小悪魔が番外個体の名を叫び、パチュリーが頭を抱えた。
「……ワーストちゃんが危ない、助けねば!」
「わかった、わかった……助け呼ぶからアンタは留守してなさい」
こいつが出しゃばればややこしくなると、身に沁みて知ってるパチュリーは部下を二三小突いて地面に転がす。
それからその頭に猫二匹、ミサカとインデックスの愛猫である『シュレディンガー』『スフィンクス』を乗っけた。
「はい、そいつ等の世話しててね」
ニャーニャーニャー
「うひゃっ、退いてー、シュレちゃん、スーちゃん!?」
「はいはい、アンタは留守番だっての……」
わかってるとばかりにシュレディンガーたちが小悪魔の上を陣取って、二頭分の重さに小悪魔が悲鳴を上げる。
そんな部下に苦笑しながら、パチュリーはミサカ達の保護者である男に電話をかけた。
PRR
「ああン?」
ダルそうに寝転がる一方通行が着信を知らせる携帯に顔を顰める。
面倒くさそうにそれを開き、耳に当てると馴染みの魔女の言葉が届く。
『はあい、元気かしら、もやし野郎……問題が起きたかもしれない、よく聞くことね』
「……はあァ?」
訳が分からず顰め面の彼に、構わずパチュリーが一方的に情報を伝える。
最初は訝しげに、だけどそれから少しだけ真面目な顔で彼は考え出す。
『……てことで、注意しといたら?』
「……一応聞いておく、手前ェのとこの赤毛はこういう時やたら輝くからな」
『ふふっ、当たってたら貸し一ね』
「ちっ、部下のだろうが……」
ちょっと嫌そうな顔で彼は端末を切って、それからむうと考え込む。
そして、少し考え込んでから『ある女』に繋がる番号を押した。
「……ここは姉に任すか、上手くやるだろ多分」
黙ってたら後で五月蝿そうだとも思って、彼は知人(友人というのは複雑過ぎた)へ伝言をやった。
狂信と敬心・二
ワアアアッ
「へえ……」
「まあ悪く無いか」
「……私は好きだけど」
祭りに向かう一行が(少し時間が早いし)場末のイベント会場を冷やかしている。
今見ているのは謂わばご当地のB級ヒーロー、特撮というには陳腐なそれのショーを地元の家族連れに混じって見学していた。
「……派手に煙とか炊いてるけど、学園都市在住じゃ凄く見えないなあ」
「ああ、確かにその辺麻痺しちゃうわね……」
チルノやミサカ達はそれなりに楽しんでいるようだが、流石に上条や美琴はどうにも乗り切れていない。
そんな風に苦笑する二人と同様、あるいは少し違う意味でショーの集中していない者も入る。
「わふ、原色の装束が目に痛いし動き難そう……」
「全くですね、何より武器の装飾が過剰だ……あれで台上で立ち回るのはそれはそれで大した物だが」
「……いや、そこを突っ込むのは止めてやれ」
ご当地ヒーローの大仰な装備に、椛や妖夢といった純粋剣士が思わず突っ込んだ。
唯一人、同じ剣士でありながら神子だけは少し違う事を考えていた。
「幹部の、無駄に外套バサバサやる所作……」
「太子さん?」
「……ちょっと面白いかもな、後で試してみるか」
「……偉い人同士、何か通じる物があるのか?」
「さあ?」
気に入ったのか自分の外套を数度揺らしたりして、そんな神子に上条達は首を傾げたのだった。
PRR
「……あら?」
そんな時美琴の携帯が鳴って、彼女は周りに気を使って慌ててイベント会場の端へ向かう。
そして、それに出て、一瞬ギクと動揺した。
「……先輩、少し出るわ、氷華さんと椛さんをお願いね」
「うん?……ああ、わかった、合流場所のホールはわかるな?」
「ええ、それじゃ……」
いざという時の合流場所を確認し、少し訝しそうな上条を誤魔化しながら美琴は外に出ていった。
どこか慌ただしく、足早に外へ向かう姿に数人が首を傾げていた。
「番外個体に何か有った……て言われてもねえ、いきなり過ぎるでしょもう」
一方的に告げてきた一方通行に口では愚痴り、だけど気になった様子で彼女は外へ出て意識を集中する。
チョーカー型の調整器を撫でる、本来自分は含まれないミサカネットワークに干渉した。
(……ふむ、確かに『今日』に限れば、彼女はネットワークとの接続や情報を上げていない?)
嫌な予感が当たった、番外個体は迷惑を掛けないように接続を避ける節があるがそれでも露骨に回数が減っている。
まるで自分の状況が伝われば動揺するとか、あるいは巻き込むたくない事態だとか、そんな風に感じられた。
「……行くか」
心配になって迎えに行こうとして、そこで彼女は隣に立つ影に気づいた。
「何だ、野暮用かい」
「おわっ、太子さん!?」
「……姉妹愛、それへの真摯な叫びが耳に響くのでな」
困った風に笑って、彼女は走る美琴に並んで言った。
「ええと、わかるの?精神干渉系?」
「……まあ、私の耳は少し特別でね、『欲望』が一番わかるがそれ以外も少々は」
それで気づいて追ってきたというと、それから彼女は今度は美琴の背を指した。
ピョコンと小さな手が、人形の手が白衣の肩から伸びた。
「私の場合は能力だが……『彼女』はミサカ殿達の観察力からかな」
「ワタシモ、イルヨー!」
「……『アリス』まで、ああ気づかれてたか」
姉の異変にミサカが気づき、友人のそれにインデックスが気づいて、ならと頼んで着いて行かせた人形のアリスが肩に乗っかる。
護衛は任せろとばかりに胸張る生き人形に、美琴は少し気まずそうに苦笑する。
「どうするかい、超能力者さん?」
「……ここで追い返す時間の方が惜しい、勝手に付いてきて」
「うむ、そうしよう、荒事なら思い付きを試したいしな」
「ワカッター、カッテニツイテクー!」
美琴は少し悩んでから首を振るう、説得は今更で、そちらの方が返って時間がかかると好きにさせた。
それに神子は鷹揚に、小さなアリスは元気頷いた。
そうして三人は足を早め、番外個体が居るという教会の方へと駈けていった。
ドンドンドン
奇抜な格好の男と、小さなシスターが要塞化した強化の扉を叩く。
「て、訂正するよな、こんな怪しいシスターと同列は納得行かん!」
「はああっ?こっちこそ!……私は怪しくないんだからね」
奇抜な男、天草式の魔術師とシスター隊の隊長であるアニェーゼが時折睨み合う。
尤もそうしてる間にも互いを警戒し、何時でも武器を向けられるようにもしてはいるが。
「……いや無理だって、あんた等さあ」
唯一人、外から見た印象を自覚している『司教』が冷静に言った。
「片や安っぽい服に訳わからん装飾でどう見てもチーマー、片や足の見えてる僧服でどう見ても逆セクハラ……
常識的にも、魔術師的にも満場一致で怪しいって」
『ぐはああっ!?』
冷静なツッコミに、天草式とシスターは勢力問わずショックを受けた。
二人はフラとよろめき、言い訳するように情けなく呟く。
「こ、これは術式の都合もある、実用性の問題だから仕方ないんだ!」
「……いや、それでも不良っぽく見えるのは駄目でしょ」
「……司教さま、私の方も……ええと、私の幼女体型で女らしさを出すにはこれくらい思い切るしか、それに実戦部隊故の動き易さの兼ね合いでして」
「でも、そこまでぎりぎりのミニスカはどうよ?」
更に突っ込まれ、二人は自分の体を見下ろし格好を改める。
「……」
「……」
『くっ、否定出来ない!?』
「……だろ?」
天草式の男は自分の格好を冷静に見て、あ完全に裏路地とかを屯するチンピラだと思った。
小さなシスターは自分の格好を冷静に見て、あ確かにミニスカは貞操敵にどうよと思った。
二人は呆然としながら非を認め、司教はやる気なさげに正解だと手を打った。
「……ところで、気が合ったところであれだが敵だよな、私等?」
『はっ!?』
それから拍手をやめて唐突に彼女が言えば、慌てて天草式の男とシスターが飛び退り距離を取る。
それぞれ波状の剣と錫杖をビシリと突きつけた。
「……シスター・オルソラは渡さない、引いてくれるよな?」
「まさか……あんた等を片付けて、教会内部への侵入を再開します!」
さっきまで情けない合いようから一点し、敵に戻った二人がジリジリと間合いを測り隙を伺う。
中世の決闘のように、仕掛ける瞬間を狙って二人は睨み合った。
「……司教様、長引きそうですが宜しいので?」
「ある程度はね、アンジェレネ……こうややこしいと強行突破は無理、長期戦に切り替えないとね」
司祭が向かい合う二人を見守っていると、アニェーゼ隊の副官であり最年長のシスターが話しかけた。
『車輪』の魔法具で空から観察する彼女は事細かに報告する。
「……敵は地の利を知り尽くしていて、『あの男以外』は攻勢と撤退を巧みに分けて奮戦しています」
「ふむ、あれは……天草式だろ、何時もの『救われぬ者の為に』ってのを今回もやりに来たんだろうが」
「ええ、上から見た限り相手も戸惑っているようです、シスター・オルソラの言葉かな?」
どうやら救助の誘いを拒まれたのは向こうにも予想外だったようだ。
相手はオルソラを連れて、即時撤退が目的だったのだろう。
そう考えると、司教から見て状況は悪くないように思えた、微妙な硬直状態になっているがある意味好都合だ。
「教会内の連中からすれば状況が混乱する程良いんだろうが……天草式のやり方は無駄が少ない、その分こっちも読めるしじっくり相手できるとも言える。
……だから、この隙にとは考えない、そして長引けばボロが出るか」
(魔術師には珍しく)能力とその脳への負担を知っている、だから長期戦を寧ろ歓迎した。
要塞化を維持できず出てくれば捕える手段は幾らでもある。
それまで待てば、面倒事はやっと終ると彼女は思った。
(……あるいは長引いた戦いの中でアニェーゼ隊が潰れてもいい、流石に討死しろとはいわんが退く『言い訳』になる)
それはアンジェレネには言わず、彼女は内心でだけ物騒なことを考えた。
「何だ、同じ『右方』の魔力が……」
が、その時司教は予想外の力を感じた。
よく知る物と似た、だけど大きく異る部分もある魔力だ。
「これは地の属性、テッラ……いや、大元である『ウリエル』その物だと……」
彼女はバッと教会から続く外、ある方向を、少しずつ近づく何かを睨んだ。
街の空、屋根や柱を蹴って二人の少女と一体の人形が突き進む。
しかし、その時神子とアリスは何かを感じ取った。
「教会はもう少しで……」
「……待て、御坂殿!?」
「コレ……マズイ、ヨ!」
美琴を二人が制止し、訝しみながら彼女達が辺りを見れば怪しい影を見つける。
待ちの中をゆっくりと歩む、深いローブを被った女性が一人、チラと時折、深い青い髪が溢れる。
「太子さん?」
「何だ、一体……強い欲望、それを感じる……」
神子は耳を傾け、そこであらゆる欲を聞き分ける力で強い欲を感じた。
「『誰かに自分を認めさせたい』『貶めた奴らを許せない』……厄介な気がするな」
続いて、生き人形のアリスは僅かにだが知る気配を感じ取った。
それは彼女の母である『アリス』やその姉妹、そして前の事件であった邪神にも感じたものだった。
「アイツ……『魔界』ノニオイ、ガスル」
「……よくわからないけど、『エリス』とか言う奴の仲間?」
「……ワカラナイ」
自身なさそうに言う人形に、少し困ったように美琴は女と教会の方を見比べる。
妹が気になり、だが二人が警戒する女も無視できない。
どうするかと悩んだところで、神子がゆっくりと降下する。
「……御坂殿は人形と共に先へ」
「太子さん?」
「ここで時間をかける訳にはいくまい?……それに直に話せば、目的が『聞ける』かもしれん、それ次第で対応すればいい」
「……お願い、任せました!」
一瞬迷い、だけど先を行くことを優先した美琴達が前進を再会し、それを見送って神子が一人残った。
彼女はゆっくりローブの女の前に降り立つと、剣こそ鞘に入れつつも前に立ち塞がるようにする。
ジャリ
「……何だ、貴様は」
「やあ、そこの方……この先に言ってもらうと少し困る、話をしないか」
できるだけ穏便に、だが無視して行かせることはさせないと立ち位置で言外に神子は示す。
すると予想以上に、あるいはある意味予想通りに、相手は激昂と共に魔力を立ち昇らせる。
「極東の術者か、話すこと等……無い!」
女は強い渇望とも取れる叫びを上げた。
金切り声を上げて、『月』の紋章の刻まれた錫杖と古代語で『エノク』と銘打たれた書を手に構えた。
「退け、『あの書』が有れば……我が堕天の過去は覆るのだ!」
「……ああしまった、地雷を踏んだ気がする」
はあと溜息ついて神子も構え、『敢て七星剣を抜かず』『ブワリと外套を一払い』した。
教会ではなくその手前で『聖人同士』の前哨戦が始まったのだった。
・・・合流まで書くつもりでしたが各キャラの会話が長引いたので分けます。
あ、最後のキャラ、ウリエルと同属性で魔界人の関係者、月でエノクで聖人・・・誰かはわかっても言わないように(実は同僚と同一存在説半々ですがまあ曖昧に)
以下コメント返信
黒丸様
ああ、多分あんな感じのはちょこちょこ書くと思います、そういう掛け合いと戦闘とかが半々くらいかなあ?
九尾様
ええ、怪しいから仕方ない・・・ああ後は原作でオルソラが最初天草式を信じられなかったシーン再現だったり、まあ姉の到着まで長引かせるのもあるけど。
ジョジョは奇抜さがシルエットでわかるほどですしねえ、それでいて格好いいから凄い・・・紅魔館絡みでパロなりジョジョ風のネタやらせようかなあ?
あ、10032号の飼い猫のシュレディンガーですね、原作で野良猫を手懐けて名付けるシーンが有るので・・・小説漫画はそれですが他媒体はどうだったか・・・
AISA様
第四位さんはキャラが強烈で正直劇薬ですから・・・本人はあ、これは不味いなと、オルソラに付けたんだったり。
格好を怪しむ一見ネタなシーンですが、更に言うならオルソラがローマ側をそう思うのも結構大きいです・・・まあその辺の影響は後程で。