第123局からのIF分岐の再構成です
ヒカルの碁 IF サヨナラ
祖父平八の家の蔵が泥棒に荒らされた為に様子見をした後に祖父と一局を打ってから家に帰るヒカル。
最近の佐為との意見の齟齬が増えてきてせっかくの対局でも機嫌が悪く不機嫌な顔で玄関に手を掛ける時に声を掛けられた。
「ヒカル!」
「あかりか。どうした?」
「明日から、囲碁のお仕事なんでしょ」
「150人くらいの客を相手に指導碁なんかを他のプロの人たち何人かと一緒に泊まり込みでするけど、良く知っているな」
「ヒカルの初仕事でしょ。おばさんから聞いたの」
「ふーん。なら土産でも買ってくるから楽しみにしてしてな」
「うん」
あかりとの会話で機嫌を直し、家で再び佐為と対局を行い次の日の仕事に臨んだのだ。
囲碁ゼミナール。棋院主催のこの行事にタイトルホルダーの緒方精次十段も居た。
saiと打たせろと絡む事を恐れたヒカルは緒方から一日中逃げていたりもしていたのだが。
ついつい指導碁に熱中して夜の11時過ぎになってもお客さんたちと会場に居ると、十段位祝いを兼ねた飲み会から帰った緒方に出会ってしまったのだ。
結局sai(佐為)と打ちたいという緒方と、酔っているのなら大丈夫でしょうという佐為の言葉にヒカルも渋々緒方との対局に応じたのだ。
緒方の部屋で芦原を気遣い灯りを付けずに窓際で自覚なく佐為と打ったのだが、酔いの結果碁を崩して敗北となった。
それでも、その碁に佐為の気配を感じたのは流石である。
そのまま自分の部屋に戻るヒカル。
『緒方先生は少しは満足したかな? でも佐為は酔っていない緒方先生と打ちたかったんだろう』
『いえ、例えこの様な対局であっても打てる事自体が私にはうれしいのです』
『そういうものか?』
『それで……』
『わかっているって、まだ打ちたいんだろ。明日は先に土産を買って、それから講師のアシスタントだから程ほどにな』
パチ。パチ。
(う・うーん)
ヒカルとの対局を終え、いつの間にか椅子に座ったまま寝入った緒方が耳にしたのは碁石の音だった。
(これは、夢だな)
緒方は無意識にそう思い、音のする方に意識を向けると果たして、特徴的な前髪で直ぐに分かったが進藤であった。
(相手は誰だ?)
そう思い相手を良く見ようとしたら。
「だーっ! また負けた。少しは遠慮しろよ」
ヒカルの台詞に碁盤を見るとプロに成りたてとは見えない見事な棋譜であった。
だが相手の白石の棋風は。
そう緒方が求めて止まないあのネット碁の棋風。
そして対局相手は烏帽子に狩衣の平安貴族の衣装をまとった女性と見間違う美貌のだがその気迫は決して見た目で間違わない鋭さを持った腰までのストレートの黒髪の男性であった。
「うっ!」
その彼の瞳が緒方を捕らえた時、思わず気後れをして後ずさりをしたのだ。
そして、進藤は? と見るとそのまま「明日もあるから」と寝ていた。
その、「明日」という言葉に寂しそうな表情を浮かべると改めて緒方に挨拶をしたのだ。
「改めて、初めまして。私は藤原佐為(ふじわらのさい)。あなたにはsaiとして知られる碁打ちです」
「佐為…… それが本名か。そして進藤との関係は、いや師匠なのか」
もはや夢であることを忘れその言葉が真実だと悟った。
「どうやら、酔いも醒めたようですね。改めてもう一度打ちましょうか」
言われて碁盤を見ると進藤が消えていて、打ち手を待っている状態だった。
「もう一度?」
その言葉に疑問を持ったがそれでも碁バカである緒方は打つ事を優先し疑問は後回しに碁盤の前に座るのだ。ニギッて黒になった緒方は酔っている筈なのに頭脳がクリアに先ほどとは全く違う碁を打っていたのだ。
(これこそ、オレが望んだ対局。神経を削るこの様な碁こそ待ち望んでいた)
それでもこの夢か現か幻想的な対局も最後は緒方の中押しで負けて終わりだった。
「一体、ここは? そして佐為の正体は何者だ。それよりも又打つ機会があるのか?」
緒方の矢継ぎ早の質問にも微笑むだけで答えずただ一言。
「明日。いえもう今日ですか。ヒカルを帰る時にあの者、塔矢殿の下にに連れて行って下さい。そうすればわかります」
「塔矢先生に? 連絡を入れて確認しないとダメだが連れて行こう」
「お願いします。できれば余人を交えなずに会える様に話をして下さい」
そのまま緒方は意識を落として寝入っていった。確かに佐為と打ったという感触と棋譜を心に残して。
次の朝、昨夜の酒の影響を感じさせない緒方は一階ロビーをうろついている進藤に声を掛けた。
「進藤、何をしている」
「緒方先生。土産でも買おうと思ってどこに行けば良いかと迷って」
「なら案内してやるよ。ついでに帰る時も一緒にな」
会った時もあからさまに迷惑な顔をしていたが帰りも一緒となると隠す気もなく顰めていたが、次の言葉で機嫌が戻り緒方も現金な奴と内心苦笑した。
「その代り塔矢先生の所に連れて行ってやるから。先生はオレと違って佐為よりも進藤自身に会いたがっていたから安心しな」
土産物屋で緒方は高校にも行かずにプロになるのは普通の家庭の親御さんなら心配するだろうが、黙っているのは信頼している証だから感謝するんだなとも言われそれもそうかと納得し選び出したヒカル。
「何だ、殊勝に両親の土産と思ったら彼女のプレゼントか」
思わず、あかりの携帯のストラップに良いかとアクセサリーを手に取ったヒカルを見て普段からは想像もつかないいたずらっ子のような表情を浮かべからかう緒方。
「そんなんじゃない」
赤くなりながらもそれでも商品には手を離さないヒカルを見てからかい過ぎかと反省した緒方は先に戻るから仕事には遅れるなと言って別れた。
そんな緒方にホッとしながらあかりの顔を思い浮かべながらも「彼女じゃないよな」と自分を言い聞かせながらも結局買ったのだ。
芦原の講師のアシスタントとして、どこに自分なら石を置くかどのような意図があるかを受け答えるのを見ている緒方はそのヨミの深さにやはりアキラに匹敵する才能を感じ取っていた。
そして昨夜の夢の遣り取りと見事な棋譜も。
そこで、緒方はマグネット碁をふと見かけて「バカな事をしている」と自覚しながらも購入したのだ。
昼前に解散となり緒方はヒカルを捕まえて新幹線で一緒の席で帰る事になった。
その時に「今度は酔っていないから負けない」と言って買ったばかりのマグネット碁で勝負を挑み見事雪辱を果たしたり、そこに芦原が顔を出して見事玉砕したりして時間を忘れているうちに東京駅に着いたのはまだ日も高い時間である。
東京駅で芦原と別れそのまま緒方に駐車場にあった車に乗せられ塔矢邸に向かう事になった二人。
「家には少し遅くなると連絡をしろ」
そう言って携帯を持っていないと言うヒカルに自分の携帯を渡す緒方。
「でも、なぜ塔矢先生がオレを呼ぶんですかね」
「塔矢先生が呼んだ訳では無いぞ」
「えっ?」
塔矢邸に寄って行くと連絡してから改めて理由を聞くと意外な答えが返ってきた。
「昨夜佐為に頼まれてな」
その返答にますます混乱するヒカル。
『どういう事だ佐為』
『えっ、まさかあれは本当のこと?』
佐為も又驚いていた。
「酔って寝込んでいたら、夢で進藤が平安貴族と打っているのを見てその時、藤原佐為と自己紹介されて塔矢先生の所に連れて行ってくれと頼まれた訳だ」
そう言ってチラリと助手席の進藤を見ると青くなっていた。
『緒方さんにも佐為が見えるのか?』
『ヒカルが寝た後になぜか緒方殿が私の前に現れて対局した後にそう願ったのは事実ですが。神が見せた夢だと思い込んでいましたが』
『幽霊が夢を見るかよ』
『そうですが』
ヒカルの指摘に思わずシュンとなる佐為。
「どうやら本当に佐為が居るらしいな」
緒方の指摘に顔を引きつらせるヒカル。
「まあ良い。詳しくは塔矢先生と一緒に聞こう」
塔矢邸に着いて塔矢夫人に案内され書斎に入ると塔矢行洋一人だけが待っていた。
「緒方くん。今朝は随分早く連絡を貰ったが、進藤くんがどうかしたのかね?」
落ち着いた声で問う行洋に佐為は決意をする。
『ヒカル。もう一度行洋殿と打たせて下さい』
『ネットならまだしも、ここで打つという事は佐為を背負う事なんだぞ』
『背負う事には決してなりません』
以前の様に背負えばよいと言わずに心配ないという言葉に、最近打たせていないという負い目があるヒカルは黙り込んでしまう。
遂に佐為の言葉を信じ頷いてしまう。
それは、最近の時間が無いという言葉を無意識に信じているからか、緒方と意識が繋がったイレギュラーの所為なのかヒカル本人も解らなかった。
(ヒカル、最早時間が残っていない私の我が侭に応えてくれて感謝をします)
「塔矢先生。オレと、いや自分と一局ここで対局してくれませんか。出来たらここの三人だけの秘密で」
敬語も怪しいヒカルの精一杯の言葉に何かを感じたのか、佐為との時と違い行洋は黙ってうなずいたのだ。
その時緒方はヒカルの背後に気配というか練達の棋士の気迫を感じ取ったのだ。
「進藤くんが先番でよろしいね」
「はい」
そこまで互先と言い張れず、又前回は佐為が白番だったから良いかと頷いた。
「「よろしくお願いします」」
ここに緒方(と進藤)だけが見守る対局が始まった。
あとがき
ヒカルの碁の再構成です。
逆行その他を考えましたが序盤の流れが難しくプロからの変化です。
東京に着いた時間が2~3時間早いがきっとゼミナールの場所が違ったのでしょう。
佐為に片思いの緒方さんが可哀そうでもう少し打たせてあげました。
もし続編が今できたら現実世界と時間がリンクしているからヒカルは28歳。
タイトルホルダーになってもアキラたちがいると大三冠や連覇は難しい状態か?
でも最近の若手の様に国際棋戦で活躍しているかも。
そして新主人公相手のラスボスにジョブチェンジ。