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No.4285の一覧
[0] 逃亡奮闘記 (戦国ランス)[さくら](2010/02/09 17:04)
[1] 第一話[さくら](2008/10/14 08:51)
[2] 第二話[さくら](2009/12/08 15:47)
[3] 第三話[さくら](2008/10/22 13:09)
[4] 第四話[さくら](2008/10/22 13:12)
[5] 第五話[さくら](2008/10/30 10:08)
[6] 第六話[さくら](2008/11/04 21:19)
[7] 第七話[さくら](2008/11/17 17:09)
[8] 第八話[さくら](2009/03/30 09:35)
[9] 番外編[さくら](2009/04/06 09:11)
[10] 第九話[さくら](2009/09/23 18:11)
[11] 第十話[さくら](2009/09/26 17:07)
[12] 第十一話[さくら](2009/09/26 17:09)
[13] 第十二話[さくら](2009/09/28 17:26)
[14] 第十三話[さくら](2009/10/02 16:43)
[15] 第十四話[さくら](2009/10/05 23:23)
[16] 第十五話[さくら](2009/10/12 16:30)
[17] 第十六話[さくら](2009/10/13 17:55)
[18] 第十七話[さくら](2009/10/18 16:37)
[19] 第十八話[さくら](2009/10/21 21:01)
[20] 第十九話[さくら](2009/10/25 17:12)
[21] 第二十話[さくら](2009/11/01 00:57)
[22] 第二十一話[さくら](2009/11/08 07:52)
[23] 番外編2[さくら](2009/11/08 07:52)
[24] 第二十二話[さくら](2010/12/27 00:37)
[25] 第二十三話[さくら](2009/11/24 18:28)
[26] 第二十四話[さくら](2009/12/05 18:28)
[28] 第二十五話【改訂版】[さくら](2009/12/08 22:42)
[29] 第二十六話[さくら](2009/12/15 16:04)
[30] 第二十七話[さくら](2009/12/23 16:14)
[31] 最終話[さくら](2009/12/29 13:34)
[32] 第二部 プロローグ[さくら](2010/02/03 16:51)
[33] 第一話[さくら](2010/01/31 22:08)
[34] 第二話[さくら](2010/02/09 17:11)
[35] 第三話[さくら](2010/02/09 17:02)
[36] 第四話[さくら](2010/02/19 16:18)
[37] 第五話[さくら](2010/03/09 17:22)
[38] 第六話[さくら](2010/03/14 21:28)
[39] 第七話[さくら](2010/03/15 22:01)
[40] 第八話[さくら](2010/04/20 17:35)
[41] 第九話[さくら](2010/05/02 18:42)
[42] 第十話[さくら](2010/05/02 20:11)
[43] 第十一話【改】[さくら](2010/06/07 17:32)
[44] 第十二話[さくら](2010/06/18 16:08)
[45] 幕間1[さくら](2010/06/20 18:49)
[46] 番外編3[さくら](2010/07/25 15:35)
[47] 第三部 プロローグ[さくら](2010/08/11 16:23)
[49] 第一話【追加補足版】[さくら](2010/08/11 23:13)
[50] 第二話[さくら](2010/08/28 17:45)
[51] 第三話[さくら](2010/08/28 17:44)
[52] 第四話[さくら](2010/10/05 16:56)
[53] 第五話[さくら](2010/11/08 16:03)
[54] 第六話[さくら](2010/11/08 15:53)
[55] 第七話[さくら](2010/11/12 17:16)
[56] 番外編4[さくら](2010/12/04 18:51)
[57] 第八話[さくら](2010/12/18 18:26)
[58] 第九話[さくら](2010/12/27 00:35)
[59] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ[さくら](2010/12/27 00:18)
[60] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ(ふぁいなる)[さくら](2011/01/05 16:39)
[61] 第十話[さくら](2011/01/05 16:35)
[62] 第十一話[さくら](2011/05/12 18:09)
[63] 第十二話[さくら](2011/04/28 17:23)
[64] 第十三話[さくら](2011/04/28 17:24)
[65] 第十四話[さくら](2011/05/13 09:17)
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[4285] 第二十七話
Name: さくら◆206c40be ID:a000fec5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/23 16:14
森本祐輔の言葉の半分は嘘とはったりで出来ています。

「もう一生分の運を使い切った、動けねー。
ムリムリ、もう無理。講和が成功したかどうかもわかんね」

祐輔は乱丸に案内された部屋でごろごろと転がっていた。
もうね、精根尽き果てた。あんな素晴らしき惨殺空間モドキに普通の大学生を放りこまないで欲しい。
途中から祐輔は自分が何を言っているのか殆ど理解していなかったし、口が勝手に動いた感じだった。

鉄砲にしても、その殆がハッタリだ。
鉄砲500丁全部を運用して、隊列を組んで織田を攻める?
そんな事実際問題無理に決まってる。

あの時鉄砲の運用が成功したのは、様々な条件が揃っていたため。
十分に鉄砲を整備出来る時間があり、距離に余裕が持てて、冷静に発砲の瞬間を測れた。
前進しながらの運用なんて熟練の兵士でも難しい。それこそ浅井朝倉の急造の鉄砲隊では到底不可能。

「織田にマリアがいなかったのも大きいよなー…。
彼女がいたら確実に詰んでた。なんだかんだ言って、俺は神から見放なされていないらしい」

原作において、マリアは瞬時に鉄砲の弱点を見抜いていた。
彼女が異国からの援軍として尾張に到着していたら、浅井朝倉滅亡エンド間違いなし。
想像するにゾッとする。本当にセフセフだぜ! と祐輔は畳の上を転がりながら一人ごちた。

「イカンイカン、何かテンションがおかしくなってる」

どうやら死のストレスから解放された反動は自覚している以上に大きいらしい。
祐輔はポーカーフェイス気取っていたが、内心ではガタガタ震えて命乞いしたい気分だったのである。
ランスとか乱丸からの殺気が散りばめられた視線で本当に死ぬかと思った。

「やっぱり勝家効果は凄まじかったな…いや、それ以前に重臣の面々の反応が良かった。
これならなんとかなるか……なるといいな。なって欲しいな」

最後に少しだけ不安になったのは仕方がないと言えよう。
祐輔は会談において少なからず手応えを感じていたが、こういった交渉の場につくのは初めて。
大学生である祐輔が経験した事といえば、ゼミでのプレゼンくらいなもの。こんな大一番での交渉なぞしたはずがなかったのである。

「あいつら早く帰ってこないかな」

なので、祐輔は玄さんと若い雀に偵察を命じていた。
彼等を放てば簡単に情報が手に入る。偵察に気づく可能性があるとすれば、鈴女くらいだが。
ちなみにインテリ雀は織田に入って以来、ある任務につかせている。

ゴロゴロと転がっていた祐輔は突如ぴたりと動きを止め、天井を仰ぎみた。

「…はぁ」

今思えば、遠くまで来たものだと思う。
ただの大学生で重病人だった自分が、何時の間にやらランスと論争をやり合って丸め込もうとしている。
宝くじが当たる可能性で言えば、きっと一等賞と二等賞を独占するくらいの奇跡が起こったに違いない。

「……………」

この講和、成功するだろうか。
最善は尽くした。浅井朝倉には迂闊に手を出せないとアピールし、織田家の家臣の同情も引き出した。
戦争とは勝てば良いというわけではない。勝った後にも敵国の侵攻を防げるだけの余力を残して、初めて勝利したと言えるのだ。

「さて、どうするか……」

天井をボーっと見上げて目を細める祐輔が何を考えているのかは本人しかわからない。
ただその目には傍観、達観、諦観…そういった負の要素が混じっているように感じる。

〈ゾワリ〉

「っく…」

気を緩めた祐輔は左腕を襲った怖気に反射的に身を起こした。

「くっ……僕の中の『奴』が目覚める……っ! 静まれ、静まる(ry

脂汗がじわりと滲み、苦悶に顔を歪める。
何か得体の知れないものが左腕の何かが蠢いているかのような錯覚。
思わず邪気眼チックなセリフは自然に出てしまった。

「はは…邪気眼かよ。リアルで体感する事になるとは思わなかった」

何かを堪えるかのように左腕を押さえる祐輔。
疼くのだ―――切り落とされ、感覚も神経も遠っていないはずの猿の左手が。
実際に獣の手の筋肉がぞわりと収縮し、脈動したため巻いている包帯がたるんで毛がはみ出ている。

一度祐輔は立ち上がり、障子を開けて部屋の外に誰もいない事を確認する。
そして誰もいないと確信を持つと、サラサラと包帯を外して丁寧に丸めた。
丸めた包帯をもう一度左手に巻きつける。何かを抑えつけるようにしっかりと。

「参った参った、悲劇を気取るのは嫌なんだけどな。
3Gに聞けば狒々の場所もわかるんだろうけど、流石にこのタイミングでは無理」

困ったな、と祐輔は苦笑する。
3Gは呪いをかけた妖怪の場所がわかるという素晴らしい能力を持っているのだが、ここまで条件をふっかけておいて頼み事は難しい。
仮に教えてもらったとしても浅井朝倉は復興中であるし、織田に頼もうにもランスは間違いなく祐輔を嫌っている。動くはずがない。

そして呪いが解けて戻ったとしても――――祐輔の切り落とされた腕は戻らない。

「無理、か……」

JAPANにおいて隻腕とは大きな意味を持つ。
祐輔はそれを知っていた。いや、思い知らされたと言うべきか。
先の祐輔自身が参加した戦において、片腕や体の一部分を失った者の処遇を。

「ま、なんとかなるだろ。ポジティブポジティブ」

いつまでも暗い顔をしていても仕方ない。
祐輔は気分を転換して、陰鬱とした思考を意図的に廃棄する。
今考えなければいけない事は講和が成立した場合と失敗した場合についてだ。

まず十中八九成功するだろう。
では成功したとして、一番警戒しなくてはいけない事とは何か。
それは如何にしてランスに条件を守らせるか。守らないといけないと思わせるか。

「なんか、使者殺したら無問題とか考えてるかもしれん。ははっ、ハハハハ…」

ないと言い切れない自分が祐輔は怖かった。

もし講和の使者の祐輔が行方不明、もしくは死体で浅井朝倉で見つかったとしたら。
浅井朝倉は講和が失敗したと考え、攻め込むにしろ守るにしろ次の戦の準備をする。
織田からしてみればどちらの対応を取られても応戦せざるを得ず、両者に再び合戦が起こる。

「…あれ、やばくね?」

交渉決裂となれば原作通りに決着エンドを迎える。
雪姫はランスに犯され、義景は捕まり、浅井朝倉という国は滅ぶ。
つまり今気づいたが、使者である祐輔が無事に浅井朝倉へと帰る事も重要になるのだ。

「対応策は一応あるにはあるけど…首筋に何かを感じたら、すぐに逃げるくらいに思っておかないと」

祐輔は一応ランスと暗殺者に対して対応策を用意していた。
しかしながら物事に絶対はないので、可及的速やかに織田から逃げないといけないという結論に達した。

ランスという男を舐めてはいけない。
彼の行動原理は第一に女、第二に女、第三くらいに常識やら倫理が来るのである。
鈴女を使って暗殺くらいは簡単にしそうだ。

危険性を改めて実感した祐輔は冷や汗をダラダラと流す。
覚悟はしていたものの、自分の命以外にも浅井朝倉の運命も背負っていると思うと途轍もなく気が重い。
まるで胃に重石がのっかっているかのような錯覚さえ覚える。

「……あれ、ちょっと待てよ。(俺は何か、忘れていないか?)」

そう、まだ何か失念している事があるような気がする。
まるで歯に何かがずっと詰まり続けているかのような不快感。
とても重要な何かを忘れているような気がするのだ。

(そうだ、魔人! どうして今まで忘れていたんだ!)

この世界には人間以外の種族も存在している。
魔法があるファンタジー世界なので妖怪や魔物も当然いるとして、更に上位種とも言える存在がいる。
それらは通称【魔人】と呼ばれ、神が作ったとされるそれ単体で完成された存在。

魔人は通常の武器や技・魔法では傷をつける事が出来ない。
人間や魔物を超越した力を持ち、無限の寿命を持っている。
いうなれば不死身で無敵な存在と言い換える事も出来る、出鱈目な存在。

そしてこのJAPANにも【ザビエル】という【魔人】が封印されているのである。
その性格は残虐非道、人を人と思わぬザビエルは過去に封印され、現在は8つの瓢箪の中に在る。
それらは厳重に保管されており、影ながら瓢箪を封印し続ける組織すらあるのだ。

「やばい…もう足利滅ぼしてるし。
ひょっとして二個目も割れているんじゃ…」

何がやばいかというと、祐輔が知っている原作において封印である瓢箪が現時点で割れてしまっているのだ。

祐輔が知っているルートは大きく4つ。
本史・謙信・五十六・蘭・全国版であり、無理ゲーと謳われる魔王ルートは知らない。
その4つの中において、3つのルートで瓢箪が割れてしまっているのである。

(警告する。いや、無理だ。
所詮俺は使者。信長がザビエルに犯されているなんて言ったら、それこそ講和が潰れる。
同じ理由で藤吉郎を殺すのも不可能。しかも割れた後だったりすると、意味がない)

たった1つのザビエルが復活しないルートを選ぶためには信長のペットである猿――藤吉郎を殺す必要がある。
実はこの小猿、魔人ザビエルの部下である使徒と呼ばれる存在であり、魔人の配下なのだ。
その1つルートにおいてランスがたまたま藤吉郎を殺めてしまったため、ザビエル復活を阻止したのである。

一度魔人が復活すれば、JAPANは今までにない地獄と成り果てる。
戦争が人間の意思とは無関係に引き起こされ、かつてない殺戮が日常と化す。
それだけはなんとかして避けたい祐輔だった。

だが祐輔に何が出来るというのだろうか。
敵国であった祐輔が信長を疑えと諭しても、何を馬鹿なと一笑に下される事は目に見えている。
それどころか主を侮辱したとして切り捨てられても文句は言えない。

「ああああぁぁぁ、マジでどうすっかなー…」

あくまで可能性でしかないのだが、見逃すと大変な事になる。
若くしてここまで悩まされる祐輔はきっと、将来禿げるに違いない。

〈ガラッ!〉

「失礼致します。浅井朝倉の使者殿」

祐輔が奇声をあげながら苦悩していたところに来訪者が現れた。
信長の部屋での密談を終え、祐輔を呼びに来た五十六だった。
本当は乱丸がその役目を負う予定だったのだが、五十六本人が申し出たのである。
五十六は祐輔が【あの】祐輔であるのかという確認と、そうれあった場合に礼を言うために。

「それでどうしましたか? もうお答えが決まったとか」

「え、ええ。織田からの返答は私からでは伝えられませんので、また天守閣に来ていただけますか」

「それならば善は急げと言いますし、すぐに参りましょう」

ついてきて下さいと前を歩く五十六の表情を見て、悪い答えではなさそうだと祐輔は一人胸を撫で下ろした。
その内心は先行きの不安に塗り潰されながら。



(むぅ)

俺は自分の前を歩く黒髪美人の後ろをすたすたと歩きながら、ある一つの考えに捕らわれていた。
あれはひょっとして五十六ではないだろうかという考えを。

艶があり、腰まで届く一房に纏められた漆黒の長い黒髪。
ややツリ目がちな瞳にすっと朱の引いた唇、凛とした顔立ち。
現代からすればモデルも真っ青な黒髪美人・大和撫子がそこにいた。

しかし彼女が本当に五十六だとすれば、是非とも確かめなければいけない。
とりあえずは本人かどうかを確認するため、五十六(仮)に質問を投げかけて見ることにしよう。

「あの…」
「あの…」

「す、すみません。俺に何か?」
「いえ、私こそ申し訳ない。そちらからなんなりと」

全く同じタイミングで同じ言葉を発してしまった俺と五十六(仮)。
気まずさから一瞬立ち止まってしまい、はは、はははと二人で苦笑しながら先を譲り合う。
お見合いかよと内心思いつつ、俺は彼女に名前を訊ねた。

「もしや貴方は山本五十六殿ではありませんか? 間違っていたなら失礼」

「あ…すみません、申し遅れました。私は山本五十六と言います」

慌てたようにこちらに向き直り、礼儀正しく名乗る五十六(本決定)。
むむ、やはりそうか。改めて見てみると身に纏っているオーラ的な物も他の人間とは違うな。
原作三人のヒロインの一人に数えられるだけあり、相当に美人さんだ。俺に彼女を褒め称える語彙が少ないのが悔やまれる。

だが俺は彼女が五十六だと知って、もう一つ確認しなければいけない事が出来たのだった。

「弟さんですが…ちゃんと、再会できましたか?」

山本五十六…彼女こそ太郎君の生き別れた姉である。
鉄砲の技師さん達が護衛代わりに付き添ってくれたので、無事ではあると思う。
しかしながら俺は直で城まで連れてこられたから太郎君を追い越してしまったかもしれないので、それならそれで太郎君が生きている事を教えてやらないと。

「! やはり、貴方が太郎を救って頂いた祐輔殿でしたか!
はい! はい! 太郎は無事、尾張まで到着致しました」

「そ、そうですか。それは良かったです」

「なんとお礼を言えば良いか…この五十六、この御恩を決して忘れませぬ」

ずずいと。
ポルナレフ状態で気づいたら目の前にいた五十六に詰め寄られ、怒涛の勢いでお礼を言われる。
あ、いい匂い…五十六からは香水とはまた違う、柔らかい心がほっとするような香りがした。

「足利までお守りを届けようとしてくれたのも、祐輔殿だとか。
あの時は本当に申し訳ありませんでした。私とした事が、どんでもない失態を」

「はは、はは。き、気にしないでくださいヨ?」

そして何より、顔が近い。口から漏れる息が俺の頬に感じる。
こんな美人が心の底から俺の事だけを考えて感謝の念を伝えてくれている。
ともすれば簡単にころっと魅力にヤラれてしまいそうな俺がいた。

「お礼は後日、改めて致します。必ず」

そ、そうですかー、あはははと生返事を返す事しか出来ない。
彼女がワザとやっているわけではないと思うが、天然だとすればなんと恐ろしい。
近づかれた事で遠目にはわからなかった抜群のスタイルが強調され、クラクラして立ち眩みを覚えてしまいそうだ。

俺は初めて呪いに感謝した。
通常状態だったらこんなにも純粋に感謝してくれている五十六に確実に欲情していただろうから。
仕方ないよね、男の子だし。更にいうとおっぱい星人だし、俺。

べ、別に強がってなんかないんだからっ。
あれ以来ピクリとも反応しなくなったマイサン(息子)。
体を徐々に侵食する呪いより、こっちのほうが深刻なのは秘密だ。

だがここで頭を空っぽにした事で、俺にはある一つのひらめきが浮かんだ。

「それなら一つだけ、心に留めておいて頂けますか。
これから俺はわけのわからない事を話しますが、理解出来ないかもしれません。失礼な事も言うと思います。
それを貴方がしかるべき時に断し、必要だと思った時にランス殿に助言して下さい」

「わけのわからない事、ですか? なんなりとお申し付け下さい」

未だ織田に来て日が浅い、五十六になら話してもいいかもしれない。

「――――もし、信長殿が彼らしからぬ行動にでた時。
彼が誰とも会おうとせず、部屋に引篭もり、不審な男たちとしか面通りしなくなった時。
ランス殿が持っている魔剣カオスに部屋に出入りしている男、もしくは信長殿のペットを見せて下さい」

「は?」

意味を測りかねるといった様子の五十六。
それもそうだろう、俺の言葉は要領をまったく得無いものであり、意味不明な物。
チンプンカンプンな狂人の言葉と相違ない言葉なのだから。

「い、いえ、申し訳ありません。
きっと、何かしら意味のある事なのでしょう。お任せ下さい。
しかと心に留め、来るべき時にランス殿に伝えます」

「はい。すみませんが、よろしくお願いします」

「言葉の意味を訊ねてはいけないのでしょうか」

「今はまだ。時がくれば、わかって頂けると思いますので」

それでも了解しましたと微笑み、快く頷いてくれた五十六。
現時点で俺が打てる手といえばこれしかなかったので、とても有り難い。
これで何かあった時に思い出してくれればと一縷の望みを持つことが出来る。

いつしか俺と五十六は見に覚えがある部屋の前まで到着していた。
ついさっきまで俺とランス、3G達が会談していた天守閣である。

「それでは祐輔殿、ランス殿や香姫殿が中でお待ちです。
太郎も祐輔殿に会いたい事でしょう。この講和が無事に結べたら、改めて挨拶に参らせて下さい」

どうぞと五十六が天守閣の間の戸をすっと引き、中へ進むように導く。
俺は五十六の言葉にほっと安心しつつも少しの罪悪感、寂寥感を覚えつつ中へと入る。
この講和が成立してもしなくても、太郎君と再会する可能性は少ないだろうから。



「と、いうわけで」
「織田としてはこの講和」
「色々と条件をつけさせて頂くが」

「「「承諾するという結論に至りました」」」

3Gのその答えを聞き、祐輔はほっと胸をなでおろす。
周囲の視線から険が取れていた事、五十六の言葉から予想はついてものの心配だった事にはかわりない。
これで浅井朝倉は救われ、雪姫の悲惨なルートフラグをぼっきりと折る事に成功したのである。

「具体的には」
「賠償金を災害に対する見舞金という名目にしたり」
「本来ならこちらがテキサスまで行くべき所をこちらに来て頂いたりしてもらうが」

「「「そのあたりはご理解いただきたい」」」

信長は条件を認めはしたが、3Gとしては織田の名誉や外面もある。
そのため領地侵犯に対する賠償金を災害見舞金として織田が浅井朝倉に無償で【援助】したという世間体のいい名目が欲しかったのである。
賠償金として決まった額は払うが、賠償金と災害見舞金のどちらが名目的にいいかは一目瞭然だ。

また講和を結ぶ場も織田の尾張で行いたい。
浅井朝倉の国主が尾張へと赴くという形を取る事により、対外的に織田の優位を示す。
それが戦国時代においてどれほど重要かは知らないが、祐輔はおぼろげながらも重要性を感じ取った。

「確かに3G殿の言葉、浅井朝倉へと持ち帰ります。
俺が浅井朝倉へと戻ってから一週間ほどで返答の使者が到着するかと思います」

祐輔は返答しつつ、チラリと視線を左右にちらす。

「こちらの捕虜…勝家殿を含む、75名は講和を結んでから解放しましょう。
場所と時間も講和の場で。心配なさらずとも、ちゃんとした待遇でもてなしております。
勝家殿は鉄砲による怪我を負っていますが、並外れた回復力で次の日には麦飯3杯を平らげていました」

まず目に映ったのは乱丸と香姫。
祐輔の言葉にあからさまに肩の力を抜き、安心した表情を浮かべていた。
特に乱丸は体の力が目に見えて抜けており、座りながらもへたれこんでいる。

そして――――――――

「ご英断して頂き本当にありがとうございます、ランス殿」

「…ふんっ」

恭しく最も上座に座るランスに向け、頭を垂れる祐輔。
ランスはとても面白くないと言いたげに盛大に舌打ちをし、指先で魔剣カオスを弄ぶ。
イライラしているのだ。目の前で頭を垂れる祐輔がこれ以上にないほど腹が立つ。

ここでランスが思いついたのはある意味、自然な流れだった。
女の子が絡むとずるがしこく回転するランスの頭脳である。
過去にも抱きたい女の子に男がいるため、その男を人知れず崖から突き落としちゃったりする男なのだ。

(待てよ…こいつが浅井朝倉に帰るまでに死ねば、この講和はなくなるんじゃないか?
あのチューリップみたいなのは厄介だが、マリアを呼べばなんとかなるような気がする。
マリアの事だ、俺が呼び出したら泣きながら喜んで来るに違いない!)

祐輔が恐れていた通り、これは有効な手段である。
ランスは以前足利から来た使者を斬り殺し、それが発端となって戦争が起こった。
その経験から使者を斬り殺せば話しが拗れて再び戦争状態が復活するのではないかと考えたのだ。

(勝家は残念だが、乱丸も男が死ねば諦めるに違いない。
そこが優しい俺様がくどけば一瞬で俺様にメロメロだ。雪姫ちゃんも手に入る。
ガハハハハハハハ、グッドだーーーー!!!)

勝家は死ぬが、ランスは男の生死に興味はない。あるのは女の子(ただし可愛い子に限る)のみ。
ランスが直接やれば大変な事になるが、そこは鈴女を使えば誰にもバレないだろう。
鈴女は優秀だ。人知れず祐輔を暗殺するくらいは余裕である。

「おお、そういえば忘れていました」

「あん?」

素晴らしい思いつきにランスが自画自賛しているというのに、祐輔の言葉に水を刺される。
ぎょろりとランスの大きな目が祐輔を見据えるが、祐輔は全く気にしないで続けた。
その実祐輔の内心がどうなっているかは、手の甲にじっくりと掻いた脂汗が物語っている。

パチンと祐輔が指を擦らせて鳴らした。
すると二羽の雀がチチチと鳴きながら天守閣の窓より侵入し、祐輔の頭の上に止まる。
香姫はそれを見て、「あ、かわいい」と小さく呟いた。

「この二羽をランス殿の周囲に置いておきます。
何かあればコイツらに申し付け下さい。距離が離れていても俺に伝わりますので」

「わ、わ、あの雀すごく人懐っこいんですね。
しかも頭の上で寛いでます! すごいですね、ランス様!」

「ええい、お前は黙ってろ!
それよりその雀はどういう事だ!? 置いていくの意味がわからん!」

隣ではしゃぐシィルの頭をぽかりと一叩きし、ランスは吼えた。
はっきり言って意味がわからない。そんなランスを見て、掴みは上々だと祐輔は内心でほくそ笑む。

「申し遅れました、俺は【鳥使い】の森本祐輔です。
俺は大陸の蟲使いと同様、鳥と言葉を話し使役する事が出来るのですよ。
これでご理解頂けますか?」

「なにっ、鳥使いだと!? …おい、シィル、知ってるか?」

「い、いえ、初耳です。JAPANでは有名なんですか?」

「私も聞いた事がないです…」

「はて?」
「全然」
「少しも」

「「「聞いたことがありませんな」」」

顔を見合わせて首をかしげる織田家の面々。
ランスとシィルも蟲使いなら見たことも聞いたこともあるが、鳥使いなんて聞いた事がない。
ならばJAPANでは有名なのかと香姫と3Gに訊ねるも、知らないと首を振る。

「ならば説明致しましょう。俺の能力は鳥と意思疎通し、鳥を使役する力。
俺は周囲二里ほどの範囲内にいる鳥を自由に使役し、その全てと意思疎通が出きます。
その証拠に……ふむふむ、ランス殿は貝がお好きなのですね。畳の下に隠すとは徹底してらっしゃる」

「な、なぜそれを知っている!?」

「教えてくれたのですよ、この雀がね。
雀は全国のどこにでもいる。空の上に、窓の外に、森の中に…それこそ、どこにでも。
そして俺はどんな鳥からも情報を得る事が出来ます」

大事な事なので二回言うが、祐輔の体の半分は嘘とはったりで出来ている。
使えるのは雀のみ、会話する事が出来るのも契約した数匹のみ。
尾張に来てからすぐに放ったインテリ雀をずっとランスに貼りつけておき、インテリ雀から情報を得たのである。

「そ、そんな事が出来るのか!?」

しかしそんな事を知らない織田の面々は驚愕を顕にした。
ランスは絶句し、3Gや乱丸などはそんな事が可能なのかと自問自答している。
だが光秀はすんなりと受け入れる事が出来た。なるほど、あの神速とも言える戦場把握にはそんな仕掛けがあったのかと。

「俺はこいつらを使って罰を与えるのが得意でして。
身体的に被害はないのですが、精神的に多大な被害が―――って、すみません。
今は全くもって関係ないお話でした。お許しを」

「むむっ、そこまで言ったのなら最後までいうでござるよ。
めちゃくちゃ気になるでござる」

失言でしたと頭を下げる祐輔。
しかし鈴女は興味を持ったのか、祐輔のお仕置きとやらが何なのか聞き出そうとする。
楽しそうという理由でランスについてきた彼女だ。知的好奇心をくすぐったのであろう。
いったい鳥でどんなお仕置きをするのだろうかと。

もはや話しは完全に脱線してしまってはいるが、他のものも興味があるのか静かにしている。
この場にすぐわないと話しを戻そうとしているのは唯一眉間にシワを寄せている3Gくらいである。

「そうですか? それなら言いますが…簡単です、糞を頭の上に落とすんですよ」

空にいる鳥の糞が頭に直撃する。
その光景を想像した家臣達は顔をしかめ、乱丸や香姫、シィル達女性陣はえげつない事をと思う。
鳥の糞が自分を狙い撃ち、頭に直撃でもしたら、その日一日欝状態間違いなしである。

「それも何百羽と集めて、集中して糞を落とさせるんです。
見物ですよ? 頭の上から徐々に白くなっていき、最終的に彫像のように真っ白になるのは」

「うげ…」

頭上にいるのが一匹ではなく、空を覆い尽くすほどの群れに変わる。
そしてその鳥全てから糞が落下し、波状攻撃で絨毯爆撃をしてくる。
なんてえげつない事をと今度は男性陣も腰が引けた。

「そして反省するまでずっと操り、糞を落とし続けるんです。
外に出た瞬間鳥がわんさか頭上に集まって自分に向けて糞を落とすんですよ。
一歩も家から外にでられませんから、どんな悪ガキでも二日で泣きながら許しを乞います」

こいつはヤバいと全員が戦慄した。

「そ、そんな事が可能なのか?」

「ええ。とりあえず少しだけ呼んでみましょう」

ランスの少しだけ怖気づいた言葉に、再び祐輔は指を鳴らした。
すると祐輔の操る事が出来る最大数の雀が天守閣の間に入り込み、チュンチュンとやかましく鳴き喚く。
その数は100羽に届こうかというほどの数だった。

その雀に道を開けるかのようにざっと周囲の人が避ける。
あんな話しをされた後なので、糞をつけられたら叶わないと考えたのであろう。

「俺はね、嘘が大嫌いなんですよ…嘘つきは絶対に許しません。
ランス殿もそう思うでしょう?」

今現在進行形で嘘をついている口が何を言うのか。
しかしその真偽を知るのは祐輔のみであり、他の人物にはわからない。
そしてようやくここに至り、他の面々も祐輔が何を言いたいのかを悟った。

【――――講和を破れば、これがお前の身に振りかかるぞ】

祐輔はランスに対し、対応策を考え出した。それがコレだ。
女に関わる約束に対して、ランスほど信用出来ない人間はいないと祐輔は思っている。
そのためランスは夜這いして、雪姫を惚れさせれば問題なしと考えている可能性もある。
しかも最も簡単な手段として暗殺という嫌な手段まであるのだ。牽制しておいて、損はない。

3Gや乱丸、光秀などはそれに気づいてムッとしたが、あえて黙っていた。
これは条約を破るなという織田に対する遠まわしな侮辱である。本来ならそれはどういう意味かと問いただしている所だ。
しかし【ランス】という不安確定要素があるため、釘を指す意味では有効かもしれないと考えた。

ランスは何者にも囚われない。
あれほど口を酸っぱくして言ったというのに、進行中の敵国の姫を抱いて一週間もこもっていたランスである。
これがランスに対する自重の手段となるのであれば、それはそれでありだ。

「がはは、はは…も、モチロンだろうが! 俺様は嘘つきが大嫌いだ!」

若干ひきつった笑みのランス。
流石のランスも外に出た瞬間糞塗れとなれば、怯む。
如何に男前で美形なランスといえど、糞塗れで女を口説いて成功するとは思えない。

「すみません、無駄話ばかりして。
それでは俺は早速浅井朝倉へと帰り、義景様にお伝えしたいと思います」

織田の面々を盛大に引かせた祐輔は大量の雀を引きつれ、ではと天守閣を本当に後にする。
天守閣に残ったのは大量の雀の抜けた落ちた羽、そして鋭い視線で祐輔を見送ったランスと織田の家臣達だった。



会談後……

祐輔が尾張の城を出た後、ランスは鈴女を部屋に呼びつけていた。

「あの鳥使いが厄介だ。さくっと行って、さくっと殺してこい。
本来ならここまで嘗められた場合俺様自ら出る所だが、3Gとかシィルがうるさくてかなわん」

「あー…言うと思ったでござる」

ランスは信長から専用の屋敷をもらっており、ここは自室である。
ここにはシィルを除けばランス以外誰も住んでいないので、他人の目を心配する必要もない。
そのためランスはぶっちゃけた内心を鈴女に吐露していた。

「いいでござるか? 絶対3Gとかランスを疑うでござるよ」

鈴女が問うているのは講和が崩壊してもいいのかという事。
あの場で反対していたのはランスのみであり、使者が帰り道に死んだとなればまず間違いなく疑われる。
その疑われっぷりは講和が結ばれるまで乱丸が監視に任命されるほど信用されていない。
乱丸は屋敷の中までは入ってこないものの、屋敷に一つしかない玄関で目を光らせていた。

「心配いらん。あのテッポウとやらも、次やったら確実に勝てる。
だいたい戦争に勝てば雪ちゃんだけじゃなく、領地も手に入るんだ。最初はどうだかわからんが、文句はいわんだろ。
それにお前がちゃんと夜盗に襲われたっぽく偽装すれば、何も問題ない」

不幸な事故ですれ違い、戦争が再度勃発する。よくある事だ。
証拠さえ残さなければランスになんら問題はないのである。

「あ、それと勘違いしているようだけど」

「うん?」

「鈴女があの祐輔ってやつ殺すの、無理でござるから」

「…は?」

無理…? 言葉の意味を理解できないランスは脳内で噛み砕くまで時間がかかった。
忍者として卓越した力を持つ鈴女にとって、祐輔程度はあくびしながらでも暗殺できるはず。
それが無理とはどういう事なのだろうか。

「ほら、あれ見るでござるよ」

鈴女が指差す先には二羽の雀。
それを見てランスは「げっ!」と呻いた。

「あの会談以降、ずーーっと鈴女とランスを監視してるでござるよ。
雀くらいなら全力で走れば抜けるけれど…他の鷹とか速い奴に取次がれると、流石の鈴女でも引き離されるでござる。
だから暗殺しようとすればすぐに相手に伝わるし、不可能でござる。
いや~~~、警戒されているでござるな~~~」

あるいはこの会話すら相手に伝わっているかもしれない。
実際は鳴き声が祐輔に届かないので、そんな事は不可能である。
それに祐輔が尾張を抜ければ効果範囲から外れるので、この操っている二羽の雀も操れなくなる。

しかしそれでも、ランスや鈴女は警戒を解けない。
何故なら雀や鳥が全国のどんな場所にでもいるのだから。
そしてその鳥を祐輔が本当に操れるのか否かは二人に知る術はなかった。

「ぐぬぬぬぬぬ……うがーーーーー!!!!!!!」

『うわ、何をする心の友!?』

ランスは癇癪を起こして魔剣カオスをぶんと放り投げ、鈴女に覆いかぶさる。
この今までにない苛立ちを鈴女にぶつけ、乱暴に彼女を抱いて憂さ晴らしをする事にした。
ランスの中にあるぶっ殺したい奴リストの上位に祐輔が名を刻んだ日だった。



ステータスが更新されました。

森本裕輔(呪い付き) 職種:無 Lv.7/15

攻 1
防 1
知 7(5→7)
速 1*
探 1
交 7(6→7)
建 1
コ 3 (2→3)

技能:神速の逃げ足

命に関わる危険を察知した場合にのみ発動。
発動した場合に限り【速】が9に上昇する。
しかし意図的に発動は出来ず、また命の危険性がなくなった時点で効果はなくなる。

技能:現代知識

現代において大学生程度の学力と知識を持っている。
あくまで一般的なレベルだが、それでもこの時代からすれば高水準。

技能:動物使役

呪い付きになった事により、雀を操れる。
効果範囲は半径2km、最大操作数は50羽。
呪いが侵攻して強まる事により、操作数と効果範囲は増加する。

技能:動物使役2

使役する動物と契約する事により、意志疎通が可能。



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