ガバアと、『それ』は見事な『土下座』だった。
ヴェントは行き成りのその光景にポカンとする。
「あー、シスター・リドヴィア、どういうつもり?」
聖人殺し、そんな物騒な霊装を運んできた女の謎の行動に、彼女はおもわず首を傾げる。
が、次の言葉に彼女は固まった。
「……いんです」
「はあ?」
「……聖人殺しの霊装なんて無いんです!」
「……はああ!?」
思わず叫ぶ、どういうことだと相手に詰め寄れば、帰ってきたのは胡散臭い計画だった。
「……私の持ってきた礼装、刺突杭剣ですが……これ、実は『十字架』を剣に見立て偽装した代物なんです」
「……すまん、意味分かんない」
「ええと、そういう武器が有るからローマ正教に敵対するな、外部にそう見せつけてるだけでして……
つまり要は敵対組織に居るだろう聖人を牽制するそういう情報工作というか」
この言葉に、ピシとヴェントが固まった、そしてフルと震え顔を激情で真赤にする。
「巫山戯んなよ、上層部!」
「……さ、更に言えば『傭兵』である聖人アックア様への裏切り対策もあるかと」
「……もう死ねよ、上層部っ!?」
がああと叫んだ、叫びつつローマの方角に有りったけ呪いの意思を向ける。
怒り狂ったヴェントはそちらに中指立てた後、自棄気味に霊装を抱えるリドヴィアを首根っこ持って引いた。
「ああもう、知るか、このまま学園都市行くぞ……実際効果無かろうが『ハッタリ』にはなんだろ!」
「ひいっ、それバレたら首飛びません!?ヤケになってませんか!?」
「……五月蝿え、無いよりマシ、せめてブリュンヒルデを牽制してやる……バレたら上層部も道連れだ、だから諦めて一緒に来やがれ!」
ズルズルと喚くシスター引き摺って、全部終わったらクーデター起こしてやろうかと思いながら学園都市へと歩き出した。
祭りの夜に星は散る・二
ズドンズドンズドン
「うーん、こりゃあ少し不味いぜ」
遠くで何度も爆音が鳴って、それに『水兵服』の少女が望遠鏡覗き込みつつ眉根を寄せる。
小山ほども有る巨大水棲爬虫類が『黒と水色の二人組』に追い回されているのだ。
「……派手にやってくれるぜ、ここで削られるとちと不味いんだがなあ」
ヒットアンドアウェイで着実にダメージを受ける水棲爬虫類に、水兵服の少女はうーむと腕を組みし唸る。
「……太古、ネッシーの奴はオカルト中でも最重量級、温存したいとこなんだが」
七つのオカルト、その中でも『八尺様』と並ぶ肉弾戦要員の双璧で、それが削られるのは彼女からすればかなり宜しくない事態である。
「しかたないか、オカルトのどれかを応援に……他はこの街の牽制として、『誰』が良いかねえ?」
ちゆりは素早く戦力を計算、出た結論は少数を先行させること。
まずは選んだオカルト一名を向うに、それを除いて散開し街中を混乱させることにした。
「さて、そうとなれば……『こいつ』だな」
チラと、オカルトの先頭『学生服のオカッパ少女』を見た。
眼下には巨大な獣、全身頑強そうな鱗に包まれたそれに対し二人の少女は物怖じせず笑った。
「そんじゃまあ……」
「ああ、祭なんだし派手に……」
『行くぜ(行こうか)!』
ズドンッ
まずは爆撃、着弾と同時に弾ける光弾と高圧縮水流が下水道に伏せる『太古』の体を強かに打った。
グラグラと芯まで響く衝撃に一瞬反射的に身を屈めて耐え、が防御態勢こそが向うの狙いだった。
「ま、耐えるだろうね、だけど……」
「そうさせてからが……本番だぜ!」
二人は素早く急降下、太古が防御に気を取られた瞬間追撃に出る。
直前の爆破で押し退けられた水、その空白地帯に一瞬で飛び込みミニ八卦炉とお手製バズーカ(水流)を突き付ける。
ジャキンッ
「……っ!?」
「遅いよ、河童の科学力を見ろ!」
「喰らえっ、マスタースパーク!」
カッと八卦炉が唸り、そしてボンッと圧縮水流が弾け、『上向き』に太古の巨躯を押し上げる。
ドゴオオッ
「っっ!!?」
「……そんでもって追撃だぜ!」
地下水道を、そして天井を打ち抜いて太古が空を舞い、すかさず魔理沙が箒に飛び乗り追いかける。
一瞬で横並びになり、ホームグラウンドから追い出された太古へと再度砲撃体勢に。
「もういっちょ行くぜ、さあ覚悟……」
ジャキンッ
ゼロ距離で押し付けられたミニ八卦炉が古代恐竜(ネッシー)の胴部に、血の代わりに『光の溢れ出す傷』に押し付けられる。
「ナリは妙だが『霊』か……なら、手加減は要らねえな」
「……っ!」
ボワと八卦炉を中心に光が膨れ上がり、だがその瞬間太古が体を揺らす。
シュルリと細長い、靭やかな尾が魔理沙の利き腕に巻き付く。
「おわ、っと!?」
絡まった尾が力づくで射線をずらし、直後砲火が頭上へと空打ちさせられる。
「生意気な、チャージが無駄に……いやそれより、来るか!」
「……っっ!」
尾の次は鎌首が、大口開けたそれが魔理沙を狙って放たれる。
彼女は反射的に、砲の為に構えていたのとは逆の手を翳す。
グワアアアッ
「……させるかよ、マジックミサイル!」
自身を噛み砕こうとする大顎に、魔理沙はカウンターの弾幕を打ち込んだ。
ガンッ
「ッ!?」
「まだ、次っ……にとり、合わせろよ」
「……あいよっ、盟友」
口中を焼かれて竜の頭が仰け反って、その瞬間魔理沙が二度目の弾幕を、そして隣でステルス解除したにとりが発明品を握る。
「ふふっ、囮ご苦労……菊一文字コンプレッサー!」
「……次はそっちが行けよ、ドラゴンメテオ!」
ドゴオオッ
鋭く収束させた水の刃を竜の頭部が、続いて光の雨が竜の胴を強かに撃った。
ブワと激しく煙が舞って、その中でズズンと巨躯が傾いたのがわかった。
ギィアアアアッッ
「さて、ダメージは……っと」
煙の中を伺うように魔理沙が覗き込み、その後ハッとした顔で慌てて体を引く。
するとブウンと鉄塊、『尾』で跳ね上げられたらしきそれが一瞬前まで居たところを抜けていった。
「おおっと、荒っぽい……」
「……ひゅい、メンドイ、向うはまだやる気っぽい」
「……にとり、行くぜ、準備しとけ」
真下を見れば再び竜が水の中に、砲撃で空いたそれに飛び込み建築物の破片を掴んだところで。
それを見た魔理沙とにとりは一瞬顔を見合わせた後ニヤと笑う。
「……真正面から行くぜ!」
「ゴーゴー、盟友!」
ゴウッ
太古のオカルトの巨躯に、無鉄砲に見えるほどの突進、魔理沙は箒に捕まったにとりと共に急降下をしかける。
ブンと放たれた二度目の投射をヨーヨー(小さく弧を描く軌道)で躱し、直後激突寸前で彼女は反転した。
「行け、にとり!」
ダンッ
その箒から、反転間際にバール片手に飛び降りたにとりを残して。
「ガッ!?」
「ようしっ、河童の膂力を見せてやる!」
ガギィンッ
ニヤリと笑って、河童少女が巨大な怪異に殴り掛かった。
ワアアッ
「……中等部の意地を見よ!」
湧き上がる競技場で、学ランに着替えた涙子とチア服の椛が跳んだ。
先に土台、そこで組体操構築済みの常盤台学生の肩を足場とする、少しルール違反の気もするが常盤台は中等部のアイドルでも有るのでその辺無視し一気に駆ける。
真下から順に駆け上がり、最上段へと出たところで高々と一回転。
ジャララッ
高く飛んで、その後彼女は真下に鎖を伸ばす、そこへ走ってくる『桃色髪の無表情少女』に呼びかけながら。
『こころっ!』
「うんっ!」
後転の体勢のまま涙子と椛が鎖を同時に引いて、すると空中のこころが勢い良く真上へ打ち上げられる。
彼女は一気に最上段の更に上へ、そして涙子と椛はそれまで最上段の位置で腕を組み、そこへこころが足から降りる。
バッ
「やあっ!」
涙子達の保持した腕の上で片足立ちに、ビシと絶妙なバランス感覚を客に魅せつけた。
『決まった、どうだあ!』
ワアアアアアッ
(応援限定だが)無名高校の独走態勢、それに待ったをかけた涙子たちに競技会場が沸いた。
動から静に、抜群の跳躍力を見せた涙子とそこで決めポーズを取るこころに客たちは大喝采だ。
「……ふっ、中等部の意地を見たか!」
「うう、ずるいよー、それもう曲芸だよね!てか上の子プロじゃん!?」
「ジャッジー、ジャッジー!?」
「ふっ、応援ダンスに規定ルールなんて無いのさ!」
突如現れたライバルにインデックスとアリス(生き人形)がぶーぶークレーム入れるも、それが掻き消される程オーディエンスが拍手が繰り返される。
『ふむ、どっちが目立った?巫女Rさんに第一位さん?』
『常盤台、というか中学生連合』
『同じく、いや相手が悪ィだけか』
更にこんな言葉が解説席から飛んで、インデックス達は悔しそうに口を尖らす。
「ぐぬぬ、こうなったら……」
『アリス(さん)!』
が、諦めるつもりは到底無いらしく、隣のお姉さん兼お母さんポジの魔女に呼びかける。
一人と一体は彼女の手を握り、勢い良く頼み込む。
「ええと、なあに?」
「……曲芸には曲芸を、貴女の糸で四肢巻きつけて『ぶん回す』んだよ!」
「『人形遣い』ノ『業』、キタイスルヨ!」
すると彼女はふむと暫し考え、その後言うとおり『糸』を伸ばす。
但しインデックスでも、自分でも娘の人形でもなく、隅っこでマイペースに読書中の紫の魔女(一応周りに合わせジャージ服)へと。
そう、自分達が応援を、そこで踊って恥ずかしがってる間も何時も通りな薄情な奴に。
シュルシュルリ
「だってさ、パチュリー?」
「……え、えっ?」
「あんたチッチャイし軽そうだし……繰るなら丁度いいかなと」
「しまっ、まさか、自分だけ逃げたの根に持って!?」
「はい、地獄の一丁目へご案内ー!」
「むきゅああああ!?」
意思を無視し彼女の体はチア達のど真ん中へ、そして普段はノソノソ動く魔女が矢鱈キビキビ踊り始めたのだった。
『……人形遣いさん、中々強引ですねえ』
『まあ、祭らしくていいと思うけど……』
貴族風の少女が踊る娘らを見上げ、ふうむと小首を傾げる。
隣の銀髪の元気娘に『酌』されながら(学生に見えないよう静かさり気なくだが)芳醇なそれを啜りつつ思いつきを口にする。
「ふむ、運動の秋というが……郷でもこういう催し在っても良さそうか」
「いや、あっちは子供の数が……」
貴族、神子の言葉に、腹心である布都が人工的にきついのではと控えめに答えた。
「……別に少人数でも構わんだろう、あるいは各勢力で競争というのも?」
「ああ、それは面白そうですが……」
では数を絞って対抗戦をと、そう言えば少し布都が興味を惹かれたようにする。
が、そこへ、三人目の同席者、宗教仲間である雲居一輪が何か言いたげに手を掲げる。
「うーん、それはちょっと」
「……というと?」
「体力自慢とそうでないの、組織毎の『差』が有り過ぎるし」
『あー……』
一言で言えば偏ってたり両極端だったり、そういう連中が思い浮かぶ。
何とも言えない表情で、神子と布都が僅かに口籠る。
「……ていうか、組織内に限っても一部に負担集中するわよ、例えばうちの寺だと姐さんワントップだし」
「……よう考えれば、霊廟にはそういうのも居らんかったですな」
「ふむ、少し短絡的だったか」
僅かに残念そうに肩を落とし、神子は布都に入れてもらった二杯目を静かに傾け、その様子に布都達はそれぞれ手酌しつつ困ったように笑う。
「まあ、今回はこころの舞いを大人しく見るとするか」
「……ですなあ、それが良いかと」
「……子供連中元気良すぎ、ちょっと付き合い切れないかも」
そういう風に笑いながら、大人達は今日の主役である競技者(応援席込み)を見守るのだった。
「神子様、この後どうされます?」
「もう少し飲むかな……雲居殿は?」
「……前回の事件で知り合った子を冷やかしてきます、あっ日除け作って雲山」
まだ飲むらしい神子と布都に手を振って、一輪は相棒の入道に影を作ってもらいつつ応援席に向かう。
まず『前回戦った相手』、意地悪く笑う超能力者に写真取られ今更赤くなる涙子弄りでもと、そう思いながら。
ブウンッ
地下で鉄塊が放り投げられ、河童少女は反射的に横に飛んだ。
「ひゅいいっ、怖え当たるかあっ、グレイズグレイズってね!」
水道の壁や地面、突き出たパイプ等を飛び石のように、ピョンピョン飛んで質量攻撃を躱す。
二度三度そうやって躱した所で太古のオカルトは業を煮やしそれまでより大きな鉄塊を尾で掴んだ。
「……させねえよ、マジックミサイル連打だぜ!」
ズドンズドンズドンッ
が、そうはさせじ魔理沙が牽制の弾幕を放つ、立て続けの衝撃に龍の体がグラと揺れる。
そこへすかさずにとりが駆ける、両手に発明品目一杯手挟んで、一気に相手に跳びかかった。
「……っ!」
反射的に竜が尾をなぎ払い、がその瞬間にとりの姿が突如掻き消える。
「……甘い、読んでるよ!」
再出現した位置は竜の頭上、そこでバッと思い切り両手の発明品を放る。
ズドンと水流が爆ぜて、強かに竜の頭を傷めつける。
ガアアアッ
「……よしっ、追撃!」
苦悶の絶叫が上がり、ここが勝機だとにとりはバールを振り回し勢いつけて回転させる。
「……うりゃあ!」
ガウンッ
にとりは得物を大上段に叩きつけ、バキと頭部を守る鱗が弾けた。
ギァアアアアッッ
「ようしようし、有効打二ってとこか、なら……もういっちょ!」
彼女は素早くバールをその場に放り、代わりにお手製バズーカを肩に構える。
ジャコンと圧縮水球入りの弾丸を装填、未だ絶叫する竜の口中に突っ込む。
「成仏しな、お化けトカゲ……ロックオン、行くよ」
減衰無しの最大火力、にとりがにやりと笑って引鉄に指をかけた。
「ファイ「……駄目、やらせない」っ!?」
ドゴオッ
だが止めの刹那前に、『学生服のオカッパ少女』が妨害の一撃を叩き込む。
横合いからポンとにとりの肩に手を当て、直後『何の兆候もなく』彼女が弾き飛ばされる。
壁へと勢い良く飛んで、咄嗟に頭上で様子見していた魔理沙が横から掻っ攫い激突寸前でにとりを助ける。
「ちいっ、こっちはわかり易い霊だけど……にとり、無事か!?」
「だ、大丈夫っ……新手?、けど何も見えなかった!?」
「……油断するな、少し毛色が違うようだぜ」
「……ナイスフォロー、でも邪魔だな、早く合流しろって言われてるのに」
魔理沙が後ろ、箒の背に押しやったにとりを庇い、それに『学生服のオカッパ少女』がフンと不機嫌げに鼻を鳴らした。
「……適当に捌いて逃げるよ、『太古』の」
「おおっと、そうは行かねえな……折角の祭なんだ、思い切りやり合おうぜ!」
「しつこい人、面倒……」
突如の乱入にだが寧ろ望む所だとばかりに魔理沙の目がギラつく。
『恐怖』の思惑等知るかとばかりのそれに『恐怖』は一度肩竦め、それから隣の太古とともに身構える。
「二対二、派手にやろうぜ?」
「ひゅい、今度は連携勝負だ!」
「……ちっ、ならば退いてもらう、行くよ『太古』の……」
ガアアアッ
二人、それと一人と一頭、学園都市地下の戦いが架橋に入ろうとしていた。
・・・てとこで一区切り、とりあえずローマ正教あれこれ、&体育祭進めつつ戦闘激化って感じです。
次回は視点変え、二話振りに女神sと紅魔組が前に出てくる予定です・・・あるいは解説席の姉弟ども、どちらかそろそろ動かすか・・・
以下コメント返信
勇者***様
いや東方的に花子といえばやっぱ『例のバグ』、間違いなくファンのトラウマだし・・・なのでその分を加味しオカルト軍団のリーダー格ですね。
九尾様
ええはい例の古典オカルトさん達ですね、元ネタが資料豊富なので書いててイメージ固められ、その癖神秘録では自己主張無いと・・・二次的にとても有り難い方々。
何より纏まった数が居るのがグッド、物語の隙間を埋めるのにかなり助かってます。