《拒絶する世界》コンコン「はあい、誰?開いてるから入ってきていーよ。」「失礼するぞ、コムイ室長。」入ってきたのはブックマンとラビだった。「暫しよろしいかの?」「どうぞ。丁度一息つこうと思ってたとこだし。あ、二人ともコーヒー飲む?」「気を遣われんでもよろしい。コムイ、被害状況はどうじゃ?」真っ直ぐにこちらを見つめるブックマンにコムイは無意識に居ずまいを正した。「ほとんど無いと言っていいと思います。建物の被害はともかく、人的には。死者は無し、怪我人も少数。それも、大体はかすり傷だし。」「あの水晶の結晶のようなもののせいかの?」「それも・・・あると思います。――あの時出現したアクマはヘブラスカの間で40体、本部側で20体。でも、外壁の外側ではもっと居た形跡があるんです。」「・・・ほう・・・」「それが全部侵入してきたら防ぎきれなかっただろうけど・・・」「しかし入って来れなかったと。」「その通りです。これは神田たちの証言なんだけど、その結晶はアクマ本体は勿論のこと、どんな攻撃も通さなかったらしい。・・・それと・・・」「アクマを切り裂いた赤い光ってヤツだろ?リナリーから聞いたさ。」「これらを統合すると、この結晶塔・・・あ、これ僕がつけたんだけど、これは僕らを守っていたように感じるんだ。」「結晶塔?」怪訝な声で聞き返すブックマンにコムイが答えた。「たまたま森の向こうから見てたファインダーがいてね・・・。彼によると、本部はまるで大きな水晶の塔の様だったって言ってるんです。」「じゃあ、何で方舟まで閉じ込めたんさ?お陰で中々帰れなかったさ。」「それなんだけど・・・アレン君にあの後、方舟の中に入って調べてもらったんだ。そうしたら、アクマが閉じ込められていたらしい痕があったそうだ。」「やはり方舟を伝って来ておったか・・・・なんじゃ?らしい痕とは。」「アクマの残骸が残っていたそうです。それも大量に。」「では何か?そやつは方舟の役割を知っていて、他から切り離し、中のアクマを始末してから開放した。ということかの?」「まあ、そんなところです。・・・理由は分かりませんが。」「――第3勢力かの――」ブックマンは椅子に座りなおすと、背もたれにもたれ掛かった。「かもしれません。」「そういえば、ロックの方はどうしたさ?意識が無いって聞いたさ。」「さっき気がついたって連絡が入ったよ。・・・実を言うと彼が1番重症でね、あばらにヒビが入ってるらしい。――で、どう思います?ブックマン。」「微妙なところじゃの・・・パメラの方はまったく反応は無いようじゃが、ロックは・・・ヘブラスカは何と言っておる?」「それがね・・反応したのはキューブの方だって言ってるんだ。――ほんの一瞬らしいんだけど。」ロックが目を覚ましたのは医務室のベットに上だった。上体を起こそうとすると、胸に鈍い痛みが走る・・・咄嗟に直そうとして思いとどまった。――ここではまずい。「ロック、目が覚めましたか?」顔を上げると、トレイを持った19がいた。・・・ほっとした顔をしている。そばにある机にトレイを置いて椅子に座り込んだ。「スープを貰ってきました。少しでもいいですから食べてください。」「ありがとう・・・いただくよ。」ベットに端に腰掛けてスープ皿を受け取る。食べ始めたロックを見た19は林檎を取り出して皮をむき始めた。「・・おいしいね、このスープは。」「ジュリーの料理は天下一品だと皆が言っています。スープもどれを選ぶのか迷ってしまいました。」「スカウトして連れて帰りたいぐらいだね。」笑いながらロックが言った。「全くです。」「あ、目が覚めたんですね。良かった。」声をかけてきたのはアレンだった。並んでいるベットの間を縫ってこちらへと歩いてくる。「中々目が覚めないってパメラさんが心配してたんですよ?」ロックの傍にくるとアレンはペコリと頭を下げた。「すみません、僕がもっと早く気がついていれば・・・」「君の所為じゃないよ、アレン。凄い攻撃だったし、君がイノセンスで守ってくれなかったら、こんなものじゃ済まなかったよ。」柔らかな微笑を見せたロックにアレンは安心したように言った。「じゃあ、僕はこれで・・・。あ、そうだ、ここの婦長さん、凄く怖いですから、ちょっと治ったからって抜け出しちゃ駄目ですよ。」「と、言うことは、君はやったことがあるんだね?」からかうようなロックの口調に少しはにかむように言った。「ええ、まあ・・・そんなところです。」「アレン、何処にいるであるか?」医務室の人ごみを縫ってクロウリーがやってきた。――きょろきょろとあたりを見回している。「おーい、クロウリー、こっちこっち!」大きく手を振るアレンを見つけて近寄ってくる。「紹介しますね、ロックさん、パメラさん。こちらはアレイスター・クロウリーです。僕と同じエクソシストです。」「よ・・・よろしくである、ロック。ロック?」手を差し出しながら何事か考えている。「あっ!あのロックであるか?イカサマ決勝戦の!」「ってなんですか、クロウリー!失礼ですよ!誰がそんなこといったんですか!」「・・・ラ、ラビである・・・」急に怒り出したアレンにやや後ずさりながらクロウリーが答えた。「――ったく!ろくなこと教えないんだから、もうっ!」・・・何だか笑い声が聞こえたような気がしてベットの方を振り返った。――胸元を押さえてロックが笑っていた。パメラが目を丸くしてそれを見ている。「確かにその通りだろう?アレン。」笑いながら言ってくる。「まあ、そうですけど・・・。あ、そうだ、ロックさん。僕にあなたの技、是非教えてもらえませんか?」ベットに手をつき、身を乗り出して迫ってくる。「え?い、いや、技といわれても・・・・」「――やっぱり駄目ですか・・・。そうですよね、普通手の内はさらさないものですし・・・」がっくりと頭を下げ、どうやら自分で納得したらしいアレンを見てロックは胸をなでおろした。・・・あの技は指先でカードを読み取り、引くときに転移させてすり替えるやり方だ。ほとんど無意識でやっているというのもあるが、さすがに教えられない。「クロウリー、それであなたは何をしに来たのですか?」怪訝そうに問いかけたパメラにクロウリーははっとしたように顔を上げた。「そ、そうである、アレン、リナリーが呼んでいるである。早く行くである。」「わかりました。じゃあ、また。」ばたばたと駆けて行くアレンたちを見ながらロックは呟いた。「ホーム、か・・・」“19、君は方舟の中に入れるか?”トレイを持って食堂へと帰る19に問いかけた。“はい、先ほど内部を掃除した時にピアスを片方置いてきました。これを目印にできます。”“手が空き次第、すぐに行って欲しい。ユリアナも連れて行ったほうがいいだろう・・・。先ずは内部の開いているところをすべて閉じてブロックして欲しい。もう二度とあんな侵入はごめんだからね。それから中にある情報を洗いざらい持ってきてくれないか?・・・今は少しでも情報が欲しい。”“マスターはどうされるのですか?”“僕はあの中には入れない。方舟は僕を拒絶する。・・・ヘブラスカのように。”「たっだいまー・・・と。」きょろきょろとあたりを見回しながらティキが入ってきた。「おっかえりー・・・ティキ、また失敗したの?」ロードが首にかじりついてきた。「人聞きの悪い・・・ロード、不可抗力だよ、こいつは。」「何、それ。」「どうしようもなかったってこと。」「何がどうしようもなかったんデスカ?」隣の部屋から千年公がひょこっと顔を出した。手にはボールと泡だて器を持っている。「・・・て、なんすか?それ。」「ロードのおやつデス。それよりティキポン、何か分かりましたカ?」「何かって・・・なんです?」「しらばっくれるんじゃありまセン。教団本部で変な反応があるから調べて欲しいといったでショウ?」「だから変な反応ってなんです?ンな訳わかんないこといわれても・・・」「本部の襲撃も失敗しましたネ?」「あー、やっぱりティキ、失敗したんだ。」「うるさいよ、ロード。だから不可抗力だっつってんでしょ?いきなりガラスみたいなもんで包まれて、中のアクマどもとは通じないわ、外からいくら攻撃してもぜんっぜん効かないわ・・・いや、あれマジで硬かった。それと・・・」ティキはタバコに火をつけると一服。プハァーと煙を吐き出すと続けた。「大気圏外で変なやつと出会いました。」「どんなヤツデス?」「男か女か分からんけど、えらく強そうだったな。何せそこから下のアクマどもを殲滅されちまったぐらいだし・・・そういや、あいつのイノセンスっぽいガラスみたいなやつ、下のと似てたかも。」「なるほど、おかしいですねネェ・・・」ひとしきり泡だて器で混ぜていた伯爵がいきなり振り向いた。「それで、ロードの方はどうなんデス?前の方舟とのアクセス、成功したんデスカ?」「あ、それ、失敗。」あっさりと、ロード。「え?でも俺が行ってた時はつながってたじゃん。中にアクマ入ってただろ?」ティキが驚いたように言った。「うん。でもすぐに切れちゃって・・・たぶんアレンだと思う。どうしたのかなーってやってたらいきなり、空間ごとブロックされて・・・」「――あのガラスみたいなヤツか?」「そう・・・だと思う。こりゃ駄目だって思って暫くほっといたの。さっきもう一度見に行ったら・・・」「行ったら?」「中身全部書き換えられてブロックされてた。たぶん中のデータ、みんな持ってかれてると思う。」「特に構いまセン。あそこに残っていたのは旧くて役に立たないものばかりデス。それより、いやな予感がしますネェ・・・私のシナリオに無いやからが入り込んでるみたいデス。」「何、弱気になってるの?伯爵。シナリオなんて書き直せばいいでしょ?なんか面白そうじゃない、そいつ。――あたしも遊んでみたいなぁ・・・」にやりと笑うその顔はまさにノアそのものだった。