旧題:辰巳屋巡の箱庭探偵
・簡単な内容
小学四年の時、最上幸一の幼馴染である辰巳屋巡は言った。
「わたしの助手にならないか、幸一」
それから七年、高校になった今も最上幸一は“箱庭探偵”と彼が呼ぶようになった辰巳屋巡と共に探偵ごとをやっていたのだがある日、“辰巳屋巡が暗殺される”というとんでもない情報が舞い込んでくる。暗殺の期限は、情報が露見してから一週間後の五月十四日。
はたして最上幸一は、彼女の暗殺依頼を止められるのか。
ミステリー風ラノベだと個人的には思っています。
完結まで10万文字程度、20~30話を予定としています。
小説家になろうの方にも投稿しています。
ミステリー書いてみたいという気持ちで書いてます。大体10万文字、20~30話を予定しています。正直手さぐりなのでアドバイスや感想があったら書いてくださると嬉しいです。
小説家になろうにも投稿してます。
2014年09月09日 1話投稿
2014年09月19日 2話投稿
2014年09月20日 3話投稿
2014年09月22日 4話投稿
2014年09月29日 5話投稿 *三滝原学園を丘庭学園に変更
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小学四年生の頃である。
「わたしの助手にならないか、幸一」
その日、幼いころから毎日のごとく顔を見合わせている彼女は僕と会うなりそう言った。
「助手?」
「そう、助手だ。 最近クラスの内外問わず何かと事件が起きてるだろう? 想像以上に騒がしいので私が解決してやろう、という気になったわけなのさ」
彼女の言い分を聞く限り、現在の状況が彼女にとって好ましくないようで、ならば自分が事件を解決してしまおう、とのことだった。
なんで彼女がそんな事を言ったのかと理由を問われれば、当時僕らの周りでは大なり小なり多種多様な事件に見舞われていたからだと僕は答えるだろう。
それは例えば、友人から貰ったプレゼントが唐突に手元から消えてしまった、学年単位での喧嘩が起こった、などならまだかわいらしいもので、生徒の親が修羅場で殺傷沙汰を起こした、生徒が誘拐未遂事件に巻き込まれたなど、冗談の一言では済ませられない事件すら発生していた。そして様々な事件が発生していて闇鍋状態になっていたこの街の事件に介入している警察や、それに群がる各メディア関連のマスコミたち。彼女の言うとおり、僕らの住む街は確かに騒がしかったが、それ以上に物騒でもあった。
「はぁ、まるで探偵みたいだな」
「みたい、ではなく探偵だよワトスン君」
「一つも事件といてないくせに、もう名探偵気取るのはどうかと思うぞ辰巳屋」
「どうせ今起こってることの大体は私が全部解くことになるからね、そう称してくれても差し支えないよ。で、どうだい幸一。私を手伝ってくれるのか否か、返答を聞きたいのだが」
彼女の言葉は誰もが大胆不敵を通り越し、傲岸不遜と判断するであろうものではあったが、当時の僕はミステリーだとかサスペンスだとか、いわゆる警察以外の職種についている人間が、難解な事件を解決に導く系統の小説に夢中であった。――そしてそれらの推理小説に出会う切っ掛けを僕に与えた張本人である少女の言葉は、小学生が持つ好奇心と、少なくない興味を惹くには十分だったのだろうと思う。
なにより、彼女は頭が良かった。それは知識の方もそうだったが、その使い方が尋常ではなかった。彼女が事件解決するという言葉を冗談として捉えられず、また当時の僕が至極真面目に彼女の助手役を引き受けた要因の一つであったのは間違いない。
「助手役、やってやろうじゃないか名探偵」
「ん、頼りにしてるよ。そしてたっぷりこき使わせてもらうからね。あ、今から外の自販機で飲み物買ってきてよワトスン君」
「ただのパシリじゃねーか!!」
その日から、嘘のように僕らは様々な事件に関与し、冗談のようにその尽(ことごと)くを解決していった。
これが、僕と彼女――“箱庭”探偵こと辰巳屋巡(たつみやめぐる)の誕生の瞬間であったと、僕は記憶している。
辰巳屋巡は箱庭の中で名探偵の夢を見るか
(五月七日①_1)
そして、七年後。私立丘庭学園の教室にて。
――昼休み、裏庭の一本杉にてお待ちしております。
おそらく細筆を使って書かれたのであろう見事な文章。僕は簡潔にその一文だけが書かれていた手紙を『最上幸一(もがみこういち)君へ』とこれまた達筆な文字で書かれいた封筒に折れ目が付かないように丁寧に戻し、周囲に気取られないようにそれを鞄にしまった。
まさかいつも通う高校の下駄箱に、こんなサプライズが待ち受けているとは思わなんだ。いろんな意味で心臓をドキドキさせている僕の心の中を現実に反映できるとしたら、きっとこの教室は心臓の鼓動音で埋め尽くされているだろう。
そんな生産性もへったくれもあったもんじゃない妄想をしている僕に、唐突に後方から聞きなれた友人の声がかかる。
「おはよう幸一くん――ってどうしたのそんな体をびくつくかせて」
「?! いやなんでもななないよ? おおおはよう雪路(ゆきじ)」
「冷や汗かいてるし、怪しい。無理してない? 体調悪いんだったら保健室に連れてくけど?」
「あ、ああ。大丈夫だから気にしないで」
花の意匠をこらしている髪留めを前髪に2つ。僕に寄せられた茶色の瞳の視線。
そう? と未だ心配そうな表情をしている彼女――三階堂雪路(みかいどうゆきじ)に僕が健康であることをこれでもか! と言うくらいジェスチャーでアピールすると、一応納得してくれたのか、肩まで届く金髪をなびかせながら三階堂は僕の前の座席に座る。そうして肩にしょっていた学生鞄を机のそばに置いた後、椅子ごと体を僕に近づけて手の甲を顔に寄せて、いわゆるひそひそ話のポーズをとった。
彼女がこのポーズをとる、と、いうことは。
「ところで幸一くん、また新しい相談事なんだけど」
「ん、どんとこい」
僕の友人を代表する一人である三階堂雪路は、我が高において生徒会副会長を務めているという結構な存在だ。そしてそんな生徒のいざこざなどを一身に背負う立場故にか、結構な頻度で何かしらの問題話が舞い込んで来るのであった。
大抵の問題は三階堂含めた生徒会と風紀委員の方で処理されるのだが、中には彼らだけでは処理できない、ないし時間や手間がかかる問題が混じっていることがある。三階堂はそのような場合に限り、僕と巡に問題の解決を頼んでくるのであった。(僕はそのような現象を“事件”に発展した、とひそかに呼んでいる)
三階堂がひそひそ話のポーズをとったということは、つまりは何かしらの問題が“事件”に発展したのだろう。確実に美少女に分類される三階堂の顔が近くにある状態は気恥ずかしいが、同時に役得でもあるという気持ちが存在しているのは健全な男子高校生として決して間違ってないと思いたい。
「……最近、生徒の間で変な噂話が流れてるの」
「噂話? ってあれか? お金や物を払えば願いが叶うっていう」
「うん、多分幸一くんが想像している噂であってると思う。正確にはそういう“お供え物”と“願い事を書いた紙”を第二裏庭の社に置いておいて、次の日までに“お供え物”が消えてれば、紙に願い事が叶うっていう、嘘みたいな話」
「あー、僕が聞いた時もそんな感じだったような…」
僕自身、現在進行形で辰巳屋巡という探偵に付きあう形で助手なんて役を担っているためか、“事件”が何もない暇な時や、手が空いた時などに軽く情報収集もどきをするような趣味ができていたので、三階堂の話には少なからず既視感があり、彼女の話す荒唐無稽な噂話もスムーズに受け入れられた。
しかしこのような系統の噂話なら別にいくらでもあるし、広まっても問題なさそうではあるのだが、三階堂が僕に――正確には僕の背後にいる巡にだが――相談してきたのだ、話はこれだけじゃ終わらないのだろう。僕は三階堂に話の続きを促すと、彼女はそれを待っていたかのように頷き、“事件”を話し始める。
「別にこういう噂話が広まるのは問題ないんだけど、どうやらこの噂話、嘘じゃないみたいなの」
「…嘘じゃないって、まさか」
「そう、叶っちゃうらしいの“願い事”」
「…嘘だぁ」
「私もそう思ったんだけどね、どうも“願い事”が叶ったのが一人や二人じゃないみたいで…」
三階堂が聞いたところによれば、それは教師にとっては秘中の秘である抜き打ちテストの内容や、望んだら彼女が出来ただとか、いまいち信憑性に欠けるものばかりではあるものの、願いが叶っていることは事実らしい。僕を含め、日々多種多様な欲求不満を抱える学生にとっては、そのストレスや興味本位や好奇心などが相まって、ちょっとぐらい試してみようと思う生徒が少なからず出てくるのもうなずける。
どうやら三階堂の問題とはその辺りから始まるらしく、自身を“願い事”を叶える者だと主張しだした、ちょっとした派閥のようなものが発生したり、噂話が曲解され校長室の前や他人の家の玄関前にお供え物と願い事が置かれたり、金目のもののお供え物を狙った盗難行為など、少々笑えない方面に事体は転がっているらしい。
「……それに、中にはちょっと表沙汰にできない“願い事”もあったりするらしいの」
声のトーンが下げてそう言い、三階堂の顔に影が差す。
噂が広まりそれが迷惑行為を起こし始める。こういう類の問題の筋道は大体一緒だが、たかが一生徒会副会長の立場に押し込まれている三階堂や、他の生徒会役員や風紀委員の手に負えるものではないのだろう。
とはいっても、僕もしがない高校生でしかないのだけれど。
「――うん、なるほど、事情は理解した。こっちでも調べて辰巳屋に伝えとくよ」
「お願い。いつもありがとうね」
「いいって。こちとらもらうものはもらってるし」
僕は手のひらを上にして人差し指と親指で輪を作った。だいたい食券だ。
「それはそうなんだけど、それでもね?」
むぅ、と頭に手をやり、唸る三階堂。僕と巡からしたら彼女の相談事=僕らにとっての仕事の依頼と同義なのだけれど、彼女の性格からすれば友人である僕らを良いように使ってるように思えてしまうのだろう。
「特に気負わなくていいって言ってんのに」
「む、むむむぅ」
「こっちが事件なりなんなり求めてんのだから、むしろ僕らが感謝したいくらいだってのに」
「むむむむむ…」
「雪路は美人なんだからにっこり笑ってありがとうとでもしてくれればやる気が倍増するので、僕からすれば是が非でもそうして欲しいんだけどなぁ」
「むっ!」
ぴーん、と僕の最後の言葉に合わせて彼女の髪の毛が反応する。どうやら彼女の中で結論がついたらしく、僕ににっこりと微笑みかけた。
「幸一くん。本当に、いつもありがとう」
三階堂、ちょろい。
そんなちょろい彼女の言葉に、僕はいつもより気合いを倍増させて返事をしようとしたが、次いで彼女の口から出てきた言葉にのどを詰まらせる。
「――がんばってね、名探偵さん」
「…毎回訂正させてもらうけど、僕は探偵本人じゃなくて、探偵の助手な」
「毎回言わせてもらけど、私にとってはめぐちゃんもセットで探偵なのです」
「確かに間違ってはないかもしれないけれども…それでも僕の立ち位置は助手だよ」
そう断言し、僕は教室の窓際――さらにその一番後列に位置された、とある生徒の座席へと視線を向ける。三階堂もそれにつられるように、同じ場所に目をやった。椅子には長いこと誰も座っていないせいだろう、埃がうっすらとたまっている。事実、その席に配置された生徒は僕らと共に進級したくせに、四月から始まった新学期が始まってから五月に至るまでの一ヶ月間、一度も学校に顔を見せていない。
「強情だねぇ」
「そうだよ、僕は頑固なんだ」
まだ一度も役目を果たせられてない席の持ち主は、紛うことなき僕の幼馴染兼僕の相棒。そして七年前、当時起きてた数々な事件を蹂躙せしめた張本人。
名を、辰巳屋巡という。