「ちっ、離れたのが裏目に出たか……風よ、私を結界まで届けて!」
結界内部が危ないと見た涙子は風を吹かす、それを背に受け布都をかわそうとする。
が、そうはさせじと布都は仙術の媒介である皿を宝刀で叩き割った。
「させん、風には風を……風の凶穴!」
布都は風を利用することで追いすがる。
涙子と違い、熱で大気を歪ませ発生させた風で加速したのだ。
並走し真横から殆どぶつかるようにして突破を阻止した。
ドガッ
「きゃ、し、しつこい……」
「ふっ、行かせんぞ!」
横方向からの衝撃で涙子が弾き飛ばされ、更にそこに布都が宝刀を振るった。
ビュッ
ガギィン
「……調子に乗らないで!」
しかし、甲高い音と共にこれは弾かれる。
キッと布都を睨み返して、涙子は両手で持った氷の刃で弾いた。
そこから彼女はその場で大きく一呼吸、呼気に己の気を込めた、山で意気投合した酔っ払い鬼のやり方(火吹き)を真似て反撃する。
すると、涙子を中心にして身を切る程にその場の温度が下がっていく。
己の操る風(五行的に木)と水の気を混合し、増幅させることで爆発的に威力を跳ね上げる。
「すうっ……」
「むっ、来るか、ならばこちらも……」
布都は夏休みの戦いを思い出し、涙子が反撃しようとするのに気づいた。
彼女は素早く距離を取りながら数枚の皿を取り出し、放ると同時に宝刀を振り下ろす。
ガシャンと音がし、その後残骸を中心に激しい炎が燃え盛る。
「……凍てつけ!」
「さて……燃やすか、六壬神火!」
涙子の吐息は小規模の吹雪と成って布都へ吹き、布都の放った炎は辺りの皿の残骸に引火しながら涙子へ襲いかかる。
吹雪と炎は二人の間で衝突する。
ドガッと爆音、そして蒸気は立ち込めた。
「くっ、届かないか!?」
「ちっ、相殺か……次だ!」
「こっちも……」
双方蒸気の隙間から相手の無事な姿を視界に捉えていた。
だから、涙子も布都も急いで次への攻撃の準備に移る。
涙子は霊気を加護受けし天神と相性のいい形、白い白梅の花の形に収束するとスッとそれを翳す。
布都は数枚の皿を取り出した瞬間叩き割り、巨大な火球を同時に数個作り出す。
「天神の雷光よ、来たれ……貴人狂いて、鬼神となる!」
「我が炎を神獣に見立て放つ……熱龍、火炎龍脈!」
バアッと白梅が散り、ドンドンと火球が砕け真っ赤な散弾と成った。
白梅は輝く氷片と火花を立てる小規模の雷光に別れ布都へと、紅い散弾は龍の息吹の如き勢いで涙子へと放たれる。
再び二人の間で互いの攻撃が炸裂した。
ズガガガガッ
手数重視の広範囲攻撃同士が相殺し合い、涙子と布都は似たような表情で舌打ちした。
「ちいっ、押し切れない……ちっちゃい癖に生意気!」
「むう、粘る……ああもう皿を幾つ砕けばいいのじゃ!?」
酷い顰め面で二人は三度目の攻撃準備に入った。
が、その時地上でドゴンと大きな音がし、二人はぎょっとしてそちらを見た。
そこでは何と、一方通行がてゐの大弾を『素手』で焼かれながら止めていた。
『なっ……』
「一方通行さん!?」
その行動に上のてゐ達まで驚愕した、彼は弾くでも逸らすでもなく強引にそこに維持しているのだ。
「お、お前、何を……」
『正気ウサか!?』
すると一方通行はニッと笑った、どこか自嘲的なようにも映った。
「俺等の策、迎撃を選んだのが裏目に出たンでな……無理して帳尻を合わせるしか無ェンだよ!」
そう言うと彼は受け止めた大弾を両手でグッと抑え込む。
能力で強引に制御し解析すると二つに割った、その半分を片手で振り被って上へ、輝夜とぬえの飛行物体へと投擲しようとする。
「不味い、姫様!」
「遅ェ!」
ブンと彼の腕が振り抜かれて光球が飛んでいく、それを見た輝夜達はやや顔を顰め対策を話し合った。
「……無茶する子、こちらも賭けに出ましょうか、ぬえ?」
「了解、足場を散らすよ!」
バッと着弾前に未確認飛行物体が四散し、飛来した大弾をかわし、更に二人はここで別行動に出た。
ぬえは小さくなった飛行物体に残りこの場の始末を、輝夜は地上へ降下し結界へ向かう。
結界内部が黒い蛇、ぬえの能力の産物により割り裂かれたそこへ彼女は飛び込んだ。
そして、てゐと兎達の向うの一方通行へからかうように言った。
「残念だったわね、白い少年……厄介そうだから無視させてもらうわ」
「ちっ、逃げンのか!」
「……だって、貴方は私の目的じゃないし、それに残ったてゐやぬえ達も厄介よ!」
「……まァそうだろうなァ、だが保険は掛けさせて貰うぜ」
一見負け惜しみのような言い返されてキョトンと輝夜は不思議そうな顔をする。
すると彼は残った大弾、奪ったてゐの弾幕をブンと上へぶん投げた。
それが向かうのは涙子と布都の方だ、二人の中心を通るようにそれは飛んで行った。
涙子はハッとした表情で一方通行を見た。
「一方通行さん、まさか貴方は!?」
「……俺がこいつ等の相手をする、手前ェは中へ行け!」
「で、でも……」
「侵入者が既に居て、そこにあの姫とやらまで……中の奴等が保たねェ、早く援軍に行け!」
「……はい!」
僅かに考え込んだが一方通行の言葉は正しいように思えた、コクと頷いて彼女も降下する。
通って行った大弾で布都は来れない、その間に風を受けて地上へと加速する。
それを見た輝夜は慌てて結界に飛び込み、数秒遅れて涙子もそこに身を投げた。
「これで一応援軍は行った……後は俺がどこまで粘れるか、まァ中よりはマシだろ」
一方通行は強引な反撃で痛む頭を振りながら辺りを見回す。
敵の中に一人残り、だけど彼は戦意を湛えたまま風を纏って構えた。
「お前……見掛けの割にいい男だね、大国主様から三段下ってとこか」
『……あ、てゐ様的に最上級の褒め言葉ウサ!』
「褒めてたのか、わかり難い……」
「でも無茶だね、私達と客人の相手までする気?」
「ふっ、てゐ殿、自信があるのだろうさ……何でもこの地で最強らしいからな」
「ふうん、そうなのか、じゃあ手加減はしない方がいいね……道教の方、援護を!」
「おうっ、任せよ!」
相手していた涙子に逃げられた布都まで下に降り、彼女はてゐの隣に並んだ。
彼女はてゐ達を援護することにしたようだったが、だが念を入れるつもりかぬえの方は待機させる。
「ぬえ、そなたは上に残れ……斥候の兎が数隊戻らん、監視じゃ!」
「あいよ、余計なのが来る前に片付けちまいな!」
(……誰かしら暇人が来てるか、誰が来るかは運だな)
多勢に無勢の中で一方通行はせめて問題児でなければ良いなと、心の底から願った。
第二話 幻想の命・八
結界内部でぬえ(の分身)とルーミアに心理定規が睨み合う。
ダメ元でぬえの分身は問いかけた。
「最後にもう一度だけ聞くけど……そいつ、渡してくれない?」
『絶対にNO!』
わかっていたが速攻で断れ、やれやれと彼女は肩を竦め嘆息する。
「はあ、分身でどこまでやれるか、まあ今言っても仕方ないけど……」
今更言っても仕方ない、ぬえは諦めて三叉槍を構えた。
成り行きとはいえ何の収穫なしに引き下がるのも(しかもうち一人は人間相手で)何だか悔しいと、人外故の気紛れさと傲慢さがそこには有った。
そう結論し彼女はルーミア達に槍を突き付けた。
「……それなら実力行使だ、怪我しても文句言うんじゃないよ!」
言って踏み込み、まずは氷華奪取の邪魔と成る二人へ槍を振るう。
が、心理定規がぎこちない動作ながらも、未現物質の短剣で迎え撃った。
「さ、させない、非戦闘員の私でもこの得物なら……や、やあっ!」
ガギィン
振りは不格好で雑だ、なのに異常までの衝撃がぬえの手に走った。
「うおっ!?」
「……良しっ、や、やれるわ!」
拙い手付きから考えられない威力を奇妙な短剣は秘めていた、心理定規はその力に勢い付けられてもう一度振るう。
その攻撃は相手の剣に警戒したぬえにかわされたが、再び未現物質が不可解な現象を起こす。
刃の軌道に沿って空間が歪み、大気が滅茶苦茶に撹拌されて激しい衝撃波を発生させる。
ギュオッ
「わ、わっ……」
突如起こった衝撃波に翻弄され、ぬえが体勢を崩して後退る。
すかさずルーミアが弾幕を展開する。
両手に妖気を集め、連続して光線として放とうとした。
「行っくぞー、ムーンライト……」
二重のレーザーで二方向から攻めようとし、だがぬえがその出鼻を挫くように吹き飛ばされながら弾幕を撃った。
吹っ飛んで不安定な姿勢から槍を突き出す。
その先端がユラユラと揺れた後思うと、その動き同様に気紛れな弾幕が放たれる。
「……させるかっ、姿態不明の空魚!」
鋭い尖った弾幕が高速で撃ち出された。
それは空を自由自在に泳ぐようにして、小刻みに動きながらルーミアへ襲いかかる。
咄嗟にルーミアは下がろうとしたが動きに翻弄され回避はままならず、止むを得ず閃光の片方でそれを砕く。
「そうだ、そうするしかない……だが、それでそちらの火力は半減だ!」
「くっ、だけど、半減しても当てさせすれば……」
「……おっと、こっちももう一発あるよ?」
「う、不味い……む、ムーンライトレイ!」
ボンッという音を最後にぬえの弾幕は掻き消されたが、ぬえはその間に二射目に移っていた。
慌ててルーミアは残る片方の閃光だけで放つ。
「おっと……軌道不明の鬼火だ!」
だが、揺れる軌道の大弾がその軌道に置かれ、真正面から迎撃の形となる。
二つの弾幕は大きく弾け、辺りを激しく揺らした。
爆炎と閃光、その両方が双方の目を焼くが、特に夜行性のルーミアにはそれは厳しかった。
「うわ、チカチカする……」
「おや光は苦手かい?……うりゃ、隙有り!」
機と見てぬえが前に出た、槍の石突きを全力で突き出す。
しかし、そこへ心理定規が割り込む。
慌てた様子で駆けてきた彼女はまず抱きつくようにしてルーミアに地に押し付け、安全圏へ行かせた。
「ルーミア、伏せて!」
「へう……」
「……暫くそのままで、ここは私が!」
駆けてきた勢いのまま心理定規が全力で未現物質の刃を振るった。
ガギィン
「うっ、ああもう、また邪魔を……」
やはりそれは見かけ以上の威力で、ぬえは蹈鞴を踏んで距離を取った。
そこへ起き上がったルーミアが弾幕を放つ。
「もう、心理定規ってば行き成り……まあチャンスか、行け、ナイトバード!」
「くっ、状況が悪い、グレイズとは行かないか……」
バッと拡散弾が広がって、虚を突かれたぬえを回避のために更に下がるしか無かった。
これによりルーミア達に数秒の猶予が生まれた。
視線を二人は交わし、素早く策を組み立てる。
「ルーミア、何か思いついたかしら?」
「相手は分身だから脆いと思う、隙を見つけて当てさえすれば……」
「……わかった、私がその隙を作ってみせる、止めは任せたから!」
コクと頷いて心理定規が前に出た、後はルーミアに任せようと全力で走り出す。
それを見たぬえは慌てて槍を一振りする。
「くっ、近寄らせたら不味い、あの武器は厄介……軌道不明の鬼火!」
弧を描いた槍の軌道に沿い、ボボッと数個の大弾がその場に浮かんだ。
大弾は不規則に揺れながら心理定規の進路を阻むように集まっていく。
だが、心理定規は足を止めず、更にここで一つの賭けに出た。
「あら不味い、動きが読めないわ……所詮非戦闘員だし」
「何、諦めたの?」
「まさか、私は非戦闘員だから……『彼』の能力に任せることにするわ」
「何?」
彼女はブンと持っていた短剣を放り投げる。
クルクルと弧を描いて回転するそれは向うの弾幕の発する光でギラと輝く。
未現物質の刃はその身に受けた光を本来有り得ない『性質の変換』を行った。
カッと激しく輝くと、反射光が異常な熱量で大弾を焼き尽くし、それにより大弾で埋まった進路が一瞬で片付けられた。
「何!?」
「……未現物質、本当にとんでもない力ね」
呆れながら心理定規は空中で回転する短剣をキャッチ、そのまま一気に間合いを詰める。
一瞬ぬえは弾幕の消滅に呆然とし、それでも慌てて次の弾幕を展開する。
「大技が要る、それなら……原理不明の妖怪玉!」
ぬえはバラバラと無数の小型弾幕を展開し始めた。
だが、既に距離は大分近い、心理定規は相手の弾幕が広がり切る前に、避けきれなくなる前に短剣を振り回す。
遮二無二振り回すそれは連続で衝撃波を放つ。
衝撃波と弾幕が相殺し、少しずつ道が開いていく。
「このまま突破して……「甘い、上だよ」え?」
ズドン
「ぐあっ!?」
「……惜しい、二弾構えの弾幕でねえ」
が、頭上から降った大弾で彼女は体勢を崩す、拡散する小型弾幕を囮にぬえが誘導したものだ。
肩を打たれ彼女の動きが止まる。
そして、ぬえは槍をゆっくりと突き付け、心理定規へ勝利宣言をしようとした。
「さ、まずは一人片付いて……「雷光よ」「どくそー!」ぐあ!?」
だから彼女は背後から攻撃を受けた、勝利を確信したから完全に予想外だった。
まるで正体不明の種と自分との『距離』が空いたかのように連携が乱れ、正体不明の種が抑えていた筈の屠自古達に攻撃を受けた。
困惑するぬえを見て、目の前で荒く息を吐く心理定規がニヤリと笑う。
「馬鹿な、何故種たちが……」
「私の力よ、貴方と他の奴等の距離を遠ざけた、態々非戦闘員の私が本気で特攻とでも?……全部囮よ、さあ止めを刺しなさい、ルーミア!」
「おうっ、任せろ……ムーンライトレイ!」
そこへ心理定規に任せてずっと霊力チャージしていたルーミアが弾幕を放つ。
至近距離から放たれた、今度は半分の威力ではない砲撃がぬえを高々とふっ飛ばした。
「ぐうっ、形振り構わずか……な、成程、貴方達の執念を甘く見たようね。
……だけど、そういうのならこっちにだって要るわよ!」
だが、彼女は笑って言った、負け惜しみではなく自分の役目を終えたとでも言う風な笑みだ。
それを証明するように向こうでドンドンドンと爆音が何度も響く。
その度に毛玉や水の蛇、ルーミア達にとって味方となる涙子の残した防衛機構は弾幕で宙に舞った。
味方ならそんなことはしない、つまりルーミア達にとって敵ということだ。
「時間稼ぎ終了……でもこいつ等結構手強いよ、任せていいかしら、輝夜?」
「ええ、ご苦労様……後は私がやる!」
ダダっと異様に速い、まるで彼女の周囲の時間だけが遅くなったかのような不思議な動きで一人の少女が現れる。
白磁の如き肌に長く美しい黒髪、豪奢な和服を着込んだ長弓を担いだ少女だ。
彼女はチラと氷華を見て、どこか寂しげな笑みを浮かべた。
「初めまして、幻想の命、その身……貰い受ける!」
強い決意を込めて少女、月の姫君の輝夜が宣言した。
「……さて、次の私の相手は?」
更にその後ろにぬえが槍を構えて立つ、ルーミアの攻撃でボロボロだがまだ引く気はないようだ。
彼女は輝夜にやや遅れて走ってきた少女を睨んだ。
「くっ、微妙に遅れた……貴女が相手かな、蛇と猿と鶫の匂いのする妖獣さん」
「ぬえだって、そんな特徴は他に居ないだろ……そういうそっちは妙に酒臭い、年を誤魔化してないか?」
「へえ、ふうん、それを聞くのは自殺志望と判断する……良し、落とそう!」
「……しまった、見掛け以上の長生きさんだったか」
輝夜の背後を守るのはぬえ、彼女は心理定規から制御を取り戻した種と共に新手、涙子とその左右に並んだ屠自古に芳香を迎え撃つ。
結界の最奥で、天使を手に入れようとする者と守ろうとする者が二つに分かれ相対した。
「幻想の命よ、諦めて私の手の中に……大事にするからね?」
「い、嫌です、私は……物みたく扱われたくない!」
「……だってさ、だから邪魔してやるー!」
「ええ、やりましょう、ルーミア(……もう少し羽を借りるわ、リーダー)」
「……輝夜達は燃えてんねえ、まあ私もまだやる気だが」
「ふん、大妖怪の相手は慣れてるっての……簡単には負けない、それも分身なんかに!」
『援護する、佐天(さてん)!』
現状一応は佳境と言っていいだろう、戦場は一応の終息に向かおうとしていた。
・・・展開をちょっと変更しました(ぬえ戦意喪失の辺り・・・)
以下コメント返信
ふらんけん様
寧ろ他に使いどころが思いつかなかった、なので似てるシチュで強引に使いました・・・まあ殆ど感情論だけどだからこそ大事なんだと思う。
うっちー様
・・・前提の結界水際の迎撃がぬえの侵入で崩れたせいか、前のめりなのもあるけどぬえの融通の利く能力が大きく、だから中への急行を優先中。
でまあその為に殿残った一方通行は苦戦したものの・・・何とか上条さん達が間に合いました、特に聖さん怒ってます。
九尾様
トラウマは引っ張った方が面白そうで先送り・・・で部下に優しいていとくん、自分の行動の巻き添えで喰われかけたの悪く思ってるんでしょうね。
佐天さんのスタイルは・・・単に超電磁砲側のスタッフの趣味じゃないかと、絶対に美琴辺りと絵にして対になるようなデザインの気がします。