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No.42836の一覧
[0] クラスまとめて異世界転移したけど、モブはやっぱりモブでした[T4](2017/11/02 12:56)
[1] クラスまとめて異世界転移したけど、モブはやっぱりモブでした #02[T4](2017/11/02 05:40)
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[42836] クラスまとめて異世界転移したけど、モブはやっぱりモブでした
Name: T4◆8c32c418 ID:60cb4660 次を表示する
Date: 2017/11/02 12:56
「今日も無事に生き延びたことに、かんぱ~い」
 三人は仲良く唱和して、木製のジョッキを打ち合わせる。ガラス製のジョッキのような澄んだ音は期待するすべもなく、少し間の抜けた衝突音。硬質のものを打ち合わせる音でないことに少々の不満を抱くが、すぐに仕方がないと諦める。何しろガラス製はひどく高価だし、こんな荒くれ者の集うような場所で使ったら、くすねられるか割れるかの二択だろう。多分、導入その日のうちに全滅するに違いない。
 とにかく、乾杯はすんだ。
 ならばすることは一つだけ。
 多治見敏明はジョッキを口に寄せると、大きく傾けて喉奥へと中身を放り込むように飲み始める。んぎゅんぎゅんぎゅと、勢い良く喉を鳴らす。よく冷えたエールが心地よい。エールを冷やすために、借金で首が回らなくなった魔術師が店の裏で朝から晩まで冷凍魔法を使い続ける奴隷労働を強いられている、なんてのは知らなくていい情報だ。だから敏明はそんなことは全然知らない。知らないのだ。何しろ酒がまずくなるから。特に、下手をこけば明日は我が身になりかねないだけに。
「ぷは~」
 とアルコール混じりの熱い呼気を吐き出したのは、奇しくも三人同時だった。他の二人、神領冬司と高蔵寺公正もジョッキを叩きつけるみたいにしてテーブルに戻し、乱暴に口元を拭っている。
「あ。コラット、エールおかわり3つ」
 そのタイミングで横を通りかかった、この店の自称看板娘のコラットに追加注文を頼む。
「はいにゃ」
「後、他に――」
 語尾から推測されるように、コラットは、ネコ科の獣人である。語尾に合わせて頭の耳とお尻の尻尾が、それを分かりやすく証明している。敏明は内心で「自称」と付けてはいるが、実際、見た目は可愛らしい娘である。ケモナーな冬司などは絶賛する容姿。……あるいは絶賛しているのは耳と尻尾かもしれないが、黒いショートボブの髪、ちょっと目尻が上がったアーモンド型の瞳、よく見ればその瞳孔は縦に裂けている猫のそれだ。細身だが出るところが出て引っ込むところがとんでもなく引っ込んだ素晴らしいスタイル、コレも猫のしなやかな体躯を連想させる。見た目は非常に素晴らしい。だが、その魅力にやられて尻や胸や尻尾にに手を伸ばすと、とんでもなく酷い目に遭う。
 今、実際コラットの魅力にやられて、その蠱惑的な美尻に手を伸ばした隣のテーブルと男が、ひょいと躱されて空振りした上に、お盆の一撃――平でなく縦――を食らって、糸が切れたみたいに床に沈み込んだ。
「それで他に注文は?」
 コラットは何事もなかったように、こちらを促してくる。
 この程度は日常茶飯事で、驚くには当たらないという態度。コラットだけじゃなくて、他の客たちもそうだった。手癖の悪いやつなど、介抱するふりをしつつ、倒れた男の懐から金目の物を抜き取っている。見ている者は笑いながら、おごれよ、なんて声をかけている。離れた席からは、ケンカ相手を刺して教会裏に捨ててきたなんて、もっと物騒な話も聞こえてくる。世も末だ。実際、魔王なんてものが復活して、末世なのは間違いないのだが。
「ええと――」
 と、代表して注文をしたのは公正。三人組の中で一番体格がいいのはこいつで、それだけによく食べる。今日は特に精力がつきそうなものを中心に、何品か注文。何人前になるんだろうか、これ。
 コラットはいちいち頷き復唱して、首をかしげる。
「今日は随分と派手に食べるにゃ?」
「ふふふ、聞きたいかね?、聞きたいなら聞かせてあげようじゃないか。今日の僕達の素晴らしい成果を」
 胸を張ったのは、冬司である。無駄に大げさに胸を張ったこいつは、多分格好をつけているのつもりなのだろうが、コレットには今ひとつ通じていない様に見える。コレットでなくとも、多分通じないだろう。学校一の残念なイケメン、そのあだ名はダテではない。
「どうしたにゃ?」
 実際通じてなかった。コレットは、さらっと冬司を無視して敏明の方に問うてくる。
 聞けよ、いや、聞いてくださいお願いします。なんて冬司が言っているが、コレットは耳をそむけて無視している。
 敏明はため息を一つこぼして、コレットに答えることとした。
「本日、我々はレベル3になりました」
「おお~、それは目出度いにゃ」
 鼻の穴を広げて自慢げに告げる敏明に、コレットはぱちぱちと手を打ち合わせつつ、素直に賞賛の言葉を返した。
 一般に、レベル3に到達で初心者卒業とみなされる。まあ、ようやく尻についた卵の殻の欠片が取れた程度で、上を見ればまだまだだが、それでも一つの階梯を登ったことには違いない。ギルドで受注できる仕事の種類も格段に増えるし、ある意味、ここからが「本物の」冒険者とも言える。
「それじゃあ、お祝いに、店の方からも一品用意するにゃ」
「ゴチになります」
 否はない。間髪入れずに3人は応じ、頭を下げる。今でこそ経済状況はだいぶ上向いたが、冒険者になった当初は酷いものだった。だからタダ飯のチャンスを逃すなんてことは考えられない。
「慣例みたいなものだからお礼はいいにゃ」
 ひらひらと、手を振ってコレットが厨房の方に向かうと、3人は表情を改め、テーブルの上に乗り出すようにする。
「さて、レベルアップも目出度いが、本日はもう一つ目出度いことがあった」
 口火を切ったのは、冬司。
「そう、ついにトッシーがやってくれました」
「トッシー言うな」
 と応じつつ、敏明は胸を張る。もっと褒め称えてくれてもいいんだぜ?、そう言う態度。
 しかし二人はスルーして、話をすすめる。
「とにかく、敏明が攻略に必要不可欠だった魔法を習得した事により、僕達は先に進める。新たな階梯に至ることができる」
「下調べに付いては、諸先輩方の話を伺ったり、実際に近くまで行ってみたりで、現状、可能な限りの情報を集めている」
 仕方がないので敏明も気持ちを入れ替えて会話に参加する。これからのミッションを考えれば、問題点は全て潰しておきたい。それを考えればふてくされても時間の無駄、有害だ。
「各々の情報のすり合わせは?」
「既に何度も行っただろう。それに、結局は僕達各々の向き不向きで、必要とされる情報の種類が変わってくるのは自明のことだ。情報不足?、それはそいつの努力不足だ。冒険者は自己責任が原則。おのが責任、おのが努力を怠ったものは捨てていけ。僕たちは友人だが、お母ちゃんじゃないんだから、無制限に面倒を見ることは出来ない」
「厳しいな」
 思わず呟いた敏明に、冬司が咎める視線を向ける。
「甘いことを言うな。これから行うミッションは、失敗すれば長く将来に渡って、下手をすれば一生モノの禍根を残しかねないって代物だ。肝に銘じておけよ」
「それは重々承知しているさ」
 重々しく、公正が頷いてみせた。太く重々しい声に、どこか浮ついていた気分が落ち着くのを感じた。これは敏明だけではなく冬司の方もそうだった様子。
「すまない、少々気が急いていた」
「こっちもだ、結構緊張している」
「まあ、しょうがなかろう。俺だってそうだし」
 にやり、と3人で悪い笑顔を交わす。
「それで、準備の方は?」
「万端だ」
 問うと、冬司がインベントリからポーションを3本取り出した。
 ガラス製の小指ほどのサイズの試験管に似た容器。その中で揺れる透き通った赤い液体。
「僕が作ったスタミナポーションだ。評価はBプラス。鼻血を吹かないように気をつけろよ」
「バフはどうする?」
「レジスト・ディージーズは欲しいな」
「キュア・ディージーズあるのにか?」
「後手に回るよりも、先にできる対策はしておくべきだ。罹ってから治すよりも、罹らないに越したことがないだろう」
「フィジカルエンチャントの方はどうする?」
「意味あるのか?」
 公正が首を傾げる。
「シャープネスで感覚を鋭くできるだろう」
「それに気がつくとは、やはり天才……」
「いや待て」
 慌て気味に敏明は止める。
「それは諸刃の剣だぞ。冬司、お前が言ったろうに。下手をすると将来に禍根を残すって。ここは安全策を取るべきだろう。そう、感覚が鋭敏すぎるのも失敗の元だ。ここは逆にプロテクションあたりで守りを固めるべきだ。今回は何よりも継戦能力を重視で」
「それは下策だ」
 喧々諤々。
 そこへ、料理を複数と、ジョッキ3つを器用に抱えたコレットがやってくる。
「攻略の相談かにゃ?」
 猫族のバランス感覚なのか、それとも猫族に限らない訓練の成果か。ファミレス店員すら目じゃないレベルで大量の料理やジョッキを、本当に器用にひっくり返すこと無く、三人の前に配膳しながら尋ねてくる。それから、ちょっと心配げに眉を下げ、忠告。
「正直、三人共頑張りすぎにゃ。連日ダンジョンに潜っているって話も聞くし、初心者卒業で余裕が出たなら、少しは休むことも必要にゃ」
「確かに、そうかもしれません」
 冬司がテーブルに肘をつき、顔の前で手を組み合わせて、重々しく頷く。
「しかし、まずはこれが終わってからです。そうすることで、僕たちは胸を張って、初心者卒業を誇ることができる」
「なんだか覚悟を決めてるみたいにゃね」
 その迫力にコラットは圧された模様。仕方がにゃい、と頷いてくれた。
「それで、何を攻略するんにゃ? レベル3だと、まだ一層ボスは厳しくないかにゃ?」
「問われたからには答えましょう。僕らが攻略するのは赤格子です」
 ふっ、と小さく笑い、胸を張って冬司が答えた。
 え?、答えるの?、秘密でよくね?、と敏明は思ったのだが、止める暇もなかった。ケモナーの冬司は、コラットに尋ねられると、大抵のことは素直に答えてしまう。いつものことだが、今回は……
「赤格子?」
 コラットは首を傾げ、視線を宙に彷徨わせ。
「赤格子って、赤格子? 新狸穴大門の向こうの赤格子かにゃ?」
「寡聞にして、他の赤格子を僕は知りませんね」
 赤格子、それは、娼館の別名である。
 要するに、三人は、敏明が本日念願のキュア・ディージーズ、すなわち病気回復の魔法を習得したことに合わせて、娼館へ初の突撃する計画を立てていたのだ。
「さいってーにゃ」
 胸を張って答える冬司に、コラットはひどく冷めた声を返した。
「ポーションはともかく、魔法でバフまで使うってなんにゃ……」
 ポーションくらいは、狸穴大門回りの露天でも売っている。……多頭蛇を漬けた酒とか、角鯨の肝とか、怪しげなものばかりだが。だが、流石に魔法でバフまで使う人間は珍しいらしい。まあ、魔法使い自体が希少ではあるが。
「人事を尽くして天命を待つ、って僕達の国の言葉です」
「それに、病気、怖いし」
「神殿に治療を頼むと、無駄に高いしなぁ」
「とにかく、苦節一月。敏明がレベルアップしてキュア・ディージーズを覚えるのを待つ日々は終わりを告げた。僕たちは今日、新たな階梯を登り、違う意味でレベルアップする」
「もう何(性病)も怖くない」
「うぇーい」
 と三人は新しいジョッキを打ち合わせる。
「……ダメにゃ、こいつら」
 コラットは、呆れた声を発した。



 いい感じに出来上がった三人は、計画通りに王都南地区の新狸穴大門前にいた。
 新狸穴大門は目に痛いほどに真っ赤っ赤で、まだまだ新しい。どこか、こちらで言う神社の鳥居に似ているが、それでも色々異国的、もとい異世界的な意匠が盛り込まれていて、日本人の三人にはちょっと違和感を感じさせて落ち着かない。酢飯にフルーツをのけってお寿司ですと言われたようなものか。最近は市民権を得ているようだが、初見の衝撃は忘れがたい。
「元々、旧狸穴大門、通称赤格子は王都西地区にあったんだが、一時期派手に性病が蔓延して、その鎮圧の為、時の将軍が「まずはここを清潔にする」とばかりにすべてを破壊し、旧赤格子は消滅した。しかし、彼女たちは滅びてはいなかった。その後、王都住民の熱い嘆願もあり、王都拡張に合わせ、ここ、南地区に新たな赤格子が建設され、こちらは新赤格子とも言われることがあるそうだ」
 事前の情報収集で仕入れたトリビアを披露するのは冬司である。
「そう言うの良いから、早く行こうぜ」
「いや、ちょっと待てよ、気持ちの整理が……」
「そう言うの良いから」
 怖気づいた冬司のケツを公正が蹴っ飛ばすように押して、門をくぐる。
 今日は海曜日で平日なのに、結構な人出である。男の情熱は馬鹿にできない。かつてビデオが家庭に普及したのも男の情熱が故だと言うし。もし、その情熱を有効利用することが出来たら魔王を倒して世界平和だって実現できるかもしれない。
 ずらりと通りの両側に並んだ建物。赤格子の名前のとおり、建物の殆どに隙間の大きな赤い格子窓があり、その向こうにはいろんな年齢ないろんな種族の女性が、いろんな格好して通りを行く人を眺め、ときに手を振ったり、声をかけたりしてくる。彼女たちが敏明らの目的、娼婦である。
「じゃあ、ここからは別行動で」
「いや、ちょっと待とうか」
 敏明の肩に手をかけて待ったをかけたのは冬司である。
「ここは失敗を避けるために団体行動を――」
「却下」
 にべもなく、敏明は切り捨てる。
「今更何言ってるのさ。ここまで来たら後は別行動。元々そういう計画だったろ?」
「事前の計画にこだわってばかりではなく、ここは高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に――」
「そういうのいいから」
 再び切り捨て、溜息を零した。どうやらこいつビビってる。
 勿論、敏明自身も緊張している。しかし、目の前に度を越して緊張している者がいるおかげで、少なくとも表面だけは落ち着いた振りができていた。
「あのさ、団体行動って言ったって、お前ら性癖が違うだろう?」
 冬司、公正の顔を見つつ告げる。
「冬司、お前のお目当ての店は?」
「勿論、王都のケモナー御用達の名店、「君はエッチなフレンズなんだね」だ」
 胸を張る冬司に、本当にこいつは残念なイケメンだと残念な気分になり、次いで公正に視線で尋ねる。
「ちっちゃい子専門店の「プチトマト」」
 悪びれずに答える公正。いや、元の世界だったら完璧アウトだ、ちょっと悪びれようよ、と思ったが、同時にその潔さを称賛もする。しかし紳士の合言葉、「YESロリータNOタッチ」はどこへ行った。
「ロリペドかよ、最低だよな」
「は? ケモナーが何を偉そうに。だいたい、見た目はともかくドワーフの成人娘だから合法なんだよ、合法」
「落ち着け」
 口喧嘩を初めた二人を慌てて止める。
 こんな所で勘弁してほしい。幸い、道行く人々は自身の欲求を解放することに集中しており、敏明らの騒ぎに視線も向けやしない。見事な集中力である。
「せっかくの至福のひとときを前に、仲間内でいがみ合ってどうするんだよ。みんな違ってみんな良いの精神で行こうじゃないか」
 まあロリペドはこっちでもやっぱり犯罪だけど、公正の目的とする店は合法らしいから、細かいことは考えないとする。
「しかしな、トッシー、このビビリが……」
「馬鹿なことを言うなよ? この僕がビビってるって?」
 冬司がビビリ扱いは認められないと反論するが、見間違え様もなくこいつはビビっていた。
 その視線に気がついたのか、きりりと眉を跳ね上げて、冬司は宣言する。
「僕はビビってないと言ったらビビってないんだ。その証拠に、別に一人でも大丈夫だ」
 言うと、肩を怒らせながら、ずんずんと目指す店のある方へと歩み去っていく。途中でちらっとこちを見たので、生暖かい目を送ってやると、その後は振り返ること無く雑踏に消えた。
 公正と二人で視線を合わせて肩をすくめた。
「そんじゃ、オレはこっちだから」
「ん、俺は適当にぶらついて、良さそうな女の子を見つけたらそこにするかな」
 敏明には二人のようなコレというこだわり、特殊な趣味嗜好はない。一応事前の情報収集で何店舗かを候補にしているが、それに拘ることもない。言葉通り、このあたりを散策し、好みの女の子を見つけたらそこにしようと思っている。幸い、赤格子の店は、他所の同業種と違って良心的な店が多く、飛び込みでもそうそう外れはないとの事だし。事前の計画もいいが、インスピレーションだって大事だ。きっとティンと来る相手に出会えるに違いないと敏明は確信している。
「んじゃな」
 手を背中越しに振りながら、公正も立ち去る。
 それを見送ってから、敏明も歩きはじめた。


 赤い格子の向こうの女性は、本当に色々だった。
 幼女にしか見えないちびっこから、既に上がっているように見える年代の「お姉さま」。容姿も可愛い系からキレイ系と様々。更には人以外の種族も見える。冬司や公正が目指した獣人やロリにしか見えないドワーフ娘、髭はない、や、エルフや妖魔と言った者たち。人魚もいたが、まさか卵を産んでどうぞじゃないだろうな、なんて首を傾げつつ散策する。
 まるでいろんな種族の博物館。コレを見ているだけでも十分に楽しめる。
 楽しめるがそれだけではもったない。事前に飲んだスタミナポーションは冬司が錬金術で作った品で、原材料費は「お前それの原価知ってるのか?」程度に安いが店で購入すれば結構な値段になる。そいつをムダにするのはもったいないし。
 客引きや、格子の向こうの女性本人からの誘いを適当にあしらいつつ、敏明はそろそろ何処かに決めることとする。まだまだ夜は長いが、有限でもある。
 そんな調子で、近くの赤格子向こうをを覗き込み。
「え?」
 と、敏明は足を止めた。
 格子の向こうでは、何人かの綺麗所が扇情的な格好で、思い思いにくつろいでいた。看板を見上げれば、高級店と聞いていた店の名が。どうやら、客引きは格が落ちるとでも思っているのだろうか、邪魔でうるさい黒服のはこの店にはいない様子。実際、パッと見女性は皆綺麗でレベルが高いように見えた。
 その綺麗な女性たちの中の一人に、敏明の目は惹きつけられた。
 別段、その娘が飛び抜けて綺麗だというわけではない。むしろ、この中だと埋没して目立たない。しかし、それでも、その娘を無視することはできなかった。
 その娘は栗色の髪の毛を頭の後ろでくくるポニーテイル。シャープなラインを描く顎。視線を落としているせいで影を落とした長いまつげ。全体的に細い割に豊かな胸。比べるからアレなのであって、単体で見れば十分以上の美少女。あっちの世界の町中で声をかけたら、敏明程度なんぞ無視されるレベルである。
 その娘は椅子に座り、高さがあっていないせいで床から浮いた足をぶらぶらさせていた。キュッと締まった足首、白い生足が艶めかしい。
 そして、何の拍子か不意に視線を上げ、それが偶然、そちらを見つめる敏明のそれとぶつかった。
 娘の長いまつげに縁取られた目尻が下がり気味の瞳が大きく見開かれ、ぱちぱちと何度かまばたきした後で小さく言葉を発した。
「え? トッシー?」
「トッシー言うな。てか大曽根、なんでお前こんなところに?」
「それは、こっちのセリフでもあるんだよなぁ」
 にしし、とへにゃ崩れたチェシャ猫めいた笑みを向けてきた娘は、敏明のクラスメートの大曽根すみれだった。



 あれよあれよという間に、敏明は個室にすみれと二人きりになっていた。思わず、衝動的に店に飛び込んで彼女を指名してしまったのだ。カッとしてやった。でも後悔は……多分してない。
 10畳ほどの部屋はベッドルームとバスルームに分割されていて、敏明は所在なくベッドに腰を下ろしている。
 すみれの方はバスルームの方で浴槽にお湯をためている。温度を確かめる様に湯船をかき混ぜると、ちっちゃなパンツに包まれたお尻が揺れて、どうしようもなく視線を引き付けられたりする。
「しかし、トッシーもこういう店に出入りするのかぁ」
 他の3バカの二人はどうしたの?
 なんて尋ねられて、え、俺ってあいつらとセット扱いなの?、とちょっぴりショックを受けるという自覚のないことをしつつ、サービス精神たっぷりに二人の行動を面白おかしく話したりする。
 いや、俺はなんでこんなことを話しているんだろうか、と頭の片隅で疑問を抱くが口は常以上によく回って止まらない。へーほーふーんなんて言葉はともかく本気で興味をいだいていますって相槌にプラスして、たまにくすりと笑ってくれたりするもんだから、口が滑る滑る。摩擦はどこへ行った?、状態である。
 ハニトラは諜報の基本。こうした場所ではよく情報漏えいするなんて話を聞いたことがあったが、なるほどこういうことなのかと、納得してみたり。
「さて」
 と、湯船の準備が整ったらしいすみれがこちらに向き直る。
 すみれの格好は、丈の短いキャミソールとパンツ。へそが見えてる。上下どちらもレースをふんだんに使ったスケスケなものだが、クリティカルな部分だけはしっかりとガードしていてその向こうを見通すことは出来ない。
 ないが、童貞野郎の敏明には刺激がつよすぎる格好である。
 つい、と自然な動きですみれは距離を詰めてくる。思わずぴょこんと立ち上がった敏明に豊満な胸を押し付けるように抱きつくと、そのまま唇を合わせてきた。ついばむようなキス。それを何度か繰り返した後に、唇を割り、舌を絡める。二人の顔が離れた時には、唾液が別れがたいとばかりにブリッジを作る。
 すみれは、敏明と視線を合わせ。
 くすりと、笑った。
「とっしー、緊張しすぎ」
 背骨が鉄の棒に変わりましたってな具合で気をつけの姿勢、直立不動でまっすぐ突っ立っていた敏明は、慌て気味に反論した。
「いや、童貞ちゃうし」
「カミングアウトだ」
「しまった」
 本気で焦る敏明から、すみれは体を離し、我慢できないとお腹を抑えて肩を震わせる。
「もっと気楽に、リラックスしよう」
「いや、そう言われましても」
「なんで敬語?、ま、とりあえず一回抜けば硬さも取れるかな?、若いから一回じゃ柔らかくなれないかな?」
「親父かよ」
「失礼な。――そんな失礼な人は仕舞っちゃいましょうね~」
 なんて言いながら、すみれは敏明の前にしゃがみ込むと、敏明のパンツに手をかける。
「ナニをするのかな」
「そりゃ、ナニでしょ」
 応じてパンツを下げようとするすみれを、敏明は断腸の思いで止める。
「いや、ちょっとその前に、ちょっど真面目な話をしよう」
「え~~」
 と不満げに顔を顰めるすみれだったが、敏明がベッドに腰を下ろすと、その横にぽすんと勢いをつけて座る。そしてぎゅっと体を寄せてくる。
「当たっているんですが」
「当ててんのよ」
 お約束のやり取り。わかっててやってるらしいすみれはににしし顔。
 鼻をくすぐるすみれのいい匂い。肩をくすぐる髪の毛。腕に押し付けられた豊かな胸。このまま押し倒しても誰も咎めることは出来ないだろう。無罪、無罪判決です。どっかの誰かが脳内裁判所から紙を広げて飛び出してくる。しかしここはぐっと我慢、敏明は鋼の意志で己を律する。
「でも、太ももなでてるんだよなぁ」
「いい感触です」
 それはともかく。
「てか、大曽根、なんでこんな店に?」
「そりゃ従業員だし」
 人の務める所、利用しといてこんな店はないよ。自分棚上げ説教親父はノーサンキュー。ぶーと頬をふくらませる。あざとい、この子あざとい。いやクラスメートだし、知ってはいたけど。
 大曽根すみれと敏明はクラスメートとは言え、流石に今ほど距離が近かったわけではない。普通のクラスメート。用事があれば話すし、なくとも多少の軽い会話も交わす。その程度。
「そういうことじゃなくてさ」
 ええと、と言葉を探しながら、敏明はゆっくりと口を開く。
「なんで、娼婦を? 借金、とか?」
「特に借金はないよ」
「有用な素質がなかったとか?」
「それもないかな。ぶっちゃけ、私って結構戦えたよ。ランク4だし」
「ランク4?」
 思わず声が裏返る敏明。
 ランク0でそっくりさん、ランク1で一流、ランク2で達人、ランク3で天才、ランク4で大天才。そんな位分け。その上には最上級のランク5伝説級があるが、それだけの素質の人間は、その名の通り伝説レベルでごくごく僅か。転移特典で高ランクの素質を与えられた敏明らのクラスメートにだってランク5はたったの1人。ランク4でも4人しかいない。
 すみれがランク4だと言うならば、最高でランク3でしかない敏明ら3人組よりも格上である。
 これではますます。
「なんで?」
 である。
「ん~」
 すみれは唇をへの字にして顔を上げて視線を宙に。そしてそのままベッドの上にひっくり返る。
 それに連れて揺れる胸に視線が向かうのを意志の力で押しとどめる……努力はした。
「正直、戦うのって向いてないって思ったんだよねぇ」
 言われ、敏明は自身のはじめての戦い、はじめての殺し合いを思い出す。
 泣いて喚いて叫んで、晒せる限りの無様を晒した感のある初陣。挙句、三方原名物イエヤス味噌の生産者になるというおまけまで付いた、散々だったあの戦い。結果は出せなくて貧乏生活にあえぐ羽目にはなったが、ギリギリながら生還してウンの尽きとならなかっただけマシだろう。尽きてしまったクラスメートの顔が脳裏を過ぎる。
 自分も到底向いているとは思えなかったが、それでも、他に日々の糧を得る手段は――ないわけではなかったが、そっちを選択したくなかったこともあり、歯を食いしばって戦いを続けた。
 そうしているうちに、いつの間にか慣れた。あるいは、ひどく鈍感になったのか。
 それでも殺して殺される日々のストレスが溜まっている自覚はあって、生きて戻れば酒を飲んで騒ぐし、これからは今日のように娼館にも繰り出すのだろう。
 だから、向いてないというすみれの言葉を否定はできない。
「で、娼婦に?」
 ランク4の素質を持っているのに娼婦。正直良く王国が手放したなって話である。
「まあ、いわゆる不人気職だったし」
 すみれがランク4で得た素質は祖霊魔法だと知らされて、敏明は納得した。
 祖霊魔法は基本的に獣人御用達の魔法だ。獣人たちの祖、祖霊(トーテム)あるいは神獣とも言われる強大な先祖の力を自分の身に顕現させる。その効果は各々の獣人種によって異なる。多くは獣の相を大きくその身に現すことで力を得る。例えば、猫系なら鋭い爪を得たり、鳥系ならば空を飛べる翼を得たりと言った具合。魔法というが基本肉体強化系の物が多い印象だが、長ずればソレ以外の特殊な力も得られるらしい。例えば犬系ならば吠え声で霊体を払うとか、舐めて治療効果とか言った具合。間違いなく便利で強力な魔法なのだが、一部で不人気である。
 それと言うのも、ありがちだが、この世界で獣人が一段下に見られているせいだ。
 特に王族や貴族連中にとっては純血の人間種に対して、獣人は薄汚れた混じり物扱い。雑種「ミックス」なんて蔑称で呼ぶこともあるくらい。
 肚として取り込むこともなく、ランク4と言う破格の素質を得たすみれがあっさり手放された理由に、敏明は納得した。あくまで、連中の考え方がわかっただけで、その考え方を肯定するわけではない。獣スキーな冬司などが知ったらきっと敏明以上に憤慨するだろう。ケモ耳の生えるクラスメート、あるいは狂喜するだろうか。
「まあ、それは良いんだけどね」
 その扱いについて、すみれはさほど気にしているようにも見えなかった。へにょっと軽く笑って続ける。
「それに、こっちはきっと天職だし」
 噂、知ってるよね。
 と問われて頷く。
 すみれが、あっちで援助で交際なことをしている、そんな噂は敏明の耳にも聞こえていた。情報通を自称するクラスメートの武並千里が聞いてもいないのに教えてくれた。どうにもそのあたりの気遣いとか遠慮とかが欠けている男で、冬司が蛇蝎の如く嫌っていたりする。まあ、冬司が嫌っている人間は多いのだが。――実際、見知らぬおっさんと一緒にホテルから出てきただの入っただの言う話は、他からも入ってきたりしたわけで。
「私、エッチってすごく好きなんだ」
 多分多淫症とか、セックス依存症とか、ニンフォマニアとか、そんな感じ?、と告げるすみれの声や顔はあっけらかんとしていて暗さはなかった。
「悩んだこともあったけど、今じゃもう、そういうあたり通り越しちゃってるし」
「病気とか妊娠とか大丈夫なのか?」
 だから、敏明の言葉はすみれの生き方あり方に反論するとかじゃなくて、ただなんとなく口から出てきた、そんな軽い感じだった。
「病気は店で半年に一回、神殿にお布施払って見てもらえる。妊娠は、こっちにもピルみたいな薬あるし、大丈夫」
「半年に一回て……」
「なんか無茶苦茶、お布施取られるみたい」
 私もその辺気になるけど、って感じで顔を曇らせる。
 高級店と言う格から漠然と考えていたよりガバガバな管理体制に敏明は顔を顰めて、インベントリから神聖魔法発動の補助具、聖印を取り出す。敏明のそれは武器部分がY字に丸の女神を示すのシンボルの形をした片手斧。殴ってよし、神聖魔法を使ってもよしな、女神教団で普遍的に使われている武器である。武器以外の聖印?、まともに神殿に所属していない敏明が手に入れようとするとボラれるのである。
「ええと、偉大なる女神よ、この者の病を癒やし給え?」
「なんで疑問形?」
「照れくさいんだよ」
 兎にも角にもそいつを構えて女神に祈りを捧げ、奇跡発動。
「キュア・ディージーズ」
 仰向けに寝転んだすみれに添えた手、それが丁度胸を包んでいたのは偶然である。偶然であると言ったら偶然である、いいね。で、兎に角そこから、暖かい光が溢れて、すみれの体に染み込むようにして消える。
「ん?」
 と、その光の染み込み具合に抵抗を覚えて、敏明は眉をひそめる。多分、この抵抗は、何らかの病の持つ抵抗値を、敏明の魔法行使の強度が抜けるかどうかのドッジが存在したためだろう。
 つまり、この子、病気持ちだ。
 キュア・ディージーズ習得まで赤格子デビューを先送りにした自分たちの判断は正しかったと、内心の恐れを隠しつつ無言で頷く。
「へ~、トッシー、神聖魔法の使い手なんだ。――てか、私、ヤバかった?」
「ヤバかった。まあ、抵抗あったけど奇跡は正常に行使できた感触だから、もう大丈夫だけど」
 使用者の能力による限界はあるにしろ女神の奇跡一発で健康体。ある意味非常に便利な世界である。
「んしょ」
 と、胸に触れた敏明の手を上から抑えたままですみれは体を起こし、にっこりと微笑む。
「ありがとね、トッシー。ここはお礼も込めて頑張っちゃうから」
「え? あの、ちょっと、心の準備が……」
 ぺろりと舌なめずり、肉食獣の顔をしたすみれの、意外に強い力で敏明はベッドに押し倒され。
 そして、部屋に飾られていた牡丹もどきの花弁が、ぽとりと床に落ちた。



 仲良く二人でお風呂。
 湯船に背中を預けた敏明、その胸旨に背中を預けたすみれがほへ~と、大きく息を吐く。
「トッシー、タフすぎ」
「満足していただけましたか?」
「うーん。テクが未熟」
「ぐはっ」
 ど真ん中ストレートのビンボールを急所に食らってただの致命傷。心理的に吐血した敏明。
 すみれは首を反らして敏明の胸の中、下から見上げてえへへと笑う。
「まあ、今日は初めてだった訳だし、これから実戦経験を積んで、上達すればいいよ。今日のお礼もあるから、私で良ければいつでも付き合うよ?」
「それって指名しろってことだろ?」
「そりゃあ、こっちは商売だしね。――でも、お礼ってのはほんと。トッシーに限り特別に、割引で全部ありありサービスで。お買い得だよね、やったー、今なら高枝切り鋏も付けちゃう」
「く、分かっているのに特別とか言われると喜んじゃう自分がちょろすぎる」
「えへへへへ~」
 にへらっと笑うすみれ。
 それからちょっと真面目な顔になる。
「ところでさ、トッシーは他の人達がどうなってるか知ってる?」
 ほら、私は早々にドロップアウトした口だからさ、と告げてくるすみれに、敏明はちょっと首を傾げて黙考してから口を開いた。先刻も思ったが、こうした場所での情報漏洩。まさしくそんな感じだよな、おだてられたり良い格好したかったりで、知っている情報をあっさり漏らす。幸い、敏明の持つ情報なんて大したことがないのが救いだ。それでも最低限、代わりにすみれの知っている情報をこちらによこす約束をしておく。
「こっちも大したことを知っているわけじゃないが……」
 と前置きして。
「知っての通り、ランク5の春日井さんは女神教団関係者に最優先で確保されて、ダンジョンでレベル上げしてるな。取り巻きは俺らクラスメート連中は排除されて、神殿の聖騎士連中ががっちり周りを固めてる」
「神聖魔法ランク5だっけ?、トッシーの上位互換だね」
 悔しい?、ねえ悔しい?、ねえ、どんな気持ち?、と意地悪な表情で尋ねてくるすみれ。
「比べるのも烏滸がましいレベルだ。長じれば女神を降ろすことや死者の復活も可能、なんて言われているんだぜ?」
 しかし、敏明は乗ってやったりはしない。自分で言うとおり文字通りレベルが違って、違いすぎて、彼我を比べてどうこうなんて考える気にもなれない。それに、そのランク5、春日井雛子は普通にいい子なのだ。おまけにクラス一番の美少女だし。コレ重要。試験に出ますよ。
「まあ、雛ちゃん、おっぱいでかいしね」
「でかいよなあ」
 今、敏明の手の中で形を変えたりしているやつもでかい。
「トッシーはおっぱい星人か」
「いや、別におっぱいの大小に貴賤はないと思っているよ。全ては神々の作り給うた神秘の山嶺。みんな違ってみんな良い」
「そんなドヤ顔で言われても、とても懐の広さを示した――とは思えないなぁ」
「ま、それはともかく」
 こほんとわざとらしく咳払いなんぞして見せて、敏明は話題を変える。あるいは戻す。
「他にランク4片手剣の勝川の奴は、取り巻き連れて勇者稼業、ってトコかな。こいつは王家の全面的なバックアップを受けて、ダンジョンでパワーレベリングをした後、あっちこっちで火消ししたり、浮き名を流したりしてる――らしい。最終的には魔王退治の鉄砲玉じゃないかな」
「こっちには雛ちゃんと違って評価に悪意があるね」
「ソンナモノハアリマセンヨー」
「大方チーレムパーティ作ってこの世の春。ムカつく、とかそんな感じ?」
「ソンナコトアリマセンヨー」
「図星か」
 その通りだった。
 片手剣ランク4、盾ランク2、共通語魔法ランク2と、ランクを横に置くと割りとオーソドックスな素質が割り当てられた勝川統一郎は、春日井雛子が神殿に取られたこともあって、負けてなるかと王家が全面バックアップしてプロデュース。今代の勇者筆頭として大々的に売り出されている。基本勇者は戦士系だし、雛子の方は回復職で攻撃力に欠けるって事もある。敏明たちが利用しているあの酒場でも、吟遊詩人が彼の英雄歌を吟じたりしている。
「あと落合川と十二兼が勝川の取り巻きやってるらしいけど、こっちの話はあんまり聞かない」
 後は神殿並びに王家に対抗するためか、どっかの大貴族に雇われていった野尻康介、藪原要と言った他のランク4。なお貴族やらその後やらの詳細は不明。二人共パトロンとなった貴族の領地へ移動し、王都から離れてしまっているために、物理的に情報がなかなか入ってこないのだ。
「こっちの方はこんなんだし、実はあんまり……」
 そう前置きしてすみれが言う。
「でも、この前、名古屋君を見かけたかな」
「……あいつ、今どうしてるんだ?」
 名古屋彰宏。「ハズレ」扱いをされているクラスメートの名前に、なろう者な敏明はわずかに身構える。この場合、テンプレだとハズレが転じて、なんてのは珍しくない。下手すると色々こじらせて酷いことになる。気をつけておく必要があるだろう。
「詳しいことは知らない。本当に見かけただけだから。でも……」
「でも?」
「なんかボロボロの格好、死んだ目で、獣人の奴隷の女の子を連れてたかな」
「まさにテンプレ」
「だよね~」
 とっしー分かってる。我が意を得たりとすみれが手を打ち合わせる。意外だが、どうやらこの娘もなろう者であるらしい。
「俺達は他の連中と全般的に距離おいて活動しているから、要らん怨みは買ってないと思うけど、見かけたらなんかしとくかなぁ」
「逆恨みとかだと困るよね」
 うんうん、とすみれは頷く。
「私も、機会があったらなんかフォローを、と行きたいけど、こんなんだし。……それに、名古屋君て無駄にプライドだけ高かったりするんだよなぁ」
 面倒くさいと二人で顔を合わせて同意する。
「まあ、俺達は所詮モブだし、モブらしくメインストーリーと関わりない、物語の隅っこでおとなしくしてるさ」
「モブだもんねぇ」
「自覚はしてる。……でも他人にしみじみ言われると、微妙に傷つく」
 あはははは~とすみれは笑って、ごめんと謝ってくる。
 謝られるとそれもそれで、と思ったが、自分でも面倒くさいことだと思ったので、口にはしないでおく。
「まあ、でも、無茶はしないでよ。木曽福島正則君とか、美乃坂本真綾さんみたいなことにならないようにさ」
「……そうだな」
 もういないクラスメートの名前に、敏明は頷く。
 しかし、しんみりした雰囲気は一瞬で消滅する。
「太客がいなくなると困るし」
「それかよ!」
 思わず大声を出してしまった敏明に、すみれはケラケラ笑う。
「まあ、半分は冗談よ」
「半分は本気かよ」
「それは穿った見方というものね」
 すみれは悪びれずに応じると、お尻の下を気にするみたいに位置を直すと、話題を変えた。
「で、回復したみたいだけど、どうする?」
 問われて敏明は、躊躇なく素直に頷いた。



 クラスまとめて異世界転移したけど、モブはやっぱりモブでした。
 でも、モブだって頑張って生きてます。

#01:勇者たちの戦場


 その後、ひと月ほど経って。
 何度目かのすみれを指名した敏明は、冬司、公正を含めてクラスの男子の大半が兄弟になっていることを知って、愕然とした。


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