予選も観戦は三組目から。それ以降の試合を全部見終わってから和泉とレイナ、副長は未だに起きないラスターを宿まで運びに行った。 優斗達は決勝トーナメントの組み合わせ表まで確認してから宿に戻る。 そして合流した副長を含めて情報の共有を皆で始めた。 「次は評価でBランク筆頭だったマイティーで、その次は順当に行くとAランクの片割れ、コリル。最後にライカール……だね」 優斗が呆れる。 見事に大変な展開になった。 「上位評価を殲滅しないといけないのですね」 大変そうだとクリスが言い、 「とりわけ、一番最初に考えるべきはマイティーだろう。あのチームは……」 レイナの言葉に、全員がマイティーのメンバーを思い浮かべる。 「ハゲだ」 「ハゲでしょう」 「いや、正確には筋肉ハゲだよ」 和泉、クリス、優斗の順に酷いことを。 「確かに三人そろってハゲで筋肉隆々。物理攻撃は見た目通りに威力はあるが遅い。魔法も攻撃系統は上級まで使ったやつはいない」 レイナが彼らの情報を口にする。 「だが防御魔法に凄かったな」 「防壁って形じゃなくて、身体に貼り付ける防御魔法だったね」 おそらくは聖魔法の一種だ。 「奴らについては実際、どれほどの威力まで防げるのか相対しないと分からないな」 予選での対戦チームが中級魔法までしか使えなかったので、中級まで防げることは分かっている。 副長はレイナ達の情報を吟味すると、 「相手の魔力量によっては、上級魔法まで防がれることを想定して闘ってください」 「分かりました」 優斗達がこくり、と頷く。 「次は順当勝ちでコリルですね」 「予選はオーソドックスな戦い方でした」 クリスが指さすトーナメント表のチーム名に、クレアが感想を口にする。 「穴はないが、突出した部分もなし。エンガルト以上でないかぎり、私やユウトが負けることもない」 「僕たちのときも王道で来てくれたら助かるんだけど……」 優斗の予想としては、何かしら仕掛けてきそうな気がしていた。 「見た限りなら我々のほうが実力は上ですから奇襲を仕掛けるとしたら相手側でしょう。ユウト様やレイナは注意しなければなりません」 副長も優斗と同意見だった。 予選の戦いぶりからしても、すでにリライトは優勝候補の上位。 下に見られることはないはず。 「最後はライカール」 クリスが名を口にすると、フィオナの眉根が寄った。 優斗の予想通り、予選二組に出ていた。 つまり精霊を殺したのはライカールの精霊術士。 「予選二組だったから見れなかったけど、相当だったらしいね」 「全員を半殺しか……」 レイナが呟く。 見るも無惨な状況だったらしい。 「話を聞くと、タイプは魔法士と精霊術士と剣士だ。バランスは良いのだろう」 テンプレのようなパーティー構成だと和泉が唸る。 「剣士はどうか分からないが、魔法士は上級魔法でも高い威力のものを。精霊術士は……」 レイナの視線に優斗は答える。 「分かっている段階では、四大属性を上級クラスの威力まで」 別途の氷、雷。二極の光や闇を使えるかもしれないことを考慮しなければならない。 「あげく人を傷つけるのを厭わない連中ということだ」 和泉は気にした様子なく言うが、クレアが脅えたような表情を浮かべる。 優斗も軽く眉根をひそめ、 「王様も警戒するほどのチームだからね」 「そうなのか?」 レイナの問いに優斗は頷く。 「うん。予選前に話したとき、気をつけろって言われた」 と、ついでに思い出したことがあったので伝える。 「先に言っておくけど」 ラスターはまだ気絶中。 クレアはあと少しでクリスの妻となるのだから、教えても構わないだろう。 「勝ち負け以外で何かしらやばかったら神話魔法を使っていいってお達し来てるから。使ってもどうにかしてくれるってさ」 優斗の発言に軽く驚くフィオナ、和泉、クリス。 副長は普段の冷静な表情が一瞬にして喜びに変わった。 「本当ですかっ!?」 身を乗り出さんばかりの副長に優斗が軽く引く。 「……何で嬉しそうなんですか?」 「緊急時とはいえ、独自の詠唱によるユウト様の神話魔法をこの眼で見れるかもしれないと思うと……」 使わないとやばい状況なのだから喜ぶ場面じゃないはずなのに夢見心地な副長。 それとは別にクレアといえば、 「…………神話魔法? ……えっ?」 予想外過ぎて処理できていなかった。 「えっと……ユウト様が使えるのですか?」 「そうですよ、クレア」 クリスが頷くと、ようやく処理しきれたらしい。 「……え……えぇ!? す、凄いです!!」 遅れて驚くクレアにクリスが注意する。 「いいですか。これは自分の伴侶となるクレアだからユウトもこの場で話したのです。他言は無用ですよ?」 「は、はい!」 こくこくと可愛らしく頷くクレア。 その姿にほっこりとしながら、レイナは話をまとめる。 「神話魔法を使う必要がないことを祈るが、兎にも角にも、まずはマイティーを倒さなければ先はない」 見回す。 優斗、フィオナ、クリス、和泉が頷いた。 「そうだね」 「そうですね」 「そうでしょう」 「そういうことだ」 ◇ ◇ そして翌日。 始まった決勝トーナメント初戦。 マイティーとの戦いはやはり、予想通りのものとなった。 魔法を放ち、斬撃を幾度も浴びせる。 しかし屈強な肉体と防御魔法の前に跳ね返される。 多少の傷はつけども、すぐに回復魔法を使われて意味がない。 「レイナさん、そっちは?」 優斗とレイナは互いに敵と距離を取って近づき、背中合わせに話す。 「ただの斬撃じゃ傷一つ付いたところですぐに回復だ」 あれほどとは思ってもいなかった。 「お前はどうだ?」 「駄目だね。上級魔法も防がれた」 「どうする?」 優斗が風、レイナが炎の魔法を浴びせるがやはり防がれる。 「案は二つあるけど」 「どんなだ?」 「防ぐ際に魔力を消費してるから、一つは魔法を放ち続けて相手の魔力が切れるか自分の魔力が切れるか勝負」 「もう一つは?」 「一撃必殺。あの防御をブチ抜く攻撃をする」 別に声を小さくして話していなかったからだろう。 レイナが相手をしているリーダーハゲがニカッと笑みを浮かべると訊いてきた。 「どっちを選ぶのだ!?」 見た目通りの野太い声。 けれど何かしらを期待しているかのような訊き方だ。 優斗とレイナも笑った。 「決まってるよね?」 「決まっている」 望み通りにやってやろうじゃないか。 互いの相手に優斗はショートソードを。 レイナは名剣を堂々と差し向ける。 「「 ブチ抜くっ!! 」」 高らかに宣言した優斗とレイナに歓声が沸く。 リーダーハゲも優斗の相手の二番手ハゲも威風堂々、防御の態勢を取った。 「いいだろう! 来い!」 「かかって来いやぁ!!」 さらに観客が沸いた。 注目が優斗とレイナ、ハゲ二人に集まった。 少し離れたところでラスターと相対しているハゲは羨ましそうにしていた。 ◇ ◇ 「どうしてあの方たちは受け止めようとされているのですか?」 真剣勝負なはずなのに、なんであんなことになったのかが分からなかったクレアが質問する。 問いにはまず、副長が答えた。 「『華』……ということでしょう」 「どういうことですか?」 答えの意味が分からなくて、フィオナが続けて問う。 次いで告げたのは和泉。 「戦いにおける『華』だ」 さらにクリスが補足する。 「盛り上がる場面、盛り上がる瞬間。最大の攻撃に対して最大の防御。逃げては『華』がありません。ですから彼らは受けて立つのですよ。真っ向勝負を」 だから誰しもが優斗とレイナ、ハゲ達に注目する。 「けれどユウト様とレイナ様はどうやって、あの防御を突き通すつもりなのでしょうか?」 ただの攻撃では防がれる。 魔法だって上級魔法ですら防がれた。 「レイナとユウト様のことです。何かあるのでしょう」 副長が淡々と告げる。 まずは優斗が動いた。 「……ほう」 和泉が感嘆の声をあげる。 優斗が呟き刀身に左手を這わせると魔法陣が生まれ、雷を帯び始めた。 「魔法を斬っている時と同じようにショートソードに魔法を纏わせる魔法剣ですね」 それだけで相手の防御を貫けるのだろうか? とクリスは疑問に思うが、優斗は持ち方を変えて、身体を捻った。 「逆手?」 「……そういうことか。相変わらずあいつは面白いことをする」 意味が分からないクリスと違い、和泉は見当が付いた。 副長もフィオナもクレアも興味津々に和泉の話を聞き始める。 特に副長が一番、興味を持っていた。 「知っているのですか?」 「まあ、俺たちの世代では誰しもが真似をした技だ」 本来は幼稚園児や小学校低学年の子供が真似るやつだが、優斗みたいに中学以降に読んだ人間でもやってみたい、という気持ちは生まれるのだろう。 「色々とあるんだが、優斗が選んだ一つは龍の騎士が使った――」 まさしく一撃必殺の技。 「――勇者の飛斬だ」 優斗はショートソードを抜き、構える。 「求めるは雷帝、瞬撃の落光」 派生の雷魔法中級。 ショートソードが段々と電気を帯びていき、刀身をゆっくりとなぞりながら完全に雷を纏わせる。 そして逆手に持った。 「行くよ」 「来ぉいっ!!」 瞬間、優斗は飛び込んだ。 風の魔法を使いながら一駆けで相手の眼前へと押し迫る。 「――ッ!!」 左足を踏み込み、踏みしめる。 反動で出てくる右手に腰の捻りを加えて加速させ、全力の一刀を以て相手の胸元へと叩き付けながら振り抜く。 「……あぐっ!?」 飛び込む速度を全て振り抜く速度に変え、雷を纏わせた斬撃。 その威力は相手を吹き飛ばし、15メートルほど転がらせるほど。 ハゲはゴロゴロと転がりながら、地面を這いずり……摩擦で止まる。 「…………」 数秒ほど様子を見るが、二番手ハゲは起き上がらない。 手応えはあった。 起き上がらないところを見るに、完全に気絶している。 「よしっ」 優斗はショートソードを鞘に収める。 とりあえず自分は勝った。 あとはレイナが勝利を収めるだけだ。 ◇ ◇ 「優斗は勝ちか」 「残りはレイナさんですね」 まだレイナは動いていない。 けれど優斗のショートソードと同様に剣に変化が起きていた。 「あれはなんですか?」 クレアは見たことがなかった。 刀身が紅く染まっている。 「炎の属性付与だ」 もっと近くで見れば、時折に炎が吹き上がっているのが分かる。 「優斗さんは無事に貫きましたが、レイナさんはどうなのでしょうか?」 フィオナは普段、レイナと一緒に闘うことがない。 彼女の攻撃についての考察はやはり、和泉やクリスに劣る。 「フィオナは会長が強くなるにあたっての最大の問題点って何だったか知っているか?」 「……いえ、わかりません」 フィオナが首を振る。 けれど、代わりに副長が答えた。 「攻撃力の無さですね」 「さすが副長。よく分かっている」 レイナを鍛えているだけあって、やはり把握していた。 「会長は技術で闘うタイプだ。腕力でどうこうするわけではない」 女性である以上、仕方がないと言える。 「威力をカバーするのが属性付与の剣と俺の施した改造……なんだが、頼り切りなのは負けている気がしたらしくてな」 和泉とクリスは見合わせて笑う。 「一つの技を極めようとした」 「それは?」 問いかける副長に今度はクリスが答える。 「突きですよ」 軽く右手を突き出して、突きの真似をする。 「ギルドの討伐依頼で魔物を倒すときは大抵、突きを使っていました」 正確には平突き。 元々の属性付与や和泉の武器改造も相俟って、突きが一番良い技だとたどり着いたらしい。 「それを見たイズミが『左手は前方に突き出せ』とか茶々入れはじめて、真面目に修練しているレイナさんに殴られながらも長々高説していたら、レイナさんが洗脳されて今の突きが完成したわけなんです」 あの時の和泉の熱意は正直、気持ち悪かった。 「名称は確か……」 完成した暁に和泉が命名していたはずだ。 「穿突。そうでしたね、イズミ?」 和泉は仰々しく頷く。 「俺らがいた世界では一番有名な突きの名前だ」 ◇ ◇ 視線は目の前にいる筋肉ハゲからぶらさない。 身体を半身にし、少し腰を落として突き出した左手は軽く剣に触れる。 あとは切っ掛け一つで飛び込むだけだ。 「…………」 「…………」 見合って数秒……もしくは十数秒だろうか。 小さくはあるが、剣を鞘にしまう甲高い音が聞こえた。 「――ッ!」 それが合図になる。 レイナは飛び込み、右手を前に突き出すのと同時に左手を引き絞る。 「はぁっ!!」 炎を纏わせながら突き穿った剣は寸分違わず狙った左脇腹へと向かっていき、防御魔法をものともせずに一瞬にして突破。 見事にリーダーハゲの脇腹を貫いていた。 「……私の勝ちだな」 レイナはすぐさま、剣を引き抜く。 貫かれ、身体の中を炎で焼かれたのだ。 激痛と呼んでもおかしくない痛みがあるはずなのだが……。 「はっはっはっ。見事だ!」 けれど平然とした様子でリーダーハゲがレイナを褒め称える。 「まだ続けるか?」 「いや、一番手同士の真っ向勝負で華々しく破られたのだ。これ以上は野暮というものだろう」 死合ではなく試合なのだ。 二番手も負けていることから、負けの時間を引き延ばすことにしかならない。 ならばと、リーダーハゲはどっしりと地面に座って、 「この勝負、儂らの負けだっ!!」 審判に高らかと負けを認めた。 瞬間、唯一不完全燃焼だった三番手ハゲは文句を垂れ、ラスターは……妙な顔をした。 ◇ ◇ 「なんだか不思議な戦いでしたね」 控え室に向かいながら、クレアが先ほどの試合を思い返す。 フィオナも同意した。 「勝ち負けより大切なものを見せてもらった戦いでもありました」 「そうだろう。互いの自信を賭けた勝負だったのだから。観客の盛り上がりが証明している」 そして控え室にたどり着くとレイナと優斗が談笑していた。 二人が振り向く。 ニヤリと笑う優斗。 「面白かった?」 「最高です」 優斗にグーサインを出すクリス。 「レイナさんに穿突教えたの和泉だよね?」 「当然だ。ちなみに、さらに進化させたものもあるぞ」 「どんなやつ?」 「見てのお楽しみだ」 もったいぶる和泉。 そう言われたら、優斗としては楽しみを後に取っておくしかない。 すると二人ほどいないことにレイナが気付く。 「ん? ラスターと副長はどうした?」 問うと、クリスが出入り口を指さした。 「さっき、もの凄い勢いでラスターさんが副長を引っ張っていきましたよ」 ◇ ◇ そして引っ張られた副長とラスターは人気のない通路で対峙していた。 「ラスター・オルグランス。どうしました?」 「副長! 次のコリル戦はオレを2番手の奴とやらせてください!」 堂々と言い放つラスター。 思わず、副長の眉根に皺が寄る。 「なぜです?」 「あいつが二番手を倒せるならオレに倒せないわけがない! だからオレを二番手に!」 予選や一回戦はまだいい。 だが、次からは準決勝だ。 本来の実力順である自分を二番手に置くべきだと進言する。 無論、そこには優斗の高評価が気に食わないなど、その他諸々が付随してくる。 「…………ふぅ」 あまりの言い草に嘆息する副長。 予選とトーナメント、二回の戦いを終えたところで未だに馬鹿なことを言える彼に驚きを隠せない。 「貴方はこの大会、優勝したいのですか? それとも自己の満足で終えたいのですか?」 「もちろん優勝です!」 「レイナの前でも同じことを言えますか? 一年、二年の時、レイナは優勝できなかったからこそ三年の今回は是非とも優勝したいはずです」 「当然言えます!」 答えるラスターだったが、副長は大きなため息を一つ。 「ならば結果を見れば予選、一回戦共にユウト様はレイナよりも相手を早く倒しています。けれどラスター・オルグランス、貴方は未だに一人として倒せていない。これで貴方を二番手に置きたいと誰が思います?」 「しかしあいつの偶然がいつまでも続くとは限りません!」 あまりの堂々な態度に呆れて物も言えなくなりそうだった。 何を、どこを、どうやって見たら自分の方が強いと思えるのかが不思議だった。 「……ラスター・オルグランス。例えユウト様が偶然で勝っていようと、偶然を起こせるだけの実力が必要なのです」 事実は逆に実力を制限しているのだが、言ったところで信じたりはしないだろう。 僅か数日しか彼を見ていないが、それぐらいは副長も把握していた。 「さらにはっきりと結論を言いましょう。貴方の実力では三番手に粘るのが精一杯です。二番手を請け負えば早々に破れ人数として劣勢を強いられるでしょう。無論“現在の動き”から鑑みると、ユウト様よりも圧倒的にラスター・オルグランスが劣っているということではありません。ですが、戦闘時における柔軟性に違いがありすぎます」 あまりに行動の質が違いすぎる。 「どの方法が一番、勝つに値する動きなのか。貴方にはそれがありません。常に正面からの戦い。もっと別の方法が良い場合があるのにも関わらず、そうしないというのはレイナのように実力のある者だけが行える選択です」 そしてレイナとて、魔物との戦いで劣勢の場合は戦いの選択肢を増やす。 無様だろうとも勝つ方法を見出そうとする。 「しかし卑怯だ!」 「違います。卑怯というのは最低限の礼儀すら守れない下劣で非常識な行動を指すものです。この場合は戦術というのですよ」 それすらも彼は分からないのだろうか。 「授業では常に正面からの戦いでしょう。けれど敵が授業のように正面から動きますか? 魔物が正直に戦いますか? 貴方は卑怯と罵りながら負けるのですか?」 「…………それは……」 「真っ向勝負が好きだというのなら、真っ向から事実を受け取りなさい。己が唯一の穴であると称されたことを」 ラスターは副長から言われたことに対し、 「…………納得がいかない」 う~ん、と唸りながら控え室に戻ろうとするが、途中でレイナと和泉が飲み物を取りに行っている姿が見えた。 なぜだか声を掛けづらい雰囲気だったので、その場で止まることとなった。 二人はラスターに気付くことなく会話している。 「あと二つ勝てば優勝か。思いの外、楽に勝ち進めているものだ」 「やはり優斗がいると楽だろう?」 「当然だな」 当たり前のように言うレイナに、ラスターは「なぜだ!?」と叫びそうになったが、必至に口の中に留める。 「楽観視するつもりもないが、正当に行けば初めての優勝。そのために私は頑張るのみだ」 「願いが叶う、か」 「ああ。二年越しの願いだからな」 夢が叶いそうなのだ。 嬉しそうな表情をするのも無理はない。 「しかし、ラスターも頑張っている。私とユウトだけでも負けることはないが、あいつが粘っていることで試合が楽になっているよ」 ラスターは自分の話題になったことで、少し注意深く聞き耳を立てた。 「あれで実力を過信するところがなければな」 「優斗がいるから性格上、無理だろう」 「かもしれないな」 レイナが苦笑する。 「何にせよ、不作の一年と言われている中でトップとして頑張っているんだ。少しは評価せねばな」 突然のレイナの発言に、驚きを隠せないラスター。 自分たちの学年が不作と呼ばれているなど知らなかったからだ。 「そうなのか?」 「三年には私。二年には知られているのでもアリーやクリスだ。比較してしまっては可哀想だろう?」 現在、学院最強と呼ばれる三年のレイナ。 二年には四大属性の上級魔法を扱えるアリーと剣技、魔法共に上位であり総合トップのクリス。 上記の三人は各々が一年の時から飛び抜けた存在だった。 当時の彼らとラスターを比べると、どうしても格が落ちる。 学年全体的に見ても同様だ。 「確かにな」 納得する和泉。 「何にせよ、だ。このまま頑張ってくれれば文句は言わんよ、私は」 お茶の入ったコップを三つ持ちながら、控え室に戻ろうとする和泉とレイナ。 と、レイナの視界にラスターが入った。 「何をしている?」 「え? い、いや、オレは……」 まさか話を聞いていたとも言えず、どもる。 「ラスター、お前が戻らなければブリーフィングが始められない。行くぞ」 「は、はい!」 レイナに促され、ラスターは後ろに付いていく。 副長に散々と言われ、レイナにも色々と言われ、珍しく……ヘコみそうになった。 控え室に戻って30分後。 ある程度の話し合いが終わると、準決勝が始まった。 「……これは面白い展開になりましたね」 「状況的には一番だろう」 観客席から興味深そうにクリスと和泉が考察する。 「優斗もレイナも圧倒的に勝ちすぎた。ならばこういうのも手だ」 「“今のユウト”では、おそらく防戦になるでしょうし……」 やはり、というべきか。 コリルは王道では来なかった。 「ラスター・オルグランスの動きによっては、楽に勝てるか時間が掛かるか決まりますね」 ◇ ◇ 始まった瞬間、優斗とレイナは軽く驚きを表した。 「そうくるんだ」 「そうくるか」 相手の一番手はレイナに。 二番手と三番手は二人がかりで優斗に向かっていった。 考えとしてはすぐに優斗を打倒してから、数の利でレイナを倒そうとしているのだろう。 さらに言えば、ラスターは完全に足手まといとしてカウントしている。 だからこそ無視をするという考えに至ったはずだ。 「…………」 ラスターは立ち止まっていた。 相手がいない。 倒すべき相手が真正面にいない。 リング内を見れば、すでにレイナと優斗は敵と相対している。 自分だけが呆然としていた。 「ラスター!!」 レイナが相手に斬りかかりながら怒鳴る。 慌ててラスターがレイナに向いた。 「私をフォローしろ! すぐにこいつを片付けるぞ!」 「し、しかしあいつが!」 視線を移せば優斗が前後から魔法と剣で打ち込まれていた。 動きべきはレイナのところではなく優斗のところではないのか。 「ユウトなら大丈夫だ! 粘れる!」 レイナが絶大の信頼を寄せる。 返事こそないが、優斗は笑って頷いていることだろう。 「ならばお前がすべきことはなんだ!? あいつらがユウトを倒すよりも早く、私達がこいつを倒すことだろう!!」 レイナの相手は防御主体。 優斗が倒れるまでは粘りきるつもりだ。 「だ、だけど二対一など……」 しかもレイナと共に相手取るなんて。 卑怯ではないのかという考えが浮ぶ。 だが、 「最後の大会、私は優勝したいんだ!! だから手伝え、ラスター!!」 「――っ!」 レイナの一喝にラスターの身体が一瞬、震えた。 そして、 「…………っ!」 身体が動く。 無意識だった。 一目散にレイナのところへ向かうと、上段から剣を振るう。 防がれると、今度は横薙ぎに変え、何度も何度も攻撃を向ける。 「ああああぁぁぁぁあっ!」 叫びながら剣を振るっている最中、ラスターはようやく気付く。 無意識にここに向かってしまったということは、自分のこだわりなどレイナの願いの前にはちっぽけなものなのだということに。 「よく来た!」 レイナが笑った。 そのままラスターは正面から押していく。 逆にレイナは後ろへと回り込み、前後から激しく攻め立てる。 一気に劣勢に陥れられる相手の1番手。 「…………っ!」 相手の一番手はラスターの攻撃を防いだ直後、後ろからのレイナの斬撃を防ごうとする。 「無駄だ!」 一閃。 レイナの右から薙がれた剣閃が相手の剣を弾く。 「これで終わりだな」 返す剣で袈裟切り。 切られた痛みと衝撃で相手は俯せに倒れる。 「ラスター、行くぞ!」 「はい!」 すぐに二人は優斗のところへと駆けつける。 彼は縦横無尽に動き回り、前後左右から放たれる剣を、魔法をかわしていた。 「来たぞ、ユウト!」 レイナとラスターが優斗と相並ぶ。 一瞬にして形勢が逆転した。 珍しく、少しだけ息を弾ませた優斗が文句を言う。 「遅いよ」 全て防ぎきったが予想よりも来るのが遅い。 ほんのちょっとだけ疲れた。 「悪かったな。頭の悪い奴がいたから遅れてしまった」 「ふん。耐えたことは評価してやる」 レイナが優斗の肩を叩き、ラスターが鼻息を荒くする。 数は三対二。 どちらが優勢なのかは分かりきっている。 ニヤリとリライト勢が笑った。 「さあ、勝つぞ」 「了解だよ」 「分かりました!」