Infinity recall Sequence.1序章『虚』彼の心に常に付きまとっていたのは、虚しさだった。それは希望に満ち溢れた瞳をもつ少年との出会いを経て、絆というものの強さを目にした後でさえ、自らの心に硬いしこりのようにのこった。彼には仲間がいた。彼は仲間たちと旅に出て、楽園を見つけてなお、そのしこりは残った。そして自分と仲間を苛める絶望の折、少年と再会し、窮地を乗り越えてさえ、その心しこりは残った。彼には家族がいなかった。仲間には家族がいた。何世代も育んでいくであろう愛情を生んで行くことのできる家族が、仲間にはいた。彼は悩みつづけた。私は誰だ。何のために生まれた。私はなぜ生きねばならないのか。私の存在には意味があるのか。終わらぬ自問自答の末、彼はその一生別れを告げ、ゆっくりと瞳を閉じた。何も無い世界。その中で意識だけが呼び覚まされていくのを彼は感じた。自分以外何も存在しないとおもっていた闇の空間、彼の意識が覚醒したのは、目の前に懐かしい気配を感じたからだった。重いまぶたを再び開き、驚いた。目の前に自分のオリジナルがいた。『これは・・・・・・驚いたな、お前の方から私に会いに来るとは』皮肉を込めた自分の言葉に、オリジナルは苦笑するように目を細める。『不思議と思わんか、お前というオリジナルと、そのコピーである私、本来まったく同じ 形で複製されるはずのものが、こうもまったく違う形状をしている・・・・・・いや、 下らない質問だったか、まったく自然な形で生まれたお前と、人のエゴと欲望のでまみ れて生まれてきた私・・・・・・本物と同じ姿で生まれてくる訳が無いな』言って、彼の心の虚無がズキリと疼いた。彼は生涯ただの一度として流したことの無い涙を流し呟いた。『なあオリジナルよ、偽者の私には、一体何の価値があったんだろうか、 私の一生には、一体何の意味があったんだろうな』その呟きと涙は、彼とオリジナルだけが存在するこの空間に溶けて消えていった。そして人に造られし最強ポケモン、ミュウツーの意識は闇の中へと沈んでいった。