っている。
これを脅威と言わずして何と言えというのだ。

「ああ! だから今回の事を知っていたんですね。
きっと鳥さんで使徒の情報を掴んだんですよ、ランス様」

「多分そうだろうな。ッチ! 忌々しいが、今回だけは助かったな」

一方五十六はそういえばそうだったと自分を恥ずかしく思う。
祐輔は意のままに鳥を操っていたし、それならば今回の異変の予兆を感じ取っていてもまだ説明はつく。
五十六は自分たちの恩人を疑ってしまった自分を恥じた。また一つ、祐輔に借りができてしまったなと。

「しかしまたアイツか…色んなとこに絡んでやがるな。案外あいつが魔人なんじゃないだろうな」

【ないない。魔人なら前会った時にワシが気づいとる】

「どっちにしろあいつを探し出す必要がもう一つ出来たな。五十六!」

「はい!」

ランスの呼びかけに勢い良く返事をする五十六。

「巫女機関はほぼ制圧したから、お前をアイツの専属探索に付ける。
戦には参加しなくていいから、とにかく見つけてこい。アイツが魔人の事をしっている可能性が高いからな」

「はっ!」

五十六からしても願ったり叶ったりだ。
必ず祐輔を見つけ出すという意気込みでランスの命令を改めて受けた。

「げほっ、ゴホッ……あぁ、ゴメンね。ちょっと体調が最近特に悪くて」

と、そんな風に話が纏まりかけていたところで信長が咳き込んだ。
見れば顔色が本当に悪いし、手も微妙にだが震えている。

「だ、大丈夫ですか? 痛いの痛いの飛んでけー」

「ああ、ありがとう」

「そういえば信長、お前もお前だぞ。
あんな怪しい奴を部屋に出這入りさせるなんてどうしたというのだ?」

布団から抜け出せない信長にシィルが回復魔法を唱える。
回復魔法が聞いたのか手の震えが止まった信長に対してランスが呆れたように言った。
そもそも信長が許可しなければ、煉獄が暗殺しに城へと潜り込む事すらなかったのだから。

「あの男が大陸からの医術を持っているという話を聞いてね。
ここ最近体調が悪くなるばかりだったから、新しいのを試してみてもいいかなって。
けどあの男が使徒だったっていうなら今までのも嘘だろうな」

そして信長はこう続ける。

「少し俺は療養するために本能寺に行くよ。
ちょっと身体が洒落にならないからね。ランス、後は任せてもいいかい?」

「おう、こっちは俺様に任せとけ。
ガハハハッ! 次に織田に帰ってくる頃には全国を統一してるがな!」

「ほどほどでいいよ? ほどほどで」

自分は天志教のお膝元である本能寺へと向かうと。
療養のためというなら納得できるし、ランスは俺に任せろと胸を張ってガハハと笑う。
こうして煉獄による暗殺未遂は幕が降りたのである。

―――――ランスは全国統一への思いを強くし
―――――五十六は祐輔を探し出してみせると再度誓い
―――――煉獄は織田への憎悪を滾らせ

―――――そして、信長扮するザビエルは本能寺へ



今回の事はザビエルにとって肝が冷える事態だった。

もし藤吉郎がいれば、周囲が疑念に思ったかもしれない。
もし瓢箪がもう一つ割れていれば、あの魔剣は自分に気づいたかもしれない。
もし自分と煉獄の関係に疑問を覚えられていたかもしれない。

その全てがザビエルの命の危機に直結する。
未だ全盛期の力は振るえず、元の身体の持ち主(信長)の抵抗も少しとはいえ残っている。
そんな中で魔人殺しの剣で襲われれば、今のザビエルでは太刀打ちできない。

「祐輔―――」

今回の危機の原因は祐輔という見知らぬ少年にある。
魔人殺しの剣を持つランスは危険だ。あの剣は紛れもなく魔人を殺し得る。
以前この身に受けた聖剣日光と同じ感覚を受ける。あの剣は自分を殺すと。

確かにランスも脅威。だが一番何が危険かと問われれば―――今現在、祐輔という男。

「―――何者だ?」

煉獄と藤吉郎を使徒だと見抜き。
おそらく信長がザビエルだという事にも気づいている。
直接的に被害を受け、相見えた事はない。だが祐輔という男は危険だ。

どうやって情報を手に入れたのかまるで掴めない。
あの場では鳥を使って情報を得たと他の面々は納得していたが、それはないと断言できる。
そんな事はありえない、と。

小物ゆえに取るに足らぬと捨て置くわけにはいかない。
ザビエルは本能寺へと向かう道すがら、三笠衆にある命令を命じる。
森本祐輔という人間を織田より早く見つけ出し、自分の前に引きずり出せと。

残虐に殺すか。
はたまた自分の力を分け与えて使徒とするか。
祐輔をどうするかはザビエルだけにしか分からない。










あとがき

祐「あれ? 俺の出番は?」

そんなものはない。
初めて主人公が一言も話さず、姿もないお話。
次は主人公側のお話。


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