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No.4285の一覧
[0] 逃亡奮闘記 (戦国ランス)[さくら](2010/02/09 17:04)
[1] 第一話[さくら](2008/10/14 08:51)
[2] 第二話[さくら](2009/12/08 15:47)
[3] 第三話[さくら](2008/10/22 13:09)
[4] 第四話[さくら](2008/10/22 13:12)
[5] 第五話[さくら](2008/10/30 10:08)
[6] 第六話[さくら](2008/11/04 21:19)
[7] 第七話[さくら](2008/11/17 17:09)
[8] 第八話[さくら](2009/03/30 09:35)
[9] 番外編[さくら](2009/04/06 09:11)
[10] 第九話[さくら](2009/09/23 18:11)
[11] 第十話[さくら](2009/09/26 17:07)
[12] 第十一話[さくら](2009/09/26 17:09)
[13] 第十二話[さくら](2009/09/28 17:26)
[14] 第十三話[さくら](2009/10/02 16:43)
[15] 第十四話[さくら](2009/10/05 23:23)
[16] 第十五話[さくら](2009/10/12 16:30)
[17] 第十六話[さくら](2009/10/13 17:55)
[18] 第十七話[さくら](2009/10/18 16:37)
[19] 第十八話[さくら](2009/10/21 21:01)
[20] 第十九話[さくら](2009/10/25 17:12)
[21] 第二十話[さくら](2009/11/01 00:57)
[22] 第二十一話[さくら](2009/11/08 07:52)
[23] 番外編2[さくら](2009/11/08 07:52)
[24] 第二十二話[さくら](2010/12/27 00:37)
[25] 第二十三話[さくら](2009/11/24 18:28)
[26] 第二十四話[さくら](2009/12/05 18:28)
[28] 第二十五話【改訂版】[さくら](2009/12/08 22:42)
[29] 第二十六話[さくら](2009/12/15 16:04)
[30] 第二十七話[さくら](2009/12/23 16:14)
[31] 最終話[さくら](2009/12/29 13:34)
[32] 第二部 プロローグ[さくら](2010/02/03 16:51)
[33] 第一話[さくら](2010/01/31 22:08)
[34] 第二話[さくら](2010/02/09 17:11)
[35] 第三話[さくら](2010/02/09 17:02)
[36] 第四話[さくら](2010/02/19 16:18)
[37] 第五話[さくら](2010/03/09 17:22)
[38] 第六話[さくら](2010/03/14 21:28)
[39] 第七話[さくら](2010/03/15 22:01)
[40] 第八話[さくら](2010/04/20 17:35)
[41] 第九話[さくら](2010/05/02 18:42)
[42] 第十話[さくら](2010/05/02 20:11)
[43] 第十一話【改】[さくら](2010/06/07 17:32)
[44] 第十二話[さくら](2010/06/18 16:08)
[45] 幕間1[さくら](2010/06/20 18:49)
[46] 番外編3[さくら](2010/07/25 15:35)
[47] 第三部 プロローグ[さくら](2010/08/11 16:23)
[49] 第一話【追加補足版】[さくら](2010/08/11 23:13)
[50] 第二話[さくら](2010/08/28 17:45)
[51] 第三話[さくら](2010/08/28 17:44)
[52] 第四話[さくら](2010/10/05 16:56)
[53] 第五話[さくら](2010/11/08 16:03)
[54] 第六話[さくら](2010/11/08 15:53)
[55] 第七話[さくら](2010/11/12 17:16)
[56] 番外編4[さくら](2010/12/04 18:51)
[57] 第八話[さくら](2010/12/18 18:26)
[58] 第九話[さくら](2010/12/27 00:35)
[59] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ[さくら](2010/12/27 00:18)
[60] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ(ふぁいなる)[さくら](2011/01/05 16:39)
[61] 第十話[さくら](2011/01/05 16:35)
[62] 第十一話[さくら](2011/05/12 18:09)
[63] 第十二話[さくら](2011/04/28 17:23)
[64] 第十三話[さくら](2011/04/28 17:24)
[65] 第十四話[さくら](2011/05/13 09:17)
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[4285] 最終話
Name: さくら◆206c40be ID:a000fec5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/29 13:34
織田との会談後、祐輔は逃げるように浅井朝倉へと帰還を果たした。
太郎と再会したい思いもあったものの、それより先に使者としての仕事を終わらさねばならない。
祐輔にとって自分が死ぬ、もしくは重傷を負って身動きがとれなくなる事だけは避けねばならなかったから。

祐輔はランスという男が嫌いではない。
ゲームをプレイしていた時は型破りな彼の行動に爽快感さえ感じていた。
しかしながら女が絡んだ時は彼という男ほど信じられない奴はいないとも感じている。

戦国ランスではかなり丸くはなっていた。
狙っていた乱丸も勝家を本気でどんな手段を使ってでも結婚しようとする様を見て、諦めていた。
また蘭ルートでもにゃんにゃんはしたものの、最終的に諦めてJAPANを去っている。
だがそれでも安心できないのがランスがランスたる所以と言えよう。

「……以上が会談での織田からの回答です」

「森本、いや森本殿。よくぞやってくれた。これで講和への道を取ることが出来る」

しかしながら、祐輔はちゃんと役目を果たした。
今祐輔は浅井朝倉の天守閣で義景とサシで話し合い、会談での織田からの答弁を報告している。
義景としても雪姫の身の安全を保証してくれる報告した時点で全身から力が抜けるのか祐輔から見てとれた。

「信長殿は病に伏せておられたので会えませんでしたが、妹君である香姫はまともな方でした。
やはり此度の戦の発端はランスという異人でした。
こうやって講和は結べましたが、努々気を抜けないと言わざるを得ません」

「ふむ…そんなにか?」

「そんなに、です。雪姫様の周囲に常備護衛の兵をおくことをおすすめします」

祐輔の進言にわかったと義景は頷く。
だが義景の表情は柔らかく、深い皺が刻まれている顔は安堵に包まれていた。

「それはともかく大義だった。森本殿には今後も鉄砲隊の指揮を取ってもらおうと考えている。
だが、それだけでは足りまい。何か望みはあるか? 叶えられる範囲であればとらせよう」

義景は祐輔に全幅の信頼を寄せていた。
かつて他国のスパイである事も疑っていたが、それも霧散した。
スパイであるならば滅びかけた国を救うはずがない。祐輔は鉄砲という切り札まで用意して浅井朝倉を救ったのだから。

更に祐輔は優れた算学者でもある。
智に優れ、行動力もある。戦争で多大な人材的損失を抱えた浅井朝倉からすれば、逃すことの出来ない人材。
祐輔を非常に有用な人材だと義景は高く買っていた。

「いえ、ですが俺は………」

そんな破格とも言える待遇に祐輔は戸惑う。
何かを言おうとして口をつぐみ、また何かを言おうとして口を開く。
それを何度かした後、何かを決意したかのように義景へと断りの言葉を返す。

「ありがたいですが、俺は…」

「部隊を預けるだけでは足りなかったか? それなら公家に掛け合い、位を与えても」

「いえ、そういうわけではないのです」

何か不満があるのかと義景が正式な地位も与えると譲歩するが、祐輔は違うと首を振る。
祐輔だって無欲な人間ではないのだから、地位や名誉、お金だってもちろん欲しい。
しかし事情を話さずにそれらを得たとしても、呪い憑きである事を隠したままでは砂上の楼閣に過ぎない。

「――――――ッ!」

まずは事情を説明してからでないと話にならない。
そしてまるで示し合わせたかのように腕に走る怖気に、丁度いいと祐輔は左腕の包帯を解き放った。

「ぐ、ぅ! これが―――これが、その理由です」

祐輔の左腕の筋肉がビキビキ収縮し、まるで生き物のように蠢く。
今まで変化のなかった耳が僅かにとがり始め、黒い左目が真紅に明滅する。
祐輔は目を見開き唇を噛んで体中を這いずり回る不快感に耐えていた。

祐輔の左腕から身体を蝕む呪いは徐々に侵食している。
そして侵食する際には発作とも言える鳴動が起こり、祐輔には堪えて耐えるしかない。
この発作は不規則に起こり、祐輔の頭を悩ます原因となっていた。

「これは、呪い憑き、か…? なんということだ…」

義景の目に祐輔の変化は呪い憑きによる侵食のように思えた。
呪い憑きによって呪われた人間は身体の一部に変調を来し、最終的には二種類にわかれる。
死に至る物、そして――――妖怪へと変貌を遂げる物。

義景の目には祐輔が人間とは違う異質な物へと変貌するかのように見えた。
発作が収まったのか変化しかけていた耳と目はいつも通りの祐輔に戻り、腕の変調も収まる。
だが祐輔の左腕におおわれた獣の毛は元に戻る気配が見えなかった。

「はぁっ、はっ、はぁっ……くそっ、また少し侵食してる」

祐輔は自分の左腕を見て舌打ちをする。
かつて肘ぐらいまでしかなかった獣の体毛が1cmほど侵食している。
呪いが侵攻している証拠だ。

「俺は見ての通り呪い憑きです。
地位も褒美もいりません。そして俺がここに居る事が難しい事もわかっています。
客観的に見て、俺の功績はこれをして上回りますか?」

祐輔は浅井朝倉に帰る道程で決意を決めていた。
度々起こる発作はいつ起こるのか予期出来ず、隠し通すのは難しい。
ならば打ち明けてしまうしかないと。打ち明けて尚浅井朝倉にいていいと言ってくれるなら、ここに留まろうと。

祐輔の左腕は発禁堕山と同じく、見るものに忌避感を抱かせるものだ。
人間は自分と同じ作りをしているのに、明らかに自分たちとは違う物を排除しようとする。
人間にとって自分たちと違うという事はそれだけで悪なのだ。

そしてここJAPANで呪い憑きは蛇蝎の如く嫌われる。
呪い憑きは例外なく死国という場所に送還され――要するに島流しされるのだ。
よく分からないものは纏めて隔離してしまう。死国とは収監所なのだ。

そして祐輔に呪いを解くという選択肢ははじめから存在していなかった。
まず妖怪の場所もわからないし、狒々を倒すのもかなりの苦労がかかる。
今の浅井朝倉にそんな兵力を出す余力はあるはずがないのだ。

そして仮に呪いが解けたとしても、祐輔は左腕を失っている。
戦で身体の一部を失い、農業が出来ない者もまた死国に送られるのだ。
この時代に仕事も出来ず、何も生産する事が出来ない者は口減らしのために死国へと送られる。
何故なら自分ひとり生きるのに精一杯な世の中なのだから。

有力な武家や裕福な家庭で生まれたものくらいだろう、死国行きを免れるのは。
それでも外面はすこぶる悪いし、めったにないケースとして数えられるくらいにしか存在しない。
戦えない武士など惨めなもの。そう考え自ら命を絶つものすらいる。

「…………」

義景は無言で祐輔を見つめ返していた。
彼は呪い憑きを見るのは何も初めてではない。彼自身他のJAPAN人ほど忌避感もない。
だが彼は統治者であるため、呪い憑きを家臣として置く事の危険はよく理解していた。

まず浅井朝倉の他の家臣が納得しないだろうし、領民も納得すまい。
いくら功績があるとはいえ、呪い憑き…しかもここ最近浅井朝倉に加わった祐輔を取り立てるなど。
これが由緒正しく続く武家の家柄であるならば、まだ道はあったかもしれない。

いや、それも不可能だ。言葉にはせずに義景は否定する。
常時ならともかく、今の浅井朝倉は国としてぎりぎりの瀬戸際に立っている。
そんなところに呪い憑きという火種を招き入れるわけにはいかない。

呪い憑きの家臣がいるという事はそれだけで戦争の引き金になる。
呪い憑きが国主を不可思議な妖術で操っている。呪い憑きが領内で悪逆非道を成し、国はそれを見逃し家臣として加えている。
言いがかりにも等しいが、大義名分がどれだけでも作れるのだ。

今の浅井朝倉に戦争をする余裕は微塵もない。
震災の復興には少なくとも三ヶ月はかかる。
三ヶ月というのも国が最低限の機能を果たすまでの時間であり、とてもではないが他国と事を構えるわけにはいかないのだ。

「すみません、無茶を言いました」

祐輔は義景の沈黙は否と取り、下げていた頭を上げ立ち上がる。
義景も祐輔の言葉を否定する気はないのか、黙ったままだ。

「それでは俺はこれで。すぐに浅井朝倉をたちます。
鉄砲隊は浅井朝倉の守りとなるでしょう。種子島家にお礼と、どうかご贔屓にしてやって下さい」

満身創痍の浅井朝倉でも、鉄砲を備えた城壁は十分に威嚇になる。
祐輔はそれだけ義景にアドバイスすると、踵を返そうとするも義景に呼び止められた。

「国主として、君がこの国にとどまる事を許可できない。
だが一人の人間として礼を言わせて欲しい。そしてすまない。恨むなら、私を恨んでくれ」

施政者とは己を殺さなければいけない。
大を生かすために小を殺す事を平然と出来なければいけない。
雪姫を助けるために戦争を始めた義景は虫の言いことを言っているとは自覚しているが、それでもこの選択を取らざるを得なかった。

此度の戦争において雪姫可愛さだけでなく、大局を見据えてのものでもある。
他国の言いなりになり要求を受け入れていれば、それは織田の属国になるも同義。
しかしながら、彼の心の中に雪姫を渡したくないという思いがあったのも事実なのだから。

「や、頭を上げてくださいよ! 義景様は簡単に頭を下げちゃダメですって!
それに俺はこの国に命を救ってもらいました。感謝こそすれ、恨むなんてありえませんよ」

立ち上がり、祐輔と同じ高さの場所まで降りて義景は平伏する。
そんな義景にワタワタと手をふり、祐輔は慌てて頭を上げるよう願い出た。

「せめて十分な路銀くらいは渡させてくれ」

「いえいえ、今浅井朝倉が大変な状況だというのは理解できてます。
俺にそんな金を使うなら、復興に当ててください。金があって困るという事はないでしょうし」

「しかし、それではあまりにも」

「本当に気にしないでください…あ、でもどうしてもというなら」

何もなしで放り出すわけにはいかないと義景を祐輔の申し出を断り続ける。
義景とて武家の当主なのだ。恩人にこんな仕打ちをして何もなしというわけにはいかない。
だが祐輔としても貰い難いので、あることを伝えてもらうように頼んだ。

「雪姫様に伝えてくれますか。どうかお幸せに。この一言を」

未練たらたらだなと祐輔は自分で自分に呆れる。
だがもう彼女を縛る物は、少なくとも原作にあったフラグは全てたたき折った。
どうか好きだった人に幸せになってもらいたいと思う祐輔だった。

「森本殿、まさか、雪の事を…」

「ハハハ、それこそまさかですよ。それでは」

何人もの子供がいる義景は当然、それと同じくらいの側室がいるプレイボーイだった。
だからわかる。祐輔の言葉が本心から言っている事と、胸に秘めた思いも。
そして納得がいった。何故祐輔がここまで自己を投げ出し、浅井朝倉に尽くしてくれたかを。

義景に部屋をでようとする祐輔を止める言葉はなかった。
止める言葉を吐く資格もない。自分は彼を、娘を救ってくれた恩人を国から追い出そうとしている恥知らずなのだから。
それでも義景は祐輔が部屋を退出するまで、平伏し頭を下げる事を止められなかった。
ただの自己満足だとわかってはいたが、それでも。

その日、祐輔は最低限の荷物を纏めて誰とも会わずに浅井朝倉を出立した。
雪姫と会って誤解を晴らしたい思いもあるが、会ってしまえば決心が鈍るだろう。一郎はまだ毒の影響で目覚めない。
事情を知らない世話になった人々に別れの挨拶をしようとしても、事情を話せないので非難されるであろう事は目に見えている。

出来る事なら離れたくない。当然だ。
今だって雪姫の事が愛しているし、出来る事なら誤解を晴らして駄目元で告白したい。
しかし自分という存在が彼等の安全を脅かすのだ。

祐輔は思う。
悲惨な目に遭うしかなかった雪姫を救い、死の運命にあった太郎を救った。姉弟での再会も果たせた。
ただの原作になかった異分子である自分がここまで出来れば上等じゃないか。

「今までありがとうございました」

深夜、誰もいなくなった城門前でぺこりと頭を下げる男がいたという。
だがその男を見たものは誰もいない。
その男はたっぷり五分ほど頭を下げていたが、城に背をむけ歩き出した。








■ Epilogue







――――――種子島・錬鉄場

戦争が終結し、浅井朝倉に滞在していた技師たちの後詰め組は国へと帰還していた。
彼等数名はその後の鉄砲の整備のため浅井朝倉に残るが、それでも数人。
数十人の後詰めの技師たちが自国で英気を養っていた。

危なくなったら逃げられるとはいえ、それでも精神的に良くない。
国主である重彦に報告を終えた一人の技師もほっと一息つき、趣味である工芸品でも作ろうかと錬鉄場に来たのである。

「……正樹…」

「おや、柚美殿。お久しぶりです」

「………ひさし…ぶり……」

そんな彼に声をかけたのは柚美だった。

「………戦争…どう…なった……?」

種子島家でもっとも気を揉んでいたのは彼女である。
そしてそんな彼女が知りたい情報を持っているのが彼。
おそるおそるといった様子で訊ねる柚美に彼は心配ないと笑いかけた。

「講和です。浅井朝倉と織田が仲直りしました」

「……そう…浅井朝倉の……被害……わかる…?」

「それほど被害はありません。少なくても、祐輔殿は無事でしたよ」

「…そっか」

彼は信じられない物を見たと驚く。
柚美が、微笑んだのだ。儚い薄い微笑だったが、確かに微笑んだ。
彼は柚美のそんな顔を一度も見たことがなかった。

「次の……浅井朝倉への………売り込み、私も……行く」

それだけ言うと、柚美は連鉄場を後にする。
その足取りは軽く、傍から見ていても気分が高揚しているのが見て取れる。

売り込みとは火薬や鉄砲の弾を他国に売りに行くのである。
鉄砲の弾は消耗品。鉄砲の弾や整備する技術は種子島にしかないので、売った後も定期的に販売するのだ。
その時に最新式の鉄砲を売ったりしたりもする。

柚美は次に浅井朝倉に売り込みに行くのを楽しみにしていた。
売り込みに、ひいては祐輔に会えるのを楽しみに。

「…祐輔殿、死ねばいいのに」

男には彼女がいなかった。



――――――浅井朝倉・炊き出し場

震災から復興するため、忙しなく人が動いていた。
戦争が終結した事により兵士だった男手が戻ってきて、各所の村々でも家の建て直しが始まっている。
城下町に溢れていた人々は自分の村へと帰り、それぞれの復興のため働いていた。

しかし村の復興は一朝一夕で出来るものではない。
そのため力仕事ができて体力のある者は村へと帰るが、子供や老人は依然として城下町に残っている。
雪姫はそんな人々に炊き出しを配るため、そこかしこを走り回っていた。

彼女は戦時中に自分が役に立てない事を悔やんでいた。
そのため今自分に出来る仕事を貪欲に求め、侍女がするような仕事も喜んで引き受ける。
そうしないと自分の中に迷いが生まれてしまうから。

【雪。私は織田と講和を結ぶ事を決めたよ】

あの義景に呼び出された日、彼から告げられた事がある。
浅井朝倉は織田と講和を結び、この戦争を終結させる事を考えていると。
しかしこのまま講和を結べば浅井朝倉は織田の属国となるのではと雪姫は反対した。

【いや、それはどうにかなる。
鉄砲隊によって織田との戦いを五分の状況にまで盛り返した】

鉄砲隊とは何だと雪姫は義景に訊ねた。
雪姫は戦争に関する事を今まで聞かされていなかったのだ。
兄や父に聞いても【雪は心配しないでいい】との一点張り。不利であるという事だけは漠然と理解していたが。

【森本という一郎の部下が種子島家より手に入れた武器だ。
これによって織田に勝利し、あまつさえ領内から追い出せたのだ】

そんなに凄いのか? 雪は率直に訊ねる。

【この戦、森本という者が一番の功労者かもしれない。
この戦が終われば取り立てようとも思っている。それだけの功績だ。
……雪…? 雪、どうしたというのだ、待ちなさい】

雪姫が義景の話しをまともに聞いていたのはそこまでだった。
それ以降はいくら義景が話しかけても終始頭に入っていない様子で生返事を返すばかり。
雪姫にとって義景との会話はそこで途切れている。

雪姫にとって、祐輔とは売国奴。裏切り者なのだ。
雪姫が身を呈して国を救おうとしたというのに、それを邪魔した。
もし国が滅びればどんな手段を取っても国を滅ぼした者、そして祐輔に報復しようと考えていた。

しかし、父である義景はそんな祐輔が救国の士だという―――

〈ふるふるっ〉

雪姫は立ち止まってしまっている自分に気づき、悩みを振り払うように頭を振る。
手に持っていた粥が少し冷めてしまっている。そうだ自分には仕事がある。
雪姫は考える暇がないように仕事を求めた。

考えれば、気付いてしまうから。
ひょっとして自分はとんでもない間違いをしていたのでないのかと。

「御免。粥を少し頂けるか?」

「すみません…これは子どもたちの分なのです。
もう少しここで待っていて頂けますか? お待ち出来ない様であれば、あちらのほうに…」

「話をするときは顔を見ろと教わらなかったか?」

困ったと雪姫はわざと伏せていた顔を上げる。
聞こえてきた声は野太い男のもの。子供や老人を優先的に配っているため、男には回らないかもしれない。
そんな事を思いながら顔を上げたのだが―――

「あ、あなたはっっ!」

「久しいな、愚姫よ」

その男の風貌に雪姫は見覚えがあった。
筋骨隆々とした肉体、修験者が着る質素な服装、真っ赤な天狗の面。
かつて浅井朝倉を救うように助けを乞い、断られた男――発禁堕山がいた。

「もう戦は終わりました。今更貴方が出る幕はありません」

「ふんっ、こんな国。助けを乞われようと二度と力は貸さぬわ」

ぴしゃりと言い放つ雪姫に、侮蔑の視線を向ける発禁堕山。
彼にとっても彼女にとっても、互いを不倶戴天の敵と嫌っている。
だというのに発禁堕山がわざわざ浅井朝倉の城下町まで来たのはあるわけがあった。

「用が無いならお帰りください」

「言われなくとも。だが一つだけ答えろ。
―――――祐輔は。森本祐輔は今どこにいる」

発禁堕山にとって、浅井朝倉に来る理由なんて一つしかない。
彼にとってただ一人の友人であり、呪い憑き。同族なのだ。

「……知りませぬ。ただ城を去ったと風の噂で聞きました」

「なんだと?」

「だから、知りませぬ」

そう、雪姫の心に迷いを生じさせている人間は既に浅井朝倉にいない。
是非を問うにも、確認のしようがない。雪姫はさっと無意識の内に顔を伏せた。
祐輔が浅井朝倉を去ってから一週間が過ぎようとしている。

「そう、か…あの馬鹿者め。こんな屑と国を守るために道化となったか。なんと哀れな」

姿を消したという事は自分のアドバイスに従い、死国に向かったのだろう。
話で聞くほどまでに目立ってしまえば発禁堕山のように呪い憑きを隠し、人知れず過ごす事など不可能。
周囲に知られてしまった呪い憑きが行き着く場所は死国という離れ小島にしかないのだから。

「お黙りなさい。かの者は何も言わず、これからという時にいなくなったのです。
これから復興のために重要な時に……きっと逃げ出したのでしょう。沈みそうな船から逃げ出す鼠のように」

ここで初めて、発禁堕山は正面から雪姫を見据えた。
この女は何を言っている? まさか、まさかひょっとして―――

「―――知らぬのか? 何も」

「何をですか。森本というものの全てでしょう、それが」

「…くく、くっっっくくはははは!!!」

「何を笑っているのです! 無礼な!」

呆れを通り越して発禁堕山はただ笑うしかできなかった。
あれほどまでに身を粉にして、祐輔が救った女が何も知らない。
三流の語り手が書いた物語にも劣る悲劇。いや、喜劇だ。

「己の父に訊ねてみろ、愚姫。祐輔が何故何も語らずこの城を去ったか。
奴が呪い憑きであるという事を知っていると伝えてな。
そして己の罪を知れ。贖いの方法すらなく、もがき苦しみながら死ね」

「待ちなさい! 呪い憑き!? 何を言っているのです!」

この男は自分の苦悩を晴らす真実を知っている。
雪姫は走り去ろうとする発禁堕山を追おうとするも、鍛え抜かれた発禁堕山に追いつくはずがない。
あっという間に姿を見失ってしまい、雪姫は荒い息を肩で吐きながら彼の言葉を反芻した。

(呪い憑き…? あの者が? いえ、そんな事はありえないはず。
だって浅井朝倉にいた頃は普通の人間だったわ。じゃあどうして…ひょっとして、自分から? 何故? どうして?)

普通の人間だった祐輔が呪い憑きである発禁堕山に会いに行き、呪い憑きとなって帰還した。
あまりに出来すぎている。ならば祐輔は自分の意思で呪い憑きとなったと考えるのが自然。
しかし自分から呪い憑きになろうと思う人間がいるはずがない。呪い憑きとは人間ではなく、呪い憑きという【種族】として扱われるのだから。

【帰り下さい。
それに雪姫様も発禁堕山様のお言葉をお聞きに成られたでしょう。
貴女様が今更もどった所で発禁堕山様が応じられるとは思いません】

「―――――――ぁ」

祐輔の言葉が雪姫の脳裏によみがえる。
彼は、彼は―――――――――

「い、イヤ…」

【落とし前は俺が…自分がつけますので。ですから雪姫様はどうか、お許しを】

自分を、助けに来たのではないのか?

雪姫は気付いてしまった。意図的に避けてきた答えを気付かされてしまった。
雪姫も馬鹿ではない。その答えも浮かんではいたが、それを認めてしまえば自分が自分でなくなってしまう。
自分を救ってくれた恩人に罵声を浴びせ、あまつさえ頬を殴るという所業は浅井朝倉の姫のする事ではない。

「ぁ、ぁあ、あああああ……」

だが、気付かされてしまった。発禁堕山によって。
声と身体がブルブルと震え、土気色に染まった表情で瞳の焦点を失う雪姫。

「父上、父上……」

ふらふらと今にも倒れてしまいそうな足取りで雪姫は城へと向かう。
そんな雪姫を見かけた兵士が大丈夫かと声をかけるも、そんな声は雪姫の耳に聞こえない。
彼女は自分の考えを否定して欲しい一心で父・義景の元へと向かう。

義景はまさに織田へと講和の条約を結びにでかけるところだった。
しかし雪姫の祐輔の事について聞きたいという申し出に出立の時間を遅らせた。彼女に自分の知る全てを話すために。
それが自分のすべき事だと彼は理解していたから。

だが彼女はそこで残酷な事実を知る。
父である義景から伝えられたのは否定するどころか、彼女の考えを肯定する事実ばかり。
祐輔がただ無骨に、愚直なまでに自分を守ろうとして呪い憑きとなり、人間としての人生を棒にふった。

雪姫は自分がしてしまった取り返しのつかない事実に、意識を失い倒れ込んだ。
謝ろうにも、無知な罪を乞おうにも、祐輔はもう浅井朝倉にいないのだから。

【そして己の罪を知れ。贖いの方法すらなく、もがき苦しみながら死ね】

雪姫が気を失う寸前、耳に響いたのは発禁堕山の言葉だった。



――――――織田・天守閣

「それでは額はこのまま、災害に対する見舞金というわけで」

「うむ!」
「織田としても」
「この条件なら」

「「「なんら問題ないですぞ」」」

織田と浅井朝倉、両者のトップ会見が尾張の城で行われていた。
浅井朝倉からは朝倉義景、織田からは3Gが机を前に向い合っている。
その机の上には調印書…今回の講和に関する条約が記載されているものが置かれている。

内容を確認し、舌戦を繰り広げ、双方合意に至った両者が家印が刻まれているハンコを調印書にしっかりと押し付ける。
ここに到るまでに静かな戦いがあったのだが、合意することを前提に行われた話し合いなので酷いものにはならなかった。
ひとえに義景と3Gの人柄と卓越した政治力から、両者共に譲歩するところがわかっていたのだろう。

本来なら3Gではなく信長かランスがすべきポジションである。
しかしランスにこんな交渉が出来ると思えないし、本人も面倒くさいの一言で切り捨てた。
信長も体調が優れないということで、3Gが代役としてトップ会談に望んだわけである。

「これから織田とは有効な関係を築きたいものです。
復興のための人員を派遣してくれるとの事、真にありがたい」

「義景殿」
「この戦で沢山の血が流れましたが」
「こうして手を取り合い」

「「「互いに繁栄できるよう、頑張りましょう」」」

「本当にそのとおりですな」

3Gと義景が笑顔で手をしっかりと握り合い、これからの事を話しあう。
これから織田と浅井朝倉は争う事はない。それを信じさせるだけの光景が広がっていた。



―――――――織田・城門前

義景と3Gが会談していた頃、城門前で一人の女が険しい目つきで捕虜交換を睨んでいた。
身体はそわそわと落ち着きなく動き、貧乏ゆすりすらしている。
そんな常の彼女らしからぬ様子を織田の兵士は仕方ないと諦め、浅井朝倉の兵は恐怖を覚えながら眺めていた。

「おお、お乱! 元気にしていたか!」

ぴくりと女が反応する。
大きな声をあげた男は捕虜交換の列の最後尾で大きく手を降っている。
その男は浅井朝倉に捕らえられた者の中で最も地位の高い者だったので、最後尾に回されたのだ。

女は男の姿を確認するや否や、男に向かって猛然と駆け出す。
そのあまりの形相に男の手を縛る縄を持った浅井朝倉の兵士が悲鳴をあげながら逃げた。
それでいいのかと問い詰めたいが、それほどまでに女から迸る威圧が凄まじかったのだ。

「お乱、どうブホォ!?」

女は駆けつけ一発、渾身の力でがつんと顔を殴りつける。
惚れ惚れするような右ストレート。巨漢な男も堪らないとばかりに地面に倒れこむ。
あれは普通だったら骨が折れている、と後に捕虜交換の場にいた兵士は語った。

「勝家、この馬鹿…!」

「お、おおおお、おおおおお???」

倒れ込んだ男――勝家――に覆いかぶさるように女――乱丸――が飛びつく。
そして勝家の大きな胸に顔を埋めて声をあげ、静かに乱丸は涙を流し続けた。
乱丸の涙なんて生まれてこの方見たことが無い勝家は目を白黒させるばかりである。

「ど、どうしたというのだお乱!? いきなり泣かれても意味がわからん!」

「大変だった…大変だったのだからな…!」

お前が全部悪い。だから黙って胸を貸せ。
勝家からすれば理解不能だったが、戦友に何かがあったのだと鈍感ながらも察する。
地面に倒れ込んだまま乱丸が泣き止むまで、青い空をずっと眺めていた。

この鈍感な男は知らないのだ。乱丸が勝家を助けるため、どれだけ頑張ったのか。
乱丸は勝家を助けるためにランスに要求された事を犬に噛まれたと思い忘れようと、自分に言い聞かせていた。



――――――織田家臣屋敷

「――ハァッ!」

太郎の一喝と共に引き絞られた弓から矢が放たれ、スパパパと的に突き刺さる。
連続で五本放たれたうち三本が的の中心を射抜き、二本が横に逸れる。
太郎は弓を放った後も気を緩める事なく、背後に迫った木刀を避けようとするが…

「あいたっ!?」

「読みが甘い。それと、まだ放ってから周囲に気を配る速さが遅い」

腰のあたりに迫った木刀を避けきれず、ボクというそれなりに痛そうな音が弓道場に響いた。

太郎と五十六の仲は言うまでもなく良好。
今太郎は五十六の部隊に加えられるように特訓中であり、五十六から手ほどきを受けていた。
当初五十六は太郎が戦場に出ることをよしとしていなかったが、当主となるべき者が戦場にでないで復興できるはずもない。
そんな太郎の説得によって五十六は折れ、ならばと実践に耐えられるまでの実力を磨こうというわけである。

弓兵は射程の長さから安全であるとはいえ、一度懐に入られれば脆い。
また極度の集中力を必要とされるため、奇襲や背後からの攻撃にとても弱い。
そのため太郎は短い時間で可能な限りの本数を目標に当てる訓練と、周囲からの攻撃を避ける訓練をしているのだ。

「あいたたた…姉上、もう一度お願いします」

「…少し、修練しすぎではないか? 休憩をいれたほうが言いと思うが」

「いえ、僕の事なら大丈夫です」

キリッとした太郎の表情に何も言うまいと五十六は訓練を再会する。
以前より精悍になった弟の姿を頼もしく思いつつ、どことなく姉離してしまった弟に寂しさも感じていたり。
こんな事で一喜一憂できる己の幸福を五十六は噛み締めていた。

「…ああ、そういえば浅井朝倉からの講和の使団が来ていたのだな」

「はいっ! ですから、訓練を早く切りあげるためにもお願いします、姉上!」

「私も挨拶に行こう。祐輔殿が来ていればいいのだが」

いつもより張り切っている太郎を見て、五十六は自然と顔が綻んだ。
太郎は浅井朝倉で分かれて以来再会できるであろう祐輔の事を思い、今日も訓練に精を出す。
彼が織田の弓部隊に名を連ねるようになるまで、あと少し。



――――――――織田・ランス屋敷

「ふんふんふーん」

ランスはご機嫌で鼻歌を歌い、これから行く場所について思いを馳せていた。

彼はここ最近のイライラを発散する行き先をずっと探していた。
お目当ての雪姫は手に入らないし、ずっと目にかけていた五十六も弟が見つかって以来そっけない。
弟である太郎が見つかったため、自分は有力な武家か公家の所に嫁ぐというのだ。

ならば俺様のところにとランスはいうが、五十六はJAPAN人でないといけないと固辞。
まだ五十六も若いし、太郎も見つかったので気楽に探すという話しだ。
しかも五十六は既に嫁ぐかもしれない人が見つかっており、ランスと契る事はないと言い切った。

ランスのここ最近の趣味は和姦なのだ。
無理やりもそれはそれで趣があるが、五十六も立派な織田家の家臣。
強行すれば織田全体の評価は下がるだろう。今ランスの織田家における評価は低いと言わざるをえない状況で、それは避けたかった。

まだ弟を自分が見つければ言いようもあるが、なんと弟は自力で脱出したらしい。
これで恩着せてヤルという方法もなくなったのである。

乱丸とニャンニャンはしたので幾分かはプラスになったものの、マイナスがでかい。
そこでランスの耳に入ったのが巫女機関の噂である。なんと無料で出来る風俗のようなものらしい。
これは行かなくてはならないだろうとランスは心を踊らせた。

ランスの興味は巫女機関に移る。
五十六にしても、雪姫にしても後でヤレるチャンスが出てくるかもしれない。
そのため一刻脳内の奥に二人の女の事を押し込み、次の女へと手をかける。

ランスという男は前だけを見る男だ。
やりたい事をやり、したい事をする。それで問題が起これば、その時に解決する。
古い体制をぶっ壊し、新な道へと導くのは、あるいはこういう男なのかもしれない。



―――――織田信長私室

誰もいない暗い部屋の中、信長は布団から上半身だけ起こして目の前で起こる儀式を見ていた。

「うきっ!」

信長のペットである猿の藤吉郎が小さな体で瓢箪を持ちあげる。
そして勢い良く畳の上に瓢箪を叩きつけ、衝撃を与えられた瓢箪が砕け散った。

〈すうっ……〉

砕け散った瓢箪から漏れ出した黒い瘴気。
それが実体を持つかのように纏まり、信長の口から吸い込まれた。
信長は黒い瘴気を愛しむように口から吸収し、閉じていたギラツク目を開く。

「クククッ、これで三つ目…大分戻ってきたな」

この儀式は初めてではない。
ランスが誤って織田家に保管されていた瓢箪を割ってから、今回で数えて二回。
滅ぼした足利家と藤吉郎が明石家から盗んできたものである。

「でかしたぞ猿…完全復活までは遠いが、完全に意識を掌握するまでは合わせて五個割れれば十分」

今までは信長の意識のほうが強く、僅かな時間しか操る事が出来なかった。
そのためランスを諌めた時は信長だったのだが、3つめの瓢箪によって完全に両者のバランスが逆転する。

「もうすぐだ。もうすぐで再びJAPANに君臨することが出来る」

織田信長は信長でありながら、信長ではない何かに変質してしまっていた。
彼の意識は奥底に封じ込められ、信長を蝕むものが彼の意識を牛耳っている。
ソレは愉悦に歪んだ邪悪な笑みを浮かべる顔を両手で覆い、噛み殺すかのように笑った。

「クク、クハッ、クククハハハッハハハハハハッハハ!!!!!!!!」

「ウキッ!」

復活の時は近い。



――――――浅井朝倉・祐輔自室

かつて祐輔に割り振られた部屋に一人、朝倉一郎は佇んでいた。

「………はぁ」

毒から回復して彼が目覚めた時、既に全ては終わっていた。
講和は無事に結ばれ、浅井朝倉での震災復興も進んでいる。

「僕はいったい何をしていたんだろうね、祐輔君。
もっとも大事な時に眠っていて、目が覚めたら全てが後の祭りか。
自分で自分が情けなくて、死にたくなってしまうよ」

彼を残して、兄弟の殆は織田との戦で命を落としてしまっていた。
残っているのは六郎、そして七郎くらいなもの。
そのため次期国主として大忙しである彼だが、度々この部屋に脚を運んでいた。

「祐輔君……僕は君にどう償えばいい……ッ!!」

彼の中に占めるのは後悔の念だけ。
何故祐輔と義景の話し合いの場にいなかったのか、何故祐輔の苦悩に気付いてやれなかったのか、何故呪い憑きであると。
いや、違う。気付く要素はあったのだ。しかし目を逸らし、現実を見据えなかった。

「くそっ、くそっ、くそっ!!!!」

普段の彼と違い、八つ当たりと知りつつも壁を殴る手が止まらない。
祐輔にこんな仕打ちがあっていいはすがないのだ。

鉄砲隊を率いてピンチを救い、戦で勝利するきっかけになり、講和を結ぶ足がかりとなった。
これほどまでに浅井朝倉に貢献し、危機を救ってくれた祐輔を国外に追い出していいはずがない。
呪い憑きであるという事さえ、もしかしたら―――――

「もしかしたらだって…? そんなこと」

――――――戦いで力を得るために自分から呪われた。

「もしかしたらじゃない、そうに決まっているだろうが!!!」

祐輔は浅井朝倉に来る前は両手も無事だった。
彼が左腕を隠すようになったのは戦の直前、種子島家から帰ってからの事。
この辺で妖怪、しかも呪いをかけられるほどに強力な妖怪は一度も出たことがない。

つまり祐輔は浅井朝倉を救うために自ら呪い憑きとなったのだ。

「僕は…僕は。いったい君にどう償えばいいというんだ」

今すぐにでも祐輔を捜索し、連れ戻したい。
頭の固い父に直談判し、祐輔の身柄を保証させたい。
だが、彼は国主ではなかった。国主である義景の権力と命令は絶対。

「いつか、いつかきっと」

いつかではない。
これから一年以内に自分が浅井朝倉の国主となる。
そして祐輔を迎え入れ、それに誰も反対出来ないくらいに偉くなる。

「祐輔君、僕は浅井朝倉の国主になる。
どうかそれまで…どうか、待っていてくれ」

差し迫っては震災の復興だ。
これで自分の手腕を見せつけ、後を継ぐのは自分だと周囲に思い知らさせる。
そして祐輔を捜索して見つけ、今までの扱いを心の底から許して貰えるまで謝り、気の済むまで殴ってもらう。
そして震災から復興した浅井朝倉の家臣として加わってもらうのだ。

「祐輔君……君は今、いったいどこにいるんだい?」



―――――――原家郊外の茶屋

一人の男がいた。
その男は左腕に包帯を巻き、呑気に茶屋で茶をしばき、団子に舌鼓を打っていた。
鼻歌を歌いながら簡略化された地図を眺める。

「さってと、どうしようかな…。
差し当たっては西に行くか、東に行くかだけど」

長距離用の足袋を履き、ぶらんぶらんと脚を交差させている。
侍らしい格好をしているものの、腰に下げているのは脇差のみという珍妙な格好。
普通の刀だと彼の筋力では扱いきれないので、脇差のみの装備なのである。

「北条なら呪い憑きに関して何かわかるかもだけれど、あそこは年中戦争やってるしな。
武田とかマジ勘弁。西日本もなぁ…死国かな、やっぱり」

ぱくり、ぱくりと団子を頬張る。
満足そうにもぐもぐと咀嚼し、一気に喉に押し込んだ。

「そうだな…ダメもとで天志教経由で行ってみるか。
ありがたい坊さん共が何か知っているかもしれない。
それにランスが帰り次第織田にいけば3Gに教えてもらえるだろうから、それまでの辛抱だ」

おばちゃんお勘定―、と茶屋の女主人を呼びつける。
2GOLDだというおばちゃんに財布から硬貨二枚を手渡し、男は荷物を背中に背負った。

「お客さんこの辺の人ではないですよね?」

「ええ、これから少し流浪の旅にでようと思いまして」

「へぇ、旅に。このご時世に危ないと思いますがお気をつけて。
どこか目的地としている場所はあるんですか?」

「はははは…それが、何も。とりあえず西に行ってみます」

おばちゃんに礼を言い、その男は茶屋から立ち去る。
おばちゃんは男が食べた後の団子の皿と湯のみをおぼんに載せ、片付ける。
それにしてもと、おばちゃんは率直な男の感想を口にした。

「両肩と頭の上に雀がいるなんて、変な人」

茶屋を出た男はまっすぐ伸びる街道を西へと進む。

「さてと…それじゃあ、行こうかな」

男からすれば少し狭い田舎道、されど国一番の大街道を一人歩く。
同行者はなく、ただ男の肩と頭の上にいる雀が寄り添うようにとまっている。
季節は夏。これからJAPANは暑くなりそうだ。



「くくっ、くはっ、アハハハハハハハ!!
いいね、面白かったよ。人間にしては、とてもいい演し物だった。
見ていてここ数百年の中で、中々の劇だった」

それは笑う。
祐輔の行動をナニカを通して見ていた者は心底おかしそうに嘲笑う。

「いい、実にいいよ。
イレギュラーと接触し、最後の悲劇なんて出来すぎているくらいだ」

だが、と。
身の毛もよだつような嬌笑を浮かべつつ、万物の主は謳う。

「まだまだ足りない。もっと見せてくれ。
観客(自分)がいる限り、舞台で踊るピエロ(君)は無様に演じ続けないとね」

終わらせるつもりはない。
自分が飽きるまでは物語を続けろと。
傲慢に、当然であるようにそれはナニカを通して祐輔を観察し続ける。

「さぁ、もっと楽しませてくれ」

カーテンコールは終わらない。
これにて物語の演目の一つは終わり、また新たな幕が上がる。
貪欲な観客がいて、演じ続ける役者がいる限り――――――――――

First episode [Asai Asakura chapter] End.
Go to the Next chapter………………….



















*作者はるろ剣をマジリスペクトしているので、最後の場面が宗次郎氏のラストに酷似しています。
祐輔の旅立ちを考えるとコレしか思い浮かべなかった。

あとがき

第一部、 完!
いやはや、長かったです。
一度の休止を挟みながらもなんとか、ここまでこぎ着けました。
なんとか年内に終わらせたかったので。

最終話と聞いて驚かれたと思いますが、第二部も予定しています。
最後のエピローグもどちらかというと、第二部の予告編みたいな感じになりました。
第二部が始まるまで妄想をふくらませてください。

ちょっと時間がかかるかもです。
それでは一応の区切りをつけて、ありがとうございました!
あいるびーばっく!!


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