目の前で行われた自己紹介に対して、優斗と修は視線で会話する。 『……どうしよっか?』 『いや、そう言ったって明日ぐらいに会いそうなんだろ?』 『そうなると、しょうがないね』 『だろうな』 会話終了。 というわけで、二人も自己紹介を始める。 「内田修。あんたと同じ日本人っつーわけで、よろしく」 「宮川優斗。同様に日本人だよ」 さらっと言われた大層な単語に、春香の顔がポカンとする。 「…………へっ? 日本人?」 そして二人の髪と目を特に見回し、 「あ~っ! うわ、うわっ! もしかして召喚された人達なの!?」 「そういうこった」 「苦節十ヶ月! 同世代の日本人に初めて会ったよ~!」 嬉しさのあまり優斗と修の手を取って、ブンブンと上下に振り回す春香。 どうやら言葉から察して何人かの日本人には会ったようだが、同世代は初めてらしい。 感激のあまりニコニコの春香だが、その時だ。 「悪いけど、この子猫ちゃんは俺様のものだから」 彼女の首に腕を回した男性がいた。 青い鎧を身に纏い、顔の彫りは深く、なんとなくイタリアなどのラテン系なイメージを優斗達は思い浮かべる。 「――っ! は、離してブルーノ!」 すると春香が振り解くように腕をはがして離れる。 けれど目の前にいる男性は飄々とした様子で肩をすくめた。 その隣には、赤い鎧を着けている少女。 こちらは髪が赤みがかっており、北欧系で妖精のような顔立ち。 さらには春香と同程度のショートカット。 ただ、先程からぶつぶつと呟いている。 「……こいつら、ハルカの柔肌に触った。殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。ハルカは私のもの、私のものなんだから」 聞こえてくるのは物騒な単語。 ノッケから凄かった。 「ロイス君、ちょっと来て」 優斗が手招きで呼び寄せる。 「この二人、なに?」 「えっと……“青の騎士”ブルーノと“赤の騎士”ワインです。八騎士の中でハルカ様と一緒に動いているのが俺と、この二人なんです」 「あのワインって子、僕と修とブルーノって人に殺気放ってるけど」 呟きながらも、何だかんだでどえらい殺気がこっちに向かっている。 「……ワインはハルカ様が大好きなので」 「なるほど」 優斗は頷くと、修と一緒に肩をすくめた。 「百合ヤンデレに俺様にロイス君……か」 「うちと同じくらいに濃いんじゃね?」 「かもね」 というか勇者パーティは何かしら濃い必要性でもあるのだろうか。 正樹しかり、春香しかり、修しかり。 するとブルーノが不意にキリアに視線を送った。 「おっと、そこの子猫ちゃん。俺様に惚れたら駄目だ」 「……わたし?」 キョロキョロとキリアが周りを見回すが、そこにいる女性は彼女しかいない。 「俺様は外見だけで惚れてくるような女を相手をしない主義だ。それに今は、この子猫ちゃんがいる」 春香にウインクを送る。 決まってはいたが、春香は鳥肌が立ったのか両の手で腕を擦っていた。 キリアは突然に訳の分からないことを言われて眉根をひそめるが、 「イケメンって正直、クリス先輩あたりで見慣れてるのよね。っていうか貴方、顔がくどい」 ブルーノを一刀両断する。 優斗が笑った。 「正統派だもんね、クリスは」 「あっちに見慣れると駄目ね」 ドS師弟でさらに追撃。 そして春香に向き、 「鈴木さんも大変だね」 「春香でいいよ。こっちに来てからずっと呼ばれてるし、この世界って結構下の名前で呼ぶし。それにたぶん、ぼくの方が年下だよ?」 「こっちは高校で言えば高3だよ」 「ぼく、高2だから」 「じゃあキリアと一緒なんだね。分かったよ、春香」 「こっちもよろしくね、優斗センパイに修センパイ!」 簡単に下の名前を呼んだ優斗。 慌てたのはキリアだ。 「ちょ、ちょっとちょっと。フィオナ先輩、大丈夫なの?」 かつて、キリアを名前で呼ぶことすら悩むことになった優斗だ。 なのにこんな簡単に呼んでいいのだろうか。 バレたら大惨事しか思い浮かばない。 「安心して。名前ぐらいは大丈夫になったんだよ、最近」 「……それでも最近なのね」 色々な人に会い、さらには下の名前で呼ぶことも多い。 なのでフィオナに了承して欲しいと頼んだから、大丈夫だった。 三月末の一件で、どうやら彼女にも多少の心境の変化があったらしい。 「春香も濃い連中に囲まれて楽しそうじゃねぇか」 修がからかうように言うと、春香がもの凄い勢いで頭を振った。 「む、無理無理! ほんっとに無理なんだってば! ヤンデレとか百合とかアニメで十分だし、俺様とか実際にいたらキモいだけだし、ロイス君は幼なじみのことばっかりしか話さないけど、人畜無害だからロイス君だけが心のオアシスなんだよ!」 小声ではないので、後ろにいる青の騎士と赤の騎士にも聞こえており、地味に表情が沈む。 しかし優斗と修は出てきた単語に首を捻り、 「……あれ? 君って……オタク?」 「もしかして腐ってたりもすんのか?」 先程、優斗が言ったのは確かだ。 だがどうして彼女も使えるのだろうか。 「――っ!? な、なん、どうして!?」 「一般人じゃ言葉の意味、分かんねーだろ」 オタカルチャーに多少なりとも理解がなければ使えない。 「……あー、えと、これは違うんだって、だから、その――」 瞬間、優斗がロイスの足を引っかけ、さらに突き飛ばした。 飛ばした先は修。 修が体勢を崩したロイスを見事にキャッチする。 「す、すみません!」 「気にすんなよ」 なぜか謝るロイスだが、優斗と修は同時に春香を見る。 「キターっ! ヤバッ、ヤバ! うわ、桃源郷がここにあるよ! ロイス君も顔はそこそこ良いけど、やっぱりイケメンがキャッチっていうのが乙だよね! そうだよね! 時代が来てるよ、今!」 小声ではあるが、なんかもう色々と口から漏れていた。 表情も先程以上に輝いている。 「思ってたより腐ってんな」 「想像してたより腐ってるね」 春香の様子を見て断言する二人。 それに気付いた彼女は、 「は、謀ったな!?」 「謀る以前の問題だと思うけど」 単純そうな娘だからやったのだが、ここまで見事に嵌まるとは。 「じゃあ、攻めの反対は?」 「引っかからないよ。守り」 自信満々に答える春香。 「やり取り知ってる時点で駄目だから」 「……っ! 謀ったな!?」 「いや、こんな単純な手にやられるとは思わなくてビックリした」 面白い子だ。 素直にそう思う。 「そういえばこの面子で明日、王様に謁見するって?」 クラインドールの腐った勇者、会話ワンパターン黒の騎士、ヤンデレ赤の騎士、俺様青の騎士。 最初の二人はまだいいが、後者はさすがに殺気やら何やら色々とある。 「アポとか取ってんのか?」 「えっと……前々から各国に伺う話はしてますし、そこまで時間は掛けませんから」 ロイスが答えると、優斗と修は良い笑顔で言った。 「「 却下 」」