※注意事項
本作は、別サイトで作者が書いていた作品の『リメイク』です。そのことをご理解していただけた上で、読んでいただければ、と思います。
なお、完結次第、元のサイトからは作品を削除しますので、ご注意ください。
以上のことを踏まえた上で、どうか拙作におつきあいいただけたなら、幸いです。
忌憚なきご意見、お待ちしております。
序章・森の中
「っはぁ、はぁ……!」
時刻は午前二時半。
比較的地方に位置するこの街では、もはや人気はなく、住宅街も商店街も、ただひっそりと静まり返るだけだ。
「っく、はぁ……!」
そんな街の一角、外縁の雑木林。
人目をことさらはばかるようにして、一組の男女が潜んでいた。
年のころは二人とも三十代の入りばな、というところだろうか。
女性の腕には、黒い布に包んだものが抱かれていた。
「……大丈夫か?」
男性の、気遣うような声。
それもかなりひそめられて、夜の静寂に溶けていくような、小さな声。
「……ええ。大丈夫」
応える女性の声も小さい。
何かに怯えるような声音は、噛みしめられた唇と、黒い包みに落とされた視線がその背景を物語る。
なるべく視線だけの会話と、気配を探るような緊張感。
何かに怯え、逃げているものの仕草である。
しかし、漂うのは逃亡者の悲壮感と焦燥感だけではない。
二人の瞳には、確かな決意と、力強い光が宿っている。
その光は、主に黒い包みに向けられている。
そっと男性が雑木林から外を覗き込んだその時。
暴力的な光が、男性と隠れていた雑木林の一部に突き刺さる。
「な……!?」
「は、逃亡ご苦労。どうだった? 二人きりのハネムーンは満喫できたかね?」
その光を背負った人物が、傲慢に、高飛車に、嘲弄に言い放つ。
勝利を確信している者だけが取る、優越の態度。
それでも男性は逃げ道を探すことをやめない。
可能性だけは絶対に手放さない、とでも言いたげに。
しかし、もはや四方を囲まれていて、どこにも逃げ出すような隙間はない。
「無駄だよ。君たちがここに戻ってくることは分かっていた。だが残念ながら、君たちのつてはすべて崩させてもらったよ。……封殺だ、さっさと“種”をこちらに渡して死ね、反逆者の愚図どもが」
冷酷な言葉とともに、幾百の銃口が二人に向けられる。
男性が前に立ち、女性をかばうように周囲を睨み返す。
だが鉄の銃口は冷徹にその視線をそらさず、火を噴く瞬間を待ち望んでいる。
その鉄量の前には、何物も無力である、と言いたげに。
進退窮まったその時。
女性の腕の中で、黒い包みが動いた。
もぞりと動いたその包みの中には、赤ん坊が一人いた。