<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.4217の一覧
[0] 勇者育成計画(SWトリップ)[Z](2010/06/19 22:14)
[1] 勇者育成計画2[Z](2010/06/20 00:24)
[2] 勇者育成計画3[Z](2010/06/20 01:48)
[3] 勇者育成計画4[Z](2008/09/27 03:06)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[4217] 勇者育成計画3
Name: Z◆fb9d4b16 ID:49cdf12a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/20 01:48
 瓦礫が取り除かれた跡をミレルが丹念に調べていく。
 水を流しては、その様子を調べて隠し扉の存在を暴いていく。やがて、地面に短剣で四角の線を刻んでここに隠し扉があると誰にでもわかるように示す。
 地面に刻まれた巨大な正方形を背に、自慢げに笑みを浮かべるミレルをご苦労様というようにジーニが頭を撫で、不機嫌そうにその手をミレルが払いのける。
「子ども扱いしないでってば!」
「それで、開け方はわかるの?」
 手を払われたジーニは苦笑し、メリッサが入れ替わりのように訊ねる。
「時間をかけて調べれば、わかると思うけど……」
 ちらりと床に刻んだ正方形へと目を落としてから、ミレルはリウイへと視線を向ける。
「魔術師がいるから、開錠の呪文を唱えてもらった方が早いというわけですね」
 ミレルの視線に嫌な予感を覚えた直後に、セレンが納得したように頷き言葉を続ける。
 瓦礫をどけさせたうえに、扉も開けさせるのか。どこまでこき使うつもりなのか、とリウイは溜息をついた。瓦礫をどけるときに軽量化の呪文を使っていたために、魔力にはもうほとんど余裕がない。
「かまわないが、魔法はそれで品切れだぞ?」
「かまいません。あなたには、魔術師としてよりも戦士として期待していますから」
 人使いが荒いとは思ったが、魔法で閉じられてでもいない限りは開錠の呪文ならいかなる扉でも開く事ができる。お願いします、と頭を下げるセレンの丁寧な対応に少しだけ機嫌を直し、理屈そのものはもっともだと認めて杖を手に取り呪文を唱える。
「こんな小さな遺跡だもの、たいした障害はないはずよ。魔法生物が護ってるくらいじゃない?」
 魔法ならセレンもいるし、あんたは魔力をケチらなくてもいいのとミレルが気楽に告げる。
 それは面白くない。
 俺が求めているのはもっと危険な場所と相手なんだと、そんな内心の呟きをよそに口は呪文を紡ぎ終える。
 呪文の完成とともに、巨大な石が擦れあうような重々しい音があたりに響く。隠し扉が、複雑な動きを見せながら隠していた地下への階段を露にしていく。
 階段の先にある地下の暗がりには、まだ誰の手も触れない古代王国の遺跡が眠っているはずだ。
 その闇を眺めて、恋に恋する乙女のように冒険を夢見てリウイは口元に笑みを刻んだ。
「さ、降りるぞ」
 そんなふうに、リウイが思考をあさっての方角へと飛ばしてる間に松明に火をつけたジーニを先頭にミレル、メリッサ、セレンの順で一行が階段を降りはじめる。
 慌ててその後を追いながら、同じ魔術師仲間のアイラが持たせてくれたマジックアイテムを取り出し装備する。
 "四つの眼"と名づけられたこのマジックアイテムは、視力拡大に暗視に透視。とどめに危険な邪眼の四つの魔力を有する。そのうちの、暗視の効果を発動させるキーワードを唱えながら先を行く四人の後に続く。
 赤っぽく染まった視界は、薄暗がりもはっきりと見通せて効果のありがたみを実感する。
「何か臭うな……」
「埃の臭いじゃないのか? 古い書物はよくそういう臭いがするぞ」
 先頭を行くジーニが、辺りの匂いをかぐ仕草をし。それに、気楽に言葉をかける。
「この臭いは違いますね。動物の体臭と……腐敗臭?」
「ゾンビがいるとか。アンデッドを操るのが得意な魔術師が古代王国にはいたとか言うし」
 リウイの台詞を、小さく首を振りセレンが否定し。ミレルが意見を述べる。
「死霊魔術師の館ってか? だったら、色々と覚悟しないとな」
 死霊魔術の系統は、ミレルの言うとおりにゾンビやスケルトンなどを創造したり使役する魔法の系統だ。その奥義には、自らを不死化させる術すらあったという。
 そうでなくても、アンデッドにはヴァンパイアやデュラハンなど強力な魔物が少なくない。
 冒険の予感にリウイは全身の血を騒がせ、無意識に口元に笑みを刻む。
「となると、メリッサはミレルと交代してくれ。ミレルはそのまま背後を警戒して、いざとなったら新入りを護ってやれ」
「はいはい」
 ジーニの出した指示に、軽い調子で返事を返して一行の後ろに回り、笑顔でリウイに声をかけてくる。
「アンデッドが相手なら、メリッサの魔法が何よりの援護になるわ。あいつらには、毒も効かないし急所もないからあたしじゃあまり役に立たないし」
「そう言えば、神聖魔法にはアンデッドを退散させる呪文があったな」
「そういうこと。ところで、どうしてそんな変なモノをつけてるのよ。ずいぶんと間抜けな顔になってるわよ?」
 笑顔で話しかけてきたと思ったらそういう事かよ、と憮然とした表情になる。
 持ち主も製作者も女性で、女性向けのデザインで男の俺には似合わないかもしれないが実用的なんだぞ、と口には出さずに心の中で反論し。
「おそらく、視覚補助のマジックアイテムでしょう。効果は、たぶん暗視ですね」
 こちらへと視線を向けたセレンが、的確に効果を見抜いてくる。
 思わず、その通りだと頷き。やっぱり、見る人が見ればわかるんじゃないかと口元をにやつかせてミレルへと目を向けると、彼女はどうでもいいとばかりに肩をすくめてみせた。
 その仕草に、俺のこの扱いの軽さは何だと不満が溜まり、それを冒険の期待へと変えて気を紛らせながら息をついた。


 階段の降りた先には、ホールのようなちょっとした空間が広がっており正面には大きな両開きの扉が松明の明かりに照らし出されていた。
 揺らめく松明の光にあわせて、その陰影を動かす巨大な扉という光景は冒険譚の一節の光景にはふさわしい。
「いるとしたら、この奥だろうな」
「ひょっとしたら、鍵が掛かってるのかも」
 言葉とともに、ジーニがそっと扉を押すが開く気配は見えず。ミレルが飛び跳ねるようにして駆け寄っていく。
「念の為に、後ろには気をつけて。階段から何か降りてきたりしたら、大声を上げるのよ」
 リウイの傍らを抜ける際に、そう声をかけていくのを眺めながらセレンは表情には出さずに悩んでいた。
 この先に起こるであろうトラブルを止めるのは簡単だが、その場合はどう考えてもリウイは何も学習しない。
「わかった、後ろに気をつければいいんだな」
 頼もしく頷く姿は自信に溢れているが、将来はともかく現在は体格がよいだけの素人。なぜに、そうも自信たっぷりなのかと内心で溜息をつく。
 きっと、何が来ても自分が打ち倒せると思ってるに違いない。
 この手のタイプは、よほど痛い目にあわない限りは学習しない。あるいは、自分が痛い目にあうだけでは、次は大丈夫と学習はしても反省はしない。
 やはり、ここでは失敗してもらうかと結論を出してミレルが扉を調べてるのを見つめながら、背後のリウイに意識を向ける。
 幸いにもエルフの長い耳は、人間のときよりも音に敏感でこういう時は助かる。背後で、小さな足音が遠ざかっていくのを聞き取って別の扉を原作どおり見つけたのかと、背後を振り返る。
 背後には、地上から続く階段がありその両脇にある空間の右側にリウイの背中が見えた。
 何の警戒もためらいも見せずに、その背中が扉を開き。
「ギャィィイ?」
 どこか戸惑っているようにも思える奇声が同時に響いた。
 いきなり扉が開いて、人間が姿を現せばゴブリンだってびっくりするよなと思いながら、迎え撃つべく身構え。
「ゴブリンだ!」
「馬鹿野郎! 勝手な事を!」
 リウイの叫びとジーニの怒声が交錯し、事態を把握したゴブリンたちが悪臭とともに扉から次々と飛び出してくる。
「下がってください!」
「なんでこいつらが……ぁ……」
 メリッサの悲鳴のような声に従ったわけでもないだろうが、リウイがゴブリンたちから逃れこちらに合流しようとしながら剣を構えようとして酷く間の抜けた声を出す。
 抜き放った剣の切っ先が、壁へと引っかかり姿勢が乱れゴブリンたちの前に無防備な姿を晒す。
 リウイが姿勢を立て直すよりも先に、ゴブリンの一匹がダガーを構えて突撃し刃を突き立てる。
「この……馬鹿……」
 突き飛ばすようにして、庇いに入ったセレンの体に。


 自分の目の前で、月光を紡いだような銀の髪が乱れて踊り、呆然と見つめる前で華奢な体がゆっくりと倒れていく。
 倒れた体から溢れ出す血が見る間に衣服を赤く染め上げ、血に塗れたダガーを手にしたゴブリンが嬉しげに奇声を上げて跳ねまわり、次はお前だとリウイに飛び掛ってくる。
 庇われた事実と仲間を傷つけられたと現実が、痺れたように現実感をなくしたリウイの頭に染み渡る。その次の瞬間、リウイの中で、何かがぷつりと切れた。それは理性とか知性とかそんな名前で呼ばれるものだったのかもしれない。
 自分の喉が獣の雄叫びのような咆哮を放つのを他人事のように、意識の片隅で感じながら剣を振りかざしゴブリンの群れの中へと飛び込んでいく。
 意外にも動きが敏捷なものの、ゴブリンたちの武器の扱いは素人同然であり。リウイの攻撃も、剣で斬るというよりはただ振り回しているだけの稚拙なもの。途中ですっぽ抜けたか、取り落としたか気がつけば剣は手になく拳でゴブリンたちを殴り飛ばしていた。
 結局、リウイが理性を取り戻したのは、最後の一匹を殴り倒してからであった。
「まったく、お前には呆れるよ」
 ジーニが不機嫌そうに言葉を口にする。
「負けなかったんだから、いいじゃねえか」
「セレンにそれを言えるか?」
「う……」
 戦いが終わって、ゴブリンの死体が散乱する中で戦いの余韻に囚われたままに、かけられた言葉に反発して言い返し。すかさず返ってきた言葉に、気まずげに沈黙する。
 向けた視線の先には、刺されたことが嘘のように平然とした様子を見せるセレンと彼女の刺された箇所を心配そうに確かめるメリッサの姿があった。
 血に汚れた服が刺された事が現実であると強く告げ。庇われた事も含めて、リウイの心をちくりと責め苛む。
 ゴブリンと乱闘をしてのけたリウイは浅く斬られた程度の軽傷で、ジーニは無傷。腹部を刺されたセレンが一番の重傷というのが、先の結果。
 もっとも、リウイが暴れだしてすぐに自分の魔法で傷を癒したらしくて今は平気な様子を見せている。
 向けられた視線に気づいたのか、セレンがこちらを見返し歩み寄ってくる。
「き、傷は大丈夫なのか?」
「ええ。傷痕もありません。これからは、少しは考えて行動してくれますね?」
 口篭るようにしてかけた言葉に、小さく頷き。顔を覗き込むようにじっと見つめながら、穏やかに声をかけてくる。責める様子のないその優しさが、余計に罪悪感をちくちくと刺激して思わず顔を背け。
「……約束してください」
 むっとしたように低くなった声とともに、伸ばされた手がリウイの頬を挟み込み無理矢理に顔を合わせ、答えろと無言の意志表示で引き寄せる。
「あ、あぁ……すまなかった。約束する」
 思った以上に近い睨むような上目遣いのまなざしに、慌てて答えると満足した様子で手が離れた。
「だけど、セレンも無茶しすぎよ」
「とっさの行動でしたから。それに、たいていの傷なら癒せますし」
 呆れたような声をかけるミレルに、淡い苦笑を浮かべてセレンが答える。心配したんだからね、とセレンを抱きしめたミレルはそのままじろりと冷たいまなざしをリウイへと注ぐ。
「セレンがいいと言ってるから、許してあげるけど。同じ失敗したら……」
 許さない、と冷たい殺意を宿した声がリウイに囁く。そんなことするか、と思わず睨み返し。
「そんなことより、未探索のはずの遺跡になぜゴブリンがいたんでしょうか?」
 火花を散らすように激しく視線をぶつけ合うふたりの意識をそらすように、セレンが言葉を口にする。
「古代王国の時代から生き残ってたとか?」
「そんなわけないでしょう。たぶん、どこかに抜け穴があるんでしょうね。ゴブリンが見つけるくらいだから、他の冒険者だって見つけてるだろうし。きっと、めぼしいものは残ってないでしょうね」
「間抜けなやつらの尻拭いをさせられたわけだ。ゴブリンの住処が地上だけだと思った、馬鹿なやつらのな」
 リウイの呟きに、呆れた様子でミレルが言葉を返し。それに、ジーニが溜息とともに続く。
「もう帰りましょう。これ以上、ゴブリンの巣穴なんかにいたくありませんわ」
 メリッサの言葉に反対するものは誰もいず、そのまま遺跡を後にしてとぼとぼとファンの街への帰路につく。
 それなりに意気揚々と楽しくやってきた往路とは違い、リウイも含めて思い出したように溜息をつく元気のない歩みで。


 そして数日後、リウイは混乱の極地にいた。
 傍らにはすやすやと、穏やかな寝顔を見せるエルフの少女。
「ん……」
 眠りが浅いのか、可愛らしく声を漏らしてもぞりと丸まる。
 同じベッドで仲良く二人は朝を迎えていた。
「お、落ち着け……昨日の晩は帰ってきてそのまま寝たはずだ」
 魔術師ギルドの仲間に冒険話を聞かせろと誘われ、そのまま酒を飲みながら話をし――
「やべえ、記憶がない……」
 血の気が引くの自覚しながら、あらためて傍らの少女を見つめる。滑らかな色白の肌に、幻想的な美しさの整った顔立ち。肌の上を流れる銀髪は癖もなくさらり広がり、無防備な寝顔はどこか冷たい感じのする普段と違い可憐な印象を――
「って、違う!」
 脇道へと暴走しかけた意識を、自分の頬を叩いて正気に戻し。なぜか、自分のベッドで寝ているセレンを起こしにかかった。
 ふたりとも、普通に服を着ているしきっと何事もなかったに違いないと願いながら。



前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.024909973144531