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No.4285の一覧
[0] 逃亡奮闘記 (戦国ランス)[さくら](2010/02/09 17:04)
[1] 第一話[さくら](2008/10/14 08:51)
[2] 第二話[さくら](2009/12/08 15:47)
[3] 第三話[さくら](2008/10/22 13:09)
[4] 第四話[さくら](2008/10/22 13:12)
[5] 第五話[さくら](2008/10/30 10:08)
[6] 第六話[さくら](2008/11/04 21:19)
[7] 第七話[さくら](2008/11/17 17:09)
[8] 第八話[さくら](2009/03/30 09:35)
[9] 番外編[さくら](2009/04/06 09:11)
[10] 第九話[さくら](2009/09/23 18:11)
[11] 第十話[さくら](2009/09/26 17:07)
[12] 第十一話[さくら](2009/09/26 17:09)
[13] 第十二話[さくら](2009/09/28 17:26)
[14] 第十三話[さくら](2009/10/02 16:43)
[15] 第十四話[さくら](2009/10/05 23:23)
[16] 第十五話[さくら](2009/10/12 16:30)
[17] 第十六話[さくら](2009/10/13 17:55)
[18] 第十七話[さくら](2009/10/18 16:37)
[19] 第十八話[さくら](2009/10/21 21:01)
[20] 第十九話[さくら](2009/10/25 17:12)
[21] 第二十話[さくら](2009/11/01 00:57)
[22] 第二十一話[さくら](2009/11/08 07:52)
[23] 番外編2[さくら](2009/11/08 07:52)
[24] 第二十二話[さくら](2010/12/27 00:37)
[25] 第二十三話[さくら](2009/11/24 18:28)
[26] 第二十四話[さくら](2009/12/05 18:28)
[28] 第二十五話【改訂版】[さくら](2009/12/08 22:42)
[29] 第二十六話[さくら](2009/12/15 16:04)
[30] 第二十七話[さくら](2009/12/23 16:14)
[31] 最終話[さくら](2009/12/29 13:34)
[32] 第二部 プロローグ[さくら](2010/02/03 16:51)
[33] 第一話[さくら](2010/01/31 22:08)
[34] 第二話[さくら](2010/02/09 17:11)
[35] 第三話[さくら](2010/02/09 17:02)
[36] 第四話[さくら](2010/02/19 16:18)
[37] 第五話[さくら](2010/03/09 17:22)
[38] 第六話[さくら](2010/03/14 21:28)
[39] 第七話[さくら](2010/03/15 22:01)
[40] 第八話[さくら](2010/04/20 17:35)
[41] 第九話[さくら](2010/05/02 18:42)
[42] 第十話[さくら](2010/05/02 20:11)
[43] 第十一話【改】[さくら](2010/06/07 17:32)
[44] 第十二話[さくら](2010/06/18 16:08)
[45] 幕間1[さくら](2010/06/20 18:49)
[46] 番外編3[さくら](2010/07/25 15:35)
[47] 第三部 プロローグ[さくら](2010/08/11 16:23)
[49] 第一話【追加補足版】[さくら](2010/08/11 23:13)
[50] 第二話[さくら](2010/08/28 17:45)
[51] 第三話[さくら](2010/08/28 17:44)
[52] 第四話[さくら](2010/10/05 16:56)
[53] 第五話[さくら](2010/11/08 16:03)
[54] 第六話[さくら](2010/11/08 15:53)
[55] 第七話[さくら](2010/11/12 17:16)
[56] 番外編4[さくら](2010/12/04 18:51)
[57] 第八話[さくら](2010/12/18 18:26)
[58] 第九話[さくら](2010/12/27 00:35)
[59] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ[さくら](2010/12/27 00:18)
[60] ぼくのかんがえた、すごい厨ニ病なゆうすけ(ふぁいなる)[さくら](2011/01/05 16:39)
[61] 第十話[さくら](2011/01/05 16:35)
[62] 第十一話[さくら](2011/05/12 18:09)
[63] 第十二話[さくら](2011/04/28 17:23)
[64] 第十三話[さくら](2011/04/28 17:24)
[65] 第十四話[さくら](2011/05/13 09:17)
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[4285] 第三話
Name: さくら◆90c32c69 ID:89860d80 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/10/22 13:09
脚をひたすらに動かし続ける事1時間。
地面を蹴りつけ、枝に傷をつけられながらも必死に走る裕輔。
彼にとっての初めてとなる逃走劇は無我夢中の物だった。

もう安全と彼が認識した瞬間、彼にかけられた魔法(ドーピング)が消える。
それは実質、彼が普通の人間に戻った瞬間だった。



甲冑を着た戦士の姿も見えなくなってから暫く。
少し気を緩めた瞬間鉛のように体が重くなり、よろよろと脚をふらつかせる裕輔。
脚がガクガクと震えて生まれたての小鹿をそのまま体現している。

これ以上は無理と判断して裕輔は太郎に一時停止を伝えた。

「太郎君、ここいらで少し休憩を取ろう。
すまないがもう脚が動かなくってさ………」

「多分大丈夫です。たまに後を振り返って確認していましたが、誰も追ってきていないようですし」

「じゃあここで夜が明けるのを待つか。
闇雲に歩いて道がわからなくなると大変だしな」

太郎もただ背中に背負われていただけでなく、しっかりと後方確認の役割を果たしていたようだ。
最初こそ凄まじいスピードにおっかなびっくりしていたものの、慣れてしまったら結構平然としていた。
これで結構肝が据わっているのかもしれない。

「火はもちろん焚けないな…敵に見つかるといけないし」

「ですね」

敵から逃げている最中火を焚くなんて自殺行為である。
それに今日は二人共眠れそうになかった。

太郎は長年世話になってきていた恩人の死。
裕輔は非現実を初めて強く意識した、人が死ぬという初めて見た日。
また明日も逃げなければいけない事を考えれば当然寝なければいけないが、二人は自分が寝られるとはとてもではないが思えなかった。

「太郎君、頼みがあるんだ」

「何でしょう?」

「俺にこの世界について教えて欲しい。
国、地名、有名な場所、最近起こった事件、過去に起こった事件」

裕輔は神妙な顔で太郎に懇願する。
今君の知っている情報の全てを教えてくれ、と。
それは彼にとって、全てを整理するためには必要な事だった。

裕輔の頭の中では、ここが【ランスの世界】ではないかという考えが浮かんでいた。
【足利 超神】という非常識な名前と、非常に似通った時代観。
それら全てを統合し、本当にトリップしてしまったのか確認する必要がある。

「そう、ですね……まずは何から話しましょうか」

太郎は裕輔を記憶喪失と思っているため、裕輔の問いかけを特別疑問に思わない。
何よりこういった形で巻き込んでしまった以上、全てを説明しなければいけないだろう。
裕輔は常識がすっぽり抜け落ちてしまっているから、それこそ初めから終わりまで。
だが太郎はここで少し決意が鈍った。

真実を話す。それはつまり―――――――

「ボクの本当の名前は山本 太郎と言います」

嘘の告白から始まるのだから。



「そう、か」

太郎の話を聞いて裕輔が抱いた感情は疑念や猜疑心ではなく確信だった。
ここは【ランス】の世界であり、尚且つ【鬼畜王】の世界ではなく【戦国】の世界であると。

その判断に至ったのはやはり信長の存在だろう。
この世界では信長は刀の卓越した実力を持っているが、病弱で余り前線には出てこない。
正に【戦国ランス】での設定そのものだった。

「驚かないんですか…?」

「ん?」

「僕が本当は山本家の長男で嘘をついていた事」

「別に。それにどれだけ凄いのかがいまいち良くわからないしなぁ」

ポリポリと頭を掻きながら答える裕輔を見て、太郎は鳩が豆鉄砲をくらったようにポカンとする。

名前を偽っていたというだけでもこれまでの信頼関係を壊しかねない。
しかも事情が事情だ。先の村の焼き討ちは太郎を狙っての物であるのは火を見るより明らか。
解釈の仕様によっては、太郎のせいで命の危険にあったと言われても仕方ないのだ。

「…貴方は、本当に変な人ですね。記憶喪失な事を含めても」

一般常識があるという事は領主がどれほどの存在であるかも理解していよう。
普通なら元とはいえ、畏まってしまうものである。
だが元領主という情報を知っても尚まるで態度が変わらない裕輔は稀有な存在だと太郎は思ったのだ。

実際の所は現代の価値観を持つ裕輔がその凄さを理解していないだけなのだが。
そんな勘違いがされているとは露知らず、頭につっかえていた悩みがすっきり整理された裕輔は納得顔をしている。
自分が陥った現状は時代逆行ではなく、トリップという特異な物だという事を確信して。

原作でも健太郎と美樹が現代の世界から来ていたが、それとは別物と考えていいだろう。
彼にはこの世界に来た記憶なんてないし、また何者かに呼ばれたという記憶もない。

(はぁ…どうしたものか)

現状を把握して心中で溜息をつく裕輔。
太郎の存在はゲームの中で出てきたため知っている。

山本 太郎。
名前だけの出演だが、メインヒロインの一人である山本 五十六の弟。
足利 超神によって殺された不遇の人物である。

(ひょっとしなくても、あれがこいつが死んだ原因だろうな)

大人である裕輔と一緒にいたにも関わらず、命からがらに逃げ出した村の焼き討ち。
子供一人の太郎ではとてもではないが生き延びられなかっただろう。

つまり裕輔は歴史を変えたのだ。
原作開始前に【戦国ランス】の世界に入り込み、【イレギュラー】として正史では助からなかった太郎を助けた。
これがどれだけ影響するかはわからないが、少なからず流れを変える事になるだろう。

裕輔に自分がゲームの流れを変えてやろうというつもりは毛頭ない。
たとえ原作知識があろうと、【戦】という大きな流れにちっぽけな一人の人間がどれ程役に立つというのだろう?
彼の中にあるのはなんとか生き延びたいという一念のみ。

死んだと思っていたのに何故か生きているという矛盾。
踊る阿呆に見る阿呆という言葉があるように、死んだと思って生きていたら儲け物。
折角の二回目の人生をこんなに早く終わらせたくはない。

「太郎君、少し休憩したらまた逃げるよ。
もう空が白み始めたから、あと一時間もしたら太陽が昇るだろうし」

未だじっと観察するかのように凝視する太郎を他所に、裕輔はごろっと地面へと横になる。
これは彼の直感といえばなんだが、自分の体に起こった奇跡はもう効果が切れていると感じていた。
今走れば今までと同じ50m8秒程度の速さでしか走れないだろう。

おずおずと裕輔は隣に寝転ぶ気配を感じて目を瞑る。

―――――――――――これからどうする?

なんの当てもない決死の逃走。
足利の追っ手から運よく逃げ出せたとしても、彼等に目的地などない。
更に太郎と一緒にいるのなら面倒事も出てくるだろう。

(一先ずは目先の安全を確保するか……)

明確な敵である足利から逃げ切る。
それから先は逃げ切ってから考えると裕輔は思考を止めた。



Interlude

「早速面白い人物とコンタクトを取ったんだね」

「――――――――――――」

「そうだった、そうだった。
ちょっと体を弄った時に不具合が生じてね、記憶が一部飛んでたんだよ。
だから君は記憶の中に齟齬が起きているだろうね」

「――――――――――――」

「脚が速くなっていて驚いただろう? それが君に唯一与えた力さ。
危険を意識して認識、あるいは本能的に察知したら発動する。
首筋が熱くなったらそれはスイッチが入った証拠ね。わかった?」

「――――――――――――」

「あ、けれどこれは本当に命の危険の時にしか発動しないから。
だから意図的に発動したりするズルは出来ないからね? だってそれじゃ面白くないし」

「――――――――――――」

「怒らないでよ。だからわざわざこのボクが君如きのために【繋いだ】んだよ?
君は一度死んでいるし、もう元の世界にも戻れない。ここで一生を終えるのさ。
仮に【門】を通って世界を渡ったとしても君の体は崩れる」

「――――――――――――」

「君は玩具なんだからしっかり踊ってくれよ?
もう今後【繋げる】事はないからしっかり面白い事をして、楽しませてよね」

「――――――――――――」

「ここでの会話は忘れるだろうけど、君の深層意識に認識として残る。
よかったね。これから元の世界に戻りたいとか、自分の体はどうなったかで悩む必要ないんだよ?
感謝してよね! それじゃあ―――――死ぬまで踊り続けなよ、操り人形」

Interlude out



「裕輔さん、裕輔さん……」ユッサユッサ

「……んぁ…?」

「ホラ、もう朝です。早く行かないといけないんでしょう?」ユッサユッサ

「…おk」

自身の体を揺さぶられて裕輔は目を覚ます。
太郎の言う通り空は晴れ渡り、ピチピチと鳥がさえずっている。
紛れもなく朝の到来である。

「あ~……朝はキツイ」

しょぼしょぼする瞼を手で擦り付け、強引に目を開ける裕輔。
何かとても重大な夢を見た気がする裕輔だったが、内容を思い出そうとすると霞みがかかったように思い出せない。
裕輔は夢ってそんな物かと思い、地面で寝たため硬くなった体をポキポキ言わせる。

「太郎君どっちの方角に行けばいいかわかる?」

「んと…多分ここから東に行けば国境に行けると思います。
とにかく足利領を出ない事には安心できませんから、早く出ましょう」

「そうだね」

言葉とは裏腹にくしゃっと顔を緩めて相槌を打つ裕輔。
深夜アニメやギャルゲーをする彼の生活は主に夜型なので、朝は非常に辛いのである。
そんな裕輔におどおどと太郎は自分が今一番気にしている質問をしようと近付く。

それは自分と一緒に逃げてくれるのかという問い。
狙われているのは太郎。裕輔一人なら追っ手に追われる必要もなく、安全に国越えを出来る。
自分の命が惜しいのなら、太郎と共に旅をするなんて自殺行為である。

だがそんな太郎の不安も次の裕輔の一言で霧散した。

「ほら、さっさと行くぞ? 俺一人だと道がわからない」

ほら早くと太郎を急かす裕輔。
裕輔もその答えには行き付いていたが、彼は子供を見捨てて一人で逃げる程非情でもないし、割り切っていない。
命を救われ、飯を恵んでもらった太郎を見捨てられるはずがなかった。
もっとも、今言った道がわからないというのも一因ではあるだろうが。

「―――――はい! こっちです!」

太郎は顔を綻ばせて裕輔の前に出る。
現在頼れる人がいない(姉もいるが、助けを求められるはずもない)彼にとって、
寝癖でぐちゃぐちゃになった頭の裕輔の背中がとても頼もしく見えた。



国と国とを結ぶ街道は勿論どの国にもある。
交通が発達する事は国が発展する事と同義。
道は整備され、幾つもの街道が国と国とを結んでいた。

だが誰でも自由に行き来できるわけではない。
他国の忍びや諜報員が自国に入って来たら危険であるし、犯罪を侵した者を他国に逃がす訳にもいかない。
そのため作られたのが【関所】という検問所だった。

「やっぱり昨日の今日だから警戒しているな……」

「ええ…普通なら2、3人しかいないはずなんですけど」

関所から少し離れた場所に裕輔と太郎の二人はいた。
茂みに身を隠し、頭だけを見えないようにして関所の様子を覗いている。
関所の前では槍を持った6人の男がゾロゾロうろついており、更に待機所では4人の男が談笑していた。

(強行突破…いや、それは危険すぎる)

関所の前で立つ男達を見た瞬間、裕輔は首筋がチリリと熱くなるのを感じた。
嫌な予感がする。それも、命に関わるような――――――嫌な予感が。
確信はないが、裕輔の中でそれは何物にも代え難い警鐘のように思えた。

「太郎君、道はここしかないのか?
穏便に通らせてくれるはずがないし、できれば強行突破は最後の手段にしたい」

関所の人間は太郎の顔を100%知っているだろう。
太郎があの村で死んだ事にされた可能性もあるため、裕輔達にとって出来れば存在を報せたくはない。
もし仮に死んだとされたていたら、その方が圧倒的に動きやすいのだ。

「あるにはあります…ですが、それは理論上の話です。
地図の上では山を3つ程越えれば国境を越えられるはずです」

「理論上、ね。つまり相当きついって事か」

「街道が出来て以来山越えをする人なんていませんでしたから。
山には山賊の類もいますし、わざわざ危険で辛い道を通る必要ありませんし。
多分道もないと思います………」

「それでもここでの危険を考えると、そっちの方がまだマシだ」

メリットとデメリットを考え、結局二人は山越えをする事にした。
ここで問題を起こすと、足利はすぐに動き出すだろう。
ひょっとすると逃げ出した先である他国にまで忍びといった追っ手を差し向ける可能性もある。

裕輔と太郎は関所を名残惜しそうに見つめながらも、また山の方角へと戻った。

「よし! 出ぱぁぁああつぅぅうう………(ドラップラー効果)」

《ズギャン!!》

「って早!? 裕輔さんまた脚が速くなってますよ!?」

「おや…?」



「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

「裕輔さん大丈夫ですか?」

「だい、じょ、ぶ、く、ない」

息も絶え絶えといった様体の裕輔に着々と歩を進める太郎は話しかける。
現在山登りの最中。道は途中からなくなり、完全な獣道を二人は歩いていた。
中々な急角度の坂道であり、普段山登りや運動をしていなかった裕輔にとってとても厳しい物だった。

「急に脚が速くなったと思ったら、急に普通になったり。
あれだけ速く走れるのに体力が全くなかったり、本当に裕輔さんは不思議な人ですね」

「俺だって、わか、んねぇ、よ」

ぜぇぜぇと荒い息の裕輔。
最初は絶好調だったものの、関所から少し離れた所まで来ると急にペースダウンした。

(そういえば、脚が普通に戻ったのと同時に首の熱さも元に戻った…何か関係あるのかな?)

「太郎君、あとどれくらい?」

朝から歩き続けてもう夕方。
途中で川があったため水分補給と空腹は紛らわせれたが、裕輔の疲労はピークに達していた。
小学生くらいの太郎が弱音を吐かないのに、なんとも情けない姿である。

なんという低スペックと笑う事なかれ。
一年間まともに運動せずにゲームばっかりしているとこんな物である。
むしろここまで歩けた方が不思議なのだ。

「そうですね…大体国境らへんだと思います」

「という事はまだ半分くらい?」

「そういう事になりますね」

太郎の困ったような笑顔を見せられ、裕輔はどよーんと崩れた。
最後の半年程はずっと病院で過ごした彼にとって一日の山登りでもキツイのに、それが明日もあるというのだ。
空腹も相まって泣き出しそうな顔である。

「うぐぅ、うぬぅ……」

気分は魔界の王を決める戦いに参加した主人公キャラである。
落胆して泣いている時の顔を想像して頂けるとそのまんまの顔だ。

「何も泣かなくても…あれ? あれって山小屋でしょうか?」

朝あれだけ頼もしく見えたのは見間違いだったかなと太郎は後悔したが、
立ち止まって周囲をよく見ると一棟の山小屋がぽつんと寂しく存在していた。
こんな山奥に何故山小屋があるのだろうか? 

「おお…! キタ――――v(゜∀゜)v――――!!」

山小屋と聞いて裕輔はがばっと体を起こした。
なんという幸運。何か食べ物を恵んでもらおうと裕輔は山小屋に向って走り出す。
流石にこんな場所にまで情報が一晩で行き渡るとは思えないし、何より空腹に負けたのだ。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよーー」

まるで餌を前にした犬のように飛び出した裕輔を太郎は追いかけた。



「む、お主は誰じゃ?」

「…………」

山小屋の扉を開けた先には天狗がいました。
この場合はどうしたらいいんでしょう?

裕輔は腹で轟音を鳴らしながら初原作キャラこいつ~? と体を硬直させた。



修験者といった風貌の筋骨隆々とした男。
山小屋の主は天狗の面を被り、威風堂々とした態度で侵入者―――裕輔を睨んでいた。

「た、旅をしているのですが、道に迷いまして……」

仮面の奥に光る瞳に睨まれ、ダラダラと冷や汗を流しながら応対する裕輔。
折角【戦国ランス】の世界に来たのだから誰か原作キャラに会いたいなと思っていたが、初めからこいつとは予想の斜め上を行きすぎである。

修験者の男の名前は発禁 堕山。
ゲーム内において浅井朝倉の助っ人として登場し、結構エグイ事をした人物である。
かくいう裕輔自身 発禁 堕山にあまり快い感情を持っていない。

「出来れば食べ物なんか欲しいな~っ……と?」

えへへ? とゴマを摩りながら揉み手をしてぎこちない笑いを浮かべる裕輔。
ここで首筋が熱くなれば一目散に逃げ出すのだが、幸いな事にまだ熱くなっていない。
食欲が恐怖心に勝った瞬間である。もっとも熱くなった瞬間太郎を抱えて逃げ出すつもりだが。

食欲というのは三大欲求に挙げられる程に強い。
丸一日何も食べずに過酷な山越えをした裕輔にとって、食事の機会を逃すなんて選択肢はない。
発禁 堕山とて人間である以上、何か食事をしているはずなのだから。

「帰れ…といつもなら言う所だが、今日はいい酒が手に入った。
よかろう。後の童も連れて来い。一日なら泊めてやろう」

「ヴェ!? いえ、いいですって! ほんと食事だけでも!」

ここにきてやっと正気に戻った裕輔は焦りながら誘いを断ろうとする。
何故さっきまで自分は食事なんて要求していたのだろう? 超A級といってもいい危険人物に。
空腹の余り気が動転していた自分を責め、発禁 堕山(以下堕山)から遠ざかろうとした。

だが――――――――

《グウウウ~~~~(盛大に腹の虫が鳴る音)》

「…………」

「…………」

「好きにするがいい」

堕山はそれだけいうと小屋の奥へと入る。
裕輔は暫しプルプルと震え自分の中の何かと葛藤していたようだが、
結局は後から来た太郎と共に小屋の中へと入った。

原初の誘惑に負けたのだ、要するに。



酒を飲んでものまれるな。
遥か昔から言われてきた格言で、実に含蓄のある言葉である。
きっとこの言葉はアルコール飲料がある国には形は違えどあるに違いない。

うん。まぁ、あれだ。つまり何が言いたいたいかと言うと―――――

「ざ~ん~こ~くぃ~な~天ジのべ~ゼ~♪
あれ? 違ったか? オレワロスwww」

「むぅ…こいつに酒を飲ませたのは間違いだったか…?」

「すいませんすいませんすいませんすいませんすいません」

酔った裕輔はかなり性質が悪かった。

堕山は当然自分一人分の料理しか用意していない。
そうなると必然的に裕輔と太郎の食事なんてものは存在していなかった。
その事に関して堕山は見た目かなり厳ついため太郎も裕輔もビビリまくっているので、文句など言えようはずがない。

そのため二人は備蓄されていた野菜を恵んでもらい、ポリポリと齧るのが食事となった。
食事もたけなわになると堕山は事前に言っていた【いい酒】を持ってきたのだ。
まだ子供の太郎はともかく、成人している裕輔は堕山に酒を勧められる事になる。

裕輔は切実に断りたかったが、堕山は目で語っていた。
『オレの酒が飲めねぇのか? ああん?』とヤクザちっくに。
天狗の面と体躯も合わさって、モノホンのヤクザよりもよっぽど恐ろしい。
頂きますと裕輔は泣く泣く杯を受けとった。

さて。ここで問題が一つある。
既に飲酒経験のある方なら分かっていただけるだろうが、空腹に酒というのは非常によくまわる。
更に疲労していたら効果は倍率ドン、更に倍なのだ。

結果こうしてのんだくれが一人出来上がったというわけ。
千鳥脚でふらつき、大好きなアニメソングを上機嫌で歌っている。
人間こうはなりたくない物である。

裕輔の変貌に堕山は顔をしかめ、太郎は涙目でひたすら謝りまくっている。
だがいつまでたっても黙らない裕輔を見かね、ついに堕山が動いた。

「お主…」

「ムムッ! 首筋が熱いぞ!? …っは! 
もしや実は俺ってニュータ○イプ!? 見える…俺にも見えるぞ…!」

「黙らんか」

《ゴツン!!》

「たわば!?」

馬鹿な事をのたまう裕輔を一撃で床に沈め、堕山は太郎に振り返る。

「ここに泊まっていいと言ったからには一日泊めてやる。
だが明日の早朝に立ち去れ。まさかここまで厄介な男とは思わなんだわ」

「すみませんすみません、本当にすみません」

くいっと堕山が指差した方向には納屋があり、今日はそこで寝ろという事なのだろう。
太郎はもう泣き出しながら裕輔をひっぱっていった。



静まり返った深夜の丑三つ時。
山の中には夜行性の動物もいるため無音というわけではないが、それでも静かな方である。
発禁 堕山はそんな静かな夜、一人井戸で腰をかけていた。

「全く、とんだ奴らだ…」

口から出るのは突飛な訪問者に対する愚痴。
偶々上質な酒が入ったのに一人で飲むのも味気ないと思い誘ったのだが、あんなに酒癖が悪い奴だったとは。
堕山は井戸から桶に水を汲み上げ、手で水を掬い上げてこくりと一飲みした。

「騒ぎおってからに。だが――――――」

―――――――――こんなのも悪くない。

上質な酒の席をぶち壊しにされたというのに、不思議と殺意は湧いて来なかった。

彼は訳があってこんな山奥に住んでいる。
こんな山奥では当然里は遠く、人付き合いという物が全くない。
発禁 堕山とて人。孤独を感じないわけがなく、心の底では人との関わり合いを求めていた。

「だが、それも…」

堕山は酒で火照った顔を洗うため天狗の仮面をパカリと外す。
その下から現れたのは無骨な鼻と不揃いな歯。そしてぎょろりとした四つの緑眼。
そう。四つの眼だ。

これこそが堕山が人里を離れ、一人で暮らさなければならない理由。
彼は【呪い付き】という特殊な状況にあり、その呪いとも言える物が左の顔半分に眼二つ生まれ出た。
それによって堕山はある力を得たのだが、人々は彼を恐れ迫害を始める。

(馬鹿みたいにワシに絡んできた あ奴もこの顔を見れば…)

彼の心は捻じ曲がっていた。
他人を信じない。親友を信じない。友達を信じない。肉親を信じない。
裏切られ続けてきた彼にとって、素顔を知って尚普通に接するはずがないと決め付けていた。

そして――――――

「うえっへっへっへ…水を一杯頂けませんかね?」

「―――――――!」

裕輔は、発禁 堕山の素顔を見てしまった。
まだ酔いが冷め切っていないのか、少しふらつきながら井戸へと近付く裕輔。
堕山はがたっと腰を掛けていた井戸のへりから立ち上がり、素顔のまま表情を失くす。

この顔を見た以上彼も同じ反応をするのだろう。
顔を強貼らせ、瞳を恐怖の色で彩り、口からこう言葉を発するのだ。
『化物!』…と。 

裕輔はふらふらと歩きながら井戸へと近付き、堕山の目の前まで進んで来た。
堕山はジッと裕輔の感情の変化を感じ取り、少しでも嫌悪や侮蔑の色が混じったら殺してやろうと身構える。
そしてついに裕輔は堕山の前に来て――――――そのまま通り過ぎ井戸から水を巻き上げ、ガブガブと飲んだ。

「………は?」

堕山が驚きのあまり間抜けな声を上げてしまうのも仕方ない。
何故なら、こんなに至近距離から堕山を見ても裕輔の感情にあまり変化がなかったのだから。
あったのは少しの驚きくらいだ。
それが信じられなくて堕山は井戸の水を飲みながら青い顔をしている裕輔に掴みかかる。

「お主、ワシの顔を見て何か思う所がないのか!?」グラグラ

「ちょ、やめ、揺らさないで、出ちゃう、出ちゃうーーー!!」

「ええい、答えないか!!」ガサガサ

「ら、らめぇぇええ!! 本当に出ちゃうーー!!」

肩を掴まれ揺さぶられて、うっぷと顔を更に青ざめる裕輔。
流石に吐かれては不味いと堕山は一旦手を止め、裕輔を解放した。

「はぁ、はぁ…もう少しで出る所だった…」

「………………」

「あ、そうそう、顔についてだったな。
う~ん、結論から言ったら俺は別に気にしないよ? そんな人だっているだろうし」

「気にしていない、だと……?」

「だって世界には色々な人がいるだろ? 指が6本あったり、腕や脚がなかったり。
けどそれって個性だと俺は思うんだよね。そんなんで差別するなんて馬鹿げてる」

この時代はそういった差別に寛容ではなかった。
そういった子供達は『鬼子』等と呼ばれ、排斥される。
だが裕輔の育った現代ではちゃんとした理解をもっている人間が多いし、裕輔もその一人だった。

発禁 堕山の顔を見た時少し動揺したものの、先に知識としてだけ知っている裕輔は驚くだけで済んだ。
更に堕山がコンプレックスに思い、非常に顔を気にしていた事も知っていた。
最も本当に裕輔が言葉通り思っていなかった場合。仮に嫌悪感を胸に抱いていたとしたら堕山はそれを感じ取っただろう。

「ふん…さっさと寝ろ」

「アイサー」

長年人付き合いがなかった堕山は素直に嬉しかった。
自分の顔を見ても嫌悪感を抱かず、拒絶されなかった事が。
だがそれを表に出してしまう事を嫌い、つっけんどんな態度で裕輔に背を向け小屋へと戻る。

彼の心はここ数年ないほどに晴れやかな物となっていた。



翌日目が醒めて、裕輔は二日酔いとは違う意味で顔を蒼白にしていた。

(やっべ、テラヤバス…昨日顔見ちゃったし、超生意気な事いっちゃったよ。
どう見ても死亡フラグです、本当にありがとうございました)ガクガクブルブル

昨晩(といっても今日の早朝だが)の出来事は酔っていたものの、記憶には残っていた。
堕山最大のコンプレックスである顔を見て、尚且つ生意気な事を言った。
下手しなくても普通に死ねると裕輔は身の危険を感じたのだ。

まだ尾張に来て嫁を貰っていない現時点で発禁 堕山は超危険人物の筈である。
裕輔は眠れる獅子の尻尾を踏んづけてしまったと思っていた。

「太郎、起きろ…さっさと出発するぞ…」コソッ

「だからあれだけ飲まないで下さいと言ったのに…
あれだけ絡んで会い辛いのはわかりますが、ちゃんとお礼を言わないと」

「そうじゃないんだって」コソッ

太郎を小声で起こす裕輔。
事が起きる前に逃げ出そうと言うのだ。
なんとも小心者というか、生きる事にひた向きな事である。

《ガラッ!》

「む? なんだ、もう行くのか?」

「《ビクゥ!》え、ええ、ちょっと訳ありな物で…」

「本当にありがとうございます。この一宿一飯の恩は決して忘れません」

ガララと納屋の戸を開けて入ってきた堕山。
裕輔は一瞬体を硬直させるものの、鼻歌を歌って誤魔化し旅支度を整え始める。
その横では太郎が姿勢を整えて礼儀正しくお礼を言っている。とってもいい子である。

「ならばこれも持っていくがいい」

「え、いいんですか? ありがとうございます」

「よし、支度が出来た! 出発だ太郎君!」

ひょいと堕山は手に持った包みを太郎に向って投げた。
太郎はそれを危なっかしく受け取り、中からちゃぽんと液体が動いた感覚と柔らかい米の感触を感じてまた頭を下げた。
裕輔は一人で旅支度を整え終えて出発しようとする。どれだけこいつは早く逃げたいのだろうか。

「早くしないと足利の追っ手が来ちゃうかもしれないんだぞ」コソッ

「! そうでした」コソッ

頭を下げる太郎に早く行こう、さぁ行こうと耳打ちする裕輔。
太郎も切迫した事情を思い出したのか、コクンと頷いて足袋を履いた。

「それではありがとうございました!」

「あざーっした!!」

「……ちょっと待つがいい」

さよならの挨拶をして玄関から踵を返す裕輔。
だが玄関から一歩踏み出そうとした時に堕山に呼び止められた。
ついにこの時が来たかと裕輔はオイルが切れたブリキ人形のように首をギギギと回す。

「はい、な、なんでせう?」

「名前はなんという?」

「わ、私めのでせうか?」ドキドキ

「そうだ。お前の名だ」

「森本 裕輔です(あ、やべ。本名言っちまった)」

思わず反射的に本名を言ってしまう裕輔。
やっちまったと衝撃を受けている横で、堕山は興味を失くしたかのようにクルリと奥へと身を翻す。

「それではな、森本よ」

「はい! さようならーーー!!」

そういって早足で歩き出す裕輔。
太郎ももう一度堕山を振り返ってペコリと頭を下げ、駆けて行った。
堕山はもう一度振り返って去り行く二人を暫し眺め、また小屋へと戻る。

(人がいるというのも悪い物ではない…嫁でも探すか)

いつもと変わらないはずの家なのに寂しさを感じる。
今まで一人で生きていたが、隣に人がいるのも悪くないと堕山は思った。



「………なぁ、太郎君」

「………はい、何でしょう? もの凄く嫌な予感がするんですが」

「ここ、どこ?」

「やっぱりですか! 道もわからないのに先に進むから嫌な予感がしてたんですよ!!
どうするんですか!? ここまで来たらボクも道わかりませんよ!?」

「ワロスワロスww」

「謝ってるんですか、それ!?」

そして途方に暮れた二人組みがいたとかなんとか。



Interlude

「あら、これは…一郎兄様! 一郎兄様!」

「どうしたんだい雪?」

「人が二人倒れているようなのです、早く治療をしないと」

「どれどれ…本当だ。しかも片方はまだ子供じゃないか」

「ぼたん狩りなんてしている場合ではありませんね。
ここは家臣の者に任せ、私達はこの方を連れて行きましょう。
一郎兄様、この方を担いでいただけますか? 私は先に城に戻り、医者の方をお呼びしますので」

「頼んだよ雪」

「はい、一郎兄様」

Interlude out

物語はプロローグを終え、遂に動き出す。
彼は勇者ではない。力も、地位も、名誉も何一つとして持ち合わせていない。
凡人の身ながら英雄達への伝承へと手を掛ける愚者。

ただ唯一の武器を手に大きな流れへと立ち向かう。
例えそれが小さな色だとしても、原色に混じれば変革を齎せると信じて。

――――――――さぁ、物語を始めよう。







それと能力値を作って欲しいという要望があったので、作ってみましたww
どうざんしょ? 一応戦国ランスの設定で合わせてみたんだが……


森本裕輔  職種:無 Lv.1/8

行 1 
攻 1
防 1
知 5
速 1* 
探 1
交 6
建 1
コ 1


技能:神速の逃げ足

命に関わる危険を察知した場合にのみ発動。
発動した場合に限り【速】が9に上昇する。
しかし意図的に発動は出来ず、また命の危険性がなくなった時点で効果はなくなる。

技能:現代知識

現代において大学生程度の学力と知識を持っている。
あくまで一般的なレベルだが、それでもこの時代からすれば高水準。

一話の最後にも載せておくよ!


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