※学園・超能力モノ
※いてまえ精神で日刊更新予定
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「彼」は暗い部屋にいる。
部屋の中にあるものは、わずかにテレビとベッドだけだ。
彼はベッドに腰かけて、煌々と輝くテレビの画面に見入っている。
画面の中では、しかつめらしい顔をした女性キャスターが、淡々とニュース原稿を読み上げている。
「次です。
昨夜未明、東京都郊外で、またしても爆破事件が起こりました。
今月に入って三回目となりましたが、今回は公共物だけでなく、民家の塀なども爆破された模様です。現場から中継します」
映像がスタジオから事件現場のものへと切り替わる。
彼は前のめりになり、テレビの映像に見入った。
そこに映し出されているのは、ごくありふれた住宅街の一角だ。
しかし、そこに残されたいくつもの生々しい傷跡が、起きた出来事を雄弁に物語っている。
割れて飛び散ったガラス、ひしゃげた道路標識、えぐれたコンクリート、粉々になったブロック塀、焼け焦げた植え込み……。
全て、彼にとって見覚えのある光景だった。
彼は、現場中継をするアナウンサーの言葉など一切耳に入っていない様子で、食い入るように画面を見ていた。
その双眸には嗜虐的な感情が宿り、口角は知らず知らずのうちにゆっくりと吊りあがっていた。
チャンネルを変える。
他局のニュース番組が映し出される。
そこで特集されている事柄も、昨晩の爆破事件についてだった。
「そもそも、今回の事件はですね、
例の【超能力者】……まあ巷では【ギフト持ち】とか【タレント】とか呼ばれてるそうですが、
とにかくソレが引き起こしたことには違いないんです。
ハッキリしてるんですよ。近所の人の証言だってそうでしょ。
黒いレインコートを着た人影が手をかざしただけで、モノが爆発したって言っとるんでしょうが。
そんなの、超能力者以外にできることじゃないんですわ」
「つまり、警察には早いところそのセンで捜査してもらうべきだと?」
「まさしくそうですなあ」
名も知らぬ評論家の顔が大写しになったところで、彼はまたチャンネルを変えた。
「えー、今回の事件で死傷者は出ていないとのことですが、今後の被害拡大についても充分に考えられますので、近隣住民の方々は今後とも充分に注意をしてください。
……それでは、次のニュースです」
見出しのテロップが切り替わるのとほとんど同時に、彼はテレビの電源を切った。
部屋は静謐に包まれている。
窓の向こうからわずかに雑音が聞こえてくるが、それだけだ。
彼はベッドから腰を上げると、ぴったりと閉じられたカーテンを左右に開け放った。
遮られていた光が部屋の中に満ち満ちていく。
彼は眩しさに一瞬目を閉じ、徐々に開き、窓の外に広がる景色を眺めた。
軒を連ねるいくつもの家々。
それらの前にある一本の大通りでは、黄色い帽子を被った子供たちが、ぞろぞろと学校に向かっていく様子が見られた。
その様子を家の玄関から見送る母親の姿も見られた。
サラリーマンに吠える番犬も、
杖をついて横断歩道を渡る老人も、
二人乗りの蛇行運転で道を行く若者も、なにもかもが見られた。
いつも通りの平和な世界だった。
彼は勢いよくカーテンを閉じ、ベッドの前まで戻ると、大きく伸びをしてからブランケットの上に倒れ込んだ。
もう一度眠ってしまいたかったが、そろそろ出かけなければいけない時間だった。
(これでいい。これできっと、アイツはやってくる)
彼はベッドの上に伏したまま、そんなことを思った。
臓腑の底から、笑い声が漏れてくる。
控えめなくすくす笑いが、だんだんと大きなものになっていく。
彼は仰向けになり、天井を見つめながら、げらげらと笑い転げる。
狂気の笑い声は、部屋の静寂を塗りつぶし、いつまでも続いた。
新しい一日が始まろうとしていた。