ドサドサ
「はああ、とりあえず騎士の方は何とか……」
疲れた様子の小悪魔が嘆息、その傍らには打ち倒された騎士が小山となって積まれている。
バタンと魔道書を畳んだ後小悪魔は『金髪緑眼の少女』に頭をペコリと下げた。
「……お手伝いありがとうございます、パルスィさん」
何のつもりか乱戦に飛び込んできた嫉妬妖怪に、小悪魔は少し警戒しつつも礼を言った。
「ああ良いから、こっちの連れも関わってるし……どっかで会った?」
「地下の異変の折、パチュリー様のサポートを……ああそういえば人形越しだった、直接会うのは初めてか。
……小悪魔です、さっきはご協力ありがとう」
初対面だと(サポートのサポートだった)思い出し、改めて挨拶を交わした後話し合う。
「黒いの、厄介なことに首を突っ込んで……霊は性質が偏り易いって教えたのに」
「いやここでそれを言っても……それにしてもエリスか、不味いなあ」
「……知ってるの?」
パルスィの問いに、小悪魔は何とも言えない微妙な表情で答えた。
「一応同郷というか……魔女や悪魔、それに様々な魔物の住まう魔界の実力者の一人『でした』」
「……ふーん、魔界ねえ」
「まあ物騒な響きですが結構平和なとこですよ、支配するのも大らかな方ですし。
そう、大らかで……自分の城である万魔殿に勝手に悪魔とか、『人界から追い出された神』や『封印され流れてきた魔性』が来ようが受け入れてくれる方です」
「へえ、妬ましい……もとい、器が広いのね」
「……といっても受け入れるにも『限度』が有る、『余程の馬鹿』やらなければ面倒見てくれますが……」
「……ああ、エリスってのはその、余程をやったと」
話し合い二人は頭を抱えた、神ですら手に余る存在が学園都市に来ているのだ。
神、魔界神は基本的には温厚(身内贔屓なところもあるが)魔界に何が来てそれが何しようが基本的には気にしない。
が、エリスと『もう一柱』は数少ない例外だった。
「エリスに堕天使、前者は確か旧ヘブライの神……外で権力を持ってたせいかな、平和過ぎる魔界を退屈に思ったか窮屈と感じたか征服を開始しました」
「……で、激突したと」
「はい、派手にやり合ってました……実力自体は魔界神様が頭一つ上でしたけど、『眷属』が付いてたから中々押し切れなくて……
唯、結構前に『紅白衣装』の女が二者を襲撃し……それで一気にエリス等の勢力は衰退し、万魔殿側が優勢と成ったんです」
ひょんな事で戦況が傾いたのを思い出し小悪魔は苦笑する、偶々『紅白の女』の進行方向に居らず魔界神の一人勝ちだったのだ。
尤もそれで運が切れたか、『二度目』の巫女(同一人物かは不明)による魔界襲撃は諸に被害を受けたが。
「(あの方、ツイてるのかツイてないのか)……ま、まあ兎も角、そんな経緯で魔界から追い出されたんですよ」
「……それが現世に来てて、今回暴走したか」
「ええ、厄介ですね……かなり好戦的ですから」
そう言った小悪魔の表情は憂鬱そうだ、ガクリと肩を落とした。
「魔界神さま達がハト派ならエリスはタカ派、それも生半じゃない……そう簡単に大人しくするとは思えません」
神が、それも一度堕落した神が(特に他国の)人間に遠慮するとは思えない、学園都市を構うことなど在り得ないだろう。
しかも別の問題がある、エリスを取り巻く背景である。
「エリスと堕天使は同時期に魔界から消えた、共に現世に来たとして……あれ等は本来味方ではないんです。
……魔界神様という共通の敵が居たから二人は手を組めた、それが居ない現世なら……積極的に出し抜こうとするかな」
「……つまり霊体達を襲ったのはその為の準備ってこと?」
「恐らくは……エリスにとって人も死者達も、かつて味方だった堕天使も敵……当然これからの行動も過激かつ自己中心的な物になる筈です」
エリスは多分タカ派のまま、ならばこの騒ぎを穏便に済まそうとする可能性は低い。
それこそ全てを糧とし一人勝ちを狙っても可笑しくはない。
「……パルスィさん、私は少し抜けますね」
ならばと小悪魔は賭けに出ることにした。
「どうするの?」
「……ちょっと『暇人』に会ってきます、お手伝いして貰いましょう」
「まあ頑張って、良くわからないけど……私は騎士の相手でもしてるわ」
「ふむ、未だ人にとって危険だし……エリスに食われるのを避けられる、成る程お願いします」
二人は頷き合い別行動に、小悪魔は飛び立って、パルスィは分身と共に騎士を探しに行った。
第三話 無自覚な迷子達・八
ズドン
ドガガガッ
弾幕に押され、エリスが顰め面で後退った。
「おのれ、巫女だと……寄りによって天敵の同類など予想外過ぎるだろ!?」
かつて自分達の魔界敗走の原因を思い出し、彼女は涙目になりかけた。
だが執念で、あるいは恨みの感情で彼女は立ち直り、反撃に大弾を叩きつける。
ズドンッ
「ええい……ここまで我慢したんだ、負けてたまるか!」
大弾が勢い良く飛んで赤と緑、霊夢と早苗へと目掛け突き進む。
「恨まれてる?どっかで会ったかしら……まあいいわ、片付けるわよ」
「はーい、思い切り……やっちゃいましょう!」
二人はニヤリと笑い、同時に封魔針と鉄の輪を投擲する。
それでボンッと大弾が消し飛び、そのままエリスへと向かっていった。
「何!?」
「……さあそれを食らって落ちるか……」
「消耗覚悟で本気を出すか……」
『……選んで!』
「ちいっ、人間なぞに!?」
この言葉に渋面でエリスが舌打ちし、彼女は空間から何かを引き攣り出した。
カッ
ズドン
それは一等星のように眩く輝いていた、エリスは引き抜いた勢いのまま振り下ろす。
唯それだけで爆発的な魔力が放出され、封魔針と鉄輪は粉々に砕けた。
ヒュッ
「くっ、余計な魔力を使った……」
エリスは悔しそうな表情で杖を、星を模した装飾品が先端に嵌められた大ぶりのロッドを振るった。
一方でそれを抜かせた霊夢達はニコニコと笑みを浮かべる。
「ふふっ、まだまだよ……もっと力を使いなさい!」
「ええ、干からびるくらいに……さあ次ですよ!」
「本当に厄介だな、魔界で会った女を思い出す……だが、そうは行くか!」
ズドンと顰め面でエリスは足元にロッドを叩きつけ、その次の瞬間彼女の姿がブレた。
「……貴様らは後だ」
「紫と同じような真似を……早苗、捕まってて、亜空穴!」
「はいっ、追ってください!」
一瞬で跡形もなく彼女が消えて、反射的に早苗を引き寄せて霊夢も転移する。
再び彼女達が現れたのは先程までの場所の隣の区、一瞬早く現れたエリスがそこに集まっていた騎士の霊を見てニヤと邪悪に笑う。
『総員急げ、体勢を立て直し奴の捜索を……』
「ふっ、手間を省いてやろう……但し操り人形としてな!」
『何っ!?』
「……さああの女共を潰せ!」
魔力で作られた糸が放たれ、騎士の霊を人形に変える。
それから一秒後霊夢と早苗が現れる、ガシャリと甲冑を鳴らして人形と成った騎士達が包囲した。
「……遅かったか、小細工するわね」
「さあ……掛かれ、騎士共よ!」
ガシャガシャとその鎧鳴らしながら騎士達が駈け出し、皆一様に長剣や鈍器を振り被る。
「早苗、援護を、騎士の相手をお願い……後で美味しいとこ上げるわ」
「了解、では美味しい場面を期待しますか」
ダッと二人も地を蹴った、霊夢が先を行ってやや後ろを早苗が追う。
だが、騎士の眼前で霊夢は横に跳んだ。
「早苗!」
「はい、八坂の大風!」
ビュオオッ
すかさず早苗が風を放つ、それで騎士の大勢が崩れ、僅かな隙間を縫うように霊夢が突破する。
「ちっ、急いで塞……」
「遅い、グレイズってね……早苗、後続止めて!」
「りょーかいっ、邪魔だ、人形!」
早苗が数個の鉄の輪を手に騎士に襲いかかり、その爆発音を背に霊夢が前へと駆けていく。
そのまま騎士を抜けて、エリスの懐へと一気に飛び込んだ。
「ええい、魔力を使いたくないのに……」
「だから、タイマンに持ち込むのよ……陰陽玉将!」
「くっ、離れろ!」
ドゴォンッ
掌中で収束させた霊気とロッドから放たれる魔力が激突する。
ブワと余波で土煙が巻き上がった。
霊夢はそこで一瞬考え込んだ。
(さて、強行か安全策か……まあやってみますか)
彼女は再び掌に霊力を集中、それを翳して土煙の中に突っ込んだ。
「……陰陽玉将、うりゃ!」
ブウンッ
が、それは空振りに終わる、エリスはそこに無く、そして霊夢の背後に行き成り現れた。
肩越しにロッドを振り被ったエリスの姿が見えた。
「貰ったぞ、落ちろ!」
が、霊夢は読んでいた、体を捻り腕に括りつけた『梓弓』を後方に向ける。
「何!?」
「……甘いわ、衝打の弦!」
ドンッ
霊夢は勘頼りで衝撃波を放った。
慌ててエリスはロッドを振る手をを止め、その体を再びブレさせる。
「……ちっ、再転移!」
「またそれか……少し、面倒ね」
エリスが消え、霊夢も顰め面で身構える。
数秒の警戒、読み合いの後霊夢を囲うように数箇所で光が瞬いた。
バババッ
「……喰らえっ!」
連続して転移と大弾の展開、エリスはそれを繰り返し個人に寄る挟撃を行った。
霊夢は眉を顰め、掌中に霊力を束ねて横薙ぎにした。
「ああもう、本当に面倒……陰陽玉将!」
バキンッ
バキンッ
バキンッ
半円状に振るったそれは時間差で飛んできた大弾を消し飛ばしていく。
しかし霊夢は警戒を解かず、直ぐに霊力を集中する。
その視線の先にはエリス、ロッドを大きく振り被り、より巨大な大弾を作っていた。
「……吹っ飛べ、紅白女!」
ズドンッ
怒りの叫びとともに最大規模の大弾が飛ぶ。
が、霊夢もそれに対し慌てず対処する。
「……断る、亜空穴」
ブウンッ
彼女の姿が掻き消え、大弾は虚しく何もない空間を飛んでいった。
「ちっ、同系統の技か……」
エリスは警戒の表情で周りを見渡す。
迎撃か転移による回避か、だが魔力が心許なく少し考えた後、まだ幾らか残っている土煙に身を投げだした。
その一秒後、頭上から不可視の衝撃波が連射された。
ドガガガッ
「衝打の弦……ちっ、隠れたか」
空中に再出現した霊夢が舌打ちし、弓を打つ手を止める。
彼女は続けるか暫し悩み、だがその答えが出る前にエリスが動く。
ハッと霊夢が頭上を見上げた。
「……残念だったな」
「エリス!」
そこにはロッドを構えたエリスの姿、霊夢は反射的に『空を飛ぶ程度の能力』で跳んだ。
「反撃なんて……させない、昇天脚!」
ブウンッ
が、彼女の振り抜いた脚は虚空を裂くに留まる、エリスが再び消えたのだ。
そして、エリスは更に上空、凡そ一メートル程真上に現れ、魔力を乗せたロッドを振り下ろした。
「……砕け散れ、紅白女!」
エリスは勝機を確信した、が霊夢がニッと笑った。
「……甘い!」
彼女は空中でもう一度回転、勢いを更に強めて右足を振り上げた。
霊力を纏わせた爪先がボっと神々しく輝く。
ゴウッ
「天覇風神脚、やああっ!」
「くっ、させるかあ!」
ガギィンッ
振り上げる右足、振り下ろすロッド、それ等は交差し轟音を響かせ、そこで止まった。
ギリギリと押し合いながら霊夢とエリスが相手を睨んだ。
「ふう、今のは少し焦った……でも結構削れたはず、違う?」
「貴様、どこまで邪魔してくれる……」
「……ねえ、『何か』忘れてるんじゃない?」
「何?」
霊夢がそんなことを行き成り言って、エリスが訝しそうにする。
その一秒後、清廉な叫び声が響いた。
「開海……モーゼの奇跡!」
ザシュッ
風切って、霊気の刃が飛んだ。
「え……がっ!?」
「私に目が行き過ぎ、彼女を忘れたわね……衝打の弦、外れてなかったということ」
振り抜かれた霊力の刃がエリスのロッドを砕き、更には彼女の体を深く切り裂く。
痛みに悶えるエリスの目に、『不可視の衝撃波』に打ち倒された騎士の中心で構える早苗が映った。
霊夢がエリス狙いも見せかけて梓弓で騎士を蹴散らし、自由になった早苗がエリスに一撃したのだ。
「……どうせ成仏待ち、それが早まるだけだし別にいいでしょ」
「成程、確かにこれは美味しい……霊夢さん、決めましょう!」
「ええ、落ちなさい!」
会心の笑みを浮かべる早苗が鉄の輪を、サマーソルトの体勢から戻った霊夢が封魔針を投擲した。
ヒュ
ドスッ
「ぐあああっ!?」
二つの凶器はダメージで身動きできないエリスに直撃した。
だが、落下する彼女はその直前でギロと目を見開き、悲痛なまでに力強く叫んだ。
「がああ、ま、負けてたまるか……折角貯めた魔力だがこのまま落ちるよりは……」
彼女はブンっと折れたロッドを振るう、それに合わせて魔力が辺りに滅茶苦茶に放たれる。
霊夢と早苗には躱されるも、エリスの攻撃は騎士の生き残りを打ち倒していった。
「……はあっ!」
『ぐわあああっ!?』
「騎士を狙った、何を?」
「……こうするんだ、霊力よ、集まれ」
バラバラと彼等の体が細かく崩れ、エリスを中心に集まっていく。
集まった霊体の破片は五つに別れ、巨大な眼球へと変わる、そしてエリスを中心にして陣形を組んだ。
「サリエルとその眷属……真似をさせて貰うぞ、そしてこのまま……火力で押し切る!」
ドガガガガガッ
手数はそのまま五倍に、圧倒的な弾幕が辺りに放たれる。
霊夢と早苗は慌てて合流し、同時に結界を張りながら後退した。
「うわわっ、霊夢さん、どうします!?」
「……ちぇ、もう少し削りたかったけど潮時ね……チルノ達が段取りを付けたはず、彼女達のところまで誘き寄せるわよ!」
「……は、はいっ!」
霊夢と早苗は結界で耐えながら下がり、エリスは作り出した巨眼と共にそれを追う。
霊夢達が追い詰め、それでもエリスは足掻き、だが確実に決着は近づいていた。
ガシャガシャッ
十数人の騎士が学園都市を駆けていく、皆必死そうだ。
妖夢や垣根、美琴達に戦力を削られ、その上エリスが動き出し焦っていた。
『何としても、奴を排除せねば……』
最後の力でそれを為そうと、彼等は残存勢力を結集しエリスの元へ向かっていた。
だが、『深緑の嫉妬深い瞳』がその動きを見詰める。
嫉妬の化身とその分身がギロリと死者達を睨む。
「妬ましい妬ましい、その諦めの深さが……」
「妬ましい妬ましい、死して尚抱える信仰心が……」
ドガガッ
『誰だ!?』
あれらの行く手に大弾が二つ打ち込まれ、足を止めた彼等は二つの影を見た。
そこに金髪の女が二人立ち、嫉妬に染まった目を向けている。
大陸風の衣装を着た女が邪悪に笑って弾幕を展開した。
「まったく、妬ましくてしょうがないわ……ジェラシーボンバー!」
ズドンッ
パルスィと分身はブンと腕を振るって弾幕を放ち、巨大なハート型の弾が頭上に飛ぶと爆炎と共に爆ぜた。
バラバラと小型のハート(但し不吉に罅割れている)弾幕が勢い良く落ちてきた。
「あはははっ、皆爆発しろ!」
『くっ、防御陣形を取れ!』
ズドドドドッ
慌てて騎士達は隊列を組み直し、剣やモールで弾幕を払った。
「ちっ、潔く吹っ飛べばいいのに……妬ましい妬ましい」
この光景にパルスィは舌打ちし爪を噛む、だが寧ろ騎士の方がそうしたかっただろう、おかげで前進を中断したのだから。
『おのれ、どいつもこいつも我らの邪魔を……』
「知らないわ、そんなこと言われても……妬ましいのが悪いのよ」
騎士が悲痛に叫び、しかしパルスィは興味なさそうにマイペースに嫉妬する。
嫉妬の顕現である彼女が我慢する筈もなく、直ぐ次の弾幕を展開し始めた。
「さて妬ましいから追加しよっと……どの弾幕が良いかしら、手数か破壊力か」
まだ割れたハートが落ちる間に彼女は次弾準備に移り、そこへ呆れた様子で黒い男が声を掛けた。
「……水橋、やるなら手数重視で頼む」
「あら、黒いの……全く何してるのよ、変なことの首突っ込んで」
「生き生きと嫉妬しておいて言うなあ、いやマジで……」
バサバサと肩に降り立った烏、黒い方の垣根が突っ込む、二人は自分を棚に上げてジト目をぶつけ合った。
「ま、良いわ……やるか、手数ならグリーンアイド、いやその一つ上ね」
暫しそうした後頷いて、パルスィと分身は同時に緑の大弾を放った。
『行くわよう、嫉妬……緑色の目をした見えない怪物!』
ゆらゆらと揺れる二つの鬼火が空で燃え、かと思えば勢い良く騎士達に降下する。
ボウッと怪しく瞬くそれは異様な禍々しさで、騎士達は顔を引き攣らせた。
『何と面妖な……散開しろ!』
場と慌てて騎士が散って、一瞬遅れて二つの鬼火が騎士達のいた空間を通った。
が、回避されたというのにパルスィがニヤリと笑った。
「……あら残念、本命はそれじゃないのよ」
彼女がそういった瞬間鬼火が不審な挙動を取る。
それはブルリと体を震わし、『無数の小型の弾幕』で出来た尾を何もない空間から生やした。
『何!?』
「怪物よ、嫉妬のままに……荒れ狂え!」
そして、最早魔獣じみた存在と成った弾幕が尾を振り回し、その体を構成する弾幕を滅茶苦茶にばら撒く。
ドガガガガッ
慌てて逃げる騎士に、パルスィは嫌味に笑ってみせた。
「あははっ、逃げ惑いなさい!」
「物騒なやつ……だが十分陣形を崩せたな」
愉悦に浸る彼女の肩で呆れながら、垣根は翼の一部を崩すと二振りの刃に変える。
それぞれ『日本刀』と『刃の広い曲刀』、そして彼は作り出した刃をバッと放り投げた。
「……使え、だが折るなよ」
『承知!』
『銀』と『白』、やや異なる二色の影が刃を掴み取った、妖夢と椛が並んで剣を構えた。
「ふっ、本来の二刀程ではないが……幾らか慣れました、纏めて切って捨ててみせましょう」
「騎士まで来てはややこしくなる、この場は私達が……向うは友人が何とかしてくれる筈だから」
ジャキッと刃を雄々しく構え、二人は弾幕に右往する騎士へと走り出す。
「ふっ、せめてもの情け、騎士の面目を潰さないでやる……同じ剣士に打ち倒され、冥府で沙汰を待つがいい!」
「……美琴さん達は既に動いている、邪魔はさせない!」
バサバサ
「そろそろでしょうか」
雷光の翼で氷華がその身を空に浮かべる、真下にやや小さく学園都市が見える。
彼女の役割は霊夢達が誘き寄せてるエリスへの奇襲、正確に言えばそのサポートだ。
「……ええ、もうそろそろね」
「わー、高ーい!」
彼女の右手には美琴が抱えられている、友人に体を任せて能力に集中していた。
逆側には打ち止め、新鮮な光景に目を輝かせつつ姉と同じようにしていた。
「……やっぱり高所は風が強い、寒くありませんか?」
「大丈夫、外套が有るから……打ち止め、白衣使いなさい」
「ありがと、お姉様」
美琴が外套の襟を立て、打ち止めは借りた白衣に包まる、氷華は気を利かせ体の方向をずらし風を遮るようにした。
「もう少しの筈ですから我慢して……あっと、見えてきましたよ」
「ええ、派手に射ち合ってる……打ち止め、状況は?」
「……チャージ完了、問題無し!」
眼下で閃光と爆発、地上で霊夢達とエリスが撃ち合い移動している。
もうすぐ真下に来る、その時が三人の出番だ。
「確認しますよ、誘き寄せたらチルノさん達が四方から遠距離攻撃……」
「そこで私達の出番、温存の為に氷華さんに送ってもらって……そこで私と打ち止めね」
「お姉様が演算して、ミサカ達がそれを底上げ……で、ドカン!」
『……良く出来ました』
三人はニコリと笑い合い、そして美琴と打ち止めは手を合わせバチバチと輝く『十字架』を作り出す。
「一撃必殺よ……打ち止めはサポート、氷華さんはそこまでのエスコートをお願いね」
『はいっ!』
美琴の言葉に、氷華と打ち止めは元気良く頷く。
そして、三人は雷光の十字架を掲げ、それを解放する瞬間をゆっくり待つのだった。
・・・大分騒ぎは終息に近づいて、やっとこさクライマックスです。
とりあえず霊夢達が一当てして逃走、誘き寄せた所で次回に続きます。
九尾様
ぶっちゃけ騎士もエリス(旧作)も悪かった、人のエリスだけですね被害者・・・その辺それぞれが相応しい終わり方にはなるとは思います。
・・・あの館、最古参だけあって色々追加されて・・・正に幻想郷らしい場所だと思います、色んなメディアで出る度見てて楽しくなります。
にしてもUMAとか紅魔館何でもありですよね、何か短編書きたい・・・聖や黒夜辺りとか入れてそのうち書くかも。
うっちー様
ええ、割りと追い詰められてます、エリスさん・・・逆転なるかそれとも?・・・波乱含みのクライマックスをお待ちください。