星ノ海学園の敷地には併設したマンションがあり、そこへ僕と歩未は引っ越すことになった。引っ越しの為にダンボールに日常製品や私物をつめこんで送りだす。引っ越し業者に手伝ってもらったから思った以上に早く終った。荷物をつんだトラックが出るのを見送ると僕と歩未はあらかじめ呼んでおいたタクシーにのり星ノ海学園の併設マンションまで送ってもらう。
「有宇お兄ちゃん。タクシーで星ノ海学園にまで行くなんて......大丈夫なのでしょうか? 」
車内で歩未が不安そうに聞いてくる。
「お金の心配なら問題ないよ。ここ最近株を初めてな、なかなかな利益が出たんだ」
「株ってあのお金が増えたり減ったりするあれのことでしょうか? 」
「嗚呼、ちゃんと勉強して始めたからそう簡単には破産しないよ。これでも陽野森高校で学年トップを張っていたのだぞ? 頭には自信がある。お前の兄を信じろ」
僕が格好つけて言うと歩未は「有宇お兄ちゃん。何でもできるから凄すぎるのですぅ」と呆れたようにでも嬉しそうな声でそう言った。僕もその可愛らしい喜びの表情や仕草をみて少し嬉しい気持ちになった。
昨日、僕はあの友利という女に転入するにあたっての注意を聞き、家に帰宅したあとに、転入先である星ノ海学園について調べてみた。
そして、表向きには全寮制の学校と書かれているが間違いなく大きな力を持った組織であるということが調べだして直ぐに分かった。その星ノ海学園は買収されていて作られていたのだ。前は別の高校だったらしい。さらに土地の買収にその後の速やかな能力者を匿う為の施設の建設。
その上ネット上に星ノ海学園の能力者の噂の影も形もないときた。科学者から守るために当たり前といえば当たり前だけど、簡単に情報の流出をさせないようにできるほど世の中甘くない。必ずどこかに綻びがあり情報は漏れてしまうものだ。と、図書館で読んだ社会のデジタル情報のマニュアル本に書かれていた。
防ぐためにはそういった情報が漏れた瞬間にネット上から削除し、本人を見つけ出してやめさせるしかないのだ。それには莫大な費用と設備が必要なはず、それをやってのけている。そんなとんでもな組織機関が味方で頼もしいが同時に恐ろしい。友利とかいうあの女を能力で殺していようものならどんな手を打たれたか......考えたくもないな。
だが、やはりできれば関わりたくなかったな。歩未にはとくに関わらせたくなかった。
一通り調べ終え、株の動きをパソコンでみていると、「特待生として星ノ海学園に転入することになるとおじさんから電話をもらった」と歩未が僕に本当かどうかを確かめにきた。友利に説明を受け、あらかじめ知っていた僕が肯定すると歩未が「家庭が助かりますぅ」と嬉しそうにいった。早く資金を集めようと改めて思った。歩未に楽をさせてあげたいからな......。
結局、あのあと株で儲けを出し、達成感みたいなものを覚えたあと、直ぐに布団に入って、就寝。今日の引っ越しに備えた訳だ。
そういえば、今朝、株の状態を見てみるとまた利益が出ていた。このまましばらく、うなぎ登りだろう。その資金を使って世界中の能力者に関する情報を集めて見るのもいいかもしれない。もっともまだ先の話だし、その前にやらなければならないことがある。そうそう、株を初めて思うことが一つあった。
「やっぱりこの世は金か......」
「有宇お兄ちゃん。絶対に悪い大人にはならないでね? 」
「ごめん。冗談だって。ちょっと、ドラマでみた悪どい社長の真似をしたくなっただけ。本気にするな」
「それならいいのですぅ。あゆも安心しましたー! 」
その世の中金だなぁなんて考え。でも歩未に本気で心配されてしまった。発言には気を付けないと。しかし、この世は金という言葉はこの世界のシステムにしっくりくる。衣食住、それらすべてを手にする為には金がいるのだから、お金がなければまともに生きる事すら叶わない。お金があればこの世界ので楽に生きることができる。金は幾らあっても困らない!
そうだ、僕は、幸せになりたい。ならなければならない。でも誰かが幸せになると言うことは誰かが不幸になることだと言うこと忘れちゃいけない。 さっきいったお金持ちだって、持っていないものの分も実質的には奪ってるも言えるのだから。
「おお!広いのですぅ! ここ全部歩と有宇お兄ちゃんと使っていいのでしょうか!!! 」
広いダイビングに広い部屋、僕と歩未とでは確かに広いかもしれない。星ノ海学園から少し離れた場所にある併設マンション。その一室に僕と歩未は引っ越してきた。しばらくの歩未と部屋の広さに驚いていたが引っ越し業者が梱包されたダンボールを持ってきたので直ぐにやめる。この歳ではしゃいでいるとは思われる訳にはいかんからな。歩未は業者の者がダンボールを運んでいる姿を見つける。
「お疲れ様でござる。不肖私目にもお手伝いを! 」
積極的に手伝い要求するなんて....。何て言い子なんだ。全国の諸君見習いたまえ! これができるいい妹だ! だからなおのこと手伝わせる訳にはいかない。重いし危険なものが結構あるからな。
「歩未、あんまり業者の人から仕事を奪ってやるな。仕事が仕事にならないだろ? 危険物も結構あるから業者の人に任せよう」
「そもそうなのですが......」
余程力になかったことを気にやんでいるのか少し落ち込む歩未。
「そんな顔するなよ。僕の方で手伝ってほしいこともあるんだ。いいか? 」
「はい有宇お兄ちゃんのお手伝いはこの歩未がたしかに引き受けましたでござる! 」
「よし、じゃ業者さんが運んできた、ダンボールの梱包をといて整理していこう」
「了解なのですぅ! 」
こうして僕は歩未とある程度まで梱包の中身を出して整理した。ある程度整理が終え、ソファーに座って休んでいるといつの間にか友利がいた。ついでに高城という生徒会の一人の眼鏡をかけた男もだ。
「どうも、お邪魔します。と言うかしています」
「何でここにいるんだ......」
「放課後になったので、二人だけでは大変だろうから手伝いに来ました」
この女には歩未に知られたくない事件のことを知られている上に、あまりいい感情がないから早く帰ってほしい。よし、断るか。しかし、それはかなわなかった。別室で休んでいた歩未が入ってきたのだ。
「あー! もしかして有宇お兄ちゃんと同じ学校の人でしょうか! 」
色々と最悪なタイミングだ。これは面倒なことになりそうだな。具体的には歩未が手伝いを受け入れるとか......。
「生徒会長の友利です。で、こっちの眼鏡は高城」
「はい。私は生徒会の高城と言うものです 」
「私は歩未! 乙坂歩未なのですぅ! 」
「うん。よろしくね歩未ちゃん。 今やっている作業を手伝わせてもらっていいですか? 」
「勿論なのですぅ。むしろこちらがお願いします! 」
ふっと友利が僕に得意げな顔を向けてくる。くそ、なんなんだこの敗北感は.......。まぁ手伝ってもらえるのはありがたいことなのでいいか。
だが、この女が歩未にあの事件の真相を言わないかだけが不安だ。
「そんな顔をしなくても大丈夫ですよ。憶測だけのものを一々言う趣味はありません」
「......あっそ。歩未そろそろ休憩終わるか.....続きやるぞ」
「うん! 」
僕はそう言うとまだ段ボールが置かれている玄関へと一人で向かった。歩未と友利は段ボールの梱包をといて整理していく続きをするために僕達兄妹の寝室と勉強部屋の役割になるであろう部屋に移動した。
玄関にある一つダンボールの中におじさんからの送りものが届いていることに気付き、梱包をとく。確か、転入が決まった翌日にお祝いに美味しいものを送ることにしたとか言っていたけど一体どんな美味しい物なんだろう。期待してさぁ箱の中身はいかに!
乙坂有宇は箱を開いた。中身は金さんラーメンだった。
ドンッ! 僕は床に拳を打ち付ける。美味しいものって全部金さんラーメンかよ!! 取り敢えず見なかった事にしておしいれの中に封印した。
金さんラーメンの封印を終えた僕は歩未の様子を見に行く。友利も一緒に作業をしているようだ。
僕は友利が歩未と一緒にいるのが不安でしかたがない。もしかしたらもう事故の事をいったのではと危惧したりした。が、証拠がない事を歩未に教えてもなんの特にならないということに気づき少し警戒を解く。しかし、あの高城某は分からないから警戒しておくにこしたことはないだろう。奴も僕のしたことを知っているのだろうから。
歩未はダンボールの梱包を解きおえると、あー! と大きな声を出す。
「どうかしましたか? 歩未ちゃん」
「うん。懐かしい有宇お兄ちゃんのトロフィーと賞状が出てきたのですぅ」
「ああ、中学で取った賞状とかか、あっても場所取るだけだから捨てもいいっていっておいたのに....」
「むぅ! 有宇お兄ちゃん思いでは大切にしないとダメなのでござる! 」
「て、いうか、さりげなく会話に入ってきたな.....」
「歩未の様子を見にきただけだ。まさかと思うが歩未に変なことをおしえなかっただろうな? 僕の妹に少しでもおかしな事をしてみろ、明日には、貴様は永遠の眠りについているだろう」
「何もしていません。ただ手伝いながら会話をしていただけです。て、言うかシスコンなんだよ! あと、殺さないでください」
「安心しろ軽い冗談だ。.......やるならもっと惨たらしくやる(ボソリッ)」
「いや、それ、安心できませんって.....」
惨い云々はともかく、この女、誰がシスコンだ! 誰が! と、言っても墓穴掘るだけだろうから何も言わない。せいぜい呪詛をはくくらいだ。心臓よ凍れ! なんちゃって。
「えっとシスコン? 何かのコンテスト? 」
「......歩未、世の中には知らなくていいことがあるんだ気にするな。それよりその賞状とかトフィーはダンボールの中へと戻せ、出しても邪魔になるだろ」
「部屋に飾ろうかとおもったのですが.......」
やめてくれ。恥ずかしすぎて僕が死んでしまう。というか高校生にもなって中学でとった賞状を飾るってどんな羞恥プレイだよ。そんな事を僕が思っているとは知らない歩未は本当に残念そうにしている。
「それにしてもなんの、賞状やトロフィー何ですか。結構数がありますけど.....」
「......」
「ゴメン、歩未! 僕ちょっと気分転換に外の空気でも吸ってくるよ」
僕は踵を返し歩未と友利がいるこの部屋から出ようとするが友利に腕を掴まれ止められる。こいつ誰の腕を掴んでやがる! じゃない! 一刻もここを離れなければ! 今は気にしている場合じゃない。
「まぁまぁ。あなたも久しぶりに自分の思い出を思い返してみるのもいいかもしれませんよ」
「おい放せ! 僕は今直ぐにこの部屋からでないといけないんだ! 放してくださいマジお願いします! 」
僕の必死っさを見て、掴んでいた手を話す友利。
「たかが思い出を話されるだけで、そこまでの反応しますかね? 」
「ねぇ......友利のおねーちゃん」
「はい、何ですか歩未ちゃん? それよりも早く乙坂有宇君の取った賞状やトロフィーが何なのかを私は聞きたいです」
星ノ海学園生徒会長友利。やはりお前は僕の敵だ。寧ろ敵でしかない。今回はお前の好奇心に巻き添えをくらった。
僕は別に賞状がなんの賞状なのか話されることに抵抗はないし、多少羞恥はあるが別にきにしない。むしろ自慢してやろう。称賛させてやろう。いかに僕が有能なのか示してやろう! だがな、僕が自分でやるぶんにはいいが、今回は問題は話しをする人間にある。そう歩未にな!!
「わかったのですぅ。先ずこの賞状が野球部に入っていたときの全国大会優勝の賞状と、こっちがその全国大会でもらった最優秀投手賞。で、こっちがサッカー部の全国大会の準優勝の賞状と、得点王の賞状。これがテニス部の..................(以下略)の物かな」
「かなりたくさん、あるんですね.......てか、どんだけの部活に入っていたんだよ! しかも全部優勝の賞状とか、準優勝とか、バナイなっ!! 」
「.......」
「? どうしたんすか。そんなもうこの世の終わりだという顔をして.....。普通に自慢できるものじゃないっすか」
「......僕はお前の巻き添えをくらったんだ。おかげで今日はこれ以上片付かないぞ......」
「は? 何をいってるんですか? 歩未ちゃん賞状の説明ありがとうございます。それでは梱包をと言っていって片付けの続きを「ねぇ、聞いて友利のおねーちゃん。この賞状の決勝戦はね。有宇お兄ちゃんのサヨナラホームランで............このサッカー大会の決勝戦は.......テニスですごいサーブが......」
その後、歩未の僕の中学時代の武勇伝は 高城がこの部屋に友利を迎えに来るまで続いた。
「えぇ、もう友利のおねーちゃん帰っちゃうのー! 夕御飯も一緒に食べていって欲しいのですぅ。それに、まだ、話していない有宇お兄ちゃんの賞状とトロフィーを手にするまでの話もあったのですが.......」
「い、いぇえ、わたし達、宿題があるんすよだからちょっと無理かなぁ~」
友利は超遠慮がちに、声を震わせながら言い訳をする。
「あれ? 友利さん。宿題は終わったとグフッ! 」友利から肘鉄をもらう高城。
「何いってるんだ高城、まだ終わってないんすよ! .......話を合わせてください帰れません」
「何でかは分かりませんが分かりました! そうなんです。早くかえらなければなりません」
「でもお礼もしないで返すのは.....」
いや、高城は掃除をしていたが友利と僕は最初だけで殆どなにもしていないじゃないか。お礼する必要があるのか? それにしても、くそ、全然片付かなかった思い出話のせいで! しかも、僕は完全に巻き添えだったぞ.......。
助けをだしてやるのはしゃくだったが僕も食事をしながら延々と自分の賞状の事を話されるのは勘弁願いたいので助けてやることにする。
「そうはいっても歩未、食器の枚数が足りないし今日は帰ってもらおう。あと毎度毎度言うけどあまりに僕の思い出話で時間を使いすぎだ。聞かされる方にも予定もあることを忘れるな」
「ごめんなさいなのですぅ。友利のおねーちゃん」
歩未はそう言うと寂しそうな顔をする。友利と高城が帰ってしまうのがそんなに寂しいらしい。
「大丈夫ですよ。また直ぐ会えます きっと」
歩未の頭を撫でると友利は帰っていった。
すれ違ッたときに「何処かの生徒会長のせいでとんだ引っ越しだった」と皮肉を言ってやると苦笑いをしていた。
友利達が帰った後、歩未と一緒に料理を作り、一緒に食べて。そのあと交代でお風呂にはいる。歩未がお風呂に入っている間に僕は後片付けを何とかすまし、歩未がお風呂からあがってきたあとに交代でお風呂にはいる。湯船につかっている時間だけがなんか心が安らいだきがした。この家の中から友利という不安要素が去ったのも大きいかもしれない。
お風呂からあがり、寝室にいくと歩未が望遠鏡を使ってベランダから星を見ていた。寝る前に星を見るのが歩未の望遠鏡を買ってから毎日続けている日課というよりは趣味。そういえばあの、望遠鏡って誰が買ってくれたんだっけ?
「本当に星が好きだよなお前......。毎日、星を見てて飽きないのか? 」
「うん。星はただ見上げるだけでも綺麗だけど、望遠鏡でみる星の光と形はもっと綺麗なんだよ。よくみると一つ一つが違った形をしているし、やっぱり見ていて飽きることはないと思うのですぅ」
「へぇ。なら星好きの歩未には星ノ海学園は正に聖地みたいな感じじゃないか? まるでお前の為につけられたような名前だしな」
「星ノ海学園........いい名前」
歩未は星の彼方へと意識を飛ばした。手を振っても気づかない。重症だな....。
歩未がトリップしているあいだにパソコンを起動し株見てみる。すると、とんでもない金額にまでお金が膨れ上がっていた。驚いたが直ぐにまぁ当然だと勝手に納得した。本書かれていた事を遵守し、実践できているだから当然だと。もっとも僕だからこそ直ぐに出来た事だろう、普通は何年も勉強してやるものだ。
ただ僕は少し要領が良かったことと、記憶力がずば抜けていたからこそ株の内容と儲け方を理解でき、実証できた。さらに僕は幸せにならないといけない。そんじょそこらの奴らとは覚悟が違う。
必ず幸せにならないと.........。その為ならなんだってやる。そう決めたんだ。
「歩未、お前の学校、僕の通う学校と近くの場所だし明日一緒に登校するか?」
でも、今は、
「え、うん!一緒に登校するのですぅ。あゆも有宇お兄ちゃんを誘おうとしていましたのですが、先に言われちゃいました......」
身近な所から幸せを感じよう。だが、この幸せは何時まで続くかわからない。不安要素である友利と高城某がいる限りこの幸せが終わるのではないかと何時もビクビクする日を送らないといけないのだ。
だから僕が安心するためにはあいつらをどうにか始末しないといけない。その為にはまずあいつら情報を集めよう。金ならある。後は実行するだけだ。
僕はその日の夜、ネットの情報屋に依頼を持ちかけた。とあるハッカーらしいで仕事も凄く早く、信頼もできるらしい。どこでその情報屋の情報を得たのかはあまり口にできるような所ではない。でも、しいて言うならば、そういう裏社会で生きるような奴らが経営するようなブラックなサイトみたいな所で知った。
友利と高城の個人情報。家族に友人。個人資産、何をやっていたかなどを調べ僕に情報を送る。それが株の数百万の株資産の内、およそ半分を使って依頼した内容。
次の日の朝には友利と高城の情報がファイルで送られてきた。やはり世の中金だ。金があれば大抵のことはできる!! そうして僕は二人の詳しい情報を手に入れた。
たった二人の情報の為に百万を叩いたのは馬鹿だという奴もいるかもしれないがそれは間違いだ。些細な情報でも必ず役に立つ。
そうすべては僕に逆らう悪を裁く為に。