「ね~こ~ね~こ波」
「獅子王波!」
2つの魔力の光が奔り、衝突して弾けた。
ここは魔立邪悪学園。
日々増改築を繰り広げられる学園の中で出来た広場で、魔立邪悪学園の生屠のルチルと別魔界の魔王のラハールが戦っていた。
ルチルはネコマタと人間のハーフである。
同じく人間と悪魔のハーフであるラハールは、ルチルの事を少しだけ気にかけており、たまにこうして修行をつけていた。
総合的にはルチルは劣っているが、元々ネコマタは猫娘族で闘技に秀でていることから、格闘技に関してはラハールとほぼ互角であった。
「むぅ。またお兄ちゃん、ルチルさんと一緒にいる」
ラハールが同じハーフであるルチルに構う気持ちは分からなくはないが、それはそれとして、ラハールの妹であるシシリーは少しヤキモチを焼いていた。
とはいえ、シシリーもルチルの事は嫌いでは無いし、友達として普通に仲は良かった。
それでもそこは複雑な妹心である。割り切れる部分。割り切れない部分がある。
妹心で被害を被るのはラハールなので、割と周りは面白がっている。
「――ここにいたか」
ルチルとラハールが修行している所に現れたのはキリアであった。
キリアはラズベリルが凶師として引率した襲学旅行先で出会った悪魔である。
そこで色々とあって魔立邪悪学園理事長であるマオの名の下に、キリアを生屠として向かい入れた。
襲学旅行先だけでは味気ないため、キリアは実際に魔立邪悪学園に幾度となく足を運んだ。
その時に、ルチルと出会い、キリアは超魔流の業と格闘術、魔力のコントロールの仕方を教えた事で、ルチルからは【師匠】という愛称で親しまれていた。
ラハールとルチルの戦闘が落ち着き、キリアはルチルに話しかける。
「師匠?」
「ルチル。人間界へ行くぞ。マオの許可はとってある」
「に、人間界ですか?」
「ああ。魔立邪悪学園からの短期転校生と言う形で、受け入れて貰った」
「……。で、でも、私は」
「ルチル。お前はまだ若いんだ。魔界でずっと過ごすと決めるのは早い。人間界で過ごすのも、選択肢の1つにいれておくべきだ」
「……」
「それに、今回、短期間留学させる学校は、武術が盛んな所だ。多少、力が強くても心配する必要は無い」
「――わ、わかりました。それで、留学する学校の名前は」
「地球にある極東。日本川神市川神学園だ」
これはネコマタと人間のハーフの子であるルチルが、川神学園で過ごした短い間の物語である。
【プレミアムな決闘】
川神学園では学生の自主自律および切磋琢磨の精神を重んじ、学生間の競争を推奨していた。その最たるものが『決闘』である。
参加者同士が取り決めたルールに則って勝負を行う。
色々な『決闘』があるなかで、一番多いのは武と武のぶつかり合いだ。
武術の総本山である川神院を始め、武士娘や、武を持つ者は自然とこの川神市を訪れる為である。
短期留学という事で転校してきたルチルも、まずは『決闘』の洗礼を受けていた。
(なんで転校したきた直後に戦う流れになるんだろ。私が知らないだけで、流行なのかな?)
ルチルは魔立邪悪学園に転校した当初の事を思い出す。
あれから1年も経ってないが、今では大切な思い出の1つだ。
そんなルチルの対戦相手は、武蔵小杉。
ルチルが転校する前に少し早く入学してきた九鬼紋白が来るまでは、一年生をまとめ上げていた人物である。
Sクラスに所属しているだけあって武芸と学芸は優秀で、それに比例するかのように向上心と自尊心が高い。
「プレミアムな武蔵一族の力――見せてあげるわ!」
小杉は先制攻撃を仕掛けるが、ルチルはその攻撃を上手に捌く。
魔界でルチルがしていた修行相手は、ラハール、エトナ、マオ、アデル、ヴァルバトーゼ、キリア等の魔界でも名の知れている魔王クラスの悪魔たちである。
まだ魔王クラスの実力は持ってないが、ルチルは天性の怪力や格闘技術の腕前もあり、このまま修行を続けていけば魔王クラスになれるのも可能すらあった。
ただ、問題があるとすれば。
(手加減、どうするんだっけ)
魔力のコントロールは出来ており、魔界に転校する前みたいな事はないが、魔界での修行は常に強者とのバトルばかりだった事で、手加減の度合いが計りかねていた。
また人間界を去った時のようにパワーコントロールが出来ずに、人を傷つけたくないという思いが強かった。
「私のプレミアムな攻めに対してどうすることも、」
一撃。
喋っている最中、攻撃できる隙があった為、思わず殴り飛ばしてしまった。
「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか!?」
「~~~~~」
「気を失っているな。勝者、ルチル!!」
小島梅子の宣言に人々が沸いた。
2-F組では。
「やるわね。あの子。それになんか猫っぽいよね」
「そうだな。ところで猫と犬は仲が悪いと言うのを訊いた事があるんだが」
「そんな事はないわ。私は猫好きだし」
1-Cでは。
「彼女強いです」
『まゆっち。次は「私が相手です」って言って、一気に注目を浴びて友達を増やそうぜ』
「む、無理です」
3-Sでは。
「せっかくのニューフェイスに、勝利祝いとしてに納豆を売り込んでくるよ」
「相変わらず忙しいで候」
「……(かなり力を押さえ込んでるな。戦ってみたいけど、ああいうタイプは勝負を仕掛けても、中々本気でやってくれないからなぁ)」
こうしてルチルの川神学園での生活は始まった