注意・前回終盤のシーンを少し変更、今回の話の序盤がそれ・・・ぬえ辺りを大分変えました。
ドンドンドンと爆音が連続して響き、その度起こった炎が一方通行を襲った。
「はーはははは、物部の炎は効くだろう!?」
「ちっ、容赦無ェな、あの天然系悪女……」
不可視の壁で防いだ一方通行が顔を顰める。
ある理由で攻勢に出れず、後手に回るのが続いているからだ。
それはてゐと兎達の連携による物だ。
「因幡殿?」
「おうっ、皿を放て、兎達!」
『どんがらがっしゃーんウサ!』
布都が術の集中に入ると同時にてゐにそれを教え、頷いたてゐが兎に指示を出すと兎は分担して持っていた皿を地面に叩きつける。
ドガシャとばら撒かれた皿の残骸が一方通行を囲んで、そこから立ち昇った種火を布都が更に拡大する。
分厚い炎の壁が一方通行を包囲した後中心の彼へと押し寄せた。
『ふはは、逃げ場はないウサ!』
「ああもう面倒臭ェな、おい!?」
「お主を自由にするのは怖いのじゃ……燃えろ、六壬神火!」
「……ちっ、白いのに腹黒いのばかりだ」
一方通行は悪態を付きながら風を四方に放つ、強引に脱出口を作ろうとした。
が、炎は一瞬止まっただけで崩れなかった。
ビュオオオッ
「何だ?」
一方通行の能力とは別の風が吹く、それが炎を後押しする。
突然の風に煽られた炎が更に勢いを増した。
風の出処は後方で剣を高々と掲げた布都だった。
「また手前ェの仕業か!?」
「おう、風の凶穴じゃ……燃えるが良い!」
全方位からの炎が一方通行を襲う。
が一方通行はやや自棄っぽい表情で笑った、手の中で光球が輝く。
「物部……その風は悪手だ、圧縮!」
「ぬっ、その手が有ったか!?」
「演算使いたくないが贅沢言えねェ……圧縮圧縮、更に圧縮して吹っ飛べ!」
一方通行は布都の風を利用して小規模のプラズマを数個拵える、それを自分の周囲に落とすようにして放った。
次の瞬間太陽と見間違う閃光が生まれ、炎の壁を向かう先から消し飛ばす。
更に彼は諦め悪く揺れる炎の残骸を踏み越え、一個だけ残したプラズマを手に前へ出る。
「……もう一発だ、喰らっとけ!」
布都とてゐ達の数メートル手前で、彼女達全てを効果範囲に入れた所でプラズマを地面に叩きつけ炸裂させた。
ドゴンッ
「た、退避だ、兎達!」
『だ、駄目、間に合わないウサ!?』
「……下がれ、我が行く!」
てゐと兎が慌てる中布都が一人出た、剣を握るのと逆の手に持つ皿を叩き割った。
突如そこから真紅の火柱が出現する。
「火には火を……行けっ、大火の改新じゃ!」
ボウッ
ドガガガガガッ
炸裂したプラズマと炎上しながら拡大する火柱が相殺した。
「ちっ、倒れねェか……演算使ったってのに」
「ふん、悪いな、超能力者殿……成り行きだが兄者の借り、返させてもらうぞ」
「……そいつァ無理な気がするなァ」
「何じゃと?」
一方通行がある方向をチラと見た、安堵した様子だった。
何故なら彼は賭けに勝ったからだ。
ある可能性を信じてここまで粘って、それは望みに近い形で起きた。
「……考え得る限りベストだなァ、あいつ等が来たか」
近づく幾つかの気配、布都達は警戒し隊を分けるか話し出す。
が、その前に向こうの一人が『真紅の槍』を肩に担ぎ投擲体勢に入った。
更にその隣で、クラウチングスタートする『金と紫の髪の尼僧』も居た。
「私はあっちを崩したら見物に回るが……チャンスを上手く使えよ、聖」
「ええ、ありがとう、レミリアさん……では行きましょうか」
「おう、行くぞ……神槍グングニル!」
「超人……聖白蓮!」
ズドンとレミリアの槍が飛んで、続いてダッと聖が疾風の如き速度で駈け出した。
「……あれは吸血鬼の!?」
「槍が向かうのは……上、ぬえか!?」
「……えっ?」
ドゴンッ
「ぬえん!?」
一人だけ高みの見物中だった(&分身の遠隔操作)のぬえは反応できず、乗っていた飛行物体毎叩き落とされた。
彼女は衝撃に翻弄されクルクルと回転する。
慌てて左右非対称の翼で止まろうとしたが、その前に地上まで来ていた聖が跳んだ。
「お仕置きせねば……ガルーダの爪です、南無三!」
「ぬええんっ!?」
ドゴオォッ
やたらダイナミックな跳び蹴りがぬえを跳ね飛ばした。
その姿は修羅宛ら、『聖人』聖白蓮、仏徒とて怒る時は怒るということだろう。
「凄いな、聖さん…敵に回しちゃ駄目な人種か」
「うん、温厚な人程怒ると怖いってことなのかな」
「うむ、今後私も気をつけよう、後黒夜にも怒らすなと言っておくか」
「……ていうか私ご近所なんだけど、マジ注意しよう」
やや遅れてやっと着いた上条やチルノにレミリア、にとり等まで圧倒され青褪める。
当然近くのぬえが受けた衝撃はそれ以上である。
「な、何よ、新手!?ていうか聖じゃん!?……ええい、私は分身の操作がある、相手してられるかっての!」
ぬえは突然の襲撃、更にそれが見知った相手であることに目を白黒させながら、慌てて体勢を立て直そうとする。
翼を一打ちし飛んだ向かうのは結界の方だ。
彼女は文字通りの異世界に隠れ、時間を稼ごうとした。
が、聖もまた近くの飛行物体の残骸を蹴って加速した。
「逃がしません、超人化による身体強化はまだ……とりゃあ!」
「うわっ、しつこい!?」
ガシと組み付いて聖がぬえを羽交い締めにする、二人は揉み合ったまま結界へと落ちていった。
「チルノさんに上条君、私はこの子のお仕置きをします……他は任せました!」
『ええと……頑張って(ください)!』
ぬえを締めつつ結界に飛び込んだ聖にチルノと上条はそう言うのがやっとだった。
二人は周りを見渡し何とか状況を把握しようとする。
「ええと、兎耳の奴等は……あの和服の奴の手下だけど」
「……で、何でか居る布都ちゃんは……まあ敵でいいな、どうせまた変なこと考えてるだろうし」
何だかんだ波乱の夏休みでこういうのに慣れた二人は直ぐに判断し、それに一方通行も遠くから補足した。
「大体その通りだ、だが……ここは良い、手前ェ等は中に行け!」
「お、ミサカのところの白いの?」
「妙なガキが中にいる、霧ヶ丘女学院の生徒だ、姫様とやらに狙われてるらしい……俺と佐天はその邪魔をしてる、成り行きなンだが」
「佐天もか……」
「あァ、暇なら中の佐天を手伝ってやれ……俺はまァ何とか成るだろ」
「……わかった、でも無茶しないように」
「河童は……もう居ないや、中行ったかな」
一方通行の言葉に頷いてチルノと上条は結界に走り出す、またレミリアは高みの見物がにとりの姿が無い(涙子の話の時点で動いたようだ)
この状況に布都達が慌て、素早く過半数を中へと回した。
「うわ、援軍が……」
「因幡殿、兎を率いて中へ!」
「あんたは!?」
「……白いのと決着を付けたい、兄の分の借りがあるからな」
「……兎を何羽か残す、こっちも子安貝確保後の逃走ルートは確実にしておきたい」
「良かろう、佐天相手とさっきまでで皿を大分使ったからな……では行くのじゃ!」
脱出後の安全確保に布都(及び兎数羽)が残り一方通行を睨む、一人残った彼も睨み返す。
その横を駆け結界へてゐ率いる兎達が、次に上条とチルノが向かった。
「……良いのか、唯一有利な数を分けてよォ?」
「いや寧ろそうするしか無い、中に何人か向かわせんと輝夜がきついからな……ぬえは尼僧に潰されるだろうし」
布都は中へ援軍を送りぬえには同情した後宝刀を構え、同じように助けを行かせた一方通行も拳を握る。
「ま、ここで勝った方が有利には成るか……おまけみてェなもンだが」
「ああそうなるな、中に比べれば影響の小さい戦いか……が、成り行きとはいえ負けるのは悔しい、行くぞ!」
「……ああ確かになァ、だが返り討ちだ!」
やや仏頂面で一方通行と布都が前へ出た。
彼らは戦いを再開する、互いにここが事態の中心でないと気づきつつも。
第二話 幻想の命・九
ルーミアが、心理定規が友である少女を守る為に輝夜へと向かっていった。
「氷華は渡さないぞー、ナイトバード!」
「……リーダー、貴方の能力借りるわよ、おりゃっ!」
黒一色の弾幕が放たれ、未現物質歪められた陽光が異常な殺傷力で放たれる。
だが、二人掛かりの攻撃を前にしても輝夜は動じない。
向こう同様彼女にも勝たなければならない理由がある、だから臆せず動じず全力で迎え撃った。
「幻想の命を前に負けられるか、神代の……いや天神の系譜!」
放たれた光の弓が枝分かれしながら(今まで以上に)広範囲へと広がっていく、黒の弾幕と歪められた陽光を纏めて吹き飛ばした。
ズガガガガッ
「さて次は……」
「消された、でも……おりゃ!」
相殺しその余波を避けて心理定規が突っ込み、更に弾幕を射ちつつルーミアが続く。
「援護するぞー、大弾行けっ!」
「ふむ、ここは永琳のあの弾幕で……」
が、彼女は周囲に数個の光弾を放った、グルグルと衛生のように高速で旋回する。
「……天呪、アポロ13!」
ガガガッ
輝夜は弧を描く光球で近づく端から大弾を撃ち落とす。
更に彼女は自分の周囲に展開させた光球を解き放つと、接近してきた心理定規に向かって放った。
「次は……そっちよ!」
ガギィン
「ぐっ、近寄れない……」
「ふふっ、残念だったわね」
心理定規は咄嗟に短剣を翳して防ぐが、衝撃によって後退った。
慌てて下がる彼女にルーミアが寄り添い、牽制の弾幕でフォローする。
「心理定規!?」
「……大丈夫、まだやれるわ」
並んで構えた二人は緊張した表情で輝夜を見た。
「……ううっ、さっきの黒いのよりやばい気がする」
「ええ、何て気迫なの……だけど私達も……」
「うん、負けられない……行くぞー!」
「ええっ、行きましょう、ルーミア!」
ルーミアと心理定規は決意の表情で仕掛け、それと同じくらいの(あるいはそれ以上かもしれない)覚悟で輝夜が迎え撃つ。
後悔と友情、異なる二つの意思が激突する。
『……氷華は渡さない!』
「……いえ渡してもらうわ、幻想の命を我が手に!」
「あっちは熱くなっちゃってまあ……」
向うでの激戦に涙子は苦笑し嘆息した、その後援護しなくてはと自身に気合を入れる。
鎖を右手に巻きつけて目の前の大妖怪に叩き付けた。
ガギィン
「……おっと止めてよ、か弱い分身なんだ」
三叉槍の柄で防いだぬえの分身がからかうように言った。
が、それを無視して涙子は更に殴りつける。
「知るか、倒れろ!」
「おわっ、我儘な奴……ええい、正体の不明の種よ!」
ガギィン
やはり槍の柄で弾いてぬえが顔を顰め、飛び退ると同時に黒い蛇をけしかけた。
一斉に飛び掛かって涙子を質量で押し潰そうとする。
「……悪いけど触手プレイは断る、水よ集まれ!」
今度は涙子が顔を顰めて分厚い水の壁を張った、そして攻撃を防いだ後直ぐ様それを崩す。
その瞬間二つの影が動きの止まった蛇達へ向かう。
「援護お願い……屠自古さん、芳香ちゃん!」
「……まあ良かろう、うちの天然が迷惑かけたし」
「行くぞ、毒爪を喰らえー!」
バチィッ
ザシュッ
雷光の矢が乱射され、猛毒の爪が滅茶苦茶に振るわれる。
黒い蛇の群れが切り裂かれ、すかさず涙子がそこを抜ける。
彼女は風で加速し突っ込んでいった。
「……うりゃ、喰らえっ!」
ジャララッ
走っていく勢いを乗せて鎖が投擲され、ぬえの足元を払うように放たれた。
蛇達を立て直していたぬえはそれを中断し慌てて跳んだ。
「おわっと!?」
「……ちっ、不発か、なら次だ!」
空振りした鎖を引き寄せた涙子が更に走る、戻した鎖を素早く拳に巻きつけ殴りかかった。
回避直後でぬえは避けられず、咄嗟に槍を振るった。
ガギィン
突き出された槍に鎖を巻いた拳が弾かれ空を切って、が涙子はそのまま止まらず体からぶつかっていった。
「うっ、また外れて……だけど、このまま行く!」
ドンッ
「ぬわあっ!?」
「……この距離なら眷属は攻撃できない、巻き添えはそっちもいやでしょう」
二人はゴロゴロ転がった後同時に立ち上がる。
距離が近すぎてこれでは蛇の応援は難しい、分断に成功した涙子が水を片手に集めながらニヤリと笑った。
が、その笑みにいらっと来たぬえが開き直った行動に出た。
彼女は勢い良く地を蹴り、涙子の方へ突っ込んだ
ドンッ
「……舐めんな、小娘」
「へ、うわっ!?」
ぬえがやり返すように体からぶつかっていった。
押し倒されこそしなかったが涙子は体勢を崩し、そこへ更にぬえが追撃する。
「まだだ、串刺しだっ!」
ヒュッ
ぬえが体を捻り短く持った槍を振るった、真下から強引に涙子を狙う。
「……なっ、何!?」
涙子が顔を引き攣らせ、せめてもと水を集めていた左手で自分を庇おうとした。
だが、ぶつかった時に鎖は解かれていて、素手で防げる筈もない。
ぬえがニイっと笑みを浮かべた。
ガギィン
「え?」
が、甲高い音がしただけだった、ぬえがぎょっとし目を丸くする
「……何ちゃって、怨念返しの鏡」
槍は涙子の体数センチ手前で止まっていた。
彼女の手の中で水鏡が輝く、刃はその中に映るぬえの胸を貫いていた。
「ぐっ、分身の蛇が……」
「ま、因果応報って奴だね」
ハッとぬえが胸を押さえた。
その場所と同じ箇所に突如激しい衝撃が走ったのだ。
形代を壊し害を与えるというある意味古典的呪いだ、分身を形作る蛇が機能を停止し、そこから綻ぶように体が崩れていく。
すかさず涙子が追撃の弾幕を展開する。
「……今だ、落ちなさい、大妖怪!」
しかしぬえも意地を見せる、彼女もさる者で手近な蛇を掴んで強引に傷を埋めると弾幕を展開した。
「舐めるなよ、まだやれるっての、平安の……」
「くっ、まだ……ええい、そのまま打ち砕く、火雷天神の裁き!」
「……ダーククラウド、ふっ飛べ!」
バチバチと涙子の傍らに雷光が鳴り響きながら収束し、一方でぬえの周囲にブワリと黒雲が湧き出るように出現した。
「……切り裂け!」
「……蜂の巣だ!」
集まった雷は甲冑姿の武人を形作ると雷光の太刀を振り被る。
黒雲も負けじとばかりに見上げる程肥大化、内部に内包する無数の弾幕をばら撒いた。
涙子とぬえの弾幕が真正面からぶつかった。
ピシャンと雷鳴が轟きガガッと連続して弾幕が炸裂する、単発では涙子の弾幕が上だがぬえの弾幕は手数で埋めていく。
「これは……うわっ!?」
「ちっ、届かないか……」
結果ほぼ互角、最後にカッと輝いて双方の弾幕が消滅した。
(むう、分身相手で何とか互角か、やっぱ大妖怪相手は厳しい……でも一撃で劣っても攻撃の幅自体は広いから通じるのもある筈!)
涙子は悔しがりながら次の手を考える、何とか有効そうな手札を探ろうとした。
「ええと、雷獣と喚ばれた相手に電撃は無いね、なら効きそうなのは……」
ガタガタブルブル
「あばっ、ひっ、ひじ……」
「……え?」
が、それを発揮する前に異変が起きた、ぬえの様子がどうにもおかしい。
「あばばばばっ!?……何で聖が、いやそれよりお仕置き怖い!?」
「ええと、外で何かあった?……悪いけど大将の方に行かせてもらう!」
「……え、ちょっ、待てー!」
外の本体に問題が起きたようで分身が蹲り、今の内とばかりに涙子がぬえの横を駆け抜けた。
慌てて彼女は涙子を覆うとしたがそこへ雷光が飛んだ。
「おっとそうは行かんな、私と芳香の相手をして貰おう……やってやんよ!」
「大妖怪……いただきまーす、まずは毒爪で下拵えっ!」
「……くっ、しまった、蛇が突破されたか!?」
涙子とぬえが戦う間も蛇達を削っていたが、幾らか減って手の空いた二人が次にぬえを狙った。
左右から挟撃された彼女はその対処で手一杯だ。
二人に任せて涙子が輝夜の方へ向かった。
「……うっ、不味い!」
そこでは違和感のある光景があった、輝夜が少し前からルーミアと心理定規に打たれっ放しに成っていた。
だが、その間ずっと彼女は霊力を貯めている。
その上受けた傷も瞬く間に癒え塞がっていく、実質ダメージには成っていない。
「気をつけて……そいつ、何か企んで、いや誘ってます!」
恐らく来るだろう逆襲を止めようと涙子がクナイを手に走る、だがその瞬間それは起きてしまった。
「……不味いよ、心理定規」
「わかってる、何か来る……その前に!」
何かをしようとする輝夜、攻撃し続けるルーミアと心理定規もそれに気づいていた。
だから防ごうと全力で弾幕を放ち、未現物質の刃を振るう。
しかし、それは何の意味も成さなかった。
「……ふふふっ、その程度かしら?」
二人の攻撃は決め手が無く、妨害には至らない、ゆっくりと輝夜の体の傷は消え攻撃の準備が着々整っていく。
「う、うう、このままじゃ……む、ムーンライトレイ!」
「光に風、未現物質在りったけで……」
それでも諦めずルーミアと心理定規が攻撃を続けようとした。
が、その瞬間二人の執念を輝夜が上回る、ボウっとどこか神々しい燐光が辺りを照らした。
「夜よ……永き夜よ、来たれ」
ギシリ
その瞬間から世界が凍りついた、時間の流れが何十倍にも『引き伸ばされた』。
『……え?』
まるで重圧が掛かったかのように緩やかで、だというのにその中で輝夜だけが普段の通りに動く。
唯一人自由に動ける彼女は停止した二人を至近距離から光の矢を放った。
「行くわよ、永夜返し……初月!」
月光の如く輝く矢が激しい閃光と共に炸裂する。
ズドンッ
『……ぐっ!?』
ルーミアと心理定規は避けようとしたが『引き伸ばされた時間』はそれを許さない、輝夜同様に彼女の弾幕の普段通りの速度だった。
二人は弾幕の直撃で吹き飛ぶ、だがそこでやっと辿り着いた涙子が背後から仕掛けた。
「……水の、蛇よ!」
涙子は強引に風で加速し僅かでも速度を稼ぎ、相対的に差がある攻撃間隔もクナイ二刀と髪に仕込んだ水の蛇で補おうとした。
彼女は『引き伸ばされた時間』で辛うじて半分程度の速度で、かつ背後からの三連撃を輝夜へと放った。
「……はああっ!」
ガガガガッ
カッ
「……あ、え?」
だがもう一度燐光が瞬き、二つの刃と一つの牙は輝夜の首筋手前でピタと止まった。
「……永夜返し、三日月!」
「まだ、先が有……ぐあっ!?」
更に時間が引き伸ばされ、その中でやはり輝夜だけは普段通りに動く。
ルーミア達にしたように光の矢を叩き込み涙子を吹き飛ばした。
そして、そこで時間の流れが元に戻り、ルーミアと心理定規が、やや遅れて涙子が地に落ちた。
『ぐはっ!?』
「ルーミアちゃん、心理定規さん、佐天さん!?」
「……残念だったわね、私に当てたければ三倍の速さが居る」
勝ち誇ったように笑った後輝夜が氷華の元へ歩み寄る。
当然彼女は逃げようとしたが、再び世界がギシリと停止寸前にまで引き伸ばされた。
(輝夜にとって)一瞬で追いつき彼女は改めるように氷華の顔を撫でる。
その後満足そうに笑い、だが突如顔を顰め身を引く、ヒュッと黒い弾幕とクナイがそこを飛んでいく。
「へえ、まだ立つの」
輝夜が呆れたように見た先に二人の影、大弾を受けた胸を押えたルーミアと涙子が立っていった。
「……氷華に、触らないで」
「勝った気に、成るの少し……早いんじゃ、ないかな」
「へえ、タフ……いや無意識に体を逸らした、弾幕を避けるのに慣れてるようね」
幻想郷、正確には弾幕ごっこ、ある意味攻撃を避けること『だけ』に限れば実戦以上に慣れていたから、二人はギリギリで耐えることが出来た。
ルーミアは霊夢や魔理沙といった弾幕ごっこ最古参に次ぐキャリアで、それに劣るも涙子も弾幕ごっこの経験が当然ある。
二人は直撃ではないが『幾らかマシ』程度のダメージの体に鞭打って反撃に出る。
「ダークサイド……ザ、ムーン!」
ルーミアが巨大な黒い弾幕を放った。
当然『引き伸ばされた時間』の中絶望的なまでに減速したそれを輝夜は避けた。
が、その後ろから先ほどの攻撃を劣りに、無数の弾幕が無茶苦茶にばら撒かれた。
「ミッド、ナイト……バード!」
ドガガガッ
「ええい、悪足掻きを……永夜返し、上二月!」
「く、あっ!?」
ドゴンッ
輝夜は数段飛ばして一気に時間を引き伸ばす、自分の数センチ手前で停止した弾幕に目もくれずギリと豪奢な弓に矢を番える。
それまでで最大の輝きの矢が弾幕毎ルーミアを吹き飛ばした。
「うぐ、ぐ……で、でも本命は、あっちだよ!」
だが、彼女によって輝夜の手が埋まり、その間に涙子が風を操って幾つかの妨害を行っていた。
「……風よ、吹いて!」
ビュオオッ
引き伸ばされた時間の中で彼女が何時も以上に強く風を吹かした。
まずダメージの大きな心理定規を氷華の元へ、彼女は停止状態に苦戦しつつ何とか抱きとめる。
更に涙子は続けて風を噴射、二人纏めて後方の屠自古と芳香達の元へ飛ばした。
驚いた二人だったが素早く(あくまで引き伸ばした時間の中ではだが)左右から支えると踵を返し離脱する。
「任、せたよ……後は、時間を……稼ぐ!」
向うが逃げるのを確認した後涙子は輝夜へ最後に嫌がらせをしようとした。
スウと深呼吸した後目を瞑って意識を集中する、彼女は全身から霊気を放出し始めた。
「何をするかはわからないけど……させない!」
ズドンッ
慌てて輝夜が素早く矢を引き抜き放った、脇腹を貫かれた涙子の体がゆっくり傾ぐ。
「良し、これで……」
「ぐ、あっ……まだ、だ!」
「何?」
だが涙子は踏み留まった、彼女はバッと手を払う。
「ここで、倒れちゃ……囮の彼女に、顔向け、出来ないんだよ……行って、水よ!」
意地で立った彼女は空気中の水を集め、それをある形にした後数百に分けた。
「怨念返しの……鏡!」
輝夜を、更にぬえと蛇達を囲むように水鏡が浮かぶ、それは全方位から彼女達の姿を写し取った。
「何を……」
「輝夜、撃っちゃ、駄目……呪いだから、心に効くから、不死性は……関係ない!」
「……ちっ、そういうことか」
鏡を撃とうとした輝夜を緩やかな時間に苦心しながら(当然時間の変化は彼女にもある)ぬえが止める。
引き伸ばされた中での制止はギリギリだった、慌てて顔を引き攣らせ輝夜が手を引く。
だが、数百同時の精神攻撃という無茶な技が続く訳もなく、涙子は力尽き数秒程(通常の時間では数分程で)で倒れる。
「ふう、後は……他の人に、任せるしかないや、まあ十分でしょう」
「……ええ、十分やってくれたわ、おかげでこっちの予定は滅茶苦茶よ」
涙子が相手の目的である氷華の避難と時間稼ぎをし終えて、ゆっくりと地面に崩れ落ちる。
パリンパリンと最早維持できず割れていく鏡の中、彼女は輝夜を渋面で見つめた。
数度の攻防でその理不尽さを痛い程理解させられた。
(何て厄介な相手なんだ、能力も弾幕も凶悪過ぎる、これを崩すには……『超人的な勘の読み』か、『とことん理詰めの計算』か、どちらかでないと……)
一方で輝夜も涙子を苦々しい表情で見た、その後はあと溜息を付いて永夜返しを解除する。
「嫌な娘、予定が狂ったわ……ぬえ、正体の不明の種でも付けて見張らせなさい、私は追うから」
「おう……あ、本体の方の情報だが敵に援軍が来てるよ」
「そう、合流されたら不味いわね、急いで……」
「あ待って、本体が来たわ……おまけ付きで……先言っとくね、ごめん」
「え?」
逃げていった氷華を追おうとした輝夜だが、その方向から二つの輝きが飛んできた。
光を纏って大妖怪(本体)と肉体派僧侶が弾幕を交わし合う。
偶然にもその間に輝夜は入ってしまった、左右から閃光が放たれる。
「ふふっ、反省しながら落ちなさい、ぬえ……紫の雲路!」
「絶対ごめんだ、逃げ切ってやる……平安京のダーククラウド!」
ズドンッ
「へぶっ!?」
解除直後だったので咄嗟に永夜返し出来ず、直撃を受けた彼女は高々と吹き飛んだ。
そのまま二人は飛んでいき、完全に見えなくなった辺りでバタンと輝夜に地面に落ちる。
彼女は追撃戦は不慮の事故で早々に消耗を強いられた。
「ぬ、ぬえ、ちょっと?」
「……ツーツー、本体と連絡が取れません、御用の方は時間を置いてもう一度ご連絡下さい」
「おいこら、それってそう言うものじゃんじゃないでしょ!?」
「…………ええと何かごめん!」
バラバラバラと気不味そうな表情で分身は元の蛇に散っていき、残された輝夜は大きく嘆息した。
「うん、味方は選ぶべきだったわ……ていうかそれぞれの敵、因縁持ちが来る可能性を考えないとね」
数度溜息吐いた後捕虜と監視の蛇に見送られ、輝夜は痛む体を擦りながら歩いていく。
戦闘自体に勝ったのに目的を果たせず、その後も巻き添えと、輝夜はツイてるのかツイてないのか悩んだ。
「ううっ、でも……絶対負けないわ、何としても幻想の命を……あれ、寸前で手が届かずって、難題に失敗した五王子パターンじゃ、いやまさかね……」
何度も首を横に振って自分に言い聞かせて彼女は氷華を追い始めた。
心細そうに縮こまり、四人の少女が結界を逃げていく。
「ああ悔しいな、尻尾巻いて逃げるしかないとは……下がれ、あっちから何か来る」
「……は、はい、わかりました、屠自古さん」
先頭を行く屠自古が手振りで後続を下がらせ、それに心理定規を左右から支える氷華と芳香が従う。
敗北した以上結界内は危険であり、彼女達は外へと向かっていた。
だが進行方向、外との接点から時折妖怪兎の群れが現れ、その度に四人は身を潜め相手が通りすぎるのを待った。
「ううっ、早く行って」
「落ち着いて、氷華……隠れてればきっと大丈夫だから」
怯える氷華を支えられる心理定規が逆に支えていた。
「おや?……待て、この気配は……」
だが、何かに気づいた屠自古が自ら表に出ていき、そして近づく気配に手を振った。
「えっ、ちょっと!?
「な、何して!?」
「……安心しろ、味方だよ(……多分な)」
突然の行動にぎょっとする二人に屠自古が笑って宥める、彼女が指した方には二人の影が見える。
水色の髪に透明の羽の少女と黒い髪のお人好しそうな少年だ。
「ええと何?この組み合わせ……」
「……とりあえず説明してくれ、そっちの娘が狙われてるらしいが」
「ああ、そうしよう、ま二人も無関係ではないよ……チルノに上条殿」
かつて自分達を退けた二人に、屠自古は何ともいえない視線を送る。
敗北し追い詰められた所への援軍、どうやら希望と絶望はギリギリで競り合っているようだ。
所謂負けイベント的展開・・・本当は二三話引っ張る予定でしたが、負ける流れを引っ張るのはどうかと少し端折りました。
駆け足に成ったから後で少し文を弄るかも(まあ大まかな流れは変えませんが)
・・・で、逃げる氷華達を上条が拾った所で次回に続く。
以下コメント返信
雷天狗様
姫様タッグ相手に大立ち回りしましたからねえ・・・そういうインパクトを加味して初っ端から負けイベント、しかも大暴れが続く予定です。
九尾様
ああ烈火、確か仁王と形容されこっちは修羅と何だか似てる・・・肉体派で普段大人しいのも同様、うん想像すると雰囲気(絶望感)合ってるかな。
・・・で、ぬえの方は少し展開を変えました、必死で逃げてます、まあギリギリなのは大して変わりませんが。
うっちー様
やっぱ温厚な人が偶に怒るのが怖いと思います、ほぼ彼女の独壇場・・・まあ他の面子も追々出番があるかな?
spitfire様
あー大雑把に通常と大技は考えてたけど・・・確かにその上にスペカを用意するべきだったか、ちょっと各種大技を延長した感じで考えておきます。