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No.4247の一覧
[0] There is no angel (リリカルなのはsts×Fate R15)[ゆきほたる](2012/03/25 16:02)
[1] prologue そして始まりを (前編)[ゆきほたる](2009/09/11 03:01)
[2] prologue そして始まりを (後編)[ゆきほたる](2009/07/05 00:19)
[3] 第01話  届かぬ夢[ゆきほたる](2011/02/09 02:37)
[4] 第02話  エース・オブ・エース[ゆきほたる](2011/02/09 00:35)
[5] 日常編part01 (注:日常編を飛ばすと本編が分からなくなります) 短編×3+没ネタ×1[ゆきほたる](2011/04/16 12:08)
[6] 第03話  帰路~迷い子2人~[ゆきほたる](2011/02/09 00:38)
[7] 日常編part02 短編×2[ゆきほたる](2011/04/16 12:07)
[8] 第04話  運命の悪戯・1/4 ~魔導士殺し~[ゆきほたる](2011/02/09 00:44)
[9] 第05話  運命の悪戯・2/4 ~交差~[ゆきほたる](2011/02/09 00:45)
[10] 第06話  運命の悪戯・3/4 ~白い悪魔vs死神見習い~[ゆきほたる](2011/02/09 00:46)
[11] 第07話  運命の悪戯・4/4 ~運命の悪戯~[ゆきほたる](2011/02/09 00:47)
[12] 日常編part03 短編×2[ゆきほたる](2011/04/16 12:09)
[13] 日常編part04 短編×1[ゆきほたる](2011/04/16 12:09)
[14] 日常編part05 本当の依頼[ゆきほたる](2011/04/16 12:09)
[15] 日常編part06 守るべきもの [ゆきほたる](2012/03/25 15:57)
[16] 第08話  羽を捥がれた騎士VS剣を持つ銃使い[ゆきほたる](2012/03/25 15:50)
[17] 第09話  螺旋回廊  [ゆきほたる](2012/03/25 15:53)
[18] 第10話  不協和音[ゆきほたる](2011/04/16 14:39)
[19] 設定・時系列、等[ゆきほたる](2011/04/16 12:43)
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[4247] 第08話  羽を捥がれた騎士VS剣を持つ銃使い
Name: ゆきほたる◆2cf7133f ID:814fc7e5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/25 15:50
【第08話 羽を捥がれた騎士VS剣を持つ銃使い】



第46管理外世界。

その大地には緑や草木などは無く海なども無い。ただ、砂漠と岩石だけがその世界を覆ってい

る。

人など到底住もうと思える地形ではないが、その中の山脈の一角に、地中に張り巡らされた洞

窟の入り口が巧妙に隠されていた。

先の通報。彼の連続殺人犯がそこを拠点としているというのだ。



その1つの薄暗い洞穴の中。機動六課の副隊長であるシグナム、ヴィータは先の見えない暗闇

の中、自らが放つ魔力光を頼りに前へと進んでいた。


分岐地点で彼女の同僚達と最後に別れてからどれほど経過したのだろうか。

静寂な洞窟内に、やけに2人の足音が響き渡る。


(潜入してから丁度2時間………それらしい痕跡は無いか………こちらは外れだったか?)


シグナムはそれとなく呟く。

直径4メートル程度の空洞を黙々と進む作業にじれったさを感じつつ、出来ることならこちら

に敵が潜んでいて欲しいと願う。


今回派遣された管理局員の数は少ない。

戦闘人員は全部で10余人。シグナム、ヴィータ、なのは、フェイト、はやての機動六課のメ

ンバー5人と後は余所の部隊のエース達。もちろんその全てがAAA以上である。

他に補助で協力員はいるが、彼らは一人のSランク魔導師と共に入り口で見張りをしている。

地上本部の事件があったのを踏まえればこの戦力でもかなり優遇された方だろう。


だが、この洞窟は幾重にも張り巡らされていた。


この地に集結した10余人の精鋭も、洞窟内の分岐路で別れることになり、2,3人のチーム

編成で進んでいくこととなった。

六課はなのは、はやて、フェイトが1チーム。シグナム、ヴィータでもう1チーム組むことに

なったのだった。



「………?明かりか?」

光など一切無い暗闇の中、魔力光を頼りに歩いてきたが、奥のほうから僅かな明かりが微かに

視界に入る。

(こちらが当たりだったか?)

同時に、彼女の共、レヴァンティンが魔力反応を捕らえた。

今までより一層細心の注意を払う。

『シグナム、2人いるぞ』

『ああ。向こうもこちらに気がついているな』

ヴィータと念話でやりとりする。

相手の気配から、向こうもシグナム達の様子を伺っていると予想が付いた。

『道が分岐しているな』

『ああ、それに、背が高けーのが1人、少し低いのが1人だな。……ちょうど一致するじゃね

ーか』

相手がいるのは、丁度、洞窟が2手に分岐しているところだった。そして、進むごと探し人と

酷似したシルエットが目に入ってくる。

ジリ、ジリと慎重に進みつつも距離を縮めていき、やがてお互いの視線が交錯する距離になる



そして、見知った人間の顔がシグナム達の目に映った。


「「ティアナ!!!」」


ヴィータ達がそう叫ぶ声と同時。

バッ、と

両者は別々の方向へ向けて駆け出した。

ティアナらしき女性は右側の道へ。

そして、隣にいた男。こいつは間違えなく、あのティアナを誑かした殺人犯だ。その男は左の

方へと走っていく。


「シグナム、ティアナは任せたぞ!!!」


どうするか。シグナムがそう考える前にヴィータはあの男のほうへ駆け出していった。

「馬鹿、早まるな!」

だが、

『ティアナは連れ戻さなきゃいけねーだろ。それに、奴には借りがあるからな。今回は絶対に

負けねー!』

シグナムが何も言う暇もなくヴィータは飛び出していってしまった。前回での敗戦。それが余

程効いていたのだろう。弾丸のごとくこの狭い通路を壁を擦るほど限界までスピードを上げて

追いかけていく。

(……………仕方ない)

一瞬だけ躊躇したが、シグナムはティアナの方へと走った。

『絶対無理するなよ』

『ああ、わかってるって』

しかたないとシグナムはあきらめ、己が戦友のことを信じることにした。

ヴィータは病み上がりではあるがリインとユニゾンしている。そう簡単には負けないだろう。


頭を切り替え、微かに見えるティアナを追い、全力で飛ぶ。

限定された空間とはいえ、スバルのウイングロードなどの移動系のスキルを持たない限り飛翔

能力を持つシグナムの方が速い。

本来ならばすぐに追いつけてしかるべきだった。


だが、


「………速い」


追いつけない。何とか離されていないものの、差をつめることが出来ていない。

狭く、しかも曲がりくねった空間で飛行能力が相当制限されているという事実はあるが、それ

でも以前のティアナの能力を鑑みれば不自然なスピードだ。


(本当にティアナか?)


暗闇で確証が持てない。先ほどの女は本当にティアナだったのだろうか。


だが、そうしているうちに、今度は前方から人工的な明かりが見えてくる。


(空洞か?)

よく見ると、このまま進んだ先の奥に、やや広まったホールのようなものがあるのが確認でき

た。

ティアナがそこに入っていき、続いてシグナムもその空間に飛びこんだ。

(なんだ、ここは?)

その空間に照明が点いているだけで、他にこれといったものはない。

広さは狭い体育館ほどだったが、飛べるほどの高さはなかった。


そして、そのやや奥の方にティアナは立っていた。


どうやら、この広間は突き当たりのようだった。脱出口は今、シグナムが背にしているもの一

つ。他に逃げ場は無い。


「ティアナ………」


声を掛けられたティアナはシグナムの方をゆっくりと見据える。ここでようやくティアナだと

いうことが確信が持てた。

漆黒のバリアジャケットを着ているが、聞いていた様な仮面は被っていない。

薄暗い洞窟の中、そのままでは視界が十分に確保できなかったからだろう。


一つ気に掛かるのは、腰に質量兵器に含まれるだろう、剣がぶら下がっているということだ。


「………………」


対する、ティアナは無言だった。


「……………」


沈黙が訪れる。


(しまったな………なにを言うべきかが分からん)


正直な話。シグナムは何を言えばいいのか判断ができなかった。

そもそも、同じ機動六課に所属していたものの、ティアナとシグナムの間には特に交流があっ

たわけではない。

ティアナが六課にいたのは実際は一ヶ月にも満たない。教導官でもなく、ライトニングでもな

い、特に性格の波長が合うわけでもないティアナとの接点は薄かったからだ。

ティアナがどんな人物なのかはだいたいわかるが、それはなのはやヴィータ達から聞いたこと

があるだけだ。

シグナム自身がティアナ・ランスターという少女を把握するには情報が少なすぎた。



だから、本音を言うならば腹が立っていた。



子供みたいに命令を無視して、仲間を危険にさらした挙句に勝手に六課を飛び出して、挙句に

果てには殺人犯の仲間になっている。


なのはがどんなに苦しんでいるかシグナムはこの眼で見てきた。

スバルがどれだけ心配してるか、はやてがどれほど責任を感じているか。他のものたちにどれ

ほど迷惑をかけているのか。シグナムはよく知っている。


ティアナは力がないことを悩んでいるのかもしれないが、それを言えば管理局内では、ティア

ナよりも才能が無い人間の方が多い。

ティアナと同様の理由で悩んでいるものは大勢いるだろう。

そういった人間でも、他の者たちはそれなりに自分の職務を全うしているのだ。

ティアナだけ特別なんてことは赦されない。


無いものねだりをし、自分勝手な理由で、仲間を苦しめているティアナ。シグナムの眼にはそ

う映っている。


おそらく、親しい者ならシグナムの心内もまた変わったかもしれない。しかし、顔見知り、一

時の元部下と上司という関係程度のシグナムでは、本当の意味でティアナの立場になって考え

ることはできなかった。


だが、シグナムとて、ティアナは馬鹿だと思うが、悪い人間では無いことは理解できる。

彼女なりに悩んで、そこにゲスな男に漬け込まれて、さらに巡り合わせ間で最悪だったからこ

そのこの状況。

目の前に敵として立っている彼女だが、一方的に腹を立てることも筋違いだ。

馬鹿をつけ上がらせれば増長するが、過去に殴った結果が今の状況を作った要因であるかもし

れない。


前のように力で制裁を下しては、完全にティアナはこちらの敵となってしまう可能性が高い。


(どうするか)


敵と戦うことは脳内でシミュレートしてきたが、2人きりでティアナと遭遇するという事態は

思いもよらなかった。

力ずくで捕獲することは簡単だ。

しかし、あまりに無理やり捕まえてはティアナの反発心がさらに脹らみ、より一層敵視するよ

うになる。


高町やはやては、彼女を更生させたいと思っているだろう。

出来れば穏便に事を済ませたい。

だが、あいにくとシグナムは口達者ではない。だから、


「ティアナ、高町がティアナのことを知らなかったのは私のせいだ」


どうせ、難しく考えても仕方ない。

シグナムはそんなに器用な人間ではない。

だから、直球勝負。飾ることなく、ティアナの誤解を解くことを試みる。


「………………」


相変わらずティアナは無言だったが、俯いていた顔を少し上げた。

ティアナが話を聞く気があるのを確認すると、シグナムは続ける。

「高町は、あの夜に起きた連続殺人犯の対策部署にそのまま移動することになって機動六課に

戻る暇が無かった。
非常に重い任務で、精神的にも参っていた。だから、私達がこれ以上負担をかけない為に、高

町が六課に戻ってこないことをいいことにティアナのことを隠していたんだ。
 高町はティアナのことを気にかけていた。
話さなかったのは私達だ、だから」


「わかってますよ、そんなこと」


シグナムの言葉をティアナはバッサリと遮った。


「……………そんなこと、少し冷静になれば分かります。普通なら、高町なのはがそんな失態

をするはずありえませんよ。私なんかとは違うんですから」

誤解が解けているという事実に驚く反面、ティアナの口調は皮肉が混じっている。

「なら、なぜ戻ってこない?なぜお前はその殺人犯の仲間になっている?」

高町への反骨心からの行動でなければいったいなんだというのか。それとも、もう完全にあの

悪魔に心を奪われているのだろうか。


しかし、返ってきた言葉はさらにシグナムを困惑させるものだった。


「違います。彼は連続殺人犯ではありません」


「何?」

(何を言っているんだ。ティアナは?)

何を言うかと思えば、今更になって連続殺人犯ではないのだと?

「今更、違うだと?あの男も認めたというのに?」

「……………………それは彼の嘘ですよ」

「馬鹿な、そんな必要どこにある?」

「それは………………売り言葉に買い言葉って奴です」

はぁ、とシグナムは溜息をつく。

「あの猟奇事件の殺人犯扱いされる理由がそれだと?冷静になれ、ありえないだろう」

盲目的というのはこのことを言うのだろうか?

殺人犯扱いされるリスクを負ってまで、そんな挑発をする馬鹿がいるはずが無い。

「ティアナ、いい加減に眼を覚ませ。お前はあの男に騙されているんだ!」

「そんなことありません!」

あくまで姿勢を崩さないティアナに、再びシグナムは、はぁ、と溜息をついて、声を落ち着か

せながら提案する。

「……………………分かった。仮にあの男が冤罪だと、どうしても主張するなら管理局に2人

で来い。無実だというなら、支障は無いはずだろう?記憶を読むレアスキル持ちがいる。そい

つに見てもらえばすぐに真相がどうかわかる」

「それは………できません」

「何故?」

問い詰めるようにシグナムは言う。

「彼は殺人犯ではありませんけど、少しは法を犯すこともしているので管理局へはいけないと



「殺人犯と間違われて追われ続けるよりはましだと思うが?それとも、それと同等かそれ以上

の大罪を犯しているのか?そもそも、関係がないというのなら何故この場所にいる。ここは連

続殺人犯のアジトだぞ?」

「それは………………」

「ティアナ、お前は騙されている。人の弱みに付け込む外道に」

「………………」

断罪するシグナムの言葉にティアナは黙り込む。

そしてキレたかのように開き直った態度で答えた。


「だから、なんですか」


「何?」

「私は彼がそんな人間ではないってことを知っています。
それに……………もし彼が連続殺人犯であっても私には関係ありません」

「……………」

「いろいろなことがありました。兄が死んでから多くのことが。執務官になりたいのに自分の

才能が無いことに悩んだり、絶望したり、嫉妬したり。だから、六課を離れた。離れてからも

悩みました。
………………でも、もうそんなことはどうでもいいんです」


一度目を瞑ってから深呼吸する。腰に下げていた漆黒の剣を手に持ち、シグナムの方へと突き

指した。


「彼を愛してます。彼の隣に在りたい。今の私はこれだけです」


一遍の迷いすら感じられない、決意の言葉だった。


(何を言っても無駄か)


昔のシグナム達がそうだった。闇の書事件。主のためにと、余所からの声を全て聞かずに我が

道を突き進んでしまった。

あの時のシグナム達は他人を信じるということができなかった。

ティアナもきっと、嘗ての自分たちのように、何を言っても耳を傾けることはないのだろう。

「そうか…………………なら、首根っこを捕まえてでも管理局へ連れ戻す」

シグナムはレヴァンティンを構える。

「………できると思ってるんですか?飛べないあなたで」

シグナム相手に大口を叩くティアナ。

ピリピリと張り詰めた雰囲気が場を支配する。

シグナムはレヴァンティン。ティアナの方は質量兵器だと思われる漆黒の剣を握る。

(何を考えている?剣で勝負して勝ち目はあるまい)

持っている剣は何か独自の効果があるのだろうか。

シグナムが思考した瞬間だった。

集中しきっていないと見たのだろうか、ティアナが地面を蹴ってシグナムの方に駆け出した。

シグナムも呼応して向かい打つ。


キーン、という音と共に交錯する剣と剣。


「!?」


だが、シグナムの予想していた衝撃ではなかった。

重さが無い。いや、違う。横からの衝撃が剣に響く。

受けるのではなくシグナムの剣を流したのだ。


一合で終わらせようと大振りしたのが仇となった。

ティアナにそんな正確に剣をあわせる技術などないと完全に油断していた。

その衝撃で若干の重心のずれが生じたと思ったのも束の間。

そのほんの僅かな隙を狙い、ティアナの第二波の攻撃がシグナムの目前まで迫っていた。

かろうじて剣を上げてその攻撃を防ぐ。

「ちっ」

シグナムの体勢が崩れている機会を逃すまいと、続いて矢継ぎ早に繰り出される連撃。

キン、キン、キン、キンとなり響く交錯音。

重さ、速さではシグナムに遥かに及ばないが、一度劣勢になったシグナムの隙をうまく突き続

け、主導権を渡さない。シグナムは受けに廻ってその悉くを辛うじて受けきることしかできな

い。

「ちい」

完全に後手後手に回ってしまっている。

崩れた重心を戻す前に、次の攻撃が来る攻撃がシグナムに反撃を許さない。

その上

(動きが読み難い………!)

反撃できないのはティアナが主導権を握らせないからだけではない。

ティアナは体を僅かに上下に揺らすリズムをとりつつ、フェイクを織り交ぜ、その動きの中に

剣を振るう予備動作を隠している。

剣を振るう動作がどれなのか判別がつかず、本命の刃がやってきてようやくシグナムは反応で

きる。

対するシグナムの攻撃は恐らく相手に見切られていると考えていい。

技の速さとキレ、重さに特化したその攻撃は、その実モーションが大きくなり動きが見切られ

てしまう。空ならばそれでも問題ないだろうが、数メートル内で争う地上での戦いならば致命

的な隙となる。

ボクシングでの大振りのパンチが当たらないのと同様だ。

度重なる剣戟。気がつけばシグナムは後退を余儀なくされている。

「くっ」

裁ききれず、ついに完全にシグナムのバランスが崩された。

完全に無防備になってしまう胴。

剣は流れたまま追撃が間に合わない。

「はあああああああ」

ティアナはここぞとばかりに大きく振りかぶってその剣を胴に叩き込み、

「!」

ガッという音と共にティアナの剣が弾かれた。

剣と交錯するは、透明の壁。

シグナムの体を覆うフィールドバリア。

「はああああああああああ」

逆に好機と捉えたシグナムは思い切り横なぎに剣を振り払う。

「くっ」

トンッと、ティアナはバックステップでそれを避けた。

「……………………」

「……………………」


両者のファーストコンタクトはそれで終わった。


シグナムは驚愕していた。

ティアナの身体能力は以前より遥かに向上している。

先ほどの走りも間違えでは無かったのだ。

いったい何故こんなことが可能になったのだろうか。


だが、それだけではシグナムがこんなに押されはしない。

(この感じ…………あれに似ている)

高町の父親という高町士郎。彼と道場で剣道をした時に酷似している。

高町士郎は肩の動き、目線、足運び、相手の細かな動きからシグナムの攻撃を予測し、シグナ

ムの剣は悉く空を切った。

さらに士郎の攻撃は、剣を振るう肩や足捌きなどの動きを、体全体の流れの中に隠し相手の反

応を遅らせる。

シグナムの速さと重さを重視した剣術に対し、士郎の攻撃は一撃の威力などはさほど重視せず

、いかに相手に剣を当てるかに特化した剣道独自の戦い方。

シグナムの僅かな隙を見つけ、無ければ作り出しそこを付く。

魔導士、ベルカの騎士の剣とはまた別の動き。

高町士郎と剣道をした時は、剣のキレではシグナムが勝っているはずなのにもか関わらず、そ

れ以外の要素により、剣道においては全く相手にならなかったのは今でも覚えている。


今回のティアナはまさにそれ。

詰め将棋のような剣術でシグナムに主導権をつかませなかった。

(……………強くなったことは認めざるおえんな…………)

この1年弱の間にこれほどまでに成長したのかと舌をまく。


(だがな……………)


シグナムは、大きく剣を真横にどっしりと構えた。

抜刀術のような構え。

一撃必殺の代償に、素人目に見ても完全に隙ばかりだ。

「…………………」

にも関わらず、ティアナは打ち込んでこない。

「こないのか?」

シグナムはそうティアナに問いかける。

「……………」

ティアナに反応はない。

(だろうな)

先ほどの戦闘。傍から見れば、シグナムが劣勢だったかのように感じるかもしれない。

だが、事実は真逆。ティアナがどう足掻いてもシグナムに勝てないことが浮き彫りになっただ

けだった。


「ティアナ………お前は間違えた。見せ掛けだけの技にすがりつき、戦闘が何たるカを見失っ

ている…………愚かだな」


先ほど挙げた剣術。

魔導士ではなかなかその道のスペシャリストに出会うことは無い。


それは何故か?


答えは単純だ。

魔導士には効果が薄いのだ。

フィールドバリア、魔導士にはこれがある。


例えどんなに隙を作り出し、相手の剣の隙間を縫って相手を切りふせようとしても、目に見え

てさえいればフィールドバリアで防ぐことができる。

フィールドバリアは他のバリアに比べると硬度は弱いが、その実、接近戦のSランク同士の戦

闘でも、通常攻撃ではこれ突破することはなかなか簡単ではない。

ましてや、フェイクを入れたり、予備動作を隠しながら攻撃しては、十分な威力は確保できな

い。

それでも突破しうるとしたら例の漆黒の騎士ぐらいか。ティアナを誘惑している男も、もしか

したら突破してくるかもしれない。

故に、ティアナの当てることのみに特化した軽い攻撃では残念ながら全く通じない。

ティアナの動き、剣道に近い動きは、刃が相手に当たった時点で勝ちがほぼ確定するからこそ

のの戦いだ。

バリア技術の発達した今の魔導士の中では重要なスキルとは成り得ない。


フィールドバリアを突破する手段は2つ。

その強度を上回る攻撃を加えるか、

もしくは、視認すらできないスピードによる攻撃。


ティアナの攻撃は確かに巧くはあるが、残念ながらただそれだけ。

残念ながら、ティアナの剣での攻撃では思いっきり振りかぶってきった一撃でもAランクのフ

ィールドバリアを突破できるかどうかだろう。


腰を入れて、魔力を高め、全力で切り捨てる。

一撃のために全てを捧げる修練が必須だ。


そうでもしなければ、Sランク。それも魔導士や騎士の中では最高ランクの強度を誇るシグナ

ムに通用するはずが無い。

シグナムは剣道ができないのではない。必要ないから取り入れなかっただけだ。少なくとも、

その修練の時間に値するだけの効果は無いと判断した。


全く価値の無い技術とは言わない。

だが、ティアナはまだ15歳。まだまだ、基礎の地盤を固める時期だ。

こういった邪道な動きは基礎ができ、己の限界が見えた時に取り入れればいい。

野球で言えば、まだストレートが伸びる時期なのにも関わらず、変化球に力を入れてしまった

ようなものだった。

これで大成するはずが無い。

しかもティアナは中距離の銃使い。全く畑違いの分野に手を出してどうするのだ。

だが、


「それはどうでしょう……………?」


不適な笑みと同時に、再びティアナが飛び出した。

シグナムに向かって疾走する。

シグナムが刀を振る暇を与えるまいと、その剣をシグナムに向けた。


(馬鹿が)

ティアナの剣の軌跡。シグナムは確実にそれを捕らえてフィールドバリアを展開させた。

(攻撃を受止めた刹那、カウンターで終わらせる)


その、はずだった。


「ぐっ、はっ」

次の瞬間にはシグナムはくの字に折れ曲がっていた。

(なん…………だと!?)

確実にバリアで防いだはずだった。

その刃が何故かシグナムの横っ腹にのめり込んでいた。

(どういう……)

そう思うのも束の間、もはや今度こそ機を逃さぬと怒涛の勢いで剣を振るう。

「くっ」

再びその攻撃をバリアで受止めようとするが再びフィールドバリアを擦り抜け今度は逆の脇腹

に直撃する。

「ぐっ…」

矢継ぎ早に繰り返される攻撃の雨が続く。

バリアを展開させても何故かそれを突きけてくる。

軋む体。いくらシグナムと言えど、そう何度も食らうことなどできない。


「調子に」


シグナムは体の痛みを耐えて、


「のるなあああああああああああああああああああ」


形勢などお構いなし。体制など知ったことかと剣を振るった。

だが、それはあまりにバランスを崩した一撃。

威力などでようはずもない。

破壊力などでないと考え、余裕を持ってティアナは剣でその一撃を受止める。しかし

「なっ………………!」

驚愕の声と同時に、ティアナの体が浮き上がった。

「はああああああああああああああああああああああああ」

その手ごたえにシグナムは力の限り最後まで振り抜いた。


剛、とティアナは後方へ吹き飛んだ。

ダッ、ダッ、ダッ、と地面を転げ10メートルほど先でようやく体が止まる。

しかし、直ぐに起き上がり、シグナムに隙は見せまいと睨みつける。

だが、直ぐに動くことの出来る状況ではないようだ。

そして、それは連打を浴びたシグナムの同じ。


(何が…………起きた?)


頭の中をフル回転させ、現状把握に努める。

(確実に防いだはずだ)

フィールドバリアでティアナの攻撃は確実に防いだはず。

(バリアを突破した……………いや、そんな感じはなかった……)

そうでないとするならば。

ティアナ……射撃、………幻術………そうか。

「幻術か………いや、それだと何故すぐに気がつかなかった………」

恐らく、幻術を作りだし、それにシグナムを切らして、その幻術の背後から攻撃した………し

かし、それならばもっと早く気がついていいはず………

「…………そうか……腕と剣だけ幻術で作り出した。これならば辻褄があうか」

体全体ではなく、腕のみの虚像を作り架空の攻撃をする。実態の方は虚像を利用してシグナム

の目線から巧妙に隠れるように攻撃。

これでシグナムを誤魔化し、誤ったバリアを張らせ、その隙に別の箇所から攻撃したのだろう



一瞬、しかも腕だけの幻術なら魔力消費も激しくない。

(なるほど………そのための持参の剣か)

ティアナのデバイスはダガーモードも持っていた筈なのに、剣をわざわざ持ち歩いているのが

気になっていたが、そういうことだろう。

幻術以外にデバイスの演算を使わないための質量兵器だったのだ。

そして、剣術の一連の動きを鍛えたのも、この幻術による攻撃でフィールドバリアを突破でき

る目算があったから。

(………………)


ここにきてようやくシグナムは理解した。

あくまで飛べない空間という条件付だが、

目の前のティアナは対等な立場の敵なのだと。











“side ティアナ”


(冗談じゃない………なんて化物)

焦っていたのはティアナも同じだった。

バランスの崩していたはずだ。それなのになんて破壊力。

まともに剣をあわせることすら困難。

ティアナのバリアなど紙も同然だろう。

つまり、一撃でも貰えば即終了。


さらにあの耐久力。

正直、自分の振りかぶった一撃がフィールドバリアを突破できなかったこともショックだった

が、今はその比ではない。

バリアジャケットのみの防御だったのにも関わらず、なんて手ごたえ。

素手でタイヤを殴っているかのような感触だった。

完全に不意を付いて完璧に入ったはずなのにも関わらず、ボクサーが軽いジャブをボディに入

れられた程度の効果しかなかった。

(こっちは一発まともに入れられたら、それで終わりだって言うのに………………)

その間にこちらは何十回攻撃を入れればいいのか。下手したら三桁に上るかもしれない。

それまで全ての攻撃をかわし続けるなど、冗談も大概にして欲しい。


さらに、ティアナの攻撃にも慣れてくるころだろう。初見だからこそ翻弄することが出来たが

、今からはそうはいかない。

相手を侮ってはいけない。向こうだって歴戦の将だ。対策の1つや2つはしてくるだろう。


(…………動き自体は見切りやすいけど…………何十発も避けるのは無理ね…………)


そこでティアナはふぅ………と息をする。


(予定変更………本当は勝って思いっきり殴って、あの時のお返しをしてやろうと思ってたけ

ど………勝てる確率が低い。
今回の目的はあくまで殺人犯を捕まえること。幻術を使って逃げるべきね………)


そこでようやくだがティアナは気がついた。


(馬鹿………なに熱くなってたのよ。
そもそも殺人犯を倒すんだったらシグナム副隊長も目的は同じ………それが潰しあってるなん

て………初めから逃げることだけ考えとくべきじゃないのよ……そしたら誤解もとけるはずな

のに)


本当にどうかしていた。

あの時、一方的にシグナムに殴られたこと、そして先ほど士郎を悪く言われたことに想像以上

に腹を立ててしまっていたらしい。

そして、気持ちを切り替えて逃げる算段を立てようと考えた時だった。


突然、ソレは起こった。


「嘘だ……………」


シグナムが突然呟いたかと思うと、ガクッと膝を突いた。

(………意外と効いてたの………?いや、違う。そんな感じじゃない)

「まさか…………ありえない……………」

あのシグナムが青ざめた表情で、手足をがくがくと震わせている。

(えっ………なんなの?)

あまりに蒼白なシグナムにティアナはただ驚くが、反面これはチャンスだとばかりに駆け出し

た。

「………………………」


あまりに隙がありすぎて攻撃していいか分からない。

シグナムの性格を鑑みれば罠ではないだろう。あまりに隙だらけなその姿だったが、念のため

だ。ティアナは逃げることに専念することにした。


「………………………」


まるで電池が消えたおもちゃのようにフリーズするシグナム。

(機動六課の他のメンバーに何かあった?)

ティアナはそう思いつつもシグナムを置いてタッ、タッ、タッと出口の方へと駆け出した。


優先順位はもう間違えない。

今度の目的は連続殺人犯。

ソレを倒すためにティアナ達はこの地へと訪れた。

もし、管理局がいるというならば、むしろ利用するべきだ。

私怨は挟むべきではない。


ティアナの想いは、彼と共に生きることなのだから。



































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今回のテーマはティアナの成長でした。



イメージしたのは

H×HのヒソカVSカストロ
ホーリーランドの神代VS山崎です。

前者はティアナをカストロに似せました。

彼の幻影は本体ごとある上に、物体に触れますが、感覚的には似たような感じです。

また、身体能力の向上(キャスターによる)

あと、士郎を模した接近戦での戦闘技術。

これらを組み合わせて、羽を持たないシグナムと渡り合いました。


後者のホーリーランドの神代vs山崎。

強力な大砲を持つ神代ですが、ボクシングだと山崎に手も足も出ない。その技術の差が今回の

ティアナとシグナムの差というイメージです。

ただ、その技術と言うのが、今の魔導士の中ではあまり意味を持たないために、異質であると

考えました。

所謂、武士が刀で戦う時代から鉄砲の時代に移ったようなイメージで、技術はすごいけど、鉄

砲の前にはあまり意味が無いので、技術の価値が廃れていったという感じです。





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