ある所に一人の男がいた。
彼はレベル七、超能力者であり七人しかいない学園都市の頂点に立つ者の一人だ。
『……うおおおおっ!』
が、ともすれば畏怖やら嫉妬やらされる立場だが、『彼』はそういうのとは無縁の存在だった。
『うおおおお……根性だ、根性あるのみだ!』
その男、削板軍覇は所謂科学の通用しない『精神論』の世界に生きていた。
古臭い学ランに身を包み、それと同じくらい昔気質で、ある意味硬派とも言える向上心の塊のような男だった。
具体的には夏休みの殆どを修行に費やしても構わない程に。
「あれ、ここどこだ……山か、だがここまで大きいのは?」
そして、彼は『その場所』に迷い込んだ。
修行、山籠りに熱中しすぎて(というか秋まで長引かせていた)『学園都市の者達』に存在を『忘れられてしまった』せいだ。
「……まあいいか、この方が修行になるしな」
こうして、その男は幻想郷に流れ着いたのだ。
『……希望、それが今の幻想郷には足りていない』
ある所に一人の少女がいた。
彼女は人間ではなく、だがそれに関係深い物が人の形を取った者だ。
『そうよ、希望の欠けしこの地に……私が取り戻してみせる!』
だから彼女は『半ば本能のまま』に動き出した。
その舞いで、幻想郷の人間達に希望を齎す為に。
「すう、はあ……」
タッ
求める物は大きく多い、彼女は慎重だった。
まずは人に見せる前に舞いの調子を確認だ、一旦人里から離れ『妖怪の山』近くで新たな体を確かめるようにステップを踏んだ。
出だしは彼女も少し緊張気味、その顔は無表情だが『辺りを飛び回る仮面』はまるでその心を代わりに語るかのようだ。
タン
タン
妖怪の山に流れる川べりで、彼女は大石の上で演舞を舞う。
「……一、二、三……とう、やあ」
軽やかに数度の跳躍、『創造主』の元に在った頃の記憶を思い出し細かに再現していった。
直ぐに感覚は幾らか戻って足を踏むペースは早くなる。
ヒュンヒュンと彼女は演舞用の薙刀も振り回し、二つの音が即興の演奏となる。
トッ
タン
トッ
タン
「えい、えい……はああ」
リズムを刻み、自分が乗った所でそれまでで最大の跳躍を行った。
そして、着地と同時に体を捻る、何れ見せる観客を想像しそれに見せつける動きだ。
ビュウ
ブンッ
「……やあっ!」
振り翳した薙刀を手に彼女は大見得を切り、そしてその動きが止まる。
スッ
「一応……お粗末、かな」
ゆっくりと薙刀を降ろし、彼女は一礼する。
舞いは締めまで優雅であるべきだと、伝説的な舞手である『創造主』の思いはしっかり受け継がれていた。
パチパチ
だがそこへ拍手が鳴った、一人だと思っていた少女はびっくりする(顔には出さないが)
そこには(修行の食料調達であろう)釣り竿を手にした学ラン男が居た。
「おおブラボー、ああブラボー!」
「……だ、誰?」
素直な賞賛に少女はびっくりしながらも照れて嬉しがる。
その感情を隠すように仮面を被り、その後男に問いかけた。
「……貴方は?」
「おおっと驚かせたか、でもいい舞でな……修行中の通りすがりだ、驚かせたら悪かった」
「いや褒められるのは悪くない、舞いは私の全てだから」
男と少女は向かい合い、互いの『目』を見て有ることに気付く。
『おお、まさか……』
二人の目にはそれぞれ『向上心』と『使命感』が浮かんでいる、ギラギラとしたそれに互いに気付く。
全く同じではないが、それでも共通する、熱狂じみた物が有る。
『同志よ!』
ガシイッ
「俺は削板軍覇、よろしくな」
「私は……『こころ』、こっちこそ」
熱血男と(隠れ)熱血少女は思わず握手。
会ったばかりなのに二人はシンパシーを感じて解り合ったのだ。
「こころの嬢ちゃん、修行……しないか?」
「ふむ、人に見せる前に芸を磨くか……素晴らしい考えだな、同志軍覇よ!」
「なら俺が辺りを案内しよう、山籠りの間に幾らか把握できたし……」
削板に連れられて少女、こころは山に入っていった。
そして、それを『千里眼』で見ていた少女は小首を傾げた。
「……ワフ、キャラが濃いんだけど……山に帰って早々、変なのが迷い込んだなあ」
一瞬放っておこうかと思い掛け、でも得体の知れない二人が気になって、目的を探る為に彼女も二人に続く。
白い修験者装束に白髪の犬耳少女は嫌そうな顔で後を追った。
四章 希望を求めて
「……足りないんです」
白梅の髪飾の少女、涙子が妙なことを言い出した。
学園都市の平和なカフェ、だが奇天烈な言動で生温い空気が漂う。
同じ席でコーヒーや紅茶を飲んでいた少女達が小首を傾げる。
「……行き成りどうしたの、佐天さん?」
「だから、足りないって……そう思うんです、御坂さん」
隣でキョトンと、淡い茶髪の白衣の少女が不思議そうな顔に成った。
この場は所謂女子会で、それぞれ学校が終わり、研究の時間が空いたので集まった。
その途中行き成りの涙子の言葉、唐突なそれに女子会の参加メンツが首を捻る。
「ええと学校の単位とか……ああでも佐天さんの通う柳ヶ川はその辺きつかったかしら?」
「なら物か金銭……あ、いや彼女はそういうの執着無さそうだし」
美琴が首を捻り、その隣で『ずり落ち気味の眼鏡』に『長髪を一房だけ束ねた』少女も同じようにする。
最近友人と成った氷華だ、その膝では茶会より寧ろ食事会な感じでルーミアがケーキを食う、というか飲み込んでいる。
因みに対する美琴も膝に打ち止めを乗せている。
二人とも涙子に苦笑しつつも、打ち止めやルーミアの口を拭ったりしていた。
「仲良いなあ、いいことだ……で、足りてないんですよ」
『だから何が?』
四人の様子を微笑ましげに見てから、涙子は繰り返し同じことを言った。
やはり意味が掴めず、美琴達はキョトンとする。
「むう、佐天に足りてない物か」
「ふむ、そうだなあ……」
すると最後のメンツ、共通点の余り無い二人がそこで口を開いた。
それぞれ緑髪の少女と褐色の肌の少女、屠自古とショチトルである(芳香はルーミアが居るので留守、大食い二人は店がヤバイし)
「こいつ、やたら荒っぽいし……」
「それに大酒飲みだから」
涙子に誘われた二人は異口同音に、同時に涙子を指してキッパリと言った。
『足りないのは……女子力だな』
「そこ、黙って」
二人の容赦無い言葉に涙子は肩を落とす。
「……で、ええと、何が足りないの?」
「ああ御坂さんはいい人だなあ、突っ込みはきつくないし」
そんな彼女を見かねた美琴が問いかけ、涙子は態とらしく嘆きつつ答えた。
「……『力』です」
「は?」
元修験者はそんなことを言った。
美琴達はぽかんとし、屠自古達はやっぱりなという顔をした。
「だから力、英語で言うならパワー……ほら最近二度の事件で色々有ったから」
輝夜の事件では『一回休み』に追い込まれ、エリスと騎士の事件では殿として泥仕合と、多少なりとも思うところがあるらしい。
彼女はグッと手を握りしめるとその意気込みを語った。
「……という訳で修行がしたいです、気を引き締める意味でも」
「は、はあ、そう……」
熱苦しい言葉に呆然としながら、美琴は何とかそう返すのが精一杯だった。
「ほら『秋の祭り』があるでしょ、その振り替えやらで休日が重なって……近々纏まった休みが取れるので『郷のお山』で修行しようかと」
だが構わず、涙子は雄々しく宣言するのだった。
「……という訳で、休み明けのニュー佐天涙子をご期待ください!」
「……ならサークルや買い物とか青春ぽく……こいつには無理か、やはり女子力が足りんな」
その姿は何というか、異様に男らしかった。
彼女は相変わらずのようで、それに屠自古とショチトルは呆れた様子で肩を竦めた。
「……何、これ?」
「さあな……」
そして、帰った涙子と着いてきた(というか戻った)屠自古は幻想郷にて驚愕する。
そこら中で大騒ぎ、『謎の熱狂』が人々を浮き立たせている。
異様な程の熱を人々が見せ、だがそれを疑問に思っていない、傍目から不気味にしか映らなかった。
「……異変かな」
「そのようだが……どうする?」
「さて、私の目的は修行だけど……向うから来るなら参加してもいいかな」
涙子は少し考え、その後肩を竦めてマイペースに言った。
目的は変わらない、だが状況次第ではその成果を見せてもいいと。
「……ま、色々と楽しくなりそうだね」
「やれやれ、この女は相変わらずだな……」
呑気かつ物騒な言葉に、屠自古は何度目かになる肩を竦める仕草でやれやれと呆れたのだった。
「……異変ね」
「どうするんです、霊夢さん?」
そして『その報』を受けた巫女、博麗霊夢もまた立ち上がった。
彼女は神社、そこで土産を広める早苗達に言った。
「勿論行くわ、それが仕事だもの……留守、任せるわ」
「はーい、分社も有りますしね」
「頑張ってー、巫女様」
「構わないわ、花の世話のついでだけど」
呑気そうに早苗と小傘、それに二人から貰った学園都市の珍しい種を吟味する幽香が手を振って見送る。
「……早苗は兎も角として、本格的に妖怪神社ね」
「ははは、ここは気楽に寄れますから」
面子の後半に項垂れて、彼女は少ししょんぼりしながら出発する。
が、その寸前に、出鼻を挫くように来客が来た。
「博麗の巫女殿、居るか?……探しものがあるのだが」
「あら、霊廟の……」
そこに、七星剣を携えた金髪の少女、豊聡耳神子が少し焦った表情で現れたのだ。
「むっ、どこか出るのか、不味かったかな……」
「……どうしたの?」
霊夢の用事を邪魔するのは不味いかと神子は下がりかけ、だが霊夢は気にせず話させた。
「いや、大事な『面』を紛失してなあ、しかも……付喪神になる予兆が有るから気になって」
「……付喪神の『面』、それって面霊気?」
オズオズと気不味そうに話し始めた神子の言葉に、ピクと霊夢が反応する。
彼女の巫女の知識が正しいなら紛失ではなく『失踪』であり、また面霊気ならば見過ごせない点も有る。
少し考えた後霊夢はグイと神子の腕を引いた。
「……一緒に来て、道中で話を聞くわ」
「博霊殿?」
驚く神子を強引に続かせながら霊夢は説明する。
「新しい妖怪に同時期の異変、何か気にならない?」
「むっ、あの面が関わってると言うのか」
「さあ、それはまだ……でも色々考えられるわ、首謀者かもしれないし巻き込まれてるかもしれない、全くの無関係かもしれない。
……どちらにしろ人に深く関わる面霊気なら、騒ぎに惹かれる可能性はあると思うわ」
それが面霊気、人の持ち物だったからこそ、人郷を中心に起きた事件は繋がり得るのだ。
霊夢のこの言葉に神子はふむと考え込んだ。
「ううむ、そういえば、最近どうも人郷の様子が変だと聞くが……」
「ええ、それに……やはり探しものは人が多いところがいいでしょ、人も噂も集まるから」
「……確かにな、ならば同行しよう、博霊殿」
暫しして神子は頷き霊夢を追い、二人は並んで人郷へと飛び立った。
「ところで、博麗殿は人郷の異変のことをどう思っている?」
「……あれは多分『人の心』が不安定になった事に依る物ね」
隣を飛ぶ神子の言葉に霊夢は(多少予測混じりでだが)説明していく。
その性質はどうにも妙で、霊夢でも判断の難しい物だった。
「熱狂、人々の感情の発露が異様に活性化し、また『流れ』を作っている……視覚化したそれは弾幕ごっことかで分散したり収束したりするの。
……そうね、もし収束を続けて一つになったら……何かとんでもない事になるかもしれない」
そんな風に説明しながら、霊夢は同時に内心でだけある可能性を思い浮かべた。
(面霊気が来るなら、その時か……ならば、私自身がその局面に居る必要があるのかも)
戦いに勝ち続けことが異変の最終局面であり、ならば実際にそこに居た方が都合がいいかもしれない。
少なくともある程度収束していく感情の流れの近く、つまり核心に居た方が動きようの幅は大きい。
そうなると今隣に神子が居るのは大きい、本人も実力者で一勢力の長なのだから。
(……私と彼女で勝利し続け、感情の流れをこっちで誘導する、あら案外悪くないか)
過剰な熱狂とその収束に意味があるなら操作出来る位置につければと、霊夢は異変への(やや強引だが)効率的な対処法を見出した。
これならばどう事態が動いても対応できるし、把握は遅れて乗り遅れることも無いだろう。
「……にしても人の感情かあ、今までとは違う趣の異変になりそうね」
「全くだ、力づくは通じなさそう……そういえば熱狂は所謂欲望だろう?ならば人々は何を求めているのかな?」
すると、ふと気になった様子で神子が首を傾げる。
本来それ等を見分けるのは治世に関わった彼女の得意分野だが、大規模だからか異変に歪められたからか判断付かないらしい。
少し考えた後それに霊夢は口を開き、『宗教者の先輩』として問いに答えた。
「あれは……何かを信じ仰ぐ心の大元、その人が満たされたいとでも言うべき『望み』であり『希み』……
所謂、人のポジティブな感情の代表……『希望』よ」
ある意味人間の根源たる感情で、今人郷で起きてるのはそういう物を巡る一風変わった異変だ。
そんな風変わりな場となった人郷に、様々な宗教者(その他飛び入り)が集まっている。
「……はあ、荒れそうね」
「心中察するよ、博麗殿」
神子が霊夢に同情した、どうやら今回の一件は歴戦の異変解決者である彼女でも一筋縄ではいかぬ物らしかった。
・・・えー、第四話『希望と根性』開始、まあ出会いの話か。
そういう訳で、今回は幻想郷に場を移しての話となります・・・中心はとある及び東方の二大熱血キャラ。
それに加え霊夢に佐天さん、前回前々回ではサポート役だった二人を前に出していく感じで。
以下コメント返信
うっちー様
ええ、可愛いですよね、後・・・真面目そうな性格と能力で事件に関わらせ易いのも良し。
エリスの再会は最初から書こうと思ってました(省略で早まったけど)・・・何か肩の荷が下りた気分。
九尾様
原作でも最後らへんのシェリーは痛々しくて可哀想で・・・だから戦い以外での形で終わらせるの確定でした。
多少どうエリスと会わせるかは悩んだけど・・・その辺は勢いで、あそこまで書いて力づくでってのも仰るとおり無理がありますしね。
バクスタッ様
個人的にここから襲撃事件はくどいかなと・・・それが魂としての再会でも希望がある感じで終われたと思います。