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No.40427の一覧
[0] 【チラ裏から】怪獣大戦争 1941 第二章【まさかの勝手に続編】[夏月](2014/09/07 02:08)
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[40427] 【チラ裏から】怪獣大戦争 1941 第二章【まさかの勝手に続編】
Name: 夏月◆be557d41 ID:41fef7cc
Date: 2014/09/07 02:08
【その、たくさんの星の降った夜の事を覚えている】



  「怪獣大戦争 1941」 - INVASTON of ASTRO MONSTER 1941 -


1941年12月8日。
第一一航空艦隊に所属する第二一、二三航空戦隊が水平線の向こうに見たのは、空に滲むように広がる何条もの黒煙だった。


「クラーク、やな」


台南海軍航空隊第三中隊長の藤森敦夫中尉は、額に庇を作って目を凝らしながら呟いた。
台南、高雄両基地を発進した一一航艦は、午後1時30分(現地時間0時30分)に攻撃目標であるルソン島が見える位置にまで到達した。
編成は零戦85機、九六式陸攻27機、一式陸攻80機。
太陽は真上にある。既に真珠湾への奇襲は終了し、マレー半島には上陸作戦が行われている時間だ。
本来なら一一航艦も真珠湾攻撃と時を同じくして、マニラ北部のクラーク、ルソン島西部のイバ両飛行場に空襲を仕掛けるはずだった。藤森が所属する台南空の零戦34機は、高雄航空隊の一式陸攻27機、第一航空隊の九六式陸攻27機とともに前者に向かう。
しかし、早朝に台湾南部を覆った濃霧の所為で航空機の離着陸が不可能となってしまい、天候が回復した10時以降の発進となったのだ。
戦端が開かれてから数時間、日本が宣戦布告したと言う情報は全ての米軍基地に伝達されているはず。
当然、ルソン本島の米軍航空隊は全力で迎撃してくると思ったのだが……。


「なんや、拍子抜けや……」


口の中で呟いたとき、台南空の飛行隊長新郷秀樹大尉の零戦が大きくバンクすると、その意を汲んだ第一中隊の9機が先行する。
台南空は、爆撃に先だって敵迎撃機を排除して陸攻隊の侵入回廊を切り開く制空隊だ。クラーク基地で何が起きているのか、陸攻隊に先んじて確認するつもりなのだろう。
第二、第三、第四中隊はまだ動かない。陸攻隊と付かず離れずの位置を保つ。
本来なら今頃は制空隊と敵防空隊が激突し、彼我の戦闘機隊が入り乱れ、幾何学模様の飛行機雲が幾重にも描かれているはずなのだが。
藤森は正面に向けていた視線を外し、正午を過ぎて群青色から水色に移りつつある空を見上げる。
天には大きな雲がいくつも浮かび、さらにその上空には……


「―――なんや、あれは?」


【推奨BGM:『ゴジラvsメカゴジラ』より《ラドン出現》】


遥か上空。雲の切れ間から、何か黒いものが飛んでいるのが見える。
飛行物体はルソン本島の方角からやってきて、こちらに向かってくるように思える。
雲から雲へと渡るように飛んでいるそれは、やがて雲の向こうに消えていった。


(アメ公の偵察機か?いや、しかし……)


雲の中に隠れたのは一機。単発機の大きさではない。爆撃隊ならば編隊を組んでいるはずだから、思い当たるのはB―17が偵察飛行に出ているとしか考えられないのだが、それにしては目に焼き付いたその姿は異形だった。
どの国の大型爆撃機よりも倍以上は大きいであろう全幅。トンビのような形と異常な大きさの両翼。高高度にもかかわらず、いまだかつて見たことも無い疾風のごときスピード。
まさか米軍の新型機か、との思いに至った瞬間、それは唐突に出現した。
先行する第一中隊の鼻先を、黒い影がよぎったのだ。


「……!」


藤森の口から、声にならない絶叫が飛び出した。
藤森だけではない。その光景を目撃した全ての搭乗員が、驚愕の叫びを上げていた。
敵の出現に驚いたのではない。その目にも止まらぬスピードと、遅れてやってきた惨劇に仰天したのだ。
300メートルは先行していた第一中隊よりも更に前方を通ったにもかかわらず、視界いっぱいを覆った黒い影。
天から垂直に近い角度で真っ逆さまに落ちて来たソレが第一中隊の前を過ぎた途端、編隊を組んでいた9機の零戦がまるでつむじ風に巻きあげられた木の葉のように千々に吹き飛ばされたのだ。


「新郷さん!」


今度は声に出して叫んだ。
新郷隊長の零戦はソレが起こした強風にあおられ、胴体と主翼がバラバラに分解する。
吹き飛んだキャノピーから新郷さんの体が吸い出されるように外に放り出された瞬間、紅蓮の炎が彼を包み込んだ。
空中にばら撒かれた弾薬と航空ガソリンが引火したのだ。
惨劇は1機に留まらない。他の8機も同様に、ソレが起こした衝撃波にまくられ、失速し、不可視のハンマーで強かに打ち据えられたかのように木っ端微塵に粉砕されていく。
無数のジュラルミン片が煌めく中、空中に投げ出された搭乗員が、為す術なく強風に翻弄されて落ちていく。
その行く先を目だけで追いかけた藤森は、海面近くを飛行するソレを見つけた。
今度は間違いない。正体を看破した藤森は、思わず叫んだ。


「鳥やぁ!」


台南空が誇る一騎当千の第一中隊を一瞬で壊滅させた空の大怪獣は、衝撃波で海面に三角形のウェーキを引き摺りながら、低空を悠々と飛翔していた。
藤森は思わず身震いする。
僅か一頭の巨大な鳥が、帝国海軍の最新鋭戦闘機一個中隊9機を、衝撃波だけで壊滅せしめたのだ。
なんたる異形。なんたる恐ろしい存在か。
その光景を目撃した誰もが恐怖に慄く中、第二中隊が動きを起こす。落下式増槽を次々に落下すると翼を翻し、怪鳥の針路を予測して翔け下りていく。


(そうや、ぼうっとしとる場合やない。やることをやらな)


あれが自然の生き物なのか、それとも米軍の新兵器なのかは分からない。だが、精鋭9機を瞬く間に撃ち落とした存在は、陸攻隊にとって脅威であることは疑いようが無い。
ならば、制空隊がやることに代わりは無い。敵を掃討し、陸攻隊に道を開くのが役目だ。


「行くぞ!」


気合い一声、自らを鼓舞する。
一度バンクをして後続に合図を送り、燃料供給を増槽から胴体内タンクに切り替える。操縦席左の緊急燃料投棄レバーを引くと、僅かな振動とともに軽くなった機体が僅かに浮き上がる。
エンジン・スロットルをフルに開いて、怪鳥の頭を押さえるべく突進した。
中島「栄」一二型エンジンの爆音を轟かせ、18機の零式艦上戦闘機二一型は頭上と背後から怪鳥を追いかける。
しかし――。


「なんて速さや!」


533.4Km/時の高速を誇る零戦でも、距離が縮まらないどころかどんどん離されていく。
先行して降下していった第二中隊も、629.7km/hの全速力で滑り落ちていくが、怪鳥は歯牙にもかけず、一度二度と大きく羽ばたくと余裕で引き離した。


「くそっ……!」


呻くように罵声を漏らす。
彼我の距離は瞬く間に開き、追いつけない。
全力で零戦を引っ張っている栄エンジンが限界を超えた咆哮を上げ、操縦席がガタガタと不穏な音を立て、主翼がバタバタと細かく震える。操縦桿が重く、舵の効きが重くなる。
振り返れば、追従する8機は徐々に編隊が乱れ、自機と同様に機体が震えている。
このままでは空中分解しかねない。藤森はやむなく追撃を中止して、速力をゆっくり落とした。
追いつけない相手をいつまでも追いかけていても、仕方が無い。
中隊の編隊を組み直して、右へ大きく旋回。怪鳥の再来に備えて、第二中隊が引き返してくるまでその場で旋回待機する。
藤森は、これからのことを考える。
制空隊の任務は、あくまで陸攻隊の露払いだ。怪鳥がこのまま飛び去ってくれるのなら、本来任務に戻ってこのままルソン本島に行くのが筋だろう。
だが、あの巨大な怪鳥がこれっきりとは思えない。
9機の零戦は、信じられないほどあっけなく、怪鳥の起こした衝撃波で撃墜された。霞ヶ浦や大分で鍛えられ、中国戦線で実戦経験を積み、対米開戦においては台湾からの長距離攻撃のために洋上飛行訓練を積んだ精鋭たちが、その実力を発揮する間もなく葬り去られたのだ。
戦死者の中には、台南空飛行隊長の新郷大尉も含まれている。
正体も不明。襲ってきた意図も不明、どこから来たのかも不明。
次に怪鳥が襲いかかって来たら、俺達は勝てるのだろうか……。
藤森が危惧したことは、まもなく現実となった。
悠々と第二、第三中隊を振り切った怪鳥はそのまま水平線の向こうへ消えると思われたが、充分に距離を取ったところで高度を上げながらゆっくり大きく右旋回。
追いつけずに手をこまねいている我らを嘲笑うかのようにひと羽ばたきすると、首を大きく振って鳴き声を上げた。
プロペラの風切り音とエンジンの駆動音で喧しいキャノピー内にも、聞こえてくる。
雉のように甲高い、だが聞いたことも無い咆哮が耳朶を打つ。
シャンデル機動を終えた怪鳥は第三中隊と同じ高度で正対する。
両翼を伸ばして滑空するように飛行しながら真直ぐ接近してくる怪鳥に、藤森も正面から向き合うことを選択した。
バンクで後続に合図すると、旋回待機から脱して怪鳥に機首を向けた。
左手のスロットルレバーをするすると前に押し上げる。エンジンから猛々しい駆動音を響かせ、第三中隊9機は怪鳥に急接近する。
機銃の発射把柄を握る手に脂汗を感じるが、覗き込んだ九八式射爆照準器の中心に怪鳥を捉え続ける。
中国戦線で相手してきた敵の大型爆撃機を参考に、勘で彼我の距離を計る。
照準器の中の怪鳥の姿が、みるみる大きくなっていく。


「……!」


怪鳥の両翼端が照準器いっぱいに広がった瞬間、浅井は発射把柄を握って7.7ミリ機銃と20ミリ機関砲を同時に発射した。
機首と両翼に、発射炎がストロボのように連続的に閃く。
時を違わずして、列機も一斉に射弾を浴びせかける。
九機で合計三十六条の火箭が、青白い曳航を残して噴き延びた。
だが―――。


「しまった……!」


瞬間、浅井は致命的な失敗を起こしたことを悟る。
第三中隊が放った銃弾は全て怪鳥のはるか手前で失速し、小便玉のように力なく重力に引かれて行ってしまった。
浅井は怪鳥の大きさを見誤り、機銃の射程よりもはるか手前で射撃を開始してしまったのだ。
怪鳥は、浅井が考えているよりもはるかに巨大だった。今まで見たことのない大きさに、浅井の経験則は無意味だった。
それを理解した瞬間、悪寒が背筋を駆け巡る。
戦闘機乗りの本能が、明確な死の訪れを察知する。
恐怖が体を縛るよりも先に、操縦桿を握る右手が動いた。
その場で180度ロール。右の主翼端が跳ね上がり、群青の海が視界の左から青空と入れ替わり、空と海が逆転する。
揚力を失って機首が重力に引かれる前に操縦桿を力いっぱい引いて急降下。逃げの一手を打った。
続く8機の零戦もベテランの勘を利かせ、蜘蛛の子を散らして下方に、左右に散開する。
怪鳥の針路から、真っ逆さまに降下して避退する。


(やられる!)


絶望の喘ぎが喉から漏れる。
しかし、最後尾にいて挙動が遅れた若年兵が乗る零戦が逃げ遅れた。
海に向かっていた零戦に怪鳥の影が差して、数拍して横向きのベクトルがぶつけられる。
怪鳥が翔け抜けた後を追いかけるようにやってきた濃密な空気の塊が、零戦二一型の灰白色に塗装された腹面を強かに殴りつけたのだ。
恐らく搭乗員は、急激なGの変化に気付く間も無く意識を刈り取られているだろう。
翼が折れ、格納されていた主脚が千切れ、機体がコクピットの後ろから両断された九番機はバラバラになって墜落していった。


「清水――!」


たった今命を落とした戦友の名を叫ぶ。
しかし、浅井に彼の死を悼む暇は無かった。
第二中隊が開けた道がどこに続いているのか、すぐに浅井は知ることになる。
清水の命を奪った怪鳥は、翼を傾けて僅かに方向を修正。
怪鳥が睨む先には、800キロ爆弾一発を腹に満載した九六式陸攻、一式陸攻計54機からなる大編隊がいた。


「くそっ!」


すぐに姿勢を水平に戻し、再度スロットルを最大に吹かす。
しかし、最高速度で大きく劣るレシプロ機に、攻撃隊へ一直線に怪鳥に追いすがる術は無い。
羽ばたくたびに速度を増す怪鳥は、一筋の飛行機雲を薄く曳いて高度を上げていく。
陸攻隊に随伴している第四中隊8機が、次々に翼を翻して怪鳥へ立ち向かう。
つい数瞬前に自身を襲った悪寒を思い出し、浅井は声を張り上げた。


「アカン、逃げろ――!!」


浅井の声は届かない。無線技術が未熟な日本の戦闘機が搭載する九六式空一号無線電話機は故障が多く、機体間の連絡をとりあう能力は無いも同然だ。
浅井の懸念通り、怪鳥は群がる護衛機を鎧袖一触、スピードを乗せて陸攻隊の脇腹へ吶喊していく。
陸攻隊もただ敵の接近を待つばかりではない。
九六式陸攻からは7.7ミリ旋回機銃、一式陸攻からは7.7ミリと20ミリの旋回機銃が砲口を閃かせ、網目状のキルゾーンを形成する。
鈍重な双発中型攻撃機は回避行動ができない代わりに、緊密に組んだ隊列から迎撃の弾幕をかけたのだ。
猛然と突っ込んでくる怪鳥に、機銃弾が雨霰となって命中する。その大きすぎる体は、射手からすれば目を瞑っていても当てられる格好の的だ。
だが、怪鳥は浴びせかけられる機銃弾の驟雨を歯牙にもかけない。墜落する様子も、避ける気配もない。
編隊の中央を飛ぶ高雄航空隊所属の一式陸攻隊に狙いを定めると、陸攻が散開行動を取る間もなく豪速で体当たりした。


「くそっ、くそっ!」


運悪く怪鳥の翼に直撃したある機は、交通事故を起こしたかのようにぐしゃぐしゃに押し潰され引き千切られて、飛行機だった名残も残さず重力に引かれていく。
機尾に黒煙を引き摺った一式陸攻が800キロ爆弾の誘爆で内側から引き裂かれ、巨大な光球となって爆散する。
怪鳥が通り過ぎた後には、真っ赤な炎の花と耳を聾する爆発音、そしてジュラルミンの欠片しか残らない。
瞬く間に攻撃隊の半数が失われ、クラーク基地空襲などもはや不可能だ。制空隊としての役目を果たせず、陸攻隊の被害を防ぐことができなかった。
浅井は、最大に開かれているスロットルのレバーをなお前に叩きつける事しかできなかった。
怪鳥は既に陸攻隊から充分に距離を取り、再び旋回しようとしていた。


◇◇◇


【推奨BGM:『OSTINATO』より《ラドン福岡に現る》】


一一航艦が怪鳥の強襲を受けている頃、クラーク基地は飛行場から何条もの黒煙を噴き上げていた。
炎上している燃料タンクから時折、巨大な火柱が上がる。
飛行場に整然と駐機されていたはずの大小の戦闘機や爆撃機が、食い散らかされたかのようにあちらこちらに散乱している。
見張り台は根元から倒れ、司令部の建物は見る影もなく破壊されていた。
煙の間から、巨大な影がのっしのっしと歩いている。
湧き上がる黒煙と立ち上る爆炎の中から姿を現した姿は、『アラビアンナイト』でシンドバッドの船を襲った怪鳥ロックのようだ。
高さは、50メートルはあるだろうか。
鋭い嘴に大きな眼、二本並んだ角のような鶏冠。全幅100メートルはあるだろう両の翼には、三本の鉤爪が付いている。
猛禽類が翼を大きく広げたような容姿。
だが焦げ茶色の肌に羽毛は生えておらず、翼面は蝙蝠のような膜になっている。
胸から腹にかけて、下ろし金のような鋭い棘が幾段にも並んでいる。
傍目にはよちよち歩きのように見えるが、その破壊力は圧倒的だ。
一歩踏み出せば、航空機が離着できるように整地された滑走路に、地震のような地響きが大地を揺るがす。
また一歩。ズシンという腹に響く衝撃と共に足元に朦々と土煙が上がり、巨大な穴が空く。800キロ爆弾の水平爆撃でもこうは大きな爆弾孔は残らないだろう。米国の工業力を以てしても容易には埋められない、深く硬く踏みしめられた足跡が広大な滑走路に次々と穿たれていく。
耳をつんざく甲高い咆哮とともに、怪鳥が大きく翼を羽ばたかせる。たちまち突風が飛行場に吹き荒れ、ハンガーの屋根がめくり上がり、かろうじて破壊されていなかった数少ないP―39「エアコブラ」が、バラバラになりながら空高く巻き上げられる。25トンもの重量があるB―17「フライングフォートレス」が、突風のあおりを受けていとも簡単にひっくり返った。
我が物顔で暴れ回る怪鳥に、米軍も最初は迎撃を試みていた。
空襲警報のサイレンが鳴るや否や、陸軍機のやP―40「ウォーホーク」が、そして海兵隊所属のF4F「ワイルドキャット」が次々と迎撃に上がり、たった一羽の怪鳥に対してよってたかって空戦を仕掛けたのだ。
しかし、怪鳥はその巨躯に似合わぬ高速で迎撃隊を翻弄し、あるいは衝撃波で吹き飛ばし、あるいは猛烈な体当たりで文字通り木っ端微塵に破壊し尽くした。
幾重にも重ねられた幾何学模様の飛行機雲だけを残して、迎撃隊を蹴散らした怪鳥はそのまま一直線にクラーク基地上空に飛んできた。
滑走路には、増援のために出撃準備をしていた戦闘機と、偵察や訓練のために滑走路に出していて避退が間に合わなかったB―17。
急降下で舞い降りた怪鳥は、腹が地面に摺りそうな超低空で滑走路をフライパス。
巨大な物体が音を越える速さで通り過ぎた飛行場には、甲高いソニックブームのあとに圧力波が吹き荒れる。航空機の離着陸の為に綺麗に整地された滑走路には遮るものがなく、そこにある物も人も暴風の直撃を受けた。
監視塔が根こそぎ巻き上げられる。
司令室の建物の壁が風の力だけであっけなく破壊され、燃料タンクに突き刺さって航空燃料がだくだくと漏れ出す。
各種航空機が木の葉のように軽く吹き飛ばされ、衝突し、塵芥のように滑走路の隅に掃き集められた。
搭乗員も整備員も、木の葉のように為す術なく風に飛ばされ、地面や壁に激しく身を叩きつけられる。
閃光と轟音が目と耳をつんざく。端に吹き寄せられた航空機から火花が散り、燃料タンクに引火した。
膨大な熱量とともに、炎の柱が現出した。
上空で旋回して舞い戻って来た怪鳥は、細かく羽ばたきながら滑走路に着地。それだけで大きな罅が稲妻のように走って滑走路を割り、両足の形に穴が穿たれた。
風が収まったタイミングを見計らって、遅ればせながら40ミリ機関砲が、90ミリ高射砲が迎撃を開始する。基地に備え付けの対空兵装だけではない。本来は対地兵器である105ミリ榴弾砲も引っ張り出され、次々に砲口を向けた。


「Open Firing!」


ドカン、ドカンと怪鳥の周囲から断続的に発射音が響く。腹にまで振動が伝わるそれは、怪鳥が地面を揺るがす音に比べれば何とも心許ないが、絶え間なく聞こえてくるのは米兵には耳慣れた、百雷の如き砲声。兵士たちには頼もしい、戦場の神だ。
怪鳥の腹部に、翼面に、次々と着弾の炎が上がる。初速472m/sec、最大16発/minの105ミリ砲弾が命中する。曳光が四方から怪鳥を囲い、40ミリ機関銃の火箭が浴びせかけられる。
爆発煙が怪鳥の姿を隠し、あたりには硝煙の匂いが漂う。それでも米兵は手を休めずに鉛弾を送り込む。
怪鳥は嘴を開き、再び咆哮。口の中に生え並ぶ歯が、禍々しい。
翼をバッサバッサと羽ばたかせて噴煙が吹き払われると、巨躯に似合わぬ見事なホバリング飛行で空中に浮き上がる。
そして仰角を上げて砲撃を続ける砲兵隊の上空まで来ると重力に引かれるままに急降下、鳥とは思えぬ太い両足で榴弾砲を踏み潰した。
発射を控えて脇に置かれていた大量の砲弾が怪鳥の足裏で爆発する。
それを意に介さず、今度は居並ぶ2,3tの105ミリ榴弾砲をまとめて蹴飛ばす。


「Monster…!」


砲弾を抱えた装填手が、震え声で呟く。
その声も、すぐに巨鳥の足の下に消えた。
それからは、怪鳥の独壇場だった。
かろうじて炎上を免れた建造物の影から発射炎を閃かせる迫撃砲。押っ取り刀で飛び出す歩兵。癇癪玉のようなちゃちな発砲音。宙に飛び散る鮮血、地面に押し潰される肉片。
怪鳥の隙をついてなんとかなんとか離陸しようとするウォーホーク。足跡の穴を避けてなんとか脚を浮かせたところで、気付いた怪鳥に追いつかれ、蹴り飛ばされる。
怪鳥は炎の海と化すクラーク基地を見渡し、ちっぽけな反撃を試みる人類を睥睨し、雄叫びを上げる。
青かったマニラの空は真っ黒に焼け焦げ、火焔と血が大地を覆う。ガソリンと硝煙と肉が焦げる匂いが、煤だらけの顔で呆然と佇む生き残りの鼻を刺激した。


「今日は……最後の審判の日だったのか……」


そう言い残して息絶えた兵の言葉を、聞いている生者は周囲にいなかった。



◇◇◇


「一一航艦より入電。《我、怪鳥ノ攻撃ヲ受ク。空襲ハ失敗、被害甚大。一四四〇》」


銚子より東南東約400キロの海域を東進する連合艦隊旗艦『長門』の元に、真珠湾に続き台湾よりの凶報が届けられた頃。
南遣艦隊旗艦司令長官小沢治三郎中将は旗艦「鳥海」の艦橋に立ち、マレー半島東岸のコタバルに上陸した帝国陸軍第二五軍の悲報と、シンガポールから発せられた不可解な放送に眉を潜めていた。


「馬鹿な、佗美支隊5300名が壊滅!?上陸してほんの数時間しか経っていないんだぞ!?」
「大蜘蛛?それに、praing mantis(カマキリ)が市内を襲撃しているとはどういうことだ?」
「英軍がいう『カマキリ』というのが何かの符丁だとしても、第二五軍の通信にある『大蜘蛛』などという符丁は聞いたことがない」
「―――司令」


幕僚の困惑した声。
参謀長澤田虎雄少将が、小沢に決断を求める。


「―――一体、何が起こっているんだ……」


その呟きが、小沢の口から漏れた。



―第三章へ続く―





賢明なる読者の皆様はすでにお気づきのように。
本作は一陣の風さまも夏月も愛読する、横山 信義氏の名作「宇宙戦争 1941」に 【インスパイア】(お された「怪獣大戦争1941」に【インスパイア】(鹿馬 された作品です。
ですので、以下の文を謹んで掲げさせていただきます。

 「この『怪獣大戦争 1941』は、らいとすたっふルール2004にしたがって作成されています」

……まぁ。「自分で書きゃいいじゃないか!」と言われたから書いてみた。反省はしているが後悔はしてない。

それではまた。
誰かが第三章を書いてくれることを願って。


某上層部「黒〇君、それは投げっぱなしじゃないのか?」
某特佐「……」


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