『同盟結成を祝って……乾杯!』
カツン
コップを軽く打合せた後不幸同盟は愚痴をぶち撒けていく。
「いやもう今日まで大変だったよー、鬼巫女がさー……」
最初に口火を切ったのはルーミアだ、彼女から霊夢への不満が語られる。
暴走時謝ったしそれは反省しているが『それ以前』のことはやっぱ少しだけ怒っていた。
「偶々その時私しか近くに居なくて、それだけの理由で滅茶苦茶こき使われて……
炎の剣を振り回す『爆弾娘』や電子の砲撃を当たり構わずぶっ放す『USC二号』と戦わされたんだよ!?」
今は同じような事はさせないと霊夢は約束してくれたが、それでも今でも震える程の地獄だった。
「私はねえ、暗……学園都市公認の治安維持中に酷い目に有ったわ、そりゃあっちに正当性有ったけどさあ」
次に心理定規が話し始める、行動自体は正当性が消えたので被害者ぶる気はないが一点だけ納得出来ないことがある。
「その時能力使った相手が居て……私に命令していいのは『イブキ様』とやらだけとか言ってブチ切れやがったのよ!?
そいつ怒ってさんざん抵抗されて、その後根に持ったのか何度も襲撃してきて……危うく死ぬかと思ったわ」
恩人との関係性に気づかず触れてしまった代価の集中攻撃を思い出し、心理定規は自分の体を抱きしめ青褪める。
「うう、私だって命令なのに……しかもその後何かに襲われ、うぐ!?」
「心理定規さん!?」
「う、頭が!?最後の襲撃を思い出そうとすると頭痛が……」
「おーい、大丈夫かー?」
それどころか『闇を纏った何か』に喰われかけたことを思い出しガタガタと震えた。
余りの恐怖に忘れようとした記憶を思い出しかけた彼女を風切とルーミアは宥める。
尚ルーミアは一々襲った相手など覚えてないので当然忘れているが。
「ふう、だ、大丈夫よ、落ち着いたわ……次は貴方ね」
「あ、はい、私は……」
そして氷華に順番が回ってきた。
だが、彼女はそこで口ごもる、記憶を遡って行くと突然途切れたからだ。
「皆に無視されて、いや街に気づいたら立ってて……あ、違う、その前は……あれ、あれ、何で……」
『氷か?』
「……何も思い出せない、その前の記憶が無い?」
今更ながらに記憶の空白に気づいた彼女は混乱する、あるいはそれが『最初から』だと気付きかけた。
違和感に気づいてしまった氷華、いや××ー×=××××、だがその時二方向から伸びた腕によって彼女を優しく抱き上げた。
「そう、貴女も大変だったのね、きっと忘れてしまいたい程酷いことが有ったのでしょう」
「お前も大変なんだなー……嫌なことは忘れちゃえって、その日その日を楽しみゃいいのさー」
益々同類だと思った二人が優しく抱きかかえる。
尤も記憶を忘れようとする心理定規とは最初から無いから違うし、ルーミアは単に刹那的だなだけだが。
だが、それで彼女は自分への疑いを一旦消す、例え単なる先延ばしだとしても心地よさに負けてしまった。
『嫌なら言わないでいい、それより飲もう』
「……はい!」
氷華は過去(自分を確かにすること)よりも今(同類とこの心地良さに浸ること)を選んだ。
第二話 幻想の命・二
泣き出した氷華は仲間に宥められ落ち着く、直ぐに三人は神社での馬鹿騒ぎを再開した。
眼下のそれに思わず突っ込んだ少女が居た。
「いやいやいや……そこは気にしようよ!?」
「……落ち着け、あっちにばれるぞ、佐天」
「おっと……」
露骨に怪しい少女の記憶喪失という怪しすぎる要素は気にしておけと、言おうとしたが隣の屠自古に静止された。
突っ込み掛けて屋根から乗り出そうとしていた彼女は慌てて引っ込む。
「ううむ、ますます怪しい……でも同時に悪人っぽさが皆無なのがやり難いなあ」
「悪人なら悩まず喧嘩を吹っかけられるか……過激だな」
ちょっとズレたことを言って、悩み中の涙子に屠自古は微妙な視線を送った。
「……どこぞの放火魔よりはマシだい」
「筋金入りの放火魔と比較される時点で十分過激だと思うが?」
「うぐっ!?」
言い返そうとしたら逆に自滅した涙子は呻いた(地味に屠自古が仲間を放火魔扱いしている、その世話に大分苦労してるようだ)
(……まああっちの暗部の方は問題はないか、あの分じゃ本気で愚痴りたいだけだろうし)
一応収穫は有った、涙子は僅かに心理定規から警戒を緩める。
だが、代わりにもう一人への疑いが強まっていた。
「過去のない女か……自分すらそれに気づいてないってのがやり難い」
「……もしかしたら『過去の記憶』が本当に無いのかもしれんな」
「……と、いうと?」
「本当に最近生まれたか……私や芳香のように違う存在と成ったか、そのどちらかということだ。
……尤もそのどちらにしろ、あれの正体が何かをわからねば動き様がないがな」
「結局そこに戻ったか……人かそうでないのか、それなら何なのか、わからないとどう話しかければいいかわからないや」
推測は殆ど進まず、結局はその少女の謎、『正体不明さ』により涙子は動くことが出来なかった。
「……楽しそうだからいいんじゃない?」
「そういう訳にはいかないんだよ、芳香ちゃん……今のあれは酔ってるだけ、素面でも無害とは限らないんだから」
「酔っぱらいなら安心ってこと?」
「違うよ、あれが酔ってるのは酒じゃなく空気、友とはしゃぐ心地良さ……それが抜けた時あの子がどう動くか、気をつけないと」
こうして監視中も得体のしれない少女は益々酷くなる。
あの少女がこのままずっと人畜無害でいてくれたら、そう自分の考えは杞憂であってくれと涙子は祈った。
(……嫌だな、夏休み色々あったからどうしても疑っちゃうよ)
涙子は大きく嘆息して正体不明の少女の監視を続けるのだった。
ギコンガコン
畑を鋼鉄の四足獣が駆けまわる。
「新入り、遅いぞー、超運ぶのです!」
『ま、待て、トン単位の土や岩を運ばせてまだ足りないか!?』
ちっちゃい方の茶髪の少女が巨人に命令する。
不満気に相手は言い返そうとしたが少女の言葉でクレームは止められた。
「え、じゃあ仕事辞めます?……暗部や某研究者のせいで路頭に迷っていた貴方を労働力として雇ったのはどこでしたっけ?」
『うぐ、やるよ』
装甲越しに操縦者の泣きそうな声が返ってきた。
操縦者、元暗部のシルバークロース・アルファはこんな経緯でアイテムの下僕に成っていた。
アイテムとしては火力担当の麦野(現在欧州食べ歩き中)不在の穴を埋める為、また何か仕出かされないよう監視の意味もある。
「……やり過ぎじゃありません?」
このやりとりを見ていた大きい方の茶髪の少女、ミサカ01号が小さい方こと絹旗に言った。
「ああ良いの良いの、あんだけデカイなら比例して仕事量も増えますって」
「そういう物ですか」
(……昔の禍根で虐めてるのも少し有りますがね)
絶対能力進化計画で敵対し、その時追い回されたことを結構根に持っているようだ(後半口に出さなかったが)
オオォン
その時排気音が聞こえた、ガレージの方だ。
「おや?」
「はて……」
絹旗と01号がそちらを見るとバイク、背にバイクスーツの男と金髪に改造制服の少女が乗っているのが見える。
「浜面、フレンダ?」
「ああ絹旗か、少し出てくる」
「畑の番、頑張るって訳よ」
「は、はあ、まあ行ってらっしゃい(……どういう組み合わせなんだろ)」
どうしたのだろうと思ったが絹旗はそこまで気にせず二人を見送った。
「ねえ、新入り、言わなくていいの?……元スクールの心理定規が未開発区に行ったことを」
「止めとこう、絹旗はシスターズを気にしてるからな……その関係で敵対してた心理定規と聞けば爆発しかねないし」
「……ああそうね」
運転中浜面は後ろのフレンダから問い掛けられ、一番シスターズと仲の良い仲間のことを含めて答えるとフレンダは納得する。
「今は心理定規が何をやってるのか調べるのが先って訳ね」
「ああ、それ次第だな、絹旗に言うかは……」
荒事に成れば呼べばいいと、その時シスターズの件の恨みを絹旗に返させればいいと考えていた。
ザザッ
二人が結論を出した時丁度通信、仲間からの連絡が入った。
『こちら滝壺……監視カメラをハッキングしたよ』
「了解、目的地までのナビ頼む」
「実際動くのは私と新入りがやるから、滝壺は後方指揮を頼むって訳よ」
こうしてアイテム(-2)もまた心理定規達を調べ始めていた。
そしてもう一人、三人組を独自に追い調べている者が居た。
(垣根の部下の心理定規……それに、よりによって前回暴れたルーミアか、もう一人ってのも少し気には成ンなァ)
白い超能力者、一方通行である。
彼は特に目立つルーミアの目撃情報を辿り、神社の近くまで来ていた。
「目撃情報は暗いことを愚痴り合うばかり、意味がわからねァな……」
そんな一方通行だが、目的の三人を探していたことで少しだけ前方への注意を忘れてしまう。
更にその前方、『帽子』を被り『沢山の布包み』を持つ少女もまた新鮮な学園都市ではしゃいでいた。
だから互いに気づかずぶつかってしまった。
ドン
帽子の少女は荷物をばら撒きながら弾かれた。
「きゃあウサ!?」
「おっと……悪ィ、大丈夫か」
一方通行は咄嗟に近くの自動販売機に手を当て倒れなかったが、帽子の少女は衝撃に耐え切れず転倒していた。
ドサッと背中からアスファルトに倒れた彼女はしばし悶絶した後涙目で立ち上がった。
「いたた……げっ、荷物がばらばらウサー!?」
「……手伝う、これか?」
ばらばらの荷物の一つ、『布に包まれた棒状の物体』を拾い少女に渡す。
「いや転ばせて悪かったな……これもだ」
更に詫びとして一方通行は近くの自動販売機でジュース、学園都市名物の珍妙なドリンクではなく普通の物を購入し渡した。
一瞬きょとんとした後少女は受け取ってニッコリ笑う、
「ありがとうウサ、目つきの悪いお兄さん!」
「いやぶつかったのはこっちだからな……」
「それでもありがとうウサ……あ、『てゐ』様へのお届け物遅れちゃう、もう行かないと……拾ってくれたの感謝するウサ!」
ダダッ
「……走るとまたぶつかンぞ、前に気をつけろよ」
「はーいウサ!」
余り変わらないペースで走り去る少女を見送った一方通行は大丈夫だろうかと思った。
「しかし、さっきの包みは……」
だけど見送りを終えた一方通行はふと懸念を覚えた。
先程少女に渡した布包みが気になったのだ。
(まるで姉貴やノーレッジ達が持つ札や本のような……行くか)
唯の勘だが同時期だけに三人組との関係を疑った、彼は少し考えた後間隔を開けて少女を追うことにした。
ダダダッ
グビグビゴクゴク
「ぷはあウサ、あいつ見掛けの割に良い奴ウサ」
走りながら、白い少年の詫びの品を飲みつつ少女は走って行く。
「ウサウサ、さて急ぐウサ……てゐ様に『これ』を渡さないと」
帽子を被った少女、その帽子の中に『白い兎の耳』を隠す少女が先を急ぐ。
その手の中には無数の布包みが有った。
タタッと走る振動で僅かに中身が見え、包みのうち一つが陽光でキラリと輝く、それは神秘的な輝きを放っていた。
「てゐ様、何に使うんだろう?……姫様が弾幕で使うこれ、行き成り持ってこいだなんて……」
それは『黄金の茎』に『白銀色の玉の実』が付いた『自ら光り輝く木の枝』だった。
我が道を行く不幸同盟とそれを気にするの3組程、うーん台風の目みたい。
あ最後のは蓬莱の玉(弾)の枝です、てゐが戦力として借りた奴ですね・・・ちょっと特徴描写が難しい、その辺手を加えるかも。
以下コメント返信
いいい様
ええ四コマレギュラーのウサギ達登場、今まで永遠亭関係者が登場させられなかったのでやっと出せて少し嬉しかったり・・・
確かに紫が元凶だ、東方キャラが今まで少なからず関るし・・・多分苦労するのアレイスターだしいいかなって感じなんでしょう。
うっちー様
いや本当は一部でこの話を書く予定でした、でも量的にあっちは終わらすしか無くて・・・仕込みが無意味に成って悲しい。
てゐは悪戯娘だけど忠誠心キャラで行きます、四コマのあれはあれで好きだけど。
九尾様
都市の外に居られないのは姫様の力で何とか・・・あれ時間経過を遅く出来るから消滅前に使って止めればいいかと。
・・・火鼠の衣は建築材のアスベスト説が有るので困る、直ぐ手に入ると話が進まないのでこのSSの日本でも使用禁止ってことで。
まあ燕の子安貝でないといけない理由は後々でっち上げる予定。