EpisodeB『脱落者達の出発点』
「なら………責任を取ってください」
「・・・」
衛宮さんは声を詰まらせる。
こんなことを言うのは、卑怯……なのかもしれない。
けど、それでも私には必要だった。
いや、違うか。欲しかったんだ。彼が。
だから、彼が離れていかないように言葉で縛る。
「じゃないと、私、グレちゃいますよ?」
そんな冗談めかせた軽口で、ちゃんと笑えてはないんだろうけど、でも心を込めて彼に伝える。私には彼が必要なんだってことを。
「…………………………………………ああ」
ようやく、ようやく、泣きそうな、苦渋に満ちた顔で、やっとそれだけを士郎さんは声に出した。
これは、私の、私たちの新しいスタートライン。夢潰えた者達の出発点。
【番外編その3 迷走 】
“聖王教会”
「以上が私からの報告だ」
シグナムが面々の中で報告を終えたところだった。
この場に集ったメンバーはクロノ、カリム、はやて、フェイト、シグナム、ヴィータの6人。
聖王教会。以前、フェイト達が予言について聞かされた部屋に再び集まっていた。
当然、議論の焦点は先日の3つの事件。
戦闘機人、黒い騎士、そして件の殺人犯。
一つでも頭が痛い大事件であることは間違いない。
そんな事件の情報交換及び対策に、一週間経ってようやく漕ぎ着けることが出来たのであった。
「高町三佐はどうだった?」
クロノは今もまだ入院しているなのはのことを尋ねる。怪我のことはある程度把握しているが、精神的な面では近しい人間しか分からない。
「………怪我は全治一ヶ月ぐらいって。後遺症は残らないだろうって担当医の人は言ってたよ。」
そうフェイトは応えて、一端視線を下に落とした。
全治一ヶ月。確かに大怪我ではあるが、あの状況で、それで済んだのは奇跡とも言えるだろう。
そして、それは皮肉にもあの紅い男が応急処置をしたということが大きいと言えたのだった。
何故殺人鬼であるはずの男がなのはを殺さなかったかは不可解といえば不可解であるが、“生きていたほうが高町なのはは苦しむだろう”という余興の一種だと考えれば理解できなくも無い。その証拠に、
「でも………精神的に相当まいってる。今までどんな辛いことがあっても無理矢理でも笑ってたのに、今はできてない。なのはは笑ってるつもりかもしれないけど、それはぎこちなくて………」
フェイトも自分のことのように辛そうな声で言う。
「そう………か。無理もないな」
ただでさえ、過酷な労働状況が続いて身体共に精神もやつれていたところに、圧倒的戦闘力を持つ騎士との遭遇、殺人犯の逃走を許してしまったことに加え、ティアナのことまで起きてしまったのだ。
取り繕おうとする意思があるだけでも驚きである。
『ギリッ』
全員が暗い表情をする中、微かにはやての方から歯を噛みしめる音がする。
恐らく彼女は“自分が嘘をついていたせいで”と自身に怒りを感じているのだろう。
この四ヶ月、最もなのはに会っていたのははやてであったし、加えて、なのはにティアナのことを伝えないよう最終的な判断をしたのも彼女だ。
『自分のせいで』という贖罪の念が重くのしかかる。
だが、はやてはこの場で『自分のせいだ』などと言葉に出すことは、ただの自己満足に過ぎないこと、
『はやての責任ではないよ』と皆に言わせて自分を慰めてもらう行為でしかないことも分かっており、だからこそその感情を言葉にだせず、ただ、ただギュッと唇を噛みしめているのだった。
淀んだ空気の中、フェイトはその重たい雰囲気を解消しようと言葉を続けた。
「でもね………あの時のレリックを持っていた子供、覚えてるかな。その子が同じ病院で治療してるんだけど、いろいろあってその子がなのはにすごく懐いてね。なのはもその子といる時は少し落ち着けてるみたい。だから、最初の数日の頃よりは良くなってるよ」
「そうか、あの時の子供か」
ホッと、少しだけ安堵を漏らす面々。
にもかかわらずフェイトは内心では不安も抱えていた。それは、なのはがその子どもに依存してしまわないかという懸念があるからだ。
もしかしたら、両親や引き取る人が突然現れるかもしれないという未来があるかもしれない。もともと正体不明の少女だ。もっと悪い事が起こるかもしれない。
そして、その時なのははどうなるか。
(でも、そうやって悪い未来を想像しても意味は無いか……)
そうやって、今のなのははそれを心配できるほど良い状況ではないのだと結論を付けた。とにかく今、なのはが元気になってくれるだけで十分だと。
「それでは……話を戻そうか。まず、例の黒い騎士についてだが、この男はレリックが目的で間違いはないんだな?」
その問いに、フェイトが答える。
「うん、それは間違いないと思う。真っ先にレリックを狙ってきてたし、本人も要求してきてたし」
「そうか………で、高町三佐の話では、その男はどういった理屈かわからないが、殺人犯が止めを刺そうとした時に突然消えたしまった。
黒い騎士かその仲間かは分からないが、そちらの方で逃げた、もしくは逃がしたと言うことか。魔法陣なしでの空間転移か、それに類似するものだろう………少なくともまだ死んでないと考えなくてはな。
最悪、あの時の状況まで回復した黒い騎士と再び戦うことも視野に入れる必要がある………か。
はやて、フェイト、僕は見ていないからおまえ達の感想を聞かせて欲しい。後、能力も確認しておきたいから、そちらの方の確認もよろしく頼む。」
そして、まずはやてが頷いてから応え出す。
「うん、わかった。まず、わたしが説明するな。フェイトちゃんは足りなかった所の補足をたのむ。」
「うんわかった。」
はやての言葉にフェイトは頷いた。
「なのはちゃんの話をベースに話をするけど、正直、実力は未知数や。私たち全員気絶しながらも軽傷ですんだって事は、相手にそれだけ余裕があったってこと。つまりそのぐらいの実力差があった。
相性のことを除いても、今の状況では一対一だと正直勝てる魔導師がいるとは思えへんほどや。超接近戦、特に陸戦ならSSSをつけるに値するかもしれない。」
「SSS………信じがたいな」
SSSの称号。それは、もはや人の領域を完全に逸脱した人外の領域。人間にその称号をつけるということはこの広い世界でもまず例を見ないことである。
「ただ反面、圧倒的な攻撃力、例えばなのはちゃんのSLBとかそういった類の一撃必殺のものはなかった。強さ自体は驚異やけど、面制圧などの広範囲魔法が無い以上、総被害は限定されると思うのが救いと言えるかもな。
まあ、うちらに使うまでも無いと考えたのかもしれへんし、もしくは大技を持ってるけど接近戦を好むタイプだったとかっていうのもありそうやから一概には言えんけど」
「………そうだな。遠距離タイプだと思っていたのが、接近戦もできたという例もすぐそばにあるしな。できればそうあって欲しくないものだが。考えた所で分かるわけはないか。では、続けてくれるか」
「わかった。まず要点を整理しようか。優れている特徴は
1.魔法無効化
2.超接近戦、剣の手数の大きさ、剣の重さ、技術、戦術を総合してSSS級クラス
3.武器の強化?鉄パイプ、コンクリートなど
反面、付け入る隙がありそうな所は
1.陸での移動速度はやや早い程度(空戦魔導師と比べたら)
2.魔法は超一流という程ではない
3.固形化された魔法や物質、ヴィータのハンマーや周辺のコンクリートによる攻撃は無効化されない
こんなものかな。フェイトちゃん、他にある?」
「ううん、これでいいと思う。」
「そっか、じゃあ、次に進めるな。とにかく問題なのは魔法の無効化。正直、私やなのはちゃん、フェイトちゃんはほとんどの攻撃が通じなくて話にならへん。Sクラスの魔法を直撃させたのに無傷やったし正直うちらじゃ対策を練っても勝つことは不可能やと思う」
クロノは眉間に一層皺を寄せる。
「完全な魔法無効化能力。まさか、そんなものが実在するとはな。
対策としては………現状では古代ベルカ式か。
現状あいつが出てきたらシグナムやヴィータを中心に対策をするしかないということか……………2人ともいいか?」
その問いに、間髪入れず二人は肯定の返事をした。
「「ああ」、問題ねー」
2人とも今までの話を聞いても全く気負いをせずにハッキリと応える。
それをフェイトは不安げに見つめる。
心の中で思ってしまっているからだ。“勝てない”、と。
確かに魔法無効化は最悪の能力であり、あの男の中でも特筆するべき能力であることなのは間違いはない。
だが、違うのだ。それだけではない。
実際、目の前で対面したからこそ分かる直感。
対峙していた際に感じた違和感が今なら理解かる。
フェイトは対峙しながらも、目の前の男は、超一流の魔導師や騎士といった、その延長線上の者と考え戦っていた。
しかし、そうではなく、例えるならば、『闇の書』のあの化け物と同位に考えたらどうだろう?
すると、しっくり来てしまう。そう、あれはこの世に存在しては成らない類のあってはならないものなのではないか。
対峙した相手が人間ではなく、怪異とも呼べる化け物。そう考えると、あのときの違和感の正体が解決されてしまう。
闇の書の時は、アルカンシェルという規格外の手段を使った。では今回はどうするか………
フェイトの杞憂の可能性もある。魔法無効化といった予想外の事態で、混乱しているだけかもしれない。
現状では、シグナム、ヴィータ2人しか相手をすることも出来ないのも事実であり、何もせずに放っておくというということもできない以上、フェイトはこの感情をどうすることもできない。
せめて思い違いであって欲しい、そう願う仕方なかった。
そして、はやてが話を続ける。
「後は……たぶん肉体自身を中身から強化できる魔法を使っていると思う。それもデタラメなやつを。
うちらが魔法でいくら防御を固めても1秒間に数十回も剣を振るうなんてことはまず不可能や。そんなコトしたら、中身の筋肉や骨が一瞬でいかれてしまうからな。
それを考えたら、体の中身自体を強化する魔法か、人体改造かなんかでうちらと違った体内の構造を持ってるか、そうとしか考えられへん」
バリアジャケットでは外面からの攻撃を防げても、関節技などの中身に対する攻撃が有効であるのと同様に、極度に肉体自体を動かすといった攻撃は肉体の強度が持てず現状は不可能だ。あの様な、剣道をそのまま早送りしたような攻撃を成すには、特別な魔法か何かが必要になってくる。
「あと、これはレベルこそは劣るけど、あの殺人犯の方も同様のことができるってなのはちゃんの話でもあった
あの二人は、二メートルも離れていない位置から、音速を超える速さの攻撃、しかも一秒間に何十って攻撃の剣の応酬をしてたそうや。そういった、動体視力、反射神経も異常極まりない。」
「そんなにすごいのか………」
「私も信じがたいけど、なのはちゃんは間違いないって。だからやけど、もし戦うことになったら、ヴィータやシグナムは遠距離からの攻撃や、空戦のヒットアンドアウェイを中心として攻撃を組み立てて欲しい。いつもの二人のスタイルやから問題はないな。
一撃の重さ自体は2人も負けていない、むしろ勝ってると思う。だから、それを生かす形で戦って、間違えても室内とかの飛行能力が生かせない限定された空間では戦ったらダメや。………2人には不本意かも試練けど、それは絶対守って欲しい」
「了解した」
「わかったよ」
二人こそ態度には出さない物の、やや不服といった所だろうか。強い敵相手に、真正面からやり合いたいというのがベルカの騎士だろうから。
然れども、百戦錬磨であるが故に相手の土俵で戦うべきでないことは十分承知しているし、普段から常にそれは念頭に置いて戦っている。
「他の対策は今のところないか………皆は何かあるか?」
クロノは他の面々に尋ねるが、特に意見のある者はいなく、首を横に振る。
そこで突然、カリムがずっと疑問に思っていたことを口にした。
「あの……対策ということではないのですが」
少し言い辛そうな様子で話す。
「今までの話………正直、信じ難い話です。………非常に言いにくいですが、全て幻術などの精神攻撃だったという可能性は無いのでしょうか?」
「「「…………」」」
それは、至極もっともな話だった。
魔法無効化を始めとする、奇跡のような魔法の数々よりも、広範囲の幻術といったほうがまだありえそうな話だ。
現に、闇の書の時にも、フェイト達は精神攻撃にさらされたこともある。
「私達は見たこと無い種類の結界系の魔法で通信手段で遮られ、中の様子が確認できていません。ありえない話ではないと思うのですが。」
「そうだな……」
クロノもそれに続ける。
「実は、管理局の上層部でもその意見は出ている。もっといえば今はそれが多数派だ」
「………」
はやて、フェイトは黙り込む。
彼女たちとてそれを全く考えなかったわけではない。だが、理性はともかく、感情が言っている。あれは“現実”そのものだと。
「ティアナのこともある。正直あれは、出来すぎな気がする。悪夢を見せられた。そう考えたほうが納得がいくんだ」
「それは………確かに」
そこだけははやて、フェイトも同意する。いや、そうあって欲しいとすら思う。
しかし、
「お前たちは、現実だと思うんだな」
恐らく、はやてやフェイトの表情を読んだのだろう。彼女たちが言葉を出す前に答えを言う。
「そうですね………それに、これほどの幻術があると考えるのもそれはそれで脅威以外の何者でもありませんし」
カリムもそう続ける。
「結局、どちらに転んでも対応できるようにしなければ成らないが………現状、これが幻術でもなんでも無かったときの対策を実際するだろうのは俺たちぐらいしかいないだろう。だから、出来る限りの対策を考えておく必要があるか」
「そやな。正直あれはほんもんだったってうちは思うとる。でも、その感覚も植え付けられた者かもしれへんし、断定するのは危険だとも思う。手間はかかるけど、両方の場合に備えた方がいいと私も思う」
はやてに続いてフェイトも賛同する。
「うん、私も同じ意見」
「よし。では、対策を考えるのは後々じっくり考えるとして、次に例の殺人犯についてだが………」
そうして話は移りゆく。
殺人犯の方で話題に上ったのは、近接戦闘も出来ることや、剣の爆破。
そして、ティアナのことだった。そのことは、揉める形にはなったが、最終的にはやてに一任するという形で話が付いた。
他にも当然、戦闘機人についてや、レリックを持った女の子のこと、さらにはニブルヘルムの死神、アイギスの組織図の大幅変更などへ話が派生していき話が終わりカーテンをあけたころには、明るかったはずの外がすっかりと日が沈んでおり、それぞれが急いで元の任務に戻っていったのであった。
“機動六課、休憩室”
「ふう、問題が山積みだな」
聖王教会から6課に戻り、新人達の指導にいったヴィータと別れた後のことだった。
シグナムとフェイトは椅子に腰掛け束の間の休息をとっていた。
「そうだね。事件がありすぎて何から手を付ければいいのか………
連続殺人事件、レリック問題、謎の黒い騎士に、アイギスの組織図の大幅変更に、それに加えてニブルヘルムの死神か。一つだけでも大事件なのに、これだけ重なるなんてね。」
ニブルヘルムの死神。
主にニブルヘルムに現れて、人身売買、麻薬密造、管理局員が関わる収賄、そういった問題が何者かによって壊されているという事件がここ数ヶ月多発しており、その犯人を死に神と称している。
1人とも2人組とも言われており、方法は殺害という手段も厭わない。
そして、管理局内の不祥事も暴き出しているため、海と陸の新たな火種となっている。
「ニブルヘルムの死神か………復讐か何か目的は曖昧だが、管理局の膿を出しているともいえるんだが、今は時期が時期だしな。現状では混乱が肥大して組織の機能が大幅に低下してしまっている」
「うん。不祥事の連発で海と陸の雰囲気が最悪になってるよね………どんな形であれ管理局内の犯罪者は放置しちゃいけないっていうことは思うけど、正直、今の時期には重なって欲しくなかったって思うかな」
不謹慎と思いつつも、現状の混乱を鑑みるとそう思わざる得ない。
「そうだな。だが、言ってもきりがない。とりあえずは、目の前の問題に立ち向かわなくては………」
そういって、いったん話を区切るとシグナムは少し険しい顔をして
「テスタロッサ、正直に言って欲しい」
「ん?………なに?」
「漆黒の鎧を纏った男。私とヴィータで勝てると思うか?」
「それは………」
つい、言葉をつまらせてから、しまったと思う。先ほどの会議中、どうやら顔に出てしまっていたらしい。
「いや、その返答で十分だ」
シグナムは端的にそう帰す。
だが、その顔はよりいっそうの険しい表情の中、隠しきれない高揚感が浮き出ていた。
まだ見ぬ強敵の遭遇の前に、不謹慎ながらも騎士としての高揚感を押さえきれないのだろう。
「無理しないでね。本当にアレは、今までの相手とは何もかもが違うから」
「ああ。だが、おまえこそ無理をするなよ。今までも激務だったのに、なのはの分のカバーまでして、ほとんど寝てないんじゃないか?ただでさえ、怪我から復帰したばかりだろう」
「うん、大丈夫だよ」
少なくともなのはやはやてに比べれば、まだ自分は大丈夫だ。
シグナムはそういった返事を受けて、やれやれといった感じで
「まあ、お前に言っても無駄か。だが、少しは気分転換でもしろよ。私でよければ愚痴なりなんなりつきあうしな」
あはは、見透かされてるなといった感じで感謝の念を
「うん、ありがとう」
そこで急にシグナムがにやりとしたかと思うと、
「ああ、もっといい相手がいたな。確か衛宮士郎、だったか?」
もう何度目か分からないシグナムの無茶振りに、ガクッとフェイトは頭を落とした。
「いや、だから彼とはそんな関係じゃないって。あれから、一度も会ってもないし、電話もしてないし」
これは本当だ。衛宮士郎は、本来ならただ一緒に食事をして楽しかったな、という単なる一つの思い出のはずだった。フェイトの中でもその程度の感情しかない。
ただ、男っ気の無かったフェイトが仕事をさぼってデートをしたということで、シグナム達が事あるごとにからかいのネタにしているのだった。
「そうか?なら、これをきっかけに逢いに行ったらいいじゃないか」
「逢いにいったらって、なんか字が違う気がする………」
微妙な顔をして答えるフェイト。それをにやにやしながらシグナムは続ける。
「いいじゃないか、嫌という訳では無いんだろう?なんだかんだ言ってこの前のお前は随分楽しんでたみたいだったが?」
「それは………まあ」
「まあ、なにもこの忙しい時期に積極的に会いに行けというわけじゃない。
ただ、これから捜査でニブルヘルムに行く機会もあるんだろう?そういった時に、少しでも会いに行ってみればいい」
少しフェイトは考えて
(あ、そういうことか)
と思い直す。
「……そっか、そうだね」
フェイトはシグナムが本当は何が言いたいのか少し納得した。シグナムは別に恋人を作れと言うことを言っているわけではなくて、そういった余分な時間を作れと言いたいのだ。
つまり、そういったことを考えられるだけの余裕を持てってこと。
この何ヶ月か、特にこの一週間はフェイトは確かに余裕が全くなかった。
数々の事件の対応もだが、それ以上に、自身がこれ以上ないと言うほど完敗をきっしてしまった初めての経験。そして親友の状況。
黒い騎士のことといい、考え疲れて、悪い方へ悪い方へと思考が移ってしまっていたかもしれない。
それを間接的にも心配してくれているのだ。………半分はからかっているだけかもしれないけれど。
衛宮さんのことを考える。
今度店に来てくれという言葉。ただの社交辞令なんだろうけれど、1人の客として会いに行ってみるのも悪くないかもしれない。彼がどんな料理をするのかは知らないけれど、食べてみたいとは思う。
(ああ、でも行ったらまたシグナム達にからかわれるかもしれないな)
そう思いつつ、フェイトはそれも悪くはないかなと感じたのだった。
Episode A 『想い』
私が完全に六課と決別してしまったこと。
そして、私に怪我を負わしてしまったこと。
暴走による限界を超えた魔法行使で、リンカーコアを含んだ体内の器官が修復不可能の寸前まで壊れてしまったこと。
その全てに士郎さんは責任を感じてしまっている。
もうこれ以上悪くならないように、私から離れるべきではないかと士郎さんは考えた。でも、それが無責任な行動であり逃げであるかもしれないとも思っていた。
だから、私は言葉で縛った。
あなたが私のことを考えてくれるのなら、責任を取ってくださいと。ずっと守ってくださいって。
…………もし、あなたが正義を飾る殺戮者であるというのなら、私を利用して使い捨てにすればいいと。
卑怯………だったのは十分すぎるほど分かっている。
士郎さんは自分のせいだと言うけれど、本当は全部私が招いたこと。
私があんな逆上しなければ、あの時欲を出さないで逃げに徹していれば、士郎さんの仕事に無理矢理ついて行かなければ、…………そもそも六課から逃げなければ、こんなことにはならなかった。
士郎さんにとって私は厄介者でしかなく、本当はおとなしく士郎さんの所を離れるか、……自首するかした方がずっと彼のためであり、負担をかけなくてすんだはず。
それをせずに、こともあろうに士郎さんの痛いところをついてまでそばにいると言った。
全部、士郎さんと共に在りたいから。それだけのために。