「……はああ」
黄のシスターが遠目に街を見やり、サイレンや僅かな黒煙、そして魔力の残り香に深く溜息を吐いた。
「はあ、どっかの馬鹿のせいで遅ちまったか、やってられんよなあ全く」
「……申し訳ございません、司教」
「……お前じゃなく『上』だ、シスター・リドヴィア」
ズルズルズルッ
頭痛そう悩ましそうにするヴェントは『引き摺る』リドヴィアが暗い顔をしたのに気付きフォローの言葉を掛ける。
霊装関係では言いたいことは有るが寧ろ犠牲者といえる。
だから放っといたら『最悪自分の命で全て責任取りかねない』彼女を(監視の意味でも)こうやって隣の手に届く位置に居させているのだ。
「言っとくが時代錯誤に腹切ろうなんて考えんじゃねえぞ?」
「……はい、先程錯乱して申し訳ございません」
「別に良い……仕事だ仕事、状況はどうなってる?」
『偽装』報告時の醜態を思い出しショボンとするシスターを宥めつつ、彼女は学園都市で先に動いてもらっている連中の元へ。
祭りで段々と賑わっていく人混みを億劫げに抜け、何故か疲れてるシスター集う偽装バンにそっと顔を出した。
『し、司教、よくお戻りで!』
「……アニェーゼ隊、何か有ったか」
「そのう、祭り初日から問題が幾つか……」
疲れ切った様子のシスター達の喝采に迎えられ、また報告の言葉にヴェントもゲンナリした。
「とりあえず逃げ出した錬金術士、それとどうも第三勢力として人外が……あっ、吸血鬼とか、報告に有った自由人共も!」
「ふうう、また休めねえな……知ってた、うん知ってたよもう……」
『あ、慣れ切ってる、ドンマイ司教様……』
祭りの夜に星は散る・四
ワアアアッ
『日程進んで、今回の競技は障害物競走……妨害もまァやり易いし精々頑張りな』
歓声が競技場に響く、ある意味大覇星祭らしくなってきた。
解説席の一歩通行が妨害を受け入れ、というか寧ろ荒れた方が面白いと言いたげに推奨し、言われるまでもなく学生等はその通りにするのだ。
特に一部の面子はある理由で必死だ。
『おう、序盤スタートに失敗した強豪校、さっさと本気で行け……特に『長点上機』、一応同級生の俺の面子潰すンじゃねえぞ?』
「い、イエッサー、第一位!」
ザッ
ドゴオオォ
尚よりによって中立である筈の解説側の発言で、そりゃもう必死に名門長点上機の能力者(特に優秀とされるレベル四前後)が妨害し回っていた。
「……ちいぃっ、『テコ入れ』のつもりか、一方通行!」
運悪く(あるいは何時も通りに)同じ回に当たった上条が肩を落としつつ右手を振るう。
後で一位殴ると決意しつつ、彼は妨害者を右手で押さえ込んで同級生を先行させた。
「青ピその他、今のうちに上位取ってポイント稼いどけ!」
『すまん、上条!』
殿の上条を残し同級生が駆けていって、超能力者のせいで微妙に戦場に成りかけていた戦場に同じ超能力者が頭を抱える。
(……うーん、これもう運動会じゃないわね今更だけど)
同じ超能力者として恥ずかしそうに、微妙に縮こまった美琴が先輩である上条を心配しつつ広報の仕事は一応する。
『あー、ここで大会本部から緊急情報……前言った暴動対策で日程繰り上げになりました、注意してね』
『今日の競技は昼休み分までとのことです、細かいことはスタッフに』
『……なので、その分競技を頑張ってください皆さん!』
(……どいつもこいつも真面目でこっちやること無ェな、俺は楽だけど)
残念そうに残り後日に回すと美琴が告げ、それに少し緊張気味に氷華と椛がフォローの言葉を付け加える。
おっかなびっくりに恐る恐るといった感じにだが突然代理を任された後輩小動物チームは上手くやれてるようだ。
一方で既に自分の仕事は無いなと、第一位が頬突いてだらけていたが。
「やっぱ霊夢の弟分だね、イイ性格してるよ」
「……まあ一応楽しんでるようだから、お姉様達も」
「……ちっ、競技置いといて聞き惚れてたいですの、お姉様の解説……」
「あっ、黒子さんはノーコメントで……」
そんな解説席を第二走者、チルノにミサカが呆れあるいは微笑ましそうにし、何時も通り後輩がテンション上げて天狗が流した。
ドンッ
「……でそれはそれとして、今です、チルノ!」
「おうっ、妨害タックル!」
『きゃあ!?』
が、そんなこんなで始まった二走目も早速波乱、最初に切り替えたミサカ(人生初の運動会に実は本気だった)の指示でチルノが特攻したのだ。
彼女は数個目の障害物、『ネットを潜ってる』最中の黒子とはたてに飛びつき、自分毎ネットに絡め取らせる。
更に悠々とミサカが横を普通に追い抜いていって、足止めされた黒子達が唖然とし叫んだ。
「ここは先手必勝、最高ポイントの一位貰います!」
「ふふっ、今日はあたいもチームプレーに徹するよ!」
『ずっこ、ってああ抜けないー……』
上条ばりに捨て石になったチルノがニンヤリ笑い、それに見事に嵌って悔しがる二人にこれ見よがしに手を振った。
そのままゴールテープを切り、それからミサカは勝者の証のメダルを会場端、そこで『準備中の二人』へ掲げた。
「打ち止め、勝ちましたよー……そっちもダンス頑張って!」
「うん、見ててね!」
既に混じってる妹、予備のフリル一杯ダンス用衣装の打ち止めとブンブン手を振り合った。
今日の残りは日程繰り上げで小学部のダンスのみが残る。
二人の少女、打ち止めとフレメアは後半戦終え障害物を片付けた競技場をゴクと緊張気味に見詰める。
そして序奏部分の音楽、行進が開始され家族の視線、縁ある者達のカメラが集中する中歩いて行く。
「妹たちの大一番……はたてさん、準備は!?」
「……ふふっ、競技で不覚は取ったけど本業の技を見せてやる!」
「……むきゅ、まだ腰痛いし素人だけどこっちも良いわ、小悪魔に頼まれてるしね」
『他も配置良しでーす!』
「よしっ、じゃあ記録は任せたわ!」
パシャパシャパシャッ
『頑張る……行くぞおっ!』
二人の少女達がタッタと手を繋ぎ駆けていった。
『ふふっ、騒がしい街……』
二人の男女、聖人と天使が呆れつつも微笑ましく騒ぎを見守る。
白蓮とミーシャ、それぞれ宗教は違えど生粋の穏健派だ、人の営みがそのまま進む様を笑いながら教会の給仕(二人共真面目なので自分から言い出した)して回った。
競技が終わって来た普通の客達、そして『関係者』一同に程々に冷まし飲み易くしたお茶を入れていく。
「はい、喉乾いたでしょう、どうぞ」
「……明日も頑張ってね」
『あ、ありがとう』
心遣いに礼言われ、気にしないでと二人は微笑みと共に手を振り返す。
だって本当にこの時間を良いものと思ってるから。
「……て訳でこれ『見事にズッコけた打止め』、珍百景確定ね!」
「ダンス最後にスカートの裾踏んで見事にコケちゃって……」
「わあ、止めてえ、お姉様!?それと後生だから見ないでえ番外個体!」
「ほうほう、上位存在も型無しだ」
『ふふっ、本当に騒がしく……微笑ましいなあ』
あるいは『こういう』家族の弄り合いも含めて。
「ぷぷ、いい思い出じゃない」
「そのうち笑い話に成るって」
「……うう、意地悪ぅってミサカはミサカはあ……うう覚えてろようお姉様め」
「にゃあ、ドンマイ」
『ズッコけた打ち止めとそれに吹き出すフレメア』、確かに貴重はである写真に美琴やシスターズ、それにその友人等が大笑いする。
加えて今回は仕事で来れず(相手所有ボックスカーの)テレビ電話先から見る姉も。
「永久保存ね……フレメアちゃんの分も焼き増しする?」
『……ありがと第三位、マジ感謝ってね』
「……大げさねえ」
「フレンダお姉ちゃんたら……」
画面の先で暗部少女が一頻り妹の晴れ姿に目尻を緩まし、それから満足気な顔でペコと頭を下げる。
姉同士の共感か、美琴とフレンダは同時にフッと笑った。
『……やっぱ妹って良いわね(ってわけよ)!』
「シスコン……」
何かを分かり合い、それに周りが呆れた。
「……まあ、愉快な姉妹事情はさて置き……10032お姉様は好調みたいかな」
「楽しかったですよ、番外個体……ええ、貴重な体験でした、成程普通の学生らしいなと」
「ふふっ、良かったね」
一番上と一つ上の姉は置いておいて、番外個体は競技で暴れたらしきミサカに話しかける。
何となく賞賛しつつその後ろに、お疲れと肩を優しく揉むようにする。
「お疲れー、明日も頑張ってね」
「ええ、勿論沢山思い出を作って……ああ自由参加競技、せっかくだから来たらどうです?」
「……む、良いかも、時間作っとく」
末っ子の思いやりに感謝し身を預け、その後ミサカは妹に誘いをかける、二人は楽しくなりそうと肩越しに笑い合った。
『……その思いやり、俺(私)に分けて欲しいな』
「モヤシ共は自業自得でしょ」
が口挟んだ細いの二人、テコ入れの返しであるボディブローで脇腹押さえる一方通行、自分だけ安全圏だったツケに蹲るパチュリーが素気無く手を払われる。
実際自業自得なので対応が冷たい、パチュリーの従者の小悪魔ですらも。
「パチュリー様、自分で治癒魔法掛けれるでしょう……ミサカちゃんの写真、見せてー」
「あ、私も見たーい」
「待って、今出すー」
ガヤガヤとカメラと写真を出し、同時にそれぞれが前日に作ったお弁当を広げる。
大覇星祭一日目の収穫を、各自疲れを癒しながら振り返る。
和気藹々とした空気の中で少年少女が笑い合う(一部残念なのを除いて)
「あ、卵焼き美味しい……最初のあたいのレースは、勝利シーンは無い?」
「作った時甘い気したが丁度良さ気か……これかな、良く映ってるよチルノちゃん」
「お握り、唐揚げ、佃煮、うん美味しい……応援席の写真は無いのかな?」
「インデックス、他の人のも有りますから……はいこれ、チア服似会ってる」
「アッ、オチャ、イレテクルネ……シャシン、アトデチョーダイ、『説教部屋』モッテクー」
『……ちくしょ、体が痛くて動けない』
「……はいはい、湿布持ってきてあげる」
割と何時もの面々、四人と一体が笑い合い、その背後で負傷者二人が弱音を吐いて、嘆息した番外個体が手当に向かった。
平和なのかそうでないのか微妙な光景だ、尤も普段からこうといえばこうだが。
「……と、あァそうだった、少し良いか上条?」
「あん、何だよ、今度はどんな厄介事だ」
「失礼な、決めつけンなよ」
(湿布貰いながら)一方通行が写真を見る上条に何か思い出して話しかける、面倒そうにする彼に一つ誘いを掛けた。
「……また『これ』やろうぜ、どうせ暇だろ」
「はあ?」
ポイと放られたのは『風紀委員の腕章』(何時かのを返さなかったらしい)だった。
「どういう風の吹き回しだよ、今度は……」
「ボランティア、日程繰り上げで空いた時間潰しのついでにどうだ?」
「……ボランティア、さっきまで畜生野郎だった一方通行が?」
「おっと、これは手厳しい……」
競技場でのテコ入れを根に持つ上条等に、一方通行は少し考えた後説得の言葉を掛ける。
持っていた懸念、というか本音を。
「早期に火種潰せれば万々歳だろ……最低でも最終日くらい、祭りを平和に楽しみてェし」
「……ああ思ったよりヤバイと、お前の目から見てそんなレベルなのか」
「……姉貴が動いてる自分で察せ」
寧ろ一番の問題は相方が先行している状況かもしれない(そういう一方通行はやたら遠い目していた)
「……ふう、にとちゃんは暫くダウンか」
「ごめんよう……」
ちょっと焦げた河童を涙子と魔理沙が支え、一輪が手習い程度の法術で癒やす、三人に負傷者運ばれながら彼女たちは『ある店』を見つけた。
そう『店員が外国人だけ』で且つ『黄色い服装のシスター』が同席するそこへ。
「……っと、少し休憩しましょう……すみませーん、オススメ一つずつ」
(げっ、またかよ……)
カバーとして店員やってたシスター軍団が、客のフリしてたヴェントが一瞬顔を顰めた。
向うは慌てて商売用の顔で頼まれた品を配り、ヴェントは端で目立たないよう縮こまる、一瞬見たような顔の気がしたものの涙子等はクレープに手を付けた。
「あら?……ま良いや、頂こうか」
『頂きまーす!』
彼女たちは深く考えずそれぞれ手に取り、涙子と魔理沙ががっついてにとりは億劫げに、それをゆっくり食べ進めている一輪が微笑ましく見守る。
「ふむ、中々、また来ようかな」
「……紅茶が欲しくなる味だぜ」
「口ん中痛い、地味に染みる……」
「にとりさん、大変ねえ……お洒落なお菓子、今時の女の子らしいというか」
それぞれのペースで片付けながら、涙子たちは僅かに声音を落とし今後について話し合う。
「……で、これからどうします?」
「とりあえずにとりは帰して……ああ後は援軍呼ぶか、また探索行きたいが人足りなくなるし」
「じゃあ情報はこっちで伝えるよ、盟友」
「この地の者も動くだろうし、それを待つ手もあるけど……」
「あー、それも有りか、でも受け身過ぎるのもなあ……」
概ね怪我人のにとりは一旦戻すに直ぐに決まり、ただ積極的に探すか暗部等の動きに便乗するかで少し別れる。
さてどうしようかと考えこんで、そこでピピと電子音が響いた。
『おっ?』
「あ、私の携帯です、ちょっと離れますね」
一つ断りいれて、携帯を取り出した涙子が掛けてきた相手と暫し話し合う。
「……はいはい、成る程、構いませんというか願ったりですが」
向うからの何かしらの提案、それを受け入れたようで小さく頷く。
それから、彼女は最後の一口を放り込んだ魔理沙を見た。
「魔理沙さん、ちょっと良いですか?」
「ああ?」
「霊夢さんが……」
ビクッ
(……司教様?)
その瞬間ヴェントが動揺した、まず学園都市でそれなりに暴れた魔理沙に、次に何度か騒ぎを起こしたのを知る霊夢の名が出て悪寒を覚えたのだ。
慌ててポーカーフェイスを保とうとする彼女の視線先で、涙子は巫女の伝言を伝えた。
「……直々に報告欲しいと、まあ今後を考えて一番馴れた相手と組むのも有るでしょうが」
「ふうむ、確かに大事だな、情報は共有すべきで……にとり連れてった後その足で向かうか」
が不幸中の幸いか、内容はこの場を離れてくれるというもの、ホッと心の底からヴェントは安堵する。
「代わりに……」
「……え?」
だがしかし、それは少し早かった、はかった訳ではないだろうが涙子が希望を根こそぎにする。
「別の応援が来るそうです、なので安心して向かってください」
「おっ、わかった……こっちは任せるぜ、涙子」
「はいっ、『彼等』が来てくれるので!」
「……え、彼等?」
(あ、司教すごい顔してる……)
『代わり』そして『別の応援』に固まるのを他所に、涙子と一輪は別行動を取る魔理沙達を手を振って見送る。
そして二人が消えた後、入れ替わるように数人の男女がバラバラと現れる。
「合流場所の屋台は、と……」
「あ、あそこじゃない、かみじょー!」
「……魔力、感じるんだけど」
まず異能の右手を持つ少年と最強の氷精と白いシスターが。
「……お姉様、クレープですって?」
「太らないかしら、いや別腹という言葉が……」
人になった軍用クローンとその姉の超能力者が続いて。
「……甘そうだな、コーヒー無ェのか」
「残念、紅茶みたいね……まだ腰痛むわ」
「パチュリー様、背負いましょうか?」
言い出しっぺの最強と格好悪いところ見せたのを取り戻したいのか図書館主従が横を固めて。
「洋菓子か、熱血じゃないからな……ちょっと苦手だ」
「相変わらず判断基準わからんな、友よ」
「不満なら説教部屋戻ってもいいけど?」
「……いや、何でもねえ」
「……こいし、軍覇を虐めないであげて」
「ふふっ……」
原石の熱血少年と奇妙な関係のライバル達が最後に姿を見せた。
割と碌でもないのが上位陣揃っていた、一部知らない面子あるもののヴェントとシスター達の顔が一瞬で顰め面に変わる。
『……うわあ』
思わず呻き声が出た、そしてそれで『後輩』も気付く。
『……ヴェントさん、何してんの?』
「……見なかったことにしてくれると助かる、いや本当に」
それが無理なのは重々承知だが切実に言った、手遅れなのはわかり切っていたが。
最早火種だらけの学園都市、普通の街中ですらその例外でないと悟った、というか既に経験から身に染みてるので再確認というのが正しいか。
「今までと、状況的にも一筋縄でいかないって、わかってたけどさあ……行き成りかあ」
(司教が何か、もう悟り開きかねない諦観の笑みを……どんだけよこの街!?)
何かやつれ切って見える上司にシスター軍団が同情し又ドン引きもした。
・・・ヴェントを襲う地獄のフェイント、霊夢魔理沙に焦った所でもっと酷いのが来ました(まあ東方主人公sは前回出たので留守なだけだが)
・・・あっ初のトリオか男性陣合流、後レギュラー面子に前回までの続投組・・・&乗りの良さそうなの何人か、一部生け贄っぽいのは秘密です。
そんな面子で(いや時間は夕方だけど)夜回り開始、多分二三話で中盤・・・何か花子以外のオカルトはサクサク脱落するかも。
以下コメント返信
九尾様
河童だから仕方ないですね(書籍とかでのトラブルメーカーぶり思い出しつつ)、さて戦犯返上とリベンジ成るか、地味に進退掛かってるかもしれません。
・・・その漫画未読でググると『超耐久&怪力』『百超えの分身』とか有るような?どう考えても鬼の四天王か天魔レベルですその雲・・・そうだよなあ入道って大物か。
割と有りそうですが雲山が若い個体か、大部分の雲を寺に残してて程々の強さな感じでバランス的にも(ゲーム含めて)
花男様
師弟は旧作なので東方原作でやれないことと、対し最近のフリーダム河童で思いついたシーン、ある意味新旧東方ネタでした・・・ああ確かに地霊殿版ぽいこの河童。