リトルバスターズの再構成、かもしれないもの。
理樹が妙に強いです。ついでに性格も違います。ほとんどオリキャラ状態です。
そういったものに嫌悪される方は、読まない方がいいかと思います。
勢いだけで書いた。書ききるかどうかは未定。
1/Recurrence to the origin
あの、一番辛かった日々。
毎日一人で塞ぎ込み、まるで世界に自分以外の人がいなくなったような気さえしていた。
深い絶望の淵。胸を覆いつくす虚無感。
すごく大切なものを失ってしまった気がして、
ただ日々を無為に消化することでしか、自分を慰めることが出来なかった。
だけどそんなある日。
三人の男の子と一人の女の子が現れて、その手を差し伸べてくれた。
「強敵が現れたんだ! 君の力が必要なんだ!」
そう力強く訴え、彼らは僕の名前を訊いた。
「…りき。なおえ、りき」
「よし、じゃあいくぞ、りき!」
先頭に立つ少年が勢いよく手を掴むと、そのまま引きずるように走り出していく。
混乱する頭で何とか言葉を選び、口にした。
「ねぇ、きみたちは!?」
その言葉を訊いた少年は、ニヤリと、小気味良く笑って。
「おれたちは、悪をせいばいする正義の味方。
ひとよんで―――リトルバスターズさ」
堂々と、そう名乗った。
近所の家の軒下に出来た、大きな蜂の巣。
まだ幼かった僕らにとって、それはこれ以上ない強敵だった。
今でも忘れない。
一番大柄な少年、真人が突然服を脱ぎ、素肌にべっとりと陽動用のハチミツを塗り始めた。
(今考えれば、熊じゃないんだしハチミツなんて陽動として使えないのだが、当時の僕らは有効だと信じていた)
そして、仲間達にサムズアップして見せ。
「後は頼んだぜ」
そんなかませ犬発言を残して、迫る黒いハチの群れに突っ込んでいった。
一瞬にして少年を覆いつくすように群がるハチ。
叩き落そうともがいているが、暖簾に腕押し、少しも減っている様子は無い。
その光景を生暖かい目で見つめた後、少年二人は殺虫スプレーの噴射口にライターを添えて、一言。
「まさと、…お前のこと、忘れないからな!」
ファイヤー。お子様は真似しちゃいけない簡易火炎放射器によって、大柄な少年の身体が燃え上がる。
人間火柱。何故か彼はよく燃えた。
「うおおおぉぉおおぉぉ―――っ! 人を勝手に殺すんじゃねえぇえぇぇ――――――っ!!」
燃えながら、芸人でも出来ないその命を賭けた壮絶なツッコミは、今でも忘れられない。
直後に後ろでつまらなさそうにしていた子が蹴りをくわえて、
地面を転がるように蹴り続けられていた光景も忘れられない。
結果としてそのおかげで鎮火し、彼は助かったわけだが。
その後、消防車と救急車が駆けつける大騒ぎになった。
なんせ翌朝の地方新聞の一面に載るほどだ。
黒焦げの少年と、兄の腕から逃げようとする少女の絵は、とてもおかしかったんじゃないかと思う。
―――それが僕らの出会い。
そして、辛かった日々が終わり、楽しくて騒がしい日々が始まったスタートラインでもある。
目を瞑れば今でも思い出せる。
その日僕は、差し伸べられた手を握り返したのだ。
◇◇◇
2/An everyday opening
「きょーすけが帰ってきたぞーっ!」
どこか遠くから、そんな叫び声がして目が覚めた。
ひたすらに眠い。シカトして再び夢の世界の落ちたかったが、何かその言葉に重要な意味があったような気がする。
考えるも、やっぱり眠気ですぐに思い至らない。
「ついにこの時がきたか…」
喜びを含んだその言葉を訊いて、ようやく理解する。
身体を起こすと、ちょうどソレが鼻息荒く床に飛び降りていた。
「理樹、俺はちょいと戦いに行って来るぜ」
そう言い残すと、足早に部屋を出て廊下を駆け出していく。
真人が戦うとなれば、相手は一人しかいない。
「やばっ、こうしちゃいられない!」
いそいそとベッドから降りて、真人と同じように勢い良く部屋を飛び出す。
廊下に出るとすでに、ガシャングシャンと荒々しい物音がしていた。
どうやらもう始まっているらしい。
全力で廊下を駆けていく。
「うおーっ、すげーぞ!」
食堂の前に出来た人の群れから歓声が聞こえる。
どけ、邪魔だとそれらを押しのけ、二人が一番よく見える位置へ。
交錯する拳と刃。
互いに譲らぬ激しい戦いは、食堂を決戦場と化していた。
井ノ原真人と宮沢健吾。
犬猿の仲、永遠のライバル、昔からくだらないことでケンカをしている二人。
恭介が帰ってきたのを良いことに、また仲良くケンカをおっぱじめたのである。
「うらーっ!!」
ぶん、と風を切る拳。
無駄につけた筋肉から生み出される強烈な打撃を、健吾は難なく避ける。
目標を失った拳はその後ろにあった机にぶつかって、ばごんと破壊。
「さすがだな、井ノ原…」
「部活にも入らず無駄に鍛え上げられた筋肉をここぞとばかりに見せ付けてやがる…」
「上腕二頭筋はもとより、三頭筋、三角筋、腰の力を上半身に伝えるための腸腰筋もよく鍛えてあるな。
見せるためではなく実用するための筋肉美、ふふふ、美しいぜ…」
聞こえてくる何とも適当な解説。
若干一名危険なヤツがいるみたいだが、あまり関わりたくないので無視する。
「は―――っ!」
一転し、反撃に出る健吾。
気合と共に、手に持った竹刀を振るう。
「うぉおおぉっ!!?」
それは最早達人の技。
目にも止まらぬ高速の斬撃は、真人の胸板に十字の傷跡の残していた。
「でた! 思春期の性衝動を抑え込んでまで完成させた必殺の一太刀!!」
「なんと切り傷がオッパイと読めるらしい…」
「いや、あれは鬱屈、と書いてあるらしいぞ」
「なにぃ! それはものすごい画数じゃないか!」
勝手な憶測で勝手に盛り上がる野次馬達。
付け加えるとあれは『鬱屈』と書いてあるんじゃない、『巫女』と書いてあるんだ。
性衝動を抑えた故に、自分の趣味が技として露呈してしまった、悲劇の太刀なのである。
その事実を吐露してしまいたい気持ちを堪え、恭介を捜す。
「なぁ、恭介どこいるか知らん?」
「え、あー、あそこで寝てるよ」
男子が指差した方向には、机の上で仰向けになって寝転がっている恭介が。
おそらく就職活動をしてきて寝ていないのだろう。
アホなことに、恭介はどんなに遠くても歩いて就活に向かう。
その証拠として、彼の身体には土や枯葉がたくさんくっついていた。
もしかしたらどっかの山荘にでも行っていたのかもしれない。
「おい起きろよ恭介。せめて友人らの争いの決着くらい見ていてやれ」
恭介がいない時にはケンカをしない。
それがリトルバスターズ、というか真人と健吾にかせられた約束の一つだ。
あの二人は手加減を知らないもんだから、誰か止めるヤツがいないと色々ヤバイのだ。
ちなみにその仲裁役として俺は論外。
基本観戦しているし、もし両者が熱くなりすぎてしまった時、止めるのは力づくになってしまうからだ。
ゆさゆさと恭介の身体を揺さ振る。
何度かそうしていると、薄く目を開いて、こちらを見た。
「…んー、なんだ、理樹じゃないか。悪いが寝かせてくれ、昨日寝てないんだ」
「んなもん知らん。若いんだから一日くらい寝ずにいたって死にはしないだろ。兄貴風を吹かすんなら最後まで通しやがれ」
恭介は幼馴染四人よりも一つ年上だ。
だから、というわけでもないだろうが、仲間内で恭介に逆らえる人間はいない。
まるで彼が未来を知っているかのように、反対したヤツが痛い目に会うからだ。
一度や二度じゃない。その法則が身体に染み付くほど、数多く割をくっている。
小さな頃から続いているこの関係も、それが影響しているのだと思う。
「わかったよ、理樹がそう言うんなら起きることにする。…で、どっちが優勢なんだ?」
「現状では健吾だな。真人の一撃がどこかしらに当たれば逆転もありえるだろうけど、
あまり期待できない。間合い、スピードの両方で負けてんだから、真人も対策を考えればいいんだけどな」
「ははは、頭を使う真人なんて、真人じゃないだろう」
「確かに」
笑いながら頷きあう。
そして場を盛り上げるため、両者を鼓舞するように叫んだ。
「いいぞお前らー! 多少の怪我してもいいから死ぬ気で戦えー!!」
俺の叫びに同意するよう、あちこちから聞こえてくる歓声。
うむうむ、せっかくの見世物なのだからこれくらい熱くなってもらわないと。
出来れば賭け事にまで持ち込みたいのだが、今日の健吾は竹刀を持っているし、結果は見えているようなものだ。
一介の見物人としては、真人に奮闘してもらいたいものである。
「だってよ、理樹もああ言ってんだ、今日こそ決着をつけてやる!」
猛る真人。
今にも飛び掛りそうなほど息巻いている彼とは対照的に、健吾はひどく冷静だった。
「それはいいんだがな。―――ところで真人、その足元に落ちてる筋肉は、一体なんだ?」
「なにっ! 激しく動きすぎて落しちまったのか?! どこだ、どこに筋肉がある?!!」
「もらった!! マーンッ!!!」
「ぐほぉっ!」
すぱーんと決まる上段の一撃。
頭頂部に痛恨のミラクルヒットを受けた真人は、ゆっくりとその巨体を傾かせて、崩れ落ちた。
「はっはっは! 戦いの最中に油断するとは、まだまだだな真人!!」
健吾の高笑いが食堂に響く。
―――だまし討ち。剣士としてありえねぇ、そして何ともあっけない幕切れなのであった。
「あらら、真人のヤツえらくあっさり負けちまったな」
「まぁ、知能戦を挑まれた時点で、負けは決定してたよ」
なんせ脳みそまで筋肉が詰まっていると専ら評判の真人だ。
あれが知能戦と呼べるレベルにまで達しているのかは不明だが、
単純なトラップに豪快に引っかかってくれるやつなのは確かである(実践済み)。
と、野次馬の群れをかき分けて、見覚えのある女の子がやってくるのが見えた。
手を振ってみるとこちらに気付いたらしく、近づいてくる。
「理樹、あたしの猫見なかったか?」
「猫? いや、見てないけど…いなくなったのか?」
「違う。餌をやろうとしたら、食堂の匂いにつられてこっちに来たみたいなんだ」
困った、と締めくくるこの少女の名は棗鈴(なつめりん)。
恭介の妹であり、無類の猫好きでもある、幼馴染の一人。
ちなみに得意技はハイキック。
「…それ、もしかしたらあれなんじゃないか?」
言って恭介が指差す方には、倒れ込んでいる真人の姿が。
そしてその下敷きになるように、ニャーニャーと鳴いている猫が見える。
それを見た途端、鈴の目つきがまるで猫のように鋭くなった。
「こらああぁぁ――――――っ!!」
響く怒号に驚いたのか、真人が起き上がる。
どうやら猫の存在に気付いたらしい。
なんだこりゃ、と疑問符を浮かべながら猫を持ち上げて。
「猫が可哀想だろーっ!!」
すがんっ!
「なんでっ?!」
強烈なハイキックが真人の後頭部に決まり、再び地面に崩れ落ちた。
いつの間に用意していたのか、カーンと決着のゴングが鳴って、歓声がわき上がる。
勝者を称える拍手の中。
取り返した猫を抱きかかえて、鈴は悠然と食堂を後にするのだった。
◇◇◇
ほとぼりが冷め、食堂から生徒たちが自室へと帰っていく。
残ったのは眠そうにしている恭介と、満足そうに頷いている健吾、首を押さえながら憮然とした顔をする真人に、
俺を含めた四人だけだった。
まるで祭りが終わった後のようだ。
歓声は尚遠く、物寂しさだけが胸に残る。
「ったく、なんで俺たちが後片付けしなくちゃならないんだよ」
「仕方ないだろう。荒らしたのは俺たちだ、ならば元に戻すのも俺たちの役目に決まっている」
ぶつぶつ文句を言っている真人を、健吾が嗜めている。
まぁ、何とも珍しい光景である。
「ま、そういうことだ。いいじゃないか、楽しかったんだから」
「俺は面白くねぇつーの。なんか納得いかないぜ」
「何言ってんだ、納得いかないのは俺の方だよ。見てただけで手伝いをしなきゃならないんだから、割に合わなすぎる」
だったら去っていった生徒たちにも手伝わせればいいのだ。
幼馴染だからという理由で後始末をするのは、さすがにもう疲れた。
「しかも、ケンカの理由は『目からごぼう』なんて嘘の諺を教えられたから、と来た。
なんだそりゃ、目からごぼう? 出せるもんだったら出してみろよ」
「うっせぇ。俺だってな、健吾に騙されなきゃ使わなかったんだ。
実際会話で使っちまって、その後に流れた微妙な空気を味わわなきゃならなくなった俺の気持ちも考えろ」
「知るか。宇宙人にレーザーでノートを焼き払われたって豪語するヤツが、今更そんなこと気にすんな」
ビシバシとお互いを軽くはたき合う。
こういうことが出来るのも、気心の知れた友人同士だからだ。
もっとも、俺と真人がケンカに発展しないのは、単に恭介にケンカを売れないのと同じ理由である。
「お前ら、しゃべってないでちょっとは手を動かせ。これを終わらせないことには眠れもしないんだからな」
「へーい」
「へーい」
見事にハモった適当な返事。
しかしこの作業もまた慣れたもので、既に何回こなしているか自分でもわからない。
こんな非日常ばかりを、それが日常と思えるほど過ごしてきている。
―――そう。
彼らと出会ってから、その手を握り返してから、息つく暇も無いくらいずっと。
このおかしくて楽しい日々を、送っている。