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No.40434の一覧
[0] 【ネタ】転生とか絶望しかない。魔を断てなかったケン(短編連作)[勘違いから起きて](2014/09/05 06:24)
[1] 第二庭「歯車は動き出す」[勘違いから起きて](2014/09/12 16:40)
[2] 第三庭「断罪の刃、魔を断つ剣は未だ目覚めず」[勘違いから起きて](2014/10/20 18:54)
[3] 第四庭「ささやかなる報酬。埋め難きモノ」[勘違いから起きて](2014/10/20 19:24)
[4] 第五庭(上)「絶望の箱庭で踊る。願いの行方。命を燃やして」[勘違いから起きて](2015/09/09 09:51)
[5] 第五庭(下)「絶望の箱庭で踊る。無知の功罪、最も弱き死霊秘法の主」[勘違いから起きて](2015/05/17 22:53)
[6] 第六庭「誰が為に君は征く」[勘違いから起きて](2015/09/09 09:50)
[7] 第七庭「無力な目覚め。決戦夢幻心母」[勘違いから起きて](2015/09/11 05:55)
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[40434] 【ネタ】転生とか絶望しかない。魔を断てなかったケン(短編連作)
Name: 勘違いから起きて◆7aa12c0a ID:92275c60 次を表示する
Date: 2014/09/05 06:24
深淵、深く深く続く夜の帷。漆黒の宇宙で動く影は二体の巨神。
否、機械仕掛けの神様だ。巨大な羽、骸骨を模した頭部、血の様に薄暗い紅と黒の装甲を纏う鋼の神。名をリベルレギス。
そしてもう一体――――――――――――――

「マスタァァァァアテリオンッッ!!!」
――――鋼鉄の巨人を駆り青年戦うのは一人の青年と少女。
青年の叫びを受け巨人は応え敵に向かって駆け抜ける。
高速を越え、音速を抜け、雷速に至り、光速さえも踏破する。
一瞬の交錯、巨人の振るう剣とリベルレギスの振るう黄金の十字架が噛み合い火花が散った。
一回、二回、三回、何度も交錯し火花を散らす。まさに古代の神々の決闘の再現。
紡がれる剣閃、その余りの苛烈さに背徳の獣を冠する、リベルレギスの操縦者は笑う。
これで良いと、戦いに酔いしれる。
「―――クッ、良いぞ。これだこの愉悦、この愉悦こそが無限の退廃のなか余を癒やす」
一閃、リベルレギスが一際強く十字架で巨人を弾き飛ばす。体勢を崩す巨人、リベルレギスの手には何時の間にか弓が。
「シリウスの弓よ」
黄金の矢が生み出だされ無数の光が巨人を襲う。除け得ぬタイミングだった。巨人は剣で防御陣で、払い裁き流す。
物量への対応に追われて生まれる僅かばかりの膠着。巨人を駆る青年に対し魔導書の精アル・アジフは小さく呻いた。
「拙いぞ、このままでは」
「ああ、ジリ貧だ―――だったら!!!」
 単純な結論、圧倒的物量とスピードが厄介。ならばその矢をつがえ放つよりも速く駆け抜けて斬り伏せれば良い。
 物量を切り抜け、ただ一直線に。
多少のダメージを気にせぬ特攻。致命傷だけを避け、光を越え先程を上回るスピードで巨人はリベルレギスへと征く。
「エセルドレーダ!」
「イエス、マスター」
アザトースが収束し、強大で緻密な魔術が紡がれ光の矢と化す。
光を越え矢となった巨人と弓から放たれた魔術が互いに喰らい合い。光が宇宙を満たしていった。


それは彼が未だ青年と呼ばれる年になる前、少年と呼ばれていた時の話だ。
少年は世界が絶望の箱庭だと気付いた。
目を閉じ、耳を塞ぎ、無知でいればそれと気付かなかった世界。
無論困難な事は人生には訪れるけど、それでも平穏無事な人としての幸福な世界。
気付なければきっと少年にとって世界とはそういったモノだったのだろう。
しかし、彼は気付いてしまった。
発展する大都市アーカムシティ。ミスカトニック大学。覇道財閥。
そして――――自分の名前が大十字九郎。この事が示す現実に。
クラインの壷。邪神に未来が奪われた世界。無限を越え鍛え研かれた剣が邪悪を断つ物語。
彼は舞台裏からこれから訪れる驚異についていても知ってしまっていた。
本来大十字九郎はそんな事は知らない。しかし、彼には記憶があった俗にいう前世の記憶―――所詮転生という奴である。
大十字九郎として転生誕生してから、彼は特に傲ったという事はない。
何故ならそんな意味はなく、自分は天才ではないと理解していたからだ。
前世の知識、成熟した精神や理性は確かにスタートダッシュには持ってこいである。
しかし、人は忘れる生き物である。仮に社会人あるいは大学生でも良い。
数年後、自分が特別勉強してない分野を復習がてらテスト形式で解いてみたら良い。
きっと、よくて30点下手したらそれ以下、60点の赤点にさえ達しない人が大半であろう。
人が能力を維持し向上させるのには、それなりの手間暇が掛かるのだ。故に、ちょっと大人びた子供としか。使わず錆び付た知性の面で中の人は彼に影響を与えられなかった。
そんな大十字少年の転生知識は、この世界を知った時真価を発揮する。
ブラックロッジ、マスターテリオン、這い寄る混沌。
迫り来る困難、少年は絶望した。そして逃げ出したかった。同時に無意味だとも理解していた。
仮に、少年が生まれ変わったのが、ウィンフィールドもしくはドクターウェストだったのなら、逃げるという選択は不可能ではなかっただろう。
生き残れるかはともかく、マスターテリオンが門に消えるまで身を隠すなり、自己鍛錬するなり、関わり会いにならなくば良い。
ウェストの能力を将来的に獲得出来るのなら、勧誘された後、マスターテリオンが一度死ぬ時まで従順な振りをしてとんずら。
こっそり制御プログラムに細工をして、量産型破壊ロボアンチクロスに大反逆。
デモンベインを修復した後、戦いを任せておけば多分死にはしない。
しかし、大十字九郎ならば話は別だ。
何故ならこのブラックロッジとの戦いは、マスターテリオンと大十字九郎を鍛える為に仕組まれたものだからだ。

どれだけ戦いから離れても、戦いの方から多分やって来る。
どれだけ戦いから離れても、運命を操作され戦わざる負えない状況になって行く。
死ねば、この展開は無しだ。と時間を巻き戻されなかった事にされる。
全ては輝くトラペゾヘドロンを執るに足る者へ駈ける道。
其れまでは大十字九郎はマスターテリオンと戦い敗れ、過去で覇道鋼造と成り、次の舞台を整えた後死に至る。
運命。
大十字少年が中の人の知識でこれに気付いた時――――彼は散々悩み戦うと決めた。
その先に絶望が待って居ても。それでも戦うと決意した。
勝てると自惚れた訳ではない。正直彼に勝算など無かった。
それもそうだろう、生身で巨大ロボ圧倒して、パンチ一発で上空へ打ち上げたり、生身で高層ビルぶった斬る十字架振り回したり。
高層ビルぶった斬る切れ味の剣を受けて、傷一つ付いてませんやら、核ミサイルを生身で原子分解したり、苛立っただけでビルのガラスが全部割れる様な奴が率いる秘密結社に、転生しただけの彼では到底適わない。
本気を出せば、時間逆行させたり、攻撃の余波で空間壊れたり、宇宙が壊れるロボットに乗ってくるのだ。
勝てると思う方がおかしい。
ロボットな大戦の補正でもなければ、歴代主人公部隊が集結しても危うい敵である。
αなナンバー達や究極的なクロスの人達来ないとまず勝てない。
そんな戦力差の中、それでも戦うと決意したのは戦った方が幾分かましだからである。
逃げた所で追ってこられて殺される。
逃げた所で結局は戦う羽目になって、命を奪われる。
恐怖に震えて立ち向かう術なく殺されるのと、立ち向かったが力及ばず殺されるのならば後者の方が幾分がましと思った。
何故素直に命を奪われなきゃならんのだ。殺されるにしても、横っ面を一発殴って血反吐を吐かせる位はしてやりたい。
それが始まりだった。
何てしみったれた始まりだろう、凡そヒーロー側の動機とは思えない。
 逃げる事を諦めた。諦めが彼の出発点、しかしそれは裏を返せば逃げる事を止めたのである。
彼なりの地に足をつけた考えであった。
結末が決まりきっているのなら、せめてその過程だけはより良いモノを。
結果は無惨かもしれない、しかし過程が意味を持つのなら胸に残るモノもあると彼は考えたのだ。

大学主席は無理でもミスカトニック大学へ入学する為の基礎学力の向上と平行して、戦う為の基礎作りも彼は始めた。
こうして―――大十字九郎はボクサーとなった。

大十字九郎の朝は早い、四時半には起床して朝のロードワークへ出た後、念入りにシャドーとフォームチェックを繰り返す。
6時に自宅に戻り、軽く汗を流すと食事を取りつつ、登校まで軽く勉強を復習する。
真面目に授業を受けた後は、放課後自宅からなるべく近場のジムに通い練習に精をだす。
日系アメリカ人のケーンジ・ダックリバーの指導やジムのイーグル先輩やブルーウッドビレッジ達との練習やスパーで着々と技術や精神を鍛える。
クタクタになりながら帰宅すると、予習復習を行い、食事を取り、汗を流し、朝まで就眠する。
これが父の都合で渡米後、強くなる為にダックリバージムに入門してからの九郎の1日だった。
この後、九郎は散弾銃の異名を持つスピードウォーターとの試合を通してアッパーに磨きをかけ、ソ連から来た男、黒い牙を相手にラビットパンチを身に付け辛くも勝利する。
最強の日本人ボクサー栄治の前に一度敗れ去るも、その悔しさバネに九郎はデンプシーロールを開発する。
その後九郎は着々と戦績を重ね、若干17歳最強のチャレンジャーの異名を手に入れる
 その年の夏、大十字九郎のタイトルマッチが行われた。

あとがき
次回予告
『箱庭の九郎 ボクサーズロード』
着々と戦績を重ね、遂にチャンピオンへの挑戦権を手に入れた九郎。
決戦の舞台、遂に九郎はチャンピオンと邂逅する。
「ほう、見事なモノだ」
チャンピオン、グリーンライトの称賛に苛立つ九郎。
そんな九郎を彼のセコンドの少女ナコトは冷静に分析を開始する。
「大十字九郎の勝率0%。彼がマスターに勝つのは不可能です」
最強対最強の戦いが今始まる
「余がこれまでに戦った八度の挑戦者の中でも、これ程の強さを持つ者は稀だ。楽しませろよ。―――大十字九郎」

次回転生とか絶望しかない。魔を断てなかったケン(拳)
第二庭「世界のタクティクス」
カイチョーサンと九郎の師弟は世界に通用するのか!?






































   *   *
 *   + うそです
  n ∧_∧ n
+ (ヨ(*´∀`)E)
  Y   Y  *

嘘予告あとがき終わり




彼がタイトルマッチを経験し、幾つかの年月が過ぎた。
少年は既に青年へと変わり、彼はアーカムシティに居た。
ミスカトニック大学へと通い魔術師としての知識を得た九郎は、ネクロノミコンの写本を手に、ブラックロッジとの戦い身を投じていた。
とは言っても、本格的な高位魔術師同士の闘争は経験していない。
せいぜいが低位の魔術師との戦いや構成員と戦い。あっても破壊ロボとの戦闘だけだ。
経験という意味では有り難かったが、最近では彼は焦りにも似た感情を感じていた。
彼は才能の面では豊かな方であり、日々成長し位階を上げてはいるが、だからこそ分かってしまう。
マスターテリオンの強大さをアンチクロスの強さを。
単純な強さでは、アンチクロスはともかく、マスターテリオンには勝てないと冷静に自己分析出来る。
だからこそ、ブラックロッジとの戦いでは裏をかく必要がある。
直接勝てないなら出し抜き意図を破綻させる。
彼の目的の一つは――――C計画の破綻だった。
ルルイエ異本を破壊する必要がある。
その為にも彼はアンチクロスと戦いたかった。

大黄金時代にして大混沌の時代。アーカムシティ。建ち並ぶ高層ビルと繁雑な街並みの中溢れる人の波。
日が沈み掛かった時間帯、大十字九郎は一人物憂げに街を歩いていた。
(また、外れか…)
怪異事件を追えば、ブラックロッジに辿り着けると考えた九郎であったが、そう簡単には行かない。
アンチクロスに辿り着けなかった。気落ちする九郎だったが話かける一人の人影。
「ヤッホー、九郎ちゃん!」
金髪のシスター、ライカであった。
買い物袋を手に下げている姿を見るに、彼女は買い物帰りのようだった。
九郎は悪戯っぽく笑った。
「ガキんちょ達の夕飯は良いのか?不良シスター」
「あ、酷い九郎ちゃん。勿論これから作るわよ。所で九郎ちゃん、今時間ある?」
「ん?時間ならあるけど」
九郎の返答を聞き、花咲く様ににっこりと彼女は笑った。
「じゃあ、はいこれ」
「いや、荷物目の前に持ってこられても」
差し出された荷物に彼が面倒臭そうな顔をすると彼女は泣き崩れた。
「酷い、九郎ちゃんの甲斐性なしキング」「おい」
「散々人をその気にさせて、興味がなくなれば直ぐにポイ捨て。お腹を空かせた子供達が待ってるのよ。神を信じぬその諸行。いけません九郎ちゃん、神様は何時も見ています」

嘘泣きだった。完膚無きまでに嘘泣きだった。
しかもこのシスター、超理論説教の癖に泣き真似が上手い。
周囲がざわざわとざわめき、人垣が出来始めた。
「……人の社会的生命脅かして楽しいか?シスター。ほれ、寄越せシスター」
「ありがとう九郎ちゃん、今日はシチューだよ。だから食べにいらっしゃい」
彼が買い物袋を受け取ると彼女は花開く様に笑った。
その瞬間だった。ゾクリと、氷塊が背に差し込まれる感覚。
九郎の魔術的感性が何かを捉えた。
小さな爆発音が街頭に木霊する。
「何か事故なのかな?」
ライカの言葉は彼には届かなかった。
彼が捉える視線の先、銀の少女がビルからビルへと飛翔していた。
それだけではない。銀の少女を追うように、ストリートファッションに身を包んだ少年が、追従する。
面識はない。しかし、彼には心当たりがあった。
最強の魔導書の精霊アル・アジフ。
アンチクロスの一人クラウディウス。
その考えに至った時、買い物袋をライカに押し付け彼は走り出した。
九郎ちゃん!?と彼を呼ぶ声がしたが足を止めはしない。
別に彼はアル・アジフ契約したいから走るのではない。
アル・アジフがブラックロッジに渡ってしまうのを危惧するから走りだすのだ。
魔術を行使しながら、彼は二人を追い掛けていった。



高層ビルを足場に、夜の闇に蠢く2つの影。
一人は少女。華奢な小躯に白のゴシックロリータファッションのドレスを身に纏う彼女の名前はアル・アジフ。
絶世の美少女と呼べる容姿を持つ彼女ではあるが、その表情は険しい。
翡翠の瞳には焦りが浮かび、上下する肩は消耗を表している。
無理もない。もう片方の影は追跡者だ。しかも、強大過ぎる力を持つ。
逃げ切れる公算は低いが、彼女は捕まる訳には行かなかった。
ブラックロッジ。いや、マスターテリオンに自身の力が外道の知識が渡る事は世界の滅亡を意味する。
誇張ではなく、純然たる事実。
故に彼女は、術者が居なくとも死力を尽くして逃走する必要がある。
ビルからビルへ、魔術を行使し跳ぶながら逃げる。
逃げる。
逃げる。
逃げる。
しかし、そんな死力も―――

「おいおい、手間取らせんなよ。アル・アジフちゃんよ」

―――後方から放たれた、風の凶刃を背に受けた事で、灰燼とかす。
「あっ――――くうっッ!?」
とあるビルの屋上に、叩きつけられるアル・アジフ。
ぴちゃり、赤い血が滴り地面を濡らす。
いかな、最強の魔導書でも術者なしでは、強者たる彼等からは逃げられない。
音もなくビルに降り立つ一人の影、顔をペイントを施しストリートファッションに身を包んだ少年。彼の名前はクラウディウス。
ブラックロッジの最高幹部の一人にして、位階をアデプトクラスへと登り詰めている存在。
ゆっくりと距離を縮めてくるクラウディウスを睨みつけて、アル・アジフは叫んだ。
「妾を嘗めるな!!」
魔術を組み上げ、衝撃を放つ。常人なら吹き飛ばされる威力。
されど、少年は魔人。人の域から外れる怪異である。
涼しげな顔を歪ませる事なく解呪(ディスペル)され、余波さえも風を操作され届かない。
ニヤリと彼は笑った。
「汝れぇ……!」
「魔導書は大人しく魔術師に使われてりゃ良いんだよ」
立ち上がる力はあるが、アル・アジフは戦うには無理をし過ぎていた。もはや、術者もなく抵抗するだけの力はない。
彼女に手が伸びて――銃声が轟き彼は即座に飛び退いた。
本来銃火器などなど魔術師のクラウディウスには問題でもない。
風で結界でも作ればそれで終わり。だが、魔術的要素が含まれるなら別だ。
クラウディウスの感性が、魔術行使の感覚を嗅ぎ取っていた。
鋭く銃声の方角を睨む。
ふわり、魔術を使い、リボルバーの拳銃片手に青年がビルへ降り立った。
「テメェは…大十字九郎!?」
「…俺も有名になったのかね?」
まったく似合ってないニヒルな笑みを九郎は浮かべた。
運命の歯車が今動き始めようとしていた。
「汝れは一体…?」
「はっ、楯突く三流魔術師が格の違いを教えてやるよ!」
クラウディウスの腕から、風の刃が複数放たれる。
軽やかなステップで、交わしながら縫うように前へ進む。
 速い!?僅かに彼の目が見開いた。
攻撃の終わる僅かな空白、驚異的なダッシュ力で一気に彼の胸元まで九郎は飛び込んだ。
「オラッ!!」
ジャブの弾幕を張り、抉り込む様な一撃をボディへ。
骨を砕く感触、しかし、九郎は攻撃を緩める気はない。
魔術師相手に余裕を見せるのは危険である。
絶殺の覚悟でラッシュを繰り出す。拳の弾幕。クラウディウスはたたらを踏みながら交代した。
(鬼械神 <デウス・マキナ>を招喚出来るボクが!?)
大十字九郎の事をクラウディウスは知っていた。
ドクターウェストの破壊ロボを倒すミスカトニックの魔術師。
メタトロンと共に破壊ロボを倒す姿はブラックロッジ内でそこそこ有名であり、元ボクシングチャンピオンの経歴と合わせ割かしら情報は得やすい。
メタトロンと同じくブラックロッジ内では注意に値する相手ではあったが、魔導書の格が何より魔術師として自分には及ばない筈。
 事実大十字九郎は、ドクターウェストとの戦いでデウス・マキナを一度も招喚した事はない。
クラウディウスの考えは半分当たりで半分間違いだった。
九郎の写本ではデウス・マキナは招喚出来ない。魔術師としての位階もクラウディウスに及んでいるか怪しい。
だが、こと戦闘者としてはクラウディウスに届きうる力を九郎は有している。
クラウディウスの油断それが明暗を分けていた。
「ぐっ、がぁっ、……解体してやる。殺す、殺す、殺す!」
後退しながら、全方位に風を放出。ベーゴマをばらまき、コマの一つ一つが意思を持つが如く四方八方から九郎へと襲う。
刹那、炎が走る。
「ヴーアの無敵の印に於いて、力を与えよ、力を与えよ、力を与えよ!」
 魔術が行使され、炎が一つの形を取り、剣が鍛造される。九郎はバルザイの偃月刀を掴むと最低のコマを迎撃しつつ、決して距離を離さない。
「終わりだ!」
クラウディウスの逃げ得ぬタイミング。
一閃、刃の軌道が彼を捉える。
それは絶命の刃、アンチクロスの一人、クラウディウスはここで命を散らす。
筈だった。
一人の影がクラウディウスの近くに舞い降りる。轟音、刃の軌道がズレる。否、刃自体が破壊される。
即座に九郎は飛び退いた。手には痺れが、油断なく九郎は轟音の正体へ目を向ける。
「油断が過ぎル。危なかっタナ」
「……くっ、ウドの大木が!」
そこには拳を突き出した形で筋肉の鎧を纏った巨体の男が居た。骸骨をあしらったマスクで表情は見えない。
クラウディウスに匹敵する巨大な魔力。ブラックロッジの最高幹部の一人、アンチクロスのカリグラがそこには居た。
九郎は悟る。この男パンチがバルザイの偃月刀を破壊しやがったと。
ブラックロッジ最高幹部の名は伊達ではなく、その強さは本物。
1対1ならともかく、複数のアンチクロスと戦うのは九郎にとって無謀過ぎる。
こいつら喧嘩する程仲が良いを地に行く2人だ。そう言えばコンビで動いてたな。そう内心で小さく舌打ちした。
カリグラはチラリと九郎を一瞥するとクラウディウスに語りかけた。
「大導師からの任務ハアル・アジフの回収ダ」
「うるせぇ!分かってる。コイツを速攻バラバラに解体したらアル・アジフちゃんはきっちり回収する」
睨み合う両陣営、高まる闘気。九郎はバルザイの偃月刀を再鍛造するとしっかりと握り締める。
その光景を前にアル・アジフはよろけながら立ち上がり叫んだ。
「妾を置いて勝手に話を進めるな!」
「……ひとまず、時間は稼ぐからその隙に逃げろ!」
九郎は二人に向かって投擲した。音速を超える。弧を描き二人を狩る様迫る姿は正に必殺の域。
「嘗めんな!」
「フン」
ただし、相手が魔術師でなかった場合の話。クラウディウスは避け、カリグラはパワーで迎撃する。
高々一本の偃月刀など恐るるに足らず。
一本だけならば、だ。
最初からそうであった様に、刃が無数に分裂した。意志を持ったかの如く、無数の斬撃を放ちながら両者へと迫る。
「カアァァアッ!!」
裂帛の気合いと闘気を伴いカリグラは拳で迎撃する。
打ち払い、打ち払い、打ち払う。
クラウディウスはけん玉を取り出し、得意の高速移動を交えつつ、対処して行く。
リボルバーを片手に、クラウディウスに牽制用四発弾丸を発射。
九郎はカリグラに突撃する。
斬撃への対処。開いた僅かな余白。
残った一発の弾丸を目くらましに発射。
高速のシフトウェイトからリバーブロー。
抜群の破壊力を伴って横っ腹に叩きこまれた拳がカリグラをぶっ飛ばす―――筈だった。
(こらえた!?)
驚愕が九郎を襲う。カリグラが九郎の攻撃に耐えた。ありえない。
自身の拳の破壊力は破壊ロボでさえ、ダメージを与える事が出来る。
それを生身で耐えた!?
魔術師相手にありえないなどありえない。僅かな躊躇は危機を九郎に与えた。
「死ね!大十字九郎」
「チッィィ!!」
けん玉が九郎を襲う。避けられぬ九郎はリボルバーを思い切り魔力で硬化させけん玉を受け流す。
飛び散る破片。
リボルバーは形を失い、攻撃を受け流したが、九郎は足を止められ決定的な隙を生み出した。
「カアァァアッ!!」
カリグラの豪腕が迫る。直撃すれば柘榴の様に九郎の頭は消し飛ぶだろう。

(避けられない!?)
死ぬ。明確な死が九郎を捕まえる。
死ぬ、意味もなく九郎は死ぬ。
自分は死ぬ。その考えが頭をよぎり、彼の世界がスローテンポになっていく。
死ぬ、邪神の助けは期待出来ない。死んだ後、自覚なく時間が巻き戻され、自らの過程の意味は失われていくのだろう。
その後、彼とは違う大十字九郎がまた邪神に捕らわれた世界で生き足掻くのだ。
死ぬ。
死ぬ。
死ぬ。
ふざけるなと彼は思った。死ぬのは確かに怖い。殺し合いをしているのだ、死んでしまう覚悟もない訳でもない。
 でも、時を巻き戻されて、自分の生きてきた過程が、意味がなかった事にされるのは死以上に全てが否定される事ではないのか。
それは全てが無意味になってしまう事だ。
自分の頑張りも、自分の出会いも、自分の幸福も、自分の足掻きも、自分の絶望も、自分が直面してる冷たい現実も。
何もかも無意味になってしまう。
自分のこれからの人生には確かに待っているのは絶望だろう。それでも、胸に残るモノはきっとある筈なのだ。他人には無価値でも自分には無意味ではない。
 そんなちっぽけだけど、確かにある尊厳まで自分は奪われてしまうのか。
ふざけるなと彼は思った。認めないと彼は思った。
だから、このスローテンポな世界で必死に足掻く。
自分の生と死をせめて自分だけは意味が持てる様に。
動けない。却下だ。無理やりにでも動け。
助からない。却下だ。助かる方法を模索しろ。
絶対に時を巻き戻されて自分の死を生を無意味なモノにはしない。
彼は、大十字九郎は魔術師だ。
不可能を可能に変える魔術師だ。
世界を識り、世界を観て、世界を改竄する。
そして―――生き残る。
刹那の見切りを用いて、薄皮一枚分を残しギリギリ回避する。
カリグラの拳に合わせ、彼の拳が顔面に叩き込まれる。
「カ、カリグラァァァァア」
クラウディウスの叫びをBGMに神域のクロスカウンターが決まり、カリグラはビルから落ちていった。
(こ、こやつは……!?)
最強の魔術書の精アル・アジフは確かに見た。直撃すると思ったあの僅かな間に紡がれた緻密にして強靭な魔術。
アル・アジフをして見事と思わせる魔術を。
「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、大十字九郎!テメェは絶対殺す!!」
クラウディウスから放たれ高まる憎悪と殺気。
第二ラウンドの火蓋がきって落とされ様として、ご破算となる。
輝く魔法陣、立ち上る水の神気。吹き上がる水柱。
鬼械神クラーケンの顕現。
高層ビルが爆散した。



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